給与所得者(サラリーマン)の確定申告の要否

1.給与所得者で確定申告をしなければならない人

 給与所得者のうち大部分の人は、年末調整によって所得税及び復興特別所得税の精算が完了しますので、確定申告をする必要がありません。
 しかし、給与所得者であっても次のいずれかに当てはまる人は、確定申告をしなければなりません。

(1) 給与の年間収入金額が2,000万円を超える人
(2) 1か所から給与の支払を受けている人で、給与所得および退職所得以外の所得金額の合計額が20万円を超える人
(3) 2か所以上から給与の支払を受けている人のうち、給与の全部が源泉徴収の対象となる場合において、年末調整されなかった給与(従たる給与等)の収入金額と給与所得および退職所得以外の所得金額との合計額が20万円を超える人
(4) 同族会社の役員やその親族などで、その同族会社から給与の他に貸付金の利子や不動産の賃貸料などを受け取っている人
(5) 災害を受けた人で、給与について災害減免法により源泉徴収の猶予などを受けている人
(6) 源泉徴収の規定が適用されない給与(家事使用人給与、在日外国公館から支払を受ける給与など)の支払を受けている人
(7) 退職所得について正規の方法で税額を計算した場合に、その税額が源泉徴収された金額よりも多くなる人

2.給与所得者で確定申告をすれば税金が還付される人

 確定申告をする必要がない給与所得者の人でも、年末調整で適用できない所得控除や税額控除を適用して還付を受けるための確定申告(還付申告)をすることができます。
 還付申告書は、翌年の1月1日から税務署に提出することができます。例えば、令和5年分であれば令和6年1月1日から提出することができます。
 また、還付申告書は3月15日を過ぎても提出することができますが、その提出期間は5年間とされています。例えば、令和5年分の還付申告であれば令和10年12月31日まで提出することができます。
 還付申告をすることができるのは、次のような人です。

(1) 医療費が10万円(または所得金額の合計額の5%)を超えたために医療費控除を受ける人
(2) セルフメディケーション税制で医療費控除の特例を受ける人(上記(1)の医療費控除との選択適用)
(3) 災害や盗難、横領により、住宅や家財などの資産に受けた損害について雑損控除を受ける人(詐欺による被害は雑損控除の対象外)
(4) ふるさと納税などの寄附を行い、寄附金控除を受ける人
(5) 住宅ローンで住宅の新築や購入、増改築等をして、住宅借入金等特別控除を受ける人(入居した最初の年)
(6) 配当所得を申告して配当控除を受ける人
(7) 政党や政治団体に寄附をして政党等寄附金特別控除を受ける人
(8) 災害により住宅や家財に損害を受けたため、災害減免法を適用して所得税及び復興特別所得税の軽減または免除を受ける人
(9) 給与所得者の特定支出控除を受ける人
(10) 年の中途で退職して年末調整を受けなかった人のうち、その年中に再就職しなかった人
(11) 退職金の支払を受ける際に「退職所得の受給に関する申告書」を提出しなかったため、20.42%の税率で源泉徴収された人

3.年末調整が間違っていた場合等の確定申告

 給与所得者で扶養親族等の異動や保険料の追加払いによる年末調整の再調整ができなかった人や年末調整に間違いがあった人は、確定申告により所得税及び復興特別所得税の精算をすることになります。

※ 参考記事「交通費込み給与の交通費部分は確定申告でも非課税にできない

パート・アルバイトの税制上と社会保険制度上の年収の壁

 年末が近づいてくると、パートやアルバイトで働く人の中には、ある一定の年収を超えないように就業調整をする人が出てきます。
 例えば、年収103万円を超えると配偶者控除や扶養控除の対象から外れるため、労働時間を抑制して103万円というラインを超えないようにします。
 この103万円というラインのことを一般に「年収の壁」と呼びますが、年収の壁は103万円だけではありません。
 以下においては、パートやアルバイトで働く給与所得者を前提として、税制上と社会保険制度上の年収の壁について確認します。

1.98万円の壁(住民税)

 年収の壁としてまず直面するのは、住民税における98万円の壁です。給与収入が年間で98万円を超えると住民税がかかります。
 所得税における基礎控除は48万円ですが、住民税における基礎控除は43万円です。そのため、年収が98万円であれば、給与収入98万円-給与所得控除55万円-基礎控除43万円=0円となるので住民税はかかりませんが、98万円を超えると住民税がかかります

※ 住民税は、所得金額に応じて課税される「所得割と、定額で課税される「均等割」から成りますが、住んでいる地域によって住民税が非課税となる所得金額は異なります。詳しくは本ブログ記事「住民税非課税世帯とは?」をご参照ください。

2.103万円の壁(所得税)

 年収の壁として広く一般に認識されているのは、所得税における103万円の壁です。
 配偶者控除や扶養控除の対象となるには合計所得金額が48万円以下であることが必要ですが、年収が103万円であれば、給与収入103万円-給与所得控除55万円=48万円となるので、配偶者控除や扶養控除の対象となります。
 また、年収が103万円であれば、給与収入103万円-給与所得控除55万円-基礎控除48万円=0円となるので本人にも所得税はかかりません。

3.106万円の壁(社会保険)

 社会保険制度上の年収の壁として、106万円の壁があります。
 ①従業員が101人以上(2024(令和6)年10月からは51人以上)、②週の労働時間が20時間以上、③月収8.8万円以上(年収106万円以上)、④2か月以上雇用の見込、⑤学生でない、といった条件を満たす場合は、パートやアルバイト従業員が自ら社会保険被保険者となり社会保険の扶養から外れます。

4.130万円の壁(社会保険)

 所得税における103万円の壁と同様に広く一般に認識されているのが、社会保険における130万円の壁です。
 130万円の壁とは、社会保険被保険者である給与所得者(例えば夫)が扶養する者(例えば妻)については、夫が負担する社会保険料のみで妻の健康保険料及び国民年金保険料まで賄われるという年収の分岐点のことをいいます。
 従業員が101人以上(2024(令和6)年10月からは51人以上)の企業では106万円、それより規模の小さい企業では130万円が年収の壁となっています。

5.150万円の壁(所得税)

 年収103万円を超えると配偶者控除の対象から外れますが(上記2)、年収150万円以下であれば、配偶者特別控除は満額の38万円が適用されます(ただし、給与所得者の合計所得金額が900万円以下の場合です)。
 年収150万円を超えると、段階的に配偶者特別控除が減っていきます。

6.180万円の壁(社会保険)

 意外と見落とされやすいのが、社会保険における180万円の壁です。
 60歳以上や障がい者の方は、年収130万円ではなく年収180万円までは社会保険の扶養に入ることができます(関連記事「扶養判定における遺族年金の取扱いは所得税と社会保険で異なる!」)。

7.201万円の壁(所得税)

 年収150万円を超えると段階的に配偶者特別控除が減っていきますが(上記5)、年収201万円を超えると配偶者特別控除はゼロとなります。
 201万円の壁とは、配偶者特別控除が適用されるか否かの年収の分岐点のことをいいます。

扶養判定における遺族年金の取扱いは所得税と社会保険で異なる!

 納税者に所得税法上の控除対象扶養親族となる人がいる場合には、その納税者は扶養控除を受けて所得税を節税することができます。
 また、被保険者に社会保険制度上(協会けんぽ)の被扶養者となる人がいる場合には、被保険者だけではなく、その被扶養者についての病気・けが・死亡・出産についても保険給付が行われます。
 所得税法上の控除対象扶養親族の判定には所得基準があり、社会保険制度上の被扶養者の判定には収入基準がありますが、遺族年金の取扱いは両者で異なります。
 以下では、扶養判定の際の遺族年金の取扱いについて確認します。

1.所得税の扶養控除と遺族年金

(1) 控除対象扶養親族となる人の要件

 扶養親族とは、その年の12月31日(納税者が年の中途で死亡しまたは出国する場合は、その死亡または出国の時)の現況で、次の4つの要件のすべてに当てはまる人をいいます。

① 配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族)、または都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人であること
② 納税者と生計を一にしていること
③ 年間の合計所得金額が48万円以下であること(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)
④ 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと、または白色申告者の事業専従者でないこと

 控除対象扶養親族とは、上記の扶養親族のうち、その年の12月31日現在の年齢が16歳以上の人(一般の控除対象扶養親族といいます)が該当します。

(2) 扶養控除の判定と遺族年金

 控除対象扶養親族に該当する人がいる場合、納税者は扶養控除を受けることができますが、特にお年寄りを扶養している納税者は、所得税の特例を受けることができます。
 例えば、一般の控除対象扶養親族がいる場合は38万円の扶養控除となりますが、老人扶養親族(控除対象扶養親族のうち、その年の12月31日現在の年齢が70歳以上の方をいいます)がいる場合は48万円の扶養控除となり、さらに同居老親(老人扶養親族のうち、納税者やその配偶者の直系尊属(父母、祖父母など)で、納税者やその配偶者との同居を常としている方をいいます)であれば58万円の扶養控除となります。
 老人扶養親族や同居老親に該当する方の多くは年金を受給されていると思われますが、この年金も含めて合計所得金額が48万円以下でなければなりません。

 では、所得税が非課税とされる遺族年金は、合計所得金額48万円以下の判定にあたって含まれるのでしょうか?
 例えば、遺族厚生年金120万円とパート収入60万円がある同一生計の母(70歳)を扶養控除の対象とすることはできるのでしょうか?

 扶養親族に該当するか否かを判定する場合の合計所得金額には、所得税法やその他の法令の規定によって非課税とされる所得の金額は含まれないことになっています。
 厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金や国民年金法に基づく遺族基礎年金などは非課税所得なので、上記の母の合計所得金額は5万円(給与収入60万円-給与所得控除55万円=給与所得5万円)となり、扶養控除の対象とすることができます(母が他の人の扶養控除の対象になっていないことが前提です)。
 

2.社会保険の被扶養者と遺族年金

(1) 被扶養者となる人の要件

 社会保険(健康保険)の被扶養者に該当する条件は、日本国内に住所(住民票)を有しており、被保険者により主として生計を維持されていること、および次の①と②のいずれにも該当した場合です

① 収入要件
 年間収入130万円未満(60歳以上または障害者の場合は年間収入180万円未満)かつ
 ・同居の場合は収入が扶養者(被保険者)の収入の半分未満
 ・別居の場合は収入が扶養者(被保険者)からの仕送り額未満

② 同一世帯の条件
ア.被保険者と同居している必要がない者
 ・配偶者
 ・子、孫および兄弟姉妹
 ・父母、祖父母などの直系尊属
イ.被保険者と同居していることが必要な者
 ・上記ア以外の3親等内の親族(伯叔父母、甥姪とその配偶者など)
 ・内縁関係の配偶者の父母および子(当該配偶者の死後、引き続き同居する場合を含む)

※ 協会けんぽ以外の健康保険(健康保険組合など)の被扶養者については、被保険者の勤務先の健康保険組合によって要件が異なります。本記事では、協会けんぽを前提としています。

(2) 被扶養者の判定と遺族年金

 所得税法上は遺族年金は非課税所得であり、扶養控除の判定にあたっても合計所得金額には含まれないことを上記1で確認しました。
 では、社会保険(健康保険)においては、年間収入130万円未満(60歳以上または障害者の場合は年間収入180万円未満)という被扶養者の判定にあたって、遺族年金は収入に含まれるのでしょうか?

 結論を先に述べると、健康保険の被扶養者となる収入要件の判定には、遺族年金も含まれます。
 例えば、遺族厚生年金120万円とパート収入60万円がある同一生計の母(70歳)の場合、合計所得金額が48万円以下ですので所得税では扶養控除の対象となります。
 しかし、遺族年金も合わせた収入合計が180万円ですので年間収入180万円未満という収入要件を満たさず、健康保険では被扶養者の対象にはなりません。

海外転勤者の税金と社会保険

1.国外転出届により国内住所がなくなる

 1年以上の予定で海外転勤となる場合は、居住している自治体に国外転出届を提出します。この届出により国内に住所はなくなりますが、国内に住所がなくなることで、住所を基に課される税金や社会保険の扱いも変わってきます。

※ 国外に居住することとなった者は、国外における在留期間が契約等によりあらかじめ1年未満であることが明らかであると認められる場合を除き、「国外において継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有する者」として、非居住者として取り扱われます。

2.非居住者の所得税・住民税

 国内に住所がなくなると、所得税法上の納税義務者区分は非居住者となります。
 非居住者は、給与以外の所得がなければ日本での所得税の課税はなく、勤務先国での税法に従った課税となります(駐在期間中の自宅を他人用の賃貸に出すなど、給与以外の日本国内源泉所得がある場合は、日本での確定申告が必要となることもあります)。

 個人住民税は、その年の1月1日時点で市町村(都道府県)に住所がある者に対して課税されます。そのため、住所がなくなった翌年からは、帰国して住所を持つこととなるまで、住民税は課されないことになります。

※ 非居住者(内国法人の役員等一定の者を除きます)の国外勤務に係る給与が、非居住者の国内口座に振り込まれている場合でも、振込額の全額が日本での課税対象とはなりません。日本での課税対象となるものは、非居住者が支払を受ける給与のうち国内勤務に係る給与です。

3.非居住者の社会保険

 赴任前の国内会社から継続して国内払い給与があれば、海外赴任中も各種社会保険(健康保険、厚生年金保険、雇用保険など)の被保険者資格は継続となります
 厚生年金につき、赴任先国と日本との間で年金協定があれば、2つの国での二重払いを回避できます。

 健康保険が継続していると、海外赴任中に急な病気やけがなどによりやむを得ず現地の医療機関で診療等を受けた場合に、申請により一部医療費の払い戻しを受けられる海外療養費制度が使えます。

 一方、雇用主が駐在先の現地法人となる場合には、現在の日本での被保険者資格を喪失することになります。その場合は厚生年金から国民年金への切り替えや健康保険の任意継続などの手続きが必要となります。

 国民年金は、日本国籍者であれば、海外居住でも任意加入できます。国民年金に任意加入する目的としては、年金をもらう条件として必要な加入期間を充足させることと将来もらえる年金額を減らさないためなどです。
 なお、海外在住者に国民健康保険の任意加入制度はありません。

※ 健康保険および厚生年金保険は、適用事業所に勤務する限り、国内における住所の有無を問わず加入します。なお、社会保障協定を結んでいる国で働く場合、外国の社会保障制度の加入が免除される場合があります。

猶予措置は電子取引データ保存の最後の手段!

 電子取引データの保存要件が緩和されたとはいえ、対応に四苦八苦している事業者や既にあきらめている事業者の方もいます。そのような方には、究極の緩和策である猶予措置の適用をお勧めします。
 今回は、FM宝塚「インボイス制度ってな~に?パート2」の最終回で本日の8:15からオンエアした内容を、Q&A形式でお伝えします。

※ 番組の概要については、本ブログ記事「FM宝塚で今年もインボイス制度等の解説をします」をご参照ください。

1.どうしても対応できない場合は猶予措置

Q.前回の放送で、税務職員のダウンロードの求めに応じることができて2年前の売上高が5,000万円以下の事業者などは、検索機能を確保しなくてもいいという話がありました。その場合でも、保存要件に従った電子データの保存が必要ということでしたが、どうしても対応できないという声もあります。そんな場合はどうしたらいいでしょうか?

A.2023(令和5)年度の改正で猶予措置が設けられ、この猶予措置の要件に該当する場合は保存要件を満たさなくてもよく、電子データを単に保存しておくことができるとされました。

Q.猶予措置の要件とは?

A.次の2つのいずれにも該当することが必要です。

(1) 保存要件を満たせなかったことについて、所轄税務署⻑が「相当の理由」があると認める場合

(2) 税務調査の際に、電子データのダウンロードの求め及びその電子データをプリントアウトした書面の提示・提出の求めにそれぞれ応じることができるようにしている場合

この2つの要件を満たせば、2024(令和6)年1月1日以降も電子データを印刷して紙で保存することができますので、対応に困っている事業者の方は猶予措置の適用を検討してみてください。

2.猶予措置における「相当の理由」とは?

Q.猶予措置は検討する価値があると思いますが、「相当の理由」の内容が気になります。どんな場合に「相当の理由」があると認められるのでしょうか?

A.この「相当の理由」については、電子帳簿保存法取扱通達7-12に記載されています。要約しますと、例えば、保存要件に適合したシステムの導入や社内でのワークフローの整備が間に合わない場合などは相当の理由があると認められます。また、資金繰りや人手不足等も相当の理由として認められるようです。

Q.「準備が間に合わない」とか「資金や人手が足りない」など、自己の責任だと思われるような理由でも認められるのですね?

A.そうですね。ただし、単に経営者の信条のみに基づく理由である場合は認められません。例えば、電子データは一瞬で失われる可能性があるので、我が社では電子データを紙で保存することを信条としている、といった場合です。

Q.相当の理由について、税務署への事前の申請は必要ですか?

A.事前申請は必要ありません。仮に税務調査の際に、相当の理由について税務職員から確認があった場合には、各事業者における対応状況や今後の見通しなどを具体的に説明すれば差し支えないとされています。

Q.電子帳簿保存法は令和4年1月1日から始まっていますが、令和5年12月31日までの2年間に限り、電子データを紙で保存してもいいとされています。今回の改正で設けられた猶予措置にも期限はありますか?

A.期限はありません。猶予措置は経過措置ではなく本則として規定された恒久的措置ですので、猶予措置が適用される限り、電子データを紙で保存することができます。

3.紙保存に加えてデータの保存も必要

Q.猶予措置を適用している間は紙保存ができるということですが、電子データを保存しなくてもいいということになりますか?

A.いいえ。この点については誤解する事業者の方もいるかもしれませんので念を押しておきますと、先ほど言いましたように、猶予措置には「電子データのダウンロードの求めに応じることができる」という要件があります。ダウンロードの求めに応じるためには、電子データの保存が必要になります。つまり、電子帳簿保存法が定める保存要件に従った保存は不要ですが、電子データを保存しなくてもいいということではありません。

Q.ということは、猶予措置を適用する場合でも、紙保存に加えて電子データの保存も必要ということですね。でも、保存要件を満たす必要がなくなるだけでだいぶん負担が減りますね。

A.そうですね。これまでの紙保存と何が変わるかといえば、電子データをとりあえず保存するだけですからね。この猶予措置ができたことによって電子帳簿保存法が骨抜きにされたという意見もありますが、対応に困っていた事業者の方は助かると思います。

インボイスの保存がなくても仕入税額控除できる15のケース

 インボイス制度の下では、インボイス発行事業者以外からの仕入れは原則として仕入税額控除ができませんが、インボイスの保存がなくても帳簿のみの保存で仕入税額控除ができる場合もあります。
 以下では、インボイスの保存がなくても仕入税額控除ができるケースについて確認します。

1.免税事業者からの仕入れでも仕入税額控除できる「経過措置」

 経過措置とは、激変緩和の趣旨から、インボイスを発行できない免税事業者からの仕入れであっても、インボイス制度開始後の3年間は80%、次の3年間は50%の仕入税額控除ができるというものです。
 インボイスの保存がなくても仕入税額控除できますが、帳簿には経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨を記載しておかなければなりません。
 経過措置については、本ブログ記事「インボイス制度導入後の免税事業者からの仕入れに係る仕入税額控除の特例(経過措置)」をご参照ください。

2.「少額特例」を適用する場合

 少額特例は、インボイス制度開始後6年間に限り、小規模事業者が行う税込1万円未満の課税仕入れについては、インボイスの保存がなくても仕入税額控除が認められるという事務負担の軽減措置です。
 少額特例については、本ブログ記事「インボイスの保存がなくても仕入税額控除が認められる「少額特例」とは?」をご参照ください。

3.インボイスの交付義務が免除される取引

 次の取引は、インボイス発行事業者が行う事業の性質上、インボイスを交付することが困難なため、インボイスの交付義務が免除されます。したがって、取引の相手方はインボイスの保存がなくても仕入税額控除できます。
 ただし、帳簿には以下のいずれかの仕入れに該当する旨を記載しておかなければなりません。

(1) 3万円未満の公共交通機関(船舶、バス又は鉄道)による旅客の運送(公共交通機関特例)
(2) 出荷者等が卸売市場において行う生鮮食料品等の販売(出荷者から委託を受けた受託者が卸売の業務として行うものに限る)
(3) 生産者が農業協同組合、漁業協同組合又は森林組合等に委託して行う農林水産物の販売(無条件委託方式かつ共同計算方式により生産者を特定せずに行うものに限る)
(4) 3万円未満の自動販売機及び自動サービス機により行われる商品の販売等(自動販売機特例)
(5) 郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限る)

 なお、インボイスの交付義務が免除される取引については、本ブログ記事「適格請求書等の発行が免除される場合とは?」をご参照ください。

4.個人からの仕入れが多い事業者の場合

 事業者ではない個人からの仕入れが多い事業者(例えば個人からマイホームを買い取る不動産業者やマイカーを買い取る中古車販売業者など)には、インボイスの交付を受けることが困難であるなどの理由により、インボイスの保存がなくても仕入税額控除が認められるとする例外的な措置が講じられています。
 ただし、帳簿には以下のいずれかの仕入れに該当する旨を記載しておかなければなりません。

(1) 古物営業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの古物(古物営業を営む者の棚卸資産に該当するものに限ります)の購入
(2) 質屋を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの質物(質屋を営む者の棚卸資産に該当するものに限ります)の取得
(3) 宅地建物取引業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの建物(宅地建物取引業を営む者の棚卸資産に該当するものに限ります)の購入
(4) 適格請求書発行事業者でない者からの再生資源及び再生部品(購入者の棚卸資産(古紙、空びん、廃自動車、廃家電製品等)に該当するものに限ります)の購入

 なお、個人からの仕入れが多い事業者の例外的措置については、本ブログ記事「インボイス制度導入後の個人(消費者)からの仕入れに係る仕入税額控除」をご参照ください。

5.回収される入場券や従業員に支給する出張旅費

 簡易インボイスが交付されるが回収される取引や、上記4と同様にインボイスの交付義務がない者との取引については、インボイスの保存がなくても仕入税額控除できます。
 ただし、帳簿には以下のいずれかの仕入れに該当する旨を記載しておかなければなりません。

(1) 適格簡易請求書の記載事項(取引年月日を除きます)が記載されている入場券等が使用の際に回収される取引
(2) 従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)

6.「簡易課税制度」を適用する場合

 上記1~5は、原則課税(本則課税)で仕入税額控除を行う場合を前提としていましたが、簡易課税制度を適用する場合はそもそもインボイスの保存は必要ありません。
 簡易課税制度は売上にかかる消費税(受け取った消費税)がわかれば、それにみなし仕入率(業種ごとに90%・80%・70%・60%・50%・40%と決められている)を乗じて仕入税額控除の額が計算できるので、原則課税のようにインボイスから消費税額を集計する必要がありません。

7.「2割納税の特例」を適用する場合

 2割納税の特例は、簡易課税制度におけるみなし仕入率を業種にかかわりなく一律80%とするものです。計算構造が簡易課税制度と同じなので、インボイスの保存は不要です。
 2割納税の特例については、本ブログ記事「インボイス制度に係る支援措置:売上税額の2割納税」をご参照ください。

インボイス登録を最短でやめたい個人事業者は令和5年12月17日までに取消届の提出を!

1.インボイスの登録をしたものの・・・

 インボイス制度がスタートしてから1か月余りが経ちましたが、「インボイスの登録をやめることはできないか?」というご相談を受ける機会が増えています。
 これらのご相談者は、本来は免税事業者なのに、インボイス制度が導入されたが故にインボイス発行事業者の登録をされた個人事業主の方々です。
 多くの方が税理士の関与を受けておらず、インボイスの登録にあたって適切なアドバイスを受けることができなかったため、取引先に言われるがままに登録をしたケースがほとんどでした。
 ところが、インボイス制度が始まって蓋を開けてみたら、登録をしていない免税事業者も多いことを報道などで知って、冒頭のご相談に至ったようです。

2.最短では令和6年1月1日から免税事業者に戻れる

 上記の個人事業主の方々の場合、2023(令和5)年は、10月1日から12月31日までの3か月分については消費税の申告義務がありますが、2年縛りの制限がないため※1、最短では2024(令和6)年1月1日から免税事業者に戻ることができます※2

※1 「2年縛り」については、本ブログ記事「免税事業者がインボイスの登録を受ける場合の2年縛りに注意!」をご参照ください)。

※2 基準期間(2022(令和4)年1月1日~同年12月31日)の課税売上高が1,000万円を超えている場合は、インボイスの登録をやめても2024(令和6)年は課税事業者となりますのでご注意ください。

3.登録をやめる場合は取引先と相談を

 ただし、インボイスの登録をやめて免税事業者に戻る場合は、その旨を取引先に伝えて登録をやめた後の取引がどうなるかについて確認しておくことが必要です。
 もし、登録をやめるなら取引も打ち切るとか、消費税分は払わないというようなことを先方が通告してきた場合は(これらの行為は下請法や独占禁止法上問題となるおそれがありますので、面と向かって言われることはないと思いますが※3)、例えば、経過措置がある間は消費税分の20%を値引きする代わりに免税事業者のままでの取引継続を打診するなど※4、多少の妥協を含みながらも双方が納得できる着地点を探ることが大事です。

※3 独占禁止法・下請法上問題となる事例については、本ブログ記事「インボイス制度後の免税事業者との取引は独占禁止法・下請法違反に注意」をご参照ください。

※4 経過措置については、本ブログ記事「インボイス制度導入後の免税事業者からの仕入れに係る仕入税額控除の特例(経過措置)」をご参照ください。

4.登録取消届出書を期限までに提出

 取引先との交渉がまとまって、インボイスの登録をやめることができる場合は、「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」(登録取消届出書)を、翌課税期間の初日から起算して15日前の日までに税務署に提出します。
 具体的には、2023(令和5)年12月17日(日)までに登録取消届出書を提出すれば、2024(令和6)年1月1日から免税事業者に戻ることができます。
 なお、2023(令和5)年12月17日は日曜日ですので、税務署の窓口に提出する場合は12月15日(金)の閉庁時間(17:00)までに提出し、郵送の場合は12月17日(日)の通信日付印のあるものまでが有効です。e-Taxの場合は12月17日(日)の23:59:59までの受付となります。

 取引先との交渉がまとまらず、インボイスの登録を継続する場合は、消費税分も堂々と請求しましょう。
 そして消費税の申告をする際は、2026(令和8)年分までは「2割納税の特例」を適用することができますので、税負担・事務負担の軽減を図りましょう※5

※5 「2割納税の特例」については、本ブログ記事「インボイス制度に係る支援措置:売上税額の2割納税」「売上税額の2割納税の特例と簡易課税制度はどちらが有利か?」をご参照ください。

電子取引データ保存の具体的な対応方法

 2024(令和6)年1月1日から、すべての事業者は電子取引を電子データのまま保存しなければなりませんが、単に保存するのではなく保存要件に従った保存をしなければなりません。
 今回は、FM宝塚「インボイス制度ってな~に?パート2」で本日の8:15からオンエアした内容を、Q&A形式でお伝えします。

※ 番組の概要については、本ブログ記事「FM宝塚で今年もインボイス制度等の解説をします」をご参照ください。

1.保存要件―真実性の確保

Q.保存要件とは?

A.電子データの保存要件には、真実性の確保と可視性の確保があります。真実性の確保とは「保存されたデータが改ざんされていないこと」をいい、可視性の確保とは「保存されたデータを検索・表示できること」をいいます。

Q.真実性を確保するためには、どのような方法がありますか?

A.真実性確保(改ざん防止)のためには、3つの方法があります。1つ目は「電子データにタイムスタンプを付与する方法」、2つ目は「訂正・削除の履歴を確認できるシステム又は訂正・削除を行うことができないシステムで保存を行う方法」、3つ目が「改ざん防止に関する事務処理規程に沿った運用を行う方法」です。

Q.タイムスタンプとは何でしょうか?

A.例えば、書類を社内で回覧する場合のような紙での手続きでは、正式に処理された証として印鑑が利用されてきましたが、その印鑑に代わって電子データに付与されるものがタイムスタンプです。

Q.タイムスタンプは誰でも付与できますか?

A.タイムスタンプは保存されたデータの正当性を裏付けるものとなりますので、事業者が勝手に付与することはできません。第三者機関である「時刻認証局」を通じてタイムスタンプを付与する仕組みとなっています。そのため、タイムスタンプを付与するためには、新たなシステムの導入が必要です。

Q.2つ目の「訂正・削除の履歴を確認できるシステム又は訂正・削除を行うことができないシステムで保存を行う方法」もタイムスタンプが必要ですか?

A.こちらについてはタイムスタンプは不要ですが、そもそもこのような要件を満たしたシステムの導入が必要です。

Q.ということは、改ざん防止策の1つ目と2つ目の方法は新たなシステムの導入が必要になりますので、導入コストやランニングコストなどを考えると、中小企業や個人事業主には対応し難い面がありますね。

A.その通りです。そこでお勧めしたいのが3つ目の「改ざん防止に関する事務処理規程に沿った運用を行う方法」です。この方法でしたら現状のシステムで対応可能ですので、新たなコストもかかりません。ただし、改ざん等の不正をどうすれば防止できるのかについて社内で検討し、事務処理規程を作成する必要があります。

Q.事務処理規程の作成は難しそうなので、専門家に依頼した方がいいですか?

A.いいえ。国税庁ホームページに法人用と個人用のひな型が用意されていますので、それを自社用にアレンジすることで容易に作成できます

※ 事務処理規程の作成については、本ブログ記事「事務処理規程の書き方と記載例:電子取引データ保存」をご参照ください。

2.保存要件―可視性の確保

Q.もう1つの保存要件である可視性を確保するためには、どうすればいいですか?

A.可視性を確保するためには、概ね2点の対応が必要です。1点目はパソコンやディスプレイ、プリンタを設置し、これらの操作マニュアルと概要書を備え付けて、データを画面上や書面で確認できるようにしておくことです。

Q.パソコン等の周辺に説明書を置いておくだけで簡単に対応できそうですね。もう1点の対応とは何ですか?

A.保存したデータの検索機能を確保することです。この検索機能の確保には3つの要件がありすべてを満たす必要があったのですが、令和5年度の改正で大幅に緩和されました。

Q.どのように緩和されたのですか?

A.詳細な説明は省略して結論だけを言いますと、税務調査の際に税務職員によるダウンロードの求めに応じることができて2年前の売上高が5,000万円以下の場合は、検索機能の確保自体が不要(つまり3つの要件すべてが不要)とされました。さらにダウンロードの求めに応じることを前提に、整然かつ明瞭な状態で印刷され日付と取引先ごとに整理された書面を提示・提出できる場合も検索機能の確保が不要となりました。

Q.要件を満たせば検索機能の確保が不要になるということですが、ダウンロードの求めには応じないといけないのですね。ということは、電子データの保存は必要ということですね?

A.その通りです。あくまでも可視性の要件の1つである検索機能の確保が不要となるだけであって、真実性と可視性が確保された状態で電子データを保存しなければなりません。具体的には、事務処理規程を作成・運用して真実性を確保し、パソコン等の周辺に説明書を置いて可視性を確保します。

免税事業者がインボイスの登録を受ける場合の2年縛りに注意!

 2023(令和5)年10月1日からインボイス制度がスタートしましたが、インボイス制度開始後も登録申請ができます。
 ただし、免税事業者がインボイスの登録を受ける場合は、消費税課税事業者選択届出書を提出していなくても、登録日から最低2年間は免税事業者に戻ることができない場合があります(いわゆる「2年縛り」です)。
 以下では、この2年縛りについて確認します。

1.免税事業者が経過措置期間中に登録を受ける場合

 免税事業者が、2023(令和5)年10月1日から2029(令和11)年9月30日までの日の属する課税期間中において、2023(令和5)年10月1日(=10月2日以後)に登録を受ける場合は、登録申請書に「提出日から15日以降の日」を登録希望日として記載することで、その登録希望日から登録を受けることとなる(=課税事業者となる)経過措置が設けられています。

 また、免税事業者が登録を受けるためには、原則として消費税課税事業者選択届出書を提出して課税事業者となる必要がありますが、この経過措置の適用を受けることとなる場合は、登録を受けるに当たり、課税事業者選択届出書を提出する必要はありません。

 なお、この経過措置の適用を受けてインボイス発行事業者の登録を受けた場合、基準期間の課税売上高にかかわらず、登録日から課税期間の末日までの期間について、消費税の申告が必要となります。

2.登録日の属する課税期間が令和5年10月1日を含まない場合は2年縛りあり

 上記の経過措置の適用を受ける登録日の属する課税期間が2023(令和5)年10月1日を含まない場合は、登録日の属する課税期間の翌課税期間から登録日以後2年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間については免税事業者となることはできません。

 例えば、免税事業者である個人事業者や12月決算法人が2023(令和5)年12月1日から登録を受ける場合は、登録日(R5.12.1)の属する課税期間(R5.1.1~R5.12.31)が2023(令和5)年10月1日を含みますので、2年縛りはありません。
 したがって、最短では2024(令和6)年1月1日から免税事業者に戻ることができます(登録取消届出書を、翌課税期間の初日から起算して15 日前の日までに提出する必要があります)。

 しかし、免税事業者である個人事業者や12月決算法人が2024(令和6)年1月1日から登録を受ける場合は、登録日(R6.1.1)の属する課税期間(R6.1.1~R6.12.31)が2023(令和5)年10月1日を含みませんので、2年縛りがあります。
 この場合は、登録日(R6.1.1)の属する課税期間(R6.1.1~R6.12.31)の翌課税期間(R7.1.1~R7.12.31)から登録日以後2年を経過する日(R7.12.31)の属する課税期間(R7.1.1~R7.12.31)まで免税事業者になることができません。
 したがって、課税事業者としての強制適用期間は、2024(令和6)年1月1日から2025(令和7)年12月31日までの2年間となります。

 また、免税事業者である個人事業者や12月決算法人が2024(令和6)年2月1日から登録を受ける場合も、登録日(R6.2.1)の属する課税期間(R6.1.1~R6.12.31)が2023(令和5)年10月1日を含みませんので、2年縛りがあります。
 この場合は、登録日(R6.2.1)の属する課税期間(R6.1.1~R6.12.31)の翌課税期間(R7.1.1~R7.12.31)から登録日以後2年を経過する日(R8.1.31)の属する課税期間(R8.1.1~R8.12.31)まで免税事業者になることができません。
 したがって、課税事業者としての強制適用期間は、2024(令和6)年2月1日から2026(令和8)年12月31日までの2年11か月間となります。

 上記のように免税事業者である個人事業者や12月決算法人を前提にすると、2024(令和6)年1月1日以降にインボイスの登録を受ける場合は、消費税課税事業者選択届出書を提出していなくても、2年縛りがあります。

 免税事業者がインボイスの登録を受ける場合の2年縛りの有無について、結論を示すと次のようになります。

2023(令和5)年10月1日を含む課税期間に、登録に係る経過措置の適用により登録を受ける場合は、「2年縛りなし
2023(令和5)年10月1日を含む課税期間の翌課税期間以後に、登録に係る経過措置の適用により登録を受ける場合は、「2年縛りあり

経費(販管費)に関する勘定科目の内容と税務上の注意点

1.どの勘定科目を使う?

 日々の取引をどの勘定科目で記録したらいいのか迷うことがあります。例えば、ガソリン代なら「旅費交通費」「燃料費」「車両費」などが該当しそうですが、実際はどれが正しいのでしょうか?
 実はどれも正しいです。一般的に妥当だと判断される勘定科目が何種類かあったら、どれを選択してもOKです。また、会社によっては、業種や規模によって勘定科目を追加し、独自の勘定科目体系を整えているところもあります。
 どの勘定科目を使用してもいいのですが、例えばガソリン代について「燃料費」を使うというルールを決めたら、みだりに(正当な理由なく)変更してはいけません。

2.経費科目の内容と注意点

 以下では、販売費及び一般管理費に属する主な経費科目とその内容及び税務上の注意点について確認します。

(1) 役員報酬

 役員に対して支給する給与や賞与を処理するための勘定です。損金算入できる役員報酬には、定期同額給与、事前確定届出給与及び業績連動給与があります。
 役員報酬に関する注意点等については、本ブログ記事「定期同額給与の類型と改定」、「役員報酬の前払いは定期同額給与(経費)になりません」、「『事前確定届出給与に関する届出書』等の書き方と記載例」「事前確定届出給与を支給しなかった場合のリスクを回避するための手続き」等をご参照ください。

(2) 給料手当・雑給

 従業員に対して支給する給与や賞与を処理するための勘定です。
 具体的には、基本給、諸手当、家族手当、住宅手当、時間外勤務手当、休日勤務手当、役付手当、職務手当、食事手当などです(通勤手当については下記(7)旅費交通費をご参照ください)。
 時間給制のアルバイトやパート等に対する給与は給料手当で処理しますが、区別して管理する場合は雑給で処理します。
 給料手当・雑給に関する注意点等については、本ブログ記事「源泉徴収税額表の『月額表』『日額表』の使い方と『甲欄』『乙欄』『丙欄』」、「パートやアルバイトの給与を丙欄で源泉徴収するときの注意点と建設業の特例」「令和5年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の書き方と記載例」「使用人賞与を未払計上する場合の注意点」等をご参照ください。

(3) 法定福利費

 法定福利費とは、健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、労災保険料、子ども・子育て拠出金などの会社が負担することが法律で定められている保険料のことをいいます。
 全従業員を被保険者として会社が契約した損害保険料などは、法定福利費ではなく福利厚生費や保険料などで処理します。
 法定福利費に関する注意点等については、本ブログ記事「決算日が月末以外の会社は社会保険料の会社負担分を未払計上できない」「未払計上した決算賞与に係る社会保険料は未払計上できない」をご参照ください。

(4) 広告宣伝費

 不特定多数の人に対する宣伝効果を目的として支出した項目を処理する勘定です。
 具体的には、雑誌掲載料、テレビCM、インターネット広告、折込チラシ、カタログ、パンフレット、社名入りの手帳やタオル・カレンダー、展示会出展費用、大会協賛金、団体名簿掲載料、電話帳掲載料、ダイレクトメール、見本品、試供品、賞品(景品)、粗品、会社案内などです。
 新商品の発売を記念したキャンペーンの賞品(景品)として当選者を旅行に招待する場合は、不特定多数を対象にした宣伝活動にかかる経費として広告宣伝費で処理します。
 しかし、得意先の役員等を新商品の販売促進のために旅行へ招待する場合は、交際費で処理します。
 また、社員旅行の場合は、福利厚生費で処理します。

(5) 接待交際費

 得意先、仕入先、株主など事業に関連ある者に対して「お付き合い」のために支出した項目を処理する勘定です。
 具体的には、御歳暮、御中元、お土産、接待、贈答品、商品券、お礼、接待ゴルフ、お車代取引先との親睦旅行、慶弔金、開店祝金、ご祝儀、忘年会、新年会、餞別、花輪、ロータリークラブ・ライオンズクラブの会費※1などです。
 法人税法では、一定の要件の下に損金算入限度額(経費にできる上限額)が定められており、その限度額を超えると法人税の課税対象となります。
 得意先社員との打合せや会議の際に支払う少額(1人当たり5,000円以下)の飲食費については、一定の要件※2の下に交際費から除かれ、別勘定の会議費等で処理するか、別表15の「交際費等の額から控除される費用の額」に記載して交際費から除きます。。

※1 参考記事「ロータリークラブ、ライオンズクラブの会費は法人と個人で経理処理が異なる!

※2 次に掲げる事項を記載した領収書等の保存が必要です。
① 飲食等の年月日
② 飲食等に参加した得意先等の氏名又は名称、その関係
③ 飲食等に参加した人数
④ その費用の金額、飲食店等の名称及び所在地
⑤ その他参考となるべき事項

(6) 福利厚生費 

 従業員のために支出した項目で、健康診断等の医療費、社宅などの家賃、従業員に対する慶弔費、親睦費、制服代、夜食代などを処理する勘定です。
 具体的には、忘年会、新年会、親睦会、送別会、歓迎会、社員旅行、社内行事、作業服、クリーニング代、従業員用菓子代、残業夜食代、給食、医療用品(体温計、包帯)、健康診断費用、常備薬、雑貨、従業員への祝い金(結婚、出産など)、慶弔金、見舞金、香典、永年勤務者表彰金などです。
 福利厚生に関する注意点等については、本ブログ記事「福利厚生費が給与課税されないための要件」、「慰安旅行費が福利厚生費となるための3要件と注意点」、「永年勤続表彰金は社会保険・労働保険・所得税の対象となるか?」をご参照ください。

(7) 旅費交通費

 旅費と交通費を処理する勘定です。
 具体的には、外出交通費、タクシー代一時的な駐車代、高速代、回数券、指定席券、特急券、航空券、出張に際して支給した出張旅費、出張宿泊料、出張手当(日当)、通勤手当などです。また、ガソリン代を含めることもあります。
 タクシー代については、取引先を接待したときに渡す「お車代」は交際費で処理しますが、飲食店等の接待場所まで移動するための自社のタクシー代は旅費交通費で処理します。
 駐車代については、コインパーキングなどの一時的な駐車代は旅費交通費で処理しますが、月極駐車場の場合は地代家賃で処理します。
 出張手当(日当)については、出張旅費規程(社員区分(役員や従業員)に応じた交通費・宿泊費・日当などを定めた規定)に基づかない支給は給与とみなされ、所得税(及び住民税)が課税されます。
 通勤手当については、本ブログ記事「通勤手当の非課税限度額に注意」「交通費込み給与の交通費部分は確定申告でも非課税にできない」をご参照ください。

(8) 荷造運賃

 商品、製品を販売し、取引先まで届けるための諸費用を処理する勘定です。
 具体的には、梱包費、包装材料費、梱包費用、配送料金、小包代、宅配便、発送運賃などです。

(9) 通信費

 社内・社外の相手と連絡をとるための費用を処理する勘定です。
 具体的には、固定電話料金、携帯電話料金、切手代、ハガキ代、郵送料、速達、簡易書留料、書留封筒、インターネット利用料、FAX使用料、私書箱使用料、電報料金などです。

(10) 消耗品費

 耐用年数が1年未満で取得価額が10万円未満の物品を購入した時に処理する勘定です。
 具体的には、常備品(蛍光灯、電池、電球、祝儀袋など)、固定資産として処理しないことのできる備品(事務用机、椅子、書棚、掲示版、ロッカーなど)、合鍵、名刺、大工工具、コップ代、ガムテープ、プリント代などです。事務用に使用するボールペンやノートなどの消耗品は、事務用品費で処理する場合もあります。
 耐用年数が1年以上かつ取得価額が10万円以上の備品や工具は、原則として有形固定資産として資産計上しなければなりません。
 特例として、青色申告書を提出する中小企業者等は、取得価額が30万円未満のものについては固定資産として処理しないことができます(つまり、全額損金算入することができます)。ただし、損金算入額の上限は、その事業年度において取得価額の合計額300万円までとされています※3

※3 参考記事「30万円未満の少額減価償却資産の損金算入制度と別表16(7)の記載例

(11) 水道光熱費

 電気、ガス、水道料金などを処理する勘定です。
 具体的には、電気代、ガス代、プロパンガス料金、水道代、灯油代、石油、重油、石炭などです。

(12) 修繕費

 資産の維持補修(原状回復)に要する費用を処理する勘定です。
 具体的には、建物の修理、事務所修理、水道修理、電話移設工事、事務器の修理、AV機器補修、プログラム修理、機械等の保守費用、パソコン保守料、定期点検、メンテナンス料、保守契約料、車検費用、車修理、オイル交換、タイヤ交換、部品交換などです。車検費用等の車関係の諸経費は、車両費で処理する場合もあります。
 一方、資産の改良(修理によって資産の価値が増加したり耐用年数が延びたりする場合)に要する費用は有形固定資産として計上し、減価償却費がその事業年度の損金となります。
 修繕費に関する注意点については、本ブログ記事「店舗の蛍光灯100本を単価1万円のLEDに取替えた場合の費用は修繕費?」をご参照ください。

(13) 支払手数料

 事務委託手数料や業務委託手数料などを処理する勘定です。
 具体的には、公認会計士手数料、税理士手数料、弁護士手数料、書籍作成手数料、代理店手数料、斡旋手数料、紹介料、カード手数料、各種役所手数料、各種銀行手数料(振込手数料、為替手数料、夜間金庫手数料、残高証明発行料、FAX手数料、ファームバンキング手数料)、メンテナンス料などです。
 紹介料は、単なる謝礼の場合は交際費で処理します。紹介料を支払手数料で処理するための要件については、本ブログ記事「紹介料が交際費とならないための要件」をご参照ください。

(14) 車両費

 車にかかる諸経費全般を処理する勘定です。
 具体的には、ガソリン代、オイル交換代、高速代、修理代、車検費用、自動車保険、自賠責保険、一時的な駐車代などです。高速代や一時的な駐車料は旅費交通費で、またガソリン代は燃料費や旅費交通費で処理することもあります。

(15) 保険料

 保険契約にもとづく支払いを処理する勘定です。
 具体的には、火災保険、自動車保険、自賠責保険、損害保険、役員生命保険、経営者保険、団体定期保険、郵便保険、盗難保険、倒産防止掛金などです。
 保険料に関する注意点等については、本ブログ記事「法人向け節税保険の改正後の税務取扱い」、「中小企業倒産防止共済掛金の損金算入要件等」をご参照ください。

(16) 地代家賃

 不動産賃借契約にもとづく賃借料を処理する勘定です。
 具体的には、事務所家賃、店舗・工場・倉庫・車庫・材料置場の賃借料、月極駐車場代などです。
 地代家賃に関する注意点等については、本ブログ記事「注意!フリーレント契約の支払家賃の計上時期と経理処理」をご参照ください。

(17) 会議費

 会社の業務に関連して、社内又は社外で行われる商談や打ち合わせなどの会議の時に支出した項目を処理する勘定です。
 具体的には、会議室利用料、会議中の弁当代、昼食代、喫茶代、茶菓子代などです。
 会議に伴う昼食代は、福利厚生費ではなく会議費で処理します。ただし、議事録を残すなど会議の内容を記録しておくことが重要です。

(18) 租税公課

 国や地方自治体に支払った税金のうち、経費として認められる項目を処理する勘定です。
 具体的には、印紙代、店舗や倉庫などの事業用にかかる固定資産税(償却資産税)などです。
 租税公課に関する注意点については、本ブログ記事「印紙が必要な領収書とは?」、「請求書に印紙は必要?不要?」、「海外企業との契約書に印紙を貼る?貼らない?」、「変更契約書に貼る印紙はいくら?」「印紙の消印方法~意外に知らないことが多い!?」「契約書・領収書の記載金額における消費税の特例」等をご参照ください。

(19) 雑費

 雑費は、まれにしか発生せず、金額的にも小さく、どの勘定科目にも属さない支出を処理する勘定です。
 具体的には、ソフトバージョンアップ代、ゴミ捨て代、清掃代などです。

(20) 領収書のない経費

 領収書がもらえない香典や祝い金、従業員の慶弔見舞金の支払いなどは、その事実が証明できるものを証拠書類として保管します。
 例えば、案内状や礼状、パーティーの招待状などは証拠書類として有用です。また、出金伝票を作成して、証拠書類と一緒に保存する場合もあります。