後期高齢者の医療費の自己負担割合(1割・2割・3割)の判定基準となる所得額はいくら?

 後期高齢者医療制度は、75歳(一定の障害があり申請により認定を受けた65歳)以上の人が対象となる医療保険制度です。

 75歳以上の後期高齢者は、病気やケガで診療を受けるときは、被保険者証を医療機関の窓口で提示して、かかった医療費の1割・2割・3割のいずれかを負担します。

 この窓口での自己負担割合は、毎年8月1日に当該年度の住民税課税所得額に基づき判定されます。

 令和7年度(令和7年8月~令和8年7月)の医療費自己負担割の場合は、令和7年度の住民税課税所得額と令和6年中の収入金額で判定されますので、令和6年分の所得税確定申告の内容が大きくかかわってきます。

 例えば、配当所得のある後期高齢者が、配当から源泉徴収された所得税の還付を受けるため配当所得を総合課税で申告したら、医療費の自己負担割合が1割から2割に上がってしまったという事例をよく耳にします。

 配当所得は課税方法(総合課税・申告分離課税・申告不要)の選択ができますので、所得税だけではなく医療費の自己負担割合も考慮すると、結局は確定申告しない方がよかったということもあります(関連記事:「配当所得に係る総合課税・申告分離課税・申告不要制度の選択上の注意点」)。

 このような事態を避けるため、後期高齢者の医療費の自己負担割合を決定する所得ライン(所得の判定基準)がどれくらいであるのかについて知っておくことは有意義だと思われますので、以下で確認します。

1.住民税課税所得額とは?

 先述したように、後期高齢者の医療費の自己負担割合は、毎年8月1日に当該年度の住民税課税所得額に基づき決定されます。

 住民税課税所得額とは、年金や給与、配当などの「収入金額」からそれぞれ公的年金等控除額や給与所得控除額、必要経費などを差し引いて各「所得金額」(給与所得、雑所得、配当所得など)を求め、その合計である「総所得金額」から「所得から差し引かれる金額」(社会保険料控除、医療費控除、扶養控除、基礎控除などの所得控除)を差し引いた後の金額をいいます(総所得金額については、「『合計所得金額』『総所得金額』『総所得金額等』の違いとは?」をご参照ください)。
 
 この住民税課税所得額(課税標準の合計)は、住民税を自分で納めている人(普通徴収の人)の場合は、市(区)町から送付される「納税通知書」で確認できます。

 また、給与所得者のうち給与天引きで納税している人(特別徴収の人)の場合は、会社などを通じて交付される「給与所得等に係る市・県民税特別徴収税額決定通知書」で確認することができます。

 なお、所得税と住民税で基礎控除額などが異なるため(令和6年度基礎控除:所得税48万円、住民税43万円など)、確定申告書に記載されている「課税される所得金額」と住民税の課税所得額の金額が異なりますので注意が必要です。

2.自己負担割合を決定する所得基準

 後期高齢者の医療費の自己負担割合が1割・2割・3割となる所得区分と判定基準(所得基準)は、次のとおりです。

負担割合 所得区分 判定基準
3割 現役並み所得者 同一世帯に住民税課税所得額145万円以上の後期高齢者医療の被保険者がいる人
2割 一般Ⅱ 以下の(1)(2)の両方に該当する人
(1)同一世帯に住民税課税所得額が28万円以上145万円未満の後期高齢者医療の被保険者がいる人
(2)「年金収入」+「その他の合計所得金額」の合計額が
・被保険者が1人……………200万円以上
・被保険者が2人以上………合計320万円以上
1割 一般Ⅰ・低所得 同一世帯の後期高齢者医療の被保険者全員が住民税課税所得額28万円未満の場合、または上記(1)に該当するが(2)には該当しない人

 なお、住民税課税所得額が145万円以上の人でも、下に記載している基準収入額適用申請により条件を満たす人は、3割負担の対象外となります。

3.基準収入額適用申請で3割負担の対象外

 自己負担割合が3割と判定された人であっても、収入額が一定の基準に満たない場合は、申請により3割負担の対象外となります。

 収入基準に該当するかどうかについては、下表をご参照ください。

同一世帯の被保険者数 収入額による判定基準
被保険者が1人 以下の条件のうち、どちらかにあてはまる人
(1)被保険者の前年の収入額が383万円未満
(2)同一世帯に70歳以上75歳未満の人がいる場合は、被保険者と70歳以上75歳未満の人全員の前年の収入合計額が520万円未満
被保険者が2人以上 本人及び同一世帯の被保険者の前年の収入合計額が520万円未満

 収入額とは、所得税法上の収入額(退職所得に係る収入額を除く)であり、必要経費や特別控除を差し引く前の金額です。
 不動産や上場株式等の譲渡損失を損益通算又は繰越控除するために確定申告した場合の売却金額は、収入額に含まれます。

個人事業者が令和7年分と令和8年分で2割特例を適用する際の注意点

 消費税のインボイス制度導入を機に、本来は免税事業者であったのにインボイス発行事業者として登録して課税事業者になった事業者には、仕入税額の実額を計算せずに売上に係る消費税額の8割を差し引いて納付税額を計算する「2割特例」が認められています。

 したがって、インボイス発行事業者の登録と関係なく事業者免税点制度の適用を受けないこととなる場合(例えば、基準期間における課税売上高が1千万円を超える事業者、資本金1千万円以上の新設法人、調整対象固定資産や高額特定資産を取得して仕入税額控除を行った事業者など)や、課税期間を1か月または3か月に短縮する特例の適用を受ける場合などは、2割特例の対象とはなりません。

 この2割特例の適用期間は、現行制度上は2023(令和5)年10月1日から2026(令和8)年9月30日までの日の属する各課税期間となっています。
 国税庁ホームページには、2割特例の適用期間について以下の図が掲載されています。

出所:国税庁ホームページ

 上図のように、2割特例は令和8年9月30日を含む課税期間まで適用できますが、その課税期間が2割特例の適用対象となることを確認しなければなりません。

 例えば、個人事業者が令和7年分の申告で2割特例を適用する場合、基準期間である令和5年の課税売上高が1千万以下であることを確認する必要があります。

 ところが、令和5年10月1日からインボイス発行事業者として課税事業者になった場合は、令和5年中に免税事業者であった期間(1月1日~9月30日)と課税事業者であった期間(10月1日~12月31日)が混在しますので、課税売上高の計算にあたっては免税期間と課税期間を分けて計算する必要があります(令和5年の課税売上高の計算については、「免税事業者がインボイス登録した場合の『基準期間の課税売上高』の計算方法」をご参照ください)。

 また、個人事業者は令和5年分から令和8年分の申告までの4回の申告が2割特例の適用対象になりますが、令和8年分の申告で2割特例を適用する場合に、令和8年9月30日まで2割特例で計算し、10月1日以降は原則課税または簡易課税で計算するのかどうかが気になります。

 この点については、2割特例の適用対象期間は令和8年9月30日を含む「課税期間」とされていますので、令和8年を9月30日までと10月1日以降に分けて納付税額を計算するのではなく、令和8年1月1日から12月31日までの1年間について2割特例を適用して納付税額を計算することになります。

個人事業者の賃上げ促進税制に係る明細書の書き方と記載例

1.個人事業者にも適用がある

 賃上げ促進税制は、青色申告書を提出している中小企業者等が、一定の要件を満たした上で前年度より給与等の支給額を増加させた場合、その増加額の一部を税金から税額控除できる制度です。

 賃上げ促進税制の前身である所得拡大促進税制は、2021(令和3)年度税制改正において、適用要件の見直し(中小企業者等の継続雇用要件の撤廃等)が行われたことにより、以前に比べて使いやすいものとなりました(2021(令和3)年度税制改正については、「中小企業者等の所得拡大促進税制の令和3年度改正《令和3年4月1日以後開始事業年度》」をご参照ください)。

 また、2022(令和4)年度税制改正において、所得拡大促進税制から賃上げ促進税制に呼称が改められると同時に適用要件の見直しが行われました。
 基本的な内容は所得拡大促進税制を踏襲しつつも、制度自体はより簡素化されたものとなりました(2022(令和4)年度税制改正については、「中小企業者等の賃上げ促進税制《令和4年4月1日~令和6年3月31日開始事業年度》」をご参照ください)。

 賃上げ促進税制は、法人だけではなく個人事業者にも適用がありますので、要件を満たしているかどうかの検討は必要です。
 要件を満たしていれば所得税から税額控除ができ、所得控除よりも大きな節税効果があります。
 中小企業者等については継続雇用要件が撤廃されましたので、個人事業者の方も賃上げ促進税制の適用を積極的に検討してはいかがでしょうか?

2.個人事業者の明細書の記載例

 個人事業者が賃上げ促進税制を適用する場合は、『給与等の支給額が増加した場合の所得税額の特別控除に関する明細書』(以下、「明細書」といいます)と『給与等支給額及び比較教育訓練費の額の計算に関する明細書(付表1)』(以下、「付表1」といいます)を確定申告書に添付しなければなりません。

 以下の説例を用いて、2024(令和6)年分についてこれらの明細書の記載上のポイントと記載例を示します。

 なお、令和6年分の所得税確定申告で適用可能な賃上げ促進税制の制度詳細については、「中小企業者等の賃上げ促進税制《令和4年4月1日~令和6年3月31日開始事業年度》」をご参照ください。

【設例】
業種:飲食業(個人事業者・青色申告)
開業:令和5年9月1日
前年(令和5年)の給与支給額:1,107,620円(うち専従者給与320,000円)
本年(令和6年)の給与支給額:3,822,218円(うち専従者給与960,000円)

 まず、付表1から記載します。記載上のポイントは次のとおりです。

(1) ①欄(国内雇用者に対する給与等の支給額)は、賃上げ促進税制を適用する令和6年の給与支給額を記載しますが、専従者給与の960,000円は除きます。
 したがって、①欄には3,822,218円-960,000円=2,862,218円と記載します。
 もっとも個人の青色申告決算書では、専従者給与は独立した項目で表示されますので、間違うことはないものと思われます。

(2) ⑥欄(適用年の前年分)には、令和5年分と記載します。

(3) ⑦欄(国内雇用者に対する給与等の支給額)は、適用年の前年である令和5年分の給与支給額を記載しますが、①欄と同じく専従者給与を除きます。
 したがって、⑦欄には1,107,620円-320,000円=787,620円と記載します。

(4) ⑩欄(12/⑥の月数)は、適用年の前年(令和5年)において事業を営んでいた月数と適用年(令和6年)において事業を営んでいた月数とが異なる場合は要注意です。
 今回の説例では、令和5年9月1日に開業していますので、令和5年に事業を営んでいた月数は暦に従って計算した4か月(9月1日~12月31日)となります。
 したがって、⑩欄には12/4と記載します。

 なお、今回の説例では9月1日という切りのいい日に開業していますが、もし開業日が9月18日などのような場合は、月数に1月未満の端数が生じます。
 このように月数に1月未満の端数が生じた場合は、賃上げ促進税制ではこれを1か月とカウントします(詳細については、「賃上げ促進税制における1月未満の端数の取扱い」をご参照ください)。

(5) ⑪欄(比較雇用者給与等支給額)には、787,620円×12/4=2,362,860円と記載します(今回の説例では⑫欄も同じ金額を記載します)。
 つまり、適用年の前年分の雇用者給与等支給額を、適用年の月数分に合わせて換算するということです。

 次に明細書を記載します。記載上のポイントは次のとおりです。

(1) ①欄(雇用者給与等支給額)には、付表1の④から金額を転記します。

(2) ②欄(比較雇用者給与等支給額)には、付表1の⑪から金額を転記します。

(3) ③欄(比較雇用者給与等支給増加額)は、①欄2,862,218円から②欄2,362,820円を引いた499,358円を記載します。

(4) ④欄(雇用者給与等支給増加割合)は、③欄499,358円を②欄2,362,820円で割った0.2113を記載します。
 今回の説例では、この増加割合が1.5%以上(0.2113≧0.015)であることから適用要件(通常要件)を満たし、賃上げ促進税制の適用を受けることができます(税額控除率15%)。

 なお、②欄の金額が0であるときは④欄の増加割合も0となり、賃上げ促進税制の適用はありません。
 つまり、開業初年は賃上げ促進税制の適用はないということです。

(5) ⑤⑥⑦欄についても、①②③欄と同様の手順で記載します。

(6) 継続雇用者給与等支給増加割合の計算(⑧欄~⑪欄)は、中小企業者等については継続雇用要件が撤廃されましたので記載不要です。

(7) ⑯欄には③欄と⑦欄のうち少ない金額を記載し、⑱欄には⑯欄から⑰欄を引いた金額を記載します。

(8) 中小企業者等は、「第2項適用の場合」の㉓欄~㉔欄を記載します。
 これは適用要件(税額控除率の上乗せ要件)に関する欄であり、④欄の増加割合が2.5%以上の場合に通常の税額控除率15%にさらに15%が上乗せされ、合計の税額控除率が30%になるというものです。

 今回の説例では、増加割合が2.5%以上(0.2113≧0.025)あります。
 このように適用要件(上乗せ要件)を満たす場合は、㉒欄には上乗せされる税額控除率の「0.15」を記載します。

 また、㉔欄(中小事業者税額控除限度額)には、⑱欄499,358円×(0.15+0.15)=149,807円を記載します。

(9) ㉕欄~㉙欄は、賃上げ促進税制による税額控除額を計算する欄です。
 今回の説例では税額控除率が30%になりましたが、税額控除額は所得税額の20%が上限となりますので、その制限を受けるかどうかをここで計算します。

 ㉕欄(調整前事業所得税額)は、『令和6年分の所得税の確定申告書』第一表の㉛欄の金額を転記します。

 ㉖欄(本年税額基準額)は、㉕欄435,100円×20/100=87,020円を記載します。

 ㉗欄(本年税額控除可能額)には、㉔欄と㉖欄のうち少ない金額である87,020円を記載します。

 ㉘欄は、『所得税の額から控除される特別控除額の明細書』の⑯欄のBの金額を転記しますが、他に特別控除の特例を受けていない場合は記載不要です。

 ㉙欄(所得税額の特別控除額)87,020円が、最終的な税額控除額となります。

 最後に、賃上げ促進税制を適用した場合の確定申告書第一表と第二表の記載例を以下に示します。
 第二表の特例適用条文等の欄に「措法10の5の4」と記載するのを忘れないように注意しなければなりません。



 

配当所得に係る総合課税・申告分離課税・申告不要制度の選択上の注意点

 配当金を受け取ると、受け取った配当金は所得税法では配当所得に分類されます。

 確定申告期間が近づいてくると、この配当所得について、確定申告する方がいいのかしない方がいいのか、確定申告するなら総合課税と分離課税のどちらがいいのかなど、いろいろと考えた上で最も有利になるような判断をしなければなりません。

 ところが、配当所得(に限ったことではありませんが)には普段聞き慣れない用語が登場しますので、このことが原因で配当所得を難解に感じる人もいると思われます。

 今回は、用語の意味も含めて、配当所得に係る3つの課税方法である総合課税制度、申告分離課税制度、申告不要制度について概要を確認し、これらの課税方法の選択にあたって注意すべき点を述べます。

1.用語の意味と課税方法の概要

 国税庁ホームページには、2016(平成28)年以後の上場株式等の配当等の課税関係について、以下の図が示されています。
 この図に沿って、主な用語の意味を確認していきます。

出所:国税庁ホームページ

 
 上から順に見ていくと、まず「上場株式等の配当等」という用語が出てきます。

 上場株式等の配当等とは、上場株式の配当(配当所得)、公募株式投資信託の収益の分配(配当所得)、特定公社債の利子(利子所得)、公募公社債投資信託の収益の分配(利子所得)などをいいます。

 用語が上場株式「等」となっているのは、上場株式だけではなく公社債なども含むためであり、配当「等」となっているのは、配当だけではなく利子も含むためです。

 次に「大口株主を除く」という文言がありますが、大口株主とは上場会社等の発行済株式等の3%以上を保有する株主をいいます。

 「源泉徴収」については、次の①②のようになっています。

① 上場株式等の配当等に係る配当所得・利子所得については、支払金額に対して所得税等15.315%(国税)、住民税5%(地方税)が源泉徴収されています。
② 非上場株式等の配当等や大口株主が支払を受ける上場株式等の配当等に係る配当所得については、支払金額に対して所得税等20.42%(国税)のみが源泉徴収されており、住民税(地方税)は源泉徴収されていません。

 「課税方法の選択」では、「総合課税」へ向かう矢印のところに「利子所得は不可」という文言があります。
 これは、上場株式等の配当等に係る利子所得を申告する場合は、申告分離課税の対象となり、総合課税を選択することができないことを示しています。
 なお、申告不要制度は選択できます。

 「配当控除」とは、総合課税を選択した配当所得については、一定の方法で計算した金額の税額控除を受けることができるというものです。

 「上場株式等の譲渡損失との損益通算」の内容は、上場株式等に係る譲渡損失の金額がある場合またはその年の前年以前3年内の各年に生じた上場株式等に係る譲渡損失の金額のうち、前年以前で控除されていないものがある場合には、一定の要件の下、申告分離課税を選択した上場株式等の配当所得等の金額から控除することができるというものです(当該上場株式等の配当所得等の金額を限度とします)。

 「申告不要」は、確定申告をしないで源泉徴収だけで課税関係を済ませる制度です。
 この制度を選択した利子等・配当等の金額は、合計所得金額に含まれません(合計所得金額については、「『合計所得金額』『総所得金額』『総所得金額等』の違いとは?」をご参照ください)。

 ここまで上図に出てくる主な用語の意味を確認しましたが、この図を踏まえて上場株式等の配当等の課税方法を選択する上での注意点を次に述べます。

2.課税方法の選択上の注意点

 上記1の図に、上場株式等の配当等に係る総合課税制度、申告分離課税制度、申告不要制度を選択する上での注意点は概ね記載されています。
 重複する部分もありますが、以下に選択上の注意点を挙げていきます。

① 上場株式等の配当等に係る利子所得については、総合課税を選択することができません(申告分離課税または申告不要は選択できます)。

② 上場株式等の配当等に係る配当所得については、総合課税、申告分離課税、申告不要を選択することができます。

③ 上場株式等の配当等に係る配当所得について申告する場合は、そのすべてについて総合課税と申告分離課税のいずれかを選択しなければなりません。
 例えば、A株式の配当所得は総合課税で申告し、B株式の配当所得は申告分離課税で申告するというような選択はできません。

④ 配当控除は、総合課税を選択した場合のみ適用することができます。ただし、配当控除は内国法人の配当所得を対象とするため、外国法人から受ける配当所得については適用されません。

⑤ 申告分離課税を選択した場合は配当控除を適用することはできませんが、その年分に生じた上場株式等の譲渡損失の金額と損益通算ができます。
 また、当該配当所得から前年以前3年以内に生じた上場株式等の譲渡損失を繰越控除することもできます(繰越控除するためには確定申告をしなければなりません)。
 なお、申告分離課税と申告不要を併用して損益通算することもできます(詳細は、「上場株式等の配当の申告不要制度は損益通算時も適用可能」をご参照ください)。

⑥ 申告不要制度は、1銘柄1回に支払われる配当等ごと(源泉徴収口座(特定口座)内で受け入れた配当等については口座ごと)に選択することができます。

⑦ 配当控除の適用によって配当金から源泉徴収された所得税等の還付を受けるため、上場株式等の配当等に係る配当所得を総合課税で申告することがあります。
 しかし、申告することによって配当所得が合計所得金額に含まれることになるため、所得が増えて扶養控除や配偶者控除などが適用除外となったり、国民健康保険料や医療費の自己負担割合が上がったりする可能性があるので注意が必要です(後期高齢者の医療費の自己負担割合が1割・2割・3割となる所得額については、「後期高齢者の医療費の自己負担割合(1割・2割・3割)の判定基準となる所得額はいくら?」をご参照ください)。

⑧ 2017(平成29)年度税制改正で、上場株式等の配当所得・譲渡所得について、所得税と住民税で異なる課税方法を選択できるようになっていましたが、2023(令和5)年分の確定申告から、上場株式等の配当所得・譲渡所得に係る課税方法を所得税と住民税で一致させることになりました。
 そのため、所得税と住民税で異なる課税方法を選択することはできなくなっていますのでご注意ください(関連記事:「2024(令和6)年度から改正される個人住民税」)。

確定申告書第二表の「所得の内訳」欄に記載する所得は源泉徴収の有無で判断するのではない!

 確定申告をする際に、次のような疑問を持ったことはないでしょうか?

 「確定申告書第二表の『所得の内訳』欄には、源泉徴収された所得だけを記載するのか、それとも源泉徴収されていない所得も含めたすべての所得を記載するのか?」

 今回はこの点について確認します。

1.確定申告書第二表の「所得の内訳」欄に源泉徴収されていない所得を書く?書かない?

 所得の内訳欄を見ると、所得の種類に応じた「収入金額」とそれに対する「源泉徴収税額」を記載するようになっています。

 このことから、所得の内訳欄には源泉徴収された所得だけを記載し、源泉徴収されていない所得は記載しなくてもいいようにも思えます。

 ところが、国税庁ホームページの「令和6年分所得税及び復興特別所得税の確定申告の手引き」には、6ページに次のような記載例が掲載されています。

 
 この記載例によると、配当所得は源泉徴収されていますが、給与所得、雑所得、一時所得は源泉徴収されていません。にもかかわらず、すべての所得が記載されています。

 ということは、所得の内訳欄には、源泉徴収されている所得だけではなく、源泉徴収されていない所得も記載する必要があるのでしょうか?

2.記載の要否の判断基準

 この所得の内訳欄への記載については、単に源泉徴収されているか否かということではなく、次の観点から記載する必要があるかどうかを判断します。

① 原則として、所得の内訳欄には、事業所得や不動産所得などがなく青色申告決算書や収支内訳書を添付しない所得(青色申告決算書や収支内訳書に売上金額(収入金額)が含まれていない所得)について記載します。

 その場合、源泉徴収されているか否かにかかわらず、支払者ごとに収入金額等の各項目について記載する必要があります。


 上図の記載例では、配当所得、給与所得、雑所得、一時所得が記載されていますが、いずれも青色申告決算書や収支内訳書に記載されていない所得ですので、源泉徴収されている所得はもちろんのこと、源泉徴収されていない所得についても記載されています。

② 事業所得や不動産所得などがあり青色申告決算書や収支内訳書を添付する場合(青色申告決算書や収支内訳書に売上金額(収入金額)が含まれている場合)は、源泉徴収されている収入金額について支払者ごとに収入金額や源泉徴収税額等の各項目を記載する必要があります。

 その場合、源泉徴収されていない収入金額について記載しても問題はありません。

 なお、所得の内訳欄は4行しかありませんので、所得の種類が数多くあるときなど所得の内訳欄で書ききれないときは、「所得の内訳書」を使用して記載します。

課税売上がなくても消費税の還付申告はできる!

 輸出取引の多い事業者や多額の設備投資を行った事業者などは、消費税の申告によって消費税の還付を受けることができます。
 
 還付を受ける際は、課税売上(輸出免税売上や国内における課税売上)がある場合が一般的だと思われますが、課税売上がない場合でも消費税の還付を受けることができる場合があります。

 今回は、この点について確認します。

1.仕入税額控除と課税売上割合

 会計の世界では、商品を販売したりサービスを提供したりすることを「売上」と呼びますが、消費税の世界では、商品の販売やサービスの提供だけではなく、建物や車両などの事業用資産を売却することも「売上」といいます。

 また、会計の世界では、商品を購入することを「仕入」と呼びますが、消費税の世界では、商品の購入以外に、事業用資産を購入することも「仕入」といいます。

 消費税の納税額計算の仕組みを考えるとき、消費税では「売上」や「仕入」の概念が会計よりも広くなっていることに留意する必要があります。

 このことを踏まえて消費税の納税額計算の仕組みを簡潔に説明すると、消費税の納税額は、売上に係る消費税額から仕入に係る消費税額を控除して求めます。これを仕入税額控除といいます。

 通常は、売上に係る消費税額が仕入に係る消費税額よりも多いため消費税を納税することになりますが、輸出取引の多い事業者や多額の設備投資を行った事業者などのように、売上に係る消費税額より仕入に係る消費税額の方が多い場合は、消費税が還付されます。

 この仕入税額控除ですが、「課税売上割合」によって全額控除、個別対応方式、一括比例配分方式という3つの方法に分かれます。
 全額控除は仕入れに係る消費税額の全額を控除できますが、個別対応方式と一括比例配分方式では、仕入に係る消費税額を課税売上割合によって按分する必要があります。

 課税売上割合は総売上高に占める課税売上高の割合をいい、次の算式により算出します。

 課税売上割合=課税売上高/総売上高=課税売上高/(課税売上高+非課税売上高)

 この課税売上割合が95%以上かつ課税売上高が5億円以下の場合は、仕入税額控除の方法は全額控除となります。
 課税売上割合が95%未満または課税売上高が5億円超の場合は、個別対応方式か一括比例配分方式のどちらかになります。

2.課税売上がない場合の仕入税額控除

 課税売上がない場合の課税売上割合は、上記1の計算式の分子が0円となるため、0%(95%未満)として取り扱われます。
 したがって、仕入税額控除の方法は、個別対応方式か一括比例配分方式のどちらかになります。

 個別対応方式と一括比例配分方式は、仕入に係る消費税額を課税売上割合によって「控除できる税額」と「控除できない税額」に按分する必要があります。

 個別対応方式では、仕入に係る消費税額を次の3つに区分します。

 A:課税売上のみに対応(課税売上対応分)
 B:非課税売上のみに対応(非課税売上対応分)
 C:AとBに共通して対応(共通対応分)

 そのうえで、仕入に係る消費税額のうち控除できる税額(控除対象仕入税額といいます)を次のように計算します。

 控除対象仕入税額=A+C×課税売上割合

 一方、一括比例配分方式では、仕入に係る消費税額を区分する必要はなく、次のように控除対象仕入税額を計算します(一括比例配分方式は、個別対応方式における区分の煩雑さを考慮して区分不要とし、すべての仕入に係る消費税額に課税売上割合を乗じて計算する簡便的な方法です)。

 控除対象仕入税額=仕入に係る消費税額×課税売上割合

 上記の個別対応方式と一括比例配分方式の控除対象仕入税額の計算式を見比べると、課税売上がない(課税売上割合が0%)場合でも、個別対応方式ではA(課税売上対応分)の税額が控除できることがわかります。
 それに対して、一括比例配分方式では控除対象仕入税額は0となります。

 つまり、課税売上がない(課税売上割合が0%)場合でも、個別対応方式を適用すれば消費税の還付を受けることができます。

3.課税売上がないのに課税売上対応?

 上記2のように、課税売上がない(課税売上割合が0%)場合でも、個別対応方式を適用すれば、仕入に係る消費税額のうち課税売上対応分については還付を受けることができます。

 しかし、ここで疑問が生じます。課税売上がないのに、仕入に係る消費税額を「課税売上対応分」として区分することに問題はないのか?ということです。

 これに関しては、消費税法基本通達11-2-10(課税資産の譲渡等にのみ要するものの意義)において、次のように規定されています(下線は筆者による)。

11-2-10 法30条第2項第1号《個別対応方式による仕入税額控除》に規定する課税資産の譲渡等にのみ要するもの(以下「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」という。)とは、課税資産の譲渡等を行うためにのみ必要な課税仕入れ等をいい、例えば、次に掲げるものの課税仕入れ等がこれに該当する。
 なお、当該課税仕入れ等を行った課税期間において当該課税仕入れ等に対応する課税資産の譲渡等があったかどうかは問わないことに留意する。(令5課消2-9により改正)

(1) そのまま他に譲渡される課税資産
(2) 課税資産の製造用にのみ消費し、又は使用される原材料、容器、包紙、機械及び装置、工具、器具、備品等
(3) 課税資産に係る倉庫料、運送費、広告宣伝費、支払手数料又は支払加工賃等

 上記通達の下線部にあるように、課税売上がない場合でも、仕入に係る消費税額を「課税売上対応分」として区分することに問題はありません。

令和7年1月から書面提出した申告書等の控えに収受日付印は押なつされません(提出事実等の確認方法は?)

 申告書等を税務署に書面提出した場合に、申告書等の正本(提出用)と一緒に控え(納税者保管用)を提出すると、その控えに収受日付印(受付印)の押なつが行われていました。

 収受日付印が押なつされた申告書等の控えによって、納税者においては申告書等を提出したことが客観的に確認でき、また、金融機関や行政機関においても、収受日付印が押なつされた控えによって、その申告書等の内容が正本と変わらない(偽造されたものではない)ことを確認できました。

 この申告書等の控えへの収受日付印の押なつについて、かねてより国税庁からアナウンスされていたとおり、2025(令和7)年1月から収受日付印の押なつが行われなくなります。

 以下では、収受日付印の押なつが行われなくなった後の申告書等の提出事実や提出年月日の確認方法について述べます。

1.日付・税務署名が記載されたリーフレット

 令和7年1月から、書面提出した申告書等の控えに収受日付印の押なつが行われなくなることから、申告書等を税務署の窓口で提出する場合や郵送する場合は、申告書等の正本(提出用)のみを提出(郵送)することになります。

 申告書等の控えへ収受日付印の押なつがされませんので、申告内容等の事後の確認のため、納税者自身で控えの作成及び保有、提出年月日の記録・管理を行う必要があります。

 なお、令和7年1月以降、当分の間の対応として、窓口で交付する「リーフレット」(今般の見直しの内容と申告書等の提出事実等の確認方法を案内するもの)に申告書等を税務署が収受した日付と税務署名を記載したものが希望者に渡されます。

 また、郵送等により申告書等を提出する際に、切手を貼付した「返信用封筒」を同封した場合も、日付・税務署名(業務センター名)を記載したリーフレットが返送されます。

 仮に、申告書等を提出したにもかかわらず、税務署等から、「申告書等が提出されていないのではないか」といった問合せがあった場合などには、税務署側で納付状況や他の証拠書類を確認し、税理士及び納税者からの聴き取りなどを行った上で、そのリーフレットと申告書等の控えなどを確認することによって、原則として、その日に税務署に来署し、申告書等を提出したものとして取り扱うとしています。

出所:国税庁ホームページ

 なお、リーフレットのメモ欄については、納税者が備忘等の観点から任意に記載する欄として便宜的に設けられていますので、必要に応じて、提出書類の書類名等を記載します。

2.申告書等の提出事実及び提出年月日の確認方法

 令和7年1月以降、上記1以外に、書面提出した申告書等の提出事実及び提出年月日を確認する方法は、以下のとおりです。

(1) 申告書等情報取得サービス

 所得税の確定申告書、青色申告決算書及び収支内訳書について、書面により提出している場合であっても、パソコン・スマートフォンからe-Taxを利用してPDFファイルを取得することができます。

 利用は無料ですが、オンライン申請のみ可能となっていますのでマイナンバーカードが必要です。

 直近年分の所得税の申告書等の申請は、原則として翌年5月1日以降に可能となります(例えば、令和6年分の申告書の場合、令和7年5月1日以降に申請可能です)。
 ただし、法定申告期限(翌年3月15日)後に申告書等を提出している場合は、税務署における処理のため、申請が可能になるまでしばらく時間を要することがあります。

(2) 保有個人情報の開示請求

 税務署が保有する個人情報に対する開示請求により、提出した申告書等の内容を確認することができます(写しの交付の場合は1か月程度かかります)。

 税務署の窓口での申請の他、e-Taxを利用したオンライン請求も可能であり、手数料は、税務署窓口での申請は300円、オンライン申請は200円です。

 なお、法人の申告書等には利用できません。

(3) 税務署での申告書等の閲覧サービス

 税務署の窓口で過去に提出した申告書等を閲覧することができ、写真撮影も可能です。

 税務署の窓口での申請のみ可能であり、郵送やオンライン申請はできません。

 申告書等が業務センターや外部書庫等に保管されている場合がありますので、申請する際は事前に税務署宛に連絡しておくと手続がスムーズに進みます。

 閲覧対象の申告書等が当日提出したものである場合には、原則として、当日中は閲覧サービスを申請することができません。
 また、所得税等の確定申告期においては、閲覧可能となるまでに時間を要する場合があります。

(4) 納税証明書の交付請求

 納税証明書の交付請求を行うことにより、確定申告書等を提出した場合の納税額又は所得金額の証明書を取得することができます(納税証明書では、提出年月日を確認することはできません)

 税務署の窓口での申請の他、e-Taxを利用したオンライン申請も可能であり、手数料は、税目ごと1年度1枚につき400円(オンライン申請は370円)です。

 所得税等の確定申告期においては、発行までに時間を要する場合があります。

税務署番号と署番号の違いに注意!

 税理士事務所の年中行事のひとつに年末調整があります。

 年末調整によって役員や従業員の年間の所得税(復興特別所得税を含む。以下同じ)が確定すると、税理士や司法書士などの士業に支払った報酬から源泉徴収した所得税とともに、翌年の1月10日(納期の特例の場合は1月20日)までに納付しなければなりません。

 また、年末調整が終われば、源泉徴収票や支払調書といった法定調書とともに、法定調書合計表を翌年の1月31日までに税務署に提出しなければなりません。

 源泉所得税の納付や法定調書合計表の提出の際に気を付けないといけないのが、納付書に記載する「税務署番号」と法定調書合計表に記載する「署番号」は違うということです。

 プレプリントされた納付書や法定調書合計表には、次のように税務署番号や署番号が印刷されています。


 
 上の源泉所得税納付書と法定調書合計表は、同一の納税者に大阪府の茨木税務署から送付されてきたものですが、源泉所得税納付書に記載されている税務署番号は「00035396」であるのに対し、法定調書合計表に記載されている署番号は「03141」となっています。

 税務署番号と署番号は、いずれも各税務署に付番された固有のものですが、同じ番号ではありませんので注意が必要です。

 特に、源泉所得税納付書や法定調書合計表を電子申告する際は、電子申告ソフトに登録した税務署番号や署番号に誤りがないか(同じ番号が登録されていないか)気を付けなければなりません。

賞与不支給報告書は必ず提出しないといけないか?

 役員や従業員に賞与を支給したときは、支給日より5日以内に「賞与支払届」を提出しなければなりません。

 この届出により標準賞与額および賞与の保険料額が決定されるとともに、役員や従業員が将来に受給する年金額の計算の基礎にもなりますので、賞与支払届の提出を失念しないようにしなければなりません。

 一方、賞与を支給しなかった場合は、「賞与不支給報告書」を提出します。

 例えば、毎年12月20日に賞与を支給していた会社が、今年は不況のあおりで賞与を支給しなかったという場合は、賞与不支給報告書を提出することになります。

 ところが、賞与を支給しなかった場合に、賞与不支給報告書を必ず提出しなければいけないかというと、そうでもありません。

 以下では、賞与不支給報告書の提出の要否について確認します。

1.賞与支払予定月を登録している場合

 社会保険(健康保険・厚生年金)の加入時に、新規適用届に賞与支払予定月を記入して提出している場合は、支払予定月の前月に日本年金機構から「賞与支払届」および「賞与不支給報告書」が送付されてきます。

 賞与を支給した場合は賞与支払届(賞与支払届に印字されていても賞与の支給がなかった人については、該当者欄に斜線を引きます)を提出し、誰にも支給しなかった場合は賞与不支給報告書を提出します。

 このように日本年金機構に賞与支払予定月を登録している場合に、いずれの被保険者にも賞与を支給しなかったときは、賞与不支給報告書を提出することになります。

 なお、登録している賞与支払予定月の翌月までに報告書を提出しなかった場合は、翌々月に日本年金機構から催告状が送付されてきます。

2.賞与支払予定月を登録していない場合

 社会保険加入時等に賞与支払予定月を登録していなくても、賞与を支給することができます。
 この場合は、日本年金機構から賞与支払届は送付されませんので、賞与を支給したときは自社で賞与支払届を作成して提出する必要があります。

 賞与支払予定月を登録していない場合は、賞与不支給報告書も日本年金機構から送付されませんが、この場合は、賞与を支給しなかったとしても賞与不支給報告書を提出する必要はありません。

 賞与不支給報告書は、あくまでも賞与支払予定月を登録している場合に賞与を支給しなかったときに提出するものなので、賞与支払予定月を登録していない場合に賞与を支給しなかったとしても、賞与不支給報告書を提出する必要はありません。

 なお、賞与支払予定月を登録していない場合に、毎年同じ時期に賞与を支給してきたからといって、賞与支払予定月を日本年金機構が勝手に登録するということはありません。
 賞与支払予定月の登録は、新規適用届または事業所関係変更(訂正)届の提出等により行われます。

※ 役員賞与を支給しなかった場合の税務上の手続きについては、本ブログ記事「事前確定届出給与を支給しなかった場合のリスクを回避するための手続き」をご参照ください。

子どもの養育費を支払っている親はその子どもを扶養控除の対象にできるか?

 離婚によって子どもと離れて暮らすことになった親は、その子どもの生活や教育のために、子どもを引き取った親(元配偶者)に対して養育費を支払わなければなりません。

 一般的には子どもを引き取った親が親権者になりますが、親権者でなくなった親であっても子どもの親であることに変わりはありませんので,親として養育費の支払義務を負います。

 子どもの養育費を支払っている親にとっては、その子どもを扶養控除の対象とすることができれば、自らの税負担を減らすことができます。

 しかし、離れて暮らしていてもいいのか?あるいは親権者でなくてもいいのか?など、扶養控除を受けるにあたって判然としない点もあります。

 この点について結論を先に述べると、扶養控除を受けるにあたって「同居していること」や「親権者であること」という要件はありませんので、離れて暮らしていても親権者でなくても、扶養控除の適用要件を満たしていれば扶養控除を受けることができます。

 以下において、離婚に伴う養育費の支払いと扶養控除の適用関係について確認します。

1.扶養控除の適用要件

 扶養控除とは、納税者に特定の要件に該当する扶養親族がいる場合、一定の金額(38万円~63万円)を所得金額から控除できる制度です。
 特定の要件に該当する扶養親族とは、次の要件すべてに該当する親族をいいます。

(1) 配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族をいいます)または都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人であること

(2) 納税者と生計を一にしていること

(3) 年間の合計所得金額が48万円以下であること(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)

(4) 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないことまたは白色申告者の事業専従者でないこと

 上記4要件を満たす扶養親族のうち、その年12月31日現在の年齢が16歳以上の人を控除対象扶養親族といい、扶養控除の対象となります。

 離れて暮らす子どもが控除対象扶養親族であるか否かについて、上記の(1)、(3)、(4)、16歳以上という要件については、形式的に判断できますので特に問題はないと思います。

 判断に迷うのは、養育費の支払いが上記(2)の「生計を一にしていること」に該当するか否かだと思われますので、この点について次に確認します。

※ 2025(令和7)年度税制改正で、(3)の要件は「年間の合計所得金額が58万円以下であること(給与のみの場合は給与収入が123万円以下)」に変わりました。
 詳細については、「
扶養親族等の所得要件・住宅借入金等特別控除・生命保険料控除の見直し(令和7年度税制改正)」をご参照ください。

2.「生計を一にする」とは?

 「生計を一にする」とは、必ずしも同居していることを要件とするものではありません。
 例えば、勤務、修学、療養等のために別居している場合であっても、余暇には起居を共にすることを常例としている場合や、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合には、「生計を一にする」ものとして取り扱われます。

 したがって、離れて暮らす子どもが「生計を一にしている」とみることができるかどうかは、離婚に伴う養育費の支払いが「常に生活費等の送金が行われている場合」に当たるか否かによることとなりますが、次のような場合には、扶養控除の対象として差し支えないものとされています。

(1) 扶養義務の履行として支払われる場合

(2) 子が成人に達するまでなど一定の年齢等に限って支払われる場合


 なお、離婚に伴う養育費の支払いが(1)及び(2)のような状況にある場合において、それが一時金として支払われる場合は、「常に生活費等の送金が行われている場合」に該当しないと考えられるため、扶養控除を受けることはできません。

 一方、一時金として支払われる場合であっても、子どもを受益者とする信託契約(契約の解除については元夫婦の両方の同意を必要とするものに限ります)により養育費に相当する給付金が継続的に給付されているときには、その給付されている各年について「常に生活費等の送金が行われている場合」に該当すると考えられるため、扶養控除を受けることができます。
 ただし、信託収益は子どもの所得となりますので、信託収益を含めて子どもの所得金額の判定を行う必要があります。

 また、離れて暮らす親と引き取った親の両方の控除対象扶養親族に子どもが該当する場合には、いずれか一方の親だけしか扶養控除を受けることができません(重複適用はありません)。

※ 離婚に伴う財産分与の課税関係については、本ブログ記事「離婚により自宅を財産分与した場合にかかる税金は?」をご参照ください。