令和3年度改正後の中小企業投資促進税制

1.商業・サービス業・農林水産業活性化税制の廃止

 2021(令和3)年度税制改正で、「商業・サービス業・農林水産業活性化税制(特定中小企業者等が経営改善設備を取得した場合の特別償却又は特別税額控除制度)」が適用期限(2021(令和3)年3月31日)の到来をもって廃止されました。
 この商業・サービス業・農林水産業活性化税制の対象者(商店街振興組合)や対象事業(不動産業等)を「中小企業投資促進税制(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は特別税額控除制度)」に盛り込む形で制度が一本化され、中小企業投資促進税制の適用期限が2年間延長されました。
 中小企業投資促進税制の改正内容は、次のとおりです。

(1) 中小企業者等の範囲

 中小企業者等の範囲について、次の見直しが行われました。

① 本制度の対象となる中小企業者等に商店街振興組合が追加されました。
② 中小企業者の判定における大規模法人から一定の独立行政法人中小企業基盤整備機構を除外する特例が廃止されました。

(2) 指定事業の範囲

 対象となる指定事業に、次の事業が追加されました。

① 不動産業
② 物品賃貸業
③ 料亭、バー、キャバレー、ナイトクラブその他これらに類する事業(生活衛生同業組合の組合員が行うものに限る)

(3) 特定機械装置等の範囲

 本制度の対象となる減価償却資産から、匿名組合契約その他これに類する一定の契約の目的である事業の用に供するものが除外されました。

(4) 適用期間

 2021(令和3)年4月1日から2023(令和5)年3月31日までの間に取得等する特定機械装置等について適用されます。

 これらの改正を踏まえて、改正後の制度の内容を以下にまとめます。

2.改正後の中小企業投資促進税制

出所:中小企業庁広報資料「概要」

 中小企業者等※1で青色申告書を提出するものが、2021(令和3)年4月1日から2023(令和5)年3月31日までの間に新品の特定機械装置等※2の取得又は制作をして、その者の営む指定事業※3の用に供した場合には、基準取得価額(特定機械装置等の取得価額として一定のもの)の30%相当額の特別償却又は7%相当額の税額控除ができます。
 ただし、その事業年度の所得に対する法人税の額(個人事業主の場合は、所得税の額)の20%相当額を限度※4とし、限度を超える部分の金額については1年間の繰越しが認められています。
 なお、中小企業者等のうち特定中小企業者等※5以外の法人については、税額控除はできません。

※1 中小企業者等とは、青色申告書を提出する者のうち、以下のイ~ハに該当するものをいいます。
イ.中小企業者(中小企業者については、本ブログ記事「租税特別措置法上の『中小企業者』の定義とその判定時期」をご参照ください。ただし、本制度においては、中小企業者の判定における大規模法人から一定の独立行政法人中小企業基盤整備機構が除外する特例が廃止されています。)
ロ.常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主
ハ.農業協同組合、農業協同組合連合会、中小企業等協同組合、出資組合である商工組合及び商工組合連合会、商店街振興組合、内航海運組合、内航海運組合連合会、出資組合である生活衛生同業組合、漁業協同組合、漁業協同組合連合会、水産加工業協同組合、水産加工業協同組合連合会、森林組合並びに森林組合連合会

※2 特定機械装置等とは、次のイ~ホの減価償却資産をいいます。ただし、匿名組合契約その他これに類する一定の契約の目的である事業の用に供するものは除外されます
イ.機会及び装置で1台又は1基の取得価額が160万円以上のもの
ロ.製品の品質管理の向上等に資する測定工具及び検査工具で1台又は1基の取得価額が120万円以上のもの(その事業年度の取得価額の合計額が120万円以上のもの(1台又は1基の取得価額が30万円未満のものを除く)を含む)
ハ.一定のソフトウェアで一のソフトウェアの取得価額が70万円以上のもの(その事業年度の取得価額の合計額が70万円以上のもの(少額減価償却資産及び一括償却資産の適用を受けたものを除く)を含む)
ニ.車両重量が3.5トン以上の普通自動車で貨物の運送の用に供するもの
ホ.内航海運業の用に供される船舶

※3 指定事業とは、製造業、建設業、農業、林業、漁業、水産養殖業、鉱業、卸売業、道路貨物運送業、倉庫業、港湾運送業、ガス業、小売業、料理店業その他の飲食店業(料亭、バー、キャバレー、ナイトクラブその他これらに類する事業については生活衛生同業組合の組合員が行うものに限る)、一般旅客自動車運送業、海洋運輸業及び沿海運輸業、内航船舶賃貸業、旅行業、こん包業、郵便業、通信業、損害保険代理業及びサービス業(映画業以外の娯楽業を除く)、不動産業物品賃貸業をいいます。

※4 税額控除額は、中小企業経営強化税制、中小企業投資促進税制の控除税額の合計で、その事業年度の法人税額又は所得税額の20%が上限となります。

※5 特定中小企業者等とは、中小企業者等のうち資本金の額若しくは出資金の額が3,000万円以下の法人又は農業協同組合等をいいます。

中小企業者等の所得拡大促進税制の令和3年度改正《令和3年4月1日以後開始事業年度》

 所得拡大促進税制は、青色申告書を提出している中小企業者等が、一定の要件を満たした上で前年度より給与等の支給額を増加させた場合、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度です。
 この所得拡大促進税制について、2021(令和3)年度税制改正において、適用期間の2年間延長と適用要件の見直し(継続雇用要件の撤廃等)が行われました。
 今回は、現行制度の概要と改正内容について確認します。

※ 所得拡大促進税制については、2023(令和5)年3月31日の期限到来前に2022(令和4)年度改正が行われたため、2021(令和3)年4月1日から2022(令和4)年3月31日までの間に開始する事業年度(個人事業主の場合は2022(令和4)年)について適用されることとなりました。

1.現行制度の概要

 中小企業者等※1で青色申告書を提出するものが、2018(平成30)年4月1日から2021(令和3)年3月31日までの間に開始する各事業年度(個人事業主の場合は、2019(令和元)年から2021(令和3)年までの各年)において国内雇用者※2に対して給与等※3を支給する場合において、その事業年度においてその中小企業者等の継続雇用者給与等支給額※4から継続雇用者比較給与等支給額※5を控除した金額のその継続雇用者比較給与等支給額に対する割合が1.5%以上であるとき(その中小企業者等の雇用者給与等支給額※6が比較雇用者給与等支給額※7以下である場合を除く)は、雇用者給与等支給額から比較雇用者給与等支給額を控除した金額の15%※8(下記(1)(2)の要件を満たす場合は25%)相当額の特別税額控除ができることとされています。
 ただし、その事業年度の所得に対する法人税額(個人事業主の場合は、その年の事業所得の金額に係る所得税額)の20%相当額が限度となります。

(1) 継続雇用者給与等支給額から継続雇用者比較給与等支給額を控除した金額のその継続雇用者比較給与等支給額に対する割合が2.5%以上であること

(2) 次に掲げる要件のいずれかを満たすこと
① その事業年度の損金の額(個人事業主の場合は、その年分の必要経費)に算入される教育訓練費※9の額から中小企業比較教育訓練費※10の額を控除した金額のその中小企業比較教育訓練費に対する割合が10%以上であること
② その中小企業者等が、その事業年度終了の日(個人事業主の場合は、その年の12月31日)までに中小企業等経営強化法に規定する経営力向上計画の認定を受けたものであり、その経営力向上計画に記載された同法に規定する経営力向上が確実に行われたものとして一定の証明がされたこと

※1 中小企業者等とは、青色申告書を提出する者のうち、以下に該当するものをいいます。
イ.中小企業者(中小企業者については、本ブログ記事「租税特別措置法上の『中小企業者』の定義とその判定時期」をご参照ください)
ロ.常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主
ハ.農業協同組合、農業協同組合連合会、中小企業等協同組合、出資組合である商工組合及び商工組合連合会、内航海運組合、内航海運組合連合会、出資組合である生活衛生同業組合、漁業協同組合、漁業協同組合連合会、水産加工業協同組合、水産加工業協同組合連合会、森林組合並びに森林組合連合会

※2 国内雇用者とは、法人又は個人事業主の使用人のうちその法人又は個人事業主の国内に所在する事業所につき作成された賃金台帳に記載された者を指します。パート、アルバイト、日雇い労働者も含みますが、使用人兼務役員を含む役員及び役員の特殊関係者、個人事業主と特殊の関係のある者は含まれません。
 なお、特殊関係者(特殊の関係のある者)とは、法人の役員又は個人事業主の親族を指します。親族の範囲は6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族までが該当します。また、当該役員又は個人事業主と婚姻関係と同様の事情にある者、当該役員又は個人事業主から生計の支援を受けている者等も特殊関係者に含まれます。

※3 給与等とは、俸給・給料・賃金・歳費及び賞与並びに、これらの性質を有する給与(所得税法第28条第1項に規定する給与所得)をいいます。退職金など、給与所得とならないものについては、原則として給与等に該当しません。
 なお、所得税法上課税されない通勤手当等の額については、給与所得となるので、給与等に含まれます。ただし、賃金台帳に記載された支給額のみを対象に、所得税法上課税されない通勤手当等の額を含めずに計算する等、合理的な方法により継続して国内雇用者に対する給与等の支給額の計算をすることも認められます。

※4 継続雇用者給与等支給額とは、継続雇用者(前年度の期首から適用年度の期末までの全ての月分の給与等の支給を受けた従業員のうち、一定の者)に支払った給与等の総額をいいます。

出所:経済産業省「中小企業向け所得拡大促進税制ご利用ガイドブック-平成30年4月1日以降開始の事業年度用-(個人事業主は令和元年分以降用)」

※5 継続雇用者比較給与等支給額とは、継続雇用者に対する前事業年度の給与等の金額として一定の金額をいいます。

※6 雇用者給与等支給額とは、適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額(その給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額がある場合には、その金額を控除した金額)をいいます。

※7 比較雇用者給与等支給額とは、前事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額をいいます。

※8 その事業年度において「地方活力向上地域等において雇用者の数が増加した場合の特別税額控除制度(雇用促進税制)」の適用を受ける場合には、その規定による控除を受ける金額の計算の基礎となった者に対する給与等の支給額として一定の方法により計算した金額を控除した残額となります。

※9 教育訓練費とは、所得の金額の計算上損金の額に算入される、国内雇用者の職務に必要な技術又は知識を習得させ、又は向上させるために支出する費用で一定のものをいいます。

※10 中小企業比較教育訓練費とは、中小企業者等の適用年度開始の日前1年以内に開始した各事業年度の損金の額に算入される教育訓練費の額(その各事業年度の月数とと適用年度の月数が異なる場合には、教育訓練費の額に適用年度の月数を乗じてこれを各事業年度の月数で除して計算した金額)の合計額をその1年以内に開始した各事業年度の数で除して計算した金額をいいます。

2.令和3年度改正の内容

 所得拡大促進税制について次の見直しが行われた上、その適用期限が2年延長され、2021(令和3)年4月1日から2023(令和5)年3月31日までの間に開始する各事業年度(個人事業主の場合は、2022(令和4)年から2023(令和5)年までの各年)について適用されます。

※ 所得拡大促進税制については、2023(令和5)年3月31日の期限到来前に2022(令和4)年度改正が行われたため、2021(令和3)年4月1日から2022(令和4)年3月31日までの間に開始する事業年度(個人事業主の場合は2022(令和4)年)について適用されることとなりました。

(1) 適用要件のうち、継続雇用者給与等支給額から継続雇用者比較給与等支給額を控除した金額の継続雇用者比較給与等支給額に対する割合が1.5%以上であることの要件が、雇用者給与等支給額から比較雇用者給与等支給額を控除した金額の比較雇用者給与等支給額に対する割合が1.5%以上であることの要件に見直されました。

(2) 特別税額控除率(原則:15%)が25%となる要件(上記1.(1)及び(2)の要件)のうち、継続雇用者給与等支給額から継続雇用者比較給与等支給額を控除した金額の継続雇用者比較給与等支給額に対する割合が2.5%以上であることの要件が、雇用者給与等支給額から比較雇用者給与等支給額を控除した金額の比較雇用者給与等支給額に対する割合が2.5%以上であることの要件に見直されました。

(3) 給与等の支給額から控除される給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額(上記1.※6参照)について、その範囲が明確化されるとともに、次の見直しが行われました。
① 上記(1)及び(2)の要件を判定する場合には、雇用安定助成金額を控除しないこととする
② 特別税額控除率(15%又は25%)を乗ずる基礎となる雇用者給与等支給額から比較雇用者給与等支給額を控除した金額は、雇用安定助成金額を控除して計算した金額を上限とする

※ 給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額には、以下のものが該当します。
イ.その補助金、助成金、給付金又は負担金その他これらに準ずるもの(以下「補助金等」といいます)の要綱、要領又は契約において、その補助金等の交付の趣旨又は目的がその交付を受ける法人の給与等の支給額に係る負担を軽減させることが明らかにされている場合のその補助金等の交付額

該当する補助金等の例
業務改善助成金

ロ.イ以外の補助金等の交付額で、資産の譲渡、資産の貸付け及び役務の提供に係る反対給付としての交付額に該当しないもののうち、その算定方法が給与等の支給実績又は支給単価(雇用契約において時間、日、月、年ごとにあらかじめ定められている給与等の支給額をいいます)を基礎として定められているもの

該当する補助金等の例

雇用調整助成金、緊急雇用安定助成金、産業雇用安定助成金、労働移動支援助成金(早期雇い入れコース)、キャリアアップ助成金(正社員化コース)、特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)、特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)

ハ.イ及びロ以外の補助金等の交付額で、法人の使用人が他の法人に出向した場合において、その出向した使用人(以下「出向者」といいます)に対する給与を出向元法人(出向者を出向させている法人をいいます)が支給することとしているときに、出向元法人が出向先法人(出向元法人から出向者の出向を受けている法人をいいます)から支払を受けた出向先法人の負担すべき給与に相当する金額

 なお、出向先法人は、賃金台帳に出向者と給与負担金を記載することで、集計対象となる給与総額に含めることが可能となります。
(出向先法人の負担すべき給与に相当する金額については、本ブログ記事「出向先法人が支出する給与負担金の取扱い」をご参照ください)

住宅借入金等特別控除の適用要件等の見直し

 2021(令和3)年度税制改正で、住宅借入金等特別控除制度(いわゆる住宅ローン控除)の見直しが行われました。
 改正内容は、次のとおりです。

1.控除期間13年間の特例の延長

 住宅の取得等(新築、建売・中古取得又は増改築等)で特別特例取得に該当するものをした個人が、その特別特例取得をした家屋を2021(令和3)年1月1日から2022(令和4)年12月31日までの間にその者の居住の用に供した場合には、住宅借入金等を有する場合の所得税額の控除及び当該控除の控除期間の3年間延長(控除期間13年間)の特例を適用できることとされました。
 特別特例取得とは、その対価の額又は費用の額に含まれる消費税等の税率が10%である場合の住宅の取得等で、次に掲げる区分に応じてそれぞれ次に定める期間内にその契約が締結されているものをいいます。

(1) 居住用家屋の新築・・・2020(令和2)年10月1日から2021(令和3)年9月30日までの期間
(2) 居住用家屋で建築後使用されたことのないもの若しくは中古住宅の取得又はその者の居住の用に供する家屋の増改築等・・・2020(令和2)年12月1日から2021(令和3)年11月30日までの期間

新築 令和2年10月1日~令和3年9月30日の契約
建売、中古、増改築等 令和2年12月1日~令和3年11月30日の契約

2.床面積要件の下限の引き下げ(40㎡以上)

 上記1の住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除の特例は、個人が取得等をした床面積が40㎡以上50㎡未満である住宅の用に供する家屋についても適用できることとされました。
 ただし、床面積が40㎡以上50㎡未満である住宅の用に供する家屋に係る上記1の住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除の特例は、その者の13年間の控除期間のうち、その年分の所得税に係る合計所得金額が1,000万円以下である場合に限り適用されます。

 上記1及び2について、その他の要件等は、現行の住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除と同様です(参考:本ブログ記事「中古住宅を取得した場合の住宅借入金等特別控除の適用要件」)。

3.適用時期

 上記の改正は、住宅の取得等で特別特例取得に該当するものをした個人が、その特別特例取得をした家屋を2021(令和3)年1月1日から2022(令和4)年12月31日までの間にその者の居住の用に供した場合に適用されます。

短期退職手当等に係る退職所得の金額の計算方法

 2021(令和3)年度税制改正で、勤続年数5年以下の一般従業員に対する退職所得の「2分の1課税」の見直しが行われました。
 この改正は、2022(令和4)年1月1日以後支給分の退職手当等について適用されます。

1.改正前の退職所得の金額の計算方法

 退職所得の金額は、その年中に支払を受ける退職手当等の収入金額から、その者の勤続年数に応じた退職所得控除額を控除した残額の2分の1に相当する金額とされており、次の算式で計算します。

 (収入金額-退職所得控除額)×1/2=退職所得の金額
※ 勤続年数5年以下の役員等の退職手当等(以下「特定役員退職手当等」といいます)については、「2分の1課税」は適用しません。

 退職所得控除額は、次の算式で計算します。

勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円×勤続年数(最低80万円)
20年超 800万円+70万円×(勤続年数-20年)

 例えば、勤続年数5年の従業員に退職手当等600万円を支給する場合、退職所得の金額は次のように計算します。

 (600万円-40万円×5年)×1/2=200万円

2.改正後の退職所得の金額の計算方法

 短期退職手当等に係る退職所得の金額については、次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める金額とされました。
 なお、短期退職手当等とは、退職手当等のうち、退職手当等の支払をする者から短期勤続年数(勤続年数のうち、役員等以外の者としての勤続年数が5年以下であるものをいいます)に対応する退職手当等として支払を受けるものであって、特定役員退職手当等に該当しないものをいいます。

(1) 収入金額-退職所得控除額≦300万円 (2) 収入金額-退職所得控除額>300万円
(収入金額-退職所得控除額)×1/2 150万円+{(収入金額-(300万円+退職所得控除額)}

 上表の(1)の場合は、改正前と同じく2分の1課税が適用されます。(2)の場合は、300万円以下の部分の退職所得については2分の1課税が適用され(300万円×1/2=150万円)、300万円を超える部分の退職所得については2分の1課税が適用されません。

 例えば、勤続年数5年の従業員に退職手当等600万円を支給する場合、退職所得の金額は次のように計算します。

 150万円+{(600万円-(300万円+40万円×5年)}=250万円

 同じ条件でも、退職所得の金額は改正前の200万円から250万円に増えています。このような改正が行われた背景には、退職所得課税に対する優遇措置(退職所得控除額や2分の1課税等)を悪用するケースが目立ってきたことがあります。

資本的支出の譲渡所得における所有期間の判定

1.5年以内の資本的支出は短期譲渡?

 譲渡所得の計算では、資産の所有期間が5年を超えれば長期譲渡、5年以下であれば短期譲渡となり、その取扱いを異にしています。ここでいう所有期間とは、総合課税の場合はその資産の取得の日から譲渡した日までの期間をいい、分離課税の場合は譲渡した年の1月1日における所有期間(いわゆる「1月1日基準」)をいいます。
 この所有期間について、資本的支出をした場合はどのように判定するのか、というのが今回の主題です。
 例えば、所有期間5年超の業務用資産について、それを譲渡する3か月前に資本的支出(2007(平成19)年4月1日以後の支出)をした場合、その資本的支出は新たな減価償却資産の取得となりますが、この業務用資産を譲渡したときは、業務用資産本体を長期譲渡、資本的支出を短期譲渡と判定するのでしょうか?
 また、自宅等の非業務用資産の場合はどうでしょうか?

2.資産本体の所有期間で判定

 上記の問いに対する結論を先に述べると、3か月前に行った資本的支出も業務用資産本体の所有期間5年超で判定し、すべてが長期譲渡になります。
 また、自宅等の非業務用資産についても同様に取り扱います。

 2007(平成19)年4月1日以後に資本的支出を行った場合には、その資本的支出の金額を取得価額とする減価償却資産を新たに取得したものとする旨が規定されていますが(所得税法施行令127条1項)、これは減価償却資産に関する取扱いです。
 業務用資産、非業務用資産に対して資本的支出を行い、その資本的支出の金額を取得価額とする新たな減価償却資産を取得したものとされたとしても、その資本的支出は既存の減価償却資産につき改良、改造等のために行った支出です。その資本的支出のみが減価償却資産本体と区分され、単独資産として取引の対象となるのであれば別ですが、通常は減価償却資産本体と一体となって取引の対象となる資産が形成されます。
 そうすると、資本的支出を含めた減価償却資産全体の譲渡となり、減価償却資産本体の所有期間により長期又は短期の判定がなされるものと考えられます。
 このように判定する根拠は、次の租税特別措置法通達31・32共-6(改良、改造等があった土地建物等の所有期間の判定)にあります。

31・32共-6 その取得後改良、改造等を行った土地建物等について措置法第31条第2項に規定する所有期間を判定する場合における同項に規定する「その取得をした日」は、その改良、改造等の時期にかかわらず、当該土地建物等の取得をした日によるものとする。
 

所得控除における「生計を一にする」の判定基準

1.同一生計を要件とする所得控除

 所得税法では、所得税額を計算するときに各納税者の個人的事情(担税力)を加味するために、所得控除の制度が設けられています。
 所得控除には物的控除と人的控除がありますが、それぞれの所得控除の要件の一つとしてよく出てくるのが「生計を一にする」という要件です。
 所得控除を受けるにあたって、この「生計を一にする(同一生計)」という要件を必要とするもの(○)と不要なもの(×)をまとめると、下表のようになります。

所得控除 「同一生計」の要否
物的控除 雑損控除 ○(納税者又は納税者と生計を一にする配偶者やその他の親族)
医療費控除 ○(自己又は自己と生計を一にする配偶者やその他の親族)
社会保険料控除 ○(自己又は自己と生計を一にする配偶者やその他の親族)
小規模企業共済等掛金控除 ×
生命保険料控除 ×
地震保険料控除 ○(自己又は自己と生計を一にする配偶者やその他の親族)
寄附金控除 ×
人的控除 障害者控除 ○(納税者自身、同一生計配偶者又は扶養親族)
寡婦控除 ○(夫と離婚した後婚姻をしておらず、扶養親族がいる人)※死別の場合は扶養親族要件なし
ひとり親控除 ○(生計を一にする子がいる)
勤労学生控除 ×
配偶者控除 ○(納税者と生計を一にしている)
配偶者特別控除 ○(納税者と生計を一にしている)
扶養控除 ○(納税者と生計を一にしている)
基礎控除 ×

 上表から、多くの所得控除で「生計を一にする」という要件が必要であることがわかります。では、「生計を一にする」とは、どういうことなのでしょうか?

2.「生計を一にする」とは?

 「生計を一にする」とは、必ずしも同一の家屋に起居していること(同居していること)を要件とするものではありません。次のような場合も、「生計を一にする」ものとして取り扱われます(所得税基本通達2-47)。

(1) 勤務、修学、療養等の都合上他の親族と日常の起居を共にしていない親族がいる場合であっても、次に掲げる場合に該当するときは、これらの親族は生計を一にするものとされます。
① 当該他の親族と日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には当該他の親族のもとで起居を共にすることを常例としている場合
② これらの親族間において、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合

(2) 親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとされます。

 以上から、「生計を一にする」とは、必ずしも同居を要件とするものではなく、別居していても生活費等を送金するなどして「同じ財布で生活している」場合は、生計を一にするものとされます。
 では、どの程度の送金をすれば「同じ財布で生活している」ことになるのでしょうか?以下では、別居している親に送金する場合についてみていきます。

3.「同じ財布で生活している」とは?

(1) 親の生活費等の大部分又は一部を送金している場合

 生活費等の大部分を送金していれば、「生計を一にする」と考えられますが、生活費等の大部分を送金しなければならないということではなく、それが生活費の一部であるならば「生計を一にする」と解されます。
 ただし、この場合送金しているのが「生活費等」なのか、単なる「お小遣い」なのか事実認定の問題がありますが、親の所得と一般的にかかる生活費等から、送金しているのが生活費の一部なのか判定する必要があります。

(2) 兄弟等と共同で親の生活費等を送金している場合

 兄弟等と共同で継続的に送金していても、それが生活費等に消費されていることが明らかであれば、お互いに「生計を一にする」と解されます。
 ただし、扶養控除等を兄弟間で重複して適用することはできません。

(3) 親の生活費を毎月継続して送金している場合

 上記2.(1)②でみたように、「生計を一にする」のは、常に生活費等の送金が行われている場合とされています。
 生活費等とは、本来必要な都度送金されるものと解されますので、月々の生活費等の送金を毎月継続的に行っている場合には、常に送金が行われているといえます。

(4) 親の生活費をボーナス時や帰省時にまとめて送金している場合

 上記(3)に対して、半年に一度のボーナス時や年に一度の帰省時にまとめて送金するのは本来生活費とは言い難く、常に生活費等を送金しているとはいえませんので、特段の事情がない限り「生計を一にする」とはいえないと思われます。

個人事業主の源泉徴収義務

 法人や個人事業主が、従業員に給与を支払ったり、税理士や司法書士などに報酬を支払ったりした場合には、その給与や報酬から支払金額に応じた所得税及び復興特別所得税を差し引き、従業員や税理士等に代わって国に納めることになっています。
 この所得税及び復興特別所得税を差し引いて、国に納める義務のある者を源泉徴収義務者といいます。
 法人(会社だけではなく、学校や官公庁、人格のない社団・財団を含みます)は、給与や報酬を支払う場合は、必ず源泉徴収義務者になります。従業員を雇っておらず社長だけの「1人会社」であっても、社長に給与を支払っていれば源泉徴収義務者になり、また、「1人会社」において社長に給与を支払っていなくても、税理士等に報酬を支払っていれば源泉徴収義務者になります。
 これに対し、個人事業主は、給与や報酬の支払があっても源泉徴収義務者にならない場合があり、源泉徴収が必要か否かについて判断を迷うこともあります。
 今回は、個人事業主の源泉徴収義務と源泉徴収すべき報酬等の範囲について確認します。

1.源泉徴収義務者となる場合・ならない場合

 個人事業主が給与や報酬を支払う場合は、原則として源泉徴収義務者になります。ただし、次のような場合は源泉徴収義務者にはなりません(下記(1)や(2)に該当する場合でも、ホステス等に報酬・料金等を支払う場合は、源泉徴収をする必要があります)。

(1) 常時2人以下のお手伝いさんや家政婦さんなどのような家事使用人だけに給与を支払っている個人は、その支払う給与や退職金について源泉徴収をする必要はありません。
(2) 源泉徴収義務のない個人が支払う税理士報酬などの報酬・料金については、源泉徴収をする必要はありません。例えば、給与所得者が確定申告などをするために税理士に報酬を支払っても、源泉徴収をする必要はありません。

 したがって、個人が給与等の支払者であっても常時2人以下の家事使用人のみに対する給与の支払者である場合又は従業員を雇っておらず給与等の支払者でない場合は、ホステス等に報酬・料金等を支払うときを除き、源泉徴収する必要はありません。

 ここで注意を要するのは、青色事業専従者給与を支払っている場合は、たとえその給与等について納付すべき税額がない場合であっても、源泉徴収義務者になるということです。上記(1)の家事使用人と青色事業専従者を混同しないように注意してください。

 源泉徴収義務者は、源泉徴収の対象となる報酬・料金等を支払う際に、所得税及び復興特別所得税を源泉徴収しなければなりません。以下では、源泉徴収が必要となる報酬・料金等についてみていきます。

2.源泉徴収が必要な報酬・料金等

 源泉徴収が必要な報酬・料金等の範囲は、その報酬・料金等の支払を受ける者が、個人であるか法人であるかによって異なります。
 支払を受ける者が法人の場合は、馬主である法人に支払う競馬の賞金以外は、源泉徴収の必要はありません。
 支払を受ける者が個人の場合は、次の報酬・料金等を支払ったときに源泉徴収が必要になります。

(1) 原稿料や講演料など(ただし、懸賞応募作品等の入選者に支払う賞金等については、一人に対して1回に支払う金額が5万円以下であれば、源泉徴収をしなくてもよいことになっています)
(2) 弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金
(3) 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
(4) プロ野球選手、プロサッカーの選手、プロテニスの選手、モデルや外交員などに支払う報酬・料金
(5) 映画、演劇その他芸能(音楽、舞踊、漫才等)、テレビジョン放送等の出演等の報酬・料金や芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金
(6) ホテル、旅館などで行われる宴会等において、客に対して接待等を行うことを業務とするいわゆるバンケットホステス・コンパニオンやバー、キャバレーなどに勤めるホステスなどに支払う報酬・料金
(7) プロ野球選手の契約金など、役務の提供を約することにより一時に支払う契約金
(8) 広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金

 源泉徴収義務者((6)については源泉徴収義務者でなくても)がこれらの報酬・料金等を支払った場合に源泉徴収を怠ると、源泉徴収漏れとして支払った側にペナルティが課されますので、ご注意ください。

役員退職金の分割支給と源泉徴収

 役員が退職するにあたり、その退職金を一括で支払うと、会社の資金繰りに支障をきたすことがあります。このような場合は、退職金を一括支給せずに分割支給にすることができます。
 今回は、役員退職金を分割支給する場合の損金算入時期と源泉徴収税額及び分割支給の留意点について確認します。

※ 一括支給する場合については、本ブログ記事「役員退職金の損金算入時期と経理処理」をご参照ください。

1.分割支給する場合の損金算入時期

 役員退職金の損金算入時期は、原則として株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度とされ、損金経理は要件とされていません。
 ただし、法人が役員退職金を実際に支給した日の属する事業年度において、その支払った金額を損金経理した場合には、例外としてこれも認められています。
 つまり、役員退職金の損金算入時期は、その額の確定時と支給時のいずれかによることができるということです。
 このことは、株主総会等において役員退職金の額が確定したものの、資金繰りの理由により確定額を分割支給する場合も同じです。
 したがって、役員退職金を分割支給する場合は、その額が確定した事業年度において未払金として計上するか、実際に支給した事業年度において退職金として計上すれば、損金算入が認められます。

2.分割支給した場合の源泉徴収税額の計算

 役員退職金を分割支給した場合の源泉徴収は、その退職金の総額に対する税額を計算し、その税額を各回の支給額で按分します※1
 例えば、3月決算法人の役員(勤続38年)がX1年3月に退職し、X1年5月の株主総会において5,000万円の退職金を支給することが決議されましたが、資金繰りの都合からX1年7月に3,000万円、X1年12月に2,000万円と2回に分割して支給することとした場合、源泉徴収税額は以下のように計算します。
 なお、この役員から、「退職所得の受給に関する申告書」の提出があったものとします(関連記事:「退職所得の受給に関する申告書を提出した人が還付を受けるためにする確定申告」)。

(1) 勤続38年に対する退職所得控除額:800万円+70万円×(38年-20年)=2,060万円
(2) 退職所得金額の計算:(5,000万円-2,060万円)×1/2=1,470万円
(3) 源泉徴収すべき所得税及び復興特別所得税の額※2:(1,470万円×33%-153.6万円)×102.1%=3,384,615円
(4) 7月に徴収する所得税及び復興特別所得税の額:3,384,615円×3,000万円/5,000万円=2,030,769円
(5) 12月に徴収する所得税の額:3,384,615円×2,000万円/5,000万円=1,353,846円

※1 退職所得に係る個人住民税についても、退職金支給の際に特別徴収することとされています。計算方法は、退職金の総額に対する税額を計算し、その税額を各回の支給額で按分します。
※2 参考:国税庁ホームページ「退職所得の源泉徴収税額の速算表」

3.分割支給の留意点

 役員退職金を分割支給するにあたって、留意すべき点は次のとおりです。

(1) 退職金を分割支給する場合、支給を受ける側の退職所得の収入金額とすべき時期については、原則としてその支給の起因となった退職の日とされます。
 したがって、分割で支給を受ける場合でも、その決定された金額の全額がその年の収入金額になります。
(2) 分割支給とすることに特段の理由が無く、利益調整目的などの意図があり税額に影響を及ぼす場合は、損金算入が認められない可能性があります(「赤字決算を避けるため」は合理的な理由にならず、「資金繰りの都合」は合理的な理由になります)。
 したがって、株主総会又は取締役会において分割支給の合理的な理由を説明し、支給時期と金額を明確にしたうえで、議事録を作成することが重要です。
(3) 分割期間が長期にわたる場合は、退職一時金ではなく退職年金と認定される可能性があります。
 退職金の一時払いというよりも有期年金の支給と考えた方が実態に即しているような場合には、決議日等の属する確定事業年度で全額損金処理することはできず、支給の都度、損金算入しなければなりません。
 つまり、年金総額を未払計上したとしても、その未払金相当額を確定事業年度の損金に算入することはできません。
 また、退職一時金ではなく退職年金と認定された場合、支給を受ける側にとっては退職所得ではなく雑所得として扱われることになります。

賃貸用マンションの修繕積立金は支払期日に必要経費算入可、意外な盲点は管理費の消費税の取扱い

 分譲マンションのオーナー(区分所有者)が、転勤等のため長期間自室を留守にする場合、賃貸に出して家賃収入を得ることがあります。
 賃貸に出した場合でも、修繕積立金と管理費をマンション管理組合に支払うのは、オーナーである区分所有者です(家賃に転嫁して賃借人の負担とするかどうかは別として)。
 今回は、修繕積立金を必要経費に算入する時期の確認と、意外な盲点である(間違った処理が多い)管理費の消費税の取扱いを確認します。

1.原則は修繕完了時に必要経費算入

 修繕積立金は、原則として、実際に修繕等が行われその修繕等が完了した日の属する年分の必要経費になります。
 修繕積立金は、マンションの共用部分について行う将来の大規模修繕等の費用の額に充てられるために長期間にわたって計画的に積み立てられるものであり、実際に修繕等が行われていない限りにおいては、具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していないことから、原則的には、管理組合への支払期日の属する年分の必要経費には算入されず(所得税基本通達37-2)、実際に修繕等が行われ、その費用の額に充てられた部分の金額について、その修繕等が完了した日の属する年分の必要経費に算入されることになります。

2.一定の場合は支払期日に必要経費算入可

 しかしながら、修繕積立金は区分所有者となった時点で、管理組合へ義務的に納付しなければならないものであるとともに、管理規約において、納入した修繕積立金は、管理組合が解散しない限り区分所有者へ返還しないこととしているのが一般的です(マンション標準管理規約(単棟型)(国土交通省)第60条第6項)。
 そこで、修繕積立金の支払がマンション標準管理規約に沿った適正な管理規約に従い、次の事実関係の下で行われている場合には、その修繕積立金について、その支払期日の属する年分の必要経費に算入しても差し支えないものとされています。

(1) 区分所有者となった者は、管理組合に対して修繕積立金の支払義務を負うことになること
(2) 管理組合は、支払を受けた修繕積立金について、区分所有者への返還義務を有しないこと
(3) 修繕積立金は、将来の修繕等のためにのみ使用され、他へ流用されるものでないこと
(4) 修繕積立金の額は、長期修繕計画に基づき各区分所有者の共有持分に応じて、合理的な方法により算出されていること

3.管理費の消費税課税区分は不課税!

 不動産所得の計算上、修繕積立金を必要経費に算入する時期については上記のとおりです。また、管理費については、支払期日に必要経費に算入することに関して疑義は生じません。
 しかし、マンション管理組合に支払う管理費の消費税課税区分には要注意です。支払った管理費の課税区分を「課税仕入」としているケースが多いのですが、これは間違いです。
 マンション管理組合は、その居住者である区分所有者を構成員とする組合であり、その組合員との間で行う取引は営業に該当しません。したがって、マンション管理組合に支払う管理費の消費税課税区分は「不課税(課税対象外)」となります。
 区分所有者が支払う管理費が、マンション管理組合を介して、マンションを管理する不動産業者に渡るとしても、現行の消費税法では不課税となります。

個人が受け取る和解金等の課税関係

 交通事故の被害者と加害者との間、あるいは従業員とその勤務先である会社との間などで紛争が生じた場合、裁判上又は裁判外の和解により、和解金、解決金、示談金、損害賠償金、慰謝料等(以下「和解金等」といいます)が支払われることがあります。
 和解金等という言葉のイメージから、これらを受け取った個人には所得税が課されないものと考えがちですが、税務調査では実態に沿った課税がされます。
 個人が和解金等を受け取った場合は、まず非課税となるのか課税されるのかを判断し、次に、課税される場合は所得区分を判断することになります。

1.和解金等が非課税となる場合

 所得税法では、損害賠償金やこれに類するもので、心身に加えられた損害又は突発的な事故により資産に加えられた損害に起因して受け取るものその他政令で定めるものは非課税とされています。
 政令においては、次の(1)~(3)のうち、損害を受けた者の各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補填したものを除いた額は非課税とされています。

(1) 心身に加えられた損害につき支払いを受ける損害賠償金(その損害に起因する給与又は収益の補償を含む)
(2) 不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害につき支払いを受ける損害賠償金(事業所得の収入金額とされるものを除く)
(3) 心身又は資産に加えられた損害につき支払いを受ける相当の見舞金(事業所得その他役務の対価たる性質を有するものを除く)

 和解金等が非課税となるのか課税されるのかを判断するにあたっては、その和解契約書(和解調書)に記載されている文言にかかわらず、実体上の事実に基づいて判断しなければなりません。
 例えば、当事者間において和解契約上は損失を補填するための損害賠償金として金銭を支払うという契約がなされていたとしても、金銭の取得者に客観的な損害が生じていると認められない場合は、その金銭の取得は非課税となりません。損害賠償金が非課税とされるのは、損害賠償金が心身の癒し又は資産に受けた損害を補填するものであって、取得者に利益をもたらすものではないからです。
 したがって、和解の前提となる和解契約書だけではなく、客観的な事実やその支払いがなされるに至った経緯、客観的な損害等が生じているか否か等を総合的に勘案する必要があります。
 課税庁サイドにおいても、和解契約書だけではなく、その過程である訴状の内容、答弁書の内容、準備書面の内容などの裁判資料を基に、和解金等の発生源泉に沿った事実認定を行い、実態に沿った課税がなされます。

2.和解金等が課税される場合

 和解金等が課税される場合は、所得区分についても判断しなければなりません。
 例えば、労使間に不当解雇の問題で紛争があり、これを和解によって解決し和解金等を支払う場合は、その和解金等の算出根拠等が所得区分の判断の指針となります。和解金等の算出根拠が、未払い賃金や未払い残業代であれば給与所得になり、解雇予告手当であれば退職所得になります。また、セクハラ等による精神的苦痛に対する慰謝料であれば、非課税となります。
 しかし、実務上は和解金等の算定根拠が明確でなく、和解契約書の内容もあいまいな表現が使われているケースが多いといえます。
 そのため、和解金等が営利を目的とした継続行為から生じたものではなく、労務その他役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しない一種の紛争解決金であると考えれば一時所得となりますが、その和解金等について何らかの対価性があり、他の所得に分類できないと考えれば雑所得となります。
 参考までに、隣接地のマンション建設工事に伴い収受した補償料名義の金員は一時所得に当たるとした以下の裁決事例を挙げておきます(昭和58年4月22日裁決、裁決事例集 No.26 – 51頁)。

 請求人の所有に係る本件土地は、都市計画法の規定による近隣商業地域内にあり建築基準法等の規定による中高層建築物の高さについての制限も受けていないことから、本件建物の建築により具体的な土地の利用価値が低下したとする因果関係の存在は、明確でなく、仮に若干の土地の利用価値の低下があったとしても社会通念上、この程度のものは受忍すべき範囲内であると考えられ、また、建築業者と請求人との間に当該金員の授受の合意が行われるに際して日照阻害に基因する具体的な損害の予測やその額の見積りを行っていない事実から、隣接地のマンション建築工事に伴い授受した補償料の金員は本件建物の建設に反対を受けた建築業者が請求人の同意を受けるために支払った一種の紛争解決金とみるのが相当であり所得税法第34条に規定する一時所得に該当する。