賃上げ促進税制における1月未満の端数の取扱い

 賃上げ促進税制は、青色申告書を提出している中小企業者等が、前年度より給与等の支給額を一定の要件を満たした上で増加させた場合、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度です(関連記事:「中小企業者等の賃上げ促進税制《令和4年4月1日~令和6年3月31日開始事業年度》」)。

 従来の所得拡大促進税制よりも適用要件が簡素化されたとはいえ、判断に迷うケースもあります。
 例えば、決算期の変更や前事業年度が設立初年度である場合など、前事業年度と適用事業年度で月数が異なるケースです。

 今回は、前事業年度の月数と適用事業年度の月数が異なる場合の調整計算について確認します。

1.前事業年度の月数と適用事業年度の月数が異なる場合

 前述したように、決算期の変更や前事業年度が設立初年度である場合など、前事業年度と適用事業年度で月数が異なる場合は、「雇用者給与等支給額・比較雇用者給与等支給額」や「教育訓練費の額・比較教育訓練費の額」について調整の必要があります。

 この調整は、比較雇用者給与等支給額や比較教育訓練費の額において行います。具体的な計算方法は以下のとおりです(比較雇用者給与等支給額の調整のみ確認します)。

(1) 前事業年度の月数が適用事業年度の月数に満たない場合(前事業年度が6月以上の場合)

 次のとおり、前事業年度の雇用者給与等支給額を、適用事業年度の月数分に合わせて増加させる形で調整します。

比較雇用者給与等支給額= 前事業年度の雇用者給与等支給額×適用事業年度の月数÷前事業年度の月数

 例えば、前事業年度 が令和4年10月~令和5年3月(6か月決算)で、適用事業年度が令和5年4月~令和6年3月(12か月決算)の場合は、比較雇用者給与等支給額=前事業年度の雇用者給与等支給額×12÷6となります。 

(2) 前事業年度の月数が適用事業年度の月数に満たない場合(前事業年度が6月に満たない場合)

 次のとおり、適用事業年度の開始の日の前日から過去1年(適用事業年度が1年に満たない場合には適用事業年度の期間)以内に終了した各事業年度に係る雇用者給与等支給額の合計額を、適用事業年度の月数分に合わせて減少させる形で調整します。

比較雇用者給与等支給額= 適用事業年度の開始の日の前日から過去1年(適用事業年度が1年に満たない場合には適用事業年度の期間)以内に終了した各事業年度に係る雇用者給与等支給額の合計額×適用事業年度の月数÷適用事業年度の開始の日の前日から過去1年(適用事業年度が1年に満たない場合には適用事業年度の期間)以内に終了した各事業年度の月数の合計

 例えば、前々事業年度が令和4年1月~令和4年12月(12か月決算)で、前事業年度が令和5年1月~令和5年3月(3か月決算)、 適用事業年度が令和5年4月~令和6年3月(12か月決算)の場合は、比較雇用者給与等支給額=(前々事業年度+前事業年度の雇用者給与等支給額)×12÷(12+3)となります。

(3) 前事業年度の月数が適用事業年度の月数を超える場合

 次のとおり、前事業年度の雇用者給与等支給額を、適用事業年度の月数分に合わせて減少させる形で調整します。

比較雇用者給与等支給額= 前事業年度の雇用者給与等支給額 ×適用事業年度の月数÷前事業年度の月数

 例えば、前事業年度が令和4年4月~令和5年3月(12か月決算)で、適用事業年度が令和5年4月~令和5年9月(6か月決算)の場合は、比較雇用者給与等支給額=前事業年度の雇用者給与等支給額×6÷12となります。 

2.事業年度に1月未満の端数が生じる場合

 前事業年度と適用事業年度で月数が異なる場合の比較雇用者給与等支給額の調整計算は、上記1のとおりですが、いずれのケースも事業年度に1月未満の端数が生じていないことを前提としています。

 事業年度が令和5年10月1日~令和6年3月31日のような場合は、事業年度の月数を6か月とすることに疑問の余地はありません。
 では、事業年度が令和5年10月11日~令和6年3月31日のような場合は、事業年度の月数は5か月となるのでしょうか?それとも6か月となるのでしょうか?

 結論を先に述べると、答えは6か月となります。

 事業年度が令和5年10月11日~令和6年3月31日の場合の期間は5か月と21日ですが、10月に生じたこの21日という1月未満の端数については、賃上げ促進税制では1月とカウントします。

 根拠は、次の租税特別措置法施行令第27条の12の5(給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)第22項にあります。

22 第7項、第9項、第12項から第15項まで及び第18項から前項までの月数は、暦に従つて計算し、1月に満たない端数を生じたときは、これを1月とする。

 上記のとおり、賃上げ促進税制においては、1月未満の端数が生じたときは、これを1月とします。

2以上の事業を兼営している場合の貸倒引当金の法定繰入率

 貸倒引当金の繰入限度額は、個別評価金銭債権と一括評価金銭債権とに区分して計算します。

 このうち、一括評価金銭債権については、原則として「貸倒実績率」を用いて貸倒引当金の繰入限度額を計算しますが、中小法人等は貸倒実績率に代えて「法定繰入率」を用いて計算することもできます。

 この法定繰入率は、1つの法人に対して1つの繰入率が適用されますので、1つの法人が2以上の事業を兼営している場合に、どの法定繰入率を適用するかが問題となります。
 以下では、2以上の事業を兼営している場合の貸倒引当金の法定繰入率について確認します。

1.法定繰入率

 法定繰入率は、下表のように事業区分によって決められています。

事業区分 法定繰入率
卸売及び小売業(飲食店業及び料理店業を含み、割賦販売小売業を除く) 10/1000
製造業(電気業等を含む) 8/1000
金融及び保険業 3/1000
割賦販売小売業等 13/1000
上記事業以外の事業 6/1000

 法人の営む事業が、上表におけるどの事業に該当するかは、日本標準産業分類(総務省)の分類を基準として判定します。

2.主たる事業の判定基準

 法人が2以上の事業を兼営している場合に、どの事業に該当するか(どの法定繰入率を適用するか)については、措置法通達57の9-4に次のように定められています(下線は筆者による)。

57の9-4 法人が措置法令第33条の7第4項に掲げる事業の2以上を兼営している場合における貸倒引当金勘定への繰入限度額は、主たる事業について定められている割合により計算し、それぞれの事業ごとに区分して計算するのではないことに留意する。この場合において、いずれの事業が主たる事業であるかは、それぞれの事業に属する収入金額又は所得金額の状況、使用人の数等事業の規模を表す事実、経常的な金銭債権の多寡等を総合的に勘案して判定する。

 つまり、2以上の事業を兼営している場合は主たる事業の法定繰入率を用いて計算し、どの事業が主たる事業であるかについては、以下の(1)~(3)の項目等を総合的に勘案して判定することになります。

(1) 各事業に属する収入金額又は所得金額の状況
(2) 使用人の数等事業の規模を表す事実
(3) 経常的な金銭債権の多寡

 なお、自己の計算において原材料等を購入し、これをあらかじめ指示した条件に従って下請加工させて完成品として販売するいわゆる製造問屋の事業(製造と販売を兼営)は、措置法通達57の9-5において製造業に該当するとされています。

 また、措置法通達57の9-4(注)において、法人が2以上の事業を兼営している場合に、当該2以上の事業のうち一の事業を主たる事業として判定したときは、その判定の基礎となった事実に著しい変動がない限り、継続して当該一の事業を主たる事業とすることができるとされています。

交際費等から除かれる「1人当たり10,000円以下の飲食費」について

 2024(令和6)年度税制改正で、交際費等の範囲から除かれる一定の飲食費に係る金額基準が「1人当たり10,000円以下(改正前:5,000円以下)」に引き上げられました。
 以下では、この1人当たり10,000円以下の飲食費について確認します。

1.交際費等とは?

 交際費等とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者などに対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為(以下「接待等」といいます)のために支出するものをいいます。

 これらの交際費等は、会計上はその事業年度の費用として処理されますが、法人税の所得計算上は一定限度額までしか損金に算入されません。

 2024(令和6)年4月1日以後開始事業年度の交際費等の損金算入額は、下表のとおりです(表中における「接待飲食費」とは、飲食その他これに類する行為のために要する費用で、専らその法人の役員もしくは従業員またはこれらの親族に対する接待等のために支出するもの(社内飲食費)を除きます)。

企業規模 損金算入額
期末の資本金又は出資金の額が1億円以下の法人
※ 資本金又は出資金の額が5億円以上の会社の100%子会社等は、1億円超の法人と同じ取扱いとなります。
次のいずれかを選択できます。
(A)交際費等のうち、接待飲食費50%相当額以下の金額
(B)交際費等の金額の年800万円(定額控除限度額)以下の金額
期末の資本金又は出資金の額が1億円超の法人 交際費等のうち、接待飲食費50%相当額以下の金額
期末の資本金又は出資金の額が100億円超の法人 なし

2.交際費等の範囲から除かれるもの

 上記1のように、交際費等の損金算入には一定の制限がかかりますが、次に掲げる費用は交際費等から除かれます。つまり、損金算入の制限はありません。

(1) 専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用
(2) カレンダー、手帳、扇子、うちわ、手ぬぐいその他これらに類する物品を贈与するために通常要する費用
(3) 会議に関連して、茶菓、弁当その他これらに類する飲食物を供与するために通常要する費用
(4) 新聞、雑誌等の出版物または放送番組を編集するために行われる座談会その他記事の収集のために、または放送のための取材に通常要する費用
(5) 1人当たり10,000円以下の飲食費

 上記(5)の金額基準が、2024(令和6)年度税制改正において、1人当たり5,000円以下から10,000円以下に引き上げられました。

3.1人当たり10,000円以下の飲食費とは?

 1人当たり10,000円以下の飲食費とは、飲食その他これに類する行為のために要する費用で、その支出する金額を飲食等に参加した者の数で割って計算した金額が10,000円以下である費用をいいます。

 ただし、専らその法人の役員もしくは従業員またはこれらの親族に対する接待等のために支出するもの(社内飲食費)を除きます。

 また、この規定は次の事項を記載した書類を保存している場合に限り適用されます。

(1) 飲食等のあった年月日
(2) 飲食等に参加した得意先、仕入先その他事業に関係のある者等の氏名または名称およびその関係
(3) 飲食等に参加した者の数
(4) その飲食等に要した費用の額、飲食店等の名称および所在地(店舗がない等の理由で名称または所在地が明らかでないときは、領収書等に記載された支払先の氏名または名称、住所等)
(5) その他参考となるべき事項(その他飲食等に要した費用であることを明らかにするために必要な事項)

 なお、1人当たり10,000円以下の飲食費の判定や交際費等の額の計算は、法人の適用している消費税等の経理処理(税抜経理方式または税込経理方式)により算定した価額により行います。

4.飲食費に該当するもの・しないもの

 上記3の飲食費については、租税特別措置法に「飲食その他これに類する行為のために要する費用(社内飲食費を除きます。)」と規定されています。
 したがって、次のような費用については、社内飲食費に該当するものを除き、飲食費に該当します。

(1) 自己の従業員等が得意先等を接待して飲食するための「飲食代」
(2) 飲食等のために支払うテーブルチャージ料やサービス料等
(3) 飲食等のために支払う会場費
(4) 得意先等の業務の遂行や行事の開催に際して、弁当の差入れを行うための「弁当代」(得意先等において差入れ後相応の時間内に飲食されるようなもの)
(5) 飲食店等での飲食後、その飲食店等で提供されている飲食物の持ち帰りに要する「お土産代」

 一方、次の費用は飲食費に該当しません。

(1) ゴルフや観劇、旅行等の催事に際しての飲食等に要する費用
(2) 接待等を行う飲食店等へ得意先等を送迎するために支出する送迎費
(3) 飲食物の詰め合わせを贈答するために要する費用

※ 飲食等が催事とは別に単独で行われていると認められる場合、例えば、企画した旅行の行程の全てが終了して解散した後に一部の取引先の者を誘って飲食等を行った場合などは、飲食費に該当します。

5.保存書類への参加者の氏名等の具体的な記載方法

 上記3(2)で見たように、1人当たり10,000円以下の飲食費の規定の適用要件として、「飲食費に係る飲食等に参加した得意先、仕入先その他事業に関係のある者等の氏名又は名称及びその関係」を記載した書類を保存しなければなりません。

 これは、社内飲食費でないことを明らかにするためのものであり、飲食等を行った相手方である社外の得意先等に関する事項を「○○会社・□□部、△△◇◇(氏名)、卸売先」というように、原則として、相手方の氏名や名称の全てを記載する必要があります。

 ただし、相手方の氏名について、その一部が不明の場合や多数参加したような場合には、その参加者が真正である限りにおいて、「○○会社・□□部、△△◇◇(氏名)部長他10名、卸売先」という記載であっても差し支えないものとされています(氏名の一部又は全部が相当の理由があることにより明らかでないときには、記載を省略しても差し支えありません)。

 また、その保存書類の様式は法定されているものではありませんので、記載事項を欠くものでなければ、適宜の様式で作成して差し支えありません。

 なお、一の飲食等の行為を分割して記載すること、相手方を偽って記載すること、参加者の人数を水増しして記載すること等は、事実の隠ぺい又は仮装に当たりますのでご注意ください。

資本的支出に少額減価償却資産の損金算入の特例は適用できるか?

 2007(平成19)年4月1日以後に行った資本的支出は、原則として、その資本的支出の金額を取得価額とする減価償却資産を新たに取得したものとされます。
 では、その資本的支出の金額を取得価額として新たに取得したものとされる減価償却資産に、少額減価償却資産の損金算入の特例は適用できるのでしょうか?
 以下では、この点について確認します。

※ 少額減価償却資産の損金算入の特例については、本ブログ記事「30万円未満の少額減価償却資産の損金算入制度と別表16(7)の記載例」をご参照ください。

1.原則として適用不可

 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例(以下「少額資産の特例」といいます)とは、青色申告の中小企業者等が2006(平成18)年4月1日から2026(令和8)年3月31日までの間に取得し、又は製作し、若しくは建設し、かつ、当該中小企業者等の事業の用に供した減価償却資産で、その取得価額が30万円未満のものについては、その取得価額の合計額が300万円に達するまでは損金の額に算入できるという制度です(租税特別措置法第67条の5第1項)。

 2007(平成19)年度税制改正により、2007(平成19)年4月1日以後に行った資本的支出は、原則として、その資本的支出の金額を取得価額とする減価償却資産を新たに「取得」したものとされますが、この場合の「取得」は、少額資産の特例における「取得」又は「製作」若しくは「建設」に該当するのでしょうか?

 2007(平成19)年度税制改正において、資本的支出の金額を取得価額として、減価償却資産本体と種類及び耐用年数を同じくする減価償却資産を新たに取得したものとされたのは、減価償却資産本体に係る取得価額と区分して、資本的支出に係る費用を別の取得価額とすることにより、2007(平成19)年3月31日以前に取得された減価償却資産に対する資本的支出についても新しい償却方法により償却ができることとされるなど、償却限度額の計算上の単なる取得価額の区分に関するものであると考えられます

 したがって、資本的支出の金額を取得価額として新たに取得したものとされる減価償却資産であっても、既存の減価償却資産につき改良、改造等のために行った支出であることから、原則として、少額資産の特例における「取得し、又は製作し、若しくは建設し、かつ、当該中小企業者等の事業の用に供した減価償却資産」には該当しません(租税特別措置法関係通達67の5-3前段)。

※ 資本的支出がその資産全体の使用可能期間の延長又は価額の増加といった効果を与えるものであること及び資産本体と物理的に一体であることは、従前と変わりません。

2.例外的に適用可能

 しかしながら、資本的支出といってもその内容は様々であり、資産本体に単に付随して機能するようなものばかりでなく、その資本的支出自体が一個の資産として機能し、資産本体とは別個の資産として管理・償却を行うとしても問題のないものも見受けられ、既存の取扱いの中にも、そのようなものが存在します。

 例えば、その資本的支出の内容が規模の拡張である場合や単独資産としての機能の付加である場合など、実質的に新たな資産を取得したと認められる場合には、例外的に少額資産の特例を適用することができるとされています(租税特別措置法関係通達67の5-3後段)

 なお、「規模の拡張である場合や単独資産としての機能の付加である場合など」としては、例えば、ソフトウエアのバージョンアップを行った場合であって、既存の機能の強化・拡充にとどまらず、それ自体機能的独立性が高い新機能を追加した場合などが考えられます。

※ 個人に関しては、このような通達は発遣されていませんが、租税特別措置法の規定振りが法人と同様であることから、同じ結論になるものと考えられます。

令和6年10月1日から変わる税金・社会保険その他の主な制度

 2024(令和6)年10月1日から、税金や社会保険などにおいて制度変更が行われるものがあります。
 それらの中には、会社の経営や従業員の働き方などに影響を及ぼすものもありますので、どのような制度変更があるのかを確認しておくことは有意義であると思われます。
 以下では、令和6年10月1日から変更される主な制度について確認します。

1.中小企業倒産防止共済掛金の損金算入制限

 中小企業倒産防止共済制度(経営セーフティ共済)は、取引先事業者が倒産した際に無担保・無保証人で掛金の最大10倍(上限額8,000万円)の金額を借りることができ、中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度です。

 取引先の突然の倒産などの「もしも」のときに備えるというのが本来の目的ですが、掛金全額(1年間で最大240万円)を損金または必要経費に算入できることから、節税対策としても活用されています。

 一方、掛金の積立額は上限800万円とされており、上限に達した後は任意のタイミングで解約して解約手当金を受け取ることになりますが、この解約手当金は収益(益金または収入金額)となります。

 黒字のタイミングで解約すれば解約手当金がすべて課税対象となってしまい、せっかくの損金算入が単なる課税の繰り延べになってしまいますので、節税効果を活かすためには解約するタイミングは重要です。

 一般的には、赤字のタイミングで解約したり、役員退職金や大規模修繕などの大型の経費を計上するタイミングで解約して、解約手当金と相殺する方法があります。

 さらに、解約した後にすぐに再加入して、掛金(前納すれば最大240万円)と解約手当金を相殺するという方法が用いられることがありましたが、この部分が中小企業庁に不適切であると指摘され、見直しが行われました。

 その結果、2024(令和6)年10月1日以後に解約した中小企業倒産防止共済については、解約の日から2年を経過する日までの間に支出する掛金は損金算入することができないとされました。
 これにより、解約後すぐに再加入して節税するというスキームが封じられることになります。

 もし、再加入による掛金の損金算入を検討している場合は、令和6年9月30日までに現契約を一度解約した上で再加入する必要があります。

※ 損金算入制限については、「中小企業倒産防止共済の再加入後の損金算入制限に注意」をご参照下さい。

2.免税事業者等からの仕入れに係る経過措置の適用の制限

 インボイス制度の下では、免税事業者等(消費者、免税事業者又は登録を受けていない課税事業者)からの課税仕入れについては、仕入税額控除のために保存が必要なインボイスの交付を受けることができないことから、仕入税額控除を行うことができません。

 ただし、インボイス制度開始から一定期間(6年間)は、免税事業者等からの課税仕入れであっても、仕入税額相当額の一定割合(80%・50%)を仕入税額とみなして控除できる経過措置が設けられています。

期間 割合
令和5年10月1日から令和8年9月30日まで 仕入税額相当額の80%
令和8年10月1日から令和11年9月30日まで 仕入税額相当額の50%

 上記経過措置が2024(令和6)年度税制改正により見直しが行われ、一の免税事業者等から行う当該経過措置の対象となる課税仕入れの額の合計額がその年又はその事業年度で税込み10億円を超える場合には、その超えた部分の課税仕入れについて、本経過措置は適用できないこととされました。
 この改正は、2024(令和6)年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。

※ 経過措置については、「インボイス制度導入後の免税事業者からの仕入れに係る仕入税額控除の特例(経過措置)」をご参照下さい。

3.パート・アルバイトの社会保険加入義務の拡大

 パートやアルバイトで働く方の社会保険(健康保険及び厚生年金保険)加入義務の判定基準が、2024(令和6)年10月1日から変わります。

 パートやアルバイトで働く短時間労働者の方でも、一定の要件を満たす場合は社会保険に加入しなければなりません。
 一定の要件とは次の4要件をいい、これらの要件をすべて満たす場合は社会保険の加入義務が生じます。

(1) 週の所定労働時間が20時間以上であること
(2) 所定内賃金が月額8.8万円以上であること
(3) 2か月を超える雇用の見込みがあること
(4) 学生でないこと

 現在、厚生年金保険の被保険者数が101人以上の企業等で働く上記4要件を満たす短時間労働者は、社会保険の加入対象となっています。
 この短時間労働者の加入要件がさらに拡大され、令和6年10月1日から厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業等で働く短時間労働者の社会保険加入が義務化されます。

 今回の加入要件の拡大に伴い、該当するパート・アルバイトの方やその家族の生活、働き方の選択などに大きな影響を及ぼす可能性がありますので、事前に制度変更の周知を図る必要があります。

※ 加入要件の詳細については、「従業員51人以上の会社で働くパート・アルバイトの社会保険加入義務(令和6年10月1日~)」をご参照ください。

4.代表取締役等住所非表示措置

 現行の会社法においては、株式会社の代表取締役など会社の代表者は氏名と住所を登記する必要があり、登記後はその氏名と住所が登記簿上で公開されます。

 この登記簿上の代表者の住所について、2024(令和6)年10月1日から登記申請時に代表者の住所を非公開にすることができるという制度(代表取締役等住所非表示措置)が始まります。

 この措置により、登記事項証明書等で公開が必要だった代表者の氏名と住所のうち、住所を非公開にすることができるようになります。
 ただし、非公開にできるのは住所の一部であり、最小行政区画までは公開されます。つまり、市区町村(東京都においては特別区、指定都市においては区)までは公開されます。

 なお、代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合には、登記事項証明書等によって会社代表者の住所を証明することができないこととなるため、金融機関から融資を受けるに当たって不都合が生じたり、不動産取引等に当たって必要な書類(会社の印鑑証明書等)が増えたりするなど、一定の支障が生じることが想定されます。

 そのため、代表取締役等住所非表示措置の申出をする前に、このような影響があり得ることについて、慎重かつ十分な検討が必要です。

※ 制度の詳細については、「令和6年10月1日から登記申請時に社長の住所を非公開にできます」をご参照ください。

5.給与所得者の保険料控除申告書

 2024(令和6)年10月1日以後に提出する「給与所得者の保険料控除申告書」について、以下の「申告者との続柄」の記載を要しないこととされました。

(1) 社会保険料について、社会保険料のうちに自己と生計を一にする配偶者その他の親族が負担すべきものがある場合におけるこれらの者の申告者との続柄
(2) 新生命保険料及び旧生命保険料について、保険金、年金、共済金、確定給付企業年金、退職年金又は退職一時金の受取人の申告者との続柄
(3) 介護医療保険料について、保険金、年金又は共済金の受取人の申告者との続柄
(4) 新個人年金保険料及び旧個人年金保険料について、年金の受取人の申告者との続柄

6.地域別最低賃金の引き上げ

 最低賃金は、パート、アルバイト、正社員、臨時、嘱託など雇用形態や呼称の如何を問わず、すべての労働者に適用されます。

 近年は最低賃金引き上げの流れが続いており、2024(令和6)年度の全国加重平均は時給1,055円と過去最高となっており、引き上げ幅51円も過去最高となっています。
 令和6年度の地域別最低賃金を見ると、最高額は東京都の1,163円、最低額は秋田県の951円となっています。

 令和6年度地域別最低賃金は、令和6年10月1日から同年11月1日にかけて順次引き上げられる予定です。

※ 詳細については、「令和6年度地域別最低賃金が10月1日から順次引き上げられます」をご参照ください。

7.郵便料金の値上げ

 2024(令和6)年10月1日から郵便料金が値上げされます。主な郵便料金の変更内容は次のとおりです。

出所:日本郵便ホームページ

新紙幣発行に伴うシステム改修費の税務上の取扱い

 20年ぶりに肖像画のモデルが変更された新紙幣の発行が、本日(2024(令和6)年7月3日)から始まります。
 新紙幣は肖像画のモデル変更だけではなく、新技術による透かしや3Dホログラム等が導入されていますので、これまで使用していたレジシステムや自動券売機、自動販売機などは新紙幣への対応が必要になります。
 この新紙幣へ対応するためには、レジシステムなどのプログラム修正や部品の入替えなどをしなければなりませんが、1台当たり100万円以上かかるケースもあるため、その対応に苦慮している中小事業者もいます。
 今回は、このような新紙幣発行に伴うシステム改修費の税務上の取扱いについて確認します。

1.インボイス導入が類似事例として参考になる

 新紙幣発行に伴うシステム改修費の税務上の取扱い、すなわち、その改修費を資本的支出として資産計上しなければならないのか、修繕費として費用処理が可能なのかについては、国税庁が公表している法令解釈に関する情報(軽減税率導入の際の「消費税の軽減税率制度の実施に伴うシステム修正費用の取扱いについて」やインボイス導入の際の「消費税のインボイス制度の実施に伴うシステム修正費用の取扱いについて」)が類似事例として参考になります。

 これら法令解釈に関する情報に照らし合わせると、新紙幣発行に伴うプログラムの修正は「システムに従来備わっていた機能の効用を維持するために必要な修正を行うものである」ことから、「新たな機能の追加、機能の向上等に該当せず、これらの修正に要する費用は修繕費として取り扱われる」こととなります。

 ただし、プログラムの修正の中に、新たな機能の追加、機能の向上等に該当する部分が含まれている場合には、この部分に関しては資本的支出として取り扱うこととなります。

 なお、資本的支出であっても、修正に要した費用の額が20万円に満たない場合や、当該費用の額のうちに資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでない金額がある場合に、その金額が次のいずれかに該当するときは、修繕費として取り扱って差し支えありません。

① その金額が60万円に満たない場合
② その金額が、修正に係るソフトウエアの前期末における取得価額のおおむね10%相当額以下である場合

出所:国税庁ホームページ

2.新紙幣対応で利用できる補助金

 新紙幣への対応に苦慮している中小事業者は、手続きが煩雑なものもありますが、補助金を活用するのも一考です。
 例えば、中小企業の省力化を支援する「中小企業省力化投資補助金」は、パネル式券売機を導入すると最大1,500万円の補助を受けることができます。
 また、「IT導入補助金(インボイス枠)」は、インボイス制度に対応した会計ソフトの導入にあわせて券売機等を取得することで最大20万円の補助を受けることができます。
 さらに、自治体独自で支援策を講ずるところもありますので、一度問い合わせてみてはいかがでしょうか。

令和6年10月1日から登記申請時に社長の住所を非公開にできます

 商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号)によって、2024(令和6)年10月1日から代表取締役等住所非表示措置が施行されます。
 以下では、代表取締役等住所非表示措置について確認します。

1.制度の概要

 現行の会社法においては、株式会社の代表取締役など会社の代表者は氏名と住所を登記する必要があり、登記後はその氏名と住所が登記簿上で公開されます。
 また、その住所に変更があった場合は、2週間以内に変更登記をしなければならないとされています。

 代表取締役等住所非表示措置とは、一定の要件の下、株式会社の代表取締役、代表執行役又は代表清算人(以下「代表取締役等」といいます)の住所の一部を登記事項証明書や登記事項要約書、登記情報提供サービス(以下「登記事項証明書等」といいます)に表示しないこととする措置です。

 この措置により、登記事項証明書等で公開が必要だった代表取締役等の氏名と住所のうち、住所の一部を非公開にすることができるようになります。

※ 最小行政区画までは公開されます。つまり、市区町村(東京都においては特別区、指定都市においては区)までは公開されます。

2.一定の要件(手続き)

 代表取締役等住所非表示措置を講ずることを希望する場合は、以下の要件を満たす必要があります。

(1) 登記申請と同時に申し出ること

 代表取締役等住所非表示措置を講ずることを希望する者は、登記官に対してその旨を申し出る必要があります。
 また、代表取締役等住所非表示措置の申出は、設立の登記や代表取締役等の就任の登記、代表取締役等の住所移転による変更の登記など、代表取締役等の住所が登記されることとなる登記の申請と同時にする場合に限りすることができます。
 したがって、住所の非表示だけを求めての申出はできません

※ 既に退任をした代表取締役等の住所や閉鎖事項証明書等に記載された住所など、過去の住所についての非表示の申出はできません。

(2) 所定の書面を添付すること

 代表取締役等住所非表示措置の申出に当たっては、以下の区分に応じた書面の添付が必要となります。

① 上場会社である株式会社の場合
 株式会社の株式が上場されていることを認めるに足りる書面(既に代表取締役等住所非表示措置が講じられている場合は不要です)

② 上場会社以外の株式会社の場合
 以下のイからハまでの書面
イ.株式会社が受取人として記載された書面がその本店の所在場所に宛てて配達証明郵便により送付されたことを証する書面等
ロ.代表取締役等の氏名及び住所が記載されている市町村長等による証明書(例:住民票の写しなど)
ハ.株式会社の実質的支配者の本人特定事項を証する書面(例:資格者代理人の法令に基づく確認の結果を記載した書面など)

※ 既に代表取締役等住所非表示措置が講じられている場合は、ロのみの添付で足ります。
 また、株式会社が一定期間内に実質的支配者リストの保管の申出をしている場合は、ハの添付は不要です。

3.留意事項

 代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合には、登記事項証明書等によって会社代表者の住所を証明することができないこととなるため、金融機関から融資を受けるに当たって不都合が生じたり、不動産取引等に当たって必要な書類(会社の印鑑証明書等)が増えたりするなど、一定の支障が生じることが想定されます。
 そのため、代表取締役等住所非表示措置の申出をする前に、このような影響があり得ることについて、慎重かつ十分な検討が必要です。

 また、代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合であっても、会社法に規定する登記義務が免除されるわけではないため、代表取締役等の住所に変更が生じた場合には、その旨の登記の申請をする必要があります。

 なお、代表取締役等住所非表示措置が講じられた株式会社から当該措置を希望しない旨の申出があった場合や、当該株式会社が本店所在場所に実在しないことが認められた場合などは、登記官が職権で当該措置を終了させることとなります。
 
※ 代表取締役等住所非表示措置を希望しない旨の申出は、登記申請と同時である必要はなく、単独で行うことができます。

青色申告を取り消されても過去の繰越欠損金は控除できる!

 法人も個人も青色申告にはいろんな特典がありますので、通常は法人設立時又は個人事業開業時に青色申告の承認申請書を税務署に提出するものと思われます。

 この青色申告については、無申告や期限後申告の場合は取り消されるというのが一般的な認識のようですが、個人事業主の場合は無申告や期限後申告の場合でも青色申告は取り消されません(詳細については、本ブログ記事「無申告でも所得税の青色申告は取り消されない」をご参照ください)。

 一方、法人については、2期連続で無申告や期限後申告となると青色申告が取り消されます。
 この場合に気になるのが、青色申告が取り消されて白色申告となった場合に、青色申告時代の繰越欠損金が控除できるのか否かということです。

 以下では、この点について確認します。

1.法人は2期連続期限後申告・無申告で青色申告取り消し

 法人の青色申告の承認の取り消しについては、次の法人税法第127条第1項に定められています。

第121条第1項(青色申告)の承認を受けた内国法人につき次の各号のいずれかに該当する事実がある場合には、納税地の所轄税務署長は、当該各号に定める事業年度まで遡つて、その承認を取り消すことができる。この場合において、その取消しがあつたときは、当該事業年度開始の日以後その内国法人が提出したその承認に係る青色申告書(納付すべき義務が同日前に成立した法人税に係るものを除く。)は、青色申告書以外の申告書とみなす。

第1号 その事業年度に係る帳簿書類の備付け、記録又は保存が前条第1項に規定する財務省令で定めるところに従つて行われていないこと

第2号 その事業年度に係る帳簿書類について前条第2項の規定による税務署長の指示に従わなかつたこと

第3号 その事業年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠蔽し又は仮装して記載し又は記録し、その他その記載又は記録をした事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があること

第4号 第74条第1項(確定申告)の規定による申告書をその提出期限までに提出しなかつたこと


 また、上記法人税法第127条第1項第4号の規定による取り消しは、国税庁ホームページの事務運営指針によると、「2事業年度連続して期限内に申告書の提出がない場合に行うものとする。この場合、当該2事業年度目の事業年度以後の事業年度について、その承認を取り消す。」とされています。

 つまり、法人については、2期連続して期限後申告(無申告を含む)をすると、2期目から青色申告が取り消されます

2.青色取消後の3期間は白色申告となる

 上記1のように、法人は2期連続で期限後申告又は無申告となると青色申告が取り消されますが、注意しなければならないのは2期目から青色申告が取り消されるということです。

 例えば、設立3期目の法人が前期(第2期)に期限後申告をし、当期(第3期)も期限後申告となった場合は、前期(第2期)までは青色申告が適用されますが、当期(第3期)から青色申告が取り消されます。次期(第4期)から取り消されるのではない点に注意が必要です。


 さらに注意点として、期限後申告となる当期(第3期)から青色申告が取り消されることがわかっていても、一旦は青色申告書を提出するということです。
 青色申告書を提出した後に、税務署から「青色申告承認申請の取り消し通知」(以下「取消通知」といいます)が届いて、当期(第3期)から白色申告という扱いになります。
 この場合、当期(第3期)に新たに欠損金が生じていたり、課税所得に影響があるような会計処理(30万円未満の少額減価償却資産の特例の適用など)をしているときは、白色申告で修正申告を行います

 なお、税務署から「取消通知」が届いた後で期限後申告をする場合は、はじめから白色申告書を提出します。

 また、青色申告を取り消された場合でも、青色申告の承認申請書を再提出すれば青色申告に戻すことができます。

 取消通知が届くのは、第3期の期限後申告を行った第4期です。この取消通知が届いてから1年経過後の第5期に、青色申告の承認申請書を提出することができるようになります。
 ただし、青色申告の承認申請書は、適用を受けたい事業年度開始の日の前日までに提出しなければなりませんので、第5期に提出したとしても青色申告に戻れるのは第6期からとなります。
 青色申告が取り消されると、少なくとも3期間は白色申告となります。

3.青色申告時代の繰越欠損金は白色申告になっても控除可能

 期限後申告(無申告を含む)2期目から青色申告が取り消されますが、この場合、過去の繰越欠損金はどうなるのでしょうか?
 
 例えば、欠損金の状況が次のような設立3期目の法人を例にします。

 
 前々期(第1期)に200万円、前期(第2期)に100万円の欠損金が生じていますが、期限後申告となった前期(第2期)の100万円の欠損金は、青色申告が適用されるため、当期(第3期)以降に繰り越すことができます。
 しかし、期限後申告2期目の当期(第3期)に生じた欠損金50万円は、青色申告が取り消されて白色申告となるため、次期(第4期)以降へ繰り越すことができません。
 また、第5期に生じた欠損金50万円も、同じ理由から、次期(第6期)以降に繰り越すことはできません。

 一方、第4期に利益が100万円発生していますが、この利益100万円と第1期に生じた200万円の欠損金のうち100万円を繰越控除(相殺)することができます。
 その結果、第4期終了時点における繰越欠損金は、合計200万円(第1期分100万円、第2期分100万円)となります。
 青色申告が取り消されて白色申告となった場合でも、青色申告時代に生じた繰越欠損金は控除することができます。

 なお、上記の例では期限後申告2期目となる当期(第3期)に50万円の欠損金が生じていますが、第3期に50万円の利益が発生した場合は、この利益50万円と第1期の繰越欠損金200万円のうち50万円を繰越控除(相殺)することができます。
 その結果、第3期終了時点における繰越欠損金は、合計250万円(第1期分150万円、第2期分100万円)となります。

法人設立届出書の書き方と記載例

 法人を設立した場合には、納税地を所轄する役所(税務署、都道府県税事務所、市町村役場)に対して、法人の設立に伴う様々な届出書や申請書を提出しなければなりません。
 以下では、それらのうち税務署に提出しなければならない法人設立届出書の書き方について確認します。

1.税務署へ提出する書類

 法人(消費税の免税事業者であることを前提とします)を設立した場合に、税務署に提出する書類は以下のとおりです((3)~(8)は必要に応じて提出します)。

(1) 法人設立届出書
(2) 源泉所得税関係の届出書
(3) 青色申告の承認申請書
(4) 棚卸資産の評価方法の届出書
(5) 減価償却資産の償却方法の届出書
(6) 有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出方法の届出書
(7) 申告期限の延長の特例の申請書
(8) 事前確定届出給与に関する届出書

 上記書類の内容や提出期限については、本ブログ記事「会社設立時に提出する税務上の書類」をご参照ください。

2.法人設立届出書の書き方と記載例

 内国法人(国内に本店または主たる事務所を有する法人)である普通法人または協同組合等を設立した場合は、設立の日(設立登記の日)以後2か月以内に「法人設立届出書」を納税地の所轄税務署長に1部(調査課所管法人は2部)提出しなければなりません。
 この法人設立届出書には、「定款、寄附行為、規則または規約等の写し」を1部(調査課所管法人は2部)添付します。

 以下の法人設立届出書の記載例を見ながら、その書き方について確認します。

① 法人設立届出書を提出した日と所轄税務署を記入します。

② 整理番号はまだ付番されていませんので、記入不要です(※印のある欄は記入不要です)。

③ 本店又は主たる事務所の所在地を登記(履歴事項全部証明書の「本店」欄)のとおりに記入します。電話番号は固定電話がなければ携帯電話を記入し、郵便番号も忘れずに記入します。

④ 納税地に関する特別の届出をしていない場合は、③の本店又は主たる事務所の所在地と同じです。

⑤ 法人名を登記(履歴事項全部証明書の「商号」欄)のとおり記入します。フリガナも忘れずに記入します。

⑥ 13桁の法人番号を記入します。提出日時点において法人番号の指定を受けていない場合は、記入しなくてもかまいません。

⑦ 代表者の氏名を登記(履歴事項全部証明書の「役員に関する事項」(合同会社の場合は「社員に関する事項」)欄)のとおり記入します。フリガナも忘れずに記入します。

⑧ 代表者の住所を登記(履歴事項全部証明書の「役員に関する事項」(合同会社の場合は「社員に関する事項」)欄)のとおり記入します。電話番号は固定電話がなければ携帯電話を記入し、郵便番号も忘れずに記入します。

⑨ 設立年月日は登記(履歴事項全部証明書の「会社成立の年月日」欄)のとおり記入します。

⑩ 定款に記載されている事業年度を記入します。

⑪ 資本金を登記(履歴事項全部証明書の「資本金の額」欄)のとおり記入します。

⑫ ⑪の設立時の資本金の額又は出資金の額が1千万円以上である場合に、⑨の設立年月日を記入します。この欄に設立年月日を記入した場合には、「消費税の新設法人に該当する旨の届出書」を提出する必要はありません。

⑬ 事業の目的の「(定款等に記載しているもの)」は、定款(または履歴事項全部証明書の「目的」欄)に記載されている事業の目的のうち主要なものを記入します。
 事業の目的の「(現に営んでいる又は営む予定のもの)」は、「(定款等に記載しているもの)」と通常は同じですので、同上と記入します。

⑭ 本店以外に支店・出張所・工場等がある場合は、登記の有無に関わらず全ての支店・出張所・営業所・事務所・工場等を記入します。支店・出張所・工場等がない場合は、記入不要です。

⑮ 設立の形態は、該当する形態の番号を○で囲みます。法人成りの場合は1を〇で囲み、個人事業主のときの所轄税務署と整理番号を記入します。現金預金の払込みによる設立の場合は5を〇で囲み、( )内に金銭出資による設立などと記入します。

⑯ ⑮の設立の形態が2から4までである場合に、適格かその他のどちらかを〇で囲みます。

⑰ 法人設立後、事業を開始した年月日または事業を開始する見込みの年月日を記入します。通常は⑨の設立年月日と同じになります。

⑱ 「給与支払事務所等の開設届出書」の提出の有無のいずれかの該当のものを○で囲みます(法人設立届出書と一緒に提出する場合または既に別途に提出している場合は「有」を○で囲みます)。

⑲ 1を〇で囲み、定款、寄附行為、規則または規約等の写しを添付します。

⑳ 関与税理士がいる場合に記入します。いない場合は記入不要です。

㉑ この法人設立届出書を税理士または税理士法人が作成した場合は、その税理士等が署名します。

㉒ 税務署処理欄ですので、記入不要です(※印のある欄は記入不要です)。

中小企業倒産防止共済の再加入後の損金算入制限に注意

 中小企業倒産防止共済制度(経営セーフティ共済)は、取引先事業者が倒産した際に中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度で、独立行政法人中小企業基盤整備機構が実施しています。

 取引先の突然の倒産などの「もしも」のときに備えるというのが本来の目的ですが、一方で掛金全額を損金または必要経費に算入できることから、節税対策として活用されることもあります。

 この中小企業倒産防止共済(以下「倒産防」といいます)について、2024(令和6)年度税制改正で見直しが行われましたので、以下でその内容を確認します。

1.制度の概要

 倒産防は先に述べたように、取引先事業者が倒産した際に中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度です。
 「もしも」のときに資金繰りが悪化しないように、無担保・無保証人で共済金の借入ができます。
 借入額の上限は、回収困難となった売掛金債権等の額と納付された掛金総額の10倍(最高8,000万円)の、いずれか少ない方の金額となります。

 掛金月額は5千円~20万円まで自由に選べ、増額・減額することもできます。また、掛金は損金(法人の場合)または必要経費(個人事業主の場合)に算入できます。

 解約した場合は解約手当金を受け取ることができ、解約手当金は益金(法人の場合)または収入金額(個人事業主の場合)に算入されます。
 自己都合の解約であっても、掛金を12か月以上納めていれば掛金総額の8割以上が戻り、40か月以上納めていれば掛金全額が戻ります(12か月未満は掛け捨てとなります)。

2.節税対策としての利用方法

 倒産防は累計800万円まで掛金を拠出することができ、掛金は全額が損金または必要経費に算入されます。
 一方、解約手当金は最高800万円を受け取ることができ、解約手当金は雑収入として全額が益金または収入金額に算入されます。
 そのため、解約した期には解約手当金に対して法人税または所得税が課税されます。

 解約手当金への課税を最小限にする(または回避する)ために、退職金などで赤字が発生しそうな期に解約して、退職金と雑収入を相殺するという節税はよく行われていました。
 さらに、これに追加して、解約した期に倒産防に再加入して掛金(最高240万円)を前納し損金または必要経費に算入することで、雑収入による利益上昇の影響を緩和するという節税も行われていました。

3.再加入後の損金算入に制限あり

 中小企業庁によると、解約手当金の返戻率(支給率)が100%となる加入後3年目、4年目に解約が多くなる傾向が顕著であり、解約してすぐに再加入する行動変容の発生が加入・脱退の増加の一因としています。

 短期間で繰り返される脱退・再加入は、積立額の変動により「もしも」のときの借入可能額も変動することから連鎖倒産への備えが不安定となるため、本来の制度利用に基づかない不適切な倒産防の利用とされました。

 そのため、2024(令和6)年10月1日以後に解約した倒産防については、解約の日から2年を経過する日までの間に支出する掛金は損金算入することができないとされました。

 つまり、解約の日から2年を経過する日までの間に再加入することは可能ですが、この間の掛金は損金算入できないということです。
 言い換えると、掛金全額を損金算入するためには、解約の日から2年を経過した日以後に再加入しなければならないということです。

 なお、倒産防の掛金を損金算入するための要件等については、本ブログ記事「中小企業倒産防止共済掛金の損金算入要件等」をご参照ください。