法人設立届出書に登記事項証明書の添付は不要になったけれども…

1.法人設立時の届出書と提出期限

 法人を設立した際には、様々な届出書等の提出が必要です。中でも重要なのは、「青色申告の承認申請書」です。

 法人の設立初年度の青色申告の承認申請書は、設立の日以後3か月を経過した日と当該事業年度終了の日とのいずれか早い日の前日までに税務署に提出しなければなりません。
 提出を失念した場合には、青色欠損金の繰越しや租税特別措置法に規定されている特別償却・特別控除などの適用を受けることができません。

 その他、法人設立時に税務署に提出する届出書には以下のものがあります(カッコ内は提出期限)。

(1) 設立届出書(設立登記の日から2か月以内)
(2) 棚卸資産の評価方法の届出書、有価証券の評価方法の届出書、減価償却資産の償却方法の届出書(設立後最初に到来する確定申告期限)
(3) 給与支払事務所等の開設届出書(事務所開設日から1か月以内)

2.法人設立届出書等の登記事項証明書は添付省略可

 設立届出書も法人設立時の届出書のひとつですが、2017年度(平成29年度)税制改正において、企業が活動しやすいビジネス環境整備を図る観点から、次のとおり手続きの簡素化措置が講じられました。

(1) 法人の設立・解散・廃止などの届出書等において添付が必要とされていた「登記事項証明書」
(2) 税務署からの求めにより、添付していた「登記事項証明書」

については、2017年(平成29年)4月1日以後、その添付が不要となりました。

3.登記事項証明書の添付は不要になったはずなのに・・・

 上述のように2017年度(平成29年度)改正により、法人設立届出書等には登記事項証明書の添付が不要になりました。

 この度、新規の顧問先について法人設立届出書を提出する機会があったのですが、税務署の対応は上記と異なるものでした。
 新様式の法人設立届出書の「添付書類等」の欄には、これまであった「登記事項証明書」の記載がなくなっていました。
 たしかに2017年度(平成29年度)改正を反映したものとなっていたのですが、念のため税務署(大阪府内の税務署です)に問い合わせてみました。
 すると、「法人番号の導入で法人の存在は確認できるのですが、代表者等の確認のために登記事項証明書の添付をお願いします」とのことでした。

 改正では登記事項証明書の添付はしなくてもよいことになりましたが、実務の現場ではまだまだ登記事項証明書が必要のようです。

2019年(平成31年)4月1日以後に適用開始される税制改正項目

 今日から2019年度(平成31年度)が始まります。新元号も「令和」に決まりましたので、2019年5月1日以降の和暦は「令和」と表記します。

 2019年度(平成31年度)税制改正大綱は、2018年(平成30年)12月14日に発表され同年12月21年に閣議決定されました。
 今回は、この2019年度(平成31年度)税制改正項目と2018年度(平成30年度)以前の税制改正項目のうち、新年度から適用開始される項目(創設、改正、延長)について、法人税、所得税、消費税の税目別に整理します。

1.法人税

 2019年(平成31年)4月1日以後に適用開始される項目(創設、改正、延長)のうち、主要な項目とその概要は、次のとおりです。

(1) 創設される項目

① 防災・減災設備の特別償却制度

 改正中小企業等経営強化法施行日から2021年(令和3年)3月31日までに、青色申告書を提出する中小企業者のうち中小企業等経営強化法の認定を受けたものが一定の防災・減災設備等を取得等した場合は、取得価額の20%の特別償却が可能となります。

② 法人が有する仮想通貨に係る整備

 2019年(平成31年)4月1日以後終了事業年度分から、法人が期末に保有する仮想通貨について、時価法等により評価損益を計上等することとされます。

(2) 改正される項目

① 研究開発税制の見直し

 試験研究を行った一定のベンチャー企業の税額控除限度額が25%から40%に引き上げられます。
 オープンイノベーション型(特別試験研究費の額に係る税額控除制度)における税額控除上限が、法人税額の5%から10%に引き上げられます。

② みなし大企業の範囲の見直し

 100%グループ法人内の複数の大法人(資本金の額又は出資金の額が5億円以上である法人等)に発行済株式の全部を直接・間接に保有されている法人も、みなし大企業の範囲を決める大規模法人に該当することになります。

③ 業績連動給与の手続き要件の見直し

 「業務執行役員が報酬委員会等の委員ではないこと」の要件が除外等されます(経過措置あり)。

④ 地域未来投資促進税制の見直し

 一定の要件を満たす場合は、機械装置及び器具備品の特別償却率を40%から50%に、税額控除率を4%から5%にそれぞれ引き上げられます。

(3) 延長される項目

① 中小企業者等の法人税の軽減税率特例

 中小企業者等に対する法人税の軽減税率15%(年800万円以下の所得に対する税率。本則は19%)の特例が、2021年(令和3年)3月31日まで2年延長されます。

② 中小企業向け設備投資減税

 中小企業投資促進税制、商業・サービス業・農林水産業活性化税制、中小企業経営強化税制について、2021年(令和3年)3月31日まで2年延長されます(本ブログ記事「税制改正による2019年4月1日以降の設備投資税制」を参照)。

※ 2021(令和3)年度税制改正で、中小企業投資促進税制と中小企業経営強化税制の見直しが行われています。改正内容については、本ブログ記事「令和3年度改正後の中小企業投資促進税制」及び「令和3年度改正後の中小企業経営強化税制」をご参照ください。なお、商業・サービス業・農林水産業活性化税制は、適用期限(2021(令和3)年3月31日)の到来をもって廃止されています。

2.所得税

 2019年(平成31年)4月1日以後に適用開始される項目(改正)のうち、主要な項目とその概要は、次のとおりです。

(1) 改正される項目

① 住宅ローン控除の拡充等

 消費税率が2019年(令和1年)10月1日以降、8%から10%に引き上げられます。
 これに伴い、消費税率10%が適用される住宅取得等のうち2019年(令和1年)10月1日から2020年(令和2年)12月31日までに取得等する住宅については、現行10年の控除期間が3年延長されて13年間控除できるようになります。

② 空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例の延長等

 被相続人から相続した居住用家屋等の譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例の適用要件が、次のように緩和されます。

イ.被相続人が介護保険法に規定する要介護認定等を受け、かつ相続の開始の直前まで老人ホーム等に入居していたこと

ロ.被相続人が老人ホーム等に入所をしたときから相続の開始の直前まで、その家屋について、その者による一定の使用がなされ、かつ事業の用、貸付の用又はその者以外の者の居住の用に供されていたことがないこと

 上記要件を満たす場合は、相続の開始直前まで被相続人が対象の家屋を居住の用に供していたものとみなされ、被相続人が相続の開始直前に老人ホーム等に入居している場合でも、特例を受けることができます(2019年(平成31年)4月1日以降の譲渡に適用されます)。

3.消費税

 2019年(平成31年)4月1日以後に適用開始される項目(改正)のうち、主要な項目とその概要は、次のとおりです。

(1) 改正される項目(2019年度(平成31年度)改正)

① 輸出物品販売場制度の見直し

 既に輸出物品販売場の許可を受けている事業者に限り、臨時販売場での免税販売が認められます。2019年(令和1年)7月1日から適用されます。

② 金地金等の密輸に対応するための仕入税額控除制度の見直し

 2019年(平成31年)4月1日以降、密輸と知りながら行った課税仕入れの仕入税額控除が認められないほか、本人確認書類の写しの保存が要件に加わります。
 本人確認書類の写しの保存要件は、2019年(令和1年)10月1日以後に行う課税仕入れから適用されます。

(2) 改正される項目(2018年度(平成30年度)以前改正)

 2019年(令和1年)10月1日以降、消費税率が8%から10%に引き上げられます。
これに伴い、軽減税率制度(概要は省略)、区分記載請求書等保存方式(概要は省略)、簡易課税制度の事後選択特例、簡易課税制度のみなし仕入率の見直しが行われます。

① 簡易課税制度の事後選択特例

 「簡易課税制度選択届出書」を提出した課税期間から同制度を適用できる時限的措置です。
 2019年(令和1年)10月1日から2020年(令和2年)9月30日までの日の属する課税期間の末日までに簡易課税制度選択届出書を提出すれば適用されます。

② 簡易課税制度のみなし仕入率の見直し

 2019年(令和1年)10月1日以降、第3種事業である農業・林業・漁業のうち、軽減税率が適用される飲食料品の譲渡を行う事業が第2種事業とされ、そのみなし仕入率は80%が適用されます。

監査役の報酬を取締役会で決めることはできない

 取締役と監査役の報酬上限を株主総会で決定し、個々の配分については取締役会で決定している会社があるとします。
 取締役の報酬についてはこれでいいのですが、監査役の報酬については取締役会で決定することはできません。

 会社法第387条1項には「監査役の報酬等は、定款にその額を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。」とあります。
 定款で監査役の報酬を定めている会社はあまりないと思いますので、監査役の報酬は株主総会の決議によって定めることになります。
 これは、監査役の報酬を取締役会が決定すると、監査役の独立性に影響を及ぼすことになるからです。

 また、会社法第387条2項には「監査役が2人以上ある場合において、各監査役の報酬等について定款の定め又は株主総会の決議がないときは、当該報酬等は、前項の報酬等の範囲内において、監査役の協議によって定める。」とあります。
 監査役の報酬上限を株主総会で決定した場合でも、個々の報酬については取締役会で決めることはできず監査役の協議で決めることになります。

ゴールデンウィーク10連休と4月決算法人の前払保険料

1.口座振替を振込に変更して対応

 今年(2019年)のゴールデンウィークは、4月27日(土)から5月6日(月)までの10連休となります。そのため、生命保険料等の口座振替日が4月27日(土)以降に設定されている場合、金融機関の口座からの引落し日は5月7日(火)となります。

 そこで、税務上注意しなければならないのは、4月中に支払ったことが損金算入の要件となる前払費用です。

 前払費用は支払った日の属する事業年度の損金の額に算入できることとされており(法人税基本通達2-2-14)、例えば、前払保険料、前払家賃、前払賃借料などがあります。

 これらの前払費用は、4月決算法人の場合、4月中に支払わないと損金算入できません。特に生命保険料については、節税対策として1年分を前払いしている法人も多いものと思われますので、損金算入できなかったとしたら多大な影響を損益に与えることになります。
(短期前払費用の損金算入要件等については、本ブログ記事「短期前払費用の損金算入の注意点」を参照して下さい)

 日本生命、住友生命、三井生命、オリックス生命など、口座振替日が27日となっている生命保険会社は多いです。このようなケースでは、口座振替を振込に変更して4月中に支払うなどの対応が必要です。

2.倒産防止共済は未払計上で損金算入可

 中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)の掛金の口座振替日は毎月27日となっています。 

 この件に関して、独立行政法人中小企業基盤整備機構より、税務上の取扱いが加入者に発信され、「毎月口座振替により納付している掛金については、5月7日に引き落とされた掛金が会計上、未払い計上をしているのであれば、税務上もその未払いとなっている掛金の損金算入が認められる」とされています。
 また、毎期1年分の掛金を口座振替で前納をしている場合も同様とされております。

 つまり、4月決算法人において引き落としが5月7日であっても未払計上することによって当該年度に損金算入が可能なのは、①毎月、口座振替で納付している掛金、②毎期、口座振替で1年分を前納している場合の掛金、ということです。

 なお、既契約者が毎期でなく、新たに4月振替で前納をする場合は、3月に申出を行い口座振替をする必要があります。
(倒産防止共済の損金算入要件等については、本ブログ記事「中小企業倒産防止共済掛金の損金算入要件等」を参照して下さい。)

ピーク時の解約返戻率が50%超の定期保険等の税務取扱いの見直し

 2019年(平成31年)2月13日に国税庁から各生命保険会社に対して、「法人契約の定期保険等の税務取扱について見直しを検討している」旨の連絡がありました。
 これを受けて、翌14日から大手生命保険会社をはじめ、他の生命保険会社も当該商品の販売を一斉に停止しました。

1.見直しの具体的な内容は?

 今回、税務取扱の見直しの対象になったのは、「ピーク時の解約返戻率が50%超」の法人契約の定期保険等です。
 これに該当する保険商品は、支払保険料の全額又は一部が損金算入でき、かつ、ピーク時の解約返戻率が80%超に設定されており、中途解約すれば、払込保険料の多くを解約返戻金として受け取ることができるタイプのものです(今回の見直しの対象となった保険商品による節税と税務上のリスクについては、本ブログ記事「『低解約返戻金型逓増定期保険』の節税の仕組みと税務上のリスク」を参照)。

 現時点では検討段階であるため、具体的な改正内容や改正時期については未定とのことですが、これらの保険契約にかかる支払保険料の経理処理について、損金算入できる金額が縮小される方向性が示されています。 

2.既契約の保険料の経理処理は?

 今回の見直しが、既契約の保険商品の経理処理にも及ぶのかどうかについては、現時点では不明です。

 2008年(平成20年)の逓増定期保険、2012年(平成24年)のがん保険の改正の際は、通達改正日以降の新契約が対象となっており、既契約については従来の経理処理が認められました。

 しかし、1996年(平成8年)の逓増定期保険に関する通達改正の際は、既契約であっても通達改正日以降に払い込む保険料から影響する取扱いとなりました。

※国税庁は2019年(平成31年)4月11日に、節税保険に対応した法人税基本通達の改正案を公表しました。改正案については、本ブログ記事「法人向け節税保険の改正後の税務取扱い」を参照してください。

税制改正による2019年4月1日以降の設備投資税制

 中小企業者等の設備投資を引き続き促進するため、中小企業投資促進税制、商業・サービス業・農林水産業活性化税制及び中小企業経営強化税制について、次のような改正が行われました(2019年度(平成31年度)税制改正)。

※ 2021(令和3)年度税制改正で、中小企業投資促進税制に商業・サービス業・農林水産業活性化税制を盛り込む形で制度を一本化した上で、中小企業投資促進税制の適用期限が2023(令和5)年3月31日まで延長されました。なお、商業・サービス業・農林水産業活性化税制は適用期限(2021(令和3)年3月31日)の到来をもって廃止されました。改正内容等については、本ブログ記事「令和3年度改正後の中小企業投資促進税制」をご参照ください。

1.中小企業投資促進税制

(1) 制度概要

 この制度は、青色申告書を提出する中小企業者等(従業員数1,000人以下の個人事業主を含む)が、新品の機械装置等を取得等し指定事業の用に供した場合に、その指定事業の用に供した日を含む事業年度において、取得価額の30%の特別償却又は7%の税額控除が選択適用できるというものです( ただし、資本金3,000万円超1億円以下の法人は、税額控除の適用はありません)。

(2) 改正内容

 この制度については、適用期限が2021年(平成33年)3月31日まで2年延長されました。

 中小企業投資促進税制については、本ブログ記事「中小企業等経営強化法の認定が不要の設備投資税制」を参照して下さい。 

2.商業・サービス業・農林水産業活性化税制

(1) 制度概要

 この制度は、認定経営革新等支援機関等(認定を受けた税理士、公認会計士、商工会議所等)から経営改善に関する指導及び助言を受けた青色申告書を提出する中小企業者等(従業員数1,000人以下の個人事業主を含む)が、新品の経営改善に資する器具備品や建物附属設備を導入した場合に、取得価額の30%の特別償却又は7%の税額控除が選択適用できるというものです(資本金3,000万円超1億円以下の法人は、税額控除の適用はありません)。

(2) 改正内容

 この制度については、経営改善設備の投資計画の実施を含む経営改善により、売上高又は営業利益の伸び率が2%以上となる見込みであることについて認定経営革新等支援機関等の確認を受けることを適用要件に加えた上で、適用期限が2021年(平成33年)3月31日まで2年延長されました。
 この改正は、2019年(平成31年)4月1日以後に取得等をする経営改善設備に適用されます。
 なお、同日前に交付を受けた経営改善指導助言書類に係る経営改善設備のうち同年9月30日までに取得等をしたものについては、上記の確認を受けることを不要とする経過措置が講じられます。

 商業・サービス業・農林水産業活性化税制については、本ブログ記事「中小企業等経営強化法の認定が不要の設備投資税制」を参照して下さい。 

3.中小企業経営強化税制

(1) 制度概要

 この制度は、青色申告書を提出する中小企業者等(従業員1,000人以下の個人事業主を含む)が、中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に基づき一定の新品設備を取得し指定事業の用に供した場合、即時償却又は10%の税額控除(資本金3,000万円超1億円以下の法人は7%)を選択適用できるというものです。

(2) 改正内容

 この制度については、特定経営力向上設備等の範囲の明確化及び適正化を行った上で、適用期限が2021年(平成33年)3月31日まで2年延長されました。

「特定経営力向上設備等の範囲の明確化及び適正化」とは、具体的には、2分の1超の売電を見込む太陽光発電設備を対象設備から除外することを意味します。

 全量売電を目的とした太陽光発電設備は中小企業経営強化税制の対象になりませんが、発電した電気の一部を指定事業に使用(例えば自社の製造工場で使用)し、余った電気を売電(余剰売電)する場合は対象となります。
 ところが、最近では、太陽光発電設備の敷地に自動販売機を設置し、そこにわずかな電気を使うことで形式的に指定事業に係る要件を満たすといった、制度趣旨に反するような事例がみられるようになったことから、2分の1超の売電を見込む設備については対象設備から除外されることとなりました。

 また、売電を予定している場合には、経営力向上計画の認定申請時に一定の書類(発電の用に供する設備の概要や当該設備による発電量等の見込みを記載)の添付が義務付けられました。

 中小企業経営強化税制については、本ブログ記事「中小企業等経営強化法の認定が必要な設備投資税制」を参照して下さい。

使用人賞与を未払計上する場合の注意点

1.損金算入の要件

 利益が出ている法人では、決算対策として使用人賞与を未払計上することがあります(いわゆる決算賞与です)。
 この決算賞与を損金算入するためには、以下の賞与の類型に応じて、それぞれの要件を満たすことが必要です。

(1) 支給予定日がすでに到来している賞与

  就業規則等で定められている支給予定日が到来している賞与については、次の要件を満たす必要があります。

① 使用人に支給額の通知をしていること
② その支給予定日又はその通知をした日の属する事業年度においてその支給額につき損金経理していること

 上記2要件を満たす使用人賞与については、支給予定日又は通知日のいずれか遅い日の属する事業年度に損金算入することができます。
 使用人賞与については、実際に支給をした日の属する事業年度に損金算入するのが原則ですが、この規定はその例外として、内国法人が資金繰りが悪化している等の事情で労働協約又は就業規則により定められている支給予定日が到来していながら賞与が未払状態になっている場合には、たとえ未払であっても損金の額に算入することを認めるものです。

(2) 翌期の1か月以内に支払う賞与

 翌期に支給する使用人賞与については、次の要件を満たす必要があります。

① 支給額を各人別に、かつ、全員に通知をしていること
② その支給額につき①の通知をした日の属する事業年度 終了の日の翌日から1か月以内に賞与を支給すること
③ その支給額につき①の通知をした日の属する事業年度において損金経理をしていること

 上記3要件を満たす使用人賞与については、通知日の属する事業年度に損金算入することができます。
 一般に、賞与はその支給額を通知するのとほぼ同時に支給されるのが慣行となっているものの、事業年度末において各人別に支給額が通知され、たまたま支給が遅れているような場合にまで一切損金算入することを認めないのは適当でないことから、一定範囲で通知をした日の属する事業年度においても損金の額に算入することを認めた上で、取扱いの統一性を確保し恣意性を排除する観点から、上記3要件が規定されています。

2.決算賞与の留意点

 決算賞与を未払計上するにあたっての留意点は以下のとおりです。

(1) 使用人賞与の額には、使用人兼務役員に対して支給する賞与のうち使用人としての職務に対応する部分の金額が含まれます。

(2) 例えば「基本俸給×〇か月×業績割合」などのような支給額の算式を通知しても、支給額を通知したことにはなりません。業績割合が確定していないため、支給額も決定したものとはいえないためです。
 また、「基本俸給×〇か月」などのような支給額の算式は、使用人自身が支給額を計算できますが、法令上はあくまでも「支給額」の通知を求めていますので、具体的な支給額を通知することが望ましいといえます。

(3) 税務調査では、個々の使用人に対して実際に通知されたか否かが確認事項となりますので、すべての使用人別に書面やメールで支給額を通知して証拠資料を残しておくことが必要です。

(4) 所得拡大促進税制の適用にあたって決算賞与の未払計上によって賃金要件を充足している場合、税務調査で決算賞与の損金算入が否認されると所得拡大促進税制の適用も否認されてしまうリスクがあります。

※ 所得拡大促進税制は、2022(令和4)年4月1日以降「賃上げ促進税制」に呼称が改められ、適用要件などの見直しが行われています。賃上げ促進税制の詳細については、本ブログ記事「中小企業者等の賃上げ促進税制《令和4年4月1日~令和6年3月31日開始事業年度》」をご参照ください。

決算日が月末以外の会社は社会保険料の会社負担分を未払計上できない

 3月20日を期末(決算日)としているA社の社長から、次のようなご相談がありました。
 「3月分の給与に対する社会保険料の会社負担分を法定福利費として未払計上できるか?」

 A社は、給与計算の締め日を毎月20日、給与支給日を月末としています。3月分の給与は3月31日に支給しますが、決算日が3月20日ですので、3月分の給与は翌期の支給になります。
 そのため、3月分の給与(2月21日~3月20日)は決算時に未払計上していましたが、同時に3月分の社会保険料(4月末納付分)の会社負担分も未払計上できないか、というご相談でした。

1.社会保険料の債務確定時期

 法人税法は債務確定主義を採っており、期末までに債務が確定していたかどうかが重要です(法人税法22条3項2号、法人税基本通達2-2-12、9-3-2)。
 A社の場合、3月分の社会保険料の会社負担分を未払計上するためには、期末である3月20日までに納付義務が確定している必要があります。

 では、3月分の社会保険料の納付義務は、いつ確定するのでしょうか?

 社会保険料は、健康保険法156条3項等の規定により、被保険者が月末まで在職している場合に同者に係る保険料を翌月末日までに納付することとなっています。3月分(3月1日~3月31日分)の社会保険料の納付額は、翌月の4月に発行される納入告知書で明らかになります。
 これは、給与支給月(賞与を含む)の月末まで、被保険者(従業員)が在職していることが要件であることを意味します。例えば、3月30日に従業員が退職した場合は、その従業員の3月分については納付義務はありません。
 つまり、月末にならないと社会保険料の額が確定しないということです。

 A社の3月分の社会保険料の納付義務は、月末の3月31日にならないと確定しませんので、期末である3月20日時点では債務が確定していないことになります。
 したがって、A社の場合、3月分の社会保険料の会社負担分を法定福利費として未払計上することはできません。

 一方、A社の場合、2月分(2月1日~2月28日分)の社会保険料は3月末に納付することになりますが、期末の3月20日時点では未納付となっています。
 この2月分の社会保険料の会社負担分は法定福利費として未払計上することができます。なぜなら、2月分の社会保険料の納付義務は2月末時点で確定しているからです。

2.給与支給日を月末から20日にした場合

 A社の給与支給日を月末から20日に変更した場合、3月分の社会保険料の会社負担分を未払計上することはできるでしょうか?

 答えは「否」です。
 法人税基本通達9-3-2では、法人が負担する社会保険料の額については、当該保険料の計算の対象となった月の末日の属する事業年度において損金算入することができるとされています。
 3月分の給与を20日に支給するとしても、これに対応する社会保険料の納付義務が確定するのは3月31日ですので、3月20日の期末時点で債務が確定していません。よって、未払計上することはできません。

残価設定ローンで車を購入した場合の減価償却と経理処理

1.残価設定ローンの残価は減価償却の対象となるか?

 自動車をローンで購入する場合、通常のローン以外に残価設定ローンという方法があります。
 残価設定ローンの「残価」とは、自動車の販売会社があらかじめ設定した数年後の買取保証額のことです。残価設定ローンは、この買取保証額を車両価格から差し引いて残りの金額をローンで支払うものです。

 例えば480万円の車を5年ローンで購入する場合、5年後の残価(買取保証額)を120万円とすると、毎月の支払額は(480万円-120万円)÷60回=6万円になります。通常のローンであれば、毎月の支払額は480万円÷60回=8万円となりますので、残価設定ローンは毎月の支払額を安くすることができます。

 さて、ここで問題になるのが、残価設定ローンの「残価」は減価償却の対象になるか?ということです。 

 通常のローンで車を購入した場合は、車両価格の480万円をベースに減価償却することに何ら疑問を生じません。
 しかし、残価設定ローンで購入した場合は、車両価格の480万円から残価120万円を差し引いた360万円をベースに減価償却すべきではないのかという疑問が生じます。

 結論を先に述べると、残価設定ローンの場合も通常のローンの場合も車両価格の480万円をベースに次のように減価償却をします(定率法、耐用年数6年)。

経過年数 期首帳簿価額 減価償却費 期末帳簿価額
1年 4,800,000円 1,598,400円 3,201,600円
2年 3,201,600円 1,066,132円 2,135,468円
3年 2,135,468円 711,110円 1,424,358円
4年 1,424,358円 475,735円 948,623円
5年 948,623円 475,735円 472,888円
6年 472,888円 472,887円 1円

 残価設定ローンは、冒頭でも述べたとおり、自動車販売会社が数年後の買取額を保証して車を売る仕組みです。
 上記の例では、480万円で売った車を5年後に120万円で買取ることを自動車販売会社が保証しています。購入者側から見れば、480万円で買った車を5年後に120万円で買い戻してもらえるので、差額の360万円をローンで支払うということです。

 勘違いしてはいけないのが、買った車はあくまでも480万円であって、360万円の車を買ったのではないということです。
 減価償却は取得価額をベースとします。したがって、購入者の取得価額は残価部分も含めた480万円ですので、480万円をベースに減価償却することになります。

2.買取時と返却時の経理処理

(1) 480万円の車を5年ローン、残価120万円で購入したときの仕訳は次のとおりです。

借方 金額 貸方 金額
車両運搬具 4,800,000 未 払 金 3,600,000
    長期未払金 1,200,000

(2) 5年ローンの返済後に車を買い取ったときの仕訳は次のようになります。

借方 金額 貸方 金額
長期未払金 1,200,000 現金預金 1,200,000

 残価120万円を支払うと、車は会社の所有になりますので、残価支払後も車両価格の480万円をベースに減価償却を継続します。

(3) 5年ローンの返済後に車を返却(売却)したときの仕訳は次のようになります。

借方 金額 貸方 金額
長期未払金 1,200,000 車両運搬具 472,888
    車両売却益 727,112

 5年経過後の車の帳簿価額は472,888円となっていますが、残価(買取保証額)は120万円ですので売却益が生じます。

日本フルハップの会費は法人と個人で経理処理が異なる!

1.法人と個人で異なる経理処理

 2018年分(平成30年分)の確定申告から新規に関与先となった個人事業主の方から、前年の確定申告書を見せていただきました。前年まではその方のお父さんが確定申告(事業所得)をされていたのですが、ご高齢のため会計事務所に依頼したとのことでした。

 確定申告書以外に出納帳等も見せていただいたのですが、ご自身が加入されている日本フルハップの会費の全額を必要経費に算入されていることに気づきました。
 法人の場合は、会費(加入者1名につき月額1,500円)の全額を損金算入することができるのですが、個人事業の場合は、加入者が誰であるかにより経理処理が異なります。

2.会費の経理処理

 日本フルハップの会費は指定の信用金庫の口座から自動振替されますが、その経理処理は以下のようになります。

(1) 法人事業所(振替口座は法人名義)の場合

 →全額損金に計上します(勘定科目は「諸会費」等)

(2) 個人事業所(振替口座は事業主名義)の場合

① 事業主及び事業主と生計を一にする配偶者その他の親族が加入者の場合
 →保険料相当部分(852円)は事業主個人の負担となり(勘定科目は「事業主貸」等)、保険料相当部分以外(648円)は必要経費に算入します(勘定科目は「諸会費」等)

② その他の加入者の場合
 →全額必要経費に算入します(勘定科目は「諸会費」等)

 なお、消費税については、法人・個人ともに同じ扱いになり、会費に消費税は含まれません(保険料相当部分は非課税、保険料相当部分以外は不課税)。

 2013年(平成25年)4月以降の会費から、上記のように変わっていますので、ご注意ください。