個人住民税を普通徴収することが認められる場合とは?

 個人の都道府県民税と市区町村民税をあわせて一般に「個人住民税」といい、事業主(給与支払者)には、従業員の個人住民税を特別徴収することが義務付けられています。

 個人住民税の特別徴収とは、事業主が給与を支払う際に、所得税と同様に毎月の給与から個人住民税を天引きし、従業員に代わって毎月納付する制度です。

 事業主には個人住民税の特別徴収義務がありますので、事業主や従業員の希望により普通徴収(従業員自らが納付書で年4回に分けて納付すること)を選択することはできません。

 しかし、一定の要件に該当する場合は、個人住民税を普通徴収することも認められています。
 今回は、個人住民税の特別徴収制度の仕組みと普通徴収の要件について確認します。

1.特別徴収制度の仕組み

 個人住民税の特別徴収の事務の流れは、次のとおりです。

出所:兵庫県ホームページ「パンフレット」

(1) 給与支払報告書の提出(図表①)

 事業主は、毎年1月31日までに従業員が1月1日現在に居住している市町村に給与支払報告書を提出します。

(2) 特別徴収税額決定通知書の送付(図表③④)

 個人住民税の徴収期間は、6月から翌年5月までの12か月間です。毎年5月31日までに、従業員が居住している市町村から事業主あてに「特別徴収税額決定通知書(特別徴収義務者用・納税義務者用)」が送付されます
 この通知書に年税額と月割額が記載されていますので、6月に支給する給与から特別徴収(給与から天引き)を開始します。

納税義務者用の通知書には、通知した税額の算出根拠となる所得金額や所得控除の適用状況等が記載されています。
 これらの個人情報を保護するため、個人情報保護シールを貼付した状態で送付されますので、シールを貼付した状態で従業員に渡し、必ず従業員本人がシールをはがして内容を確認するようにしてください。

(3) 納期と納付方法(図表⑤⑥)
 
 事業主は給与から天引きした個人住民税を、翌月の10日までに市町村から送付される納付書により納付します。

 なお、従業員が常時10名未満の事業主は、市町村への申請により年12回の納期を年2回(第1回:12月10日、第2回:6月10日)とする「納期の特例」の適用を受けることができます。

2.普通徴収の要件と手続き

 原則として従業員の個人住民税は特別徴収しなければなりませんが、下記の要件に該当する従業員については、給与支払報告書を提出する際に「普通徴収切替理由書兼仕切紙」を添付することで、該当者の個人住民税を普通徴収とすることができます。

a.退職者または給与支払報告書を提出した年の5月31日までの退職予定者
b.給与支払額が少なく、個人住民税を特別徴収しきれない人
c.給与の支払が不定期(毎月支給されていない)な人
d.他の事業者から支払われる給与から特別徴収されている人(乙欄適用者)


 普通徴収とするための具体的な手続きは、上記のa.~d.に該当する従業員がいる場合、給与支払報告書提出時に「普通徴収切替理由書兼仕切紙」を添付のうえ、給与支払報告書個人別明細書摘要欄に略号(a~d)を記載します

 上記のa.~d.に該当する旨を申し出ない場合は、普通徴収の要件に該当するかどうかを市町村で確認できないため、特別徴収となります。

エルタックス(eLTAX)で提出する場合も、「普通徴収」欄へのチェックに加え、摘要欄に略号(a~d)を記載する必要があります。

出所:兵庫県ホームページ

ホステス等に支払う報酬・料金の源泉徴収税額の計算方法

 ホステス等に報酬・料金を支払うときは、所得税および復興特別所得税(以下「所得税等」といいます)を源泉徴収しなければなりません。

 業務委託契約を締結したホステス等に支払う報酬・料金は原則として外注費に該当し、このようなホステス等の報酬に係る所得税等の源泉徴収税額の計算方法は、源泉徴収税額表を用いて計算する給与や賞与の場合と異なります。

 以下では、ホステス等に支払う報酬・料金の源泉徴収税額の計算方法を確認します。

ただし、その内容が給与や賞与に該当するものについては、外注費(事業所得や雑所得)ではなく給与所得として源泉徴収を行います。
 外注費と給与のどちらに該当するかについては、「外注費か給与か・・・国税庁の判断基準」をご参照ください。

1.ホステス等の報酬とは?

 ホステス等に支払う報酬・料金として、所得税等を源泉徴収しなければならないのは、次に該当する場合です。

(1) バーやキャバレーの経営者が、そこで働くホステスなどに報酬・料金を支払う場合

(2) いわゆるバンケットホステス・コンパニオン等を、ホテル、旅館その他飲食をする場所に派遣して接待等の役務の提供を行わせることを内容とする事業を営む者が、そのバンケットホステス・コンパニオン等に報酬・料金を支払う場合

バンケットホステス・コンパニオン等とは、ホテル、旅館、飲食店その他飲食をする場所で行われるパーティー等の飲食を伴う会合において、専ら客の接待等の役務の提供を行うことを業務とする人をいいます。

2.ホステス報酬の源泉徴収税額の計算方法

(1) 月払いの場合

 源泉徴収すべき所得税等の額は、報酬・料金の額から同一人に対し1回に支払われる金額について、5千円にその報酬・料金の「計算期間の日数」を乗じて計算した金額(同月中に給与等の支払がある場合には、その計算した金額からその計算期間の給与等の支給額を控除した金額)を差し引いた残額に10.21パーセントの税率を乗じて算出します。
(注)求めた税額に1円未満の端数があるときは、これを切り捨てます。

 なお、「計算期間の日数」とは、「営業日数」または「出勤日数」ではなく、ホステス報酬の支払金額の計算の基礎となった期間の初日から末日までの全日数です。

 源泉徴収税額={(ホステス報酬-5千円×計算期間の日数)-給与等の支給額}×10.21%

 具体的には、以下のように計算します。

〈計算例〉
・ホステス報酬の支払金額:30万円
・ホステス報酬の支払金額の計算の基礎期間:7月1日から7月31日(31日間)
・営業日数:25日間
・出勤日数:10日間
・7月中の給与支給額:なし

 源泉徴収税額=(30万円-5千円×31日)×10.21%=14,804円(1円未満切り捨て)

(2) 日払いの場合

 上記(1)の計算例は、ホステス報酬を月払い(月末締・翌月10日払い等)することを前提としていましたが、ホステス報酬をその日のうちに支払う日払いのケースもあります。

 この場合の源泉徴収税額は、どのように計算するのでしょうか?

 源泉徴収すべき所得税等の額は、報酬・料金の額から同一人に対し1回に支払われる金額について計算することとなっていますので、日払いの場合の「計算期間の日数」は1日となり、報酬を支給する毎に源泉徴収をしなければなりません。

 源泉徴収税額={(ホステス報酬-5千円)-給与等の支給額}×10.21%

 具体的には、以下のように計算します。

〈計算例〉
・ホステス報酬の支払金額:3万円
・ホステス報酬の支払金額の計算の基礎期間:7月1日から7月31日(31日間)
・営業日数:25日間
・出勤日数:1日(7月7日)
・7月7日の給与支給額:なし

 源泉徴収税額=(3万円-5千円)×10.21%=2,552円(1円未満切り捨て)

3.留意事項

 ホステス等に支払った報酬・料金から源泉徴収した所得税等は、支払った月の翌月10日までに納付しなければなりません。
 支払者が源泉所得税の納期の特例の適用を受けている場合であっても、ホステス等に支払う報酬・料金については、納期の特例の対象とはなりませんのでご注意ください。

 また、ホステス等の報酬・料金について、同一人に対するその年中の支払金額の合計額が50万円を超えるものについては、「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」を税務署に提出しなければなりません。

※ 関連記事:「外交員報酬に係る源泉徴収税額の計算方法」、「セミナー講師料を支払った場合の源泉徴収

源泉所得税納付書の左上の数字は何を表す?

 給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書(以下「源泉所得税納付書」といいます)は、居住者に対して支払う給与や退職手当、税理士・弁護士・司法書士などに支払う報酬について、源泉徴収をした所得税及び復興特別所得税を納付するときに使用します。
 源泉所得税納付書は、納期の特例の適用を受けている場合と受けていない場合とでは様式が異なっています。ここでは、前者を納期特例用、後者を一般用と呼ぶことにします。

 先日、半年分の給与や士業報酬等を集計して、関与先様へ源泉所得税納付書(納期特例用)の記載例(転記用)をメールでお送りしたところ、次のような質問がありました。

 「先生が送ってくれた納付書と手元にある納付書をよく見ると、納付書の左上の数字が違っているけど、手元にある納付書を使用しても問題ないですか?」

 下図の左側が当事務所がお送りした納付書で番号は「32399」と印字されています。一方、右側が関与先様の手元にある納付書で番号は「32391」と印字されています。

 どちらも納期特例用の納付書ですが、このように番号が異なることがあります。
 
 源泉所得税納付書の左上に印字されている5桁の番号は納付書の種類を表す番号で、国税庁ホームページでは次のように案内されています。

「32309」・・・一般用
「32399」・・・納期特例用

 ところが、税務署から送付される納付書には、今回のように以下の番号が印字されている場合があります。

「32301」・・・一般用
「32391」・・・納期特例用

 一般用と納期特例用のそれぞれについて、番号の末尾が9のものと1のものがありますが、どちらの番号の納付書を使用しても問題はありません

 当事務所がお送りした納付書記載例(32399)と関与先様の手元にある納付書(32391)の番号の違いについて上記の説明を行い、関与先様の手元にある納付書(納期特例用)で納付していただきました。

外交員報酬に係る源泉徴収税額の計算方法

 不動産業を営むA社の社長から、不動産外交員に支払う報酬の源泉徴収税額の計算方法を教えてほしいとのご依頼がありました。
 社長ご自身も、A社を設立する前は不動産外交員として報酬を受け取っていましたので、報酬から所得税と復興特別所得税を源泉徴収しなければならないことはご存じでしたが、その計算方法はご存じないようでした。
 今回は、外交員報酬に係る源泉徴収税額の具体的な計算方法について確認します。

1.外交員報酬とは?

 不動産や保険の外交員が、その地位に基づいて支払を受ける外交員報酬は、源泉徴収の対象とされます(所得税法第204条第1項第4号)。

 ここでいう外交員報酬に該当するかどうかについては、その支払を受ける者が、支払をする販売会社との間に会社法上の代理商契約に準ずる委任契約関係、すなわち媒介代理の契約関係にあるか否かにより決まります
 このような契約関係があれば、外交員報酬として源泉徴収の対象となりますが、このような継続的な契約関係がなく、単に斡旋をするにすぎないときは外交員報酬となりません。

※ 国税不服審判所の裁決(平11.3.11裁決、裁決事例集No.57 206頁)では、「所得税法第204条第1項第4号に規定する外交員とは、事業主の委託を受け、継続的に事業主の商品等の購入の勧誘を行い、購入者と事業主との間の売買契約の締結を媒介する役務を自己の計算において事業主に提供し、その報酬が商品等の販売高に応じて定められている者」と解されています。

 なお、外交員報酬に該当するかどうかについては、本ブログ記事「外注費か給与か・・・国税庁の判断基準」をご参照ください。

2.外交員報酬と給与等

 外交員が支払を受ける報酬については、それぞれ次のように取り扱われます(所得税法基本通達204-22)。

(1) その報酬の額がその職務を遂行するために必要な旅費とそれ以外の部分とに明らかに区分されている場合
 旅費部分は非課税とし、それ以外の部分は給与等とします。

(2) 旅費とそれ以外の部分とに明らかにされていないで、その報酬が固定給とそれ以外の部分に区分されているとき
 固定給は給与等とし、それ以外の部分(変動給)は外交員報酬とします。

(3) (1)及び(2)以外の場合
 その必要な旅費等の費用の多寡その他の事情を総合勘案し、給与等と認められるものはその総額を給与等とし、その他のものについてはその総額を外交員報酬とします。

 外交員が支払を受ける報酬が、給与等又は退職手当等に該当するものについては、それぞれ給与所得又は退職所得として源泉徴収を行います。
 外交員が支払を受ける報酬が、外交員報酬に該当するものについては、次のように源泉徴収を行います。

3.外交員報酬の源泉徴収税額の計算方法

 源泉徴収すべき所得税及び復興特別所得税の額は、外交員報酬の額から1か月当たり12万円(同月中に給与等を支給する場合には、12万円からその月中に支払われる給与等の額を控除した残額)を差し引いた残額に10.21%の税率を乗じて算出します。
(注)求めた税額に1円未満の端数があるときは、これを切り捨てます。

 源泉徴収税額={外交員報酬-(12万円-給与等)}×10.21%

 具体的には、以下のように計算します。

〈計算例1〉外交員報酬(変動給)を20万円支払う場合
 (20万円-12万円)×10.21%=8,168円

〈計算例2〉外交員報酬(変動給)20万円と給与(固定給)5万円を支払う場合
 {20万円-(12万円-5万円)}×10.21%=13,273円

〈計算例3〉外交員報酬(変動給)20万円と給与(固定給)15万円を支払う場合
 {20万円-(12万円-12万円)}×10.21%=20,420円
(注)給与の額15万円が控除額12万円を超えるため、控除額の残額は0円となります。

4.留意事項

 外交員報酬の額の中に消費税及び地方消費税の額(以下「消費税等の額」といいます)が含まれている場合は、原則として、消費税等の額を含めた金額が源泉徴収の対象となります。
 ただし、請求書等において、外交員報酬の額と消費税等の額が明確に区分されている場合には、その外交員報酬の額のみを源泉徴収の対象とする金額として差し支えありません。 

 また、外交員報酬から源泉徴収した所得税及び復興特別所得税は、支払った月の翌月の10日までに納めなければなりません。
 支払者が源泉所得税の納期の特例の適用を受けている場合であっても、外交員報酬については、納期の特例の対象とはなりませんのでご注意ください。

※ 関連記事:「ホステス等に支払う報酬・料金の源泉徴収税額の計算方法」、「セミナー講師料を支払った場合の源泉徴収

セミナー講師料を支払った場合の源泉徴収

 セミナーや社内研修などで、外部から弁護士等を講師として招き、講演を依頼する企業も多いと思います。セミナー等を開催した企業は、その支払う講師料から所得税及び復興特別所得税を源泉徴収しなければなりません。

 源泉徴収の対象は、原則として消費税を含めた金額ですが、請求書等で報酬と消費税が明確に区分されている場合は、その報酬の額のみを源泉徴収の対象とすることができます。
 例えば、弁護士に講師料54,000円(消費税4,000円を含む)を支払う場合、50,000円×10.21%=5,105円を源泉徴収し、講師には54,000円-5,105円=48,895円を渡します。

 また、源泉徴収した企業は、その所得税及び復興特別所得税5,105円を、支払った月の翌月10日までに税務署に納めなければなりません。納期の特例の対象にはなりませんので、ご注意下さい。