寡婦・寡夫控除の要件と注意点

 寡婦控除は、女性の給与の支払を受ける人が一般の寡婦のときは27万円、特別の寡婦のときは35万円が控除されます。
 寡夫控除は、男性の給与の支払を受ける人が寡夫のときに27万円が控除されます。
 寡婦・寡夫控除は、その原因(離婚か死別か)や扶養親族の有無、給与の支払を受ける人の所得金額により適用要件と控除金額が異なります。

※2020年度(令和2年度)税制改正で寡婦(夫)控除が改正されました。改正後については、本ブログ記事「未婚のひとり親控除の新設と寡婦(夫)控除の改正」をご参照ください。

1. 寡婦控除の要件と控除額

 寡婦とは、女性の給与の支払を受ける人がその年12月31日の現況で、次の①、②のいずれかに該当する人です。

次のいずれかに該当する人で、扶養親族又は生計を一にする子のある人
イ.夫と死別した後、婚姻していない人
ロ.夫と離婚した後、婚姻していない人
ハ.夫の生死が明らかでない人
 なお、「生計を一にする子」とは、所得金額が38万円以下で、他の所得者の控除対象配偶者や扶養親族となっていない人です。

② 上記①に掲げる人のほか、次のいずれかに該当する人で、合計所得金額が500万円以下の人
イ.夫と死別した後婚姻していない人
ロ.夫の生死が明らかでない人

 具体的な要件と控除額は、下表を参照して下さい。

離婚・死別の区分 扶養親族などの有無の要件 所得金額の要件 寡婦の区分 控除額
離婚・死別(生死不明) 扶養親族である子がいる人 500万円以下 特別の寡婦 350,000円
同上 扶養親族又は生計を一にする子がいる人 要件なし 一般の寡婦 270,000円
死別(生死不明) 要件なし 500万円以下 一般の寡婦 270,000円

※ 離婚が原因で寡婦となった人は、扶養親族又は生計を一にする子がいないときは寡婦控除の要件に該当しません。

2. 寡夫控除の要件と控除額

 寡夫とは、男性の給与の支払を受ける人がその年12月31日の現況で、次の要件の①、②又は③のいずれかに該当する人で、生計を一にする子があり、かつ、合計所得金額が500万円以下の人です。

① 妻と死別した後、婚姻していない人
② 妻と離婚した後、婚姻していない人
③ 妻の生死が明らかでない人

 具体的な要件と控除額は、下表を参照して下さい。

離婚・死別の区分 扶養親族などの有無の要件 所得金額の要件 控除額
          離婚・死別             (生死不明) 生計を一にする子がいる人 500万円以下 270,000円

※ 寡夫の人は、生計を一にする子がいないときは寡夫控除の要件に該当しません。

3. 寡婦・寡夫控除の注意点

① 寡婦・寡夫控除は、16歳未満の年少扶養親族がいる人も適用できます。
未婚の母(シングルマザー)は寡婦控除の対象にはなりません。寡婦は婚姻してから死別、離婚、生死不明の状態となり、以後婚姻をしていない人が該当しますので、仮に認知された子を有していても、婚姻したことがない未婚の母(シングルマザー)は寡婦になりません。
未婚の母(シングルマザー)が婚姻しその後離婚した場合は、寡婦控除の対象になります。扶養親族である子は婚姻後に出生したいわゆる嫡出子に限定されていないので、当初シングルマザーであったとしても、税法どおり「夫と離婚してから婚姻をしていない者で扶養親族又は生計を一にする子を有する者」に該当する限り、寡婦控除の適用があります。
寡夫控除と配偶者控除を二重に受けられる場合があります。年の途中で死亡した者については、その扶養親族等の判定は死亡時の現況で行うこととなりますので、配偶者の死亡時にその配偶者が所得要件を満たしている場合には、配偶者控除の適用を受けることができます。また、その年12月31日の現況で、寡夫の要件に該当すれば寡夫控除も受けることができます。
離婚して元妻に引き取られた子の養育費を支払っている場合、所得が500万円以下であれば寡夫控除を受けることができます。離婚に伴う養育費の支払いが扶養義務の履行として行われている場合には、その子は「生計を一にしている親族」として扶養控除の対象とされ、さらに、元夫の合計所得金額が500万円以下であれば、寡夫控除の適用を受けることができます。一方、元妻は子と同居していても「夫と死別し、若しくは夫と離婚した後婚姻をしていない者又は夫の生死がわからない者で、扶養親族その他その者と生計を一にする親族を有する者」に該当しないため、寡婦控除を受けることはできません

国外居住親族に係る扶養控除等の適用

 最近はベトナムなどから外国人技能実習生を受け入れる企業が増えています。外国人技能実習生に支給する研修手当は、雇用契約に基づく労働の対価(給与)に該当しますので、所得税を源泉徴収しなければなりません。また、このような外国人技能実習生に対する給与は、年末調整の対象になります。
 今回は、年末調整の際に、外国人技能実習生が非居住者である親族(日本国外に居住する親族)に係る扶養控除等の適用を受けるための手続きについて紹介します。

1.扶養控除等申告書に必要事項を「親族関係書類」から記載する

 給与等の源泉徴収において、非居住者である親族に係る扶養控除、配偶者控除、障害者控除又は配偶者特別控除の適用を受ける居住者(外国人技能実習生)は、当該親族に係る「親族関係書類」を源泉徴収義務者に提出する扶養控除等申告書に添付し、又はその申告書等の提出の際に提示しなければなりません。

 「親族関係書類」とは、次の(1)又は(2)のいずれかの書類で、その非居住者がその居住者(外国人技能実習生)の親族であることを証するものをいいます。

(1) 戸籍の附票の写しその他の国又は地方公共団体が発行した書類及び国外居住親族の旅券(パスポート)の写し
(2) 外国政府又は外国の地方公共団体(以下、「外国政府等」といいます)が発行した書類(国外居住親族の氏名、生年月日及び住所又は居所の記載があるものに限ります)

 「親族関係書類」に関する注意事項は次のとおりです。

① 親族関係書類が外国語により作成されている場合には、訳文を添付等する必要があります。
② 親族関係書類は、国外居住親族の旅券の写しを除き、原本の提出又は提示が必要です。
③ 上記(2)の外国政府等が発行した書類は、例えば次のような書類が該当します。
イ.戸籍謄本
ロ.出生証明書
ハ.婚姻証明書
④ 外国政府等が発行した書類について、一つの書類に国外居住親族の氏名、生年月日及び住所又は居所のすべてが記載されていない場合は、複数の書類を組み合わせることにより氏名、生年月日及び住所又は居所を明らかにする必要があります。
⑤ 一つの書類だけでは国外居住親族が居住者(外国人技能実習生)の親族であることを証明できない場合には、複数の書類を組み合わせることにより、居住者(外国人技能実習生)の親族であることを明らかにする必要があります。
⑥ 16歳未満の非居住者である扶養親族(扶養控除の対象とならない扶養親族)であっても障害者控除を受ける場合には、親族関係書類及び送金関係書類の提出又は提示が必要です。

2.年末調整では国外居住親族への「送金関係書類」を確認する

 給与等の年末調整において、非居住者である親族に係る扶養控除、配偶者控除、障害者控除の適用を受ける居住者(外国人技能実習生)は、「送金関係書類」を源泉徴収義務者に提出する扶養控除等申告書に添付し、又はその申告書の提出の際に提示しなければなりません。

 非居住者である配偶者に係る配偶者特別控除の適用を受ける居住者(外国人技能実習生)は、「親族関係書類」及び「送金関係書類」を源泉徴収義務者に提出する配偶者特別控除申告書に添付し、又はその申告書の提出の際に提示しなければなりません。

 「送金関係書類」とは次の書類で、その居住者(外国人技能実習生)がその非居住者である親族の生活費又は教育費に充てるための支払を、必要の都度、各人に行ったことを明らかにするものをいいます。

(1) 金融機関の書類又はその写しで、その金融機関が行う為替取引により居住者から国外居住親族に支払をしたことを明らかにする書類
(2) クレジットカード発行会社の書類又はその写しで、国外居住親族がそのクレジットカード発行会社が交付したカードを提示してその国外居住親族が商品等を購入したこと等により、その商品等の購入等の代金に相当する額の金銭をその居住者(外国人技能実習生)から受領した、又は受領することとなることを明らかにする書類

 「送金関係書類」に関する注意事項は次のとおりです。

① 送金関係書類が外国語により作成されている場合には、訳文を添付等する必要があります。
② 送金関係書類については、原本に限らずその写しも送金関係書類として取り扱うことができます。
③ 送金関係書類は、具体的には次のような書類が該当します。
イ.外国送金依頼書の控え
 その年において送金をした外国送金依頼書の控え
ロ.クレジットカードの利用明細書
 クレジットカードの利用明細書とは、居住者(外国人技能実習生)がクレジットカード発行会社と契約を締結し、国外居住親族が使用するために発行されたクレジットカードで、その利用代金を居住者(外国人技能実習生)が支払うこととしているもの(いわゆる家族カード)に係る利用明細書をいいます。
 この場合、その利用明細書は家族カードの名義人となっている国外居住親族の送金関係書類として取り扱います。
 クレジットカードの利用明細書は、クレジットカードの利用日の年分の送金関係書類となります(クレジットカードの利用代金の支払(引落し)日の年分の送金関係書類とはなりません)。
 なお、現金での手渡しの場合は、国外居住親族に係る扶養控除等を適用できません。
④ 国外居住親族が複数いる場合には、送金関係書類は扶養控除等を適用する国外居住親族の各人ごとに必要となります
 例えば、国外に居住する配偶者と子がいる場合で、配偶者に対してまとめて送金している場合には、その送金に係る送金関係書類は、配偶者(送金の相手方)のみに対する送金関係書類として取り扱い、子の送金関係書類として取り扱うことはできません。
⑤ 送金関係書類については、扶養控除等を適用する年に送金等を行ったすべての書類を提出又は提示する必要があります。
 複数年分をまとめて送金している旨の申立てがあった場合でも、複数年にわたる送金関係書類として使用することはできません。
 同一の国外居住親族への送金等が年3回以上となる場合には、一定の事項を記載した明細書の提出と各国外居住親族のその年最初と最後に送金等をした際の送金関係書類の提出又は提示をすることにより、それ以外の送金関係書類の提出又は提示を省略することができます。この場合、提出又は提示を省略した送金関係書類については、居住者(外国人技能実習生)本人が保管する必要があります。
⑥ 送金額の基準は特に定められていませんが、送金の目的(生活費又は教育費に充てるためのものかどうか)を確認する必要があります。
⑦ 16歳未満の非居住者である扶養親族(扶養控除の対象とならない扶養親族)であっても障害者控除を受ける場合には、親族関係書類及び送金関係書類の提出又は提示が必要です。

扶養控除の要件等

1.控除対象扶養親族の要件

 2011年(平成23年)分から、年齢16歳未満の扶養親族(年少扶養親族)に対する扶養控除が廃止されました。これに伴い、扶養控除の対象者は年齢16歳以上の扶養親族(控除対象扶養親族)とされました。
 扶養控除は、給与の支払を受ける人が控除対象扶養親族を有する場合に適用されます。控除対象扶養親族とは、その年の12月31日に次の要件のすべてに当てはまる人です。

(1) 配偶者以外の年齢16歳以上の親族(6親等内の血族及び3親等内の姻族をいいます)又は都道府県知事から養育を委託された児童(里子)や市町村長から養護を委託された養護老人
(2) 生計を一にしている
(3) その年の合計所得金額が38万円以下
(4) 他の所得者の控除対象配偶者又は控除対象扶養親族となっていない
(5) 青色申告者の事業専従者として給与の支払を受けていない
(6) 白色申告者の事業専従者となっていない

※ 2018(平成30)年度税制改正により、2020(令和2)年分より「48万円以下」に引き上げられました。

2.扶養控除額

 扶養控除額は、下表のように一般の控除対象扶養親族は38万円、19歳から22歳までの特定扶養親族は63万円、70歳以上の老人扶養親族で同居している直系尊属(給与の支払を受ける人又はその配偶者の父母・祖父母等)は58万円、その他の老人扶養親族は48万円となります。

扶養控除の区分 扶養控除額
年少扶養親族(0歳~15歳) 0円
一般の控除対象扶養親族(16歳~18歳) 380,000円
特定扶養親族(19歳~22歳) 630,000円
一般の控除対象扶養親族(23歳~69歳) 380,000円
老人扶養親族(70歳~)で同居老親等以外の者 480,000円
老人扶養親族(70歳~)で同居老親等 580,000円

 一般の控除対象扶養親族は、扶養親族のうちその年の12月31日現在(年の中途で死亡した場合は死亡時)の年齢が16歳以上19歳未満の人又は年齢が23歳以上70歳未満の人です。
 特定扶養親族は、扶養親族のうちその年の12月31日現在(年の中途で死亡した場合は死亡時)の年齢が19歳以上23歳未満の人です。
 老人扶養親族は、扶養親族のうちその年の12月31日現在(年の中途で死亡した場合は死亡時)の年齢が70歳以上の人です。
 また、同居老親等は、老人扶養親族のうち、給与の支払を受ける人又は配偶者の直系尊属(父母、祖父母など)で給与の支払を受ける人又はその配偶者と常に同居している人をいいます。
 したがって、給与の支払を受ける人又はその配偶者の兄弟姉妹と伯叔父母(父母の兄弟姉妹)で70歳以上の人は直系尊属ではないため、同居老親等ではなくて老人扶養親族になります。

3.「生計を一にする」とは

 「生計を一にする」とは、必ずしも同じ家屋に同居していることをいうのではなく、それぞれ次によることとされています。

(1) 勤務、修学、療養などの都合で同居していない親族がいる人は、以下のときにはこの親族は生計を一にするものとします。
 ① 同居をしていない親族が、その親族の休日や休暇のときには同居をしている
 ② 同居をしていない親族に、生活費、学資金、療養費などを常に送金している
(2) 親族が同じ家屋に同居しているときには、明らかに独立した生活をしている場合以外は、その親族は生計を一にするものとします。

4.入院している人の「同居老親等」の判定

 同居老親等の判定では、70歳以上老人扶養親族の人が給与の支払を受ける人又はその配偶者と常に同居していることが必要になります。
 しかし、老人扶養親族の人が、病気の入院などのために一時的に別居している場合があります。この場合、病気の治療のための入院であれば同居老親等に該当することになります。
 一方、老人扶養親族で老人ホームや介護老人福祉施設などに長期間入所している人は、その老人ホームが居所となり同居老親等には該当しません

5.年の中途で死亡又は出国した場合

 給与の支払を受ける人の控除対象扶養親族は、その年の12月31日現在で判定することになっています。
 したがって、その年の12月31日において、同じ人を対象として複数の人が重ねて扶養控除を受けることはできません
 しかし、給与の支払を受ける人が年の途中で死亡又は出国した場合は、その死亡又は出国の時により判定することになります。
 このため、年の途中で死亡した人の控除対象扶養親族として申告した人であっても、その後その年中において他の人の控除対象扶養親族として申告することができます
 例えば、給与所得者の父がその年中に死亡した場合、その年の合計所得金額が38万円以下(2020(令和2)年分以後は48万円以下)の子は父の控除対象扶養親族となります。
 その後、給与所得者の母と生計を一にしている場合は、母の年末調整においても控除対象扶養親族となることができます。

ロータリークラブ、ライオンズクラブの会費は法人と個人で経理処理が異なる!

 9月決算・11月申告法人の決算書・申告書のチェックをしていた際に、ロータリークラブの入会金と会費が決算書の「諸会費」に計上されていることに気づきました。
 ロータリークラブやライオンズクラブの入会金と通常会費については、その経理処理が法人と個人で異なります。経費(法人税法上の損金、所得税法上の必要経費)として認められるか否かについて、以下述べていきます。

1.法人の場合は交際費として損金算入

 法人が支出したロータリークラブやライオンズクラブの入会金・通常(経常)会費は、次の法人税基本通達9-7-15の2(1)より交際費となります。

「9-7-15の2 法人がロータリークラブ又はライオンズクラブに対する入会金又は会費等を負担した場合には、次による。(昭55年直法2-15「十六」により追加)

(1) 入会金又は経常会費として負担した金額については、その支出をした日の属する事業年度の交際費とする。
(2) (1)以外に負担した金額については、その支出の目的に応じて寄附金又は交際費とする。ただし、会員たる特定の役員又は使用人の負担すべきものであると認められる場合には、当該負担した金額に相当する金額は、当該役員又は使用人に対する給与とする。」

 (2)は、入会金・経常会費以外に負担した金額、例えば懇親会参加費用などは交際費となりますが、本来個人が負担すべき金額を法人で支払った場合は、その個人に対する給与となることをいっています。

 なお、ロータリークラブやライオンズクラブの入会金・通常会費の消費税の課税区分は不課税です。

2.個人の場合は必要経費不算入

 一方、個人事業主が支出したロータリークラブやライオンズクラブの入会金・通常会費は、必要経費として認められません。所得税基本通達に規定はありませんが、過去の裁決例、例えば2016年(平成28年)7月19日裁決において、個人事業主である弁護士がロータリークラブの会費の必要経費性を主張したところ、国税不服審判所は次のように判断しています。

「本件ロータリークラブは、定款に従って、各種の奉仕活動を行うとともに、会員同士の親睦を深めたり、講演や卓話を通じて教養を高めるなどの活動をしていたものと認められる。そして、請求人の本件クラブの会員としての活動の主なものは、①例会への出席、②親睦会への出席、③奉仕活動への参加及び④講演会への出席であり、請求人がこれらの活動を行うことで報酬を得ていたなどの事情は特に見当たらない。 」

「本件クラブの活動内容を踏まえ、請求人が本件クラブの会員として行う以上のような活動を社会通念に照らして客観的にみれば、その活動はいずれも営利性、有償性を有しておらず、請求人が弁護士としてその計算と危険において報酬を得ることを目的として継続的に法律事務を行う経済活動に該当するものではないというべきである。」

「そうすると、本件各会費は、請求人が本件クラブの会員であることに伴って支出したものであるから、請求人の所得を生ずべき事業と直接関係し、かつ、当該事業の遂行上必要であるとは認められない。したがって、本件各会費は、事業所得の金額の計算上必 要経費に算入されない。」

「請求人は、弁護士業においては、顧客獲得のための積極的な営業・広報動等を広く展開することが重要であり、本件クラブの会員であることは、業務遂行上必要かつ極めて有益な要因である旨主張する。しかしながら、本件クラブの会員であることで、請求人が主張するような側面があったとしても、これは、会費を支出することの直接の目的ではなく、飽くまでも間接的、副次的に生ずる効果にすぎないとみるのが相当であるから、会費を支出することが、弁護士業務の遂行上必要であるということはできない。したがって、請求人の上記主張には理由がない。」

 また、この裁決の中で、ロータリークラブの会費を法人が支出した場合は経費になるのに対し、個人が支出した場合は経費にならない理由について、国税不服審判所は次のように述べています。

「さらに、請求人は、法人が支出するロータリークラブの会費は、法人税基本通達において、クラブ加入の実質的目的を根拠に経費性が認められており、実態として全く変わりのない個人としての弁護士に関しても当然経費性が肯定されるべきである旨主張する。しかしながら、私的な消費生活を行う個人と、それを観念できない法人とでは、支出に関する取扱いを異にすることは、所得税法及び法人税法におけるそれぞれの課税所得の計算構造をみても当然に予定されているものというべきであるから、この点に関する請求人の主張にも理由がない。」

配偶者控除が適用される給与収入限度額が150万円に引き上げられた?

 2017年度(平成29年度)税制改正で、就業調整を意識せずにすむような環境づくりを目指して、配偶者控除及び配偶者特別控除の見直しが行われました。この改正は、2018年分(平成30年分)の所得税から適用されます。

1.給与収入限度額はあくまでも103万円

 配偶者控除の改正点は、配偶者控除を受けることができる納税者本人に所得制限が設けられたという点のみであり、当時の一部報道等に見受けられた「配偶者控除の適用を受けられる給与収入限度額が150万円に引き上げられた」とされる点は、配偶者特別控除においての改正点です。
 つまり、配偶者控除の適用を受けられる配偶者の給与収入限度額はあくまでも103万円以下であり、38万円の配偶者特別控除が適用される給与収入限度額が150万円以下に引き上げられたものです(ただし、納税者本人の給与収入が1,120万円以下であることが必要です)。

 以下で、配偶者控除と配偶者特別控除の改正点について述べていきます。

2.配偶者控除の改正点

 配偶者控除の額は、改正前は配偶者控除の適用を受ける納税者本人の所得の多寡にかかわらず38万円でしたが、改正後は納税者本人の合計所得金額に応じ、次のようになりました。

(1) 納税者の合計所得金額が900万円以下・・・控除対象配偶者38万円、老人控除対象配偶者48万円
(2) 納税者の合計所得金額が900万円超950万円以下・・・控除対象配偶者26万円、老人控除対象配偶者32万円
(3) 納税者の合計所得金額が950万円超1,000万円以下・・・控除対象配偶者13万円、老人控除対象配偶者16万円
(4) 納税者の合計所得金額が1,000万円超・・・適用なし

 なお、合計所得金額900万円は給与収入では1,120万円に、950万円は1,170万円に、1,000万円は1,220万円になります。
 また、この改正により、納税者と生計を一にする配偶者で合計所得金額が38万円以下の配偶者は「同一生計配偶者」と定義され、同一生計配偶者のうち合計所得金額が1,000万円以下である納税者の配偶者は「控除対象配偶者」と定義されました。

3.配偶者特別控除の改正点

 2017年度(平成29年度)税制改正で、配偶者特別控除の対象となる配偶者の合計所得金額の範囲が38万円超(給与収入で103万円超)から123万円以下(給与収入で201万円以下)とされ、配偶者特別控除額を納税者及び配偶者の合計所得金額に応じて、次のとおりとされました。

(1) 納税者の合計所得金額が900万円以下
① 配偶者の合計所得金額が38万円超85万円以下・・・38万円
② 配偶者の合計所得金額が85万円超90万円以下・・・36万円
③ 配偶者の合計所得金額が90万円超95万円以下・・・31万円
④ 配偶者の合計所得金額が95万円超100万円以下・・・26万円
⑤ 配偶者の合計所得金額が100万円超105万円以下・・・21万円
⑥ 配偶者の合計所得金額が105万円超110万円以下・・・16万円
⑦ 配偶者の合計所得金額が110万円超115万円以下・・・11万円
⑧ 配偶者の合計所得金額が115万円超120万円以下・・・6万円
⑨ 配偶者の合計所得金額が120万円超123万円以下・・・3万円
⑩ 配偶者の合計所得金額が123万円超・・・適用なし

(2) 納税者の合計所得金額が900万円超950万円以下
① 配偶者の合計所得金額が38万円超85万円以下・・・26万円
② 配偶者の合計所得金額が85万円超90万円以下・・・24万円
③ 配偶者の合計所得金額が90万円超95万円以下・・・21万円
④ 配偶者の合計所得金額が95万円超100万円以下・・・18万円
⑤ 配偶者の合計所得金額が100万円超105万円以下・・・14万円
⑥ 配偶者の合計所得金額が105万円超110万円以下・・・11万円
⑦ 配偶者の合計所得金額が110万円超115万円以下・・・8万円
⑧ 配偶者の合計所得金額が115万円超120万円以下・・・4万円
⑨ 配偶者の合計所得金額が120万円超123万円以下・・・2万円
⑩ 配偶者の合計所得金額が123万円超・・・適用なし

(3) 納税者の合計所得金額が950万円超1,000万円以下
① 配偶者の合計所得金額が38万円超85万円以下・・・13万円
② 配偶者の合計所得金額が85万円超90万円以下・・・12万円
③ 配偶者の合計所得金額が90万円超95万円以下・・・11万円
④ 配偶者の合計所得金額が95万円超100万円以下・・・9万円
⑤ 配偶者の合計所得金額が100万円超105万円以下・・・7万円
⑥ 配偶者の合計所得金額が105万円超110万円以下・・・6万円
⑦ 配偶者の合計所得金額が110万円超115万円以下・・・4万円
⑧ 配偶者の合計所得金額が115万円超120万円以下・・・2万円
⑨ 配偶者の合計所得金額が120万円超123万円以下・・・1万円
⑩ 配偶者の合計所得金額が123万円超・・・適用なし

 なお、合計所得金額900万円は給与収入では1,120万円に、950万円は1,170万円に、1,000万円は1,220万円になります。

不動産の貸付けでも事業所得となる場合

 不動産所得とは、不動産、不動産の上に存する権利、船舶又は航空機の貸付けによる所得をいいます。
 不動産の貸付けによる所得は、事業として行われている場合でも事業所得とはならずに不動産所得となります。
  一方で不動産の貸付けによる所得は、人的役務の提供が主になるものや事業に付随して行われるものについては、事業所得や雑所得に区分されるものもあります。
 不動産の貸付けから生じる所得で、その所得区分を迷いやすい例を以下に挙げます。

1.不動産所得となるもの

(1) アパート、賃貸マンション、貸家、駐車場などの家賃収入
(2) 地上権、借地権などの貸付け、設定による収入(借地権等の設定のうち、一定金額以上の権利金を収入し た場合は、譲渡所得となります)
(3) 総トン数20トン以上の船舶の貸付収入
(4) 広告等のため、土地、家屋の屋上や側面などを使用させる場合の賃貸収入

2.事業所得又は雑所得となるもの

(1) ホテル、賄いつき下宿、時間貸し駐車場や自転車預り業の収入(事業又は雑)
(2) 従業員宿舎の収入(事業)
(3) 総トン数20トン未満の船舶の貸付収入(事業又は雑)
(4) 浴場業、飲食業における広告の掲示による収入(事業)

賃貸期間の経過に応じて返還しないこととなる敷金

1.不動産所得の収入計上時期

 不動産を賃貸したことにより収受する地代・家賃、共益費などは、契約や慣習などにより支払日が定められている場合はその定められた支払日、支払日が定められていない場合は実際に支払を受けた日(ただし、請求があったときに支払うべきものと定められているものは、その請求の日)に不動産所得の収入金額に算入します。
 また、不動産を賃貸することにより一時に受け取る権利金や礼金は、貸し付ける資産の引渡しを必要とするものは引渡しのあった日、引渡しを必要としないものについては、契約の効力発生の日に収入金額に算入します。

 一方、敷金や保証金は本来は預り金ですから、受け取っても収入にはなりませんが、返還を要しないものは、返還を要しないことが確定した日にその金額を収入金額に算入する必要があります。

2.賃貸期間の経過に応じて返還しないこととなる敷金

 不動産の賃貸の際に収受する敷金や保証金は、原則として退去時に借主に返還しますので、不動産所得の計算上その預かった年分の収入金額には算入しません。
 しかし、敷金・保証金について、賃貸期間の経過に応じて返還しない金額が増加する定めとなっている場合は、その増加する部分の金額をそれぞれの年分の収入金額に算入する必要があります。
 以下の具体例で、収入金額に算入する部分の金額を確認します。

(1) 賃貸借契約の内容

 2019年(平成31年)3月6日に収受した敷金が400,000円で、敷金の返還条件が次の場合。

①1年以内に解約したときは、敷金の10%を返還しない
②2年以内に解約したときは、敷金の15%を返還しない
③2年を超えて解約したときは、敷金の20%を返還しない

(2) 収入金額に算入する部分の金額

①の場合
400,000円×10%(居住期間にかかわりなく返還しない割合を乗じます)=40,000円を、2019年(平成31年分)の収入金額に算入します。

②の場合
400,000円×(15%-10%)=20,000円を、2020年(平成32年分)の収入金額に算入します。

③の場合
400,000円×(20%-10%-5%)=20,000円を、2021年(平成33年分)の収入金額に算入します。

 不動産所得の計算をするときは、敷金のすべてを預り金として処理する前に、敷金の返還条件を契約書で確認しておく必要があります。

日本フルハップの会費は法人と個人で経理処理が異なる!

1.法人と個人で異なる経理処理

 2018年分(平成30年分)の確定申告から新規に関与先となった個人事業主の方から、前年の確定申告書を見せていただきました。前年まではその方のお父さんが確定申告(事業所得)をされていたのですが、ご高齢のため会計事務所に依頼したとのことでした。

 確定申告書以外に出納帳等も見せていただいたのですが、ご自身が加入されている日本フルハップの会費の全額を必要経費に算入されていることに気づきました。
 法人の場合は、会費(加入者1名につき月額1,500円)の全額を損金算入することができるのですが、個人事業の場合は、加入者が誰であるかにより経理処理が異なります。

2.会費の経理処理

 日本フルハップの会費は指定の信用金庫の口座から自動振替されますが、その経理処理は以下のようになります。

(1) 法人事業所(振替口座は法人名義)の場合

 →全額損金に計上します(勘定科目は「諸会費」等)

(2) 個人事業所(振替口座は事業主名義)の場合

① 事業主及び事業主と生計を一にする配偶者その他の親族が加入者の場合
 →保険料相当部分(852円)は事業主個人の負担となり(勘定科目は「事業主貸」等)、保険料相当部分以外(648円)は必要経費に算入します(勘定科目は「諸会費」等)

② その他の加入者の場合
 →全額必要経費に算入します(勘定科目は「諸会費」等)

 なお、消費税については、法人・個人ともに同じ扱いになり、会費に消費税は含まれません(保険料相当部分は非課税、保険料相当部分以外は不課税)。

 2013年(平成25年)4月以降の会費から、上記のように変わっていますので、ご注意ください。

上場株式等の配当の申告不要制度は損益通算時も適用可能

1.申告分離課税

 2009年(平成21年)1月1日以後に支払を受けるべき上場株式等の配当所得については、総合課税に代えて申告分離課税により確定申告をすることができます。
 申告分離課税を選択した場合の留意点は次の通りです。

(1) 総合課税を選択した場合は配当控除の適用がありますが、申告分離課税を選択した場合は配当控除を適用することができません。

(2) その年分に生じた上場株式等の譲渡損失の金額と損益通算ができます。
 例えば、その年分のA株式の配当100とB株式の譲渡損失90を損益通算して、配当所得を10とすることができます。

(3) 前年以前3年以内に生じた上場株式等の譲渡損失を繰越控除することができます。
 例えば、その年分の配当100と3年前に生じた譲渡損失90を損益通算して、その年分の配当所得を10とすることができます。

(4) 確定申告をする上場株式等の配当所得のすべてについて、総合課税と申告分離課税のいずれかを選択しなければなりません。
 例えば、A株式は総合課税、B株式は申告分離課税という選択はできず、A・B株式ともに総合課税又はA・B株式ともに申告分離課税という選択をしなければなりません。

2.申告不要制度

 上場株式等の配当については、確定申告をしないで20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)の税率による源泉徴収だけで課税関係を終了させることができます。
 申告不要制度を選択した場合の留意点は次の通りです。

(1) 上記1.(4)にある通り、上場株式等の配当所得のすべてについて総合課税と申告分離課税のいずれかを選択しなければなりませんが、1銘柄1回に支払われる配当等ごとに申告不要の特例を適用し、上場株式等の配当所得に算入せずに申告することは可能です。
 例えば、A・B株式ともに申告分離課税を選択している場合に、A株式の中間配当については申告分離課税で申告し、A株式の期末配当については申告不要とすることは可能です。
 なお、特定口座(源泉徴収選択口座)内配当等について申告不要の特例を適用する場合には、特定口座単位で行うことになります。

(2) 上記1.(2)(3)の損益通算の適用を受けるために確定申告書を提出する場合にも、申告不要の特例を適用することができます。
 例えば、A株式の配当60、B株式の配当40、C株式の譲渡損失90を損益通算して、60+40-90=10をその年分の配当所得とすることもできますし、B株式の配当40を申告しないで60-90=△30の譲渡損失を翌年に繰り越すこともできます(この場合、A株式の配当は0となり、その年分の配当所得は0となります)。

再居住した場合の住宅借入金等特別控除

1.再居住した場合の適用要件

 住宅借入金等特別控除の適用を受けていた方が、2003年(平成15年)4月1日以降に転任命令に伴う転居等により控除が受けられなくなった後、その家屋に再び居住した場合は、次の要件を満たすことにより再居住年以後の年について、住宅借入金等特別控除の適用を受けることができます。

(1) 転居の事由等

 勤務先からの転任の命令に伴う転居、その他これに準ずるやむを得ない事由により、その家屋を居住の用に供さなくなったこと

(2) 居住の用に供さなくなる日までに必要な手続

 「転任の命令等により居住しないこととなる旨の届出書」、未使用の「年末調整のための(特定増改築等)住宅借入金等特別控除証明書」、「給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」を所轄税務署に提出

(3) 再適用をする最初の年分の必要書類

 「(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書(再び居住の用に供した方用」、「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」、「住民票の写し」

(4) 再適用の制限

 再び居住の用に供した日の属する年に、その家屋を賃貸の用に供していた場合には、翌年以後の年についてこの特例の再適用が可能

2.再居住した場合の留意点

 したがって、例えば転地療養のため、家族全員で一時実家に移り住んだ場合には、「再居住の場合の再適用の特例」は受けられません。
 転地療養は、勤務先からの転任命令のような外的要因ではなく個人的事情であるため、上記要件の「やむを得ない事由」に該当しないからです。

 また、転勤が解消し再居住した年に賃貸していた場合に、年末時点では居住しているとして控除を受けることはできません。控除は翌年からとなりますので、ご注意ください。