屋号付き口座は所得税の還付口座にできません

 令和2年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告書の受付は、令和3年2月16日(火)から同年3月15日(月)までです
 また、確定申告の必要がない方でも、ふるさと納税等の寄附金控除や医療費控除などにより、源泉徴収された税金の還付を受けるための申告(還付申告)をすることができます。
 この還付申告については、令和3年2月15日(月)以前でも行えます。令和2年分であれば、令和3年1月1日から令和7年12月31日まで申告することができます。
 今回は、還付申告する際の還付口座(還付される税金の受取口座)の留意点を確認します。

※ 国税庁より、2021年(令和3年)2月2日、申告所得税(及び復興特別所得税)、贈与税及び個人事業者の消費税(及び地方消費税)の申告期限・納付期限について、全国一律で令和3年4月15日(木)まで延長されることが発表されました。
 これに伴い、振替納税に係る振替日についても、申告所得税は令和3年5月31日(月)、個人事業者の消費税は令和3年5月24日(月)とされました。

1.還付金の受取方法

 還付金の受取りには、「預貯金口座への振込みによる方法」と「最寄りのゆうちょ銀行各店舗又は郵便局に出向いて受け取る方法」とがあります。
 あまり利用されていないように思うのですが、後者の受取方法の場合は、後日、国庫金送金通知書が送付されますので、指定したゆうちょ銀行の各店舗や郵便局窓口に国庫金送金通知書と身分証明書(運転免許証又は国民健康保険被保険者証など、本人であることを証するもの)を持参して還付金を受け取ります。
 前者の受取方法の場合は、指定した金融機関の預貯金口座に還付金が直接振り込まれます。税務署もこの方法を推しているように思います。

2.還付口座の記載方法と留意点

 還付金の受取りに預貯金口座への振込みを希望する場合は、確定申告書第一表の「還付される税金の受取場所」欄に、申告者本人の取引している金融機関名、預貯金の種別及び口座番号を記載します。
 具体的には、次のように記載します。

(1) 銀行等の預金口座の場合の記載方法

「預金種類」欄は、該当する預金種類に印を付けます(総合口座の場合は「普通」に印を付けます)。
「口座番号記号番号」欄は、口座番号のみを左詰めで記入します。

(2) ゆうちょ銀行の貯金口座の場合の記載方法

「口座番号記号番号」欄は、貯金総合通帳の記号番号のみを左詰めで記入します。その際、以下の点に注意してください。
① 他の金融機関との振込用の「店名(店番)」「口座番号」は記入しません。
② 記号部分と番号部分の間に1桁の数字(通帳再発行時に表示される「-2」などの枝番)がある場合は、その数字の記入は不要です。例えば、「12340 - 2 - 12345671」の「-2」は不要です。

※ ゆうちょ銀行の各店舗又は郵便局窓口での受取りを希望する場合は、受取りを希望する郵便局名等を記入します。

(3) 還付口座の留意点

 預貯金口座への振込みを希望する場合は、原則として、銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫、農業協同組合、漁業協同組合及びゆうちょ銀行の預貯金口座を指定することができます。
 ただし、以下の点に留意する必要があります。
① 還付金の振込みに指定できる預貯金口座については、申告者本人名義のものに限られます。申告者本人の氏名のほかに店名、事務所名などの名称(屋号)が含まれる場合は振込みできないことがありますので、申告者本人の氏名のみの口座を指定します。
旧姓のままの名義である場合には、振込みができません。
③ 納税管理人の指定をしている場合は、その納税管理人の名義の預貯金口座となります。
一部のインターネット専用銀行については還付金の振込みができませんので、振込みの可否について、あらかじめ利用しているインターネット専用銀行に確認する必要があります。

事業税の計算上の留意点(所得税との相違点)

 前回、所得税の確定申告の際に見落とされがちな第二表の「事業税に関する事項」欄の記載方法について確認しました。
 今回はその続編として、個人事業税の計算方法と留意点についてみていきます。

1.税額の計算式

 個人事業税の計算は、所得税の事業所得・不動産所得をもとに行います。計算式を示すと、次のようになります。なお、所得税における雑損控除、医療費控除、配偶者控除などの「所得控除」については、個人事業税では適用がありませんのでご注意ください。

(1) 所得税の事業所得・不動産所得の金額
(2) 所得税の事業専従者控除(給与)額
(3) 個人事業税の事業専従者控除(給与)額
(4) 青色申告特別控除額
(5) 非課税所得金額
(6) 損失の繰越控除額
(7) 被災事業用資産の損失の繰越控除額
(8) 事業用資産の譲渡損失の控除額
(9) 事業用資産の譲渡損失の繰越控除額
(10) 事業主控除額(年290万円)
(11) 課税標準額
× (12) 税率
(13) 年税額

 以下では、この計算式の各項目の留意点についてみていきます。

2.計算上の留意点(所得税との相違点)

(1) 所得税の事業所得・不動産所得の金額

 所得税の確定申告の際に次の算式で計算した事業所得・不動産所得の金額です。

 総収入金額-必要経費-青色事業専従者給与又は事業専従者控除-青色申告特別控除=所得金額

(2) 所得税の事業専従者控除(給与)額

 所得税の確定申告で「事業税が課税される事業」に係る所得金額の計算上認められた事業専従者控除(給与)額です。
※ 「事業税が課税される事業」については、前回記事「確定申告書B第二表『事業税に関する事項』欄の記載」(以下「前回記事」といいます)をご参照ください。

(3) 個人事業税の事業専従者控除(給与)額

 原則として、上記(2)の「所得税の事業専従者控除(給与)額」と同額となりますが、所得税で「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出していない場合で、事業主と生計を一にする配偶者や15歳以上のその他の親族でその事業に専ら従事している人に対して、実際に給与の支払いがされている場合は、事業税では事業専従者にできますのでその給与額を控除します。

(4) 青色申告特別控除額

 所得税の所得の計算上認められた青色申告特別控除額は、事業税の所得の計算上は適用がありませんので加算します。

(5) 非課税所得金額

 非課税所得については、前回記事をご参照ください。

(6) 損失の繰越控除額

 所得税と同様の要件のもとに認められます。ただし、事業税が課税される所得に対する損失額に限られます。

(7) 被災事業用資産の損失の繰越控除額

 所得税と同じ対象の資産について同じ要件のもとに、事業税の所得計算上生じた損失額で当該年度に控除される損失額です。

(8) 事業用資産の譲渡損失の控除額

 譲渡損失が生じた年分の所得から控除します。青色申告者で譲渡損失が生じた年分の所得から控除しきれなかった場合は、一定の要件のもと、翌年以降3年間繰越控除が認められます。

(9) 事業用資産の譲渡損失の繰越控除額

 上記(8)と同じです。

(10) 事業主控除額(年290万円)

 事業を開廃業した場合は、事業を行っていた月数(1月に満たない端数は1月とします)に応じて次の額を控除します(単位:万円)。

事業期間 1月 2月 3月 4月 5月 6月
事業主控除額 24.2 48.4 72.5 96.7 120.9 145
事業期間 7月 8月 9月 10月 11月 12月
事業主控除額 169.2 193.4 217.5 241.7 265.9 290

(11) 課税標準額

 上記(1)~(10)までの計算を終えた段階(課税標準額)で1,000円未満の端数があるときは、その端数を切り捨てます。

(12) 税率

 税率については、前回記事をご参照ください。

(13) 年税額

 年税額に100円未満の端数があるときは、その端数を切り捨てます。なお、年税額が100円未満の場合は0円となります。
 年税額が1万円を超える場合は、8月及び11月の2期に分割して納付します。また、年税額が1万円以下の場合は、全額を8月に納付します。

3.計算例

 昨年7月に夫婦で飲食店を開業し、昨年の年間収入は1,000万円で必要経費は600万円でした。また、「青色申告承認申請書」「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出しており、妻に75万円の給与を支給し、青色申告特別控除額は65万円でした。
 この場合の個人事業税の計算は、次のようになります。

 総収入金額(1,000万円)-必要経費(600万円)-青色事業専従者給与(75万円)-青色申告特別控除(65万円)=所得金額260万円

 {所得金額(260万円)+青色申告特別控除(65万円)-事業主控除(145万円)}×税率(5%)=年税額(90,000円)
 
 年税額90,000円を、8月(第1期分)と12月(第2期分)にそれぞれ45,000円ずつ納付します。

確定申告書B第二表の「事業税に関する事項」欄の記載

 個人事業税は、個人の行う物品販売業、製造業などの事業に対し、前年中の所得を課税標準として、その個人の事務所又は事業所(事務所又は事業所を設けないで行う事業については、住所又は居所)所在の都道府県が課税する税金です。
 通常は、所得税の確定申告をすれば、住民税(市・県民税)の申告と個人事業税の申告があったものとして取り扱われますので、別途申告は不要です。ただし、所得税の確定申告の際に、第二表の住民税・事業税に関する事項を記載しなければなりません。
 今回は、第二表の住民税・事業税に関する事項のうち、見落とされがちな「事業税に関する事項」欄の記載について確認します。

1.事業税が課税される事業

 個人事業税が課税される事業は、第1種事業(37業種)、第2種事業(3業種)及び第3種事業(30業種)に区分されており、所得税及び住民税の区分でいえば、概ね営業等所得及び不動産所得の一部に対して課税されます。

区分 標準税率
【第1種事業】
物品販売業、保険業、金銭貸付業、物品貸付業、製造業、請負業、印刷業、出版業、写真業、旅館業、料理店業、飲食店業、遊技場業、不動産売買業、不動産貸付業、駐車場業、広告業、運送業、運送取扱業、倉庫業、席貸業、周旋業、代理業、仲立業、問屋業、サウナ風呂等の公衆浴場業、演劇興行業、遊覧所業、興信所業、案内業、冠婚葬祭業、電気供給業、土石採取業、電気通信事業、船舶ていけい場業、両替業、商品取引業
5%
【第2種事業】
畜産業、水産業、薪炭製造業
4%
【第3種事業】
医業、歯科医業、薬剤師業、獣医業、弁護士業、司法書士業、行政書士業、公証人業、弁理士業、税理士業、公認会計士業、計理士業、社会保険労務士業、コンサルタント業、設計監督者業、不動産鑑定業、デザイン業、諸芸師匠業、歯科衛生士業、歯科技工士業、測量士業、土地家屋調査士業、海事代理士業、理容業、美容業、クリーニング業、第1種事業以外の公衆浴場業(銭湯)、印刷製版業
5%
【第3種事業】
あんま・マッサージ・指圧・はり・きゅう・柔道整復その他の医業に類する事業、装蹄師業
3%

2.事業税が課税されない所得

 林業、鉱物の掘採事業にかかる所得については課税されません。また、上表に記載のある事業に該当する場合でも、次の所得については課税されません。

区分
【第2種事業】
畜産業、水産業及び薪炭製造業で自家労力(事業を行う人又はその同居の親族の労力)によって事業を行った日数の合計がその年中における延べ労働日数の2分の1を超える場合はその所得
【第3種事業】
医業、歯科医業、薬剤師業、あんま・マッサージ・指圧・はり・きゅう・柔道整復その他の医業に類する事業を行っている人の社会保険診療に係る所得
【第3種事業】
あんま・マッサージ・指圧・はり・きゅう・柔道整復その他の医業に類する事業を行うもので、両眼の視力を喪失した人及び万国式視力表により測定した両眼の視力が0.06以下の視力障害のある人が行うものはその所得

3.申告

 所得税の確定申告又は住民税(市町村税・県民税)の申告をした場合は、個人事業税の申告があったものとして取り扱われますので、重ねて申告する必要はありません。
 ただし、次のような場合には、県税事務所に個人事業税の申告をする必要があります。以下に該当するときで申告をしなかった場合は、事業税の各種控除(損失の繰越控除、事業用資産の譲渡損失の控除等)を受けることができません。

(1) 法人成りなどで年の中途で事業を廃止した場合は、事業廃止後1か月以内
(2) 事業主の死亡で年の中途で事業を廃止し、準確定申告(廃止した年分に係る所得税の確定申告)を行っていない場合は、死亡後4か月以内

4.「事業税に関する事項」欄の記載

 所得税の確定申告書B第二表には、このような「事業税に関する事項」欄が設けられています。
 この欄は個人事業税の計算上必要ですから、個人事業税が課税される事業所得などがある人は、該当項目があれば記載しなければなりません。該当項目があるにもかかわらず記載がない場合は、事業税の各種控除を受けることができません。
 以下で、各項目の記載上の留意点を述べていきます。

(1) 所得税で控除対象配偶者などとした専従者

 所得税で「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出していない場合で、事業主と生計を一にする配偶者や15歳以上のその他の親族でその事業に専ら従事している人に対して、実際に給与の支払いがされている場合は、事業税では事業専従者にできますので、その人の氏名及び給与額を記載します。

(2) 非課税所得など

 個人事業税には非課税の事業がありますので、事業所得のうち個人事業税が課税されない所得(上記2参照)がある場合は、下記の非課税所得番号を番号欄に、その所得金額(事業専従者控除(給与)額を差し引く前の金額)を所得金額欄に記載します。
 ただし、8番の社会保険診療報酬に係る所得がある場合は、所得ではなく収入金額を記載します。これは、収入金額をもとに県税事務所で所得金額が計算されるからです。

① 複数の事業を兼業している人で、そのうち次に掲げる事業により生ずる所得がある場合

番号 所得
1 畜産業(農業に付随して行うものを除く)から生ずる所得
2 水産業(小規模な水産動植物の採捕の事業を除く)から生ずる所得
3 薪炭製造業から生ずる所得
4 あんま・マッサージ・指圧・はり・きゅう・柔道整復その他の医業に類する事業(両眼の視力を喪失した人その他両眼の視力0.06以下の人が行うものを除く)から生ずる所得
5 装蹄師業から生ずる所得

② 次に掲げる所得(非課税所得)がある場合

番号 非課税所得
6 林業から生ずる所得
7 鉱物掘採業から生ずる所得
8 社会保険診療報酬に係る収入
9 外国での事業に係る所得(外国に有する事務所等で生じた所得)
10 地方税法第72条の2に定める個人の行う事業に該当しないものから生ずる所得

(3) 損益通算の特例適用前の不動産所得

 個人事業税では、所得税における不動産所得の損益通算の特例措置(損失の金額のうち、土地等を取得するために要した負債の利子の額に相当する部分の損益通算不適用)の規定は適用されませんので、これに該当する金額がある場合は、適用前の不動産所得を記載します。
※ 所得税における不動産所得の損益通算の特例措置については、本ブログ記事「賃貸用不動産取得に要した借入金利子の必要経費算入と損益通算」をご覧ください。

(4) 不動産所得から差し引いた青色申告特別控除額

 所得税で青色申告者に認められている青色申告特別控除は、個人事業税では認められていません。
 青色申告特別控除額を不動産所得から控除した場合は、その金額を記載します。

(5) 事業用資産の譲渡損失など

 事業税が課税される事業に使用していた機械装置、車両運搬具、工具器具備品など事業用資産を、その事業に使用しなくなってから1年以内に譲渡した場合で、譲渡損失があれば記載します。
 なお、譲渡益と譲渡損がある場合は損益通算せず、損失額のみを記載します。ただし、土地、建物、無形の固定資産は対象になりません。
 また、白色申告者において、事業の所得の計算上生じた損失のうち、被災事業用資産の損失の金額がある場合は、その金額を記載します。
 これらの損失の内容は、第二表の「雑所得(公的年金等以外)、総合課税の配当所得・譲渡所得、一時所得に関する事項」欄にも記載します。
 この「事業用資産の譲渡損失など」欄に記載がない場合は控除できませんので、ご注意ください。

(6) 前年中の開(廃)業

 事業主控除額(年290万円)は年間事業月数により算出しますので、新たに事業を開始した場合又は事業を廃止した場合は、記入欄の「開始・廃止」の該当する文字を〇で囲み、その月日を記載します。

(7) 他都道府県の事務所等

 個人事業税は、事業所等が所在する都道府県により課税され、また、他の都道府県にも事務所等がある場合には、所得金額をその事務所等の従業員数で按分して課税されます。
 したがって、他都道府県に事務所等がある場合は〇印を記入し、その所在地と月末ごとの従業員数を、それぞれ事務所や事業所ごとに適宜用紙に書いて添付します。

※ 第二表「事業税に関する事項」欄の記載方法については、個人事業税の計算構造を知れば理解が深まります。個人事業税の計算については、この記事の続編である「事業税の計算上の留意点(所得税との相違点)」をご覧ください。

不動産賃貸における立退料の取扱い

1.借主が立退料をもらったとき

 事務所や住居などを借りている個人が、その事務所などを明渡して立退料を受け取った場合には、所得税法上の各種所得の金額の計算上収入金額になります。
 受け取った立退料は、その内容から次の3つに区分され、その取扱いは次のようになります。

内容 立退料の取扱い
家屋の明渡しによって消滅する権利の対価の額に相当する金額 譲渡所得の収入金額
立ち退きに伴って、その家屋で行っていた事業の休業等による収入金額又は必要経費を補填する金額 事業所得等の収入金額
上記に該当する部分を除いた金額 一時所得の収入金額

2.貸主が立退料を支払ったとき

 建物を賃貸している場合に、借家人に立ち退いてもらうため、立退料を支払うことがあります。このような立退料の取扱いは次のようになります。

内容 立退料の取扱い
賃貸している建物やその敷地を譲渡するために支払う立退料 譲渡所得の譲渡費用
土地、建物等を取得する際に、その土地、建物等を使用していた者に支払う立退料 土地、建物等の取得費又は取得価額
敷地のみを賃貸し、建物の所有者が借地人である場合に、借地人に立ち退いてもらうための立退料 土地の取得費(借地権の買い戻しの対価)
上記に該当しない立退料で、不動産所得の基因となっていた建物の賃借人を立ち退かせるために支払う立退料 不動産所得の必要経費

3.貸主が居住するために支払う立退料

 上記2で見たように、不動産所得の基因となっていた建物の賃借人を立ち退かせるために支払う立退料は、不動産所得の必要経費になります。
 では、次のような場合、立退料は不動産所得の必要経費になるのでしょうか?
 例えば、サラリーマンが転勤のためマイホームを賃貸していましたが、人事異動で再びマイホームに住む必要が生じたため、借家人に家屋の明渡しを求めて立退料を支払った場合です。
 このサラリーマンは、転勤の期間中、受領した家賃を不動産所得として年々確定申告をしていましたので、自己が居住するために支払う今回の立退料も必要経費にしたいところです。
 しかし、結論を先に述べると、自己が居住するために支払う立退料は不動産所得の必要経費にはなりません。
 所得税法の必要経費の理念は、「収入を得るために必要な経費」とされています。したがって、立退料を支払った場合には、その立退料が収入を得るために必要なものであるかどうかが必要経費か否かを判断する基準となります。
 今回のケースでは、賃貸していた家屋から発生した家賃収入は立退料を支払う以前のものであり、立退料を支払ったことにより発生したものではありません。よって、自己が居住するために支払う立退料は「収入を得るために必要な経費」に該当せず家事費となり、不動産所得の必要経費にはなりません。

事業者が経費支払時にポイントを使用した場合の経理処理

 VISAやJCBなどのクレジットカードで買い物をすると、利用金額に応じてポイントが付与されます。このポイントは、次回以降の買い物の際に購入代金に充てることができます。
 今回は、事業者(法人、個人)が経費支払時にこのようなポイントを使用した場合の経理処理について確認します。
 なお、一般消費者である個人がポイントを使用したときの課税関係については、本ブログ記事「個人が商品購入時に取得又は使用したポイントは所得税の課税対象となるか?」をご覧ください。
 

1.事業者が法人の場合

 法人がポイントで経費を支払った場合の経理処理は、次のいずれかの方法によります(消費税の会計処理は税込方式とします)。

(1) 値引処理(ポイント使用後の支払金額を経費算入する処理)

〇月〇日 消耗品11,000円をクレジットカードで購入した。

借方 金額 貸方 金額
消耗品費 11,000 未払金 11,000

△月△日 〇月〇日の購入代金11,000円が決済され、110円分のポイントが付与された。

借方 金額 貸方 金額
未払金 11,000 現金預金 11,000

◇月◇日 消耗品5,500円をクレジットカードで購入し、△月△日に付与された110円分のポイントを使用した。

借方 金額 貸方 金額
消耗品費 5,390 未払金 5,390

※ ポイント使用後の金額(5,500-110=5,390)を経費算入します。

(2) 両建処理(ポイント使用前の支払金額を経費算入し、ポイント使用額を雑収入に計上する処理)

〇月〇日 消耗品11,000円をクレジットカードで購入した。

借方 金額 貸方 金額
消耗品費 11,000 未払金 11,000

△月△日 〇月〇日の購入代金11,000円が決済され、110円分のポイントが付与された。

借方 金額 貸方 金額
未払金 11,000 現金預金 11,000

◇月◇日 消耗品5,500円をクレジットカードで購入し、△月△日に付与された110円分のポイントを使用した。

借方 金額 貸方 金額
消耗品費 5,500 未払金 5,390
    雑収入 110

※ ポイント使用前の金額(5,500)を経費算入し、ポイント使用額(110)を雑収入に計上します。雑収入の消費税課税区分は不課税です。

2.事業者が個人(個人事業主)の場合

 個人事業主がポイントで経費を支払った場合の経理処理は、法人より少し複雑です。
 個人事業主には一般消費者としての側面と事業者としての側面がありますが、クレジットカードの利用で貯まったポイントも、プライベートで貯まったものと事業で貯まったものがあります。
 事業で貯まったポイントを使用した場合の経理処理は、法人の場合と同様に値引処理と両建処理のいずれかの方法によります(両建処理における雑収入の所得区分は事業所得、消費税課税区分は不課税となります)。
 プライベートで貯まったポイントを事業で使用した場合の経理処理は、次のようになります。

〇月〇日 消耗品11,000円をクレジットカードで購入した。

借方 金額 貸方 金額
消耗品費 11,000 未払金 11,000

△月△日 〇月〇日の購入代金11,000円が決済され、110円分のポイントが付与された。

借方 金額 貸方 金額
未払金 11,000 現金預金 11,000

◇月◇日 消耗品5,500円をクレジットカードで購入し、△月△日に付与された110円分のポイントを使用した。

借方 金額 貸方 金額
消耗品費 5,500 未払金 5,390
    事業主借 110

プライベートで貯まったポイントを使用したときは、使用前の金額(5,500)を経費算入し、ポイント使用額を事業主借とします。ポイント使用額は一時所得の課税対象になることもありますので、雑収入ではなく事業主借で処理して事業所得の収入金額に算入しないようにします。

 プライベートで貯まったポイントを事業で使用した場合の経理処理は、上記のようになります。このような処理は、プライベート用と事業用のクレジットカードを分けるなどして、ポイントが区分できることが前提です。
 しかし、現実的にはプライベートで貯まったポイントなのか事業で貯まったポイントなのかを区分することは煩雑であり、ポイント使用額を雑収入とするのか事業主借とするのか判断しかねることもあります。また、雑収入とすべきものを事業主借とすると、税務調査の際にポイント使用額分の課税漏れを指摘される懸念もあります。
 このような場合は、簡易的な処理として、ポイント使用後の金額を経費に算入する次の処理でも問題ありません(値引処理と同じになります)。

借方 金額 貸方 金額
消耗品費 5,390 未払金 5,390

給与の支払がない場合の法定調書合計表と給与支払報告書の提出の要否

 年末調整が終われば、その後の処理として「法定調書」「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」(以下「合計表」といいます)と「給与支払報告書(個人別明細書、総括表)」(以下「報告書」といいます)を提出しなければなりません。
 基本的には、それぞれ税務署から郵送されてくる「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表の作成と提出の手引」と「給与支払報告書等の作成及び提出についての手引書」に従って作業を進めていきます。
 この作業は、従業員に給与を支払っていることが前提になりますが、事業者(個人事業主)によっては、従業員を雇っておらず給与の支払がない場合もあります。このような事業者においては、従業員の年末調整という作業は必要ありませんが、その後の合計表と報告書の提出についてはどうでしょうか?
 今回は、給与の支払がない場合の合計表と報告書の提出の要否について確認します。

1.合計表の提出について

 個人事業主の中には、従業員を雇わず1人で事業を行っている場合があります。また、開業後間もない時期のため、青色事業専従者に給与を支払っていない個人事業主もいることと思います。
 このような場合、合計表を税務署に提出する必要はあるのでしょうか?
 これについては、「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表の作成と提出の手引」に記載があります。令和2年分であれば手引の32ページ右下に、次のように書かれています(太字加工は筆者による)。

 税務署へ提出する法定調書がない場合は、合計表の「(摘要)」欄に「該当なし」と記載の上、提出をお願いします。
 なお、e-Taxのメッセージボックス及びマイナポータルに「法定調書提出期限のお知らせ」(以下「お知らせ」といいます。)が届いている方で、お知らせを通じて「提出義務なし」と回答した場合には、上記の合計表の提出は必要ありません(おしらせは11月下旬から12月上旬に送信される予定です。)。

 つまり、給与の支払がない場合でも合計表の「1 給与所得の源泉徴収票合計表(375)」の摘要欄に「該当なし」と記載して提出する必要がありますが、メッセージボックスのお知らせを通じて「提出義務なし」と回答した場合は提出する必要はないということです。いずれにせよ、税務署に対する意思表示は必要であり、それを怠ると税務署から連絡がきますのでご注意ください。
 なお、合計表を提出しなかったり虚偽記載をした場合は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます(所得税法242条5号)。

2.報告書の提出について

 一方、個人住民税の基礎資料となる報告書は市町村に提出します。報告書は税務署に提出する源泉徴収票と提出範囲が異なり、前年中に給与等を支払ったすべての従業員等(パート・アルバイト、役員等を含む)について提出が必要です。
 では、前年中に給与の支払がなかった場合、報告書は提出するのでしょうか?
 答えは「否」です。給与の支払がない場合、報告書は提出不要です。個人別明細書に0と記載して提出することも、総括表に0と記載して提出することも、市町村は求めていないようです。ただし、市町村によって対応が異なることもありますので、当該市町村に確認した方が良いかもしれません(連絡先については、「給与支払報告書等の作成及び提出についての手引書」の「市町村所在地一覧表」に載っています)。

紹介料が交際費とならないための要件

 不動産業者や建設業者などが顧客や物件の紹介を受けたときに、紹介者(紹介をしてくれた人)に対して紹介料(情報提供料)を支払うことがあります。
 この場合、その紹介料は交際費に該当するケースもありますが、一定の要件を満たせば交際費にならないケースもあります。
 今回は、紹介料が交際費にならないための要件を確認します。

1.紹介者が情報提供を業とする場合

 情報提供を業とする者とは、例えば不動産仲介業のように仲介、代理、斡旋を行う業者(法人・個人)が考えられます。また、不動産売買を主たる業務とする事業者が、自身の販売網を活かして情報提供を行う場合も考えられます。
 これらの者に支払う紹介料については、紹介者が業務として紹介を行っていますので交際費とはならず、支払手数料等として全額が損金になります。
 交際費の問題が生じるのは、情報提供を業としない者へ紹介料を支払った場合です。

2.紹介者が情報提供を業としない場合

 情報提供を業としない者(法人・個人)に対して紹介料を支払った場合は、その紹介料は原則として交際費になります。
 現行制度では、資本金1億円以下の中小企業の場合、年間800万円までの交際費は損金算入されますが、800万円を超える部分は損金算入不可です。交際費とすべき紹介料を支払手数料として処理していた場合に、その紹介料が税務調査の際に交際費と認定されて、結果的に交際費が年間800万円を超えてしまうこともあります。
 しかし、次の要件をすべて満たす場合は、情報提供を業としない者に支払った紹介料は交際費に該当しないこととされています(租税特別措置法通達61の4(1)-8)。

(1) その金品の交付があらかじめ締結された契約に基づくものであること
(2) 提供を受ける役務の内容が当該契約において具体的に明らかにされており、かつ、これに基づいて実際に役務の提供を受けていること
(3) その交付した金品の価額がその提供を受けた役務の内容に照らし相当と認められること

 (1)の「あらかじめ締結された契約に基づくもの」という要件については、契約そのものは口頭でも成立しますが、税務調査の際に証拠を示すためにも、文書による契約が望ましいといえます。しかし、紹介者が情報提供を業とする者なら別ですが、そうでない者との間にあらかじめ文書による契約を交わすことは稀であると思われます。
 そこで、契約書でなくても、例えば、紹介料の支払基準を記載したポスターやチラシなどを、社内その他所要の場所に掲示する方法でも構いません。

 (2)の「役務の提供を受けていること」という要件については、何をもって役務の提供を受けたとするかを明らかにしておく必要があります。
 例えば、建設会社が紹介を受けた見込客と交渉した結果、他の建設会社の方が条件がよいとされ成約しなかった場合、役務の提供を受けたか否かが問題となります。役務の提供の程度がどうであるかは、契約の具体的内容がどのようになっているかに係る問題であると解されるため、成約したら支払うのか、確かな情報だけに支払うのか、いわゆるガセネタでも支払うのか等を明らかにしておく必要があります。

 (3)の「提供を受けた役務の内容に照らし相当と認められること」という要件については、(2)で明示された役務の提供の程度(成約したら支払う、確かな情報だけに支払う、ガセネタでも支払う等)を考慮して判断されます。
 しかし、紹介料には統一的な相場はなく、業種や規模、内容等によって異なりますので、同業他社の相場情報が参考になると思われます。
 注意しなければならないことは、同程度の役務の内容なのに紹介をしてくれた相手によって支払額が変わったりすると、単なる謝礼として交際費とみなされる可能性があるということです。税務調査で否認されないためにも、合理的な支払基準を作成する必要があります。

新型コロナの影響を受けた事業者の令和3年度固定資産税等の減免

 新型コロナウイルス感染症の影響により、一定以上の事業収入の減少があった中小企業・小規模事業者に対して、2021年度(令和3年度)に限り、償却資産に係る固定資産税及び事業用家屋に係る固定資産税及び都市計画税が減免されます。
 今回は、本特例の適用を受けるための申請方法などを紹介します。

1.対象者

 以下のいずれかに該当する法人または個人(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の第2条第5項に規定する「性風俗関連特殊営業」を営む者を除きます)

(1) 資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人
(2) 常時使用する従業員が1,000人以下の資本又は出資を有しない法人
(3) 常時使用する従業員が1,000人以下の個人

 ※ただし、大企業の子会社等(下記のいずれかの要件に該当する企業)は対象外となります。
① 同一の大規模法人(資本金の額若しくは出資金の額が1億円超の法人、資本若しくは出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人超の法人又は大法人(資本金の額又は出資金の額が5億円以上である法人等)との間に当該大法人による完全支配関係がある法人等をいい、中小企業投資育成株式会社を除きます)から2分の1以上の出資を受ける法人
② 2以上の大規模法人から3分の2以上の出資を受ける法人

2.減免対象

 償却資産に係る固定資産税、事業用家屋に係る固定資産税・都市計画税の課税標準
 ※居住用の部分及び土地は対象になりません。

3.措置内容

令和2年2月から10月までの任意の連続する3か月間の事業収入の減少率 軽減率
前年同期比30%以上50%未満の減少 2分の1
前年同期比50%以上の減少 全額

4.減免期間

 2021年度(令和3年度)に限ります。

5.申請期間

 2021年(令和3年)1月4日から2月1日まで
 ※当日消印有効です(期限を過ぎた申請は受付されません)。

6.申請方法

 事前に税理士、公認会計士等の認定経営革新等支援機関等による確認を受けた後に、下記の必要書類を添えて対象資産の所在する市町村(市役所資産税課など)へ申請します。

(1) 申請書(認定経営革新等支援機関等の確認印が押されたもの)
(2) 認定経営革新等支援機関等への確認時に提出した次の書類(写し)
 ① 収入減を証明する書類
 ② 特例対象家屋の事業割合を示す書類
 ※収入減の理由に「不動産賃料の猶予」によるものが含まれる場合は、追加で「不動産賃料の猶予の金額や猶予期間を確認できる書類」を提出します。

インボイス制度導入後の免税事業者からの仕入れに係る仕入税額控除の特例(経過措置)

 消費税のインボイス制度は、適格請求書等保存方式として、2023年(令和5年)10月1日から導入されます。
 インボイス制度の下では、適格請求書等の保存と帳簿の保存が仕入税額控除の要件とされているため、適格請求書発行事業者になることができない免税事業者が取引から排除される可能性があることが懸念されています。
 そこで、激変緩和の趣旨から、インボイス制度導入後6年間は、免税事業者からの仕入れであっても一定割合の仕入税額控除が認められる措置が講じられています。
 今回は、免税事業者からの仕入れに係る仕入税額控除の特例(経過措置)について確認します。

1.区分記載請求書等保存方式と適格請求書等保存方式の異同点

 次の表は、区分記載請求書等保存方式と適格請求書等保存方式の記載事項等の異同点を比較したものです。

  区分記載請求書等保存方式 適格請求書等保存方式
期間 令和元年10月1日~令和5年9月30日 令和5年10月1日以降
帳簿 ①課税仕入れの相手方の氏名又は名称
②取引年月日
③取引の内容(軽減対象資産の譲渡等である旨)
④対価の額
同左

請求書等 ①請求書発行者の氏名又は名称
②取引年月日
③取引の内容(軽減対象資産の譲渡等である旨)
④税率ごとに区分して合計した税込対価の額
⑤請求書受領者の氏名又は名称
①適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
②取引年月日
③取引の内容(軽減対象資産の譲渡等である旨)
④税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜き又は税込み)及び適用税率
税率ごとに区分した消費税額等
⑥請求書受領者の氏名又は名称
税額控除 免税事業者からの仕入れも控除可 免税事業者からの仕入れは控除不可

2.免税事業者からの仕入れは控除不可

 現行の区分記載請求書等保存方式の下では事業者登録制度がないため、取引相手が課税事業者であるか免税事業者であるかを知ることはできません。そのため、免税事業者や消費者からの仕入れであっても、その取引が課税仕入れに該当するのであれば仕入税額控除が認められています。
 一方、適格請求書等保存方式は事業者登録制度を基礎としているため、適格請求書発行事業者になることができない免税事業者は、請求書等に登録番号を記載することができません。そのため、課税仕入れを行った事業者は、登録番号の記載のない請求書等を受け取ることによって、取引相手が免税事業者であることを知ります。
 適格請求書等が交付されない課税仕入れは、仕入税額控除の対象から除外しなければなりませんので、課税事業者は消費税の計算上不利となる免税事業者との取引を控える可能性があります。

3.免税事業者からの仕入れに係る仕入税額控除の特例(経過措置)

 上記のように、インボイス制度導入後は免税事業者が取引から排除される可能性がありますが、激変緩和の趣旨から、導入後6年間は適格請求書等保存方式において仕入税額控除が認められない課税仕入れであっても、区分記載請求書等保存方式において仕入税額控除の対象となるものについては、次の割合で仕入税額控除が認められます。

期間 割合
令和5年10月1日から令和8年9月30日までの3年間 仕入税額相当額の 80%
令和8年10月1日から令和11年9月30日までの3年間 仕入税額相当額の 50%

 この経過措置の適用を受けるためには、帳簿に経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨を記載しておかなければなりません。また、区分記載請求書等と同様の記載事項が記載された請求書等の保存が必要です。
 なお、この経過措置はあくまでも激変緩和措置であって、免税事業者が取引から排除される懸念は残ります。

※ 2024(令和6)年度税制改正により、一の免税事業者等から行う当該経過措置の対象となる課税仕入れの額の合計額がその年又はその事業年度で税込み10億円を超える場合には、その超えた部分の課税仕入れについて、本経過措置は適用できないこととする見直しが行われました。
 この改正は、2024(令和6)年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。

簡易課税制度における不動産業の事業区分

 消費税の計算方法には、原則課税(一般課税、本則課税)と簡易課税があります。このうち、原則課税による計算は煩雑であり事務手数を要することから、基準期間における課税売上高が5,000万円以下の中小事業者には簡易課税が認められています。
 簡易課税は原則課税の簡便法として設けられていますが、事業区分の判定については判断に迷うことも多く、必ずしも「簡易」な方法であるとは言えません。とりわけ不動産業は、簡易課税制度においては第6種事業に区分されていますが、場合によっては他の事業に区分されることもあります。
 今回は、簡易課税制度における不動産業の事業区分について確認します。

1.簡易課税制度の事業区分とみなし仕入率

 原則課税では、消費税額は次のように計算します。

  消費税額=課税売上げに係る消費税額-課税仕入れ等に係る消費税額

 この算式のうち、「課税仕入れ等に係る消費税額」を算出するための手続きが煩雑で事務負担も大きいことから、簡便法として簡易課税が設けられています。

 簡易課税では、課税売上げに係る消費税額に、事業区分に応じた一定の「みなし仕入率」を掛けた金額を「課税仕入れ等に係る消費税額」とみなして、納付する消費税額を計算します。算式は次のとおりです。

  消費税額=課税売上げに係る消費税額-(課税売上げに係る消費税額×みなし仕入率)

 原則課税のように「課税仕入れ等に係る消費税額」を算出する必要がなく、課税売上げに係る消費税額のみから納付すべき消費税額が計算できるため、簡便法と位置付けられています。

 簡易課税におけるみなし仕入率は、事業区分に応じて次のように定められています。

事業区分 該当する事業 みなし仕入率
第1種事業 卸売業 90%
第2種事業 小売業、農林漁業(飲食料品の譲渡に係る事業) 80%
第3種事業 製造業、建築業、農林漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)など 70%
第4種事業 第1・2・3・5・6種以外の事業(飲食店業など) 60%
第5種事業 運輸・通信業、金融・保険業、サービス業(飲食店業を除く) 50%
第6種事業 不動産業 40%

 この表からもわかるように、今回の論点である不動産業は第6種に区分されています。しかし、一口に不動産業と言っても、その形態は様々です。不動産に関する事業をすべて第6種としてしまうのは誤りです。

2.不動産業の事業区分とみなし仕入率

 ここでは、簡易課税制度における不動産業を、不動産売買業、不動産仲介業、不動産賃貸業、不動産管理業の4つに細分化します。そのうえで、それぞれ簡易課税制度のどの事業区分に該当するかを整理したものが下表です。

業態 内容 事業区分 みなし仕入率
不動産売買業 不動産を買い取り、そのままの状態で事業者に販売 第1種 90%
不動産を買い取り、そのままの状態で消費者に販売 第2種 80%
自己が建設した建売住宅を販売 第3種 70%
注文住宅を請け負って、下請けに建築させて販売 第3種 70%
中古住宅をリフォーム(塗装、修理等)して販売 第3種 70%
不動産仲介業 不動産の売買や賃貸を仲介 第6種 40%
不動産賃貸業 不動産の賃貸 第6種 40%
賃借人から原状回復費(内装工事などの建築リフォーム)を受け取った 第3種 70%
賃借人から原状回復費(室内クリーニングなど)を受け取った 第5種 50%
不動産管理業 他の者の不動産を管理 第6種 40%

 不動産業に簡易課税制度を適用する際は、その業態や内容に応じて該当する事業区分(みなし仕入率)が異なりますので注意が必要です。