令和6年6月1日以後に退職した人の定額減税(年調未済の場合)

 2024(令和6)年6月1日以後最初に支払われる給与・賞与から、所得税の定額減税(月次減税)が開始されています。

 定額減税(月次減税)の対象となるのは、令和6年6月1日(以下「基準日」といいます)現在において給与の支払者のもとで勤務している人のうち、給与所得の源泉徴収税額表の甲欄が適用される居住者の人(その給与の支払者に扶養控除等申告書を提出している居住者の人)です。

 今回は、定額減税(月次減税)の対象である給与所得者が、年末調整を受けずに年の中途で退職した場合の定額減税について確認します。

※ 定額減税の対象である給与所得者の年末調整については、「定額減税の年調減税事務の流れ」をご参照ください。

1.退職日までの給与について会社は月次減税を行う

 基準日以後に退職した人は、退職日まではその給与の支払者のもとに勤務していますので、基準日現在において扶養控除等申告書を提出していれば、退職日までの給与について会社は定額減税(月次減税)を行います。

2.退職者に渡す源泉徴収票の記載方法

 基準日以後に給与所得者が退職した場合には、源泉徴収の段階で定額減税の適用を受けた上、再就職先での年末調整又は確定申告で最終的な定額減税との精算を行うこととなるため、「令和6年分給与所得の源泉徴収票」の「摘要」欄には、定額減税に関する情報(源泉徴収時所得税減税控除済額×××円、控除外額××× 円)を記載する必要はありません。

 なお、「源泉徴収税額」欄には、控除前税額から月次減税額を控除した後の実際に源泉徴収した税額の合計額を記載することになります。

3.再就職後の月次減税

 前の勤務先で定額減税(月次減税)を受けていた人が、基準日以後に年末調整を受けずに年の中途で退職し、その後において国内にある他の企業等へ再就職して再就職先で主たる給与の支給を受ける場合は、月次減税は行われません。
 この場合は、年末調整時に年調減税を受けることになります。

4.退職所得に係る源泉所得税の定額減税

 退職所得の源泉徴収の際に定額減税は実施されませんが、令和6年分の退職所得を有する人(居住者)は、その退職所得を含めた所得に係る所得税について、確定申告により定額減税額の控除を受けることができます。

 したがって、給与等に係る源泉徴収において控除しきれなかった定額減税額がある場合には、令和6年分の確定申告書を提出することで、退職所得を含めた所得に係る所得税について、定額減税の適用を受けることができます。

※ 関連記事:「退職所得の受給に関する申告書を提出した人が還付を受けるためにする確定申告」、「給与所得者と公的年金等受給者の確定申告不要制度の注意点

令和6年度地域別最低賃金が10月1日から順次引き上げられます

 最低賃金は、パート、アルバイト、正社員、臨時、嘱託など雇用形態や呼称の如何を問わず、すべての労働者に適用されます。
 近年は最低賃金引き上げの流れが続いており、2024(令和6)年度の全国加重平均は時給1,055円と過去最高となっており、引き上げ幅51円も過去最高となっています。
 以下では、2024(令和6)年度の最低賃金について確認します。

1.最低賃金とは?

 最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低額を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければならないとする制度です。
 仮に、最低賃金額より低い賃金を労働者、使用者双方の合意の上で定めても、それは法律によって無効とされ、最低賃金額と同様の定めをしたものとみなされます。
 また、使用者が労働者に最低賃金未満の賃金しか支払っていない場合には、使用者は労働者に対してその差額を支払わなくてはなりません。
 地域別最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、最低賃金法に罰則(50万円以下の罰金)が定められています※1
 なお、特定(産業別)最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、労働基準法に罰則(30万円以下の罰金)が定められています※2

※1 「地域別最低賃金」とは、産業や職種にかかわりなく、各都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に対して適用される最低賃金です。各都道府県に1つずつ、全部で47件の最低賃金が定められています。

※2 「特定(産業別)最低賃金」は、特定の産業について設定されている最低賃金です。関係労使が基幹的労働者を対象として、「地域別最低賃金」よりも金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認める産業について設定されており、全国で224件の最低賃金が定められています(令和6年3月31日現在)。

2.最高額は東京都の時給1,163円

 厚生労働省は、都道府県労働局に設置されている地方最低賃金審議会が答申した2024(令和6)年度の地域別最低賃金の改定額(以下「改定額」)を取りまとめました。改定額及び発効予定年月日は、次の別紙のとおりです。

出所:厚生労働省ホームページ

 この「令和6年度地域別最低賃金答申状況」は、厚生労働大臣の諮問機関である中央最低賃金審議会が令和6年7月25日に示した「令和6年度地域別最低賃金額改定の目安について」などを参考として、各地方最低賃金審議会が調査・審議して答申した結果を、厚生労働省が取りまとめて令和6年8月29日に公表したものです。

 答申された改定額は、都道府県労働局での関係労使からの異議申出に関する手続を経た上で、都道府県労働局長の決定により、10月1日から11月1日までの間に順次発効される予定です。

 地域別最低賃金の全国整合性を図るため目安額のランクが設けられていますが、4区分だったランクが前年度から3区分に変更されています。
 改定額を見ていくとAからCの47都道府県すべてで50円以上引き上げられ、東京都は時給1,163円と最高です。
 最高額1,163円(東京都)と最低額951円(秋田県)の金額差は212円です。最高額に対する最低額の割合は81.8%(951円÷1,163円≒81.8%)と8割を超えており、地域格差は少しずつ改善しています※3

※3 前年度の比率は80.2%でした。なお、この比率は10年連続で改善されています。

3.令和6年度の引き上げ幅は50円~84円

 また、地域経済の活性化や若年層の流出を防ぎ労働人口を確保するには、目安より高い金額の上乗せが必至とした回答が27県あり、目安を上回る引き上げが賃金の低い地方で相次ぎました。
 下表は、2024(令和6)年度の改定額を引き上げ幅ごとに見たものです。

引き上げ幅 改定額
50円

北海道1010円 宮城 973円 栃木 1004円 群馬 985円 埼玉1078円 千葉1076円 東京1163円 神奈川1162円 富山998円 山梨988円 長野 998円 静岡1034円 愛知1077円 三重 1023円 滋賀1017円 京都1058円 大阪1114円 奈良 986円 岡山982円 広島 1020円

51円

石川 984円 岐阜1001円 兵庫1052円 和歌山980円 山口979円 福岡992円

52円

茨城 1005円 香川970円

53円

福井984円

54円

秋田951円 新潟985円 熊本952円

55円

青森953円 山形955円 福島955円 高知952円 長崎953円 大分954円 宮崎952円  

56円

佐賀956円 鹿児島953円 沖縄952 円    

57円

鳥取957円

58円

島根 962円

59円

岩手952円 愛媛 956円   

84円

徳島980円  

所得税・住民税負担のない給与収入103万円超で働く人は調整給付(不足額給付)を受けられる!

 2024(令和6)年6月1日以後最初に支払われる給与・賞与から、所得税の定額減税(月次減税)が開始されています。

 定額減税額の計算対象である同一生計配偶者と扶養親族は、年間の合計所得金額が48万円(給与所得だけの場合は給与の収入金額が103万円)以下であることが要件となっていますので、給与収入103万円超で働く人は定額減税の対象外となります(誰か(配偶者や親など)の定額減税額を計算する際の対象人数としてカウントされません)。

 一方、給与収入103万円超で働く人は、基本的に所得税(および翌年度の住民税)を負担することになりますので、自らの定額減税(月次減税)を受けることができます。

 しかし、給与収入103万円超で働く人の中には、最終的に所得税や住民税を負担しない人もいます。
 例えば、パートやアルバイトで働く人が、年末調整や確定申告で各種控除(社会保険料控除、生命保険料控除、勤労学生控除、寄附金控除、医療費控除など)の適用を受けた結果、所得税額も住民税額(所得割)も0円となるケースです。

 このような場合は、たとえ給与収入103万円超で働く人であっても自らの定額減税を受けられず、また、扶養親族等として誰かの定額減税の対象にもなりません。
 つまり、所得税・住民税負担のない給与収入103万円超で働く人は、定額減税制度の蚊帳の外となっています。

 この点について以前から是正を求める声が上がっていましたが、結果として、所得税・住民税負担のない給与収入103万円超で働く人には、調整給付(不足額給付)が行われることになりました。

 内閣官房ホームページの「よくあるご質問」が更新され、以下の問答が示されています。

Q 令和5年分と令和6年分の所得税の合計所得金額はそれぞれ48万円超ですが、各種控除を適用した結果、所得税額と個人住民税所得割はともに0です。調整給付の支給はありますか。

A 原則として、合計所得金額が48万円超の方で所得税や個人住民税所得割が生じている方は、ご自身が定額減税の対象となりますが、各種控除の適用により所得税、個人住民税所得割の税額がいずれもないことによって本人としての定額減税が受けられず、扶養親族等としての定額減税の対象にも制度上含まれない方については、1人あたり原則4万円の支援が行われるよう調整給付(不足額給付)の対象としています。

※ このうち、調整給付(当初給付)や低所得世帯向け給付(住民税非課税世帯への給付等)を受給している場合は給付対象となりません。


 この場合、調整給付(不足額給付)の受給にあたっては、要件を確認させていただく必要があるため、原則としてご本人からの申請をお願いすることとしています。具体的な給付時期や申請にあたって必要となる書類は、お住まいの市区町村にご確認ください。

※ 市区町村によっては、申請を不要とする場合もありますので詳細はお住まいの市区町村にご確認をお願いいたします。


 上記問答にあるように、1人あたり原則として4万円の不足額給付が行われますが、調整給付(当初給付)や低所得世帯向け給付(住民税非課税世帯への給付等)を受給している場合は給付対象となりません。

 この不足額給付は2025(令和7)年度に実施されると思われますが、不足額給付を受ける際の手続きについては、本人からの申請が必要か否かも含めて、各市区町村に確認する必要があります。

※ 調整給付(当初給付)については、本ブログ記事「調整給付金(定額減税補足給付金)の算定方法と疑問点の検証」をご参照ください。

国民年金保険料が免除される所得基準の計算方法~確定申告書との違いに注意!

 国民年金保険料の納付が経済的に困難な場合は、本人の申請により保険料の納付が免除される制度があります。

 免除される額には、全額免除、4分の3免除、半額免除、4分の1免除の4つの区分があり、所得に応じて免除の区分が承認(決定)されます。

 以下では、国民年金保険料の免除を受けるための所得基準の計算方法と、計算の際に注意を要する確定申告書の控除額との違いについて確認します。

※ 本記事の前編である保険料免除制度の内容については、「国民年金保険料の免除・納付猶予の申請について」をご参照ください。

1.日本年金機構が公表している所得基準の計算式

 国民年金保険料の免除を受けるためには、本人、配偶者(別世帯の配偶者を含む)、世帯主それぞれの前年所得(1月から6月までに申請する場合は前々年所得)が一定額以下でなければなりません。

 この「一定額以下」という所得基準については、日本年金機構ホームページにおいて次の計算式が公表されています。

(1) 全額免除
(扶養親族等の数+1)×35万円+32万円

(2) 4分の3免除
88万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等

(3) 半額免除
128万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等

(4) 4分の1免除
168万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等


 本人、配偶者(別世帯の配偶者を含む)、世帯主それぞれの前年所得が、上記計算式で計算した金額以下であれば、保険料の免除を受けることができます。

 ところが、実際に計算しようとすると、いくつかの疑問が生じます。

 例えば、計算式(1)における「扶養親族等の数」の「等」には配偶者や事業専従者も含まれるのか、(2)~(4)における「扶養親族等控除額」や「社会保険料控除額等」の「等」には所得税における扶養控除や社会保険料控除以外に何が含まれるのか、などです。

 しかし、日本年金機構のホームページでは、これらの内容に関する詳細な記載は見当たりません。

 保険料が免除される所得を計算する際のベースとなるのは、確定申告書の数字です。そこで、確定申告書との異同点を中心に「扶養親族等の数」、「扶養親族等控除額」、「社会保険料控除額等」の内容について、以下で確認していきます。

2.計算式の「扶養親族等の数」とは?

 全額免除の所得基準は、「(扶養親族等の数+1)×35万円+32万円」の計算式で求められます。

 この計算式における「扶養親族等の数」は、扶養控除の対象親族(控除対象扶養親族)だけではなく、16歳未満の扶養親族(年少扶養親族)と同一生計配偶者(控除対象配偶者)も該当します。

 一方、青色事業専従者として給与の支払を受けている人または白色事業専従者は該当しません。

3.計算式の「扶養親族等控除額」とは?

 一部免除(4分の3免除、半額免除、4分の1免除)の所得基準は、「〇〇万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等」の計算式で求められます。

 この計算式における「扶養親族等控除額」は、以下のものが該当します。

(1) 老人控除対象配偶者(70歳以上の同一生計配偶者)または老人扶養親族1人につき48万円
(2) 16歳以上23歳未満の扶養親族1人につき63万円
(3) それ以外の同一生計配偶者または扶養親族1人につき38万円

 ここで注意を要するのは、所得基準の計算式における「扶養親族等控除額」は、必ずしも確定申告書の控除額と一致しないということです。

 具体的な相違点は、次のとおりです。

所得基準の計算式 確定申告書の控除額との違い
老人控除対象配偶者(70歳以上の同一生計配偶者)または老人扶養親族1人につき48万円 老人扶養親族のうち、同居老親等については1人につき58万円の控除額となるが、計算式では同居老親等についても48万円の控除額となる。
16歳以上23歳未満の扶養親族1人につき63万円 16歳以上19歳未満の一般控除対象扶養親族については1人につき38万円の控除額となるが、計算式では一般控除対象扶養親族についても63万円の控除額となる(19歳以上23歳未満の特定扶養親族と同額)。
それ以外の同一生計配偶者または扶養親族1人につき38万円 16歳未満の年少扶養親族については扶養控除の対象外であるが、計算式では年少扶養親族についても38万円の控除額となる。

4.計算式の「社会保険料控除額等」とは?

 一部免除(4分の3免除、半額免除、4分の1免除)の所得基準の計算式における「社会保険料控除額等」は、以下のものが該当します。

(1) 障がい者1人につき27万円
(2) 特別障がい者1人につき40万円
(3) 寡婦または寡夫1人につき27万円
(4) 特別寡婦1人につき35万円
(5) 勤労学生1人につき27万円
(6) 雑損控除額
(7) 医療費控除額
(8) 社会保険料控除額
(9) 小規模企業共済等掛金控除額
(10) 配偶者特別控除額
(11) 純損失及び雑損失の控除額 など

 ここでも注意を要するのは、確定申告書の控除額との違いです。具体的には次のとおりです。

所得基準の計算式 確定申告書の控除額との違い
特別障がい者1人につき40万円 同居特別障害者については1人につき75万円の控除額となるが、計算式では同居特別障害者についても40万円の控除額となる。

 なお、確定申告書の所得控除のうち、以下のものは保険料免除を受けるための所得基準の計算式には含まれません。

(1) 生命保険料控除
(2) 地震保険料控除
(3) 基礎控除
(4) 寄附金控除

5.所得基準の計算方法と免除の区分

 国民年金保険料の免除を受けるための所得基準を計算するにあたっては、上記2,3、4における「扶養親族等の数」、「扶養親族等控除額」、「社会保険料控除額等」の範囲を把握し、確定申告書の控除額との違いに注意する必要があります。

 例えば、次の家族構成を例にした場合、免除を受けるための所得基準の計算方法と免除の区分は以下のようになります。

【家族構成5人】
① 本人・・・・・令和5年分の事業所得295万円(青色申告)、世帯主
② 配偶者・・・・青色事業専従者で令和5年分の給与所得41万円、46歳
③子ども・・・・小学生(12歳)と高校生(16歳)、無収入
④母親・・・・・令和5年分の年金所得15万円、71歳、同居
⑤所得控除・・・社会保険料控除30万円、生命保険料控除10万円、寄附金控除5万円
【所得基準の計算と免除の区分】

A.全額免除
所得基準:(3(子ども2人、母親)+1)×35万円+32万円=172万円
→本人の所得295万円>所得基準172万円のため、全額免除は受けられない。

B.4分の3免除
所得基準;88万円+48万円(同居老親)+38万円(年少扶養)+63万円(一般扶養)+30万円(社保控除)=267万円
→本人の所得295万円>267万円のため、4分の3免除は受けられない。

C.半額免除
所得基準:128万円+48万円(同居老親)+38万円(年少扶養)+63万円(一般扶養)+30万円(社保控除)=307万円
→本人の所得295万円≦307万円のため、半額免除を受けられる。

※ 配偶者の所得は41万円であるため、A、B、Cにおける所得基準をクリアしている。

 最後に、上記の例における本人の確定申告書を以下に示します。青枠で囲んだ箇所が所得基準の計算対象となりますが、確定申告書の控除額との違いに注意してください。

(1) 確定申告書では扶養控除が96万円(同居老親58万円+一般扶養親族38万円)となりますが、所得基準の計算では149万円(同居老親48万円+年少扶養親族38万円+一般扶養親族63万円)となります。

(2) 確定申告書では生命保険料控除10万円、基礎控除48万円、寄附金控除5万円が記載されていますが、所得基準の計算では対象外となります。

国民年金保険料の免除・納付猶予の申請について

 収入の減少や失業等により国民年金保険料を納めることが経済的に困難な場合は、保険料の納付が「免除」または「猶予」される制度があります。
 この制度を利用することで、将来の年金受給権の確保だけでなく、万一の事故などにより障害を負ったときの障害基礎年金の受給資格を確保することができます。
 以下では、免除または納付猶予を受けるための申請について確認します

※ 学生の方には「学生納付特例制度」、生活保護の生活扶助を受けている方や障害年金を受けている方には「法定免除制度」、出産を予定している方や出産した方には「産前産後期間の免除制度」が用意されていますので、これらの方は今回の「免除・納付猶予制度」の対象ではありません。 

1.保険料免除・納付猶予の申請

 国民年金保険料の免除や納付猶予を受けるためには、本人による申請が必要です。

(1) 免除申請(全額免除・一部免除)

 本人、配偶者(別世帯の配偶者を含む)、世帯主それぞれの前年所得(1月から6月までに申請する場合は前々年所得)が一定額以下の場合や失業等の理由がある場合など、保険料を納めることが経済的に困難な場合は、本人が申請書を提出し、承認されると保険料の納付が免除されます。

 免除される額は、全額、4分の3、半額、4分の1の4種類があります※1。例えば、全額免除の場合は、前年所得が以下の計算式で計算した金額の範囲内であることが必要です。

(扶養親族等の数※2+1)×35万円+32万円

※1 一部免除(4分の3、半額、4分の1)の場合、減額された保険料を納付しないと一部免除が無効となり未納期間となりますので、減額された保険料の納付が必要です。

※2 扶養親族等の数には、青色事業専従者として給与の支払を受けている人または白色事業専従者は含まれません。

(2) 納付猶予申請

 20歳以上50歳未満の方で、本人、配偶者(別世帯の配偶者を含む)それぞれの前年所得(1月から6月までに申請する場合は前々年所得)が一定額以下(全額免除の所得基準と同じ)の場合には、本人が申請書を提出し、承認されると保険料の納付が猶予されます。

 なお、上記(1)の免除(全額免除・一部免除)を受けた期間は、将来の老齢基礎年金の額が増額(国庫負担分が反映)されますが、納付猶予を受けた期間は老齢基礎年金の額は増額されません。

 また、免除(全額免除・一部免除)または納付猶予が承認されると、付加年金および国民年金基金は利用できません(付加年金および国民年金基金は、過去に遡っての加入ができません)。

2.申請できる期間

 免除申請または納付猶予申請ができる期間は、次のとおりです。

① 過去期間
 申請書が受理された月から2年1か月前(すでに保険料が納付済みの月を除く)まで

② 将来期間
 翌年6月(1月~6月に申請したときは、その年の6月)分まで

 ただし、1枚の申請書で申請できるのは、7月から次の年の6月までの12か月となりますので、必要に応じて年度ごとに申請書を提出します(免除等の1年度は7月~翌年6月)。

 例えば、令和6年7月に、令和4年6月から令和7年6月までの期間を申請する場合、以下の4枚の申請書が必要になります。

 イ.令和3年度分(令和4年6月~令和4年6月)
 ロ.令和4年度分(令和4年7月~令和5年6月)
 ハ.令和5年度分(令和5年7月~令和6年6月)
 ニ.令和6年度分(令和6年7月~令和7年6月)

 なお、この例の場合は、令和4年5月以前は時効により申請できません。

3.免除(全額免除・一部免除)と納付猶予の違い

 保険料の免除(全額免除・一部免除)と納付猶予は、以下の表のとおり、その期間が年金額に反映されるかどうかに違いがあります。

  全額免除 一部免除※1 納付猶予
老齢基礎年金の受給資格期間への算入 あり あり あり
老齢基礎年金の年金額への反映 あり※2 あり※2 なし
障害基礎年金、遺族基礎年金の受給資格期間への算入 あり あり あり

※1 一部免除の承認を受けている期間は、減額された保険料を納付している必要があります。未納の場合は、一部免除が無効となります。

※2 保険料を全額納めた場合と比べて、受け取る年金額の割合が以下のとおりとなります(2009(平成21)年4月以降の免除期間)。
・全額免除の場合・・・・2分の1
・4分の3免除の場合・・・8分の5
・半額免除の場合・・・・8分の6
・4分の1免除の場合・・・8分の7

 上表のとおり、納付猶予の期間は、老齢基礎年金、障害基礎年金、遺族基礎年金を受け取るために必要な受給資格期間にカウントされますが、年金額には反映されません。

4.免除等された保険料の追納

 上記のように、保険料の免除・納付猶予の承認を受けた期間がある場合は、保険料を全額納付した場合と比べて、将来受け取る年金額が少なくなります。

 しかし、これらの期間が10年以内であれば、後から保険料を納付(追納)して老齢基礎年金の受給額を満額に近づけることが可能です。
 例えば、免除等承認月が2014(平成26)年10月の場合、2024(令和6)年10月31日まで追納できます。

 ただし、以下の点には注意が必要です。

(1) 追納を行うには追納申込書の提出が必要ですが、追納期限の直前に提出すると期限までに追納できなくなる場合があります。
(2) 老齢基礎年金を受け取っている方は追納できません。
(3) 免除等の承認を受けた期間の翌年度から起算して3年度目以降に保険料を追納する場合は、当時の保険料額に経過期間に応じた加算額が上乗せされます。

令和6年10月1日から変わる税金・社会保険その他の主な制度

 2024(令和6)年10月1日から、税金や社会保険などにおいて制度変更が行われるものがあります。
 それらの中には、会社の経営や従業員の働き方などに影響を及ぼすものもありますので、どのような制度変更があるのかを確認しておくことは有意義であると思われます。
 以下では、令和6年10月1日から変更される主な制度について確認します。

1.中小企業倒産防止共済掛金の損金算入制限

 中小企業倒産防止共済制度(経営セーフティ共済)は、取引先事業者が倒産した際に無担保・無保証人で掛金の最大10倍(上限額8,000万円)の金額を借りることができ、中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度です。

 取引先の突然の倒産などの「もしも」のときに備えるというのが本来の目的ですが、掛金全額(1年間で最大240万円)を損金または必要経費に算入できることから、節税対策としても活用されています。

 一方、掛金の積立額は上限800万円とされており、上限に達した後は任意のタイミングで解約して解約手当金を受け取ることになりますが、この解約手当金は収益(益金または収入金額)となります。

 黒字のタイミングで解約すれば解約手当金がすべて課税対象となってしまい、せっかくの損金算入が単なる課税の繰り延べになってしまいますので、節税効果を活かすためには解約するタイミングは重要です。

 一般的には、赤字のタイミングで解約したり、役員退職金や大規模修繕などの大型の経費を計上するタイミングで解約して、解約手当金と相殺する方法があります。

 さらに、解約した後にすぐに再加入して、掛金(前納すれば最大240万円)と解約手当金を相殺するという方法が用いられることがありましたが、この部分が中小企業庁に不適切であると指摘され、見直しが行われました。

 その結果、2024(令和6)年10月1日以後に解約した中小企業倒産防止共済については、解約の日から2年を経過する日までの間に支出する掛金は損金算入することができないとされました。
 これにより、解約後すぐに再加入して節税するというスキームが封じられることになります。

 もし、再加入による掛金の損金算入を検討している場合は、令和6年9月30日までに現契約を一度解約した上で再加入する必要があります。

※ 損金算入制限については、「中小企業倒産防止共済の再加入後の損金算入制限に注意」をご参照下さい。

2.免税事業者等からの仕入れに係る経過措置の適用の制限

 インボイス制度の下では、免税事業者等(消費者、免税事業者又は登録を受けていない課税事業者)からの課税仕入れについては、仕入税額控除のために保存が必要なインボイスの交付を受けることができないことから、仕入税額控除を行うことができません。

 ただし、インボイス制度開始から一定期間(6年間)は、免税事業者等からの課税仕入れであっても、仕入税額相当額の一定割合(80%・50%)を仕入税額とみなして控除できる経過措置が設けられています。

期間 割合
令和5年10月1日から令和8年9月30日まで 仕入税額相当額の80%
令和8年10月1日から令和11年9月30日まで 仕入税額相当額の50%

 上記経過措置が2024(令和6)年度税制改正により見直しが行われ、一の免税事業者等から行う当該経過措置の対象となる課税仕入れの額の合計額がその年又はその事業年度で税込み10億円を超える場合には、その超えた部分の課税仕入れについて、本経過措置は適用できないこととされました。
 この改正は、2024(令和6)年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。

※ 経過措置については、「インボイス制度導入後の免税事業者からの仕入れに係る仕入税額控除の特例(経過措置)」をご参照下さい。

3.パート・アルバイトの社会保険加入義務の拡大

 パートやアルバイトで働く方の社会保険(健康保険及び厚生年金保険)加入義務の判定基準が、2024(令和6)年10月1日から変わります。

 パートやアルバイトで働く短時間労働者の方でも、一定の要件を満たす場合は社会保険に加入しなければなりません。
 一定の要件とは次の4要件をいい、これらの要件をすべて満たす場合は社会保険の加入義務が生じます。

(1) 週の所定労働時間が20時間以上であること
(2) 所定内賃金が月額8.8万円以上であること
(3) 2か月を超える雇用の見込みがあること
(4) 学生でないこと

 現在、厚生年金保険の被保険者数が101人以上の企業等で働く上記4要件を満たす短時間労働者は、社会保険の加入対象となっています。
 この短時間労働者の加入要件がさらに拡大され、令和6年10月1日から厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業等で働く短時間労働者の社会保険加入が義務化されます。

 今回の加入要件の拡大に伴い、該当するパート・アルバイトの方やその家族の生活、働き方の選択などに大きな影響を及ぼす可能性がありますので、事前に制度変更の周知を図る必要があります。

※ 加入要件の詳細については、「従業員51人以上の会社で働くパート・アルバイトの社会保険加入義務(令和6年10月1日~)」をご参照ください。

4.代表取締役等住所非表示措置

 現行の会社法においては、株式会社の代表取締役など会社の代表者は氏名と住所を登記する必要があり、登記後はその氏名と住所が登記簿上で公開されます。

 この登記簿上の代表者の住所について、2024(令和6)年10月1日から登記申請時に代表者の住所を非公開にすることができるという制度(代表取締役等住所非表示措置)が始まります。

 この措置により、登記事項証明書等で公開が必要だった代表者の氏名と住所のうち、住所を非公開にすることができるようになります。
 ただし、非公開にできるのは住所の一部であり、最小行政区画までは公開されます。つまり、市区町村(東京都においては特別区、指定都市においては区)までは公開されます。

 なお、代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合には、登記事項証明書等によって会社代表者の住所を証明することができないこととなるため、金融機関から融資を受けるに当たって不都合が生じたり、不動産取引等に当たって必要な書類(会社の印鑑証明書等)が増えたりするなど、一定の支障が生じることが想定されます。

 そのため、代表取締役等住所非表示措置の申出をする前に、このような影響があり得ることについて、慎重かつ十分な検討が必要です。

※ 制度の詳細については、「令和6年10月1日から登記申請時に社長の住所を非公開にできます」をご参照ください。

5.給与所得者の保険料控除申告書

 2024(令和6)年10月1日以後に提出する「給与所得者の保険料控除申告書」について、以下の「申告者との続柄」の記載を要しないこととされました。

(1) 社会保険料について、社会保険料のうちに自己と生計を一にする配偶者その他の親族が負担すべきものがある場合におけるこれらの者の申告者との続柄
(2) 新生命保険料及び旧生命保険料について、保険金、年金、共済金、確定給付企業年金、退職年金又は退職一時金の受取人の申告者との続柄
(3) 介護医療保険料について、保険金、年金又は共済金の受取人の申告者との続柄
(4) 新個人年金保険料及び旧個人年金保険料について、年金の受取人の申告者との続柄

6.地域別最低賃金の引き上げ

 最低賃金は、パート、アルバイト、正社員、臨時、嘱託など雇用形態や呼称の如何を問わず、すべての労働者に適用されます。

 近年は最低賃金引き上げの流れが続いており、2024(令和6)年度の全国加重平均は時給1,055円と過去最高となっており、引き上げ幅51円も過去最高となっています。
 令和6年度の地域別最低賃金を見ると、最高額は東京都の1,163円、最低額は秋田県の951円となっています。

 令和6年度地域別最低賃金は、令和6年10月1日から同年11月1日にかけて順次引き上げられる予定です。

※ 詳細については、「令和6年度地域別最低賃金が10月1日から順次引き上げられます」をご参照ください。

7.郵便料金の値上げ

 2024(令和6)年10月1日から郵便料金が値上げされます。主な郵便料金の変更内容は次のとおりです。

出所:日本郵便ホームページ

調整給付金(定額減税補足給付金)の算定方法と疑問点の検証

 調整給付金は、2024(令和6)年度に実施される所得税・個人住民税所得割の定額減税を十分に受けられない人に対して、市区町村から支給される給付金(定額減税を補足する給付金)です。

 具体的には、定額減税可能額が2024(令和6)年分の推計所得税額または2024(令和6)年度分の個人住民税所得割額を上回る人に対して、当該上回る額の合計額を基礎として1万円単位で切り上げて算定した額が、2024(令和6)年7月下旬~8月に支給されます。

 今回は、調整給付金(当初給付)の算定方法と、調整給付金について想定される疑問点を検証します。

※ 2025(令和7)年度に実施される調整給付金(不足額給付)については、本ブログ記事「定額減税調整給付金(不足額給付)の対象となる人の具体例と給付額の計算例」をご参照ください。

1.調整給付金の算定方法

 先に述べたように、調整給付金は、定額減税可能額が2024(令和6)年分の推計所得税額または2024(令和6)年度分の個人住民税所得割額を上回る人に対して、当該上回る額の合計額を基礎として1万円単位で切り上げて算定した額が支給されるというものです。

 定額減税可能額は、次のとおりです。

【所得税分】 3万円 × 減税対象人数(納税者本人+同一生計配偶者+扶養親族の数)
【住民税分】 1万円 × 減税対象人数(納税者本人+控除対象配偶者+扶養親族の数)

※ 同一生計配偶者とは、納税者と生計を一にする配偶者(青色専従者等を除く)のうち、合計所得が48万円以下の人です。
※ 控除対象配偶者とは、同一生計配偶者のうち、納税者の所得が1,000万円以下で、配偶者の合計所得が48万円以下の人(配偶者控除の対象者)です。
※ 扶養親族には16歳未満の扶養親族も含みます。
※ 非居住者(国外居住者など)は、減税対象人数に含みません。

 調整給付金は、例えば、家族構成4人(本人、配偶者、子ども2人)、令和6年分推計所得税額10万円、令和6年度分個人住民税所得割額3万5千円の場合を前提とすると、次のように算定します。

【所得税】
定額減税可能額=3万円 × 減税対象人数4人=12万円
控除不足額=定額減税可能額12万円-推計所得税額10万円=2万円
【住民税】
定額減税可能額=1万円 × 減税対象人数4人=4万円
控除不足額=定額減税可能額4万円-住民税所得割額3万5千円=5千円
【調整給付金】
調整給付金=所得税の控除不足額2万円+住民税の控除不足額5千円=2万5千円→3万円(1万円単位に切り上げ)

2.調整給付金に関するQ&A

 調整給付金の算定方法は上記1のとおりですが、以下では調整給付金に関する疑問点をQ&A形式で検証します。

(1) 令和6年分推計所得税額はどのようにして算出しているのか?

 調整給付金の算定において、所得税の控除不足額は定額減税可能額から令和6年分推計所得税額を引いて算定しますが、この推計所得税額は2023(令和5)年分所得等を基に市区町村で算出しています。

 国からの通知に基づき、国の算定ツールを用いて算出するため、2023(令和5)年分確定申告書や勤務先から交付された2023(令和5)年分源泉徴収票の所得税額とは一致しない場合があります。
 特に住宅ローン控除を所得税で引ききっている場合(住民税で控除の適用がない場合)などは、算定ツールの仕様上、実際の所得税額と一致しません。

 このような場合には、次の(2)の対応になります。

(2) 調整給付金の支給額が不足していることが判明した場合は?

 調整給付金の算定に用いる令和6年分推計所得税額や令和6年度分個人住民税所得割額が実際の数値と異なる場合でも、基本的に調整給付金の変更は行われません。

 令和6年分推計所得税額は実額による算出ではないことを踏まえ、令和6年分所得税額が確定した後(年末調整または確定申告)に調整給付金の支給額に不足が生じていること(令和6年分推計所得税額>令和6年分確定所得税額)が判明した場合は、当該不足額が2025(令和7)年度に追加で給付される予定です。

(3) 調整給付金の支給額が過大となっていることが判明した場合は?

 上記(2)とは逆に、令和6年分所得税額が確定した後(年末調整または確定申告)に調整給付金の支給額に過大額が生じていること(令和6年分推計所得税額<令和6年分確定所得税額)が判明した場合は、当該過大額を返還しなければならないのでしょうか?

 答えは「否」です。調整給付金の支給額に過大額が生じていたとしても、返還は不要です。
 国は、給付しすぎた部分については返還を求めないとの方針を公表しています。

(4) 令和6年度住民税所得割も令和5年分所得税も課税されていない場合、調整給付の対象になるか?

 2024(令和6)年度住民税所得割(定額減税前の税額)も2023(令和5)年分所得税も課税されていない(0円)場合は、調整給付(当初給付)の対象となりません。

 ただし、世帯全員の令和6年度住民税所得割が非課税で、令和5年度に実施された(令和5年度個人住民税で判定)非課税世帯を対象とする給付金(7万円)、均等割のみ課税世帯を対象とする給付金(10万円)の対象となっていない世帯であれば、令和6年度低所得者支援給付金の対象となる場合がありますので、支給要件をご確認ください。

(5) 定額減税後に控除しきれない額が3,000円ある場合、均等割(5800円)から控除するのか?

 個人住民税には、所得に応じた負担を求める「所得割」と、所得にかかわらず定額の負担を求める「均等割」があり、所得の水準に基づき、市区町村において税額(所得割額・均等割額)が決定されます。
 今回の定額減税は「所得割」から控除するものであるため、均等割からは控除されません。

(6) 調整給付金は課税対象や差押えの対象となるか?

 調整給付金は課税対象ではありません。また、法律により差押えが禁止されています。

ETC利用時のインボイス保存方法の緩和の変遷

 高速道路を利用する際にETCシステムにより料金を支払い、後日、クレジットカードによりその料金を精算している場合、クレジットカード会社が発行するクレジットカード利用明細書を保存するだけでは消費税の仕入税額控除を行うことはできないとされていました。

 しかし、電子帳簿保存法のルール変更に伴い、一定の要件を満たす場合にはクレジットカード利用明細書を保存するだけで消費税の仕入税額控除を行うことができるようになりました。

 以下では、ETC利用時のインボイスの保存方法について、ETC利用証明書の取扱いを中心に確認します。

1.すべてのETC利用証明書の保存が必要(原則)

 クレジットカード会社がそのカードの利用者に発行する「クレジットカード利用明細書」は、そのカード利用者に対して課税売上を行った売り手(高速道路会社)が作成・交付する書類ではなく、当該売り手(高速道路会社)の登録番号や適用税率なども記載されていないため、インボイスには該当しません。

 したがって、ETCクレジットカード※1を使用した高速道路料金について仕入税額控除の適用を受けるためには、原則としてすべての取引について高速道路会社が運営するホームページ(ETC利用照会サービス)からダウンロードした「利用証明書※2」(簡易インボイス)を保存しなければなりません。

※1 ETCクレジットカードとはクレジットカード会社がETCシステムの利用のために交付するカードをいい、高速道路会社が発行するETCコーポレートカード及びETCパーソナルカードを除きます。
 ETCコーポレートカード及びETCパーソナルカードを利用した場合は、月に一回発行される請求書がインボイスに対応した形式となります。

※2 利用料金が確定前の状態でETC利用照会サービスから発行される利用証明書は、インボイス対象外となりますのでご注意ください。

2.任意の一取引のETC利用証明書の保存で可(緩和その1)

 しかし、ETCクレジットカードを使用して高速道路を利用する度に、すべての利用証明書をダウンロードして保存することは事務的な煩雑さを伴い、実務的には困難であると思われます。

 そこで、高速道路の利用が多頻度にわたるなどの事情によりすべての利用証明書の保存が困難なときは、クレジットカード会社が発行するクレジットカード利用明細書※3と、高速道路会社及び地方道路公社など(以下「高速道路会社等」といいます)の任意の一取引※4に係る利用証明書をダウンロードして併せて保存することで、仕入税額控除の適用を受けることができるようになりました。

 すべての利用証明書ではなく、任意の一取引に係る利用証明書をダウンロード・保存することでよくなりましたので、事務的な負担は大幅に緩和されました。

※3 個々の高速道路の利用に係る内容が判明するものに限ります。また、取引年月日や取引の内容、課税資産の譲渡等に係る対価の額が分かる利用明細データ等を含みます。

※4 複数の高速道路会社等の利用がある場合は、高速道路会社等ごとに任意の一取引の利用証明書を保存します。

3.ETC利用証明書の保存は不要(緩和その2)

 上記2により、ETC利用時のインボイスの保存方法は大幅に緩和されたといえますが、電子帳簿保存法のルール変更に伴い、さらに保存方法が緩和されました。

 2024(令和6)年4月に国税庁ホームページ「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」の問103(高速道路利用料金に係る適格簡易請求書の保存方法)が改訂され、以下の注意書きが追記されました(下線は筆者による)。

 適格請求書等につき、電磁的記録による提供を受けた場合、仕入税額控除の適用を受けるためには、電帳法に準じた方法により保存する必要があります(消令 50①、消規15の5)。この点、電帳法においては、当該適格請求書等の電磁的記録をダウンロードすることができる場合に、当該適格請求書等に係る電磁的記録の確認が随時可能な状態である場合には、必ずしも当該電磁的記録をダウンロードせずとも、その保存があるものとして、仕入税額控除の適用を受けることとして差し支えありません。
 そのため、ETC利用照会サービスにおいてダウンロードできる期間(15か月間)に、繰り返し、同じ高速道路会社等の道路を利用しているような場合は、いつでも利用証明書をダウンロードできる状態にあるため、結果として、利用証明書のダウンロードは不要となり、クレジットカード利用明細書の保存のみで仕入税額控除の適用を受けることが可能です。なお、ダウンロードできる期間を超えて利用間隔に開きがある高速道路会社等の道路については、利用証明書のダウンロードが必要になりますのでご注意ください。


 電子帳簿保存法では、WEB上で領収書等の確認が随時可能な状態である場合は、ダウンロード・保存は不要というルールに変更されました。

 このルール変更に伴い、繰り返し(15か月に1回以上)ETCを利用している場合は、いつでも利用証明書をダウンロードできる状態にあるため利用証明書のダウンロードは不要となり、クレジットカード利用明細書の保存のみで仕入税額控除ができるようになりました。

 ETC利用時のインボイスの保存方法について、ETC利用証明書の取扱いを中心にみると、「すべてのダウンロード・保存が必要」→「任意の一取引についてダウンロード・保存が必要」→「ダウンロード・保存は不要」というように緩和されています。

従業員51人以上の会社で働くパート・アルバイトの社会保険加入義務(令和6年10月1日~)

 パートやアルバイトで働く方の社会保険加入義務の判定基準が、2024(令和6)年10月1日から変わります。
 判定基準には労働者側の要件と企業側の要件がありますが、今回変更されるのは企業側の要件です。
 以下では、両者の要件を踏まえて、2024(令和6)年10月1日以降の社会保険加入義務について確認します。

※ 関連記事「パート・アルバイトの税制上と社会保険制度上の年収の壁

1.労働者側の4要件

 パートやアルバイトで働く短時間労働者の方でも、一定の要件を満たす場合は社会保険(健康保険及び厚生年金保険)に加入しなければなりません。
 一定の要件とは具体的には次のとおりであり、これら4要件をすべて満たす場合は社会保険の加入義務が生じます。

(1) 週の所定労働時間が20時間以上であること

 20時間以上というのは契約上の所定労働時間であり、臨時の残業時間は含みません。
 ただし、契約上の所定労働時間が20時間に満たない場合でも、実労働時間が2か月連続で20時間となり、それ以降も続く見込みのときは3か月目から加入対象となります。

(2) 所定内賃金が月額8.8万円以上であること

 月額8.8万円以上というのは、基本給と手当の合計額です。
 ただし、残業代、賞与、臨時的な賃金(結婚手当等)、最低賃金に算入しないことが定められた賃金(精皆勤手当、通勤手当及び家族手当)は含みません。

(3) 2か月を超える雇用の見込みがあること

 当初の雇用期間が2か月以内であっても、当該期間を超えて雇用されることが見込まれる場合は、契約当初から加入対象となります。

(4) 学生でないこと

 学生とは、大学、高等学校、専修学校、各種学校(修業年限が1年以上の課程に限ります)等に在学する方をいいます。
 ただし、休学中、定時制、通信制の方は、学生であっても加入対象となります。

 上記の4要件をすべて満たすパート・アルバイトの方は社会保険の加入義務がありますが、この4要件は労働者側の要件です。
 これらのパート・アルバイトの方が働く場である企業側にも要件(企業規模要件)があり、その要件に該当すればその企業は「特定適用事業所」となります。

 つまり、特定適用事業所で働くパート・アルバイトの方で上記4要件を満たす人は、社会保険に加入する必要があります。

2.企業側の要件(特定適用事業所)

 特定適用事業所とは、1年のうち6月間以上、従業員数(厚生年金保険の被保険者の総数)が101人以上となることが見込まれる企業等のことです。
 この特定適用事業所の企業規模は段階的に拡大され、現在は101人以上となっていますが、2024(令和6)年10月1日からは51人以上となります。

 したがって、令和6年10月1日からは、従業員数(厚生年金保険の被保険者数)が51人以上の企業等で働くパート・アルバイトの方で、4要件をすべて満たす人は社会保険の加入義務があります。

出所:日本年金機構ホームページ

 なお、「従業員数51人以上」は厚生年金保険の被保険者数が対象になりますので、70歳以上で健康保険のみ加入している人は対象になりません。
 また、「51人以上」とは、その企業等における厚生年金保険の被保険者の総数が、12か月のうち6か月以上51人以上となることが見込まれることを指します

 ここで注意しなければならない点は、令和6年10月1日時点で51人以上を判定するのではなく、過去12か月間で判定をするということです。
 裏を返せば、令和6年10月1日時点で51人に満たなくても特定適用事業所になり得るということです。

※ 法人事業所の場合は、同一法人格に属する(法人番号が同一である)すべての適用事業所の被保険者数の総数、個人事業所の場合は、適用事業所単位の被保険者数をカウントします。

3.日本年金機構から通知書が届く

 日本年金機構(年金事務所)では、これまでに提出している「資格取得届」や「資格喪失届」などから、各事業所における厚生年金保険の被保険者数を把握しています。

 そこで、令和6年10月1日から新たに特定適用事業所となる事業所や特定適用事業所となる可能性のある事業所には、令和6年9月上旬以降、順次各種の通知書が送付される予定になっていますので、通知書が届いたら必ず確認するようにしてください

 通知書が届く9月に入ってから、10月以降社会保険に加入しなければならないパート・アルバイトの方に「来月から社会保険に加入する」ことを伝えることになると、該当するパート・アルバイトの方やその家族の生活、働き方の選択などに大きな影響を及ぼしかねず、また、考える時間も十分に与えることができません。

 厚生年金保険の被保険者数の確認は今からでもできますので、日本年金機構からの通知書を待つことなく、自社が特定適用事業所に該当するか又は該当しそうかを確認してみてはいかがでしょうか。

※ 令和5年10月から令和6年7月までの各月のうち、厚生年金保険の被保険者の総数が6か月以上51人以上となったことが確認できる場合は、同年9月上旬に「特定適用事業所該当事前のお知らせ」が届き、同年10月上旬に「特定適用事業所該当通知書」が届きます。
 また、令和5年10月から令和6年7月又は8月までの各月のうち、厚生年金保険の被保険者の総数が5か月51人以上となったことが確認できる場合は、同年9月上旬に「特定適用事業所に関する重要なお知らせ」が届きます。

簡易な扶養控除等申告書とは?

 2023(令和5)年度税制改正により、源泉徴収手続の簡素化を図り納税者利便を向上させる観点から、2025(令和7)年1月1日以後に支給される給与等について提出する「給与所得者の扶養控除等申告書」及び「従たる給与についての扶養控除等申告書」に「簡易な申告書」が創設されました。
 以下では、この簡易な申告書の内容について確認します。

1.簡易な申告書とは?

 勤務先へ提出する「給与所得者の扶養控除等申告書※1」又は「従たる給与についての扶養控除等申告書※2」に記載すべき事項が、前年にその勤務先へ提出した扶養控除等申告書に記載した事項から異動がない場合は、その記載すべき事項の記載に代えて、異動がない旨を記載した申告書を提出することができます。
 この前年から異動がない旨を記載した申告書を「簡易な申告書」といいます。

※1 関連記事:「令和6年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の書き方と記載例
※2 関連記事:「『従たる給与についての扶養控除等申告書』とは?

2.異動がない場合とは?

 上記1における異動がない場合とは、勤務先に提出しようとする扶養控除等申告書に記載すべき事項の全てが、その勤務先に前年に提出した扶養控除等申告書に記載した内容から異動がない場合をいいます。

 なお、控除対象扶養親族の所得の見積額に変動があった場合等のうち一定の場合(例えば、子の所得の見積額に変動があったとしても前年も本年も48万円以下となる場合)には、異動がないものとして取り扱って差し支えありません。

 ただし、前年は控除対象扶養親族に該当していた親族が本年は控除対象扶養親族に該当しないこととなる場合や、前年は16歳未満の年少扶養親族だった子が本年は控除対象扶養親族に該当する場合などは、前年に提出した扶養控除等申告書に記載した事項について異動があったものとなりますので、簡易な申告書を提出することはできません。

※ 2025(令和7)年度税制改正で、扶養控除の所得要件が合計所得金額58万円以下に変わりました。詳細については、「扶養親族等の所得要件・住宅借入金等特別控除・生命保険料控除の見直し(令和7年度税制改正)」をご参照ください。

3.異動の有無の確認方法は?

 給与の支払者が、前年に提出を受けた扶養控除等申告書に記載された事項の異動の有無を従業員に確認してもらう方法としては、例えば、システム等を利用して前年に提出を受けた扶養控除等申告書の申告データを従業員に確認してもらう方法や、前年に提出を受けた扶養控除等申告書の写しを従業員に交付して確認してもらう方法などがあります。

 なお、連年簡易な申告書を提出している従業員には、その従業員から最後に提出を受けた簡易な申告書以外の扶養控除等申告書の記載内容から異動がないかを確認してもらう必要があります。

4.簡易な申告書の記載例

 簡易な申告書には、提出する人本人の氏名、住所又は居所及びマイナンバー(個人番号)を記載の上、前年に提出した扶養控除等申告書に記載した事項から異動がない旨(例えば「前年から異動なし」など)を余白に記載する等して提出します。

出所:国税庁ホームページ

 なお、給与の支払者が、扶養控除等申告書に記載すべき従業員のマイナンバーなどの所定の事項を記載した帳簿を備えているときは、そのマイナンバーの記載をしなくてよいこととされています※3

※3 関連記事:「『給与所得者の扶養控除等(異動)申告書』のマイナンバー記載を省略する方法

5.源泉徴収手続の簡素化に資するのか?

 冒頭で述べたように、簡易な申告書が創設された目的は、源泉徴収手続の簡素化を図り納税者利便を向上させることにあります。

 確かに、前年に提出した扶養控除等申告書の内容と異動がなければ、従業員は前年と同じ内容を記載する手間を省くことができる(書く量が減る)ので、納税者利便向上に資するかもしれません。
 しかし、連年簡易な申告書を提出する場合、いつから異動がないのか(最後に提出した異動前の扶養控除等申告書の内容)を把握しておく必要があります。

 一方、給与の支払者は、連年簡易な申告書の提出を受けた場合においても適正に源泉徴収事務を行うことができるよう、従業員から提出を受けた扶養控除等申告書を、システムを使用してその申告データを管理する又は書面でその申告書の管理をするなど、最後に提出を受けた簡易な申告書以外の扶養控除等申告書(異動前の扶養控除等申告書)の内容を確認できるようにしておく必要があります。

 そうすると、ある従業員には前年との比較で異動の有無を確認してもらい、ある従業員には3年前との比較で異動の有無を確認してもらうなど、従業員ごとに比較対象となる扶養控除等申告書が異なりますので、異動前の扶養控除等申告書を給与の支払者が管理することを前提とすると、その管理事務が煩雑になる懸念があります(単に「前年から異動なし」と記載された簡易な申告書の写しを従業員に交付するだけでは、適正な源泉徴収事務は行えないと思われます)。

 異動がない場合に簡易な申告書を従業員に提出してもらうのか、あるいは異動の有無にかかわらず毎年最新の扶養控除等申告書を提出してもらうのかについては、一考が必要です。