新リース会計基準の導入が中小企業に及ぼす会計上と税務上の影響(令和7年度税制改正)

 リース取引は、契約内容によって「ファイナンス・リース取引」と「オペレーティング・リース取引」に分けられ、さらに、ファイナンス・リース取引は、「所有権移転ファイナンス・リース取引」と「所有権移転外ファイナンス・リース取引」に分けられます。

 ファイナンス・リース取引とは、リース期間中に契約を解除できない(ノンキャンセラブル)、かつ、借り手がリース物件の経済的利益を享受しコストを負担する(フルペイアウト)リース取引をいいます。
 
 さらに、ファイナンス・リース取引は、リース期間終了後に資産の所有権が貸し手から借り手に移ると認められる所有権移転ファイナンス・リース取引と、リース期間が終了しても借り手に所有権が移らない所有権移転外ファイナンス・リース取引に分かれます。

 また、オペレーティング・リース取引とは、ファイナンス・リース取引以外のリース取引をいいます。

 これらのリース取引について、2024(令和6)年9月に企業会計基準委員会より新リース会計基準が公表され、2025(令和7)年度税制改正で新リース会計基準を踏まえた税務上の対応がなされています。

 以下では、借り手である中小企業の立場から、新リース会計基準の導入が及ぼす会計上と税務上の影響について確認します。

1.新基準によるオペレーティング・リース取引の会計上の取扱い

 2024(令和6)年9月に、企業会計基準委員会より新リース会計基準が公表されました。旧リース会計基準からの見直しの内容は次のとおりです。

(1) 借り手については、これまでのファイナンス・リース(売買取引に準じた会計処理)とオペレーティング・リース(賃貸借取引に準じた会計処理)との区分を廃止し、使用権資産とリース負債を計上する単一の会計モデルを採用することとされました。

(2) 貸し手については、引き続きファイナンス・リースとオペレーティング・リースを区分することとし、その区分に応じた処理を行うこととされました。
 なお、ファイナンス・リースの場合の会計処理のうち、リース料受取時に売上高と売上原価を計上する方法による会計処理は、収益認識会計基準において割賦基準が認められなくなったことを踏まえて、廃止することとされました。

(3) 新リース会計基準は、2027(令和9)年4月1日以後に開始する事業年度の期首から適用することとされていますが、2025(令和7)年4月1日以後に開始する事業年度の期首からの早期適用も認めることとされました。

出所:国税庁ホームページ

 新リース会計基準では、ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引の区分は廃止され、原則として、すべてのリース取引はオンバランスでの会計処理に統一されます。
 オンバランスとは、貸借対照表に資産や負債を計上し、売買取引に準じた会計処理を行うことをいいます。

 したがって、これまで賃貸借取引に準じた会計処理(資産や負債を計上せずにリース料を費用計上する会計処理)が認められていたオペレーティング・リース取引についても、ファイナンス・リース取引と同様に売買取引に準じた会計処理となりますので、従来に比べてリース取引の会計処理が煩雑になる懸念があります。

2.オペレーティング・リース取引の税務上の取扱い

 新リース会計基準では、オペレーティング・リース取引について、会計上は売買取引に準じた会計処理を行うこととされましたが、法人税法上は従来と変わらず、賃貸借取引に準じた会計処理とされました(法人税法第53条が新設されました)。

出所:国税庁ホームページ

 したがって、オペレーティング・リース取引については、会計上は新リース会計基準に則った売買取引に準じた会計処理を行い、税務上は賃貸借取引に準じた会計処理を行うことになりますので、会計上と税務上で会計処理の乖離が生じ、申告調整が必要となります。 

 ところが、中小企業など、監査対象法人以外の法人については、新リース会計基準によらず、引き続き「中小企業の会計に関する指針」又は「中小企業の会計に関する基本要領」に則った会計処理も可能とされていますので、オペレーティング・リース取引について会計上も賃貸借取引に準じた会計処理を行った場合は、会計上と税務上で会計処理の乖離は生じず、申告調整も不要となります。

 また、旧リース会計基準においては、所有権移転ファイナンス・リース取引は売買取引に準じた会計処理を行いますが、所有権移転外ファイナンス・リース取引については、「借り手が中小企業」又は「リース期間が1年以内、又は、リース契約1件当たりのリース料総額が300万円以下」の条件に該当する場合は、賃貸借取引に準じた会計処理が認められていました。

 新リース会計基準においても「短期リース(リース期間が12か月以内)」と「少額リース(重要性の乏しいリース契約1件当たりのリース料総額が300万円以下のリースなど)については、オンバランス不要の賃貸借取引に準じた会計処理が認められていますので、多くの中小企業は簡便な賃貸借取引に準じた会計処理を行うものと思われます。

 そのため、今回の新リース会計基準の導入が借り手である中小企業に与える影響は、実質的には大きくないものと思われます。

税抜経理方式と税込経理方式を併用する場合の問題点とその調整のための会計処理

 消費税(地方消費税を含みます。以下同じ)の会計処理方法には税込経理方式と税抜経理方式があり、どちらの方式を選択してもよいことになっていますが※1、選択した方式は、その事業者が行うすべての取引に適用するのが原則です。

 ところが、税抜経理方式を選択適用している場合は、一定の条件の下で、税込経理方式を併用することができます※2

 しかし、税抜経理方式を選択適用する場合の税込経理方式の併用(以下「併用方式」といいます)には、問題点もあります。

 以下では、併用方式の問題点とそれを調整するための会計処理について確認します。

※1 免税事業者は、税込経理方式しか適用できません。

※2 税抜経理方式を選択適用している場合の税込経理方式の併用条件等については、「税抜経理方式の場合に棚卸資産を税込で計上するときの条件と損益に与える影響」をご参照ください。
 なお、税込経理方式を選択適用している場合は、すべての取引について税込経理方式しか適用できません。

1.併用方式の問題点

 事業者がすべての取引について税抜経理方式を選択適用した場合、消費税等が課される取引については税抜金額で計上し、課税売上げに対する消費税等の額は仮受消費税等とし、また、課税仕入れに対する消費税等の額は仮払消費税等とします。

 例えば、税込330万円の商品を仕入れて、その商品を税込550万円で売った場合の会計処理は次のようになります(税率10%)。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仕入 300万円 現金預金 330万円
仮払消費税等 30万円    
借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
現金預金 550万円 売上 500万円
    仮受消費税等 50万円

 

 また、決算において、仮受消費税等の合計額から仮払消費税等の合計額を差し引いて(精算して)、納税額を未払計上します。上記以外の取引が無かったものとすると、決算仕訳は次のようになります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仮受消費税等 50万円 仮払消費税等 30万円
    未払消費税等 20万円

 一方、併用方式においては、売上などの収益に係る取引については必ず税抜経理をしなければなりませんが、次の各グループに関する取引のいずれかについては、グループごとに税込経理を適用することが認められています。

(1) 棚卸資産の取得
(2) 固定資産・繰延資産の取得
(3) 販売費・一般管理費など(以下「経費等」といいます)の支出

 この場合、仮受消費税等の合計額から仮払消費税等の合計額を差し引いた金額は、納税額または還付税額と一致しません。

 例えば、経費等の支出に係る取引について税込経理を適用した場合には、経費等に含まれる消費税等を仮払消費税等としないため、その課税期間の仮受消費税等の合計額から仮払消費税等の合計額を差し引いた金額と納付すべき税額または還付されるべき税額との間に差額が出ます。

 上記の例(税込330万円の商品を仕入れて、その商品を税込550万円で売った場合)を、併用方式(仕入を税込処理)で会計処理すると次のようになります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仕入 330万円 現金預金 330万円
仮払消費税等 0万円    
借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
現金預金 550万円 売上 500万円
    仮受消費税等 50万円
借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仮受消費税等 50万円 仮払消費税等 0万円
    未払消費税等 20万円

 上記の決算仕訳においては、仮受消費税等の合計額(50万円)から仮払消費税等の合計額(0円)を差し引いた金額(50万円)と未払消費税等(20万円)との間に差額(30万円)が出ており仕訳が成り立ちません。

 また、所得金額または損益の点から検討すると、この例では、税込経理した仕入に含まれる消費税の額(30万円)だけ経費等の額が多くなります。
 裏を返せば、すべての取引について税抜経理方式を適用した場合に比べて、一部を税込経理する併用方式を適用した場合は、利益が少なく算出されることになります(下図)。

税抜経理方式と併用方式は会計処理(記帳)の方法であって消費税の納税額の計算方法ではありませんので、どちらの方式を適用したとしても納税額(未払消費税等)は同じになります。

2.差額を益金または総収入金額に算入

 併用方式により生じた、仮受消費税等の合計額から仮払消費税等の合計額を差し引いた金額と納付すべき税額または還付されるべき税額との差額については、法人においては、その課税期間を含む事業年度の益金の額に算入し、個人事業者においては、その課税期間を含む年の総収入金額に算入します。

 上記1の例では、併用方式の決算仕訳は次のようになります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仮受消費税等 50万円 仮払消費税等 0万円
    未払消費税等 20万円
    雑収入 30万円

 その結果、すべての取引について税抜経理方式を適用した場合と併用方式を適用した場合の利益は同額となり、所得金額または損益の点からも、併用方式の問題点は解消されます(下図)。

税抜経理方式の場合に棚卸資産を税込で計上するときの条件と損益に与える影響

 消費税(地方消費税を含みます。以下同じ)の会計処理方法には税込経理方式と税抜経理方式があり、どちらの方式を選択してもよいことになっていますが※1、選択した方式は、その事業者が行うすべての取引に適用するのが原則です。

 棚卸資産を例に挙げると、税込経理方式を選択している場合は棚卸資産も税込金額で計上し、税抜経理方式を選択している場合は棚卸資産も税抜金額で計上します。

 ところが、税抜経理方式を選択適用している場合は、一定の条件の下で、棚卸資産を税込金額で計上することもできます※2

 以下では、棚卸資産を中心に、税抜経理方式を選択適用する場合の税込経理方式の併用条件と併用が損益に与える影響について確認します。

※1 免税事業者は、税込経理方式しか適用できません。

※2 税込経理方式を選択適用している場合に、棚卸資産を税抜金額で計上することはできません。

1.税抜経理方式と税込経理方式の併用条件

 税抜経理方式を選択適用する場合は、売上げなどの収益に係る取引については、必ず税抜経理をしなければなりません。

 一方、次の各グループに関する取引のいずれかについては、税抜経理方式を選択適用していても税込経理方式を適用することが認められています。

(1) 棚卸資産の取得
(2) 固定資産・繰延資産の取得
(3) 販売費・一般管理費など(以下「経費等」といいます)の支出

 ただし、以下の条件に留意する必要があります。

イ.売上などの収益に係る取引に加えて、上記(1)(2)(3)のうち、少なくとも1グループについては税抜経理をしなければなりません(例えば、(1)は税込み、(2)と(3)は税抜きなどは認められますが、(1)(2)(3)すべてを税込みとすることはできません)。

ロ.棚卸資産の取得に関する取引については、継続適用を条件として、固定資産・繰延資産の取得に関する取引と異なる経理方式を適用することができます。

ハ.税抜経理方式と税込経理方式を併用して適用する場合でも、個々の棚卸資産、固定資産、繰延資産、または個々の経費等について異なる経理方式を適用することはできません(例えば、棚卸資産のうち、ある棚卸資産は税抜きとし、そのほかの棚卸資産は税込みとする処理は認められません)。

 なお、上記(1)棚卸資産の取得について税込経理をする場合に、「棚卸資産の取得」という文言から、期末棚卸資産だけでなく、その仕入時(棚卸資産の取得時)も税込経理する必要があるのかというとそうではなく、仕入時は税抜金額で計上し、決算時は期末棚卸資産を税込金額で計上します。

 したがって、決算書の当期仕入高は税抜金額で、期末棚卸高は税込金額で表示されることになります。

2.併用方式が損益に与える影響

 税抜経理方式と税込経理方式は会計処理の方法であって消費税の納税額の計算方法ではありませんので、どちらの方式を選択適用したとしても納税額に差異はなく、算出される利益は原則として同じになります。

 しかし、税抜経理方式を選択適用している場合に棚卸資産を税込金額で計上するとき(以下「併用方式」といいます)は、税抜経理方式のみで会計処理する場合と比べて、利益は大きくなります。

 例えば、税込110万円分(税率10%)の期末在庫(期末棚卸資産)があったとすると、税抜経理方式のみで会計処理する場合の期末在庫が100万円であるのに対し、併用方式の場合の期末在庫は110万円となるので、消費税10万円分だけ期末在庫が大きくなり、その分売上原価が小さくなります。
 売上原価が10万円小さくなると、売上総利益が10万円大きく算出されることになります。
 その結果、課税される法人税(個人の場合は所得税)も多くなります。

 上図は、説明を簡略化するため、期首在庫(期首棚卸資産)を無いものとしていますが、税抜経理方式から税込経理方式に、税込経理方式から税抜経理方式に変更した場合でも、期首在庫の価額について、仕入時に計上した金額を修正する必要はありません。
 会計処理を変更した場合でも、前期の期末在庫の金額をそのまま当期の期首在庫の金額として引き継ぎます。

キャッシュレス納付の類型と手続きの概要

 国税庁では効率化とコスト抑制の観点から「納付書」の送付対象者を見直し、2024(令和6)年5月よりe-Taxで申告書を提出した法人などには納付書が送付されなくなりました。

 これまで通り納付書で税金の納付を行いたい場合は、税務署に送付依頼の電話をかければ納付書を入手することができますが、近年は納付書を使わない納付方法(以下「キャッシュレス納付」といいます)も多様化して選択肢が増えています。

 キャッシュレス納付は、納税者の事務手続きや現金処理業務の効率化(現金管理に伴うコスト削減)に資する面もありますので、今すぐではなくとも将来的に活用することも検討されてはいかがでしょうか。

 以下では、国税に関するキャッシュレス納付の類型と手続きについて概観します

地方税についても地方税統一QRコードにより多くの地方自治体でキャッシュレス納付ができるようになりましたが、自治体によっては対応していない場合や対応している税目等が異なりますので、納付先の自治体にご確認ください。

1.振替納税

 振替納税は、納税者名義の預貯金口座からの自動引落しにより国税を納付する方法です。古くからある制度ですので、納税者にとってはなじみ深いものだと思われます。

 振替納税を利用するにあたっては、事前(国税の納期限まで)に所轄税務署または希望する預貯金口座のある金融機関へ振替依頼書を書面またはe-Taxにより提出する必要があります。

 利用できる税目は、申告所得税及び復興特別所得税消費税及び地方消費税(個人事業者)であり、個人に限られます。

 利用にあたって、手数料はかかりません。

2.ダイレクト納付

 ダイレクト納付は、e-Taxにより申告書を提出した後、納税者名義の預貯金口座から即時または振替日を指定して口座引き落としにより納付する方法です。

 事前に振替を行う預貯金口座の届け出が必要で、届け出から利用開始までに約1か月程度かかります。

 2024(令和6)年4月からはe-Taxによる申告と同時に法定納期限当日に自動的に口座引き落としされる「自動ダイレクト」が機能として追加されました

 すべての税目で利用でき、利用にあたって手数料はかかりません。

法定納期限当日に手続きをした場合は、その翌取引日に自動引落しされます。この場合、法定納期限から引落しの日までの延滞税や加算税はかかりません。

3.インターネットバンキング納付

 インターネットバンキング納付は、e-Taxにより申告書を提出した際に受け取った納付情報を基に、金融機関のインターネットバンキングやATMを利用して納付をする方法です。

 事前に金融機関に対してインターネットバンキングの契約が必要ですが、ATMから納付する場合は不要です。

 上記2のダイレクト納付と異なり、振替日の指定はできず、即時の納付となります。

 すべての税目で利用でき、利用にあたって手数料はかかりません

インターネットバンキングやATMの利用手数料がかかる場合があります。

4.クレジットカード納付

 クレジットカード納付は、事前の手続きなしでパソコンやスマホから国税クレジットカードお支払いサイトを通じて税金を納付する方法です。

 納付情報を直接入力して納付する方法以外に、e-Taxにより申告書を提出した際に受け取った納付情報を基に納付することも可能です。

 クレジットカード納付はインターネット上のみの手続きであり、金融機関やコンビニ、税務署の窓口ではクレジットカード納付はできません。

 すべての税目で利用できますが、利用にあたっては納付税額に応じた決済手数料がかかります。

5.スマホアプリ納付

 スマホアプリ納付は、e-Taxにより申告書を提出した際に格納される受信通知(納付区分番号通知)からスマートフォン決済専用サイトへアクセスし、Pay払いで納付する方法です。

 利用可能なPay払いは、次の6つです(LINE Payの取扱いは2025(令和7)年4月14日で終了しました)。

出所:国税庁ホームページ

 アカウント残高を利用した支払方法のみ利用可能なため、事前に利用するPay払いへのアカウント登録と残高チャージが必要です。なお、納付しようとする金額が30万円以下の場合に利用可能です。

 すべての税目で利用でき、利用にあたって手数料はかかりません。

amazon payの場合はamazonギフトカードで残高チャージができるため、amazonギフトカードをクレジットカードで購入すれば、通常の買い物と同様にクレジットカードのポイントも貯まりますのでお得な方法です。
 amazon payによるスマホアプリ納付の詳細については、「Amazon Payでスマホアプリ納付をする方法(決済手数料0円)」をご参照ください。

全法人が対象の「防衛特別法人税」の概要と実務に及ぼす影響(令和8年4月1日以後開始事業年度)

 2025(令和7)年度税制改正により、「我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法(防確法)」が改正され、防衛力強化に係る財源確保のための税制措置として、防衛特別法人税が創設されました。

 この防衛特別法人税は全法人が対象となっており、2026(令和8)年4月1日以後に開始する事業年度から、各事業年度の所得に対する法人税を課される法人は防衛特別法人税の納税義務者となり、防衛特別法人税確定申告書の提出が必要となります(防衛特別法人税額が0であっても申告は必要となります)。

 以下では、防衛特別法人税の概要と、防衛特別法人税が実務に及ぼす影響について確認します。

1.防衛特別法人税の概要

 各事業年度の所得に対する法人税を課される法人は、2026(令和8)年4月1日以後に開始する各事業年度において、所得税額控除など一定の税額控除を適用しないで計算した法人税の額から年500万円の基礎控除額を控除した金額に4%の税率を乗じて計算した金額を、防衛特別法人税額として申告し、納付することが必要となります。

(1) 納税義務者

 各事業年度の所得に対する法人税を課される法人(人格のない社団等及び法人課税信託の引受けを行う個人を含みます)は、防衛特別法人税を納める義務があります。

(2) 課税事業年度

 2026(令和8)年4月1日以後に開始する事業年度から、防衛特別法人税が課されます。

(3) 税額の計算

 防衛特別法人税は、所得税額控除など一定の税額控除を適用しないで計算した法人税の額(基準法人税額※1)から年500万円の基礎控除額※2を控除した金額(課税標準法人税額)に4%の税率を乗じて計算します※3

※1 基準法人税額とは、次の制度を適用しないで計算した各事業年度の所得に対する法人税の額をいいます。

① 所得税額の控除
② 外国税額の控除
③ 分配時調整外国税相当額の控除 など

※2 基礎控除額は年500万円とされています。課税事業年度が1年に満たない法人は、「500万円を12で除し、これにその課税事業年度の月数(1月未満の端数は切り上げます)を乗じて計算した金額」となります。

※3 防衛特別法人税=課税標準法人税額×4%
  課税標準法人税額=基準法人税額-基礎控除額

(4) 申告及び納付

 防衛特別法人税確定申告書は、原則として、各課税事業年度終了の日の翌日から2月以内に納税地を所轄する税務署長に提出しなければなりません※4

 なお、所得金額が欠損等の理由により基準法人税額が0となる場合や年500万円の基礎控除額の控除により課税標準法人税額が0となる場合であっても、防衛特別法人税確定申告書を提出する必要がありますので、ご注意ください※5

 この場合、別表一次葉一の「課税標準法人税額の計算」及び「防衛特別法人税額の計算」の各欄を記載し、同表の「防衛特別法人税額」及び「防衛特別法人税額計」の各欄に「0」と記載して提出してください。

※4 法人税確定申告書の提出期限が延長されている場合には、防衛特別法人税確定申告書の提出期限も、その延長された提出期限となります。
 また、2027(令和9)年4月1日以後に開始する課税事業年度において、法人税の中間申告書を提出すべき法人は、防衛特別法人税についても中間申告書を提出する必要があります。

※5 各事業年度の所得に対する法人税の納税義務がない法人(例えば、公益法人等及び人格のない社団等で収益事業を行っていないものや国内源泉所得を有しない外国法人)などについては、防衛特別法人税確定申告書を提出する必要はありません。

2.防衛特別法人税が実務に及ぼす影響

 2025(令和7)年度税制改正で新設された防衛特別法人税が、実務に及ぼす影響として、次の2点を検証します。

(1) 実際に課税される法人は少ない?

 上記1(3)のとおり、防衛特別法人税の計算には中小法人に配慮した年500万円の基礎控除額があることから、課税所得が2,400万円程度までの法人に対しては課税されないことになります※6

※6 課税所得が2,400万円の場合、所得800万円以下の部分は800万円×15%=120万円の法人税、800万円超の部分は1,600万円×23.2%=371.2万円の法人税となり、120万円+371.2万円=491.2万円が基準法人税額となります。
 ここから基礎控除額500万円を控除すると、課税標準法人税額は0となりますので、防衛特別法人税は課税されません。
 財務省主税局によると、全法人の94%が課税対象外と見込まれています。

(2) 税効果会計への影響

 防衛特別法人税の新設により、法定実効税率の見直しが求められることとなり、これにより(税効果会計)繰延税金資産・負債への影響が見込まれるため、特に3月決算の法人においては注意が必要です※7

※7 法定実効税率は、下表のようになります。

(改正前)2026(令和8)年3月31日までの間に解消が見込まれる一時差異等
法定実効税率={法人税率×(1+地方法人税率+住民税率)+事業税率+事業税率(標準税率)×特別法人事業税率}/{1+事業税率+事業税率(標準税率)×特別法人事業税率}={23.2%×(1+10.3%+7.8%)+1.216%+1.2%×260%}/{1+1.216%+1.2%×260%}=30.07%
(改正後)2026(令和8)年4月1日以後に解消が見込まれる一時差異等
法定実効税率={法人税率×(1+地方法人税率+防衛特別法人税率+住民税率)+事業税率+事業税率(標準税率)×特別法人事業税率}/{1+事業税率+事業税率(標準税率)×特別法人事業税率}={23.2%×(1+10.3%+4%+7.8%)+1.216%+1.2%×260%}/{1+1.216%+1.2%×260%}=30.96%

事前確定届出給与を減額支給した場合に損金不算入となる理由(東京地裁令和6年2月21日判決・令和4年(行ウ)第566号)

 臨時的な役員賞与は損金算入が認められませんが、事前確定届出給与の制度を利用すれば、役員賞与であっても届け出たとおりの支給をすれば損金算入が可能です※1

 事前確定届出給与の制度を利用するには、一定の日までに納税地の所轄税務署長に対して、あらかじめ確定している支給時期、支給金額のほか必要事項を記載した届出をしなければなりません※2

 もし、所轄税務署長へ届け出た支給額と実際の支給額が異なる場合には、事前確定届出給与に該当しないこととなり、損金不算入となります。

 例えば、所轄税務署長に届け出た支給額よりも多く支給した場合には、超過部分だけではなく、届出支給額部分も含めた支給額全額が損金不算入となります。

  また、届け出た支給額よりも少なく支給した場合にも、当該支給額全額が損金不算入となります。

 少なく支給した場合は、届け出た支給額との間に未払部分が生じますが、たとえ、未払部分をその後一括して又は数回に分割して支給し、当該支給額との合計が届け出た支給額と一致したとしても、当該支給額全額が損金不算入となります。

 事前確定届出給与は、支給時期及び支給金額が事前に確定していることが要件となっているため、超過額や未払額が発生するということは事前に確定していなかったということであり、したがって事前確定届出給与には該当せず、損金不算入となります。

 これらのことを明確に示した裁判例が、以下の東京地裁令和6年2月21日判決(令和4年(行ウ)第566号)です。

 原告の定時株主総会において、代表取締役2名に対してそれぞれ2,800万円の賞与を支給することが決議され、その決議内容に関する届出を原告は税務署に対して行っていましたが、実際に支給されたのがそれぞれ2,500万円であったため、税務署は事前確定届出給与に該当しないとして損金算入を認めず、東京地裁も税務署と同様の判断を下しています。

 東京地裁はこの判決において、「事前に支給時期及び支給額が株主総会等において確定的に定められ、事前確定届出給与に関する届出がされたにもかかわらず、届けられた金額と異なる金額の役員賞与が支払われた場合に無制限に損金への算入を認めることとすれば、例えば、支給額を高額に定めて事前確定届出給与に関する届出を行うことによりあらかじめ枠取りをしておき、その後、上記のとおり届出をした金額より減額した額を支給するなどして損金の額をほしいままに操作し、法人税の課税を回避するなど、事前確定届出給与制度を設けた趣旨を没却し、課税の公平を害することになりかねない」として、支給額の合計額5,000万円を損金の額に算入することはできないと判示しています。

 また、原告は、実際の支給額と届け出た支給額との差額(各300万円)については、役員給与の一部が未払の状態にすぎないなどと主張しましたが、東京地裁は、「未払賞与」を計上していない原告の会計処理に照らしてもにわかに認め難く、仮に一部が未払の状態にすぎないとしても、法34条1項2号の要件を満たすとはいえないなどとして、原告の主張を斥けています。

※1 届け出たとおりの支給をしなかった場合については、「事前確定届出給与(複数回支給)を届出通りに支給しなかった場合」、「事前確定届出給与(複数人支給)を特定の役員だけ届出通りに支給しなかった場合」、「事前確定届出給与を支給しなかった場合のリスクを回避するための手続き」をご参照ください。

※2 届出書の具体的な書き方については、「『事前確定届出給与に関する届出書』等の書き方と記載例」をご参照ください。

中小企業者等の賃上げ促進税制《令和6年4月1日~令和9年3月31日開始事業年度》

 中小企業向け賃上げ促進税制は、青色申告書を提出している中小企業者等(下記2(3)参照)が、前年度より給与等の支給額を増加させた場合に、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度です。

 以下では、賃上げ促進税制に関する2024(令和6)年度税制改正の概要と、改正後の中小企業向け賃上げ促進税制の内容について確認します。

1.令和6年度税制改正の概要

 2024(令和6)年税制改正では、賃上げ促進税制の強化がはかられ、これまでの大企業向けと中小企業向けの2制度から、新たに中堅企業向けの制度が新設され、3制度となりました。

 中小企業向けの措置については、5年間の繰越税額控除制度が新設され、教育訓練費の増加があった場合の税額控除率10%の上乗せ措置に対する要件なども見直されています。

 上乗せ措置については、プラチナくるみん認定を受けている場合などは、さらに税額控除率を5%上乗せできる要件が新設されています。

 改正後の中小企業向け賃上げ促進税制の適用要件と税額控除率は、下図のとおりです。

 必須要件については改正前と変更はありませんが、上乗せ要件①については「教育訓練費が5%以上増加していること」(改正前は10%以上)の他に、「教育訓練費が雇用者給与等支給額の0.05%以上であること」が必要となっています。

 また、上乗せ要件②が新設され、要件を満たせば税額控除率を5%上乗せできるようになったことから、税額控除率は最大で45%(30%+10%+5%)となっています。

出所:中小企業庁ホームページ

2.中小企業向け賃上げ促進税制の内容

 2024(令和6)年度税制改正による中小企業向け賃上げ促進税制の内容は、次のとおりです。

(1) 制度概要

 中小企業者等で青色申告書を提出するものが、国内雇用者※1に対して給与等※2を支給する場合において、一定の要件(必須要件)を満たす場合には、その雇用者給与等支給増加額の15%又は30%(上乗せ要件をすべて満たす場合は最大で45%)の税額控除を適用できます。

※1 国内雇用者とは、法人又は個人事業主の使用人のうちその法人又は個人事業主の国内に所在する事業所につき作成された賃金台帳に記載された者を指します。
 パート、アルバイト、日雇い労働者も含みますが、使用人兼務役員を含む役員及び役員の特殊関係者、個人事業主の特殊関係者は含まれません。
 なお、特殊関係者とは、法人の役員又は個人事業主の親族などを指します。親族の範囲は6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族までが該当します。
 また、当該役員又は個人事業主と婚姻関係と同様の事情にある者、当該役員又は個人事業主から生計の支援を受けている者等も特殊関係者に含まれます。

※2 給与等とは、俸給・給料・賃金・歳費及び賞与並びに、これらの性質を有する給与(所得税法第28条第1項に規定する給与等)をいいます。
 したがって、例えば、所得税法第9条(非課税所得)の規定により非課税とされる給与所得者に対する通勤手当等についても、原則的には本制度における「給与等」に含まれることになります。
 ただし、賃金台帳に記載された支給額のみを対象に、所得税法上課税されない通勤手当等の額を含めずに計算する等、合理的な方法により継続して国内雇用者に対する給与等の支給額の計算をすることも認められます。
 なお、退職金など、給与所得とならないものについては、原則として給与等に含まれません。

(2) 適用期間

 2024(令和6)年4月1日から2027(令和9)年3月31日までの間に開始する各事業年度(個人事業主は2025(令和7)年から2027(令和9)年の各年が対象)

(3) 適用対象者

 適用対象となる中小企業者等とは、青色申告書を提出する者のうち、以下の①~③に該当するものを指します。

① 以下のイ、ロのいずれかに該当する法人(ただし、前3事業年度の所得金額の平均額が15億円を超える法人は対象外)

イ.資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人
ただし、以下の法人は対象外
(イ) 同一の大規模法人※3から2分の1以上の出資を受ける法人
(ロ) 2以上の大規模法人※3から3分の2以上の出資を受ける法人

※3 大規模法人とは、資本金の額若しくは出資金の額が1億円超の法人、資本若しくは出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人超の法人又は大法人(資本金の額又は出資金の額が5億円以上である法人等)との間に当該大法人による完全支配関係がある法人等をいい、中小企業投資育成株式会社を除きます。

ロ.資本又は出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下の法人

② 常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主

③ 農業協同組合、農業協同組合連合会、中小企業等協同組合、出資組合である商工組合及び商工組合連合会、内航海運組合、内航海運組合連合会、出資組合である生活衛生同業組合、漁業協同組合、漁業協同組合連合会、水産加工業協同組合、水産加工業協同組合連合会、森林組合並びに森林組合連合会

(4) 適用要件

 必須要件(税額控除率15%又は30%)と上乗せ要件(税額控除率10%)は、次のとおりです(上乗せ要件については、くるみん認定の取得は省略します)。

① 必須要件1(税額控除率15%)
 雇用者給与等支給額が前事業年度と比べて1.5%以上増加していること

雇用者給与等支給額(適用年度)- 比較雇用者給与等支給額(前事業年度)/比較雇用者給与等支給額(前事業年度) ≧1.5%

  雇用者給与等支給額※4及び比較雇用者給与等支給額※5に、給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額(雇用安定助成金額※6を除きます)がある場合には、当該金額を控除して要件の適用判定を行います。

※4 雇用者給与等支給額とは、適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される全ての国内雇用者に対する給与等の支給額をいいます。

※5 比較雇用者給与等支給額とは、前事業年度における雇用者給与等支給額をいいます。

※6 雇用安定助成金額(国又は地方公共団体から受ける雇用保険法第62条第1項第1号に掲げる事業として支給が行われる助成金その他これに類するものの額)には、以下のものが該当します。
a 雇用調整助成金、産業雇用安定助成金又は緊急雇用安定助成金の額
b aに上乗せして支給される助成金の額その他のaに準じて地方公共団体から支給される助成金の額

出所:中小企業庁ホームページ

② 必須要件2(必須要件1の税額控除率15%+15%=30%)
 雇用者給与等支給額が前事業年度と比べて2.5%以上増加していること

雇用者給与等支給額(適用年度)- 比較雇用者給与等支給額(前事業年度)/比較雇用者給与等支給額(前事業年度) ≧2.5%

 雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額に、給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額(雇用安定助成金額を除きます)がある場合には、当該金額を控除して要件の適用判定を行います。

③ 上乗せ要件(税額控除率10%)
 教育訓練費の額が前事業年度と比べて5%以上増加し、かつ、適用事業年度の教育訓練費の額が適用事業年度の雇用者給与等支給額の0.05%以上であること

教育訓練費の額(適用年度)- 比較教育訓練費の額(前事業年度)/比較教育訓練費の額(前事業年度) ≧5%
かつ
教育訓練費の額(適用年度)/雇用者給与等支給額(適用年度)≧0.05%

 教育訓練費とは、所得の金額の計算上損金の額に算入される、国内雇用者の職務に必要な技術又は知識を習得させ、又は向上させるために支出する費用のうち一定のものをいいます。
 具体的には、法人が教育訓練等を自ら行う場合の費用(外部講師謝金等、外部施設使用料等)、他の者に委託して教育訓練等を行わせる場合の費用(研修委託費等)、他の者が行う教育訓練等に参加させる場合の費用(外部研修参加費等)などをいいます。

 なお、教育訓練の対象者は法人又は個人の国内雇用者です。したがって、以下の者は国内雇用者ではないため対象外となります。

イ.当該法人の役員又は個人事業主
ロ.使用人兼務役員
ハ.当該法人の役員又は個人事業主の特殊関係者((イ) 役員の親族、(ロ) 事実上婚姻関係と同様の事情にある者、(ハ)役員から生計の支援を受けている者、(ニ) (ロ)又は(ハ)と生計を一にする親族)
ニ.内定者等の入社予定者

(5) 税額控除額

① 必須要件1(税額控除率15%)を満たす場合
 控除対象雇用者給与等支給増加額の15%を法人税額又は所得税額から控除します。ただし、税額控除額は法人税額又は所得税額の20%が上限となります。

税額控除額 = 控除対象雇用者給与等支給増加額 ×15%

 控除対象雇用者給与等支給増加額とは、適用年度の雇用者給与等支給額から前事業年度の比較雇用者給与等支給額を控除した金額をいいます。ただし、調整雇用者給与等支給増加額を上限とします。
 調整雇用者給与等支給増加額とは、適用年度の雇用安定助成金額を控除した雇用者給与等支給額から、前事業年度の雇用安定助成金額を控除した比較雇用者給与等支給額を控除した金額をいいます。
 なお、雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額に、給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額(雇用安定助成金額を除きます)がある場合には、当該金額を控除して計算を行います。

出所:中小企業庁ホームページ

② 必須要件2(税額控除率15%)を満たす場合
 上記(5)①の必須要件1の控除率15%に15%が上乗せされて、税額控除率は30%となります(必須要件1の15%+必須要件2の15%=30%)。
 下記③を併用する場合は、税額控除率は40%となります(必須要件1の15%+必須要件2の15%+上乗せ要件10%=40%)。
 ただし、税額控除額は法人税額又は所得税額の20%が上限となります。

③ 上乗せ要件(税額控除率10%)を満たす場合
 上記(5)①の必須要件1の控除率15%に10%が上乗せされて、税額控除率は25%となります(必須要件1の15%+上乗せ要件10%=25%)。
 上記②を併用する場合は、税額控除率は40%となります(必須要件1の15%+必須要件2の15%+上乗せ要件10%=40%)。
 ただし、税額控除額は法人税額又は所得税額の20%が上限となります。

(6) 繰越税額控除制度

 2024(令和6)年度税制改正で、中小企業者等が要件を満たす賃上げを実施した年度に控除しきれなかった金額について、翌年度以降に5年間の繰り越しが可能となりました。

出所:中小企業庁ホームページ

 
 繰越税額控除制度を適用する場合は、以下の①及び②の対応が必要です。

未控除額が発生した事業年度以後の各事業年度の確定申告書に繰越税額控除限度超過額の明細書を添付して提出

繰越税額控除制度の適用を受けようとする事業年度の確定申告書等に繰越控除を受ける金額を記載するとともに、繰越控除を受ける金額の計算に関する明細書を添付して提出

 繰越税額控除制度を適用する際の留意点は、次のとおりです。

イ.上記①の明細書が提出されていない場合、未控除額は繰り越されず、繰越税額控除制度を適用できません。
 未控除額を翌年度以降に繰り越す場合には、未控除が発生した事業年度以後の各事業年度の確定申告書に、繰越税額控除限度超過額の明細書の添付が必ず必要です。

ロ.繰越税額控除制度の適用を受けようとする事業年度において、雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額より増加している場合に限り、適用可能です。

ハ.繰越税額控除制度の適用を受けようとする事業年度においては、青色申告書を提出する必要がありますが、中小企業者等に該当しない場合でも適用可能です。
 なお、中小企業者等に該当するかどうかの判定は、適用を受ける事業年度終了の時の現況によるものとされています。

(関連記事)

※ 賃上げ促進税制における出向者の取扱いについては、「賃上げ促進税制における出向者の取扱い」をご参照ください。

※ 前事業年度と適用事業年度の月数が異なる場合の調整計算や月数に1月未満の端数が生じた場合については、「賃上げ促進税制における1月未満の端数の取扱い」をご参照ください。

Amazon Payでスマホアプリ納付をする方法(決済手数料0円)

 スマホアプリ納付とは、e-Taxで申告等データを送信した後に、スマートフォン決済専用のWebサイト「国税スマートフォン決済専用サイト」から、「○○Pay」といったスマホ決済アプリを使用して納付する方法です(税額は30万円以下に限られます)。

 クレジットカード納付の場合は、納付税額に応じた決済手数料(税抜き76円+税額10,000円を超えるごとに税抜き76円)がかかりますが、スマホアプリ納付の場合は決済手数料はかかりません。

 また、スマホアプリ納付という名称のとおりスマホアプリ納付には「○○Pay」のインストールが必要ですが、Amazon Payの場合はアプリのインストールは不要で、Amazonアカウントがあればスマホアプリ納付が利用できます。
 
 今回は、Amazon Payを使用してスマホアプリ納付をする具体的な方法等を以下に記します。

※ スマホアプリ納付以外のキャッシュレス納付については、「キャッシュレス納付の類型と手続きの概要」をご参照ください。

1.アクセス方法がe-Tax経由に一本化された

 2025(令和7)年2月1日から、スマホアプリ納付のアクセス方法が変更されています。

 2025(令和7)年1月までは、国税スマートフォン決済専用サイトへのアクセスは、次の3つの方法がありました。

(1) 国税庁ホームページからのアクセス
(2) 確定申告書等作成コーナーで出力されるQRコードからのアクセス
(3) e-Tax受信通知からのアクセス

 2025(令和7)年2月からは、スマホ又はパソコンからe-Taxでの申告等の手続を行った上で、e-Taxを経由して「国税スマートフォン決済専用サイト」へアクセスする(3)の方法に1本化されています。

 以下では(3)の方法の具体的手順をみていきます。

2.スマホアプリ納付の具体的手順(Amazonギフトカード利用)

 スマホアプリ納付の手続きの流れは次のようになります。

(1) e-Taxで電子申告
(2) ○○Pay(Pay払い)へのアカウント登録及び残高へのチャージ
(3) スマホアプリ納付

 以下、手順を確認していきます(本記事では(3)について具体的にみていきます)。

(1) e-Taxで電子申告

 スマホアプリ納付の前提として、e-Taxで電子申告しておく必要があります。

 書面で申告をした場合でも、税額が30万円以下であれば、スマートフォンやパソコンを利用して、税目や金額などの納付内容をe-Taxに登録すること(納付情報登録依頼)により、スマホアプリ納付を行うことができます。

 しかし、e-Taxで電子申告した場合には、申告から納付までの一連の手続をデジタルでシームレスに行うことができますので、e-Taxで電子申告することをお勧めします。

(2) 「○○Pay」(Pay払い)へのアカウント登録及び残高へのチャージ

 スマホアプリ納付はアカウント残高を利用した支払方法のみ利用可能なため、事前に利用するPay払いへのアカウント登録及び残高へのチャージが必要です。

 Amazon Payの場合は、アカウント残高へのチャージにAmazonギフトカードが利用できます。

 Amazonギフトカードをクレジットカードで購入し、その金額がAmazonアカウントに登録されたら、Amazon Payの残高への反映(チャージ)は完了です。

 なお、「○○Pay」で納税する際のポイント付与については、利用する「○○Pay」によって取扱いが異なりますが、Amazon Payでは、Amazonギフトカードをクレジットカードで購入する際に、通常の買い物と同様にクレジットカードのポイントが貯まります。

(3) スマホアプリ納付

 上記1で述べたように、2025年2月からは、スマホ又はパソコンからe-Taxでの申告等を行った上で、e-Tax受信通知から国税スマートフォン決済専用サイトへアクセスする方法に1本化されています。

 具体的な手順について国税庁ホームページに記載がありますので、それに従って一部を補完する形で確認していきます。

① e-Taxにスマホ又はパソコンでログインし、メッセージボックス「お知らせ・受信通知」を開きます(下図はスマホでログインしている場合の画面です)。


② 納付する「納付情報登録依頼」を選択します。

出所:国税庁ホームページ


③ 画面をスクロールし、「スマホアプリ納付」をタップします。

出所:国税庁ホームページ


④ 「国税スマートフォン決済専用サイト」にアクセスします。
・パソコンでログインしている場合は、表示されたQRコードをスマホで読み取ります。
・スマホでログインしている場合は、表示された「専用サイトへ」をタップします。

出所:国税庁ホームページ


⑤ 下図の画面が表示されますので、「国税スマートフォン決済専用サイト」をタップします。


⑥ 「国税スマートフォン決済専用サイト」が表示されたら注意事項を確認し、チェック欄に✓を入れて「次へ」をタップします。

出所:国税庁ホームページ


⑦ 支払方法の選択画面が表示されたら「amazon pay」を選択し、チェックを入れて「次へ」をタップします

出所:国税庁ホームページ


⑧ 納付情報の確認画面が表示されたら、メールアドレスを入力します(任意です)。
 メールアドレスを入力すると「納付手続き完了メール」を受け取ることができますので、国税庁は入力を推奨しています。
 メールアドレスを入力したら、「次へ」をタップします。

出所:国税庁ホームページ


⑨ Amazonへログインする画面が表示されたら、「amazon pay」をタップします。


⑩ Amazonアカウントでログインします。メールアドレスまたは携帯電話番号を入力して「次へ進む」をタップします。


⑪ Amazonアカウントでログインするためのパスワードを入力して「ログイン」をタップします。


⑫ 支払い方法の画面が表示されたら、ギフトカード残高を確認して「続行」をタップします。


⑬ 納付情報の確認画面が表示されます。表示された内容をよく確認し、「納付」をタップします。

出所:国税庁ホームページ


⑭ 納付手続の完了画面が表示されたら、手続き完了です。
 手続き完了と同時に、上記⑧で入力したメールアドレスに「国税のスマホアプリ納付手続き完了のお知らせ」と「税務署からのお知らせ【スマホアプリ納付手続完了に関するお知らせ】」が届きますので、そちらも確認します。

 最後に「納付内容をダウンロード」をタップします。

出所:国税庁ホームページ


⑮ 「納付内容をダウンロード」をタップすると、納付情報が表示されます。
 納付情報は再表示できませんので、国税庁では保存を推奨しています。スマホアプリ納付では領収書が発行されませんので、納付情報の保存は必須だといえます。

出所:国税庁ホームページ

令和7年1月から書面提出した申告書等の控えに収受日付印は押なつされません(提出事実等の確認方法は?)

 申告書等を税務署に書面提出した場合に、申告書等の正本(提出用)と一緒に控え(納税者保管用)を提出すると、その控えに収受日付印(受付印)の押なつが行われていました。

 収受日付印が押なつされた申告書等の控えによって、納税者においては申告書等を提出したことが客観的に確認でき、また、金融機関や行政機関においても、収受日付印が押なつされた控えによって、その申告書等の内容が正本と変わらない(偽造されたものではない)ことを確認できました。

 この申告書等の控えへの収受日付印の押なつについて、かねてより国税庁からアナウンスされていたとおり、2025(令和7)年1月から収受日付印の押なつが行われなくなります。

 以下では、収受日付印の押なつが行われなくなった後の申告書等の提出事実や提出年月日の確認方法について述べます。

1.日付・税務署名が記載されたリーフレット

 令和7年1月から、書面提出した申告書等の控えに収受日付印の押なつが行われなくなることから、申告書等を税務署の窓口で提出する場合や郵送する場合は、申告書等の正本(提出用)のみを提出(郵送)することになります。

 申告書等の控えへ収受日付印の押なつがされませんので、申告内容等の事後の確認のため、納税者自身で控えの作成及び保有、提出年月日の記録・管理を行う必要があります。

 なお、令和7年1月以降、当分の間の対応として、窓口で交付する「リーフレット」(今般の見直しの内容と申告書等の提出事実等の確認方法を案内するもの)に申告書等を税務署が収受した日付と税務署名を記載したものが希望者に渡されます。

 また、郵送等により申告書等を提出する際に、切手を貼付した「返信用封筒」を同封した場合も、日付・税務署名(業務センター名)を記載したリーフレットが返送されます。

 仮に、申告書等を提出したにもかかわらず、税務署等から、「申告書等が提出されていないのではないか」といった問合せがあった場合などには、税務署側で納付状況や他の証拠書類を確認し、税理士及び納税者からの聴き取りなどを行った上で、そのリーフレットと申告書等の控えなどを確認することによって、原則として、その日に税務署に来署し、申告書等を提出したものとして取り扱うとしています。

出所:国税庁ホームページ

 なお、リーフレットのメモ欄については、納税者が備忘等の観点から任意に記載する欄として便宜的に設けられていますので、必要に応じて、提出書類の書類名等を記載します。

2.申告書等の提出事実及び提出年月日の確認方法

 令和7年1月以降、上記1以外に、書面提出した申告書等の提出事実及び提出年月日を確認する方法は、以下のとおりです。

(1) 申告書等情報取得サービス

 所得税の確定申告書、青色申告決算書及び収支内訳書について、書面により提出している場合であっても、パソコン・スマートフォンからe-Taxを利用してPDFファイルを取得することができます。

 利用は無料ですが、オンライン申請のみ可能となっていますのでマイナンバーカードが必要です。

 直近年分の所得税の申告書等の申請は、原則として翌年5月1日以降に可能となります(例えば、令和6年分の申告書の場合、令和7年5月1日以降に申請可能です)。
 ただし、法定申告期限(翌年3月15日)後に申告書等を提出している場合は、税務署における処理のため、申請が可能になるまでしばらく時間を要することがあります。

(2) 保有個人情報の開示請求

 税務署が保有する個人情報に対する開示請求により、提出した申告書等の内容を確認することができます(写しの交付の場合は1か月程度かかります)。

 税務署の窓口での申請の他、e-Taxを利用したオンライン請求も可能であり、手数料は、税務署窓口での申請は300円、オンライン申請は200円です。

 なお、法人の申告書等には利用できません。

(3) 税務署での申告書等の閲覧サービス

 税務署の窓口で過去に提出した申告書等を閲覧することができ、写真撮影も可能です。

 税務署の窓口での申請のみ可能であり、郵送やオンライン申請はできません。

 申告書等が業務センターや外部書庫等に保管されている場合がありますので、申請する際は事前に税務署宛に連絡しておくと手続がスムーズに進みます。

 閲覧対象の申告書等が当日提出したものである場合には、原則として、当日中は閲覧サービスを申請することができません。
 また、所得税等の確定申告期においては、閲覧可能となるまでに時間を要する場合があります。

(4) 納税証明書の交付請求

 納税証明書の交付請求を行うことにより、確定申告書等を提出した場合の納税額又は所得金額の証明書を取得することができます(納税証明書では、提出年月日を確認することはできません)

 税務署の窓口での申請の他、e-Taxを利用したオンライン申請も可能であり、手数料は、税目ごと1年度1枚につき400円(オンライン申請は370円)です。

 所得税等の確定申告期においては、発行までに時間を要する場合があります。

外貨建取引を円換算するときの為替レートとは?

 海外企業と外貨建てで取引を行う場合、外貨建ての収益や費用を円換算する必要があります。
 円換算については、国税庁ホームページ(No.6325外貨建取引の取扱い)でその概要が説明されており、最初の一文には次のように記載されています。

 外貨建ての取引の売上金額や仕入金額の円換算は、為替予約がある場合を除き、原則として売上げや仕入れとして計上する日の電信売買相場の仲値によることとされています。

 この最初の一文だけでも、為替予約、電信売買相場、仲値などのように国内取引では出てこない用語が散見されます。 
 外貨建取引が国内取引に比べて難しく感じることがあるとすれば、このような国内取引とは異なる「用語」の存在が一因だと思われます。

 以下では、外貨建取引に係る用語の基礎知識を整理した上で、外貨建取引を円換算する際に適用する為替レートの確認をします。

1.為替レートの分類

 外貨建取引を円換算するにあたっては、各種為替レートに関する理解が必要になります。
 ここでは、為替レートについての基礎的な知識を整理します。

(1) 直物レートと先物レート

 まず、為替レートを大きく分類すると、直物レートと先物レートに分かれます。

 直物レート(スポット・レート)とは、取引日から2営業日後に通貨の受け渡しが行われる為替レートをいい、一般的に為替レートといった場合は直物レートを指します。

 一方、先物レート(予約レートまたはフォワード・レート)とは、2営業日後よりも後(例えば3か月後や6か月後)に通貨の受け渡しが行われる為替レートをいい、為替リスクのヘッジの局面でよく登場するレートです。

 為替レートは直物レートと先物レートに大きく分類されますが、以下では、直物レートについてさらに3つに分類します。

(2) TTS・TTB・TTMとは?

 外貨建取引の円換算においては、同じ直物レートであっても、TTS・TTB・TTMという用語が使い分けられています。

 TTSとは、Telegraphic Transfer Sellingの略であり、電信売相場を意味します。「売」というのは銀行側の視点であり、銀行が顧客に外貨を売る際に用いるレートです。
 企業側の視点からは、外貨を買う(円を外貨に交換する)際に用いるレートであり、例えば、海外への送金や外貨預金の入金などに適用されます。

 TTBとは、Telegraphic Transfer Buyingの略であり、電信買相場を意味します。「買」というのは銀行側の視点であり、銀行が顧客から外貨を買う際に用いるレートです。
 企業側の視点からは、外貨を売る(外貨を円に交換する)際に用いるレートであり、例えば、海外からの入金や外貨預金の出金などに適用されます。

 TTMとは、Telegraphic Transfer Middleの略であり、TTSとTTBの仲値を意味します。
 会計上や税務上で一般的に用いられる為替レートはTTMです。

為替レート 企業側の視点
TTS 円を外貨に交換する(円→外貨)
TTB 外貨を円に交換する(外貨→円)
TTM TTSとTTBの仲値((TTS+TTB)÷2)

2.外貨建取引の換算レート

 法人税法上、外貨建取引を行った場合の円換算は、その外貨建取引を行ったとき(取引日)の為替レートにより換算し、為替レートはTTMを用いることとされています(法人税基本通達13の2-1-2)。

 ただし、継続適用を条件として、売上その他の収益または資産についてはTTB仕入その他の費用または負債についてはTTSを用いることもできます。

換算方法 換算レート
原則 TTM
例外 収益または資産:TTB
費用または負債:TTS

 また、同じく継続適用を条件として、取引日の為替レート以外に以下の為替レートによる換算も可能です。

(1) 取引日の属する月若しくは週の前月若しくは前週の末日又は当月若しくは当週の初日のTTB若しくはTTS又はこれらの日におけるTTM
(2) 取引日の属する月の前月又は前週の平均相場のように1月以内の一定期間におけるTTM、TTB又はTTSの平均値

換算方法 換算レート
原則 取引日の為替レート
例外 前月や前週の末日または当月や当週の初日の為替レート(一定時点の為替レート)
前月や前週の平均相場(一定期間の為替レートの平均値)

 上記のように、一定時点の為替レートや一定期間の為替レートの平均値による換算も認められているため、外貨建取引の多い会社では、実務的には例外的な方法により換算することも考えられます。

 ただし、1か月を超える期間(例えば四半期や半年など)、為替レートを固定することはできませんので注意しなければなりません。

3.会計処理(為替差損益の認識)

 以下の簡単な例によって、外貨建取引の会計処理を確認します。

(1) 取引発生時
 海外企業へ商品1,000ドルを売上げ、代金は掛けとした(当日の為替レート(TTM)は100円/ドル)。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
売掛金 100,000 売上 100,000

(2) 代金決済時
 上記取引における売掛金代金が普通預金に入金された(当日の為替レート(TTM)は120円/ドル)。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
普通預金 120,000 売掛金 100,000
    為替差益 20,000

 外貨建取引の売上金額や仕入金額の円換算は、原則として売上げや仕入れとして計上する日のTTMによることとされています。
 そのため、これらの売上金額が入金された場合や、仕入金額を支払った場合には、売上げや仕入れに計上した日と実際に円貨で決済した日との為替レートの差により、いわゆる為替差損益が発生します。

 なお、外貨建取引に伴う消費税の取扱いについては、上記(1)の商品を課税商品とすると貸方・売上は「輸出免税(0%課税)」となり、上記(2)の貸方・為替差益は「不課税(対象外)」となります。