個人事業主が所得税・社会保険の扶養に入るための要件(令和7年度税制改正)

1.年収の壁

 扶養の範囲内で働きたいパートの方は、収入が一定額を超えないように労働調整をする場合があります。
 例えば、夫が配偶者控除38万円の適用を受けられるように、妻はパート先での収入を123万円以下に抑えようとします
 また、夫の社会保険の扶養の範囲内で働きたい場合は、妻はパート先での収入を130万円未満に抑えようとします(パート先の従業員が50人以下の場合)。
 この所得税と社会保険(健康保険・厚生年金)における年収の壁は、いずれも収入額が基準となっていますので、パートで働く給与所得者の場合はわかりやすいと言えます。

 一方、個人事業主として開業しても、事業が軌道に乗るまでは親や配偶者の扶養の範囲内で仕事をしたいという場合があります。
 ここで、個人事業主が扶養に入るための判定基準はどのように考えたらいいのか、という疑問が生じます。
 所得税と社会保険の年収の壁について、個人事業主も給与所得者と同じように収入(年商)で判定することができるのでしょうか、それとも収入から経費を差し引いた所得で判定するのでしょうか?
 結論を先に述べると、個人事業主の所得税と社会保険の年収の壁は、どちらも収入から経費を差し引いた「所得」で判定します。
 以下において、若干の注意点を踏まえながら確認します。

2025(令和7)年度税制改正で、夫が配偶者控除を受けるための妻の年収は、従前の103万円以下から123万円以下に変わりました。その他の年収の壁も変わっています詳細については、「令和7年度税制改正で年収の壁はこのように変わった!」をご参照ください。

2.所得税の扶養の判定は確定申告書の合計所得金額を見る

 所得税における扶養の範囲(扶養親族)は、所得者と生計を一にする親族(配偶者、青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者を除きます)で合計所得金額が58万円以下の人をいいます(2025(令和7)年度税制改正で、所得要件が合計所得金額58万円以下に変わりました)。
 給与所得だけの場合は、給与の年間収入が123万円以下であれば、合計所得金額が58万円以下になります

 個人事業主の場合は、先に述べたとおり収入から経費を差し引いた所得が58万円以下であれば、扶養に入ることができます。
 58万円以下であるかどうかを判定するにあたっては、次の点に注意が必要です。

(1) 事業所得の他に所得がある場合は、それらの合計額で58万円以下であるかどうかを判定します。
(2) 青色申告者の場合は、青色申告特別控除額を差し引いた後の所得で判定します。
(3) 社会保険料控除や基礎控除などの所得控除を差し引く前の金額で判定します。

 つまり、確定申告書第1表の合計所得金額(下図の黄色マーカーを付した⑫欄の数字)が58万円以下であるかどうかを判定します。

2025(令和7)年度税制改正では、基礎控除と給与所得控除が引き上げられたため、扶養親族等の所得要件も変わっています。
 したがって、給与所得だけの場合は、給与の年間収入が123万円以下であれば、合計所得金額が58万円以下になります(給与収入123万円-給与所得控除額65万円=給与所得58万円)。
 詳細については、「扶養親族等の所得要件・住宅借入金等特別控除・生命保険料控除の見直し(令和7年度税制改正)」をご参照ください。
 なお、合計所得金額については、「『合計所得金額』『総所得金額』『総所得金額等』の違いとは?」をご参照ください。

3.社会保険の扶養の判定(協会けんぽの場合)

 社会保険(健康保険・厚生年金)の被扶養者に該当する条件は、日本国内に住所(住民票)を有しており、被保険者(扶養する人)により主として生計を維持されていること、および「収入要件」と「同一世帯の条件」のいずれにも該当した場合です(同一世帯の条件の説明は省略します)。

【収入要件】
 年間収入130万円未満(60歳以上または障害者の場合は、年間収入180万円未満)かつ
 ・同居の場合は収入が被保険者(扶養する人)の収入の半分未満
 ・別居の場合は収入が被保険者(扶養する人)からの仕送り額未満

 上記の収入要件に関する注意点は、次のとおりです。

(1) 年間収入とは、過去の収入のことではなく、被扶養者に該当する時点および認定された日以降の年間の見込み収入額のことをいいます(給与所得等の収入がある場合は月額108,333円以下、雇用保険等の受給者の場合は日額3,611円以下であれば要件を満たします)。
 また、被扶養者の収入には、雇用保険の失業等給付、公的年金、健康保険の傷病手当金や出産手当金も含まれます。

(2) 収入が被保険者(扶養する人)の収入の半分以上の場合であっても、被保険者(扶養する人)の年間収入を上回らないときで、日本年金機構がその世帯の生計の状況を総合的に勘案して、被保険者(扶養する人)がその世帯の生計維持の中心的役割を果たしていると認めるときは被扶養者となることがあります。

 このような収入要件がありますが、先に述べたように個人事業主の場合は、収入から経費を差し引いた所得が130万円未満(又は180万円未満)であれば、扶養に入ることができます。
 130万円未満であるかどうかを判定するにあたっては、次の点に注意が必要です。

(1) 事業所得の他に所得がある場合は、それらの合計額で130万円未満であるかどうかを判定します。
(2) 青色申告者の場合は、青色申告特別控除額を差し引く前の所得で判定します。
(3) 社会保険料控除や基礎控除などの所得控除を差し引く前の金額で判定します。

 (2)の青色申告特別控除額は、あくまでも税制上の特典ですので、社会保険の扶養を判定する際の所得の算定上は控除できません。それ以外の青色申告決算書に記載した経費は差し引くことができます。

令和7年度税制改正によって19歳以上23歳未満の親族等を扶養する場合における特定扶養控除の要件の見直し等が行われたことを踏まえ、扶養認定日が2025(令和7)年10月1日以降で、扶養認定を受ける人(被扶養者)が19歳以上23歳未満の場合(被保険者の配偶者を除く)は、現行の「年間収入130万円未満」が「年間収入150万円未満」に変わります。この「年間収入要件」以外の要件に変更はありません。

 年齢要件(19歳以上23歳未満)は、扶養認定日が属する年の12月31日時点の年齢で判定します。例えば、扶養認定を受ける人が令和7年11月に19歳の誕生日を迎える場合には、令和7年(暦年)における年間収入要件は150万円未満となります。

 ただし、令和7年10月1日以降の届出で、令和7年10月1日より前の期間について認定する場合は、19歳以上23歳未満の被扶養者にかかる年間収入の要件は130万円未満で判定します。

 詳細については、「令和7年10月1日から19歳以上23歳未満の人の健康保険の被扶養者認定基準が年収150万円未満に変わります」をご参照ください。

4.社会保険の扶養の判定(健康保険組合の場合)

 上記3で確認した内容は、政府が管掌する全国健康保険協会(協会けんぽ)の場合です。
 被保険者(扶養する人)の勤め先が、大手企業やグループ企業で構成される健康保険組合に加入している場合は、健康保険組合ごとに収入要件の取扱いが異なります。
 例えば、A健康保険組合の場合は、収入(売上)から差し引ける経費は売上原価のみであるのに対し、B健康保険組合の場合は、売上原価と人件費が差し引ける、などです。
 被保険者(扶養する人)の勤め先が加入しているのは協会けんぽなのか健康保険組合なのか、健康保険組合に加入している場合はどのような扶養条件があるのか、事前に確認しておくことが大事です。

インボイス発行事業者の登録後に課税事業者届出書の提出は必要か?

 基準期間における課税売上高が1,000万円を超えたことにより消費税の課税事業者となる事業者は、「消費税課税事業者届出書」(以下「課税事業者届出書」といいます)を提出することとされています。

 課税事業者届出書の提出先は「納税地を所轄する税務署長」、提出時期は「事由が生じた場合、速やかに」とされています。

 例えば、免税事業者のX年における課税売上高が1,000万円を超えると、(X+2)年からその免税事業者は課税事業者になりますので、X年の課税売上高が確定した後、速やかに課税事業者届出書を提出します。

 このように課税事業者届出書は、免税事業者が課税事業者になることを税務署に届け出る手続きです。

 ところで、事業者の中には、課税売上高が1,000万円以下で本来は免税事業者であっても、取引先等との関係でインボイス発行事業者として登録し、消費税の課税事業者となった者もいます。

 では、このようなインボイス発行事業者の基準期間における課税売上高が1,000万円を超えることとなった場合、課税事業者届出書の提出は必要でしょうか?

 答えは「不要」です。 

 インボイス発行事業者は、基準期間における課税売上高が1,000万円を超えるか否かにかかわらず課税事業者となることから、「消費税課税事業者選択届出書」を提出した事業者と同様にインボイス発行事業者の登録を受けている課税期間(登録日の属する課税期間の翌課税期間以後の課税期間に限ります)については、課税事業者届出書を提出しなくても差し支えないこととされています。 

 つまり、インボイス発行事業者は既に課税事業者ですので、登録後も引き続いて課税事業者である限り、基準期間における課税売上高が1,000万円を超えることとなっても、そのことを税務署に届け出る必要はないということです。

「消費税課税事業者選択届出書」を提出している事業者においても、当該届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間以後の課税期間については、その基準期間における課税売上高が1,000万円を超えるかどうかにかかわらず課税事業者となることから、課税事業者届出書は提出しなくても差し支えないこととされています(消費税法基本通達17-1-1)。

不足額給付の続報-対象者判定のためのフローチャート

 兵庫県宝塚市では、2024(令和6)年8~10月に、定額減税しきれないと見込まれる方へ給付金(調整給付)が支給されました
 調整給付は2023(令和5)年の課税情報に基づき算定されていましたので、2024(令和6)年分所得税や定額減税の実績額が確定した際に、調整給付に不足が生じる方がいます。
 また、青色事業専従者など、税制度上定額減税の対象外であった方もいます。

 これらの方が定額減税を補足する給付金(不足額給付)の対象となるか否かについては、本ブログ記事「定額減税調整給付金(不足額給付)の対象となる人の具体例と給付額の計算例」、「所得税・住民税が非課税でも青色事業専従者等は定額減税調整給付金(不足額給付)の対象となる!」において詳細を記載しています。

 2025(令和7)年7月23日に、宝塚市のホームページにおいて不足額給付に関する情報が更新され、不足額給付の対象となるか否かを判定するためのフローチャート(下図)が公表されました。

出所:宝塚市ホームページ

 
 宝塚市では、不足額給付の対象者には、2025(令和7)年8月下旬に市から書面が送付されます
 申請受け付けは、2025(令和7)年9月頃から開始される予定です

 なお、不足額給付の対象者のうち、転入者(2024(令和6)年1月2日~2025(令和7)年1月1日に宝塚市へ転入した方)については、転入前の自治体で発行された調整給付支給要件確認書(調整給付額の算出根拠となる資料)を添えて、2025(令和7)年9月~10月末(予定)にご自身で申し出・申請を行う必要があります。

 転入者については、当初調整給付に関する情報を宝塚市で把握できず、対象者を特定できないことから宝塚市から通知書面などは送付されませんのでご注意ください。

 宝塚市における不足額給付の申請手続き等については、「不足額給付の申請受付開始時期と提出書類(兵庫県宝塚市の場合)」をご参照ください。

※ 2025(令和7)年9月1日に宝塚市のホームページが更新されました。それによると、8月29日に支給事前通知書(お知らせ)・確認書が発送され、9月1日~5日に順次お手元に届く予定とのことです。
 なお、一部の方については支給額の算定に時間を要しているため、9月中旬頃をめどに確認書が送付されるようです。
 黄色の封筒で届きますので、届き次第、内容の確認をしてください。

キャッシュレス納付の類型と手続きの概要

 国税庁では効率化とコスト抑制の観点から「納付書」の送付対象者を見直し、2024(令和6)年5月よりe-Taxで申告書を提出した法人などには納付書が送付されなくなりました。

 これまで通り納付書で税金の納付を行いたい場合は、税務署に送付依頼の電話をかければ納付書を入手することができますが、近年は納付書を使わない納付方法(以下「キャッシュレス納付」といいます)も多様化して選択肢が増えています。

 キャッシュレス納付は、納税者の事務手続きや現金処理業務の効率化(現金管理に伴うコスト削減)に資する面もありますので、今すぐではなくとも将来的に活用することも検討されてはいかがでしょうか。

 以下では、国税に関するキャッシュレス納付の類型と手続きについて概観します

地方税についても地方税統一QRコードにより多くの地方自治体でキャッシュレス納付ができるようになりましたが、自治体によっては対応していない場合や対応している税目等が異なりますので、納付先の自治体にご確認ください。

1.振替納税

 振替納税は、納税者名義の預貯金口座からの自動引落しにより国税を納付する方法です。古くからある制度ですので、納税者にとってはなじみ深いものだと思われます。

 振替納税を利用するにあたっては、事前(国税の納期限まで)に所轄税務署または希望する預貯金口座のある金融機関へ振替依頼書を書面またはe-Taxにより提出する必要があります。

 利用できる税目は、申告所得税及び復興特別所得税消費税及び地方消費税(個人事業者)であり、個人に限られます。

 利用にあたって、手数料はかかりません。

2.ダイレクト納付

 ダイレクト納付は、e-Taxにより申告書を提出した後、納税者名義の預貯金口座から即時または振替日を指定して口座引き落としにより納付する方法です。

 事前に振替を行う預貯金口座の届け出が必要で、届け出から利用開始までに約1か月程度かかります。

 2024(令和6)年4月からはe-Taxによる申告と同時に法定納期限当日に自動的に口座引き落としされる「自動ダイレクト」が機能として追加されました

 すべての税目で利用でき、利用にあたって手数料はかかりません。

法定納期限当日に手続きをした場合は、その翌取引日に自動引落しされます。この場合、法定納期限から引落しの日までの延滞税や加算税はかかりません。

3.インターネットバンキング納付

 インターネットバンキング納付は、e-Taxにより申告書を提出した際に受け取った納付情報を基に、金融機関のインターネットバンキングやATMを利用して納付をする方法です。

 事前に金融機関に対してインターネットバンキングの契約が必要ですが、ATMから納付する場合は不要です。

 上記2のダイレクト納付と異なり、振替日の指定はできず、即時の納付となります。

 すべての税目で利用でき、利用にあたって手数料はかかりません

インターネットバンキングやATMの利用手数料がかかる場合があります。

4.クレジットカード納付

 クレジットカード納付は、事前の手続きなしでパソコンやスマホから国税クレジットカードお支払いサイトを通じて税金を納付する方法です。

 納付情報を直接入力して納付する方法以外に、e-Taxにより申告書を提出した際に受け取った納付情報を基に納付することも可能です。

 クレジットカード納付はインターネット上のみの手続きであり、金融機関やコンビニ、税務署の窓口ではクレジットカード納付はできません。

 すべての税目で利用できますが、利用にあたっては納付税額に応じた決済手数料がかかります。

5.スマホアプリ納付

 スマホアプリ納付は、e-Taxにより申告書を提出した際に格納される受信通知(納付区分番号通知)からスマートフォン決済専用サイトへアクセスし、Pay払いで納付する方法です。

 利用可能なPay払いは、次の6つです(LINE Payの取扱いは2025(令和7)年4月14日で終了しました)。

出所:国税庁ホームページ

 アカウント残高を利用した支払方法のみ利用可能なため、事前に利用するPay払いへのアカウント登録と残高チャージが必要です。なお、納付しようとする金額が30万円以下の場合に利用可能です。

 すべての税目で利用でき、利用にあたって手数料はかかりません。

amazon payの場合はamazonギフトカードで残高チャージができるため、amazonギフトカードをクレジットカードで購入すれば、通常の買い物と同様にクレジットカードのポイントも貯まりますのでお得な方法です。
 amazon payによるスマホアプリ納付の詳細については、「Amazon Payでスマホアプリ納付をする方法(決済手数料0円)」をご参照ください。

全法人が対象の「防衛特別法人税」の概要と実務に及ぼす影響(令和8年4月1日以後開始事業年度)

 2025(令和7)年度税制改正により、「我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法(防確法)」が改正され、防衛力強化に係る財源確保のための税制措置として、防衛特別法人税が創設されました。

 この防衛特別法人税は全法人が対象となっており、2026(令和8)年4月1日以後に開始する事業年度から、各事業年度の所得に対する法人税を課される法人は防衛特別法人税の納税義務者となり、防衛特別法人税確定申告書の提出が必要となります(防衛特別法人税額が0であっても申告は必要となります)。

 以下では、防衛特別法人税の概要と、防衛特別法人税が実務に及ぼす影響について確認します。

1.防衛特別法人税の概要

 各事業年度の所得に対する法人税を課される法人は、2026(令和8)年4月1日以後に開始する各事業年度において、所得税額控除など一定の税額控除を適用しないで計算した法人税の額から年500万円の基礎控除額を控除した金額に4%の税率を乗じて計算した金額を、防衛特別法人税額として申告し、納付することが必要となります。

(1) 納税義務者

 各事業年度の所得に対する法人税を課される法人(人格のない社団等及び法人課税信託の引受けを行う個人を含みます)は、防衛特別法人税を納める義務があります。

(2) 課税事業年度

 2026(令和8)年4月1日以後に開始する事業年度から、防衛特別法人税が課されます。

(3) 税額の計算

 防衛特別法人税は、所得税額控除など一定の税額控除を適用しないで計算した法人税の額(基準法人税額※1)から年500万円の基礎控除額※2を控除した金額(課税標準法人税額)に4%の税率を乗じて計算します※3

※1 基準法人税額とは、次の制度を適用しないで計算した各事業年度の所得に対する法人税の額をいいます。

① 所得税額の控除
② 外国税額の控除
③ 分配時調整外国税相当額の控除 など

※2 基礎控除額は年500万円とされています。課税事業年度が1年に満たない法人は、「500万円を12で除し、これにその課税事業年度の月数(1月未満の端数は切り上げます)を乗じて計算した金額」となります。

※3 防衛特別法人税=課税標準法人税額×4%
  課税標準法人税額=基準法人税額-基礎控除額

(4) 申告及び納付

 防衛特別法人税確定申告書は、原則として、各課税事業年度終了の日の翌日から2月以内に納税地を所轄する税務署長に提出しなければなりません※4

 なお、所得金額が欠損等の理由により基準法人税額が0となる場合や年500万円の基礎控除額の控除により課税標準法人税額が0となる場合であっても、防衛特別法人税確定申告書を提出する必要がありますので、ご注意ください※5

 この場合、別表一次葉一の「課税標準法人税額の計算」及び「防衛特別法人税額の計算」の各欄を記載し、同表の「防衛特別法人税額」及び「防衛特別法人税額計」の各欄に「0」と記載して提出してください。

※4 法人税確定申告書の提出期限が延長されている場合には、防衛特別法人税確定申告書の提出期限も、その延長された提出期限となります。
 また、2027(令和9)年4月1日以後に開始する課税事業年度において、法人税の中間申告書を提出すべき法人は、防衛特別法人税についても中間申告書を提出する必要があります。

※5 各事業年度の所得に対する法人税の納税義務がない法人(例えば、公益法人等及び人格のない社団等で収益事業を行っていないものや国内源泉所得を有しない外国法人)などについては、防衛特別法人税確定申告書を提出する必要はありません。

2.防衛特別法人税が実務に及ぼす影響

 2025(令和7)年度税制改正で新設された防衛特別法人税が、実務に及ぼす影響として、次の2点を検証します。

(1) 実際に課税される法人は少ない?

 上記1(3)のとおり、防衛特別法人税の計算には中小法人に配慮した年500万円の基礎控除額があることから、課税所得が2,400万円程度までの法人に対しては課税されないことになります※6

※6 課税所得が2,400万円の場合、所得800万円以下の部分は800万円×15%=120万円の法人税、800万円超の部分は1,600万円×23.2%=371.2万円の法人税となり、120万円+371.2万円=491.2万円が基準法人税額となります。
 ここから基礎控除額500万円を控除すると、課税標準法人税額は0となりますので、防衛特別法人税は課税されません。
 財務省主税局によると、全法人の94%が課税対象外と見込まれています。

(2) 税効果会計への影響

 防衛特別法人税の新設により、法定実効税率の見直しが求められることとなり、これにより(税効果会計)繰延税金資産・負債への影響が見込まれるため、特に3月決算の法人においては注意が必要です※7

※7 法定実効税率は、下表のようになります。

(改正前)2026(令和8)年3月31日までの間に解消が見込まれる一時差異等
法定実効税率={法人税率×(1+地方法人税率+住民税率)+事業税率+事業税率(標準税率)×特別法人事業税率}/{1+事業税率+事業税率(標準税率)×特別法人事業税率}={23.2%×(1+10.3%+7.8%)+1.216%+1.2%×260%}/{1+1.216%+1.2%×260%}=30.07%
(改正後)2026(令和8)年4月1日以後に解消が見込まれる一時差異等
法定実効税率={法人税率×(1+地方法人税率+防衛特別法人税率+住民税率)+事業税率+事業税率(標準税率)×特別法人事業税率}/{1+事業税率+事業税率(標準税率)×特別法人事業税率}={23.2%×(1+10.3%+4%+7.8%)+1.216%+1.2%×260%}/{1+1.216%+1.2%×260%}=30.96%

毎年7月10日は事務手続き期限の集中日

 毎年7月10日は、事務手続きの期限が集中します。代表的なものを挙げると、労働 保険(労災保険・雇用保険)の年度更新、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の算定基礎届、納期の特例(源泉所得税)、新年度の特別徴収住民税の納付開始などがあります。

 以下では、これらの手続きの概要について確認します。

1.労働保険の年度更新

 労災保険と雇用保険をあわせて労働保険といいます。

 労働保険の保険料は、前年4月1日から当年3月31日までの1年間を単位として計算し、その額はすべての労働者(雇用保険については被保険者)に支払われる賃金の総額※1に、その事業ごとに定められた保険料率を乗じて算定します※2

 事業主は、新年度の概算 保険料を納付するための申告・納付と、前年度の保険料を精算するための確定保険料の申告・納付の手続きが必要です。これを年度更新といいます。

 この年度更新の手続きは、毎年6月1日から7月10日までの間(土日祝日を除く)に行わなければなりません。

※1 賃金の総額には、通勤手当等の交通費(非課税分、現物支給の定期代等)を含みます。

※2 2025(令和7)年度の保険料率については、「令和7年度の雇用保険料率が改定されます(労災保険料率・子ども子育て拠出金率は据え置き)」をご参照ください。

2.社会保険の算定基礎届

 健康保険と厚生年金保険をあわせて社会保険といいます。

 事業主は、社会保険の被保険者の実際の報酬と標準報酬月額との間に大きな差が生じないように、7月1日現在で使用している全被保険者の当年3か月間(4月、5月、6月)に支払った給与等を算定基礎届によって届出をする必要があります。

 このように、毎年1回標準報酬月額の見直しを行うことを定時決定といい、見直し後の標準報酬月額は、原則として当年9月から翌年8月までの各月に適用されます。

 算定基礎届(届出用紙)は、6月中旬以降に事業所あてに送付され、5月中旬頃までに届出された被保険者の氏名、生年月日、従前の標準報酬月額等が印字されています※3

 算定基礎届の提出期間は、毎年7月1日から7月10日まで(10日が土曜または日曜の場合は、翌営業日が提出期限)とされています※4

※3 定時決定は、7月1日現在で事業所に在籍している全被保険者(従業員・役員)を対象として行われる標準報酬月額の見直しであるため、6月30日以前に退職・退任した従業員・役員については定時決定の対象外となります。
 したがって、6月30日以前に退職・退任した従業員・役員の情報が印字されている場合には、算定基礎届の「備考」欄の「9 その他」欄に「退職・退任年月」を記入します。

※4 算定基礎届送付時に同封されている返信用封筒により事務センターへ郵送する場合は、7月1日より前に郵送すると事務センターに届かずに戻ってくることがあるようですので、算定基礎届は提出期間内に提出する必要があります。

3.納期の特例

 事業主は、源泉徴収した所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」といいます)を、原則として、給与などを実際に支払った月の翌月10日までに国に納めなければなりません。

 ただし、給与の支給人員が常時10人未満である事業主は、源泉徴収した所得税等を半年分まとめて納めることができる特例があります。これを納期の特例といいます※5

 この特例の適用を受けていると、その年の1月から6月までに源泉徴収した所得税等は7月10日、7月から12月までに源泉徴収した所得税等は翌年1月20日が、それぞれ納付期限となります。

 ただし、この特例の適用対象となるのは、給与や退職金から源泉徴収をした所得税等と、税理士、弁護士、司法書士などの一定の報酬から源泉徴収をした所得税等に限られています※6

※5 納期の特例については、「納期の特例の要件である「常時10人未満」とは?」、「納期の特例はいつから適用される?」、「納期の特例の要件に該当しなくなった場合の届出と納期限」をご参照ください。

※6 納期の特例の対象とならない外交員報酬などについては、報酬を支払った月の翌月10日までに、源泉徴収した所得税等を納めなければなりません(関連記事:「外交員報酬に係る源泉徴収税額の計算方法」、「ホステス等に支払う報酬・料金の源泉徴収税額の計算方法」、「セミナー講師料を支払った場合の源泉徴収」)。

4.特別徴収した新年度の住民税の納付開始

 特別徴収とは、毎月の給与から差し引いた個人住民税を、事業主(給与支払者)が従業員(納税義務者)に代わり納付する制度で、所得税等の源泉徴収と同じ仕組みのものです。

 特別徴収義務者である事業主は、従業員の給与から個人住民税を毎月天引きして、翌月10日までに納付しなければなりません。

 新年度の個人住民税は6月に支給する給与から特別徴収を開始し、その特別徴収した新年度の個人住民税は、7月10日までに納付しなければなりません。年度が変わって特別徴収する個人住民税の額が変わりますので、注意が必要です。

 なお、毎月納付する手間を減らす方法として、源泉徴収した所得税等と同様に、従業員が常時10人未満である事業主には納期を年2回とする納期の特例が個人住民税にも認められています。

 源泉徴収した所得税等の納期限は7月10日(1月~6月徴収分)と1月20日(7月~12月徴収分)ですが、個人住民税の納期限は6月10日(12月~5月徴収分)と12月10日(6月~11月徴収分)となり、所得税等と個人住民税では納期限が異なります※7

※7 個人住民税を毎月納付する手間を減らすには、納期の特例を受けることになりますが、所得税等と納期限がズレていますので、それを煩雑に感じる場合もあります。
 そのような場合は、1年分(当年6月分~翌年5月分)の納付書を持参して一括納付することができる市区町村もあります。
 特に届出は必要ありませんが、市区町村によって取扱いが異なりますので、事前に市区町村に相談・確認する必要があります。

個人住民税を普通徴収することが認められる場合とは?

 個人の都道府県民税と市区町村民税をあわせて一般に「個人住民税」といい、事業主(給与支払者)には、従業員の個人住民税を特別徴収することが義務付けられています。

 個人住民税の特別徴収とは、事業主が給与を支払う際に、所得税と同様に毎月の給与から個人住民税を天引きし、従業員に代わって毎月納付する制度です。

 事業主には個人住民税の特別徴収義務がありますので、事業主や従業員の希望により普通徴収(従業員自らが納付書で年4回に分けて納付すること)を選択することはできません。

 しかし、一定の要件に該当する場合は、個人住民税を普通徴収することも認められています。
 今回は、個人住民税の特別徴収制度の仕組みと普通徴収の要件について確認します。

1.特別徴収制度の仕組み

 個人住民税の特別徴収の事務の流れは、次のとおりです。

出所:兵庫県ホームページ「パンフレット」

(1) 給与支払報告書の提出(図表①)

 事業主は、毎年1月31日までに従業員が1月1日現在に居住している市町村に給与支払報告書を提出します。

(2) 特別徴収税額決定通知書の送付(図表③④)

 個人住民税の徴収期間は、6月から翌年5月までの12か月間です。毎年5月31日までに、従業員が居住している市町村から事業主あてに「特別徴収税額決定通知書(特別徴収義務者用・納税義務者用)」が送付されます
 この通知書に年税額と月割額が記載されていますので、6月に支給する給与から特別徴収(給与から天引き)を開始します。

納税義務者用の通知書には、通知した税額の算出根拠となる所得金額や所得控除の適用状況等が記載されています。
 これらの個人情報を保護するため、個人情報保護シールを貼付した状態で送付されますので、シールを貼付した状態で従業員に渡し、必ず従業員本人がシールをはがして内容を確認するようにしてください。

(3) 納期と納付方法(図表⑤⑥)
 
 事業主は給与から天引きした個人住民税を、翌月の10日までに市町村から送付される納付書により納付します。

 なお、従業員が常時10名未満の事業主は、市町村への申請により年12回の納期を年2回(第1回:12月10日、第2回:6月10日)とする「納期の特例」の適用を受けることができます。

2.普通徴収の要件と手続き

 原則として従業員の個人住民税は特別徴収しなければなりませんが、下記の要件に該当する従業員については、給与支払報告書を提出する際に「普通徴収切替理由書兼仕切紙」を添付することで、該当者の個人住民税を普通徴収とすることができます。

a.退職者または給与支払報告書を提出した年の5月31日までの退職予定者
b.給与支払額が少なく、個人住民税を特別徴収しきれない人
c.給与の支払が不定期(毎月支給されていない)な人
d.他の事業者から支払われる給与から特別徴収されている人(乙欄適用者)


 普通徴収とするための具体的な手続きは、上記のa.~d.に該当する従業員がいる場合、給与支払報告書提出時に「普通徴収切替理由書兼仕切紙」を添付のうえ、給与支払報告書個人別明細書摘要欄に略号(a~d)を記載します

 上記のa.~d.に該当する旨を申し出ない場合は、普通徴収の要件に該当するかどうかを市町村で確認できないため、特別徴収となります。

エルタックス(eLTAX)で提出する場合も、「普通徴収」欄へのチェックに加え、摘要欄に略号(a~d)を記載する必要があります。

出所:兵庫県ホームページ

ホステス等に支払う報酬・料金の源泉徴収税額の計算方法

 ホステス等に報酬・料金を支払うときは、所得税および復興特別所得税(以下「所得税等」といいます)を源泉徴収しなければなりません。

 業務委託契約を締結したホステス等に支払う報酬・料金は基本的には外注費に該当し、このようなホステス等の報酬に係る所得税等の源泉徴収税額の計算方法は、源泉徴収税額表を用いて計算する給与や賞与の場合と異なります。

 以下では、ホステス等に支払う報酬・料金の源泉徴収税額の計算方法を確認します。

ただし、その内容が給与や賞与に該当するものについては、外注費(事業所得や雑所得)ではなく給与所得として源泉徴収を行います。
 外注費と給与のどちらに該当するかについては、「外注費か給与か・・・国税庁の判断基準」をご参照ください。

1.ホステス等の報酬とは?

 ホステス等に支払う報酬・料金として、所得税等を源泉徴収しなければならないのは、次に該当する場合です。

(1) バーやキャバレーの経営者が、そこで働くホステスなどに報酬・料金を支払う場合

(2) いわゆるバンケットホステス・コンパニオン等を、ホテル、旅館その他飲食をする場所に派遣して接待等の役務の提供を行わせることを内容とする事業を営む者が、そのバンケットホステス・コンパニオン等に報酬・料金を支払う場合

バンケットホステス・コンパニオン等とは、ホテル、旅館、飲食店その他飲食をする場所で行われるパーティー等の飲食を伴う会合において、専ら客の接待等の役務の提供を行うことを業務とする人をいいます。

2.ホステス報酬の源泉徴収税額の計算方法

(1) 月払いの場合

 源泉徴収すべき所得税等の額は、報酬・料金の額から同一人に対し1回に支払われる金額について、5千円にその報酬・料金の「計算期間の日数」を乗じて計算した金額(同月中に給与等の支払がある場合には、その計算した金額からその計算期間の給与等の支給額を控除した金額)を差し引いた残額に10.21パーセントの税率を乗じて算出します。
(注)求めた税額に1円未満の端数があるときは、これを切り捨てます。

 なお、「計算期間の日数」とは、「営業日数」または「出勤日数」ではなく、ホステス報酬の支払金額の計算の基礎となった期間の初日から末日までの全日数です。

 源泉徴収税額={(ホステス報酬-5千円×計算期間の日数)-給与等の支給額}×10.21%

 具体的には、以下のように計算します。

〈計算例〉
・ホステス報酬の支払金額:30万円
・ホステス報酬の支払金額の計算の基礎期間:7月1日から7月31日(31日間)
・営業日数:25日間
・出勤日数:10日間
・7月中の給与支給額:なし

 源泉徴収税額=(30万円-5千円×31日)×10.21%=14,804円(1円未満切り捨て)

(2) 日払いの場合

 上記(1)の計算例は、ホステス報酬を月払い(月末締・翌月10日払い等)することを前提としていましたが、ホステス報酬をその日のうちに支払う日払いのケースもあります。

 この場合の源泉徴収税額は、どのように計算するのでしょうか?

 源泉徴収すべき所得税等の額は、報酬・料金の額から同一人に対し1回に支払われる金額について計算することとなっていますので、日払いの場合の「計算期間の日数」は1日となり、報酬を支給する毎に源泉徴収をしなければなりません。

 源泉徴収税額={(ホステス報酬-5千円)-給与等の支給額}×10.21%

 具体的には、以下のように計算します。

〈計算例〉
・ホステス報酬の支払金額:3万円
・ホステス報酬の支払金額の計算の基礎期間:7月1日から7月31日(31日間)
・営業日数:25日間
・出勤日数:1日(7月7日)
・7月7日の給与支給額:なし

 源泉徴収税額=(3万円-5千円)×10.21%=2,552円(1円未満切り捨て)

3.留意事項

 ホステス等に支払った報酬・料金から源泉徴収した所得税等は、支払った月の翌月10日までに納付しなければなりません。
 支払者が源泉所得税の納期の特例の適用を受けている場合であっても、ホステス等に支払う報酬・料金については、納期の特例の対象とはなりませんのでご注意ください。

 また、ホステス等の報酬・料金について、同一人に対するその年中の支払金額の合計額が50万円を超えるものについては、「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」を税務署に提出しなければなりません。

※ 関連記事:「外交員報酬に係る源泉徴収税額の計算方法」、「セミナー講師料を支払った場合の源泉徴収

事前確定届出給与を減額支給した場合に損金不算入となる理由(東京地裁令和6年2月21日判決・令和4年(行ウ)第566号)

 臨時的な役員賞与は損金算入が認められませんが、事前確定届出給与の制度を利用すれば、役員賞与であっても届け出たとおりの支給をすれば損金算入が可能です※1

 事前確定届出給与の制度を利用するには、一定の日までに納税地の所轄税務署長に対して、あらかじめ確定している支給時期、支給金額のほか必要事項を記載した届出をしなければなりません※2

 もし、所轄税務署長へ届け出た支給額と実際の支給額が異なる場合には、事前確定届出給与に該当しないこととなり、損金不算入となります。

 例えば、所轄税務署長に届け出た支給額よりも多く支給した場合には、超過部分だけではなく、届出支給額部分も含めた支給額全額が損金不算入となります。

  また、届け出た支給額よりも少なく支給した場合にも、当該支給額全額が損金不算入となります。

 少なく支給した場合は、届け出た支給額との間に未払部分が生じますが、たとえ、未払部分をその後一括して又は数回に分割して支給し、当該支給額との合計が届け出た支給額と一致したとしても、当該支給額全額が損金不算入となります。

 事前確定届出給与は、支給時期及び支給金額が事前に確定していることが要件となっているため、超過額や未払額が発生するということは事前に確定していなかったということであり、したがって事前確定届出給与には該当せず、損金不算入となります。

 これらのことを明確に示した裁判例が、以下の東京地裁令和6年2月21日判決(令和4年(行ウ)第566号)です。

 原告の定時株主総会において、代表取締役2名に対してそれぞれ2,800万円の賞与を支給することが決議され、その決議内容に関する届出を原告は税務署に対して行っていましたが、実際に支給されたのがそれぞれ2,500万円であったため、税務署は事前確定届出給与に該当しないとして損金算入を認めず、東京地裁も税務署と同様の判断を下しています。

 東京地裁はこの判決において、「事前に支給時期及び支給額が株主総会等において確定的に定められ、事前確定届出給与に関する届出がされたにもかかわらず、届けられた金額と異なる金額の役員賞与が支払われた場合に無制限に損金への算入を認めることとすれば、例えば、支給額を高額に定めて事前確定届出給与に関する届出を行うことによりあらかじめ枠取りをしておき、その後、上記のとおり届出をした金額より減額した額を支給するなどして損金の額をほしいままに操作し、法人税の課税を回避するなど、事前確定届出給与制度を設けた趣旨を没却し、課税の公平を害することになりかねない」として、支給額の合計額5,000万円を損金の額に算入することはできないと判示しています。

 また、原告は、実際の支給額と届け出た支給額との差額(各300万円)については、役員給与の一部が未払の状態にすぎないなどと主張しましたが、東京地裁は、「未払賞与」を計上していない原告の会計処理に照らしてもにわかに認め難く、仮に一部が未払の状態にすぎないとしても、法34条1項2号の要件を満たすとはいえないなどとして、原告の主張を斥けています。

※1 届け出たとおりの支給をしなかった場合については、「事前確定届出給与(複数回支給)を届出通りに支給しなかった場合」、「事前確定届出給与(複数人支給)を特定の役員だけ届出通りに支給しなかった場合」、「事前確定届出給与を支給しなかった場合のリスクを回避するための手続き」をご参照ください。

※2 届出書の具体的な書き方については、「『事前確定届出給与に関する届出書』等の書き方と記載例」をご参照ください。

中小企業者等の賃上げ促進税制《令和6年4月1日~令和9年3月31日開始事業年度》

 中小企業向け賃上げ促進税制は、青色申告書を提出している中小企業者等(下記2(3)参照)が、前年度より給与等の支給額を増加させた場合に、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度です。

 以下では、賃上げ促進税制に関する2024(令和6)年度税制改正の概要と、改正後の中小企業向け賃上げ促進税制の内容について確認します。

※ 賃上げ促進税制に係る別表6の書き方と記載例については、「中小企業者等の賃上げ促進税制に係る別表六の書き方と記載例《令和6年4月1日~令和9年3月31日開始事業年度》」をご参照ください。

1.令和6年度税制改正の概要

 2024(令和6)年税制改正では、賃上げ促進税制の強化がはかられ、これまでの大企業向けと中小企業向けの2制度から、新たに中堅企業向けの制度が新設され、3制度となりました。

 中小企業向けの措置については、5年間の繰越税額控除制度が新設され、教育訓練費の増加があった場合の税額控除率10%の上乗せ措置に対する要件なども見直されています。

 上乗せ措置については、プラチナくるみん認定を受けている場合などは、さらに税額控除率を5%上乗せできる要件が新設されています。

 改正後の中小企業向け賃上げ促進税制の適用要件と税額控除率は、下図のとおりです。

 必須要件については改正前と変更はありませんが、上乗せ要件①については「教育訓練費が5%以上増加していること」(改正前は10%以上)の他に、「教育訓練費が雇用者給与等支給額の0.05%以上であること」が必要となっています。

 また、上乗せ要件②が新設され、要件を満たせば税額控除率を5%上乗せできるようになったことから、税額控除率は最大で45%(30%+10%+5%)となっています。

出所:中小企業庁ホームページ

2.中小企業向け賃上げ促進税制の内容

 2024(令和6)年度税制改正による中小企業向け賃上げ促進税制の内容は、次のとおりです。

(1) 制度概要

 中小企業者等で青色申告書を提出するものが、国内雇用者※1に対して給与等※2を支給する場合において、一定の要件(必須要件)を満たす場合には、その雇用者給与等支給増加額の15%又は30%(上乗せ要件をすべて満たす場合は最大で45%)の税額控除を適用できます。

※1 国内雇用者とは、法人又は個人事業主の使用人のうちその法人又は個人事業主の国内に所在する事業所につき作成された賃金台帳に記載された者を指します。
 パート、アルバイト、日雇い労働者も含みますが、使用人兼務役員を含む役員及び役員の特殊関係者、個人事業主の特殊関係者は含まれません。
 なお、特殊関係者とは、法人の役員又は個人事業主の親族などを指します。親族の範囲は6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族までが該当します。
 また、当該役員又は個人事業主と婚姻関係と同様の事情にある者、当該役員又は個人事業主から生計の支援を受けている者等も特殊関係者に含まれます。

※2 給与等とは、俸給・給料・賃金・歳費及び賞与並びに、これらの性質を有する給与(所得税法第28条第1項に規定する給与等)をいいます。
 したがって、例えば、所得税法第9条(非課税所得)の規定により非課税とされる給与所得者に対する通勤手当等についても、原則的には本制度における「給与等」に含まれることになります。
 ただし、賃金台帳に記載された支給額のみを対象に、所得税法上課税されない通勤手当等の額を含めずに計算する等、合理的な方法により継続して国内雇用者に対する給与等の支給額の計算をすることも認められます。
 なお、退職金など、給与所得とならないものについては、原則として給与等に含まれません。

(2) 適用期間

 2024(令和6)年4月1日から2027(令和9)年3月31日までの間に開始する各事業年度(個人事業主は2025(令和7)年から2027(令和9)年の各年が対象)

(3) 適用対象者

 適用対象となる中小企業者等とは、青色申告書を提出する者のうち、以下の①~③に該当するものを指します。

① 以下のイ、ロのいずれかに該当する法人(ただし、前3事業年度の所得金額の平均額が15億円を超える法人は対象外)

イ.資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人
ただし、以下の法人は対象外
(イ) 同一の大規模法人※3から2分の1以上の出資を受ける法人
(ロ) 2以上の大規模法人※3から3分の2以上の出資を受ける法人

※3 大規模法人とは、資本金の額若しくは出資金の額が1億円超の法人、資本若しくは出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人超の法人又は大法人(資本金の額又は出資金の額が5億円以上である法人等)との間に当該大法人による完全支配関係がある法人等をいい、中小企業投資育成株式会社を除きます。

ロ.資本又は出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下の法人

② 常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主

③ 農業協同組合、農業協同組合連合会、中小企業等協同組合、出資組合である商工組合及び商工組合連合会、内航海運組合、内航海運組合連合会、出資組合である生活衛生同業組合、漁業協同組合、漁業協同組合連合会、水産加工業協同組合、水産加工業協同組合連合会、森林組合並びに森林組合連合会

(4) 適用要件

 必須要件(税額控除率15%又は30%)と上乗せ要件(税額控除率10%)は、次のとおりです(上乗せ要件については、くるみん認定の取得は省略します)。

① 必須要件1(税額控除率15%)
 雇用者給与等支給額が前事業年度と比べて1.5%以上増加していること

雇用者給与等支給額(適用年度)- 比較雇用者給与等支給額(前事業年度)/比較雇用者給与等支給額(前事業年度) ≧1.5%

  雇用者給与等支給額※4及び比較雇用者給与等支給額※5に、給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額(雇用安定助成金額※6を除きます)がある場合には、当該金額を控除して要件の適用判定を行います。

※4 雇用者給与等支給額とは、適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される全ての国内雇用者に対する給与等の支給額をいいます。

※5 比較雇用者給与等支給額とは、前事業年度における雇用者給与等支給額をいいます。

※6 雇用安定助成金額(国又は地方公共団体から受ける雇用保険法第62条第1項第1号に掲げる事業として支給が行われる助成金その他これに類するものの額)には、以下のものが該当します。
a 雇用調整助成金、産業雇用安定助成金又は緊急雇用安定助成金の額
b aに上乗せして支給される助成金の額その他のaに準じて地方公共団体から支給される助成金の額

出所:中小企業庁ホームページ

② 必須要件2(必須要件1の税額控除率15%+15%=30%)
 雇用者給与等支給額が前事業年度と比べて2.5%以上増加していること

雇用者給与等支給額(適用年度)- 比較雇用者給与等支給額(前事業年度)/比較雇用者給与等支給額(前事業年度) ≧2.5%

 雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額に、給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額(雇用安定助成金額を除きます)がある場合には、当該金額を控除して要件の適用判定を行います。

③ 上乗せ要件(税額控除率10%)
 教育訓練費の額が前事業年度と比べて5%以上増加し、かつ、適用事業年度の教育訓練費の額が適用事業年度の雇用者給与等支給額の0.05%以上であること

教育訓練費の額(適用年度)- 比較教育訓練費の額(前事業年度)/比較教育訓練費の額(前事業年度) ≧5%
かつ
教育訓練費の額(適用年度)/雇用者給与等支給額(適用年度)≧0.05%

 教育訓練費とは、所得の金額の計算上損金の額に算入される、国内雇用者の職務に必要な技術又は知識を習得させ、又は向上させるために支出する費用のうち一定のものをいいます。
 具体的には、法人が教育訓練等を自ら行う場合の費用(外部講師謝金等、外部施設使用料等)、他の者に委託して教育訓練等を行わせる場合の費用(研修委託費等)、他の者が行う教育訓練等に参加させる場合の費用(外部研修参加費等)などをいいます。

 なお、教育訓練の対象者は法人又は個人の国内雇用者です。したがって、以下の者は国内雇用者ではないため対象外となります。

イ.当該法人の役員又は個人事業主
ロ.使用人兼務役員
ハ.当該法人の役員又は個人事業主の特殊関係者((イ) 役員の親族、(ロ) 事実上婚姻関係と同様の事情にある者、(ハ)役員から生計の支援を受けている者、(ニ) (ロ)又は(ハ)と生計を一にする親族)
ニ.内定者等の入社予定者

(5) 税額控除額

① 必須要件1(税額控除率15%)を満たす場合
 控除対象雇用者給与等支給増加額の15%を法人税額又は所得税額から控除します。ただし、税額控除額は法人税額又は所得税額の20%が上限となります。

税額控除額 = 控除対象雇用者給与等支給増加額 ×15%

 控除対象雇用者給与等支給増加額とは、適用年度の雇用者給与等支給額から前事業年度の比較雇用者給与等支給額を控除した金額をいいます。ただし、調整雇用者給与等支給増加額を上限とします。
 調整雇用者給与等支給増加額とは、適用年度の雇用安定助成金額を控除した雇用者給与等支給額から、前事業年度の雇用安定助成金額を控除した比較雇用者給与等支給額を控除した金額をいいます。
 なお、雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額に、給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額(雇用安定助成金額を除きます)がある場合には、当該金額を控除して計算を行います。

出所:中小企業庁ホームページ

② 必須要件2(税額控除率15%)を満たす場合
 上記(5)①の必須要件1の控除率15%に15%が上乗せされて、税額控除率は30%となります(必須要件1の15%+必須要件2の15%=30%)。
 下記③を併用する場合は、税額控除率は40%となります(必須要件1の15%+必須要件2の15%+上乗せ要件10%=40%)。
 ただし、税額控除額は法人税額又は所得税額の20%が上限となります。

③ 上乗せ要件(税額控除率10%)を満たす場合
 上記(5)①の必須要件1の控除率15%に10%が上乗せされて、税額控除率は25%となります(必須要件1の15%+上乗せ要件10%=25%)。
 上記②を併用する場合は、税額控除率は40%となります(必須要件1の15%+必須要件2の15%+上乗せ要件10%=40%)。
 ただし、税額控除額は法人税額又は所得税額の20%が上限となります。

(6) 繰越税額控除制度

 2024(令和6)年度税制改正で、中小企業者等が要件を満たす賃上げを実施した年度に控除しきれなかった金額について、翌年度以降に5年間の繰り越しが可能となりました。

出所:中小企業庁ホームページ

 
 繰越税額控除制度を適用する場合は、以下の①及び②の対応が必要です。

未控除額が発生した事業年度以後の各事業年度の確定申告書に繰越税額控除限度超過額の明細書を添付して提出

繰越税額控除制度の適用を受けようとする事業年度の確定申告書等に繰越控除を受ける金額を記載するとともに、繰越控除を受ける金額の計算に関する明細書を添付して提出

 繰越税額控除制度を適用する際の留意点は、次のとおりです。

イ.上記①の明細書が提出されていない場合、未控除額は繰り越されず、繰越税額控除制度を適用できません。
 未控除額を翌年度以降に繰り越す場合には、未控除が発生した事業年度以後の各事業年度の確定申告書に、繰越税額控除限度超過額の明細書の添付が必ず必要です。

ロ.繰越税額控除制度の適用を受けようとする事業年度において、雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額より増加している場合に限り、適用可能です。

ハ.繰越税額控除制度の適用を受けようとする事業年度においては、青色申告書を提出する必要がありますが、中小企業者等に該当しない場合でも適用可能です。
 なお、中小企業者等に該当するかどうかの判定は、適用を受ける事業年度終了の時の現況によるものとされています。

(関連記事)

※ 賃上げ促進税制に係る別表6の書き方と記載例については、「中小企業者等の賃上げ促進税制に係る別表六の書き方と記載例《令和6年4月1日~令和9年3月31日開始事業年度》」をご参照ください。

※ 賃上げ促進税制における出向者の取扱いについては、「賃上げ促進税制における出向者の取扱い」をご参照ください。

※ 前事業年度と適用事業年度の月数が異なる場合の調整計算や月数に1月未満の端数が生じた場合については、「賃上げ促進税制における1月未満の端数の取扱い」をご参照ください。