登記簿上の名目本店に均等割はかかるのか?(異動届の記載例あり)

1.名目本店とは?

 法人を設立する際に、代表者の自宅を法人の本店として登記し、事業は本店所在地とは別の場所に設けた店舗で行うことがあります。
 本店と店舗の所在地が同一市内(例えばA市とします)にあれば、法人市民税の均等割は本店と店舗が所在するA市に対して納付します。

 しかし、本店の所在地はそのままで、店舗だけを他の市に移転した場合は、均等割は本店と店舗の両方の所在地に対して納付するのでしょうか?
 例えば、代表者の自宅を本店登記地としてA市に残し、店舗だけをB市に移転した場合は、A市とB市の両方に均等割を納付するのでしょうか?

 本店でも事業を行っているのであれば、本店と店舗が所在するA市とB市に対して均等割を納付しなければなりませんが、本店で事業を行っていない場合は、本店が所在するA市に対して均等割を納付する必要はありません。このような登記簿上のみの本店のことを「名目本店」といいます

 もう少し具体的に言うと、例えば飲食業を行う法人が、代表者の自宅が所在するA市を本店登記地として残したまま店舗だけをB市に移転した場合は、その本店で事業活動(飲食業)を行っていないのであれば、その本店は登記簿上の「名目本店」に該当し、A市に均等割を納める必要はありません。

 名目本店に均等割はかかりませんが、店舗を移転した場合はA市とB市に異動届を提出しなければなりません。

2.異動届の記載例

 次の設例によって、名目本店の所在地と店舗の移転先に提出する異動届の記載について確認します。

 飲食業を行う株式会社ITAMIは、代表者の自宅がある伊丹市○○1-2-3を本店所在地として登記している。
 本店は登記簿上の名目本店であり、営業は伊丹市△△7-8-9にある店舗で行っている。
 同社は令和5年11月29日に伊丹市△△7-8-9に所在する店舗を廃止し、令和5年12月5日に宝塚市○○町4-5-6へ店舗を移転(開設)した。
 これら店舗の移転に関する異動届を、令和5年12月12日に伊丹市と宝塚市へ提出し、伊丹市と宝塚市を管轄する兵庫県阪神北県税事務所にも同様の異動届を提出した(県税事務所への異動届は記載例省略)。
 なお、登記を伴う異動ではないことから、本店所在地の伊丹市を管轄する伊丹税務署へは異動届を提出していない。

・代表者の自宅の所在地:兵庫県伊丹市〇〇1-2-3
・名目本店の所在地:兵庫県伊丹市〇〇1-2-3
・店舗の元々の所在地:兵庫県伊丹市△△7-8-9
・移転した店舗の所在地:兵庫県宝塚市○○町4-5-6

 上記設例における伊丹市への異動届の記載例は、次のとおりです。異動届の備考欄に、登記簿上の本店が名目本店であり、事業活動を行っていない旨を記載します。

 宝塚市への異動届の記載例は、次のとおりです。登記簿謄本(履歴事項全部証明書)の写しと定款の写しを異動届に添付します。

法人住民税の均等割における事務所、事業所、寮等とは?

1.法人住民税均等割の納税義務者

 法人に課される地方税の代表的なものに、都道府県税と市町村民税があります。また、都道府県民税と市町村民税は、法人税割と均等割に大別されます。
 法人税割は、国税である法人税額を基準にして課される税金ですので、基本的には利益が出ている法人が対象になります。
 一方、均等割は利益が出ていなくても課される税金で、地方団体(都道府県と市町村)が提供する行政サービスを享受していることに対する負担という意味合いが強いといえます。
 利益が出ていなくても課される均等割の納税義務者については、例えば兵庫県のホームページには、次の表が掲載されています。

出所:兵庫県ホームページ

 また、兵庫県神戸市のホームページには、次の表が掲載されています。

出所:神戸市ホームページ

 上記の表から、法人住民税の均等割の納税義務者は、兵庫県内や神戸市内に「事務所または事業所(本店・支店・工場など)」あるいは「寮・宿泊所・クラブ・保養所・集会所など」を設けている法人であることがわかります。
 しかし、ここで疑問が生じます。
 「事務所または事業所」(以下「事務所等」といいます)や「寮・宿泊所・クラブ・保養所・集会所など」(以下「寮等」といいます)は、ある程度の例示がされているとはいえ、具体的にはどのようなものを指すのでしょうか?
 例えば、倉庫や駐車場、社員寮などは事務所等または寮等に該当するのでしょうか?

2.事務所等とは?

 事務所等とは、事業の必要から設けられた人的および物的設備であって、そこで継続して事業が行われる場所です。
 つまり、事務所等の要件として、人的設備、物的設備、事業の継続性の三要件があり、三要件を備えている必要があるということです。

(1) 人的設備
① 人的設備とは事業活動に従事する自然人をいい、正規従業員だけでなく、法人の役員、清算法人における清算人、アルバイト、パートタイマーなども含みます。
② 人材派遣会社から派遣された者も、派遣先企業の指揮および監督に服する場合は人的設備となります。
③ 規約上,代表者または管理人の定めがあるものについては、特に事務員等がいなくても人的設備があるとみなします。

(2) 物的設備
① 物的設備とは、事業が行われるのに必要な土地、建物があり、その中に機械設備または事務設備など、事業を行うのに必要な設備を設けているものをいいます。
② 物的設備は、それが自己の所有であるか否かは問いません。
③ 規約上、特に定めがなく、代表者の自宅等を連絡所としているような場合でも、そこで継続して事業が行われていると認められるかぎり、物的設備として認められます。

(3) 事業の継続性
① 事務所等において行われる事業は、法人の本来の事業の取引に関するものであることを必要とせず、本来の事業に直接、間接に関連して行われる付随的事業であっても社会通念上そこで事業が行われていると考えられるものについては、事務所等とします。
② 事業の継続性には、事業年度の全期間にわたり連続して行われる場合のほか、定期的または不定期的に、相当日数、継続して行われる場合を含みます。
 また、そこで事業が行われた結果、収益ないし所得が発生することは必ずしも必要としません。例えば、単に商品の引渡しなどをする場合でも、相当の人的物的設備を備えていれば事務所等に該当します。
③ 原則として、2~3か月程度(建設工事現場の場合は6か月程度)の一時的な事業の用に供される現場事務所、仮小屋などは事務所等に該当しません。

 以上の三要件から、事務所等の範囲に含まれるか否かを判断するにあたって、注意を要する事例を以下に掲げます。

・材料置場、倉庫および車庫等など単に物的設備のみが独立して設けられたものは、事務所等に該当しません(人的設備のない無人倉庫や独立した車庫は、事務所等とはなりません)。
・モデルハウスは、商品見本としての性格が強いものは事務所等に該当しませんが、展示場として人的設備、物的設備のあるものは、事務所等に該当します。
・デパート内のテナントは、事務所等に該当します。
・法人の出張所を社員の自宅におき、他に事務所を備えず、かつ、社員自ら事務を処理しており、その社員以外に事務員がいない場合は、事務所等には該当しません(例えば、新聞社通信部、保険代理店など)。

3.寮等とは?

 寮等とは、寮、宿泊所、クラブ、保養所、集会所、休憩所その他これらに類するもので、法人等が従業員の宿泊、慰安、娯楽等の便宜を図るために常時設けられている施設をいいます。
 ここで疑問が生じるのは、独身寮や社員寮、社員住宅(社宅)は「寮」に含まれるのか否かということです。
 結論を先に述べると、独身寮、社員寮、社員住宅は寮には含まれません。
 独身寮、社員寮、社員住宅のように特定の従業員の居住のための施設は、この寮等には該当しませんので、均等割は課されません。

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「決算日直前に完成した保養所の均等割は支払う必要があるか?」
「法人設立や本店移転があった事業年度の均等割の計算方法」


決算日直前に完成した保養所の均等割は支払う必要があるか?

1.保養所としてまだ機能していない

 製造業を営むA社(2月決算、4月申告)は、従業員のための保養所を淡路島(兵庫県淡路市)に建設中でしたが、決算処理を進める過程で、本年(2020年)2月14日に保養所が完成していることがわかりました。

 A社の決算日は2月末日ですので、この場合、1か月分の均等割を支払う必要があるのかどうか疑問が生じました。

 というのは、建設工事が完了して建物の引渡しは受けているものの、内部の調度品等がそろっておらず、保養所としてまだ機能していない状態だったからです。

 そこで淡路市のホームページを確認してみました。

2.機能するまで均等割は発生しない

 淡路市のホームページには、次のような記載がありました。

「法人市民税は、淡路市内に事務所等または寮等がある法人のほか、人格のない社団等に申告していただく市民税で、資本金等の額と従業者数に応じた均等割額と、法人税の税額によって算出する法人税割額とがあります。」

 また、納税義務者に関する次の表が掲げられていました。

納税義務者 均等割 法人税割
淡路市内に事務所や事業所を有する法人
淡路市内に寮や保養所などを有する法人で、淡路市内に事務所や事業所を有しないもの
淡路市内に事務所や事業所または寮や保養所などを有する人格のない社団等(法人でない社団または財団で収益事業を行うもの)または法人課税信託の引受けを行うもの
法人課税信託の引受けを行うことにより法人税を課される個人で淡路市内に事務所や事業所を有するもの

 A社は、淡路市内に保養所を有していますが事務所等は有していませんので、上の表から、均等割のみの納税義務があることがわかります。

 しかし、保養所として機能していない状態でも納税義務があるのかどうかはわかりません。

 そこで、淡路市役所の税務課に尋ねてみたところ、「保養所として機能していない状態であれば、均等割を払う必要はありません。」とのことでした。

 ちなみに、上表における「寮」とは、独身寮や社宅などの 居住を目的としているものではなく、宿泊所、クラブ、レクリエーション施設、研修施設など、会社が従業員の宿泊、慰安、娯楽等の便宜を図るために、 常時設けている施設のことをいいます。