給与の支払がない場合の法定調書合計表と給与支払報告書の提出の要否

 年末調整が終われば、その後の処理として「法定調書」「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」(以下「合計表」といいます)と「給与支払報告書(個人別明細書、総括表)」(以下「報告書」といいます)を提出しなければなりません。
 基本的には、それぞれ税務署から郵送されてくる「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表の作成と提出の手引」と「給与支払報告書等の作成及び提出についての手引書」に従って作業を進めていきます。
 この作業は、従業員に給与を支払っていることが前提になりますが、事業者(個人事業主)によっては、従業員を雇っておらず給与の支払がない場合もあります。このような事業者においては、従業員の年末調整という作業は必要ありませんが、その後の合計表と報告書の提出についてはどうでしょうか?
 今回は、給与の支払がない場合の合計表と報告書の提出の要否について確認します。

1.合計表の提出について

 個人事業主の中には、従業員を雇わず1人で事業を行っている場合があります。また、開業後間もない時期のため、青色事業専従者に給与を支払っていない個人事業主もいることと思います。
 このような場合、合計表を税務署に提出する必要はあるのでしょうか?
 これについては、「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表の作成と提出の手引」に記載があります。令和2年分であれば手引の32ページ右下に、次のように書かれています(太字加工は筆者による)。

 税務署へ提出する法定調書がない場合は、合計表の「(摘要)」欄に「該当なし」と記載の上、提出をお願いします。
 なお、e-Taxのメッセージボックス及びマイナポータルに「法定調書提出期限のお知らせ」(以下「お知らせ」といいます。)が届いている方で、お知らせを通じて「提出義務なし」と回答した場合には、上記の合計表の提出は必要ありません(おしらせは11月下旬から12月上旬に送信される予定です。)。

 つまり、給与の支払がない場合でも合計表の「1 給与所得の源泉徴収票合計表(375)」の摘要欄に「該当なし」と記載して提出する必要がありますが、メッセージボックスのお知らせを通じて「提出義務なし」と回答した場合は提出する必要はないということです。いずれにせよ、税務署に対する意思表示は必要であり、それを怠ると税務署から連絡がきますのでご注意ください。
 なお、合計表を提出しなかったり虚偽記載をした場合は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます(所得税法242条5号)。

2.報告書の提出について

 一方、個人住民税の基礎資料となる報告書は市町村に提出します。報告書は税務署に提出する源泉徴収票と提出範囲が異なり、前年中に給与等を支払ったすべての従業員等(パート・アルバイト、役員等を含む)について提出が必要です。
 では、前年中に給与の支払がなかった場合、報告書は提出するのでしょうか?
 答えは「否」です。給与の支払がない場合、報告書は提出不要です。個人別明細書に0と記載して提出することも、総括表に0と記載して提出することも、市町村は求めていないようです。ただし、市町村によって対応が異なることもありますので、当該市町村に確認した方が良いかもしれません(連絡先については、「給与支払報告書等の作成及び提出についての手引書」の「市町村所在地一覧表」に載っています)。

新型コロナの影響を受けた事業者の令和3年度固定資産税等の減免

 新型コロナウイルス感染症の影響により、一定以上の事業収入の減少があった中小企業・小規模事業者に対して、2021年度(令和3年度)に限り、償却資産に係る固定資産税及び事業用家屋に係る固定資産税及び都市計画税が減免されます。
 今回は、本特例の適用を受けるための申請方法などを紹介します。

1.対象者

 以下のいずれかに該当する法人または個人(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の第2条第5項に規定する「性風俗関連特殊営業」を営む者を除きます)

(1) 資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人
(2) 常時使用する従業員が1,000人以下の資本又は出資を有しない法人
(3) 常時使用する従業員が1,000人以下の個人

 ※ただし、大企業の子会社等(下記のいずれかの要件に該当する企業)は対象外となります。
① 同一の大規模法人(資本金の額若しくは出資金の額が1億円超の法人、資本若しくは出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人超の法人又は大法人(資本金の額又は出資金の額が5億円以上である法人等)との間に当該大法人による完全支配関係がある法人等をいい、中小企業投資育成株式会社を除きます)から2分の1以上の出資を受ける法人
② 2以上の大規模法人から3分の2以上の出資を受ける法人

2.減免対象

 償却資産に係る固定資産税、事業用家屋に係る固定資産税・都市計画税の課税標準
 ※居住用の部分及び土地は対象になりません。

3.措置内容

令和2年2月から10月までの任意の連続する3か月間の事業収入の減少率 軽減率
前年同期比30%以上50%未満の減少 2分の1
前年同期比50%以上の減少 全額

4.減免期間

 2021年度(令和3年度)に限ります。

5.申請期間

 2021年(令和3年)1月4日から2月1日まで
 ※当日消印有効です(期限を過ぎた申請は受付されません)。

6.申請方法

 事前に税理士、公認会計士等の認定経営革新等支援機関等による確認を受けた後に、下記の必要書類を添えて対象資産の所在する市町村(市役所資産税課など)へ申請します。

(1) 申請書(認定経営革新等支援機関等の確認印が押されたもの)
(2) 認定経営革新等支援機関等への確認時に提出した次の書類(写し)
 ① 収入減を証明する書類
 ② 特例対象家屋の事業割合を示す書類
 ※収入減の理由に「不動産賃料の猶予」によるものが含まれる場合は、追加で「不動産賃料の猶予の金額や猶予期間を確認できる書類」を提出します。

消費税の申告期限も延長できます(令和2年度税制改正)

 従来から、法人税には申請による確定申告書の提出期限の延長が認められており、2017年度(平成29年度)税制改正では延長可能月数の拡大も行われていましたが、消費税には提出期限の延長が認められていませんでした。

 そのため、消費税の申告後に、会社の決算承認手続きの過程で決算額の変動など法人税の申告調整が発生した場合、消費税の修正申告や更正の請求を行う事務負担が生じていました。

 このような状況から、法人税の申告期限を延長している企業から、消費税の申告期限についても延長を求める声が上がっていました。

 今回は、法人税の申告期限延長可能月数が拡大された2017年度(平成29年度)税制改正と、消費税の申告期限が延長された2020年度(令和2年度)税制改正の内容を確認します。

1.法人税の申告期限延長特例の拡大

 2017年度(平成29年度)税制改正で、企業と投資家の対話の充実を図り、上場企業等が株主総会の開催日を柔軟に設定できるようにするため、法人税の申告期限の延長可能月数が1か月から4か月に拡大されました。

(1) 会社法上の取扱い

 会社法上、法人は柔軟に株主総会の日の設定が可能とされています。例えば3月決算法人が、決算日から4か月後である7月末に株主総会を開催することが可能であり、8月以降に株主総会を開催することも可能とされています。

(2) 法人税法上の取扱い

① 原則

 内国法人は、原則として各事業年度終了の日の翌日から2か月以内に税務署長に対し、確定した決算に基づく申告書を提出しなければならないとされています。
 例えば3月決算法人の場合は、5月末までに申告書を提出しなければなりません。

② 特例(平成29年度税制改正)

 定款の定め又は特別な事情があることにより、その事業年度以降の各事業年度終了の日の翌日から2か月以内にその各事業年度の決算についての定時株主総会が招集されない常況にあると認められるときは、納税地の所轄税務署長は、その法人の申請に基づき、その事業年度以後の各事業年度の申告書の提出期限を1か月間延長をすることができます。
 例えば3月決算法人の場合は、5月末の提出期限を1か月延長して6月末とすることができます。

 ただし、次のイ又はロに掲げる場合に該当するときには、それぞれに掲げる期間を延長することができます。

イ.会計監査人を置き定款等の定めがある場合

 法人が、会計監査人を置いている場合で、かつ、定款、寄附行為、規則その他これらに準するもの(以下「定款等」といいます)の定めによりその事業年度以降の各事業年度終了の日の翌日から3か月以内にその各事業年度の決算についての定時株主総会が招集されない常況にあると認められるときには、確定申告書の提出期限をその定めの内容を勘案して4か月を超えない範囲内において税務署長が指定する月数の期間まで延長することができます。
 例えば3月決算法人の場合、5月末の提出期限を4か月延長して9月末とすることができます。

ロ.特別の事情がある場合

 特別の事情があることにより各事業年度終了の日の翌日から3か月以内にその各事業年度の決算についての定時株主総会が招集されない常況にあることその他やむを得ない事情があると認められるときには、税務署長が指定する月数の期間まで延長することができます。

(3) 適用時期

 上記(2)②の改正は、2017年(平成29年)4月1日以降の申請に係る法人税から適用されます。

 なお、これらの申請は、確定申告書等に係る事業年度終了の日までに、定款等の定め又は特別の事情の内容、指定を受けようとする月数等を記載した申請書(申告期限の延長の特例の申請書) をもって行います。

(4) 留意事項

 2017年度(平成29年度)税制改正では、法人税の申告期限は延長されましたが、法人税の納付期限は延長されていませんので、確定申告期限(事業年度終了の日の翌日から2か月以内)までに見込納付をする必要があります。
 また、法人税だけではなく、住民税及び事業税についても、申告期限の延長の特例の申請をする必要があるので、ご注意ください。

2.消費税の申告期限の特例の創設

 2017年度(平成29年度)税制改正では、法人税の申告期限は延長されましたが、消費税の申告期限は従来のままでした。
 そこで、法人税と消費税の申告期限が異なることによる事務負担を軽減するために、2020年度(令和2年度)税制改正で消費税の申告期限の特例が創設されました。

(1) 特例の内容(令和2年度税制改正)

 法人税の確定申告書の提出期限の延長の特例を受けている法人が、消費税の確定申告書の提出期限を延長する旨の届出書(消費税申告期限延長届出書)を提出した場合には、消費税の確定申告書の提出期限が1か月延長されます。

 届出の効力が生じるのは、提出した日の属する事業年度以後の各事業年度の末日の属する課税期間からです。

(2) 適用時期

 2021年(令和3年)3月31日以後に終了する事業年度の末日の属する課税期間から適用されます。
 例えば3月決算法人の場合、2020年(令和2年)4月1日~2021年(令和3年)3月31日の課税期間から適用されます。

(3) 留意事項

 法人税と同様に、確定申告書の提出期限が延長された期間の消費税の納付については利子税が発生するため、見込納付をする必要があります。
 また、消費税の課税期間を1か月ごと又は3か月ごとに短縮している場合、提出期限の延長が認められる課税期間は、事業年度の末日の属する課税期間のみとなります。

中間申告期限は督促状が届いてもコロナ延長可能

 先日、「新型コロナ対応で中間申告も期限延長できます(延滞税に注意!)」という記事を書きましたが、その際に疑問に思ったのが、税務署側では納税者が中間申告のコロナ延長申請をするまでその事実を知ることができないため、納税者に督促状が送られてくるのではないかということでした。

 この点について、国税庁では「中間申告書の提出期限の延長に関するお知らせ」の案内文を納税者に送付する措置をとっているようです。

 今回は、「中間申告書の提出期限の延長に関するお知らせ」の内容を確認します。

1.納税者の不安を払拭するため

 国税庁では、2020年(令和2年)5月現在ですでに中間申告期限が到来している納税者には、督促状の送付前に「中間申告書の提出期限の延長に関するお知らせ」の案内文を個別に送付するとともに、6月以降に中間申告期限が到来する納税者には案内文を中間申告書に同封することとしています。
 期限延長(個別延長)を予定していても、延長がなされるまで督促状が送付される場合があるためです。

 中間申告書の提出がなく、その提出期限に提出があったとみなされた後でも、新型コロナウイルスを理由とする提出期限の延長は可能とされています。

 しかし、この期限延長がなされるまでは督促状が発送される場合があることから、納税者が不安を抱くことが懸念されるため、今回の対応となったようです。

2.コロナ延長申請で督促状は効力を失う

 「お知らせ」では、中間申告書についてその提出期限までに提出がなかった場合には、その提出期限に提出があったものとみなされていますが、みなされた後であっても、提出期限の個別延長は可能であることを改めて周知しています。

 そして、中間申告書の提出ができることとなった時点で、中間申告書の提出の際に、その中間申告書の余白部分に「新型コロナウイルス感染症の影響による期限延長申請」である旨を記載して提出することを求めています。

 また、中間申告書を提出できない状態が確定申告書の提出期限まで続く場合には、中間申告書の提出は不要となることを周知しています。

 提出期限の延長申請を予定している場合であっても督促状が送付される場合がありますが、国税庁は上記と同様に、中間申告書の提出の際に、その中間申告書の余白部分に期限の延長申請である旨を記載して提出することにより、その提出日まで提出期限が延長され、その督促状は効力を失うと説明しています。

 さらに、延長申請をした後に督促状が届いた場合は、行き違いである旨を述べています。

新型コロナによる地方税の申告期限延長申請の方法

1.地方公共団体共通の様式(eLTAX様式)

 新型コロナウイルス感染症の影響により、期限までに申告等を行うことが困難となるケースが想定されることから、多くの都道府県や指定都市等において、国税と同様に事前の延長申請を求めず、申告の際に、納税者が申告書の余白に「新型コロナウ イルスによる申告・納付期限延長申請」と付記することによって、条例に基づく申告・納付期限の延長を認める扱いが開始されています。

 例えば神戸市(兵庫県)の場合、申告・納付の延長申請理由のやんだ日(法人税と同様に、申告書を作成・提出することが可能となった時点)から10日以内に、書面(窓口・郵送)またはeLTAX(電子申告)の方法により、法人市民税申告書を提出します。
 申告書を書面で提出する場合は、申告書の右上の余白に「新型コロナウイルスによる申告・納付期限延長申請」と記載し、申告書をeLTAXで提出する場合は、申告書法人名欄の、法人名称に続けて「新型コロナウイルスによる申告・納付期限延長申請」と入力のうえ、申告します。

 多くの地方公共団体では、申告書を書面で提出する場合は神戸市と同様の方法により延長申請を行いますが、申告書をeLTAXで提出する場合は、神戸市のように名称欄へ付記する方法以外に、住所欄へ付記する方法、法人税申告書のコピーファイルを添付する方法など、各地方公共団体によって延長申請の方法が異なる場合があります。

 このように延長申請の方法が提出先の地方公共団体によって異なっていることや、税務ソフトを用いる場合に指定箇所に付記できない場合 があることなどから、多数の地方公共団体に申告する法人や一定の税務ソフトを利用している法人にとって、利用しづらいケースも想定されます。

 これを受け、地方税共同機構では、利用者がeLTAXで地方税の申告期限延長の手続きを円滑に行うことができるように、申告データに添付して用いる全国の地方公共団体共通の「新型コロナウイルスによる申告・納付期限延長申請(eLTAX様式)」(Wordファイル)を作成し、eLTAXホームページで公開しています。

2.eLTAX様式の留意点

 eLTAX様式を使用する際の留意点は、次のとおりです。

(1) 全ての地方公共団体に対して添付して送信できます。

(2) eLTAX様式の添付による手続きを利用できるのは、国税(法人税)において、事前の延長申請ではなく、申告書に「新型コロナウイルス感染症による申告・納付期限延長申請」と付記して申告書の提出(電子申告を含む)を行うとともに、地方税の電子申告を同じタイミングで行う法人です。
 国税の申告と異なる時期に地方税の申告を行なおうとする場合は、この eLTAX様式の添付ではなく、地方税の申告期限延長の可否や手続き等について、申告先の地方公共団体における取扱いを確認する必要があります。

(3) この様式を使用できるのは、申告先の地方公共団体が、国税と同様な「申告書への付記」による対応を認めていることが前提となります。
 なお、申告期限及び納期限は、原則として申告書の提出日となります。

(4) この様式を使用して申告期限の延長を申請できる税金の種類は、①法人都道府県民税、②法人事業税、 ③特別法人事業税(又は地方法人特別税)、④法人市町村民税、⑤事業所税です。

(5) 延長申請の手続きは、各地方公共団体が指定した方法によって行うことが原則ですが、この様式を用いると、申告先地方公共団体ごとに記載内容を変える必要がなく、複数団体に対して一括送信することができます。

決算日直前に完成した保養所の均等割は支払う必要があるか?

1.保養所としてまだ機能していない

 製造業を営むA社(2月決算、4月申告)は、従業員のための保養所を淡路島(兵庫県淡路市)に建設中でしたが、決算処理を進める過程で、本年(2020年)2月14日に保養所が完成していることがわかりました。

 A社の決算日は2月末日ですので、この場合、1か月分の均等割を支払う必要があるのかどうか疑問が生じました。

 というのは、建設工事が完了して建物の引渡しは受けているものの、内部の調度品等がそろっておらず、保養所としてまだ機能していない状態だったからです。

 そこで淡路市のホームページを確認してみました。

2.機能するまで均等割は発生しない

 淡路市のホームページには、次のような記載がありました。

「法人市民税は、淡路市内に事務所等または寮等がある法人のほか、人格のない社団等に申告していただく市民税で、資本金等の額と従業者数に応じた均等割額と、法人税の税額によって算出する法人税割額とがあります。」

 また、納税義務者に関する次の表が掲げられていました。

納税義務者 均等割 法人税割
淡路市内に事務所や事業所を有する法人
淡路市内に寮や保養所などを有する法人で、淡路市内に事務所や事業所を有しないもの
淡路市内に事務所や事業所または寮や保養所などを有する人格のない社団等(法人でない社団または財団で収益事業を行うもの)または法人課税信託の引受けを行うもの
法人課税信託の引受けを行うことにより法人税を課される個人で淡路市内に事務所や事業所を有するもの

 A社は、淡路市内に保養所を有していますが事務所等は有していませんので、上の表から、均等割のみの納税義務があることがわかります。

 しかし、保養所として機能していない状態でも納税義務があるのかどうかはわかりません。

 そこで、淡路市役所の税務課に尋ねてみたところ、「保養所として機能していない状態であれば、均等割を払う必要はありません。」とのことでした。

 ちなみに、上表における「寮」とは、独身寮や社宅などの 居住を目的としているものではなく、宿泊所、クラブ、レクリエーション施設、研修施設など、会社が従業員の宿泊、慰安、娯楽等の便宜を図るために、 常時設けている施設のことをいいます。

新型コロナウイルス感染症緊急経済対策の概要

 2020年(令和2年)4月7日、「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策における税制上の措置(案)」が閣議決定されました。
 本特例の実施については、関係法案が国会で成立すること等が前提となります。

※2020年(令和2年)4月30日に 「新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律案」が成立・公布・施行されました。

1.新型コロナウイルス感染拡大に伴う納税猶予の特例

 新型コロナウイルスの感染拡大防止のための措置に起因して多くの事業者の収入が急減している現下の状況を踏まえて、無担保かつ延滞税なしで1年間、納税を猶予する特例が設けられます。
 この特例は、2020年(令和2年)2月1日から2021年(令和3年)1月31日までに納期限が到来する国税について適用されます。その際、施行日前に納期限が到来している国税についても遡及して適用することができるとされています。

2.欠損金の繰戻しによる還付の特例

 資本金1億円超10億円以下の法人も青色欠損金の繰戻し還付が受けられる特例が設けられます。
 2020年(令和2年)2月1日から2022年(令和4年)1月31日までの間に終了する各事業年度に生じた欠損金額について適用されます。ただし、大規模法人の100%子会社などは除かれます。

3.テレワーク等のための中小企業の設備投資税制

 中小企業経営強化税制の特定経営力向上設備等の対象に、テレワーク等のための設備投資に係る新たな類型としてデジタル化設備が追加されます。
 要件は遠隔操作、可視化、自動制御化のいずれかに該当する設備で、機械装置、工具、器具備品、建物附属設備、ソフトウエアが対象設備です。

4.中止等されたイベントに係る入場料等の払戻請求権を放棄した者への寄附金控除の適用

 政府の自粛要請を踏まえて文化芸術・スポーツに係る一定のイベント等を中止等した主催者に対し、観客等が入場料等の払戻請求権を放棄した場合には、当該放棄した金額(上限20万円)について、所得税における寄附金控除(所得控除又は税額控除)の対象とされます。

5.住宅ローン控除の適用要件の弾力化

 新型コロナウイルス感染症の影響による住宅建設の遅延等によって住宅への入居が遅れた場合でも、期限内に入居したのと同様の住宅ローン控除を受けることができるに適用要件が弾力化されます。

6.消費税の課税事業者選択届出書等の提出に係る特例

 新型コロナウイルス感染症の影響で2020年(令和2年)2月1日から2021年(令和3年)1月31日までの期間のうち、任意の期間(1か月以上)の収入が前年同期比おおむね50%以上減少した事業者が、申告期限までに申請書を提出し、税務署長の承認を受けた場合は、課税期間開始後でも消費税の課税事業者を選択又はやめることができる特例が設けられます。
 この特例で課税事業者を選択した課税期間の翌課税期間において、課税事業者の選択をやめることも可能です。

7.特別貸付けに係る消費貸借に関する契約書の印紙税の非課税

 公的貸付機関等又は銀行等の金融機関が、新型コロナウイルス感染症の発生により、その経営に影響を受けた事業者に対して行う金銭の特別貸付けに係る消費貸借に関する契約書のうち、2021年(令和3年)1月31日までに作成されるものについては、印紙税を課さないこととされます。
 ここでいう特別貸付けとは、当該機関が行う他の金銭の貸付けの条件に比し特別に有利な条件で行うものをいいます。
 また、施行日の前日までに作成されたものにつき印紙税が納付されている場合には、当該納付された印紙税については、過誤納金とみなして還付されます。

8.中小事業者等が所有する償却資産及び事業用家屋に係る固定資産税及び都市計画税の軽減措置

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のための措置に起因して、厳しい経営環境にある中小事業者等に対して、2021年度(令和3年度)課税の1年分に限り、償却資産及び事業用家屋に係る固定資産税及び都市計画税の負担が2分の1又はゼロとされます。
 原則として業種は限定されず、2021年(令和3年)1月31日までに認定経営革新等支援機関等の認定を受けて各市町村に申告した場合に適用されます。
 なお、この措置による固定資産税及び都市計画税の減収額については、全額国費で補填されます。

大法人の電子申告(e-Tax)が義務化されます

1.書面により提出した申告書は無効

 2018年度(平成30年度)税制改正により「電子情報処理組織による申告の特例」が創設され、2020年(令和2年)4月1日以後に開始する事業年度(課税期間)から、内国法人のうち事業年度開始時の資本金の額又は出資金の額が1億円を超える法人等は、電子申告(e-Tax)による申告書の提出が義務化されました。

 義務化の対象法人が電子申告により法定申告期限までに申告書を提出せず、書面により提出した場合は、その申告書は無効なものとして取り扱われ、無申告加算税の対象となります。
 また、2期連続で法定申告期限内に申告がない場合は、青色申告の承認の取消対象にもなりますので注意が必要です。

2.電子申告の義務化の概要

 電子申告の義務化の対象となる税目、法人の範囲、手続等は以下のとおりです。

(1) 対象税目

法人税及び地方法人税並びに消費税及び地方消費税
※地方税の法人住民税、法人事業税も対象です

(2) 対象法人の範囲

① 法人税及び地方法人税
 イ.内国法人のうち、その事業年度開始の時において資本金の額又は出資金の額が1億円を超える法人
 ロ.相互会社、投資法人及び特定目的会社
② 消費税及び地方消費税
 ①に掲げる法人に加え、国及び地方公共団体

(3) 対象手続

確定申告書、中間(予定)申告書、仮決算の中間申告書、修正申告書及び還付申告書

(4) 対象書類

申告書及び申告書に添付すべきものとされている書類の全て

3.e-Taxによる申告の特例に係る届出書

 電子申告の義務化の開始に当たり、2020年(令和2年)4月1日以後、義務化対象法人はすべて所轄税務署長に「e-Taxによる申告の特例に係る届出書」を提出しなければなりません。
※「e-Taxによる申告の特例に係る届出書」の様式は国税庁ホームページを参照

 届出書を提出する時期は、次のとおりです。
(1) 2020年(令和2年)3月31日以前に設立された法人で2020年(令和2年)4月1日以後最初に開始する事業年度(課税期間)に対象法人となる場合は同事業年度(課税期間)開始の日以後1か月以内
(2) 2020年(令和2年)4月1日以後に増資により対象法人となる場合は資本金の額又は出資金の額が1億円超となった日から1か月以内
(3) 2020年(令和2年)4月1日以後に設立された法人で設立後最初の事業年度から対象法人となる場合は設立の日から2か月以内
(4) 2020年(令和2年)4月1日以後に対象法人であって消費税の免税事業者から課税事業者となる場合は課税事業者となる課税期間開始の日から1か月以内

4.e-Taxによる申告の特例の適用がなくなった旨の届出書

 一方、減資等により資本金の額又は出資金の額が1億円以下となった場合等により義務化対象法人でなくなった場合には、所轄税務署長に対し、速やかに「e-Taxによる申告の特例の適用がなくなった旨の届出書」を提出します。
※「e-Taxによる申告の特例の適用がなくなった旨の届出書」の様式は国税庁ホームページを参照

5.例外的に書面申告が認められる場合

 電子申告義務化後において、電気通信回線の故障、災害その他の理由によって、e-Taxにより法定申告期限までに申告書を提出することが困難な場合には、所轄税務署長の承認を得た上で、書面により提出することで、例外的に申告義務が履行されたものとみなされ、その書面による申告書は有効なものとして取り扱われます。

 当該承認を得るためには、事前に「e-Taxによる申告が困難である場合の特例の申請書(取りやめの届出書)」及びe-Taxを使用することが困難であることを明らかにする書類を所轄税務署長に提出する必要があります。
※「e-Taxによる申告が困難である場合の特例の申請書(取りやめの届出書)」の様式は国税庁ホームページを参照

所得税から引ききれなかった住宅ローン控除額の住民税からの控除

1.住宅ローン控除の概要

 住宅ローンを使って住宅の取得、新築、増改築等をして、2021年(令和3年)12月31日までに居住を開始した場合は、居住開始年以後10年間(注)の各年分の所得税において、住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)の適用を受けることができます。
 控除額は、その年の12月31日現在の住宅ローン等の残高の1.0%とされ、新築等した居住用家屋の区分に応じて、年間最大控除額は40万円又は50万円となります。

(注)2019年(令和1年)10月1日からの消費税率引き上げに際し、消費税等の税率が10%である住宅の取得等をして2019年(令和1年)10月1日から2020年(令和2年)12月31日までの間に居住した場合、住宅ローン等の所得税額の控除期間を13年間(3年間延長)とする特例が創設されました。
 住宅ローン等の年末残高×1%と、住宅の税抜購入価格×2%÷3のうち、いずれか少ない金額を11年目から13年目までの各年に控除することができます。
 なお、1年目から10年目までは現行と同様の金額が控除可能です。

区分 居住年 住宅ローン等年末残高 控除率 年間最大控除額 控除期間
一般住宅 ~令和2年12月 最大4,000万円 1.0% 40万円 10年間
認定住宅 ~令和2年12月 最大5,000万円 1.0% 50万円 10年間

 住宅ローン控除可能額のうち、所得税から控除しきれなかった残額がある場合は、翌年度分の住民税から、その残額相当額が控除されます。

2.住民税からの控除額の計算方法

(1) 住民税からの控除額の上限

 住宅ローン控除前の所得税額が住宅ローン控除額より少ない場合は、所得税から住宅ローン控除額が引ききれません。このように、所得税から控除しきれなかった残額がある場合は、翌年度分の住民税からその残額相当額が控除されます。
 ただし、住民税から控除する額には上限があり、上限額は住宅を取得等したときに課された消費税率によって異なります。
 消費税率が5%又は非課税のときは、所得税の課税総所得金額等×5%(最高9.75万円)が上限とされ、消費税率が8%のときは、所得税の課税総所得金額等×7%(最高13.65万円)とされます。
 なお、2014年(平成26年)4月以降でも経過措置により5%の消費税率が適用される場合や消費税が非課税とされている中古住宅の個人間売買などは2014年(平成26年)3月までの措置が適用されます。

居住年 上限額
~平成26年3月 9.75万円(課税総所得金額等×5%)
平成26年4月~令和3年12月 13.65万円(課税総所得金額等×7%)

(2) 所得税の控除可能額

 以下の簡単な設例を使って、所得税で引ききれなかった住宅ローン控除額の住民税からの控除額の計算方法を確認していきます。

【設例】
 2018年(平成30年)中に取得した土地に認定住宅である建物を新築して居住を開始しました。取得価額は土地建物合計で5,000万円、2019年(令和1年)12月31日現在の住宅ローン残高は4,000万円でした。なお、2019年(令和1年)分の所得税の課税総所得金額等は350万円、所得税額は25万円です。

所得税の控除可能額は、次のようになります。
 住宅ローン年末残高4,000万円<取得価額5,000万円→低い方4,000万円
 4,000万円×1.0%=40万円  ∴40万円

(3) 所得税からの控除額

所得税からの控除額は、次のようになります。
 控除可能額40万円≧所得税額25万円  ∴25万円

(4) 住民税からの控除額

住民税からの控除額は、次のようになります。
 控除可能額40万円-所得税の控除額25万円=控除しきれなかった金額15万円
 所得税の総所得金額等350万円×7%=24.5万円≧住民税の控除上限額13.65万円
 控除しきれなかった金額15万円≧住民税の控除上限額13.65万円  
 ∴翌年度分(令和2年度分)の住民税から13.65万円が控除されます。

(5) 控除額合計

住宅ローン控除可能額40万円のうち、所得税から25万円、住民税から13.65万円、合計38.65万円が控除されることになります。

ふるさと納税制度の見直し

1.寄附金控除の概要

 個人が国や地方公共団体、公益社団法・公益財団法人などに「特定寄附金」を支払った場合には、寄附金控除として所得から控除することができます。

 特定寄附金とは、以下のものをいいます。

(1) 国、地方公共団体に対する寄附金
(2) 公益社団法人、公益財団法人その他公益を目的とする事業を行う法人又は団体に対する寄附金のうち財務大臣が指定したもの
(3) 特定公益増進法人に対する寄附金
(4) 特定公益信託に支出した金銭
(5) 政治活動に関する寄附金
(6) 認定特定非営利活動法人(いわゆる認定NPO法人)に対する寄附金
(7) 特定新規株式を払込みにより取得した場合の取得金額(1,000万円が限度)

 なお、上記(3)のうち公益社団法人・公益財団法人、私立学校法人(学校の設置等を主たる目的とする法人)、社会福祉法人、更正保護法人に対するもの、(5)のうち政党、政治資金団体に対するもの、(6)については、寄附金控除(所得控除)に代えて税額控除を選択することができます。

 寄附金控除額は、次の算式で計算します。

(1) 寄附金の金額-2,000円
(2) 総所得金額等×40%-2,000円
(3) 寄附金控除額((1)と(2)の金額のいずれか少ない方の金額)

 上記算式の総所得金額等とは、純損失、雑損失、その他の各種損失の繰越控除後の申告書第一表の所得の合計額、申告書第三表の株式等に係る譲渡所得等の金額、上場株式等の配当所得等の金額、先物取引に係る雑所得等の金額、土地等の譲渡所得の金額(特別控除前)、退職所得の金額、山林所得の金額を合計した金額をいいます(参考記事:「『合計所得金額』『総所得金額』『総所得金額等』の違いとは?」)。 

2.ふるさと納税の概要

 ふるさと納税制度は、上記1.(1)の特定寄付金のうち自分の選んだ自治体(都道府県・市区町村)、自分の住所地の都道府県共同募金会、自分の住所地の日本赤十字社支部などに対する寄附金で、所得税の寄附金控除(所得控除)と住民税の税額控除(住民税所得割額の20%相当額を限度)の両方を受けることができる制度です。
 寄附金のうち、2,000円を超える部分について、一定限度額まで所得税と住民税から原則として全額が控除されます。
 2,000円を除く全額が控除できる寄附金の限度額(ふるさと納税限度額)については、ふるさと納税に関する各種サイトでシミュレーションすることができます。

 なお、確定申告が不要の給与所得者でふるさと納税先が5団体以内の場合は、「ふるさと納税ワンストップ特例」を選択することにより、確定申告をしなくても住民税の税額控除を受けることができます。

3.ふるさと納税ワンストップ特例の注意点

 2015年(平成27年)4月1日以後に都道府県・市区町村に対して寄附金を支払った場合は、ワンストップで住民税の税額控除を受けられる特例制度が適用可能となりました。
 適用対象者と適用要件、注意点は次のとおりです。

(1) 適用対象者(次のいずれにも該当)
① 寄附金を支出する年の所得税の確定申告義務がない者又は申告不要制度の適用を受ける者
② 住民税の寄附金税額控除を受ける目的以外に申告書の提出を要しない者

(2) 適用要件
① 地方団体に対する寄附が年間5以下であること
② 寄附の都度、ワンストップ特例申請書を地方団体に提出すること

(3) 注意点
① 同一年に同一の地方団体に複数回寄附をするときで寄附の都度申請を行う場合の地方団体のカウント数は1となります。
② 提出済の申請書の内容に変更があった場合(住所、氏名等の変更等)は、翌年1月10日までに寄附先の地方団体に変更届出書を提出します。

4.ふるさと納税制度の見直し

 2019年度(平成31年度)改正では、ふるさと納税制度の健全な発展に向けて、一定のルールの中で地方公共団体が創意工夫することにより全国各地の地域活性化に繋げるため、過度な返礼品を送付し、制度の趣旨を歪めているような団体については、ふるさと納税の対象外にすることができるように制度が見直されました。

 今後は、総務相が地方財政審議会の意見を聴いた上で、次の基準に適合する地方公共団体をふるさと納税の対象として指定されます。

(1) 寄附金の募集を適正に実施する地方公共団体
(2) ((1) の地方公共団体で)返礼品を送付する場合には、返戻割合が3割以下で地場産品とする地方公共団体

 なお、制度の見直しは、2019年(令和元年)6月1日以後に支出される寄附金について適用されます。指定対象外の団体に対して同日以後に支出された寄附金については、特例控除の対象外となりますのでご注意ください。

※ 新制度の対象として指定されなかった大阪府泉佐野市、静岡県小山(おやま)町、和歌山県高野(こうや)町、佐賀県みやき町の4つの市町と、新制度利用を申し込まなかった東京都に寄付しても税制の優遇はなくなります。
(2019年(令和元年)5月14日更新)

※ 2020年(令和2年)6月30日最高裁第三小法廷判決(泉佐野市の逆転勝訴)を受けて、総務省は指定から除外していた大阪府泉佐野市、和歌山県高野町、佐賀県みやき町を指定してふるさと納税の特例控除の対象としました。
(2020年(令和2年)7月4日更新)