副業の給与所得が会社にバレない方法とは?

 かつては副業を禁止する会社が多かったのですが、最近は副業を容認(あるいは推奨)する会社が増えてきています。公務員でも、届出さえしておけば副業が許される自治体もあるようです。
 今は世の中が副業に対して寛容になったとはいえ、一方で副業を禁止する会社もあり、また、副業が解禁されている会社に勤めていても、副業していることを会社に知られたくない場合もあるかと思います。
 今回は、副業が会社にバレない一般的な方法と、副業の「給与所得」が会社にバレないイレギュラーな方法について述べます。

1.副業がバレない一般的な方法

 会社員が会社勤めの傍ら行う副業には、様々なものがあります。例えば、アフィリエイト、FX取引、仮想通貨取引、原稿執筆、講演、UBER EATS ドライバーなどがあります。これらの活動によって得た所得は、雑所得に区分されます。
 また、自分が所有するマンションの一室を賃貸して家賃収入を得ることもありますが、これは不動産所得に区分されます。
 さらに、副業ではありませんが、例えば自分の居住する住宅を売って売却代金を受け取ると、これは譲渡所得になります。
 これらの活動によって得た所得は、基本的には確定申告をする必要があります。その結果、これらの所得は本業の給与所得と合算されて住民税が課税され、会社で給与から天引き(特別徴収)されますので、会社の経理担当者に給与以外に所得があると気づかれる可能性があります。
 このような副業が会社にバレないようにするために、一般的によく行われるのは次の方法です。

 所得税の確定申告書第二表には、「住民税・事業税に関する事項」欄に住民税の徴収方法を選択する箇所があります(上図参照)。この箇所の「自分で納付」に〇をつけて申告すると、副業による所得に関する住民税の通知・納付書が自宅に届きますので、その分を自分で納付すれば、副業を会社に知られずに済みます(自分で納付する方法のことを「普通徴収」といいます)。
 一般的には以上の方法で、会社に届く住民税の特別徴収税額の決定通知書には給与所得だけが記載され、「その他の所得計」欄や「主たる給与以外の合算所得区分」欄に副業分が記載されることはありません(兵庫県宝塚市の場合)。しかし、市町村によっては対応が異なる可能性もありますので、確定申告の前に確認しておく方がいいと思います。

 なお、会社員の副業による雑所得等が20万円以下の場合は、確定申告をしなくてもよいことになっています(詳しくは、本ブログ記事「給与所得者と公的年金等受給者の確定申告不要制度の注意点」をご参照ください)。

2.副業が給与所得の場合はどうする?

 一般的には上記1の方法により副業を会社に知られないようにするのですが、副業で得た収入が給与所得に該当する場合はどうでしょうか?
 例えば、コンビニ、スーパー、レストラン、居酒屋、塾、専門学校などでアルバイトをしている場合、これらで得た収入は給与所得になります。副業が給与所得の場合、上記1の方法は使えません。
 上記1の図をよく見ると、「給与、公的年金等以外の所得に係る住民税の徴収方法」となっているのがわかります。
 つまり、給与所得以外の所得(雑所得や不動産所得など)については、確定申告書第二表で住民税の徴収方法を選択できるのですが、給与所得の場合は住民税の徴収方法は選択できず、原則として特別徴収になります。
 また、本業と副業の2か所から給与所得を得ていますので、たとえ副業の給与所得が20万円以下だったとしても、確定申告不要制度は使えません。
 そうすると、副業で得た所得を確定申告して、さらに住民税を特別徴収されると、会社に副業がバレる可能性があります。
 このような場合は、どうすることもできないのでしょうか?

 残された唯一の方法は、自分が住んでいる市区町村に住民税の普通徴収の申し出をすることです。
 本来は2か所からの給与所得は合算され、その合計に対して住民税が課税され、一律特別徴収されますので、副業分の住民税だけを普通徴収にするというのはイレギュラーな手続きになります。
 しかし、副業を会社に知られたくない旨を伝えると、この普通徴収の申し出に対応してくれる市区町村もあります。
 イレギュラーな手続きになりますので、原則として納税者本人が市区町村の窓口で手続きをする必要があります(同居家族であれば委任状がなくても手続きできる場合があります)。申し出といっても何か特別な様式があるわけではなく、2か所分の源泉徴収票と印鑑を持参して、本業は特別徴収、副業は普通徴収を希望することを担当者に相談するだけです。相談できる期限は所得税の確定申告期限と同じであり、所得税の確定申告が済んでいなくても相談できます。
 市区町村によって対応は異なると思いますが、一度相談してみる価値はあると思います。

青色申告と白色申告の特典比較

1.白色申告は現金主義で記帳できるという誤解

 青色申告と白色申告には、それぞれ適用できる特典がありますが、両者を混同して適用を誤ってはいけません。
 例えば、「青色申告の記帳は発生主義によらないといけないが、白色申告の場合は現金主義で記帳することができる」という認識があるとすれば、これは誤解です。
 青色申告も白色申告も、原則として発生主義による記帳を行わなければなりません。現金主義による記帳は、一定の要件を満たす青色申告者のみに認められた特典であり、白色申告者に現金主義の適用はありません。
 また、白色申告者が取得価額30万円未満の少額減価償却資産を必要経費に算入することはできません。これも青色申告者のみに認められた特典です。
 このような適用誤りを防止するために、青色申告と白色申告について、それぞれに認められている特典の比較を行います。

2.主な特典の比較

 青色申告と白色申告の特典は、次のとおりです。

特典 青色申告 白色申告
青色申告特別控除 最高65万円又は10万円を不動産所得、事業所得、山林所得から順次控除できる 適用なし
青色事業専従者給与
事業専従者控除
事業的規模の所得において、労務の対価として相当と認められる金額の範囲内で支払われた給与は、全額必要経費に算入できる 事業的規模の所得において、専従者1人あたり最高50万円(配偶者は86万円)を必要経費に算入できる
現金主義 前々年の不動産所得及び事業所得の合計額が300万円以下の場合は、現金主義による所得計算ができる 適用なし
少額減価償却資産の特例 取得価額が30万円未満の少額減価償却資産は、業務の用に供した年に、全額必要経費に算入できる(年間300万円が限度) 適用なし
貸倒引当金 事業的規模の所得において、個別評価、一括評価(事業所得に限る)による貸倒引当金の計上ができる 事業的規模の所得において、個別評価のみ認められる
低価法 棚卸資産は低価法により評価できる 適用なし
純損失の繰越控除 損失額のうち、同一年中の所得と通算しても控除しきれない金額は、翌年以降3年間にわたり控除できる 変動所得又は被災事業用資産の損失に限り繰越控除できる
純損失の繰戻し還付 前年分の所得に対する税金から還付を受けられる 適用なし

慰安旅行費が福利厚生費となるための3要件と注意点

 福利厚生の一環として、日頃の従業員の頑張りを労うために慰安旅行を実施することがあります。福利厚生の一環として実施する慰安旅行なので、会社が負担した旅行代は当然福利厚生費になるものと経営者(または経理担当者)は考えがちですが、必ずしもそうではありません。
 今回は、慰安旅行費が福利厚生費となるための要件と注意点について確認します。

1.福利厚生費となる要件

 会社行事として行われる慰安旅行に参加することによって従業員が経済的利益を受ければ、原則としてこの経済的利益も給与と同様に所得税の課税対象になります。
 ただし、税務上の取扱いとして、会社が負担した費用が参加した従業員の給与として課税されるかどうかは、その旅行の条件を総合的に勘案して判定することとなります。
 国税庁タックスアンサーによると、慰安旅行によって従業員に供与する経済的利益の額が少額の現物給与は強いて課税しないという少額不追及の趣旨を逸脱しないものであると認められ、かつ、その旅行が次の(1)と(2)のいずれの要件も満たすものであるときは、原則として、その旅行の費用を旅行に参加した人の給与としなくてもよいことになっています。

(1) その旅行に要する期間が4泊5日(海外旅行の場合は、外国での滞在日数が4泊5日)以内であること
(2) その旅行に参加する従業員等の数が全従業員等(工場、支店等で行う場合は、その工場、支店等の従業員等)の50%以上であること

 (1)について補足すると、海外旅行の場合は4泊5日に移動日数(機内泊や船内泊)は含めません。また、(2)について補足すると、アルバイトや契約社員の方は参加比率に含めません。
 いずれにしても、この(1)(2)の要件については形式的に判断できますので、迷うことはないと思います。

 問題は、「少額の現物給与は強いて課税しないという少額不追及の趣旨を逸脱しないものであると認められ」る少額の金額はいくらなのか?ということです。
 これについて明文規定はありませんが、国税庁タックスアンサーに参考になる記載があります。タックスアンサーには、次の3つの事例が掲載されています。

[事例1]
イ 旅行期間3泊4日
ロ 費用及び負担状況 旅行費用15万円(内使用者負担7万円
ハ 参加割合100%
・・・旅行期間・参加割合の要件及び少額不追及の趣旨のいずれも満たすと認められることから原則として課税しなくてもよい

[事例2]
イ 旅行期間4泊5日
ロ 費用及び負担状況 旅行費用25万円(内使用者負担10万円
ハ 参加割合100%
・・・旅行期間・参加割合の要件及び少額不追及の趣旨のいずれも満たすと認められることから原則として課税しなくてもよい

[事例3]
イ 旅行期間5泊6日
ロ 費用及び負担状況 旅行費用30万円(内使用者負担15万円
ハ 参加割合50%
・・・旅行期間が5泊6日以上のものについては、その旅行は、社会通念上一般に行われている旅行とは認められないことから課税

 事例1と2は給与課税しなくてもよい例であり、会社負担額の7万円(1泊あたり2.33万円)と10万円(1泊あたり2.5万円)は、いずれも少額不追及の趣旨を満たす「少額の金額」とされています。
 一方、事例3は給与課税になる例ですが、旅行期間が4泊5日を超えているためであり、会社負担額の15万円(1泊あたり3万円)が少額であるか否かについては定かではありません。
 これらの事例から、3泊4日であれば7万円、4泊5日であれば10万円までは福利厚生費として処理して差し支えないと思われます。

2.慰安旅行費の注意点

 次のような場合には、慰安旅行費の会社負担額は福利厚生費になりませんのでご注意ください。

(1) 自己都合による不参加者に対し、その旅行への参加に代えて金銭を支給する場合には、不参加者のみならず参加者に対しても、その不参加者に対して支給する金銭に相当する給与の支給があったものとして課税されます。
 なお、会社の業務上の都合(商品搬入のための休日出勤等)による不参加者に対して、その旅行への参加に代えて金銭を支給する場合は、その不参加者のみが給与課税されます。
(2) 役員だけで行う旅行は役員賞与とみなされ、損金不算入となります。また、役員個人に対して給与課税されます。
(3) 取引先に対する接待、供応、慰安等のための旅行は、交際費になります。交際費が損金算入限度額を超える場合は、その超過分は損金不算入となります。

電子申告したのに青色申告特別控除額が55万円?

 2018年度(平成30年度)改正で、2020年(令和2年)分の所得税確定申告から、青色申告特別控除額が65万円から55万円に変わります。
 ただし、e-Taxによる申告(電子申告)又は電子帳簿保存を行うと、引き続き65万円控除を受けることができます。
 そこで、令和2年分は是非とも電子申告を行って65万円控除を受けたいところですが、電子申告の方法を誤ると55万円控除しか受けられない場合があります。
 今回は、この電子申告をはじめ、青色申告に関する間違いやすい事例を3点確認します。

1.電子申告と65万円控除

 令和2年分の確定申告において、青色申告者(電子帳簿保存法に係る承認は受けていません)が確定申告書を電子申告により期限内に提出し、青色申告決算書を別途書面(郵送)により提出しました。この場合、65万円控除を受けることができるでしょうか?

 答えは「否」です。
 青色申告特別控除額65万円を適用することができるのは、次のいずれかの要件を満たす場合です(措法25の2③④⑥)。

(1) 所定の期限内に電子帳簿保存法第4条第1項又は第5条第1項の承認申請書を提出し、その年中の事業に係る仕訳帳及び総勘定元帳について税務署長の承認を受けて、電磁的記録による備付け及び保存を行い、かつ、期限内に貸借対照表及び損益計算書等を添付した確定申告書を提出した場合
(2) 期限内に電子申告により確定申告書、貸借対照表及び損益計算書等を送信(提出)した場合

 (1)は電子帳簿の保存、(2)は電子申告に関する規定ですが、(2)の太字部分に注目すると、確定申告書だけではなく貸借対照表と損益計算書も電子申告しなければならないことがわかります。
 本事例の場合、青色申告決算書(貸借対照表及び損益計算書)は書面により提出していますので要件を満たさず、55万円控除しか受けることができません。意外と見落としやすいポイントかもしれませんので、注意が必要です。

※ 2022(令和4)年1月1日から施行される改正電子帳簿保存法では、税務署長の事前承認は不要になります。

関連記事:「税務署・確定申告会場で電子申告しても65万円控除は受けられない」

2.貸倒引当金は青色申告者の特典?

 白色申告者が、貸倒引当金は青色申告者でなければ適用できないと判断しましたが、この判断は妥当でしょうか?

 答えは「否」です。
 貸倒引当金は青色申告の特典の一つですが、個別評価による貸倒引当金については、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業を営む者であれば、青色申告者でなくても適用を受けることができます(所法52①)。
 なお、一括評価による貸倒引当金については、事業所得を生ずべき事業を営む青色申告者のみが適用を受けることができます(所法52②)。

3.青色申告の純損失を翌年の白色申告で繰越控除できる?

 前年に青色申告者の純損失の金額が生じた場合で、翌年分が白色申告(給与所得のみ)の場合は、繰越控除ができるでしょうか?

 答えは「正」です。
 純損失の繰越控除の要件に、連続して確定申告書を提出していることとありますが、翌年以後については青色申告書の提出は要件ではないので、白色申告でも繰越控除ができます(所法70①④)。
 
 なお、白色申告者に純損失の金額が生じた場合、一切繰越控除が認められないということではありません。
 白色申告者であっても、純損失の金額のうち、変動所得の損失と被災事業用資産の損失については、その純損失の発生した年分の確定申告書を提出していれば、繰越控除ができます(所法70②)。
 さらに、当初申告要件及び期限内提出要件はないため、期限後申告又は更正の請求でも繰越損失を生じさせることができます(所法70④)。

中古住宅を取得した場合の住宅借入金等特別控除の適用要件

 住宅借入金等特別控除(いわゆる住宅ローン控除)は、新築住宅から中古住宅、増改築まで幅広く適用があります。
 中古住宅の場合は住宅ローン控除を受けられないと思っている方も見受けられますが、要件を満たせば適用を受けることができますので、確定申告をして税負担を軽くしましょう。 
 個人が中古住宅を取得した場合で、次の1~5の要件をすべて満たすときは、住宅ローン控除の適用を受けることができます。
 なお、居住の用に供する住宅を二つ以上所有する場合、控除の適用対象は主として居住の用に供する一つの住宅に限られます。

※ 2021(令和3)年度税制改正で、住宅借入金等特別控除制度について床面積要件等の見直しがされています。改正内容については、本ブログ記事「住宅借入金等特別控除の適用要件等の見直し」をご参照ください。

1.家屋等に関する要件〈築年数等〉

 取得した中古住宅が、次の(1)~(4)のいずれにも該当する住宅であること

(1) 建築後使用されたものであること

(2) 次の①~③のいずれかに該当する住宅であること

① 家屋が建築された日からその取得の日までの期間が20年(マンションなどの耐火建築物の建物の場合には25年)以下であること

※ 「耐火建築物」とは、建物登記簿に記載された家屋の構造のうち、建物の主たる部分の構成材料が、石造、れんが造、コンクリートブロック造、鉄骨造(軽量鉄骨造は含みません)、鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造のものをいいます。

② 地震に対する安全上必要な構造方法に関する技術的基準又はこれに準ずるもの (耐震基準)に適合する建物であること

※ 次の証明書等が付された家屋の場合は、上記①の築年数の要件を満たすものとされます。
イ.耐震基準適合証明書(家屋取得の日前2年以内に証明のための調査が終了したもの)
ロ.建設住宅性能評価書(評価等級が1~3のもの)の写し(家屋取得の日前2年以内に評価されたもの)
ハ.既存住宅売買瑕疵担保責任保険契約が締結されていることを証する書類(家屋取得の日前2年以内に締結されたもの)

③ 2014年(平成26年)4月1日以後に取得した中古住宅で、上記①又は②のいずれにも該当しない一定のもの(要耐震改修住宅)のうち、その取得の日までに耐震改修を行うことについて申請をし、かつ、居住の用に供した日までにその耐震改修(租税特別措置法41条の19の2(既存住宅の耐震改修をした場合の所得税額の特別控除)第1項又は41条の19の3(既存住宅に係る特定の改修工事をした場合の所得税額の特別控除)第6項若しくは第8項の適用を受けるものを除きます。)により家屋が耐震基準に適合することにつき証明がされたものであること

(3) 取得の時に生計を一にしており、その取得後も引き続き生計を一にする親族や特別な関係のある者などからの取得でないこと

(4) 贈与による取得でないこと

2.家屋等に関する要件〈床面積〉

 取得した住宅の床面積が50平方メートル以上であり、床面積の2分の1以上の部分が専ら自己の居住の用に供するものであること

※ この場合の床面積の判断基準は、次のとおりです。

(1) 床面積は、登記簿に表示されている床面積により判断します。

(2) マンションの場合は、階段や通路など共同で使用している部分(共有部分)については床面積に含めず、登記簿上の専有部分の床面積で判断します。

(3) 店舗や事務所などと併用になっている住宅の場合は、店舗や事務所などの部分も含めた建物全体の床面積によって判断します。

(4) 夫婦や親子などで共有する住宅の場合は、床面積に共有持分を乗じて判断するのではなく、ほかの人の共有持分を含めた建物全体の床面積によって判断します。
 ただし、マンションのように建物の一部を区分所有している住宅の場合は、その区分所有する部分(専有部分)の床面積によって判断します。

3.取得者に関する要件

次の(1)~(3)のいずれにも該当すること

(1) 取得者は居住者であること(2016年(平成28年)4月1日以後の取得については、非居住者でも可)

(2) 取得の日から6か月以内に居住の用に供し、適用を受ける各年の12月31日まで引き続いて住んでいること

※ 個人が死亡した日の属する年にあっては、同日まで引き続き住んでいれば適用を受けることができます。

※ 中古住宅を取得した後、その住宅に入居することなく増改築等工事を行った場合の住宅借入金等特別控除については、新型コロナウイルス感染症の影響によって工事が遅延したことなどにより、その住宅への入居が控除の適用要件である入居期限要件(取得の日から6か月以内)を満たさないこととなった場合でも、次の①~③の要件を満たすときは、その適用を受けることができます(新型コロナ税特法6条、新型コロナ税特令4条)。

① 中古住宅の取得をした日から5か月を経過する日又は新型コロナ税特法の施行の日(2020年(令和2年)4月30日)から2か月を経過する日のいずれか遅い日までに、増改築等の契約を締結していること

② 増改築等の終了後6か月以内に、中古住宅に入居していること

③ 2021年(令和3年)12月31日までに中古住宅に入居していること

(3) この特別控除の適用を受ける年分の合計所得金額が、3,000万円以下であること

※ 合計所得金額とは、次の①~⑦の合計額をいいます。

① 純損失、雑損失、居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失、特定居住用財産の譲渡損失、上場株式等に係る譲渡損失、特定投資株式に係る譲渡損失及び先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除を適用する前の総所得金額

② 特別控除前の分離課税の長(短)期譲渡所得の金額

③ 株式等に係る譲渡所得等の金額

④ 上場株式等の配当所得等(上場株式等に係る譲渡損失との損益通算後の金額)

⑤ 先物取引に係る雑所得等の金額

⑥ 山林所得金額

⑦ 退職所得金額

4.借入金に関する要件

 10年以上にわたり分割して返済する方法になっている中古住宅の取得のための一定の借入金又は債務(住宅とともに取得するその住宅の敷地の用に供される土地等の取得のための借入金等を含みます)があること

※ 一定の借入金又は債務とは、例えば銀行等の金融機関、独立行政法人住宅金融支援機構、勤務先などからの借入金や独立行政法人都市再生機構、地方住宅供給公社、建設業者などに対する債務です。
 ただし、勤務先からの借入金の場合には、無利子又は0.2%(2016年(平成28年)12月31日以前に居住の用に供する場合は1%)に満たない利率による借入金は、この特別控除の対象となる借入金には該当しません。
 また、親族や知人からの借入金は全て、この特別控除の対象となる借入金には該当しません。

5.重複適用排除の対象となる譲渡所得の特例

 取得した家屋をその居住の用に供した個人が次の(1)(2)の期間において、その取得をした家屋及びその敷地の用に供している土地等以外の資産(それまでに住んでいた家屋など)について、居住用財産を譲渡した場合の譲渡所得の課税の特例の適用を受けていないこと

(1) 2020年(令和2年)4月1日以後に譲渡した場合
 その居住の用に供した年とその前2年・後3年の計6年間

(2) 2020年(令和2年)3月31日以前に譲渡した場合
 その居住の用に供した年とその前後2年ずつの計5年間

※ 重複適用排除の対象となるのは、以下の譲渡所得の特例です。
・居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(措法31の3)
・居住用財産の譲渡所得の特別控除(措法35①)
・特定の居住用財産の買換え及び交換の場合の長期譲渡所得の課税の特例(措法36の2、36の5)
・既成市街地等内にある土地等の中高層耐火建築物等の建設のための買換え及び交換の場合の譲渡所得の課税の特例(措法37の5)

不良債権の未収利息はいつまで計上しなければならないか?

 資金を融資した場合、その貸付金に係る利息のうち支払期日が到来していないものについては、時の経過に応じて収益として計上しなければなりません。
 元本と利息は支払期日ごとに返済を受けていくことになりますが、資金を融資した相手先の経営状態が悪化し、これらの返済が滞ることがあります。
 今後も返済が滞ることが予測される場合でも、未収利息の計上は継続しなければならないのでしょうか?
 この点について、税務上の取扱いを以下で確認します。

1.法人税基本通達2-1-25

 税務上は法人税基本通達2-1-25において、法人の有する貸付金又は当該貸付金に係る債務者について次のいずれかの事実が生じた場合には、当該貸付金から生ずる利子の額(実際に支払を受けた金額を除く)のうち当該事業年度に係るものは、当該事業年度の益金の額に算入しないことができるとされています。

(1) 債務者が債務超過に陥っていることその他相当の理由により、その支払を督促したにもかかわらず、当該貸付金から生ずる利子の額のうち当該事業年度終了の日以前6月(当該事業年度終了の日以前6月以内に支払期日がないものは1年以内にその支払期日が到来したものの全額が当該事業年度終了の時において未収となっており、かつ当該期間内にその支払期日が到来したもの以外の利子について支払を受けた金額が全くないか又は極めて少額であること
(2) 債務者につき更生手続が開始されたこと
(3) 債務者につき債務超過の状態が相当期間継続し、事業好転の見通しがないこと、当該債務者が天災事故経済事情の急変等により多大の損失を蒙ったことその他これらに類する事由が生じたため、当額貸付金の額の全部又は相当部分についてその回収が危ぶまれるに至ったこと
(4) 更生計画認可の決定債権者集会の協議決定等により当該貸付金の額の全部又は相当部分について相当期間(おおむね2年以上)棚上げされることとなったこと

 これらの事例にあたる場合は、決算処理で未収利息を計上しなくてもよいこととなっています。受け取っていない、また、受け取る見込みのない利息を収益に計上して課税されることのないように注意しなければなりません。

2.法人税基本通達2-1-25の趣旨

 法人税基本通達2-1-25に掲げる未収利息の収益計上を見合わせる場合の事情は、いずれも元本そのものが不良債権化したというものであって、さらに具体的事情によっては元本自体の貸倒処理又は貸倒引当金の設定も考慮しなければならないケースです。
 このような場合にも、原則どおり未収利息の計上を強制することは実態に合いませんので、同通達により未収利息の計上見合せの特例が設けられています。

屋号付き口座は所得税の還付口座にできません

 令和2年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告書の受付は、令和3年2月16日(火)から同年3月15日(月)までです
 また、確定申告の必要がない方でも、ふるさと納税等の寄附金控除や医療費控除などにより、源泉徴収された税金の還付を受けるための申告(還付申告)をすることができます。
 この還付申告については、令和3年2月15日(月)以前でも行えます。令和2年分であれば、令和3年1月1日から令和7年12月31日まで申告することができます。
 今回は、還付申告する際の還付口座(還付される税金の受取口座)の留意点を確認します。

※ 国税庁より、2021年(令和3年)2月2日、申告所得税(及び復興特別所得税)、贈与税及び個人事業者の消費税(及び地方消費税)の申告期限・納付期限について、全国一律で令和3年4月15日(木)まで延長されることが発表されました。
 これに伴い、振替納税に係る振替日についても、申告所得税は令和3年5月31日(月)、個人事業者の消費税は令和3年5月24日(月)とされました。

1.還付金の受取方法

 還付金の受取りには、「預貯金口座への振込みによる方法」と「最寄りのゆうちょ銀行各店舗又は郵便局に出向いて受け取る方法」とがあります。
 あまり利用されていないように思うのですが、後者の受取方法の場合は、後日、国庫金送金通知書が送付されますので、指定したゆうちょ銀行の各店舗や郵便局窓口に国庫金送金通知書と身分証明書(運転免許証又は国民健康保険被保険者証など、本人であることを証するもの)を持参して還付金を受け取ります。
 前者の受取方法の場合は、指定した金融機関の預貯金口座に還付金が直接振り込まれます。税務署もこの方法を推しているように思います。

2.還付口座の記載方法と留意点

 還付金の受取りに預貯金口座への振込みを希望する場合は、確定申告書第一表の「還付される税金の受取場所」欄に、申告者本人の取引している金融機関名、預貯金の種別及び口座番号を記載します。
 具体的には、次のように記載します。

(1) 銀行等の預金口座の場合の記載方法

「預金種類」欄は、該当する預金種類に印を付けます(総合口座の場合は「普通」に印を付けます)。
「口座番号記号番号」欄は、口座番号のみを左詰めで記入します。

(2) ゆうちょ銀行の貯金口座の場合の記載方法

「口座番号記号番号」欄は、貯金総合通帳の記号番号のみを左詰めで記入します。その際、以下の点に注意してください。
① 他の金融機関との振込用の「店名(店番)」「口座番号」は記入しません。
② 記号部分と番号部分の間に1桁の数字(通帳再発行時に表示される「-2」などの枝番)がある場合は、その数字の記入は不要です。例えば、「12340 - 2 - 12345671」の「-2」は不要です。

※ ゆうちょ銀行の各店舗又は郵便局窓口での受取りを希望する場合は、受取りを希望する郵便局名等を記入します。

(3) 還付口座の留意点

 預貯金口座への振込みを希望する場合は、原則として、銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫、農業協同組合、漁業協同組合及びゆうちょ銀行の預貯金口座を指定することができます。
 ただし、以下の点に留意する必要があります。
① 還付金の振込みに指定できる預貯金口座については、申告者本人名義のものに限られます。申告者本人の氏名のほかに店名、事務所名などの名称(屋号)が含まれる場合は振込みできないことがありますので、申告者本人の氏名のみの口座を指定します。
旧姓のままの名義である場合には、振込みができません。
③ 納税管理人の指定をしている場合は、その納税管理人の名義の預貯金口座となります。
一部のインターネット専用銀行については還付金の振込みができませんので、振込みの可否について、あらかじめ利用しているインターネット専用銀行に確認する必要があります。

事業税の計算上の留意点(所得税との相違点)

 前回、所得税の確定申告の際に見落とされがちな第二表の「事業税に関する事項」欄の記載方法について確認しました。
 今回はその続編として、個人事業税の計算方法と留意点についてみていきます。

1.税額の計算式

 個人事業税の計算は、所得税の事業所得・不動産所得をもとに行います。計算式を示すと、次のようになります。なお、所得税における雑損控除、医療費控除、配偶者控除などの「所得控除」については、個人事業税では適用がありませんのでご注意ください。

(1) 所得税の事業所得・不動産所得の金額
(2) 所得税の事業専従者控除(給与)額
(3) 個人事業税の事業専従者控除(給与)額
(4) 青色申告特別控除額
(5) 非課税所得金額
(6) 損失の繰越控除額
(7) 被災事業用資産の損失の繰越控除額
(8) 事業用資産の譲渡損失の控除額
(9) 事業用資産の譲渡損失の繰越控除額
(10) 事業主控除額(年290万円)
(11) 課税標準額
× (12) 税率
(13) 年税額

 以下では、この計算式の各項目の留意点についてみていきます。

2.計算上の留意点(所得税との相違点)

(1) 所得税の事業所得・不動産所得の金額

 所得税の確定申告の際に次の算式で計算した事業所得・不動産所得の金額です。

 総収入金額-必要経費-青色事業専従者給与又は事業専従者控除-青色申告特別控除=所得金額

(2) 所得税の事業専従者控除(給与)額

 所得税の確定申告で「事業税が課税される事業」に係る所得金額の計算上認められた事業専従者控除(給与)額です。
※ 「事業税が課税される事業」については、前回記事「確定申告書B第二表『事業税に関する事項』欄の記載」(以下「前回記事」といいます)をご参照ください。

(3) 個人事業税の事業専従者控除(給与)額

 原則として、上記(2)の「所得税の事業専従者控除(給与)額」と同額となりますが、所得税で「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出していない場合で、事業主と生計を一にする配偶者や15歳以上のその他の親族でその事業に専ら従事している人に対して、実際に給与の支払いがされている場合は、事業税では事業専従者にできますのでその給与額を控除します。

(4) 青色申告特別控除額

 所得税の所得の計算上認められた青色申告特別控除額は、事業税の所得の計算上は適用がありませんので加算します。

(5) 非課税所得金額

 非課税所得については、前回記事をご参照ください。

(6) 損失の繰越控除額

 所得税と同様の要件のもとに認められます。ただし、事業税が課税される所得に対する損失額に限られます。

(7) 被災事業用資産の損失の繰越控除額

 所得税と同じ対象の資産について同じ要件のもとに、事業税の所得計算上生じた損失額で当該年度に控除される損失額です。

(8) 事業用資産の譲渡損失の控除額

 譲渡損失が生じた年分の所得から控除します。青色申告者で譲渡損失が生じた年分の所得から控除しきれなかった場合は、一定の要件のもと、翌年以降3年間繰越控除が認められます。

(9) 事業用資産の譲渡損失の繰越控除額

 上記(8)と同じです。

(10) 事業主控除額(年290万円)

 事業を開廃業した場合は、事業を行っていた月数(1月に満たない端数は1月とします)に応じて次の額を控除します(単位:万円)。

事業期間 1月 2月 3月 4月 5月 6月
事業主控除額 24.2 48.4 72.5 96.7 120.9 145
事業期間 7月 8月 9月 10月 11月 12月
事業主控除額 169.2 193.4 217.5 241.7 265.9 290

(11) 課税標準額

 上記(1)~(10)までの計算を終えた段階(課税標準額)で1,000円未満の端数があるときは、その端数を切り捨てます。

(12) 税率

 税率については、前回記事をご参照ください。

(13) 年税額

 年税額に100円未満の端数があるときは、その端数を切り捨てます。なお、年税額が100円未満の場合は0円となります。
 年税額が1万円を超える場合は、8月及び11月の2期に分割して納付します。また、年税額が1万円以下の場合は、全額を8月に納付します。

3.計算例

 昨年7月に夫婦で飲食店を開業し、昨年の年間収入は1,000万円で必要経費は600万円でした。また、「青色申告承認申請書」「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出しており、妻に75万円の給与を支給し、青色申告特別控除額は65万円でした。
 この場合の個人事業税の計算は、次のようになります。

 総収入金額(1,000万円)-必要経費(600万円)-青色事業専従者給与(75万円)-青色申告特別控除(65万円)=所得金額260万円

 {所得金額(260万円)+青色申告特別控除(65万円)-事業主控除(145万円)}×税率(5%)=年税額(90,000円)
 
 年税額90,000円を、8月(第1期分)と12月(第2期分)にそれぞれ45,000円ずつ納付します。

確定申告書B第二表の「事業税に関する事項」欄の記載

 個人事業税は、個人の行う物品販売業、製造業などの事業に対し、前年中の所得を課税標準として、その個人の事務所又は事業所(事務所又は事業所を設けないで行う事業については、住所又は居所)所在の都道府県が課税する税金です。
 通常は、所得税の確定申告をすれば、住民税(市・県民税)の申告と個人事業税の申告があったものとして取り扱われますので、別途申告は不要です。ただし、所得税の確定申告の際に、第二表の住民税・事業税に関する事項を記載しなければなりません。
 今回は、第二表の住民税・事業税に関する事項のうち、見落とされがちな「事業税に関する事項」欄の記載について確認します。

1.事業税が課税される事業

 個人事業税が課税される事業は、第1種事業(37業種)、第2種事業(3業種)及び第3種事業(30業種)に区分されており、所得税及び住民税の区分でいえば、概ね営業等所得及び不動産所得の一部に対して課税されます。

区分 標準税率
【第1種事業】
物品販売業、保険業、金銭貸付業、物品貸付業、製造業、請負業、印刷業、出版業、写真業、旅館業、料理店業、飲食店業、遊技場業、不動産売買業、不動産貸付業、駐車場業、広告業、運送業、運送取扱業、倉庫業、席貸業、周旋業、代理業、仲立業、問屋業、サウナ風呂等の公衆浴場業、演劇興行業、遊覧所業、興信所業、案内業、冠婚葬祭業、電気供給業、土石採取業、電気通信事業、船舶ていけい場業、両替業、商品取引業
5%
【第2種事業】
畜産業、水産業、薪炭製造業
4%
【第3種事業】
医業、歯科医業、薬剤師業、獣医業、弁護士業、司法書士業、行政書士業、公証人業、弁理士業、税理士業、公認会計士業、計理士業、社会保険労務士業、コンサルタント業、設計監督者業、不動産鑑定業、デザイン業、諸芸師匠業、歯科衛生士業、歯科技工士業、測量士業、土地家屋調査士業、海事代理士業、理容業、美容業、クリーニング業、第1種事業以外の公衆浴場業(銭湯)、印刷製版業
5%
【第3種事業】
あんま・マッサージ・指圧・はり・きゅう・柔道整復その他の医業に類する事業、装蹄師業
3%

2.事業税が課税されない所得

 林業、鉱物の掘採事業にかかる所得については課税されません。また、上表に記載のある事業に該当する場合でも、次の所得については課税されません。

区分
【第2種事業】
畜産業、水産業及び薪炭製造業で自家労力(事業を行う人又はその同居の親族の労力)によって事業を行った日数の合計がその年中における延べ労働日数の2分の1を超える場合はその所得
【第3種事業】
医業、歯科医業、薬剤師業、あんま・マッサージ・指圧・はり・きゅう・柔道整復その他の医業に類する事業を行っている人の社会保険診療に係る所得
【第3種事業】
あんま・マッサージ・指圧・はり・きゅう・柔道整復その他の医業に類する事業を行うもので、両眼の視力を喪失した人及び万国式視力表により測定した両眼の視力が0.06以下の視力障害のある人が行うものはその所得

3.申告

 所得税の確定申告又は住民税(市町村税・県民税)の申告をした場合は、個人事業税の申告があったものとして取り扱われますので、重ねて申告する必要はありません。
 ただし、次のような場合には、県税事務所に個人事業税の申告をする必要があります。以下に該当するときで申告をしなかった場合は、事業税の各種控除(損失の繰越控除、事業用資産の譲渡損失の控除等)を受けることができません。

(1) 法人成りなどで年の中途で事業を廃止した場合は、事業廃止後1か月以内
(2) 事業主の死亡で年の中途で事業を廃止し、準確定申告(廃止した年分に係る所得税の確定申告)を行っていない場合は、死亡後4か月以内

4.「事業税に関する事項」欄の記載

 所得税の確定申告書B第二表には、このような「事業税に関する事項」欄が設けられています。
 この欄は個人事業税の計算上必要ですから、個人事業税が課税される事業所得などがある人は、該当項目があれば記載しなければなりません。該当項目があるにもかかわらず記載がない場合は、事業税の各種控除を受けることができません。
 以下で、各項目の記載上の留意点を述べていきます。

(1) 所得税で控除対象配偶者などとした専従者

 所得税で「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出していない場合で、事業主と生計を一にする配偶者や15歳以上のその他の親族でその事業に専ら従事している人に対して、実際に給与の支払いがされている場合は、事業税では事業専従者にできますので、その人の氏名及び給与額を記載します。

(2) 非課税所得など

 個人事業税には非課税の事業がありますので、事業所得のうち個人事業税が課税されない所得(上記2参照)がある場合は、下記の非課税所得番号を番号欄に、その所得金額(事業専従者控除(給与)額を差し引く前の金額)を所得金額欄に記載します。
 ただし、8番の社会保険診療報酬に係る所得がある場合は、所得ではなく収入金額を記載します。これは、収入金額をもとに県税事務所で所得金額が計算されるからです。

① 複数の事業を兼業している人で、そのうち次に掲げる事業により生ずる所得がある場合

番号 所得
1 畜産業(農業に付随して行うものを除く)から生ずる所得
2 水産業(小規模な水産動植物の採捕の事業を除く)から生ずる所得
3 薪炭製造業から生ずる所得
4 あんま・マッサージ・指圧・はり・きゅう・柔道整復その他の医業に類する事業(両眼の視力を喪失した人その他両眼の視力0.06以下の人が行うものを除く)から生ずる所得
5 装蹄師業から生ずる所得

② 次に掲げる所得(非課税所得)がある場合

番号 非課税所得
6 林業から生ずる所得
7 鉱物掘採業から生ずる所得
8 社会保険診療報酬に係る収入
9 外国での事業に係る所得(外国に有する事務所等で生じた所得)
10 地方税法第72条の2に定める個人の行う事業に該当しないものから生ずる所得

(3) 損益通算の特例適用前の不動産所得

 個人事業税では、所得税における不動産所得の損益通算の特例措置(損失の金額のうち、土地等を取得するために要した負債の利子の額に相当する部分の損益通算不適用)の規定は適用されませんので、これに該当する金額がある場合は、適用前の不動産所得を記載します。
※ 所得税における不動産所得の損益通算の特例措置については、本ブログ記事「賃貸用不動産取得に要した借入金利子の必要経費算入と損益通算」をご覧ください。

(4) 不動産所得から差し引いた青色申告特別控除額

 所得税で青色申告者に認められている青色申告特別控除は、個人事業税では認められていません。
 青色申告特別控除額を不動産所得から控除した場合は、その金額を記載します。

(5) 事業用資産の譲渡損失など

 事業税が課税される事業に使用していた機械装置、車両運搬具、工具器具備品など事業用資産を、その事業に使用しなくなってから1年以内に譲渡した場合で、譲渡損失があれば記載します。
 なお、譲渡益と譲渡損がある場合は損益通算せず、損失額のみを記載します。ただし、土地、建物、無形の固定資産は対象になりません。
 また、白色申告者において、事業の所得の計算上生じた損失のうち、被災事業用資産の損失の金額がある場合は、その金額を記載します。
 これらの損失の内容は、第二表の「雑所得(公的年金等以外)、総合課税の配当所得・譲渡所得、一時所得に関する事項」欄にも記載します。
 この「事業用資産の譲渡損失など」欄に記載がない場合は控除できませんので、ご注意ください。

(6) 前年中の開(廃)業

 事業主控除額(年290万円)は年間事業月数により算出しますので、新たに事業を開始した場合又は事業を廃止した場合は、記入欄の「開始・廃止」の該当する文字を〇で囲み、その月日を記載します。

(7) 他都道府県の事務所等

 個人事業税は、事業所等が所在する都道府県により課税され、また、他の都道府県にも事務所等がある場合には、所得金額をその事務所等の従業員数で按分して課税されます。
 したがって、他都道府県に事務所等がある場合は〇印を記入し、その所在地と月末ごとの従業員数を、それぞれ事務所や事業所ごとに適宜用紙に書いて添付します。

※ 第二表「事業税に関する事項」欄の記載方法については、個人事業税の計算構造を知れば理解が深まります。個人事業税の計算については、この記事の続編である「事業税の計算上の留意点(所得税との相違点)」をご覧ください。

不動産賃貸における立退料の取扱い

1.借主が立退料をもらったとき

 事務所や住居などを借りている個人が、その事務所などを明渡して立退料を受け取った場合には、所得税法上の各種所得の金額の計算上収入金額になります。
 受け取った立退料は、その内容から次の3つに区分され、その取扱いは次のようになります。

内容 立退料の取扱い
家屋の明渡しによって消滅する権利の対価の額に相当する金額 譲渡所得の収入金額
立ち退きに伴って、その家屋で行っていた事業の休業等による収入金額又は必要経費を補填する金額 事業所得等の収入金額
上記に該当する部分を除いた金額 一時所得の収入金額

2.貸主が立退料を支払ったとき

 建物を賃貸している場合に、借家人に立ち退いてもらうため、立退料を支払うことがあります。このような立退料の取扱いは次のようになります。

内容 立退料の取扱い
賃貸している建物やその敷地を譲渡するために支払う立退料 譲渡所得の譲渡費用
土地、建物等を取得する際に、その土地、建物等を使用していた者に支払う立退料 土地、建物等の取得費又は取得価額
敷地のみを賃貸し、建物の所有者が借地人である場合に、借地人に立ち退いてもらうための立退料 土地の取得費(借地権の買い戻しの対価)
上記に該当しない立退料で、不動産所得の基因となっていた建物の賃借人を立ち退かせるために支払う立退料 不動産所得の必要経費

3.貸主が居住するために支払う立退料

 上記2で見たように、不動産所得の基因となっていた建物の賃借人を立ち退かせるために支払う立退料は、不動産所得の必要経費になります。
 では、次のような場合、立退料は不動産所得の必要経費になるのでしょうか?
 例えば、サラリーマンが転勤のためマイホームを賃貸していましたが、人事異動で再びマイホームに住む必要が生じたため、借家人に家屋の明渡しを求めて立退料を支払った場合です。
 このサラリーマンは、転勤の期間中、受領した家賃を不動産所得として年々確定申告をしていましたので、自己が居住するために支払う今回の立退料も必要経費にしたいところです。
 しかし、結論を先に述べると、自己が居住するために支払う立退料は不動産所得の必要経費にはなりません。
 所得税法の必要経費の理念は、「収入を得るために必要な経費」とされています。したがって、立退料を支払った場合には、その立退料が収入を得るために必要なものであるかどうかが必要経費か否かを判断する基準となります。
 今回のケースでは、賃貸していた家屋から発生した家賃収入は立退料を支払う以前のものであり、立退料を支払ったことにより発生したものではありません。よって、自己が居住するために支払う立退料は「収入を得るために必要な経費」に該当せず家事費となり、不動産所得の必要経費にはなりません。