土地の譲渡があった場合の課税売上割合に準ずる割合の適用

 運送業を営む顧問先のA社が、所有していた土地(遊休地)を当期中に売却することになりました。土地の譲渡は消費税の非課税売上ですが、土地の譲渡によりA社の当期の課税売上割合は、例年より大きく減少する見込みです(A社は仕入控除税額を個別対応方式で計算しています)。
 そこで、当期の消費税の申告に備えて、「課税売上割合に準する割合」の適用を検討することになりました。

 A社のように、たまたま土地の譲渡があったことにより課税売上割合が減少する場合において、課税売上割合を適用して控除対象仕入税額を計算すると、その事業者の事業の実態を反映しないと認められるときは、課税売上割合に代えて課税売上割合に準ずる割合を適用することができます。

 今回は、土地の譲渡があった場合の課税売上割合に準ずる割合の適用について紹介します。

1.要件

 A社のようなケースで課税売上割合に準ずる割合を適用するためには、つぎの要件を満たす必要があります。

(1) 土地の譲渡が単発であること
(2) その土地の譲渡がなかったとした場合には、事業の実態に変動がないと認められること(具体的には、事業者の営業の実態に変動がなく、かつ、過去3年間で最も高い課税売上割合と最も低い課税売上割合の差が5%以内であることをいいます)

 以下の数値例を使用して、要件や課税売上割合に準ずる割合の算定方法を確認していきます。

   土地の譲渡があった当期と過去3年間の課税売上割合等  (単位:円)

課税期間 課税売上高 非課税売上高 総売上高 課税売上割合
当期 589,391,004 211,570,080 800,961,084 73.58%
前期 668,809,034 1,348,360 670,157,394 99.79%
前々期 588,936,478 1,176,152 590,112,630 99.80%
前々前期 557,889,004 568,435 558,457,439 99.89%

 運送業を営むA社にとって今回の土地の売却は単発ですので、要件(1)を満たします。
 また、A社の営業の実態に変動はなく、かつ、過去3年間で最も高い課税売上割合99.89%(前々前期)と最も低い課税売上割合99.79%(前期)との差(0.10%)が5%以内ですので、要件(2)も満たします。
 したがって、当期のA社の消費税の申告において、課税売上割合に準ずる割合を適用することができます。

2.課税売上割合に準ずる割合の算定

 課税売上割合に準ずる割合の適用要件を満たしましたので、次の(1)又は(2)の割合のいずれか低い方を課税売上割合に準ずる割合として適用することができます。

(1) 土地の譲渡があった課税期間の前3年に含まれる課税期間の通算課税売上割合
(2) 土地の譲渡があった課税期間の課税期間の課税売上割合

 (1)については、次のように計算します。

 課税売上高÷総売上高=(668,809,034+588,936,478+557,889,004)÷(670,157,394+590,112,630+558,457,439)=1,815,634,516÷1,818,727,463=99.82%

 (2)は、前期の99.79%です。

 したがって、(1)>(2)ですので、99.79%が課税売上割合に準ずる割合になります。

3.消費税課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書

 課税売上割合に準ずる割合を適用する場合は、その土地を譲渡した課税期間内に「消費税課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書」を所轄税務署長に提出し、その承認を受けなければなりません

※ 2021(令和3)年度税制改正により、課税売上割合に準ずる割合の適用開始時期の見直しが行われました。これまでは、課税売上割合に準ずる割合の適用を受ける場合、税務署長の承認を受けた日の属する課税期間から適用することとされていましたが、2021(令和3)年4月1日以後に終了する課税期間から、適用を受けようとする課税期間の末日までに承認申請書を提出し、同日(課税期間の末日)の翌日から同日以後1月を経過する日までの間に税務署長の承認を受けた場合、当該承認申請書を提出した日の属する課税期間から適用されることとなりました(2021(令和3)年4月1日更新)。

4.課税売上割合に準ずる割合の不適用届出書

 この課税売上割合に準ずる割合の承認は、たまたま土地の譲渡があった場合に行うものですから、翌課税期間において「消費税課税売上割合に準ずる割合の不適用届出書」を提出しなければなりません。

 その提出がない場合は、課税売上割に準ずる割合の承認の取消しが行われますので注意しなければなりません。

課税売上割合に準ずる割合の算定方法と注意点

 課税売上げに係る消費税の額から控除する仕入控除税額を個別対応方式により計算する場合は、課税売上げと非課税売上げに共通して要する課税仕入れ等に係る消費税額に、原則として課税売上割合を乗じて計算します。
 しかし、課税売上割合により計算した仕入控除税額がその事業の実態を反映していないなど、課税売上割合により仕入控除税額を計算するよりも、課税売上割合に準ずる割合によって計算する方が合理的である場合には、課税売上割合に代えて課税売上割合に準ずる割合によって仕入控除税額を計算することができます。

1.適用と不適用の手続き

(1) 適用の承認申請

 課税売上割合に準ずる割合を適用するには、納税地の所轄税務署長に「消費税課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書」を提出して、適用しようとする課税期間の末日までに税務署長の承認を受ける必要があります

※ 2021(令和3)年度税制改正により、課税売上割合に準ずる割合の適用開始時期の見直しが行われました。これまでは、課税売上割合に準ずる割合の適用を受ける場合、税務署長の承認を受けた日の属する課税期間から適用することとされていましたが、2021(令和3)年4月1日以後に終了する課税期間から、適用を受けようとする課税期間の末日までに承認申請書を提出し、同日(課税期間の末日)の翌日から同日以後1月を経過する日までの間に税務署長の承認を受けた場合、当該承認申請書を提出した日の属する課税期間から適用されることとなりました(2021(令和3)年4月1日更新)。

(2) 不適用の届出

 納税地の所轄税務署長に「消費税課税売上割合に準ずる割合の不適用届出書」を提出すれば、提出した日の属する課税期間から、課税売上割合に準ずる割合の適用をやめることができます。

2.課税売上割合に準する割合の適用範囲と算定方法

(1) 適用範囲

 課税売上割合に準ずる割合を適用する場合、すべての事業について同一の割合を使うこともできますが、次のように一定の単位ごと異なる割合を適用することができます。

① 事業の種類の異なるごと
② 事業所の単位ごと
③ 販売費一般管理費、その他の費用の種類ごと

 また、課税売上割合に準ずる割合は、通常の課税売上割合と併用することもできます。

(2) 算定方法

 課税売上げと非課税売上げに共通して要する課税仕入れ等の性質に応じた合理的な基準(使用人(従業員)の数又は従事日数、消費又は使用する資産の価額、使用数量、使用面積の割合など)により算定します。
 具体的な計算方法と注意点は次のとおりです。

① 従業員割合

 従業員割合は、従業員数に比例して支出されると認められるものについて適用でき、次の計算式で算定します。

 従業員割合=課税業務従業員数÷(課税業務従業員数+非課税業務従業員数)

イ.従業員数を課税資産の譲渡等と非課税資産の譲渡等に係る業務ごとに区分できることが前提です。
 課税業務従業員数とは課税資産の譲渡等のみに従事する従業員数をいい、非課税業務従業員数とは非課税資産の譲渡等のみに従事する従業員数をいいます。

ロ.従業員数は、原則として課税期間の末日の現況によります。課税期間の末日における従業員数が課税期間における実態と異なるなど、事業の実態を反映しないものであるときは、課税期間中の各月末の平均数値等によることができます。

ハ.課税・非課税の双方の業務に従事する従業員については、原則として、この割合の計算上、分母・分子のいずれにも含めません
 ただし、事務日報等により課税・非課税の双方の業務に従事する従業員全員の従事日数が記録されていて、この記録により従業員ごとの従事日数の割合が計算できる場合は、その割合により各業務に按分することは認められます。

ニ.例えば、建設会社の海外工事部門の従業員など国外取引のみに従事する従業員については、この割合の計算上、分母・分子のいずれにも含めません。

ホ.法人の役員(非常勤役員を除きます)も従業員に含めて取扱います。アルバイト等についても、従業員と同等の勤務状況にある場合には、従業員に含めて取扱います。

ヘ.本店・支店ごと又は事業部門ごとにそれぞれの従業員割合を適用することは認められます。

② 事業部門ごとの割合

 独立採算制の対象となっている事業部門や独立した会計単位となっている事業部門や支店については、事業部門ごと、支店ごとの割合を課税売上割合に準ずる割合とすることができます。

 事業部門ごとの割合=事業部門ごとの課税売上高÷(事業部門ごとの課税売上高+事業部門ごとの非課税売上高)

イ.事業部門ごとに、その事業部門に係る課税売上高と非課税売上高を基礎として、課税売上割合と同様の方法により割合を求めます。

ロ.総務、経理部門等の事業を行う部門以外の部門については、この割合の適用は認められません。

ハ.経理、総務部門等の共通対応分の消費税額すべてを各事業部門の従業員数比率等適宜の比率により事業部門に振り分けた上で、事業部門ごとの課税売上割合に準ずる割合により按分する方法も認められます。

③ 床面積割合

 床面積割合は、専用床面積に比例して支出されると認められるものについて適用でき、次の計算式で算定します。

 床面積割合=課税業務専用床面積÷(課税業務専用床面積+非課税業務専用床面積)

イ.床面積を課税資産の譲渡等と非課税資産の譲渡等に係る業務ごとに区分できることが前提です。

ロ.計算の基礎となる床面積は、原則として課税期間の末日の現況によります。課税期間の末日における床面積が課税期間における実態と異なるなど事業の実態を反映しないものであるときは、課税期間中の各月末の平均数値等によることができます。

ハ.課税・非課税の双方の業務で使用する専用床面積については、原則として、この割合の計算上、分母・分子のいずれにも含めません

ニ.本店・支店ごと又は事業部門ごとにそれぞれの床面積割合を適用することは認められます。

④ 取引件数割合

 取引件数割合は、取引件数に比例して支出されると認められるものについて適用でき、次の計算式で算定します。

 取引件数割合=課税資産の譲渡等に係る取引件数÷(課税資産の譲渡等に係る取引件数+非課税資産の譲渡等に係る取引件数)

イ.取引件数を課税資産の譲渡等と非課税資産の譲渡等に係る件数に区分できることが前提です。

ロ.本店・支店ごと又は事業部門ごとにそれぞれの取引件数割合を適用することは認められます。

3.適用上の注意点

(1) 課税売上割合に準ずる割合は、個別対応方式により仕入控除税額を計算している場合のみ適用することができます。

(2) 適用を受けるときは、適用しようとする課税期間の末日までに承認申請書を提出するだけではなく、税務署長による承認を受けておく必要があります(みなし承認はありません)。承認審査には一定の時間が必要ですので、当該申請書は余裕をもって提出してください。

※ 2021年度(令和3年度)税制改正により、課税売上割合に準ずる割合の適用開始時期の見直しが行われ、次のようになります。
「消費税の仕入控除税額の計算について、課税売上割合に準ずる割合を用いようとする課税期間の末日までに承認申請書を提出し、同日の翌日以後1月を経過する日までに税務署長の承認を受けた場合には、当該承認申請書を提出した日の属する課税期間から課税売上割合に準ずる割合を用いることができることとする。」(2021年(令和3年)1月25日更新)

(3) 承認又は届出のあった課税期間から適用又は不適用となります。また、継続適用は強制されませんので、一課税期間でやめることができます。

(4) 課税売上割合に準ずる割合の承認を受けると、課税売上割合を適用した方が有利となる場合でも、不適用の届出書を提出しない限り、必ず課税売上割合に準ずる割合を適用しなければなりません。ただし、承認を受けた課税仕入れ等以外のものについては、課税売上割合を使用します。

(5) 課税売上割合に準ずる割合の承認を受けている場合でも、全額控除できるかどうかの95%以上の判定は、課税売上割合によって行わなければなりません(準ずる割合が95%以上であっても、課税売上割合が95%未満なら全額控除はできません)。

(6) たまたま土地を譲渡したことにより、その課税期間の課税売上割合が低くなった場合には、前課税期間の課税売上割合と前3年の課税期間の通算課税売上割合を比較して、小さい方を課税売上割合に準ずる割合として用いることができます。

土地建物を一括譲渡した場合の対価の区分方法

 土地と建物を一括で譲渡した場合は、土地の譲渡は消費税の非課税売上となり、建物の譲渡は課税売上となります。
 このように土地と建物を一括譲渡した場合、両者を合理的に区分した対価の額が契約書に記載されているときは、その区分によりそれぞれの売上高とします。
 合理的な区分が行われていない場合は、その譲渡代金について、土地の対価部分と建物の対価部分に区分する必要があります。
 

1.譲渡対価の区分方法

 土地付建物を一括譲渡した場合の課税売上高と非課税売上高に計上する金額は、それぞれ次のとおりです。

(1) 契約書の記載金額の区分が合理的な場合

① 契約書に土地と建物の価額が区分されている場合は、その価額によります。
② 契約書に建物に係る消費税等の額が記載されている場合は、その消費税率から割返して建物の対価の額を区分します。
〈消費税税率10%の場合〉
  イ. 建物の価額=契約書に記載された消費税等の額÷10%×110%
  ロ. 土地の価額=取引総額―建物の価額

(2) 契約書の記載金額の区分が合理的でない場合

① 近隣の取引事例を参考に計算した建物及び土地の時価の比により按分計算します。
② 不動産鑑定評価額により区分します。
③ 相続税評価額や固定資産税評価額をもとに按分計算します。
④ 土地や建物の原価をもとに按分計算します。
⑤ 建物の標準的な建築価額表により区分します。
  イ.「建物の標準的な建築価額表」により建物の取得価額を算出
  ロ. 建物の価額=建物の取得価額―減価償却費
  ハ. 土地の価額=取引総額―建物の価額

※ 建物と土地を一括譲渡した場合に、租税特別措置法に規定する法人税の土地の譲渡等に係る課税の特例の計算における取扱いによって建物と土地の価格を区分しているときには、消費税の計算においてもその区分したところによらなければなりません(消費税法基本通達10-1-5)。
〈参考〉
 法人税の土地の譲渡等に係る課税の特例について規定している租税特別措置法第62条の3及び第63条は、1998年(平成10年)1月1日から2020年(令和2年)3月31日までに行う土地の譲渡等について適用しないこととされています。

2.区分方法の計算例

 簡単な数値を用いて、譲渡対価の主な区分方法の計算例を以下に示します。

(1) 契約書に建物の消費税額の記載がある場合(記載金額の区分が合理的な場合)

土地建物譲渡契約書
第1条 土地付建物を5,000万円(うち消費税200万円)で譲渡する。

① 建物の価額:200万円÷10%×110%=2,200万円
② 土地の価額:5,000万円―2,200万円=2,800万円

(2) 契約書に取引総額のみの記載がある場合(記載金額の区分が合理的な場合)

土地建物譲渡契約書
第1条 土地付建物を5,000万円で譲渡する。
固定資産税課税明細書
固定資産税評価額
土地1,000万円
建物1,500万円

 ここでは固定資産税評価額をもとに按分します。
① 建物の価額:5,000万円×1,500万円÷(1,000万円+1,500万円)=3,000万円
② 土地の価額:5,000万円×1,000万円÷(1,000万円+1,500万円)=2,000万円

(3) 契約書の記載金額の区分が合理的でない場合

土地建物譲渡契約書
第1条 土地付建物を下記のとおり譲渡する。
(1) 土地の譲渡代金 4,000万円
(2) 建物の譲渡代金 1,000万円
固定資産税課税明細書
固定資産税評価額
土地1,000万円
建物1,500万円

 契約書記載金額が合理的に区分されていない場合は、譲渡時の時価の比(ここでは固定資産税評価額)で按分します。
① 建物の価額:5,000万円×1,500万円÷(1,000万円+1,500万円)=3,000万円
② 土地の価額:5,000万円×1,000万円÷(1,000万円+1,500万円)=2,000万円

贈与税の配偶者控除の適用要件

 婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産の贈与(名義変更)が行われた場合又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合は、その年分の贈与税の計算において、課税価格から基礎控除110万円の他に最高2,000万円を控除(配偶者控除)することができます。

1.配偶者控除の要件

 この配偶者控除の適用が受けられるのは、次の要件のいずれにも該当する場合に限られます。

(1) 贈与者の要件

 贈与者は、婚姻の届出をした日から贈与を受けた日までの期間が20年以上(1年未満の端数は切捨て)である受贈者の配偶者であること。

(2) 贈与財産の要件

 贈与により取得した財産は、国内にある居住用不動産又はその取得のための金銭であること。

※ 居住用不動産とは、専ら居住の用に供する土地若しくは土地の上に存する権利又は家屋で国内にあるものをいいます。
  また、店舗兼住宅などのように居住の用とそれ以外の用に供されている不動産である場合は、居住の用に供している部分のみについて配偶者控除が適用されます。

(3) 居住の要件

 受贈者自らが上記(2)の居住用不動産に現在居住している又は贈与を受けた年の翌年3月15日(贈与税の申告期限)までに居住する見込みであり、かつ、今後も引き続きこの居住用不動産に居住する予定であること。

(4) 適用回数の要件

 過去に今回の贈与者からの贈与について、配偶者控除の適用を受けていないこと。

※ 配偶者控除は、同じ配偶者からの贈与については、一生に一度しか適用を受けることができません。

2.申告の手続き

 配偶者控除の特例は、贈与税の申告書等に、この特例の適用により控除を受ける金額(配偶者控除額)その他の必要事項を記載するとともに、下記の書類を添付することが必要です。贈与税額がゼロの場合でも、必ず申告しなければなりません。

(1) 財産の贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成された戸籍謄本又は抄本
(2) 財産の贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成された戸籍の附票の写し
(3) 居住用不動産の登記事項証明書
(4) その居住用不動産に住んだ日以後に作成された住民票の写し
 ※上記(2)の戸籍の附票の写しに記載されている住所が居住用不動産の所在場所である場合には、住民票の写しの添付は不要です。

3.相続開始前3年以内の贈与加算との関係

 相続又は遺贈により財産を取得した者について、被相続人から生前に贈与された財産のうち相続開始前3年以内に贈与された財産は、その者の相続税の課税価格に贈与を受けた財産の贈与の時の価額が加算されます。また、その加算された贈与財産の価額に対応する贈与税の額は、加算された者の相続税の計算上控除されます。
 ただし、贈与税の配偶者控除の適用を受けている(相続開始の前年以前に贈与があった場合)又は受けようとする(相続開始と同年に贈与があった場合)財産のうち、その配偶者控除額に相当する金額は、相続財産に加算する必要はありません。

※ 2023(令和5)年度税制改正で、生前贈与の加算期間が3年から7年に延長されました。詳細については、本ブログ記事「生前贈与加算期間はいつから7年になる?」をご参照ください。

適格請求書発行事業者登録制度と免税事業者

 2023年(令和5年)10月1日以降は、区分記載請求書等の保存に代えて、「適格請求書」等の保存が仕入税額控除の要件となります。
 適格請求書とは、売手が買手に対し正確な適用税率や消費税額等を伝えるための手段であり、一定の事項が記載された請求書や納品書その他これらに類する書類をいいます。

1.適格請求書発行事業者の登録

 適格請求書を交付できるのは、適格請求書発行事業者に限られます。適格請求書発行事業者となるためには、税務署長に「適格請求書発行事業者の登録申請書(以下、「登録申請書」といいます)」を提出し、登録を受ける必要があります。
 なお、課税事業者でなければ登録を受けることはできません。

(1) 登録申請のスケジュール

 登録申請書は2021年(令和3年)10月1日から提出できます。適格請求書等保存方式が導入される2023年(令和5年)10月1日に登録を受けようとする事業者は、2023年(令和5年)3月31日(特定期間における課税売上高が1,000万円を超えたことにより課税事業者となる事業者については同年6月30日。以下同じ)までに登録申請書を所轄税務署長に提出する必要があります。

 ただし、2023年(令和5年)3月31日までに登録申請書を提出できなかったことにつき困難な事情がある場合において、2023年(令和5年)9月30日までの間に登録申請書にその困難な事情を記載して提出し、税務署長により適格請求書発行事業者の登録を受けたときは、2023年(令和5年)10月1日に登録を受けたこととみなされます。
 なお、「困難な事情」については、その困難の度合いは問いません(インボイス通達5-2)

※ 2022(令和4)年12月23日に閣議決定された令和5年度税制改正大綱において、事業者の準備状況を考慮して、「困難な事情」の記載がなくても2023(令和5)年4月以降の申請ができるようになりました(詳細については、本ブログ記事「登録制度の見直しと手続きの柔軟化:インボイス制度負担軽減措置」をご参照ください)。

(2) 登録拒否要件

 消費税法の規定に違反して罰金以上の刑に処せられ、その執行が終わり、又は執行を受けることがなくなった日から2年を経過しない者は、登録を受けることができません。

(3) 登録と通知

 事業者から登録申請書の提出を受けた税務署長は、その事業者が登録拒否要件に該当しない場合には、適格請求書発行事業者登録簿に法定事項を記載して登録を行い、登録を受けた事業者に対して、その旨を書面で通知します。

(4) 登録の効力

 登録の効力は、通知の日にかかわらず、適格請求書発行事業者登録簿に登載された日(登録日)に発生します。

(5) 登録の取消し

 税務署長は、次の場合に適格請求書発行事業者の登録を取り消すことができます。

① 1年以上所在不明であること
② 事業を廃止したと認められること
③ 合併により消滅したと認められること
④ 消費税法の規定に違反して罰金以上の刑に処せられたこと

(6) 登録の取りやめ

 適格請求書発行事業者には、事業者免税点制度は適用されません。したがって、適格請求書発行事業者は、基準期間における課税売上高及び特定期間における課税売上高が1,000万円以下となっても、取りやめの手続きを行わない限り免税事業者となることはできません。

 適格請求書発行事業者が、納税地を所轄する税務署長に「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書(以下、「登録取消届出書」といいます)」を提出すると、適格請求書発行事業者の登録の効力は消滅します。
 登録の効力が消滅する日は、次のとおりです。

登録取消届出書の提出日 登録の効力が失効する日
課税期間の末日から起算して30日前の日まで 登録取消届出書の提出があった日の属する課税期間の翌課税期間の初日
課税期間の末日から起算して30日前の日から、その課税期間の末日までの間 その提出があった日の属する課税期間の翌々課税期間の初日


※ 適格請求書発行事業者が事業を廃止し、「適格請求書発行事業者の事業廃止届出書」を提出した場合は、事業を廃止した日の翌日に登録の効力が失われます。

※ 2022(令和4)年12月23日に閣議決定された令和5年度税制改正大綱において、上表の30日前とあるのは15日前に改められました(詳細については、本ブログ記事「登録制度の見直しと手続きの柔軟化:インボイス制度負担軽減措置」をご参照ください)。

2.免税事業者の登録手続き

(1) 登録日が令和5年10月1日の属する課税期間の場合(経過措置の適用がある場合)

 免税事業者は適格請求書発行事業者となることはできません。免税事業者が適格請求書発行事業者としての登録を受けるためには、「消費税課税事業者選択届出書」を提出し、課税事業者となる必要があります
 ただし、免税事業者が2023年(令和5年)10月1日の属する課税期間中に登録を受ける場合には、消費税課税事業者選択届出書を提出する必要はありません※1
 2023年(令和5年)3月31日までに登録申請書を提出すれば、登録拒否要件に該当しない限り2023年(令和5年)10月1日に登録され、適格請求書発行事業者である課税事業者となります※2
 なお、免税事業者の登録申請書の記載方法については、本ブログ記事「適格請求書発行事業者の登録申請書の書き方と記載例(R3.10.1~R5.9.30提出分)」をご参照ください。

※1 2022(令和4)年度税制改正で経過措置期間が延長され、2023(令和5)年10月1日から2029(令和11)年9月30日までの日の属する課税期間中に登録を受ける場合も登録申請書の提出のみで手続きが完了するため、消費税課税事業者選択届出書の提出は不要となりました。 

※2 2022(令和4)年12月23日に閣議決定された令和5年度税制改正大綱において、2023(令和5)年4月以降の申請でも制度開始時に登録が可能となりました(詳細については、本ブログ記事「登録制度の見直しと手続きの柔軟化:インボイス制度負担軽減措置」をご参照ください)。

(2) 登録日が令和5年10月1日の属する課税期間の翌課税期間以降の場合

 免税事業者が2023年(令和5年)10月1日の属する課税期間の翌課税期間以後に登録を受ける場合には、消費税課税事業者選択届出書及び登録申請書を提出する必要があります※1
 免税事業者が翌課税期間から課税事業者となることを選択し登録を受けようとする場合は、その翌課税期間の初日の前日から起算して1月前の日(登録日が1月1日であればその前年の11月30日)までに※2、消費税課税事業者選択届出書及び登録申請書を提出しなければなりません※1

※1 2022(令和4)年度税制改正で経過措置期間が延長され、2023(令和5)年10月1日から2029(令和11)年9月30日までの日の属する課税期間中に登録を受ける場合も登録申請書の提出のみで手続きが完了するため、消費税課税事業者選択届出書の提出は不要となりました。

※2 2022(令和4)年12月23日に閣議決定された令和5年度税制改正大綱において、1月前の日が15日前の日に改められました(詳細については、本ブログ記事「登録制度の見直しと手続きの柔軟化:インボイス制度負担軽減措置」をご参照ください)。

区分記載請求書等保存方式と請求書等保存方式の異同点

 軽減税率制度の実施による複数税率化に伴い、「適格請求書等保存方式(日本型インボイス制度)」が導入されますが、当面は執行可能性に配慮し、2019年(令和元年)10月1日から2023年(令和5年)9月30日までの4年間は、「区分記載請求書等保存方式」によって税率の区分経理に対応することになります。
 区分記載請求書等保存方式とは、現行の請求書等保存方式を維持した上で、次のように帳簿及び請求書等の記載事項を追加するものです。
 なお、簡易課税制度を適用する場合は、帳簿及び請求書等の保存は必要ありません。

1.帳簿の追加記載事項

 課税仕入れが軽減対象資産に係るものである場合には、帳簿の記載事項に「軽減対象資産の譲渡等に係るものである旨」が追加されます。
 この記載は「軽減」等と省略して記載することや、事業者が定めた記号(※印など)を付す方法によることができます。

2.請求書等の追加記載事項

 課税仕入れが軽減対象資産に係るものである場合には、請求書等(請求書、納品書その他これらに類する書類)に、従前の記載事項に次の2項目が追加されます。
(1) 軽減対象資産の譲渡等である旨
(2) 税率ごとに合計した課税資産の譲渡等の対価の額
 これらを記載した区分記載請求書の保存が、仕入税額控除の要件となります。

3.区分記載請求書等保存方式と請求書等保存方式の異同点

 区分記載請求書等保存方式と請求書等保存方式の記載事項の異同点を以下に掲げます。

  請求書等保存方式 区分記載請求書等保存方式
期間 令和元年9月30日まで 令和元年10月1日~令和5年9月30日
帳簿 ①課税仕入れの相手方の氏名又は名称
②取引年月日
③取引の内容
④対価の額
左記に加え
軽減対象資産の譲渡等である旨
請求書等 ①請求書発行者の氏名又は名称
②取引年月日
③取引の内容
④対価の額
⑤請求書受領者の氏名又は名称
左記に加え
軽減対象資産の譲渡等である旨
税率ごとに区分して合計した税込対価の額

 

4.留意点

(1)「軽減対象資産の譲渡等である旨」等の記載がなかった場合の追記

 区分請求書等保存方式は請求書等保存方式と同様に、売り手には請求書等の交付が義務付けられていません。もし、仕入先から交付された請求書等に「軽減対象資産の譲渡等である旨」(上表⑥)や「税率ごとに区分して合計した税込対価の額」(上表⑦)の記載がない時は、これらの項目に限って交付を受けた事業者自らが、その取引の事実に基づき追記することができます(他の項目について追記や修正を行うことはできません)。

(2) 免税事業者からの課税仕入れの取扱い

 区分記載請求書等保存方式では、免税事業者も区分記載請求書を交付することができます。また、免税事業者からの課税仕入れも、区分記載請求書を保存していれば仕入税額控除の適用を受けることができます。
 この場合、免税事業者からの仕入れであっても、「軽減対象資産の譲渡等である旨」や「税率ごとに区分して合計した税込対価の額」の記載がある区分記載請求書等の保存が必要となります。
※上記2項目の記載がない場合は、取引の事実に基づき追記することができます。

(3) 3万円未満の取引等に係る仕入税額控除

 区分記載請求書等保存方式の下でも、3万円未満の少額な取引や自動販売機からの購入など請求書等の交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由があるときは、現行と同様に、必要な事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除の要件を満たすことになります。

(4) 一定期間のまとめ記載

 日々の取引内容については納品書等に記載され、一定期間の納品についてまとめて請求書が交付される場合において、納品書等と請求書との相互関連性が明確で、かつ、これらの書類全体で区分記載請求書等の記載事項を満たすときは、これらの書類をまとめて保存することで、区分記載請求書等の保存があるものとして取り扱われます。
 この場合、請求書に記載する取引年月日については、対象となる一定期間を記載すればよく、また、同一の商品(一般的な総称による区分が同一となるもの)を一定期間に複数回購入しているような場合、「軽減対象資産の譲渡等である旨」の記載については、同一の商品をまとめて記載して差し支えありません。

(5) 軽減税率対象品目がない場合の請求書等の記載

 軽減税率の対象となるものがなく、取引のすべてが標準税率(10%)の対象となる場合は、2019年(令和元年)9月30日までの請求書と変わるところはありません。したがって、「軽減対象資産の譲渡等である旨」や「税率ごとに区分して合計した税込対価の額」の記載は要しません。

(6) すべてが軽減税率対象品目である場合の請求書等の記載

 取引のすべてが軽減税率の対象となる場合は、例えば「全商品が軽減税率対象」と記載するなど、その請求書等に記載されたすべての取引が軽減税率の対象であることが客観的に明らかになる程度の記載が必要です。

複数税率対応レジ等の補助金の要件が緩和されました

 2019年(令和元年)10月1日から軽減税率制度(複数税率)が導入されます。軽減税率の導入にあたり、複数税率対応レジの導入や受発注システムの改修等を行う中小企業・小規模事業者の方には、その経費の一部を補助する軽減税率対策補助金制度が設けられています。免税事業者の方も、軽減税率対策補助金による支援措置を受けることができます。
 軽減税率対策補助金にはA型・B型・C型の3つの類型があり、その概要は次のとおりです。
 

1.A型:複数税率対応レジや券売機の導入等支援

 レジや券売機を使用して日頃から軽減税率対象商品を販売している事業者が、複数税率に対応するためのレジや券売機を新規導入し、また、既存のレジや券売機を改修する際の支援(小売り段階の支援:B to C)です。

(1) 補助対象者

軽減税率の対象商品の販売を行っている中小の小売事業者等

(2) 補助対象経費

① レジ等の本体(タブレットを含む)、対応するソフトウェア導入に係る経費
② 券売機
③ レジ付属機器(バーコードリーダー、レシートプリンタ等)
④ 設置に要する経費(商品マスタ設定費、運搬費、設置費等)

(3) 補助率

3/4以内(3万円未満のレジを1台のみ購入する場合は4/5以内)

(4) 補助限度額

・レジ1台あたり20万円以内が上限
・商品マスタの設定、機器設置に要する経費は1台あたり20万円を加算
・複数台を導入する場合は、1事業者あたりの上限は200万円

(5) 完了期限-要件が緩和されました

2019年(令和元年)9月30日までに「契約等の手続き」が完了していること

※従来、完了期限は2019年(令和元年)9月30日までに「設置・支払い」が完了していることとされていました。
 しかし、軽減税率制度の実施が目前となり、複数税率対応レジの需要が急速に高まっている中、対応レジの契約から設置・支払完了までに数週間程度かかることから、「本年9月30日までに複数税率対応レジの設置・支払いが完了していること」をクリアできず補助金の対象外となってしまうケースが予想されました。
 そこで、中小企業庁は完了期限を「本年9月30日までにレジの導入・改修に関する契約等の手続きが完了していること」に見直し、対応レジの普及促進を図ることとしました。
 この措置は、B型、C型についても同じです。

(6) 申請期限

2019年(令和元年)12月16日までに交付申請書を提出(消印有効)

※完了期限が上記(5)のように緩和されたため、9月30日までに設置・支払いが完了していなくても補助金の対象となりますが、補助金の申請はレジの設置・支払い後となるため、補助金申請期限である12月16日までには設置・支払いを完了する必要があります(B型、C型についても同じです)。

2.B型:電子的受発注システムの改修等支援

 電子的な受発注システム(EDI/EOS等)を利用して軽減税率対象商品を取引している事業者が、複数税率に対応するために必要となる機能の改修・入替えを行う際の支援(事業者間取引の支援:B to B)です。

(1) 補助対象者

軽減税率の実施に伴い電子的に受発注を行うシステムの改修等を行う必要がある中小の小売事業者、卸売事業者等

(2) 補助対象経費

① 電子的な受発注システム等の改修(区分記載請求書等保存方式に対応する請求管理機能の改修を含む)等に要する経費
② パッケージ製品・サービスの導入に要する経費等

(3) 補助率

3/4以内(他の機能と一体的なパッケージ製品の場合は、初期費用の1/2を補助対象経費とします)

(4) 補助限度額

・発注システム:1,000万円
・受注システム:150万円
※受注システム・発注システム両方の場合は1,000万円

(5) 完了期限-要件が緩和されました

2019年(令和元年)9月30日までに「契約等の手続き」が完了していること
※受発注システムの改修B型の中には事前申請期限が経過したものもあります

(6) 申請期限

2019年(令和元年)12月16日までに交付申請書を提出(消印有効)

3.C型:請求書管理システムの改修等支援

 「区分記載請求書等保存方式」に対応するために、事業者間取引における請求書等の作成に係るシステムの開発・改修やパッケージ製品、事務機器の導入等を行う際の支援です(事業者間取引の支援:B to B)。

(1) 補助対象者

軽減税率制度の実施に伴い請求書管理システムの改修等を行う必要がある中小の小売事業者、卸売事業者等

(2) 補助対象経費

① 区分記載請求書等保存方式に対応する請求書等の作成・発行を行うシステム等の開発・改修等に要する経費
② パッケージ製品の導入に要する経費
③ 対応する事務処理機器の導入経費

(3) 補助率

3/4以内(他の機能と一体的なパッケージ製品・対応機器の場合は、初期費用の1/2を補助対象経費します)

(4) 補助限度額

1事業者あたり150万円以内

(5) 完了期限-要件が緩和されました

2019年(令和元年)9月30日までに「契約等の手続き」が完了していること

(6) 申請期限

2019年(令和元年)12月16日までに交付申請書を提出(消印有効)

住宅取得等資金贈与の非課税特例

1.概要

 2021(令和3)年12月31日までに、父母や祖父母などの直系尊属から、住宅の新築・取得又は増改築のための資金(以下、「住宅取得等資金」といいます)の贈与を受けて契約を締結した場合には、住宅取得等資金のうち、住宅用家屋の区分及び契約の締結時期、対価・費用に含まれる消費税率に応じて、それぞれ次に掲げる金額(以下、「非課税限度額」といいます)までについては贈与税が課税されません。

※ 2021(令和3)年度税制改正で、非課税限度額と床面積要件の見直しが行われています。改正内容については、本ブログ記事「住宅取得等資金贈与の非課税特例の見直し」をご参照ください。

契約日 ①消費税率8%の場合又は個人間売買の場合 ②消費税率10%の場合
省エネ等住宅 左記以外 省エネ等住宅 左記以外
平成28年1月~平成31年3月 1,200万円 700万円
平成31年4月~令和2年3月 1,200万円 700万円 3,000万円 2,500万円
令和2年4月~令和3年3月 1,000万円 500万円 1,500万円 1,000万円
令和3年4月~令和3年12月 800万円 300万円 1,200万円 700万円

※上表の省エネ等住宅とは、断熱等性能等級4以上、一次エネルギー消費量等級4以上、高齢者等配慮対策等級(専用部分)3以上、耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)2以上又は免震建築物のいずれかに該当する住宅用家屋をいいます。

 既に非課税制度の適用を受けた贈与税の非課税額がある場合には、その金額を控除した残額が非課税限度額となりますが、上表②欄の非課税限度額は、2019年(平成31年)3月31日以前の契約に基づき贈与税が非課税となった金額を控除する必要はありません。

 また、新たに追加工事の契約を締結した場合などは、最初の契約締結日で非課税限度額の判定をします。
 例えば、2019年(平成31年)3月31日以前に税率8%となる新築の契約を締結し、同年4月以後に税率10%となる追加工事の契約を締結したとしても、非課税限度額は最初の契約の締結日で判定するため、上表①の非課税限度額となります。

2.適用要件

 この住宅取得等資金贈与の非課税特例の適用を受けるための要件は、次のとおりです。

(1) 贈与者

贈与者は父母、祖父母などの直系尊属であること

(2) 受贈者

20歳以上(贈与年1月1日時点)の子、孫などの直系卑属であること
※ 民法改正により、2022(令和4)年4月1日から成年年齢が20歳から18歳に引き下げられました。
② 合計所得金額が2,000万円以下であること
③ 原則、贈与年の翌年3月15日までに新築・取得又は増改築をしたうえで居住していること(贈与年の翌年3月15日以後、遅滞なく居住することが確実であると見込まれる場合を含みます)
※ 新築の場合は、贈与年の翌年3月15日までに工事が棟上げの状態まで進んでいれば適用を受けることができます。また、建売住宅・分譲マンションの取得の場合は、同日までに引渡しを受けておく必要があります。

(3) 贈与財産

住宅の新築又は取得、増改築のための資金であること

※贈与資金により取得する住宅が、自己の配偶者、親族などの一定の特別の関係がある人から取得したものや、これらの人との請負契約等により新築等をしたものは除きます。また、住宅を複数所有する場合は、主として居住の用に供する一つの住宅に限ります。

(4) 住宅用家屋

①床面積が50㎡以上240㎡以下であること
②床面積の1/2以上が居住用であること
③中古住宅の場合は、一定の耐震基準を満たすものであること等
④増改築の場合は、工事費が100万円以上で費用の1/2以上が居住用にかかるものであること等

(5) 敷地

 住宅の新築に先行して取得する敷地(受贈者は新築住宅を所有又は共有すること)又は建売住宅・分譲マンション等の新築等と同時に取得する敷地であること

3.非課税特例のポイント

(1) 贈与者の相続財産への加算

 住宅取得等資金贈与の非課税特例の適用を受けた金額は、贈与者が死亡したときのその贈与者に係る相続税の計算において、相続税の課税価格に加算されません。

(2) 暦年課税等との併用可能

 この非課税特例は、暦年課税の基礎控除額(110万円)との併用適用が可能です。また、2021年(令和3年)12月31日までに、父母又は祖父母から住宅取得等資金の贈与を受けた場合には、贈与者が60歳未満であっても、相続時精算課税の適用を選択できます。

(3) 非課税特例の適用を受けるための手続

 非課税特例の適用を受けるためには、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、非課税特例の適用を受ける旨を記載した贈与税の申告書に戸籍の謄本、登記事項証明書、新築や取得の契約書の写しなど一定の書類を添付して、納税地の所轄税務署に提出する必要があります。

(4) 住宅借入金等特別控除の適用を受ける場合

 所得税において住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)の適用を受ける場合は、住宅取得等資金贈与の非課税特例の適用を受けた金額を住宅の取得対価の額から控除しなければなりません。
 例えば、住宅の取得対価の額が3,000万円、住宅ローンが2,500万円、親から贈与された住宅取得等資金が700万円の場合、3,000万円から700万円を控除した2,300万円が住宅借入金等特別控除の計算の基礎となる住宅の取得対価の額となります。

所得税の予定納税

1.予定納税とは

 予定納税とは、その年の5月15日(特別農業所得者は9月15日)現在で確定している前年分の所得金額、税額などを基に計算した下記2の予定納税基準額が15万円以上である場合、その年の所得税及び復興特別所得税の一部をあらかじめ納付するという制度です。あらかじめ納付した予定納税額については、確定申告において精算されます。

 なお、特別農業所得者とは、その年において農業所得の金額が総所得金額の7割を超え、かつ、その年9月1日以後に生じる農業所得の金額がその年の農業所得の金額の7割を超える者をいいます。

2.予定納税基準額の計算方法

  予定納税基準額は、次の(1)又は(2)のようになります。

(1) 次のいずれにも該当する者は、その者の前年分の申告納税額がそのまま予定納税基準額となります。

① 前年分の所得金額のうちに、山林所得、退職所得等の分離課税の所得(分離課税の上場株式等の配当所得等を除きます)及び譲渡所得、一時所得、雑所得、平均課税を受けた臨時所得の金額がないこと。
② 前年分の所得税について災害減免法の規定の適用を受けていないこと。

(2) 上記(1)に該当しない者については、次の算式により予定納税基準額を計算します(前年に災害減免法の適用を受けている場合は、その適用がなかったものとして計算します)。

 予定納税基準額={(①+②)-前年の税額控除額-③}×102.1%

① 前年の課税総所得金額(譲渡所得、一時所得、雑所得、平均課税を受けた臨時所得を除いて計算)に対する税額
② 前年の分離課税の上場株式等に係る課税配当所得等の金額に対する税額
③ 前年の所得税に係る源泉徴収税額(上記①及び②の計算対象所得に係るものに限ります)

3.予定納税額等の通知

 上記2の予定納税基準額が15万円以上になる者に対しては、所轄の税務署長から、その年の6月15日(特別農業所得者の場合は10月15日)までに予定納税基準額及び予定納税額が書面で通知されます。

4.予定納税額及び納付期間

 予定納税額は、上記2の予定納税基準額の3分の1相当額を、第1期分として7月1日から7月31日までに、第2期分として11月1日から11月30日までに納めることになっています(特別農業所得者以外)。

 前年において特別農業所得者である者及びその年に特別農業所得者として見込まれるとして承認を受けた者は、予定納税基準額の2分の1相当額を第2期分として11月1日から11月30日までに納めることになっています。

5.予定納税の減額申請

 その年の6月30日の現況で所得税及び復興特別所得税の申告納税見積額が、下記6の事由により予定納税基準額よりも少なくなる者は、7月15日までに所轄の税務署長に「予定納税額の減額申請書」を提出して承認されれば、予定納税額は減額されます。
 また、第2期分の予定納税額だけの減額申請は11月15日までとなります(この場合には、10月31日の現況において見積ることとなります)。
 なお、これらの期限が土曜日、日曜日又は祝日に当たるときは、その翌日が期限とみなされます。

※ 申告納税見積額は、該当年分の税制に基づき計算します。退職所得、源泉分離課税の利子所得や配当所得及び確定申告をしないことを選択する配当等は含めません。

6.予定納税の減額申請の対象事由

 減額申請ができる場合の事由としては、以下のようなものが挙げられます。

(1) 廃業、休業、失業
(2) 業況不振などのため所得が前年より明らかに少なくなる
(3) 災害や盗難、横領により事業用資産や山林に損害を受け資産損失が生じる
(4) 災害や盗難、横領による損失で雑損控除を受ける
(5) 多額の医療費の支出による医療費控除の適用又はその増加
(6) 配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除、障害者控除、寡婦控除、寡夫控除の対象者の増加
(7) 社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、地震保険料控除の控除額の増加や、一定の寄附金の支出による寄附金控除の適用
(8) (特定増改築等)住宅借入金等特別控除、政党等寄附金特別控除、認定NPO法人等寄附金特別控除、公益社団法人等寄附金特別控除などの税額控除の適用又はその増加

7.予定納税の減額申請が認められる場合

 次の(1)又は(2)に該当する場合は、減額申請は認められます。

(1) 申告納税見積額の計算の基準日(6月30日又は10月31日)までに生じた事業の全部若しくは一部の廃止、休止若しくは転換、失業、災害、盗難若しくは横領による損害又は医療費の支払があったことにより、申告納税見積額が予定納税基準額に満たない場合
(2) 申告納税見積額の計算基準日の現況による申告納税見積額が予定納税基準額の70%相当額以下となる場合

8.死亡又は出国の場合の予定納税

 予定納税額を納付する居住者(総合課税の適用を受ける非居住者を含みます)に該当するか否かは、その年6月30日(特別農業所得者はその年10月31日)の現況によります。そのため、同日以前に死亡した者及び同日以前に出国した者で総合課税の適用を受けない非居住者は、予定納税額の納付義務はありません。

 一方、予定納税基準額が15万円以上の居住者がその年7月1日以後(特別農業所得者はその年11月1日以後)に死亡又は出国した場合は、予定納税額の納付義務があります。この場合、準確定申告の際に、第1期分、第2期分(特別農業所得者は第2期分)を予定納税額の欄に記載し、これらを控除した金額が第3期分となります。

 なお、予定納税額を納付すべき者が出国する場合には、出国後に納期限が到来する税額についても、その出国の日までに納付する必要があります。ただし、出国時までに納税管理人の届出をすれば所得税法上の出国とはならないため、通常どおり、第1期、第2期の納期限までにそれぞれ納付することになります。

法人向け節税保険の改正後の経理処理

1.改正案の概要

 国税庁は2019年(平成31年)4月11日、法人向けの節税保険に対応した法人税基本通達の改正案を公表しました。

 改正案では、ピーク時解約返戻率(最高解約返戻率)が50%以下の定期保険等に係る支払保険料については、契約年齢や保険期間の長さによらず全額損金算入が可能です。
 一方、ピーク時解約返戻率が50%超の定期保険等に係る支払保険料については、ピーク時解約返戻率に応じた一定の金額を資産計上し、残額を損金算入することになります。

ピーク時解約返戻率 資産計上期間 資産計上額(残額は損金)
50%以下 なし 全額損金算入
50%超70%以下 保険期間の前半4割相当の期間 支払保険料の4割
70%超85%以下 支払保険料の6割
85%超 保険期間からピーク時解約返戻率となる期間等の終了日 支払保険料×ピーク時解約返戻率の7割(保険期間開始日から10年経過日までの期間は9割)

 今回は、改正案に基づく支払保険料の経理処理を、具体的な数値を用いて確認していきます。

2.ピーク時解約返戻率に応じた経理処理

(1) ピーク時解約返戻率が50%超70%以下の場合

① 経理処理の概要
・資産計上期間(保険期間の前半4割)は支払保険料の4割資産計上6割損金算入
・資産取崩期間(保険期間の7.5割経過後)は資産計上額を取崩し
・資産計上期間と資産取崩期間の間の期間(保険期間の3.5割)は全額損金算入
 ただし、被保険者1人当たりの年換算保険料相当額(保険期間中の支払保険料総額÷保険期間の年数)が20万円以下(複数の定期保険等に加入の場合は合計額)であれば、全期間を通じて全額損金算入します。
※改正案(パブリックコメント原案)では、上記のように被保険者1人当たりの年換算保険料相当額が20万円以下とされていましたが、2019年(令和元年)6月28日に国税庁ホームページで公表された「法人税基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)」では30万円以下とされました。

4割期間 3.5割期間 2.5割期間
4割資産6割損金 全額損金 全額損金+資産取崩

② 経理処理
 例えば、40歳契約・100歳満期・年払保険料100万円・ピーク時解約返戻率70%の場合の仕訳は次のとおりです。

イ.資産計上期間(4割期間):40歳~64歳

借方 金額 貸方 金額
支払保険料 60万円 現金預金 100万円
前払保険料 40万円    

ロ.イとハの間の期間(3.5割期間):65歳~85歳

借方 金額 貸方 金額
支払保険料 100万円 現金預金 100万円

ハ.資産取崩期間(2.5割期間):86歳~100歳

借方 金額 貸方 金額
支払保険料 164万円 現金預金 100万円
    前払保険料 64万円

(2) ピーク時解約返戻率が70%超85%以下の場合

① 経理処理の概要
・資産計上期間(保険期間の前半4割)は支払保険料の6割資産計上4割損金算入
・資産取崩期間(保険期間の7.5割経過後)は資産計上額を取崩し
・資産計上期間と資産取崩期間の間の期間(保険期間の3.5割)は全額損金算入

4割期間 3.5割期間 2.5割期間
6割資産4割損金 全額損金 全額損金+資産取崩

② 経理処理
 例えば、40歳契約・100歳満期・年払保険料100万円・ピーク時解約返戻率85%の場合の仕訳は次のとおりです。

イ.資産計上期間(4割期間):40歳~64歳

借方 金額 貸方 金額
支払保険料 40万円 現金預金 100万円
前払保険料 60万円    

ロ.イとハの間の期間(3.5割期間):65歳~85歳

借方 金額 貸方 金額
支払保険料 100万円 現金預金 100万円

ハ.資産取崩期間(2.5割期間):86歳~100歳

借方 金額 貸方 金額
支払保険料 196万円 現金預金 100万円
    前払保険料 96万円

(3) ピーク時解約返戻率が85%超の場合

① 経理処理の概要
・資産計上期間は、保険期間の当初10年間は支払保険料の「ピーク時解約返戻率×9割」、それ以降(※)は支払保険料の「ピーク時解約返戻率×7割」を資産計上
・解約返戻金額が最も高くなる時期(返戻金額ピーク)から資産計上額を取崩し
・資産計上期間と資産取崩期間の間の期間は全額損金算入
(※)「それ以降」の期間とは、10年経過後、「解約返戻率ピーク」又は「年間の解約払戻金の増加額が年換算保険料相当額に対して70%以下になるまで」のいずれか遅い方までの期間です。

当初10年間 それ以降 間の期間 取崩期間
「ピーク時解約返戻率×9割」を資産計上

ピーク時解約返戻率×7割」を資産計上

全額損金 全額損金+資産取崩

② 経理処理
 例えば、40歳契約・100歳満期・年払保険料100万円・ピーク時解約返戻率90%の場合の仕訳は次のとおりです。

イ.資産計上期間(当初10年間):40歳~50歳

借方 金額 貸方 金額
支払保険料 19万円 現金預金 100万円
前払保険料 81万円    

ロ.資産計上期間(それ以降):51歳~72歳

借方 金額 貸方 金額
支払保険料 37万円 現金預金 100万円
前払保険料 63万円    

ハ.間の期間(返戻金額ピークまで):73歳~91歳

借方 金額 貸方 金額
支払保険料 100万円 現金預金 100万円

ニ.資産取崩期間:92歳~100歳

借方 金額 貸方 金額
支払保険料 344万円 現金預金 100万円
    前払保険料 244万円

※資産計上期間(それ以降)の考え方

経過年数 支払総保険料 解約返戻金 解約返戻率 解約返戻金の増加率
1年 100万円 66.4万円 66.4%  
2年 200万円 158.8万円 79.4% 92.4%
24年 2,400万円 2,272.8万円 94.7% 96.7%
25年 2,500万円 2,369.1万円 94.8% 96.3%
26年 2,600万円 2,447万円 94.1% 77.9%
27年 2,700万円 2,523.6万円 93.5% 76.6%
28年 2,800万円 2,599.4万円 92.8% 75.8%
29年 2,900万円 2,674.4万円 92.2% 75.0%
30年 3,000万円 2,748万円 91.6% 73.6%
31年 3,100万円 2,820万円 91.0% 72.0%
32年 3,200万円 2,891.1万円 90.3% 71.1%
33年 3,300万円 2,960.1万円 89.7% 69.0%
34年 3,400万円 3,026.9万円 89.0% 66.8%
…   
59年 5,900万円 1,781.8万円 30.2% -901.8%
60年 6,000万円 0 0.0% -1781.8

経過年数25年で解約返戻率のピーク(94.8%)を迎える。
経過年数33年で年間の解約返戻金の増加額が年換算保険料相当額に対して70%以下になる((2,960.1万円-2,891.1万円)÷100万円=69.0%)。
25年と33年のいずれか遅い方は33年なので、72歳まで支払保険料の一部を資産計上する。