譲渡所得の計算では、資産の所有期間※が5年を超えれば長期譲渡、5年以下であれば短期譲渡となり、その取扱いを異にしていますので、長期と短期の区分は重要です。
単独資産の場合は、その所有期間が5年を超えるか否かで長期・短期の区分を判定しますが、資産本体に資本的支出を行った場合は、本体と資本的支出のどちらの所有期間で判定するのか疑問が生じます。
今回は、資本的支出を行った資産を譲渡した場合の長期と短期の区分の判定について、業務用資産と非業務用資産に分けて確認します。
※ 分離課税の場合は所有期間で、総合課税の場合は保有期間で長期・短期の区分の判定をします。詳細については、本ブログ記事「譲渡所得の短期と長期の判定基準」をご参照ください。
1.業務用資産の場合
2007(平成19)年4月1日以後に資本的支出を行った場合には、その資本的支出の金額を取得価額とする減価償却資産を新たに取得したものとされますが、これは減価償却資産に関する取扱いです(関連記事:「資本的支出に少額減価償却資産の損金算入の特例は適用できるか?」)。
他方、譲渡所得とは資産の譲渡による所得をいい、その資産の保有期間中の価値の増加益(キャピタル・ゲイン)について、資産が売買等によりその所有者の手を離れるのを機会に、その保有期間中の価値の増加益に相当する所得の実現があったものとして課税するものです。
この場合の資産、すなわち譲渡所得の基因となる資産とは、一般にその経済的価値が認められて取引の対象となる資産をいうものと解されています。
ところで、業務用資産に対して資本的支出を行い、その資本的支出の金額を取得価額とする新たな減価償却資産を取得したものとされたとしても、その資本的支出は、既存の減価償却資産につき改良、改造等のために行われた支出です。
その資本的支出のみが減価償却資産本体と区分され、単独資産として取引の対象となるのであれば別ですが、通常は減価償却資産本体と一体となって取引の対象となる資産が形成されます。
そうすると、資本的支出を行った資産の譲渡は資本的支出を含めた減価償却資産全体の譲渡となり、減価償却資産本体の所有期間により長期または短期の区分を判定するものと考えられます。
したがって、例えば、所有期間5年超の業務用資産について、それを譲渡する3か月前に資本的支出を行ったとしても、業務用資産本体を長期譲渡、資本的支出を短期譲渡とはしません。
原則として、業務用資産本体の所有期間5年超で判定しますので、資本的支出を含めたすべてが長期譲渡となります。
2.非業務用資産の場合
上記1の業務用資産に行った資本的支出に対する長期と短期の区分の判定は、非業務用資産でも同様の取扱いと考えられます。
したがって、自宅等の非業務用資産に対する資本的支出についても、原則として、その非業務用資産本体の所有期間により長期または短期の区分を判定するものと考えられます。