子どもの養育費を支払っている親はその子どもを扶養控除の対象にできるか?

 離婚によって子どもと離れて暮らすことになった親は、その子どもの生活や教育のために、子どもを引き取った親(元配偶者)に対して養育費を支払わなければなりません。

 一般的には子どもを引き取った親が親権者になりますが、親権者でなくなった親であっても子どもの親であることに変わりはありませんので,親として養育費の支払義務を負います。

 子どもの養育費を支払っている親にとっては、その子どもを扶養控除の対象とすることができれば、自らの税負担を減らすことができます。

 しかし、離れて暮らしていてもいいのか?あるいは親権者でなくてもいいのか?など、扶養控除を受けるにあたって判然としない点もあります。

 この点について結論を先に述べると、扶養控除を受けるにあたって「同居していること」や「親権者であること」という要件はありませんので、離れて暮らしていても親権者でなくても、扶養控除の適用要件を満たしていれば扶養控除を受けることができます。

 以下において、離婚に伴う養育費の支払いと扶養控除の適用関係について確認します。

1.扶養控除の適用要件

 扶養控除とは、納税者に特定の要件に該当する扶養親族がいる場合、一定の金額(38万円~63万円)を所得金額から控除できる制度です。
 特定の要件に該当する扶養親族とは、次の要件すべてに該当する親族をいいます。

(1) 配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族をいいます)または都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人であること

(2) 納税者と生計を一にしていること

(3) 年間の合計所得金額が48万円以下であること(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)

(4) 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないことまたは白色申告者の事業専従者でないこと

 上記4要件を満たす扶養親族のうち、その年12月31日現在の年齢が16歳以上の人を控除対象扶養親族といい、扶養控除の対象となります。

 離れて暮らす子どもが控除対象扶養親族であるか否かについて、上記の(1)、(3)、(4)、16歳以上という要件については、形式的に判断できますので特に問題はないと思います。

 判断に迷うのは、養育費の支払いが上記(2)の「生計を一にしていること」に該当するか否かだと思われますので、この点について次に確認します。

※ 2025(令和7)年度税制改正で、(3)の要件は「年間の合計所得金額が58万円以下であること(給与のみの場合は給与収入が123万円以下)」に変わりました。
 詳細については、「
扶養親族等の所得要件・住宅借入金等特別控除・生命保険料控除の見直し(令和7年度税制改正)」をご参照ください。

2.「生計を一にする」とは?

 「生計を一にする」とは、必ずしも同居していることを要件とするものではありません。
 例えば、勤務、修学、療養等のために別居している場合であっても、余暇には起居を共にすることを常例としている場合や、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合には、「生計を一にする」ものとして取り扱われます。

 したがって、離れて暮らす子どもが「生計を一にしている」とみることができるかどうかは、離婚に伴う養育費の支払いが「常に生活費等の送金が行われている場合」に当たるか否かによることとなりますが、次のような場合には、扶養控除の対象として差し支えないものとされています。

(1) 扶養義務の履行として支払われる場合

(2) 子が成人に達するまでなど一定の年齢等に限って支払われる場合


 なお、離婚に伴う養育費の支払いが(1)及び(2)のような状況にある場合において、それが一時金として支払われる場合は、「常に生活費等の送金が行われている場合」に該当しないと考えられるため、扶養控除を受けることはできません。

 一方、一時金として支払われる場合であっても、子どもを受益者とする信託契約(契約の解除については元夫婦の両方の同意を必要とするものに限ります)により養育費に相当する給付金が継続的に給付されているときには、その給付されている各年について「常に生活費等の送金が行われている場合」に該当すると考えられるため、扶養控除を受けることができます。
 ただし、信託収益は子どもの所得となりますので、信託収益を含めて子どもの所得金額の判定を行う必要があります。

 また、離れて暮らす親と引き取った親の両方の控除対象扶養親族に子どもが該当する場合には、いずれか一方の親だけしか扶養控除を受けることができません(重複適用はありません)。

※ 離婚に伴う財産分与の課税関係については、本ブログ記事「離婚により自宅を財産分与した場合にかかる税金は?」をご参照ください。

外貨建取引を円換算するときの為替レートとは?

 海外企業と外貨建てで取引を行う場合、外貨建ての収益や費用を円換算する必要があります。
 円換算については、国税庁ホームページ(No.6325外貨建取引の取扱い)でその概要が説明されており、最初の一文には次のように記載されています。

 外貨建ての取引の売上金額や仕入金額の円換算は、為替予約がある場合を除き、原則として売上げや仕入れとして計上する日の電信売買相場の仲値によることとされています。

 この最初の一文だけでも、為替予約、電信売買相場、仲値などのように国内取引では出てこない用語が散見されます。 
 外貨建取引が国内取引に比べて難しく感じることがあるとすれば、このような国内取引とは異なる「用語」の存在が一因だと思われます。

 以下では、外貨建取引に係る用語の基礎知識を整理した上で、外貨建取引を円換算する際に適用する為替レートの確認をします。

1.為替レートの分類

 外貨建取引を円換算するにあたっては、各種為替レートに関する理解が必要になります。
 ここでは、為替レートについての基礎的な知識を整理します。

(1) 直物レートと先物レート

 まず、為替レートを大きく分類すると、直物レートと先物レートに分かれます。

 直物レート(スポット・レート)とは、取引日から2営業日後に通貨の受け渡しが行われる為替レートをいい、一般的に為替レートといった場合は直物レートを指します。

 一方、先物レート(予約レートまたはフォワード・レート)とは、2営業日後よりも後(例えば3か月後や6か月後)に通貨の受け渡しが行われる為替レートをいい、為替リスクのヘッジの局面でよく登場するレートです。

 為替レートは直物レートと先物レートに大きく分類されますが、以下では、直物レートについてさらに3つに分類します。

(2) TTS・TTB・TTMとは?

 外貨建取引の円換算においては、同じ直物レートであっても、TTS・TTB・TTMという用語が使い分けられています。

 TTSとは、Telegraphic Transfer Sellingの略であり、電信売相場を意味します。「売」というのは銀行側の視点であり、銀行が顧客に外貨を売る際に用いるレートです。
 企業側の視点からは、外貨を買う(円を外貨に交換する)際に用いるレートであり、例えば、海外への送金や外貨預金の入金などに適用されます。

 TTBとは、Telegraphic Transfer Buyingの略であり、電信買相場を意味します。「買」というのは銀行側の視点であり、銀行が顧客から外貨を買う際に用いるレートです。
 企業側の視点からは、外貨を売る(外貨を円に交換する)際に用いるレートであり、例えば、海外からの入金や外貨預金の出金などに適用されます。

 TTMとは、Telegraphic Transfer Middleの略であり、TTSとTTBの仲値を意味します。
 会計上や税務上で一般的に用いられる為替レートはTTMです。

為替レート 企業側の視点
TTS 円を外貨に交換する(円→外貨)
TTB 外貨を円に交換する(外貨→円)
TTM TTSとTTBの仲値((TTS+TTB)÷2)

2.外貨建取引の換算レート

 法人税法上、外貨建取引を行った場合の円換算は、その外貨建取引を行ったとき(取引日)の為替レートにより換算し、為替レートはTTMを用いることとされています(法人税基本通達13の2-1-2)。

 ただし、継続適用を条件として、売上その他の収益または資産についてはTTB仕入その他の費用または負債についてはTTSを用いることもできます。

換算方法 換算レート
原則 TTM
例外 収益または資産:TTB
費用または負債:TTS

 また、同じく継続適用を条件として、取引日の為替レート以外に以下の為替レートによる換算も可能です。

(1) 取引日の属する月若しくは週の前月若しくは前週の末日又は当月若しくは当週の初日のTTB若しくはTTS又はこれらの日におけるTTM
(2) 取引日の属する月の前月又は前週の平均相場のように1月以内の一定期間におけるTTM、TTB又はTTSの平均値

換算方法 換算レート
原則 取引日の為替レート
例外 前月や前週の末日または当月や当週の初日の為替レート(一定時点の為替レート)
前月や前週の平均相場(一定期間の為替レートの平均値)

 上記のように、一定時点の為替レートや一定期間の為替レートの平均値による換算も認められているため、外貨建取引の多い会社では、実務的には例外的な方法により換算することも考えられます。

 ただし、1か月を超える期間(例えば四半期や半年など)、為替レートを固定することはできませんので注意しなければなりません。

3.会計処理(為替差損益の認識)

 以下の簡単な例によって、外貨建取引の会計処理を確認します。

(1) 取引発生時
 海外企業へ商品1,000ドルを売上げ、代金は掛けとした(当日の為替レート(TTM)は100円/ドル)。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
売掛金 100,000 売上 100,000

(2) 代金決済時
 上記取引における売掛金代金が普通預金に入金された(当日の為替レート(TTM)は120円/ドル)。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
普通預金 120,000 売掛金 100,000
    為替差益 20,000

 外貨建取引の売上金額や仕入金額の円換算は、原則として売上げや仕入れとして計上する日のTTMによることとされています。
 そのため、これらの売上金額が入金された場合や、仕入金額を支払った場合には、売上げや仕入れに計上した日と実際に円貨で決済した日との為替レートの差により、いわゆる為替差損益が発生します。

 なお、外貨建取引に伴う消費税の取扱いについては、上記(1)の商品を課税商品とすると貸方・売上は「輸出免税(0%課税)」となり、上記(2)の貸方・為替差益は「不課税(対象外)」となります。

他の者の青色事業専従者を配偶者控除・扶養控除の対象とできるか?

 青色申告者の事業専従者として給与の支払を受ける人または白色申告者の事業専従者である人は、控除対象配偶者や扶養親族にはなれません。

 例えば、青色申告者である夫が、その夫の事業に従事している同一生計の妻に給与を支払っている場合、たとえ給与の支払総額が年間で103万円以内であったとしても、夫は妻を控除対象配偶者とすることができません(夫は配偶者控除を受けることができません)。

 これはよく知られた一般的な例ですが、事業専従者と配偶者控除・扶養控除との関係については、その判断に迷うケースもあります。
 例えば、以下のようなケースです。

※ 2025(令和7)年度税制改正で、配偶者控除や扶養控除の所得要件が合計所得金額58万円以下(給与収入以外に所得が無い場合は給与収入123万円以下)に変わりました。
 2025(令和7)年度税制改正の内容については、「
基礎控除・給与所得控除の引き上げと源泉徴収事務・年収の壁への影響(令和7年度税制改正)」、「扶養親族等の所得要件・住宅借入金等特別控除・生命保険料控除の見直し(令和7年度税制改正)」、「令和7年度税制改正で年収の壁はこのように変わった!」をご参照ください。

1.他の者の青色事業専従者である場合

 サラリーマンであるAさんの妻Bさんは、AさんBさんと生計を一にする父Cさんの青色事業専従者として月額8万円(年間96万円)の給与の支給を受けています。
 この場合、AさんはBさんを控除対象配偶者とすることができるでしょうか(Aさんは配偶者控除を受けることができるでしょうか)?

 答えは「否」です。AさんはBさんを控除対象配偶者とすることができません。

 このケースでは、BさんはAさんの事業に従事しているのではなく、Cさんの事業に従事して青色事業専従者給与の支給を受けています。
 したがって、CさんがBさんを扶養控除の対象にすることができないことに疑問の余地はありません。

 一方、Aさんにとっては、Bさんは自分の青色事業専従者ではないため、Bさんを配偶者控除の対象にできそうにも思えます。
 しかし、AさんはBさんを控除対象配偶者とすることができません。

 理由は次のとおりです。

2.誰の青色事業専従者であるかは問わない

 まず、配偶者控除の適用要件を確認すると、控除対象配偶者となるのは、その年の12月31日の現況で、次の4つの要件のすべてに当てはまる人です。

(1) 民法の規定による配偶者であること(内縁関係の人は該当しません)
(2) 納税者と生計を一にしていること
(3) 年間の合計所得金額が48万円以下であること(2025令和7)年度税制改正後は58万円以下
(4) 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないことまたは白色申告者の事業専従者でないこと

 上記要件のうち(2)~(4)は同一生計配偶者の要件ですが、(4)に注目すると、BさんはAさんの事業専従者として給与の支払を受けていませんので、要件をクリアしているように見えます。

 しかし、同一生計配偶者について条文にかえって確認すると、所得税法第2条第1項第33号に次のように定義されています。

三十三 同一生計配偶者 居住者の配偶者でその居住者と生計を一にするもの(第57条第1項(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)に規定する青色事業専従者に該当するもので同項に規定する給与の支払を受けるもの及び同条第3項に規定する事業専従者に該当するもの(第33号の4において「青色事業専従者等」という。)を除く。)のうち、合計所得金額が48万円以下である者をいう。

 所得税法第2条第1項第33号の「同一生計配偶者」の定義では、同法第57条第1項(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)に規定する青色事業専従者に該当するものを除くとされているのみであって、その居住者の専従者であるとする規定ぶりではないことがわかります。

 つまり、BさんがAさんの専従者であるかどうかは関係なく、Bさんが青色事業専従者に該当するならば同一生計配偶者から除かれるということです。

 したがって、いったん生計を一にする他の者(Cさん)の事業専従者となった者(Bさん)については、その年においてAさんの控除対象配偶者とすることはできません。

 

賃上げ促進税制における1月未満の端数の取扱い

 賃上げ促進税制は、青色申告書を提出している中小企業者等が、前年度より給与等の支給額を一定の要件を満たした上で増加させた場合、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度です(関連記事:「中小企業者等の賃上げ促進税制《令和4年4月1日~令和6年3月31日開始事業年度》」)。

 従来の所得拡大促進税制よりも適用要件が簡素化されたとはいえ、判断に迷うケースもあります。
 例えば、決算期の変更や前事業年度が設立初年度である場合など、前事業年度と適用事業年度で月数が異なるケースです。

 今回は、前事業年度の月数と適用事業年度の月数が異なる場合の調整計算について確認します。

1.前事業年度の月数と適用事業年度の月数が異なる場合

 前述したように、決算期の変更や前事業年度が設立初年度である場合など、前事業年度と適用事業年度で月数が異なる場合は、「雇用者給与等支給額・比較雇用者給与等支給額」や「教育訓練費の額・比較教育訓練費の額」について調整の必要があります。

 この調整は、比較雇用者給与等支給額や比較教育訓練費の額において行います。具体的な計算方法は以下のとおりです(比較雇用者給与等支給額の調整のみ確認します)。

(1) 前事業年度の月数が適用事業年度の月数に満たない場合(前事業年度が6月以上の場合)

 次のとおり、前事業年度の雇用者給与等支給額を、適用事業年度の月数分に合わせて増加させる形で調整します。

比較雇用者給与等支給額= 前事業年度の雇用者給与等支給額×適用事業年度の月数÷前事業年度の月数

 例えば、前事業年度 が令和4年10月~令和5年3月(6か月決算)で、適用事業年度が令和5年4月~令和6年3月(12か月決算)の場合は、比較雇用者給与等支給額=前事業年度の雇用者給与等支給額×12÷6となります。 

(2) 前事業年度の月数が適用事業年度の月数に満たない場合(前事業年度が6月に満たない場合)

 次のとおり、適用事業年度の開始の日の前日から過去1年(適用事業年度が1年に満たない場合には適用事業年度の期間)以内に終了した各事業年度に係る雇用者給与等支給額の合計額を、適用事業年度の月数分に合わせて減少させる形で調整します。

比較雇用者給与等支給額= 適用事業年度の開始の日の前日から過去1年(適用事業年度が1年に満たない場合には適用事業年度の期間)以内に終了した各事業年度に係る雇用者給与等支給額の合計額×適用事業年度の月数÷適用事業年度の開始の日の前日から過去1年(適用事業年度が1年に満たない場合には適用事業年度の期間)以内に終了した各事業年度の月数の合計

 例えば、前々事業年度が令和4年1月~令和4年12月(12か月決算)で、前事業年度が令和5年1月~令和5年3月(3か月決算)、 適用事業年度が令和5年4月~令和6年3月(12か月決算)の場合は、比較雇用者給与等支給額=(前々事業年度+前事業年度の雇用者給与等支給額)×12÷(12+3)となります。

(3) 前事業年度の月数が適用事業年度の月数を超える場合

 次のとおり、前事業年度の雇用者給与等支給額を、適用事業年度の月数分に合わせて減少させる形で調整します。

比較雇用者給与等支給額= 前事業年度の雇用者給与等支給額 ×適用事業年度の月数÷前事業年度の月数

 例えば、前事業年度が令和4年4月~令和5年3月(12か月決算)で、適用事業年度が令和5年4月~令和5年9月(6か月決算)の場合は、比較雇用者給与等支給額=前事業年度の雇用者給与等支給額×6÷12となります。 

2.事業年度に1月未満の端数が生じる場合

 前事業年度と適用事業年度で月数が異なる場合の比較雇用者給与等支給額の調整計算は、上記1のとおりですが、いずれのケースも事業年度に1月未満の端数が生じていないことを前提としています。

 事業年度が令和5年10月1日~令和6年3月31日のような場合は、事業年度の月数を6か月とすることに疑問の余地はありません。
 では、事業年度が令和5年10月11日~令和6年3月31日のような場合は、事業年度の月数は5か月となるのでしょうか?それとも6か月となるのでしょうか?

 結論を先に述べると、答えは6か月となります。

 事業年度が令和5年10月11日~令和6年3月31日の場合の期間は5か月と21日ですが、10月に生じたこの21日という1月未満の端数については、賃上げ促進税制では1月とカウントします。

 根拠は、次の租税特別措置法施行令第27条の12の5(給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)第22項にあります。

22 第7項、第9項、第12項から第15項まで及び第18項から前項までの月数は、暦に従つて計算し、1月に満たない端数を生じたときは、これを1月とする。

 上記のとおり、賃上げ促進税制においては、1月未満の端数が生じたときは、これを1月とします。

2以上の事業を兼営している場合の貸倒引当金の法定繰入率

 貸倒引当金の繰入限度額は、個別評価金銭債権と一括評価金銭債権とに区分して計算します。

 このうち、一括評価金銭債権については、原則として「貸倒実績率」を用いて貸倒引当金の繰入限度額を計算しますが、中小法人等は貸倒実績率に代えて「法定繰入率」を用いて計算することもできます。

 この法定繰入率は、1つの法人に対して1つの繰入率が適用されますので、1つの法人が2以上の事業を兼営している場合に、どの法定繰入率を適用するかが問題となります。
 以下では、2以上の事業を兼営している場合の貸倒引当金の法定繰入率について確認します。

1.法定繰入率

 法定繰入率は、下表のように事業区分によって決められています。

事業区分 法定繰入率
卸売及び小売業(飲食店業及び料理店業を含み、割賦販売小売業を除く) 10/1000
製造業(電気業等を含む) 8/1000
金融及び保険業 3/1000
割賦販売小売業等 13/1000
上記事業以外の事業 6/1000

 法人の営む事業が、上表におけるどの事業に該当するかは、日本標準産業分類(総務省)の分類を基準として判定します。

2.主たる事業の判定基準

 法人が2以上の事業を兼営している場合に、どの事業に該当するか(どの法定繰入率を適用するか)については、措置法通達57の9-4に次のように定められています(下線は筆者による)。

57の9-4 法人が措置法令第33条の7第4項に掲げる事業の2以上を兼営している場合における貸倒引当金勘定への繰入限度額は、主たる事業について定められている割合により計算し、それぞれの事業ごとに区分して計算するのではないことに留意する。この場合において、いずれの事業が主たる事業であるかは、それぞれの事業に属する収入金額又は所得金額の状況、使用人の数等事業の規模を表す事実、経常的な金銭債権の多寡等を総合的に勘案して判定する。

 つまり、2以上の事業を兼営している場合は主たる事業の法定繰入率を用いて計算し、どの事業が主たる事業であるかについては、以下の(1)~(3)の項目等を総合的に勘案して判定することになります。

(1) 各事業に属する収入金額又は所得金額の状況
(2) 使用人の数等事業の規模を表す事実
(3) 経常的な金銭債権の多寡

 なお、自己の計算において原材料等を購入し、これをあらかじめ指示した条件に従って下請加工させて完成品として販売するいわゆる製造問屋の事業(製造と販売を兼営)は、措置法通達57の9-5において製造業に該当するとされています。

 また、措置法通達57の9-4(注)において、法人が2以上の事業を兼営している場合に、当該2以上の事業のうち一の事業を主たる事業として判定したときは、その判定の基礎となった事実に著しい変動がない限り、継続して当該一の事業を主たる事業とすることができるとされています。

定額減税の年調減税事務の流れ

 2024(令和6)年分所得税については定額減税が実施されていますので、年末調整の際には、例年の年末調整と異なり年調減税事務を行う必要があります。

 年調減税事務では、年末調整の際、年末調整時点の定額減税額(以下「年調減税額」といいます)に基づき、年間の所得税額との精算を⾏います。

 今回は、定額減税の年調減税事務の流れ(手順)について確認します。

1.年調減税事務の対象となる人

 令和6年の年末調整において年調減税事務の対象となる人は、原則として、年末調整の対象となる人です。

 具体的には、前年以前から引き続き勤務している人や年の中途で就職し年末まで勤務している人(青色事業専従者を含みます)で、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書※1」を年末調整を行う日までに提出している人です(給与の収入金額が2,000万円を超える人を除きます)。

 この年末調整の対象となる⼈が、原則として、年調所得税額から年調減税額を控除する対象者(年調減税事務の対象者)となります※2

 ただし、年末調整の対象となる⼈のうち、給与所得以外の所得を含めた合計所得⾦額が1,805万円を超えると⾒込まれる⼈については、年調減税額を控除しないで年末調整を⾏うことになります※3

※1 扶養控除等(異動)申告書については、本ブログ記事「令和6年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の書き方と記載例」をご参照ください。

※2 年調所得税額とは、年末調整により算出された所得税額で、住宅借入⾦等特別控除の適用を受ける場合には、その控除後の⾦額をいいます。つまり、例年通りの計算方法で年調所得税額を算出します。

※3 年末調整において合計所得⾦額が1,805万円を超えるかどうかは、基礎控除申告書により把握した合計所得⾦額を用います。

2.年調減税額の計算

 年調減税額は、「本人30,000円」と「同一生計配偶者と扶養親族1人につき30,000円」との合計額となります。

 年調減税額の計算に当たっては、「扶養控除等(異動)申告書」や「配偶者控除等申告書」などから、年末調整を行う時の現況における同一生計配偶者の有無及び扶養親族(同一生計配偶者及び扶養親族はいずれも居住者に限ります)の人数を確認することになります※4

 なお、同一生計配偶者(居住者に限ります)を年調減税額の計算に含めるためには、従業員本人が「配偶者控除等申告書兼年末調整に係る定額減税のための申告書」にその配偶者を記載して提出する必要があります※5

※4 定額減税における「同一生計配偶者」と「扶養親族」の内容については、本ブログ記事「定額減税と年末調整で異なる『同一生計配偶者』『扶養親族』の範囲に注意!」をご参照ください。

※5 基礎控除申告書および配偶者控除等申告書に、本人(配偶者)定額減税対象のチェック欄が追加されました。所得金額などから、年調減税額の対象となる場合はチェックを付けます。
 また、年末調整に係る定額減税のための申告書が追加されました。従業員本人の令和6年中の合計所得金額の見積額が1,000万円超で、かつ居住者である同一生計配偶者(令和6年中の合計所得金額の見積額が48万円以下)を年調減税額の計算対象とする場合は、こちらに記載します。

3.年調年税額の計算(年調減税額の控除)

 年調減税額の控除は、住宅借入金等特別控除後の所得税額(年調所得税額)から、その住宅借入金等特別控除後の所得税額を限度に行います。年調年税額の計算手順は次のとおりです。

(1) 年調所得税額の計算
 例年通りの計算方法で、年調所得税額を算出します。

(2) 年調減税額の控除
 年調所得税額から年調減税額を控除します。この金額(下図の「定額減税額控除後の所得金額」)に102.1%(復興特別所得税)を乗じて年調年税額を算出し、過不足額の精算を行います。

出所:国税庁ホームページ

4.源泉徴収簿の作成

 上記2で求めた「年調減税額」、上記3で求めた「年調所得税額から年調減税額を控除した金額」、「年調減税額のうち控除しきれなかった金額(控除外額)」がある場合はその額(無い場合は0円)を、それぞれ源泉徴収簿の余白に記載します。

出所:国税庁ホームページ

 上の例において、「年調所得税額㉔163,600円」を算出するところまでは例年通りです。例年と変わるのは、「年調年税額㉕44,500円」の記入方法です。

 まず、源泉徴収簿の余白に「㉔-2 120,000円」(年調減税額)を記入します。

 次に、源泉徴収簿の余白に「年調所得税額㉔163,600円」から「㉔-2 120,000円」(年調減税額)を控除し、その控除後の残額を「㉔-3 43,600円」と記入します。
 このとき、年調減税額のうち控除しきれなかった⾦額はありませんので、余白に「㉔-4 0円」(控除外額)と記入します。
 年調減税額のうち控除しきれなかった⾦額があるときは、余白に「㉔-3 0円」と記入し、「㉔-4 〇〇〇円」(控除外額)と記入します。

 最後に、「㉔-3 43,600円」(年調減税額控除後の年調所得税額)に102.1%を乗じて復興特別所得税を含む年調年税額44,500円を算出し(100円未満切り捨て)、「年調年税額㉕」欄に記入します。

 この後の手順は例年通りです。「年調年税額㉕44,500円」と「税額⑧204,810円」とを比べて過不⾜額160,310円を「差引超過額⼜は不⾜額㉖」欄に記入し、通常の年末調整と同様にその過不⾜額の精算(160,310円の還付)を⾏います。

5.源泉徴収票の記載例

(1) 年末調整を行った一般的な場合

 年末調整終了後に作成する「令和6年分給与所得の源泉徴収票」には、その「(摘要)」欄に、実際に控除した年調減税額を「源泉徴収時所得税減税控除済額120,000円」と記載します。
 また、年調減税額のうち年調所得税額から控除しきれなかった⾦額がない場合は「控除外額0円」と記載します。
 控除しきれなかった⾦額がある場合は、「控除外額〇〇〇円」と記載します。

出所:国税庁ホームページ

(2) 非控除対象配偶者分の定額減税を受けた場合

 合計所得⾦額が1,000万円超である居住者の同一生計配偶者(以下「非控除対象配偶者」といいます)分を年調減税額の計算に含めた場合には、上記(1)に加えて「非控除対象配偶者減税有」と「(摘要)」欄に記載します。

出所:国税庁ホームページ

(3) 非控除対象配偶者が障害者に該当する場合

 非控除対象配偶者を有する人で、その同一生計配偶者が障害者、特別障害者⼜は同居特別障害者に該当する場合は、「(摘要)」欄に同一生計配偶者の氏名及び同一生計配偶者である旨を記載することとされていますが、この場合に当該非控除対象配偶者分を年調減税額の計算に含めた場合には、「減税有」の追記で差し⽀えありません。

出所:国税庁ホームページ

(4) 年末調整を行っていない場合

 年末調整を⾏わずに退職した人や、令和6年分の給与の収入⾦額が2,000万円を超えるなどの理由により年末調整の対象とならなかった人については、その「令和6年分給与所得の源泉徴収票」の「(摘要)」欄には、定額減税の情報を記載する必要はありません※6
 なお、「源泉徴収税額」欄には、控除前税額から月次減税額を控除した後の実際に源泉徴収した税額の合計額を記載することになります。

※6 関連記事:「令和6年6月1日以後に退職した人の定額減税(年調未済の場合)

交際費等から除かれる「1人当たり10,000円以下の飲食費」について

 2024(令和6)年度税制改正で、交際費等の範囲から除かれる一定の飲食費に係る金額基準が「1人当たり10,000円以下(改正前:5,000円以下)」に引き上げられました。
 以下では、この1人当たり10,000円以下の飲食費について確認します。

1.交際費等とは?

 交際費等とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者などに対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為(以下「接待等」といいます)のために支出するものをいいます。

 これらの交際費等は、会計上はその事業年度の費用として処理されますが、法人税の所得計算上は一定限度額までしか損金に算入されません。

 2024(令和6)年4月1日以後開始事業年度の交際費等の損金算入額は、下表のとおりです(表中における「接待飲食費」とは、飲食その他これに類する行為のために要する費用で、専らその法人の役員もしくは従業員またはこれらの親族に対する接待等のために支出するもの(社内飲食費)を除きます)。

企業規模 損金算入額
期末の資本金又は出資金の額が1億円以下の法人
※ 資本金又は出資金の額が5億円以上の会社の100%子会社等は、1億円超の法人と同じ取扱いとなります。
次のいずれかを選択できます。
(A)交際費等のうち、接待飲食費50%相当額以下の金額
(B)交際費等の金額の年800万円(定額控除限度額)以下の金額
期末の資本金又は出資金の額が1億円超の法人 交際費等のうち、接待飲食費50%相当額以下の金額
期末の資本金又は出資金の額が100億円超の法人 なし

2.交際費等の範囲から除かれるもの

 上記1のように、交際費等の損金算入には一定の制限がかかりますが、次に掲げる費用は交際費等から除かれます。つまり、損金算入の制限はありません。

(1) 専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用
(2) カレンダー、手帳、扇子、うちわ、手ぬぐいその他これらに類する物品を贈与するために通常要する費用
(3) 会議に関連して、茶菓、弁当その他これらに類する飲食物を供与するために通常要する費用
(4) 新聞、雑誌等の出版物または放送番組を編集するために行われる座談会その他記事の収集のために、または放送のための取材に通常要する費用
(5) 1人当たり10,000円以下の飲食費

 上記(5)の金額基準が、2024(令和6)年度税制改正において、1人当たり5,000円以下から10,000円以下に引き上げられました。

3.1人当たり10,000円以下の飲食費とは?

 1人当たり10,000円以下の飲食費とは、飲食その他これに類する行為のために要する費用で、その支出する金額を飲食等に参加した者の数で割って計算した金額が10,000円以下である費用をいいます。

 ただし、専らその法人の役員もしくは従業員またはこれらの親族に対する接待等のために支出するもの(社内飲食費)を除きます。

 また、この規定は次の事項を記載した書類を保存している場合に限り適用されます。

(1) 飲食等のあった年月日
(2) 飲食等に参加した得意先、仕入先その他事業に関係のある者等の氏名または名称およびその関係
(3) 飲食等に参加した者の数
(4) その飲食等に要した費用の額、飲食店等の名称および所在地(店舗がない等の理由で名称または所在地が明らかでないときは、領収書等に記載された支払先の氏名または名称、住所等)
(5) その他参考となるべき事項(その他飲食等に要した費用であることを明らかにするために必要な事項)

 なお、1人当たり10,000円以下の飲食費の判定や交際費等の額の計算は、法人の適用している消費税等の経理処理(税抜経理方式または税込経理方式)により算定した価額により行います。

4.飲食費に該当するもの・しないもの

 上記3の飲食費については、租税特別措置法に「飲食その他これに類する行為のために要する費用(社内飲食費を除きます。)」と規定されています。
 したがって、次のような費用については、社内飲食費に該当するものを除き、飲食費に該当します。

(1) 自己の従業員等が得意先等を接待して飲食するための「飲食代」
(2) 飲食等のために支払うテーブルチャージ料やサービス料等
(3) 飲食等のために支払う会場費
(4) 得意先等の業務の遂行や行事の開催に際して、弁当の差入れを行うための「弁当代」(得意先等において差入れ後相応の時間内に飲食されるようなもの)
(5) 飲食店等での飲食後、その飲食店等で提供されている飲食物の持ち帰りに要する「お土産代」

 一方、次の費用は飲食費に該当しません。

(1) ゴルフや観劇、旅行等の催事に際しての飲食等に要する費用
(2) 接待等を行う飲食店等へ得意先等を送迎するために支出する送迎費
(3) 飲食物の詰め合わせを贈答するために要する費用

※ 飲食等が催事とは別に単独で行われていると認められる場合、例えば、企画した旅行の行程の全てが終了して解散した後に一部の取引先の者を誘って飲食等を行った場合などは、飲食費に該当します。

5.保存書類への参加者の氏名等の具体的な記載方法

 上記3(2)で見たように、1人当たり10,000円以下の飲食費の規定の適用要件として、「飲食費に係る飲食等に参加した得意先、仕入先その他事業に関係のある者等の氏名又は名称及びその関係」を記載した書類を保存しなければなりません。

 これは、社内飲食費でないことを明らかにするためのものであり、飲食等を行った相手方である社外の得意先等に関する事項を「○○会社・□□部、△△◇◇(氏名)、卸売先」というように、原則として、相手方の氏名や名称の全てを記載する必要があります。

 ただし、相手方の氏名について、その一部が不明の場合や多数参加したような場合には、その参加者が真正である限りにおいて、「○○会社・□□部、△△◇◇(氏名)部長他10名、卸売先」という記載であっても差し支えないものとされています(氏名の一部又は全部が相当の理由があることにより明らかでないときには、記載を省略しても差し支えありません)。

 また、その保存書類の様式は法定されているものではありませんので、記載事項を欠くものでなければ、適宜の様式で作成して差し支えありません。

 なお、一の飲食等の行為を分割して記載すること、相手方を偽って記載すること、参加者の人数を水増しして記載すること等は、事実の隠ぺい又は仮装に当たりますのでご注意ください。

家屋と一体の建築設備は家屋と償却資産のどちらに該当するか?

 家屋(建物)には、家屋と一体となって家屋の効用を高める設備(電気設備、給排水設備、衛生設備、空調設備、消火設備、運搬設備等の建築設備)が取り付けられていますが、固定資産税においては、これらを家屋と償却資産に区分して評価します。

 家屋として評価するものには固定資産税が課され、償却資産として評価するものについては償却資産税が課されますので、家屋と償却資産の区分は重要です。

 しかし、家屋と一体となっているが故に、その区分が判然としないケースもあります。区分のポイントは、家屋と設備の所有者が同じであるか否かという点です。
 この観点から、建築設備における家屋と償却資産の区分について確認します。

1.家屋と設備の所有者が同じ場合

 家屋と一体となって家屋の効用を高める建築設備のうち、取り外しが容易で別の場所に自在に移動のできるもの、屋外に設置された配線又は配管、特定の生産又は業務の用に供されるもの等については、償却資産として取り扱います。

 家屋と建築設備の所有者が同じである場合の家屋と償却資産の区分について、代表的なものを以下に例示します。

建築設備の種類 設備の分類 設備の内容 家屋 償却資産
建築工事 内装・造作等 床・壁・天井仕上、造作・建具、外壁の仕上げ等
店舗造作等工事一式
 
電気設備 受変電設備 設備一式(配線・配管を含む)  
予備電源設備 発電機設備、蓄電池設備、無停電電源設備等(配線・配管を含む)  
中央監視設備 設備一式(配線・配管を含む)  
動力照明設備 屋外設備一式、特定の生産又は業務用設備(ネオンサイン、投光器、スポットライト等)  
屋内設備一式、分電盤  
電力引込設備 引込工事  
動力配線設備 特定の生産又は業務用設備(工場等機械の動力源である動力配線)  
上記以外の設備  
電話設備 電話機、交換機等の機器  
配管・配線、端子盤等  
LAN設備 設備一式  
放送・拡声設備 マイク、スピーカー、アンプ等の機器  
配管・配線等  
監視カメラ
( ITV)設備
受像機(テレビ)、カメラ、録画装置等の機器  
配管・配線等  
給排水衛生設備 給排水設備 屋外設備、引込工事、特定の生産又は業務用設備  
配管、高架水槽、受水槽、ポンプ等  
給湯設備 局所式給湯設備(電気温水器・湯沸器用)  
局所式給湯設備(ユニットバス用、床暖房用等)、
中央式給湯設備
 
ガス設備 屋外設備、引込工事、特定の生産又は業務用設備  
屋内の配管、バルブ、排気筒等  
衛生設備 設備一式(洗面器、大小便器等)  
消火設備 消火器、避難器具、ホース及びノズル、ガスボンベ等  
消火栓設備、スプリンクラー設備等  
空調設備 空調設備 壁掛型ルームエアコン、特定の生産又は業務用設備  
上記以外の設備  
換気設備 特定の生産又は業務用設備  
上記以外の設備  
その他の設備等 運搬設備 工場用ベルトコンベア、垂直搬送機  
エレベーター、エスカレーター、小荷物専用昇降機  
厨房設備 顧客の求めに応じるサービス設備(飲食店・ホテル・百貨店等)、寮・病院・社員食堂等の厨房設備  
上記以外の設備  
その他の設備 冷凍・冷蔵倉庫における冷却装置、ろ過装置、POSシステム、広告塔、文字看板、袖看板、簡易間仕切(衝立)、機械式駐車設備(ターンテーブルを含む)、駐輪設備、ゴミ処理設備、メールボックス、カーテン・ブラインド等  
外構工事 外構工事 工事一式(門・塀・フェンス・植栽等)  

2.家屋と設備の所有者が異なる場合

 賃貸ビル等を借り受けて事業をしている賃借人(テナント)が、自己の費用により附加施工又は譲渡等によって取得した建築設備で事業の用に供することができるものについては、賃借人(テナント)がその建築設備を償却資産として申告することとなります。

 この場合(家屋と建築設備の所有者が異なる場合)上記1の表において「家屋」と区分されているものについても、償却資産として申告しなければなりません。

 具体的には、次のとおりです(は上記1の表において家屋と区分されているものです)。

建築設備の種類 設備の分類 設備の内容 家屋 償却資産
建築工事 内装・造作等 床・壁・天井仕上、造作・建具、外壁の仕上げ等
店舗造作等工事一式
 
電気設備 受変電設備 設備一式(配線・配管を含む)  
予備電源設備 発電機設備、蓄電池設備、無停電電源設備等(配線・配管を含む)  
中央監視設備 設備一式(配線・配管を含む)  
動力照明設備 屋外設備一式、特定の生産又は業務用設備(ネオンサイン、投光器、スポットライト等)  
屋内設備一式、分電盤  
電力引込設備 引込工事  
動力配線設備 特定の生産又は業務用設備(工場等機械の動力源である動力配線)  
上記以外の設備  
電話設備 電話機、交換機等の機器  
配管・配線、端子盤等  
LAN設備 設備一式  
放送・拡声設備 マイク、スピーカー、アンプ等の機器  
配管・配線等  
監視カメラ
( ITV)設備
受像機(テレビ)、カメラ、録画装置等の機器  
配管・配線等  
給排水衛生設備 給排水設備 屋外設備、引込工事、特定の生産又は業務用設備  
配管、高架水槽、受水槽、ポンプ等  
給湯設備 局所式給湯設備(電気温水器・湯沸器用)  
局所式給湯設備(ユニットバス用、床暖房用等)、
中央式給湯設備
 
ガス設備 屋外設備、引込工事、特定の生産又は業務用設備  
屋内の配管、バルブ、排気筒等  
衛生設備 設備一式(洗面器、大小便器等)  
消火設備 消火器、避難器具、ホース及びノズル、ガスボンベ等  
消火栓設備、スプリンクラー設備等  
空調設備 空調設備 壁掛型ルームエアコン、特定の生産又は業務用設備  
上記以外の設備  
換気設備 特定の生産又は業務用設備  
上記以外の設備  
その他の設備等 運搬設備 工場用ベルトコンベア、垂直搬送機  
エレベーター、エスカレーター、小荷物専用昇降機  
厨房設備 顧客の求めに応じるサービス設備(飲食店・ホテル・百貨店等)、寮・病院・社員食堂等の厨房設備  
上記以外の設備  
その他の設備 冷凍・冷蔵倉庫における冷却装置、ろ過装置、POSシステム、広告塔、文字看板、袖看板、簡易間仕切(衝立)、機械式駐車設備(ターンテーブルを含む)、駐輪設備、ゴミ処理設備、メールボックス、カーテン・ブラインド等  
外構工事 外構工事 工事一式(門・塀・フェンス・植栽等)  

償却資産税の申告対象となる資産とは?

 償却資産に対する固定資産税を償却資産税といいます。
 償却資産とは、土地及び家屋以外の事業の用に供することができる資産で、所得税法又は法人税法の所得の計算上減価償却の対象となる資産です。

 毎年1月1日現在において償却資産を所有している法人や個人事業者は、1月31日までにその償却資産を市役所等に申告しなければなりません。

 しかし、実際に申告書を作成する際には、どの資産が申告対象であるのか判断に迷うケースもありますので、以下では償却資産税の申告対象となる資産について、基本的事項の確認をします。

1.申告対象となる資産

 申告対象となる資産は、毎年1月1日現在において事業の用に供することができる資産です。
 なお、次に掲げる資産も申告が必要ですのでご注意ください。

(1)建設仮勘定で経理されている資産
(2)簿外資産(帳簿に記載されていない資産)
(3)償却済資産(減価償却を終わって帳簿上残存価額のみ計上されている資産)
(4)遊休資産(稼働を休止しているが利用可能な資産)
(5)未稼働資産(既に完成または据付済であるが未だ稼働していない資産)
(6)大型特殊自動車(陸運局への登録の有無にかかわらず償却資産に該当)
(7)賃貸ビル等を借り受けて事業をしている者が、自己の費用で付加施工した内部造作等及び譲渡等によって取得した内部造作等で、事業の用に供することができる資産
(8)美術品等のうち取得価額が1点100万円未満であるもの
(9)使用可能期間が1年未満又は取得価額が20万円未満の償却資産であっても個別に減価償却しているもの
(10)租税特別措置法の規定を適用し、即時償却等をしているもの(中小企業者等の少額資産(取得価額30万円未満)の損金算入の特例適用資産

※ 下記3をご参照ください。

2.申告対象とならない資産

 次の(1)~(9)に該当する資産は、償却資産税の課税対象にならないので申告の必要はありません。

(1)使用可能期間が1年未満又は取得価額が10万円未満の償却資産で、税務会計上一時に損金算入または必要経費に算入しているもの(固定資産として計上しないもの)
(2)取得価額が20万円未満の償却資産で、税務会計上3年間で一括償却しているもの
(3)無形減価償却資産(ソフトウェア、営業権、特許権等)
(4)繰延資産(創立費、開業費等)
(5)自動車税又は軽自動車税の課税対象となる自動車等
(6)平成20年4月1日以降に締結されたリース契約のうち、法人税法第64条の2第1項又は所得税法第67条の2第1項に規定するリース資産(所有権移転外リース及び所有権移転リース)で、取得価額20万円未満のもの
(7)生物(ただし、観賞用・興行用のものは申告対象)、立木、果樹
(8)美術品等のうち取得価額が1点100万円以上であるもの
(9)1月2日以降に取得し、翌年1月1日までの間に減少した資産

※ 下記3をご参照ください。

3.少額の減価償却資産の取扱い

 地方税法第341条第4号及び地方税法施行令第49条の規定により、下記(1)~(3)の資産については、償却資産税の申告対象から除かれます。

(1)取得価額10万円未満の資産のうち一時に損金算入したもの
(2)取得価額20万円未満の資産のうち3年間で一括償却したもの
(3)平成20年4月1日以降に締結されたリース契約のうち、法人税法第64条の2第1項又は所得税法第67条の2第1項に規定するリース資産で、取得価額20万円未満のもの

 一方、中小企業者等の少額資産(取得価額30万円未満)の損金算入の特例適用資産は、償却資産税の申告対象となっています。

 少額の減価償却資産の償却資産税における取扱いをまとめると、次のようになります。

区分 償却資産税の申告
少額の減価償却資産の損金(必要経費)算入の対象となる減価償却資産(使用可能期間1年未満又は取得価額10万円未満) 申告対象外
一括償却資産の損金(必要経費)算入の対象となる減価償却資産(取得価額20万円未満) 申告対象外
リース資産でそのリース資産の所有者が取得した際における取得価額が20万円未満のもの 申告対象外
中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金(必要経費)算入の対象となる減価償却資産(取得価額30万円未満) 申告対象
取得価額10万円未満又は20万円未満でも個別償却を選択したもの 申告対象

4.まとめ

 上記1~3について、償却方法と取得価額により申告対象をまとめると、次のようになります。

  10万円未満 10万円以上20万円未満 20万円以上30万円未満 30万円以上
一時損金算入 申告対象外      
3年一括償却 申告対象外 申告対象外    
リース資産 申告対象外 申告対象外 申告対象 申告対象
中小企業特例 申告対象外 申告対象 申告対象  
個別減価償却 申告対象 申告対象 申告対象 申告対象

資本的支出を行った資産を譲渡した場合の長期・短期の考え方

 譲渡所得の計算では、資産の所有期間が5年を超えれば長期譲渡、5年以下であれば短期譲渡となり、その取扱いを異にしていますので、長期と短期の区分は重要です。

 単独資産の場合は、その所有期間が5年を超えるか否かで長期・短期の区分を判定しますが、資産本体に資本的支出を行った場合は、本体と資本的支出のどちらの所有期間で判定するのか疑問が生じます。

 今回は、資本的支出を行った資産を譲渡した場合の長期と短期の区分の判定について、業務用資産と非業務用資産に分けて確認します。

※ 分離課税の場合は所有期間で、総合課税の場合は保有期間で長期・短期の区分の判定をします。詳細については、本ブログ記事「譲渡所得の短期と長期の判定基準」をご参照ください。

1.業務用資産の場合

 2007(平成19)年4月1日以後に資本的支出を行った場合には、その資本的支出の金額を取得価額とする減価償却資産を新たに取得したものとされますが、これは減価償却資産に関する取扱いです(関連記事:「資本的支出に少額減価償却資産の損金算入の特例は適用できるか?」)。

 他方、譲渡所得とは資産の譲渡による所得をいい、その資産の保有期間中の価値の増加益(キャピタル・ゲイン)について、資産が売買等によりその所有者の手を離れるのを機会に、その保有期間中の価値の増加益に相当する所得の実現があったものとして課税するものです。
 この場合の資産、すなわち譲渡所得の基因となる資産とは、一般にその経済的価値が認められて取引の対象となる資産をいうものと解されています。

 ところで、業務用資産に対して資本的支出を行い、その資本的支出の金額を取得価額とする新たな減価償却資産を取得したものとされたとしても、その資本的支出は、既存の減価償却資産につき改良、改造等のために行われた支出です。
 
 その資本的支出のみが減価償却資産本体と区分され、単独資産として取引の対象となるのであれば別ですが、通常は減価償却資産本体と一体となって取引の対象となる資産が形成されます。

 そうすると、資本的支出を行った資産の譲渡は資本的支出を含めた減価償却資産全体の譲渡となり、減価償却資産本体の所有期間により長期または短期の区分を判定するものと考えられます。

 したがって、例えば、所有期間5年超の業務用資産について、それを譲渡する3か月前に資本的支出を行ったとしても、業務用資産本体を長期譲渡、資本的支出を短期譲渡とはしません。
 原則として、業務用資産本体の所有期間5年超で判定しますので、資本的支出を含めたすべてが長期譲渡となります。

2.非業務用資産の場合

 上記1の業務用資産に行った資本的支出に対する長期と短期の区分の判定は、非業務用資産でも同様の取扱いと考えられます。

 したがって、自宅等の非業務用資産に対する資本的支出についても、原則として、その非業務用資産本体の所有期間により長期または短期の区分を判定するものと考えられます。