中小企業者等の賃上げ促進税制《令和6年4月1日~令和9年3月31日開始事業年度》

 中小企業向け賃上げ促進税制は、青色申告書を提出している中小企業者等(下記2(3)参照)が、前年度より給与等の支給額を増加させた場合に、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度です。

 以下では、賃上げ促進税制に関する2024(令和6)年度税制改正の概要と、改正後の中小企業向け賃上げ促進税制の内容について確認します。

1.令和6年度税制改正の概要

 2024(令和6)年税制改正では、賃上げ促進税制の強化がはかられ、これまでの大企業向けと中小企業向けの2制度から、新たに中堅企業向けの制度が新設され、3制度となりました。

 中小企業向けの措置については、5年間の繰越税額控除制度が新設され、教育訓練費の増加があった場合の税額控除率10%の上乗せ措置に対する要件なども見直されています。

 上乗せ措置については、プラチナくるみん認定を受けている場合などは、さらに税額控除率を5%上乗せできる要件が新設されています。

 改正後の中小企業向け賃上げ促進税制の適用要件と税額控除率は、下図のとおりです。

 必須要件については改正前と変更はありませんが、上乗せ要件①については「教育訓練費が5%以上増加していること」(改正前は10%以上)の他に、「教育訓練費が雇用者給与等支給額の0.05%以上であること」が必要となっています。

 また、上乗せ要件②が新設され、要件を満たせば税額控除率を5%上乗せできるようになったことから、税額控除率は最大で45%(30%+10%+5%)となっています。

出所:中小企業庁ホームページ

2.中小企業向け賃上げ促進税制の内容

 2024(令和6)年度税制改正による中小企業向け賃上げ促進税制の内容は、次のとおりです。

(1) 制度概要

 中小企業者等で青色申告書を提出するものが、国内雇用者※1に対して給与等※2を支給する場合において、一定の要件(必須要件)を満たす場合には、その雇用者給与等支給増加額の15%又は30%(上乗せ要件をすべて満たす場合は最大で45%)の税額控除を適用できます。

※1 国内雇用者とは、法人又は個人事業主の使用人のうちその法人又は個人事業主の国内に所在する事業所につき作成された賃金台帳に記載された者を指します。
 パート、アルバイト、日雇い労働者も含みますが、使用人兼務役員を含む役員及び役員の特殊関係者、個人事業主の特殊関係者は含まれません。
 なお、特殊関係者とは、法人の役員又は個人事業主の親族などを指します。親族の範囲は6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族までが該当します。
 また、当該役員又は個人事業主と婚姻関係と同様の事情にある者、当該役員又は個人事業主から生計の支援を受けている者等も特殊関係者に含まれます。

※2 給与等とは、俸給・給料・賃金・歳費及び賞与並びに、これらの性質を有する給与(所得税法第28条第1項に規定する給与等)をいいます。
 したがって、例えば、所得税法第9条(非課税所得)の規定により非課税とされる給与所得者に対する通勤手当等についても、原則的には本制度における「給与等」に含まれることになります。
 ただし、賃金台帳に記載された支給額のみを対象に、所得税法上課税されない通勤手当等の額を含めずに計算する等、合理的な方法により継続して国内雇用者に対する給与等の支給額の計算をすることも認められます。
 なお、退職金など、給与所得とならないものについては、原則として給与等に含まれません。

(2) 適用期間

 2024(令和6)年4月1日から2027(令和9)年3月31日までの間に開始する各事業年度(個人事業主は2025(令和7)年から2027(令和9)年の各年が対象)

(3) 適用対象者

 適用対象となる中小企業者等とは、青色申告書を提出する者のうち、以下の①~③に該当するものを指します。

① 以下のイ、ロのいずれかに該当する法人(ただし、前3事業年度の所得金額の平均額が15億円を超える法人は対象外)

イ.資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人
ただし、以下の法人は対象外
(イ) 同一の大規模法人※3から2分の1以上の出資を受ける法人
(ロ) 2以上の大規模法人※3から3分の2以上の出資を受ける法人

※3 大規模法人とは、資本金の額若しくは出資金の額が1億円超の法人、資本若しくは出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人超の法人又は大法人(資本金の額又は出資金の額が5億円以上である法人等)との間に当該大法人による完全支配関係がある法人等をいい、中小企業投資育成株式会社を除きます。

ロ.資本又は出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下の法人

② 常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主

③ 農業協同組合、農業協同組合連合会、中小企業等協同組合、出資組合である商工組合及び商工組合連合会、内航海運組合、内航海運組合連合会、出資組合である生活衛生同業組合、漁業協同組合、漁業協同組合連合会、水産加工業協同組合、水産加工業協同組合連合会、森林組合並びに森林組合連合会

(4) 適用要件

 必須要件(税額控除率15%又は30%)と上乗せ要件(税額控除率10%)は、次のとおりです(上乗せ要件については、くるみん認定の取得は省略します)。

① 必須要件1(税額控除率15%)
 雇用者給与等支給額が前事業年度と比べて1.5%以上増加していること

雇用者給与等支給額(適用年度)- 比較雇用者給与等支給額(前事業年度)/比較雇用者給与等支給額(前事業年度) ≧1.5%

  雇用者給与等支給額※4及び比較雇用者給与等支給額※5に、給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額(雇用安定助成金額※6を除きます)がある場合には、当該金額を控除して要件の適用判定を行います。

※4 雇用者給与等支給額とは、適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される全ての国内雇用者に対する給与等の支給額をいいます。

※5 比較雇用者給与等支給額とは、前事業年度における雇用者給与等支給額をいいます。

※6 雇用安定助成金額(国又は地方公共団体から受ける雇用保険法第62条第1項第1号に掲げる事業として支給が行われる助成金その他これに類するものの額)には、以下のものが該当します。
a 雇用調整助成金、産業雇用安定助成金又は緊急雇用安定助成金の額
b aに上乗せして支給される助成金の額その他のaに準じて地方公共団体から支給される助成金の額

出所:中小企業庁ホームページ

② 必須要件2(必須要件1の税額控除率15%+15%=30%)
 雇用者給与等支給額が前事業年度と比べて2.5%以上増加していること

雇用者給与等支給額(適用年度)- 比較雇用者給与等支給額(前事業年度)/比較雇用者給与等支給額(前事業年度) ≧2.5%

 雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額に、給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額(雇用安定助成金額を除きます)がある場合には、当該金額を控除して要件の適用判定を行います。

③ 上乗せ要件(税額控除率10%)
 教育訓練費の額が前事業年度と比べて5%以上増加し、かつ、適用事業年度の教育訓練費の額が適用事業年度の雇用者給与等支給額の0.05%以上であること

教育訓練費の額(適用年度)- 比較教育訓練費の額(前事業年度)/比較教育訓練費の額(前事業年度) ≧5%
かつ
教育訓練費の額(適用年度)/雇用者給与等支給額(適用年度)≧0.05%

 教育訓練費とは、所得の金額の計算上損金の額に算入される、国内雇用者の職務に必要な技術又は知識を習得させ、又は向上させるために支出する費用のうち一定のものをいいます。
 具体的には、法人が教育訓練等を自ら行う場合の費用(外部講師謝金等、外部施設使用料等)、他の者に委託して教育訓練等を行わせる場合の費用(研修委託費等)、他の者が行う教育訓練等に参加させる場合の費用(外部研修参加費等)などをいいます。

 なお、教育訓練の対象者は法人又は個人の国内雇用者です。したがって、以下の者は国内雇用者ではないため対象外となります。

イ.当該法人の役員又は個人事業主
ロ.使用人兼務役員
ハ.当該法人の役員又は個人事業主の特殊関係者((イ) 役員の親族、(ロ) 事実上婚姻関係と同様の事情にある者、(ハ)役員から生計の支援を受けている者、(ニ) (ロ)又は(ハ)と生計を一にする親族)
ニ.内定者等の入社予定者

(5) 税額控除額

① 必須要件1(税額控除率15%)を満たす場合
 控除対象雇用者給与等支給増加額の15%を法人税額又は所得税額から控除します。ただし、税額控除額は法人税額又は所得税額の20%が上限となります。

税額控除額 = 控除対象雇用者給与等支給増加額 ×15%

 控除対象雇用者給与等支給増加額とは、適用年度の雇用者給与等支給額から前事業年度の比較雇用者給与等支給額を控除した金額をいいます。ただし、調整雇用者給与等支給増加額を上限とします。
 調整雇用者給与等支給増加額とは、適用年度の雇用安定助成金額を控除した雇用者給与等支給額から、前事業年度の雇用安定助成金額を控除した比較雇用者給与等支給額を控除した金額をいいます。
 なお、雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額に、給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額(雇用安定助成金額を除きます)がある場合には、当該金額を控除して計算を行います。

出所:中小企業庁ホームページ

② 必須要件2(税額控除率15%)を満たす場合
 上記(5)①の必須要件1の控除率15%に15%が上乗せされて、税額控除率は30%となります(必須要件1の15%+必須要件2の15%=30%)。
 下記③を併用する場合は、税額控除率は40%となります(必須要件1の15%+必須要件2の15%+上乗せ要件10%=40%)。
 ただし、税額控除額は法人税額又は所得税額の20%が上限となります。

③ 上乗せ要件(税額控除率10%)を満たす場合
 上記(5)①の必須要件1の控除率15%に10%が上乗せされて、税額控除率は25%となります(必須要件1の15%+上乗せ要件10%=25%)。
 上記②を併用する場合は、税額控除率は40%となります(必須要件1の15%+必須要件2の15%+上乗せ要件10%=40%)。
 ただし、税額控除額は法人税額又は所得税額の20%が上限となります。

(6) 繰越税額控除制度

 2024(令和6)年度税制改正で、中小企業者等が要件を満たす賃上げを実施した年度に控除しきれなかった金額について、翌年度以降に5年間の繰り越しが可能となりました。

出所:中小企業庁ホームページ

 
 繰越税額控除制度を適用する場合は、以下の①及び②の対応が必要です。

未控除額が発生した事業年度以後の各事業年度の確定申告書に繰越税額控除限度超過額の明細書を添付して提出

繰越税額控除制度の適用を受けようとする事業年度の確定申告書等に繰越控除を受ける金額を記載するとともに、繰越控除を受ける金額の計算に関する明細書を添付して提出

 繰越税額控除制度を適用する際の留意点は、次のとおりです。

イ.上記①の明細書が提出されていない場合、未控除額は繰り越されず、繰越税額控除制度を適用できません。
 未控除額を翌年度以降に繰り越す場合には、未控除が発生した事業年度以後の各事業年度の確定申告書に、繰越税額控除限度超過額の明細書の添付が必ず必要です。

ロ.繰越税額控除制度の適用を受けようとする事業年度において、雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額より増加している場合に限り、適用可能です。

ハ.繰越税額控除制度の適用を受けようとする事業年度においては、青色申告書を提出する必要がありますが、中小企業者等に該当しない場合でも適用可能です。
 なお、中小企業者等に該当するかどうかの判定は、適用を受ける事業年度終了の時の現況によるものとされています。

(関連記事)

※ 賃上げ促進税制における出向者の取扱いについては、「賃上げ促進税制における出向者の取扱い」をご参照ください。

※ 前事業年度と適用事業年度の月数が異なる場合の調整計算や月数に1月未満の端数が生じた場合については、「賃上げ促進税制における1月未満の端数の取扱い」をご参照ください。

Amazon Payでスマホアプリ納付をする方法(決済手数料0円)

 スマホアプリ納付とは、e-Taxで申告等データを送信した後に、スマートフォン決済専用のWebサイト「国税スマートフォン決済専用サイト」から、「○○Pay」といったスマホ決済アプリを使用して納付する方法です(税額は30万円以下に限られます)。

 クレジットカード納付の場合は、納付税額に応じた決済手数料(税抜き76円+税額10,000円を超えるごとに税抜き76円)がかかりますが、スマホアプリ納付の場合は決済手数料はかかりません。

 また、スマホアプリ納付という名称のとおりスマホアプリ納付には「○○Pay」のインストールが必要ですが、Amazon Payの場合はアプリのインストールは不要で、Amazonアカウントがあればスマホアプリ納付が利用できます。
 
 今回は、Amazon Payを使用してスマホアプリ納付をする具体的な方法等を以下に記します。

1.アクセス方法がe-Tax経由に一本化された

 2025(令和7)年2月1日から、スマホアプリ納付のアクセス方法が変更されています。

 2025(令和7)年1月までは、国税スマートフォン決済専用サイトへのアクセスは、次の3つの方法がありました。

(1) 国税庁ホームページからのアクセス
(2) 確定申告書等作成コーナーで出力されるQRコードからのアクセス
(3) e-Tax受信通知からのアクセス

 2025(令和7)年2月からは、スマホ又はパソコンからe-Taxでの申告等の手続を行った上で、e-Taxを経由して「国税スマートフォン決済専用サイト」へアクセスする(3)の方法に1本化されています。

 以下では(3)の方法の具体的手順をみていきます。

2.スマホアプリ納付の具体的手順(Amazonギフトカード利用)

 スマホアプリ納付の手続きの流れは次のようになります。

(1) e-Taxで電子申告
(2) ○○Pay(Pay払い)へのアカウント登録及び残高へのチャージ
(3) スマホアプリ納付

 以下、手順を確認していきます(本記事では(3)について具体的にみていきます)。

(1) e-Taxで電子申告

 スマホアプリ納付の前提として、e-Taxで電子申告しておく必要があります。

 書面で申告をした場合でも、税額が30万円以下であれば、スマートフォンやパソコンを利用して、税目や金額などの納付内容をe-Taxに登録すること(納付情報登録依頼)により、スマホアプリ納付を行うことができます。

 しかし、e-Taxで電子申告した場合には、申告から納付までの一連の手続をデジタルでシームレスに行うことができますので、e-Taxで電子申告することをお勧めします。

(2) 「○○Pay」(Pay払い)へのアカウント登録及び残高へのチャージ

 スマホアプリ納付はアカウント残高を利用した支払方法のみ利用可能なため、事前に利用するPay払いへのアカウント登録及び残高へのチャージが必要です。

 Amazon Payの場合は、アカウント残高へのチャージにAmazonギフトカードが利用できます。

 Amazonギフトカードをクレジットカードで購入し、その金額がAmazonアカウントに登録されたら、Amazon Payの残高への反映(チャージ)は完了です。

 なお、「○○Pay」で納税する際のポイント付与については、利用する「○○Pay」によって取扱いが異なりますが、Amazon Payでは、Amazonギフトカードをクレジットカードで購入する際に、通常の買い物と同様にクレジットカードのポイントが貯まります。

(3) スマホアプリ納付

 上記1で述べたように、2025年2月からは、スマホ又はパソコンからe-Taxでの申告等を行った上で、e-Tax受信通知から国税スマートフォン決済専用サイトへアクセスする方法に1本化されています。

 具体的な手順について国税庁ホームページに記載がありますので、それに従って一部を補完する形で確認していきます。

① e-Taxにスマホ又はパソコンでログインし、メッセージボックス「お知らせ・受信通知」を開きます(下図はスマホでログインしている場合の画面です)。


② 納付する「納付情報登録依頼」を選択します。

出所:国税庁ホームページ


③ 画面をスクロールし、「スマホアプリ納付」をタップします。

出所:国税庁ホームページ


④ 「国税スマートフォン決済専用サイト」にアクセスします。
・パソコンでログインしている場合は、表示されたQRコードをスマホで読み取ります。
・スマホでログインしている場合は、表示された「専用サイトへ」をタップします。

出所:国税庁ホームページ


⑤ 下図の画面が表示されますので、「国税スマートフォン決済専用サイト」をタップします。


⑥ 「国税スマートフォン決済専用サイト」が表示されたら注意事項を確認し、チェック欄に✓を入れて「次へ」をタップします。

出所:国税庁ホームページ


⑦ 支払方法の選択画面が表示されたら「amazon pay」を選択し、チェックを入れて「次へ」をタップします

出所:国税庁ホームページ


⑧ 納付情報の確認画面が表示されたら、メールアドレスを入力します(任意です)。
 メールアドレスを入力すると「納付手続き完了メール」を受け取ることができますので、国税庁は入力を推奨しています。
 メールアドレスを入力したら、「次へ」をタップします。

出所:国税庁ホームページ


⑨ Amazonへログインする画面が表示されたら、「amazon pay」をタップします。


⑩ Amazonアカウントでログインします。メールアドレスまたは携帯電話番号を入力して「次へ進む」をタップします。


⑪ Amazonアカウントでログインするためのパスワードを入力して「ログイン」をタップします。


⑫ 支払い方法の画面が表示されたら、ギフトカード残高を確認して「続行」をタップします。


⑬ 納付情報の確認画面が表示されます。表示された内容をよく確認し、「納付」をタップします。

出所:国税庁ホームページ


⑭ 納付手続の完了画面が表示されたら、手続き完了です。
 手続き完了と同時に、上記⑧で入力したメールアドレスに「国税のスマホアプリ納付手続き完了のお知らせ」と「税務署からのお知らせ【スマホアプリ納付手続完了に関するお知らせ】」が届きますので、そちらも確認します。

 最後に「納付内容をダウンロード」をタップします。

出所:国税庁ホームページ


⑮ 「納付内容をダウンロード」をタップすると、納付情報が表示されます。
 納付情報は再表示できませんので、国税庁では保存を推奨しています。スマホアプリ納付では領収書が発行されませんので、納付情報の保存は必須だといえます。

出所:国税庁ホームページ

令和7年1月から書面提出した申告書等の控えに収受日付印は押なつされません(提出事実等の確認方法は?)

 申告書等を税務署に書面提出した場合に、申告書等の正本(提出用)と一緒に控え(納税者保管用)を提出すると、その控えに収受日付印(受付印)の押なつが行われていました。

 収受日付印が押なつされた申告書等の控えによって、納税者においては申告書等を提出したことが客観的に確認でき、また、金融機関や行政機関においても、収受日付印が押なつされた控えによって、その申告書等の内容が正本と変わらない(偽造されたものではない)ことを確認できました。

 この申告書等の控えへの収受日付印の押なつについて、かねてより国税庁からアナウンスされていたとおり、2025(令和7)年1月から収受日付印の押なつが行われなくなります。

 以下では、収受日付印の押なつが行われなくなった後の申告書等の提出事実や提出年月日の確認方法について述べます。

1.日付・税務署名が記載されたリーフレット

 令和7年1月から、書面提出した申告書等の控えに収受日付印の押なつが行われなくなることから、申告書等を税務署の窓口で提出する場合や郵送する場合は、申告書等の正本(提出用)のみを提出(郵送)することになります。

 申告書等の控えへ収受日付印の押なつがされませんので、申告内容等の事後の確認のため、納税者自身で控えの作成及び保有、提出年月日の記録・管理を行う必要があります。

 なお、令和7年1月以降、当分の間の対応として、窓口で交付する「リーフレット」(今般の見直しの内容と申告書等の提出事実等の確認方法を案内するもの)に申告書等を税務署が収受した日付と税務署名を記載したものが希望者に渡されます。

 また、郵送等により申告書等を提出する際に、切手を貼付した「返信用封筒」を同封した場合も、日付・税務署名(業務センター名)を記載したリーフレットが返送されます。

 仮に、申告書等を提出したにもかかわらず、税務署等から、「申告書等が提出されていないのではないか」といった問合せがあった場合などには、税務署側で納付状況や他の証拠書類を確認し、税理士及び納税者からの聴き取りなどを行った上で、そのリーフレットと申告書等の控えなどを確認することによって、原則として、その日に税務署に来署し、申告書等を提出したものとして取り扱うとしています。

出所:国税庁ホームページ

 なお、リーフレットのメモ欄については、納税者が備忘等の観点から任意に記載する欄として便宜的に設けられていますので、必要に応じて、提出書類の書類名等を記載します。

2.申告書等の提出事実及び提出年月日の確認方法

 令和7年1月以降、上記1以外に、書面提出した申告書等の提出事実及び提出年月日を確認する方法は、以下のとおりです。

(1) 申告書等情報取得サービス

 所得税の確定申告書、青色申告決算書及び収支内訳書について、書面により提出している場合であっても、パソコン・スマートフォンからe-Taxを利用してPDFファイルを取得することができます。

 利用は無料ですが、オンライン申請のみ可能となっていますのでマイナンバーカードが必要です。

 直近年分の所得税の申告書等の申請は、原則として翌年5月1日以降に可能となります(例えば、令和6年分の申告書の場合、令和7年5月1日以降に申請可能です)。
 ただし、法定申告期限(翌年3月15日)後に申告書等を提出している場合は、税務署における処理のため、申請が可能になるまでしばらく時間を要することがあります。

(2) 保有個人情報の開示請求

 税務署が保有する個人情報に対する開示請求により、提出した申告書等の内容を確認することができます(写しの交付の場合は1か月程度かかります)。

 税務署の窓口での申請の他、e-Taxを利用したオンライン請求も可能であり、手数料は、税務署窓口での申請は300円、オンライン申請は200円です。

 なお、法人の申告書等には利用できません。

(3) 税務署での申告書等の閲覧サービス

 税務署の窓口で過去に提出した申告書等を閲覧することができ、写真撮影も可能です。

 税務署の窓口での申請のみ可能であり、郵送やオンライン申請はできません。

 申告書等が業務センターや外部書庫等に保管されている場合がありますので、申請する際は事前に税務署宛に連絡しておくと手続がスムーズに進みます。

 閲覧対象の申告書等が当日提出したものである場合には、原則として、当日中は閲覧サービスを申請することができません。
 また、所得税等の確定申告期においては、閲覧可能となるまでに時間を要する場合があります。

(4) 納税証明書の交付請求

 納税証明書の交付請求を行うことにより、確定申告書等を提出した場合の納税額又は所得金額の証明書を取得することができます(納税証明書では、提出年月日を確認することはできません)

 税務署の窓口での申請の他、e-Taxを利用したオンライン申請も可能であり、手数料は、税目ごと1年度1枚につき400円(オンライン申請は370円)です。

 所得税等の確定申告期においては、発行までに時間を要する場合があります。

外貨建取引を円換算するときの為替レートとは?

 海外企業と外貨建てで取引を行う場合、外貨建ての収益や費用を円換算する必要があります。
 円換算については、国税庁ホームページ(No.6325外貨建取引の取扱い)でその概要が説明されており、最初の一文には次のように記載されています。

 外貨建ての取引の売上金額や仕入金額の円換算は、為替予約がある場合を除き、原則として売上げや仕入れとして計上する日の電信売買相場の仲値によることとされています。

 この最初の一文だけでも、為替予約、電信売買相場、仲値などのように国内取引では出てこない用語が散見されます。 
 外貨建取引が国内取引に比べて難しく感じることがあるとすれば、このような国内取引とは異なる「用語」の存在が一因だと思われます。

 以下では、外貨建取引に係る用語の基礎知識を整理した上で、外貨建取引を円換算する際に適用する為替レートの確認をします。

1.為替レートの分類

 外貨建取引を円換算するにあたっては、各種為替レートに関する理解が必要になります。
 ここでは、為替レートについての基礎的な知識を整理します。

(1) 直物レートと先物レート

 まず、為替レートを大きく分類すると、直物レートと先物レートに分かれます。

 直物レート(スポット・レート)とは、取引日から2営業日後に通貨の受け渡しが行われる為替レートをいい、一般的に為替レートといった場合は直物レートを指します。

 一方、先物レート(予約レートまたはフォワード・レート)とは、2営業日後よりも後(例えば3か月後や6か月後)に通貨の受け渡しが行われる為替レートをいい、為替リスクのヘッジの局面でよく登場するレートです。

 為替レートは直物レートと先物レートに大きく分類されますが、以下では、直物レートについてさらに3つに分類します。

(2) TTS・TTB・TTMとは?

 外貨建取引の円換算においては、同じ直物レートであっても、TTS・TTB・TTMという用語が使い分けられています。

 TTSとは、Telegraphic Transfer Sellingの略であり、電信売相場を意味します。「売」というのは銀行側の視点であり、銀行が顧客に外貨を売る際に用いるレートです。
 企業側の視点からは、外貨を買う(円を外貨に交換する)際に用いるレートであり、例えば、海外への送金や外貨預金の入金などに適用されます。

 TTBとは、Telegraphic Transfer Buyingの略であり、電信買相場を意味します。「買」というのは銀行側の視点であり、銀行が顧客から外貨を買う際に用いるレートです。
 企業側の視点からは、外貨を売る(外貨を円に交換する)際に用いるレートであり、例えば、海外からの入金や外貨預金の出金などに適用されます。

 TTMとは、Telegraphic Transfer Middleの略であり、TTSとTTBの仲値を意味します。
 会計上や税務上で一般的に用いられる為替レートはTTMです。

為替レート 企業側の視点
TTS 円を外貨に交換する(円→外貨)
TTB 外貨を円に交換する(外貨→円)
TTM TTSとTTBの仲値((TTS+TTB)÷2)

2.外貨建取引の換算レート

 法人税法上、外貨建取引を行った場合の円換算は、その外貨建取引を行ったとき(取引日)の為替レートにより換算し、為替レートはTTMを用いることとされています(法人税基本通達13の2-1-2)。

 ただし、継続適用を条件として、売上その他の収益または資産についてはTTB仕入その他の費用または負債についてはTTSを用いることもできます。

換算方法 換算レート
原則 TTM
例外 収益または資産:TTB
費用または負債:TTS

 また、同じく継続適用を条件として、取引日の為替レート以外に以下の為替レートによる換算も可能です。

(1) 取引日の属する月若しくは週の前月若しくは前週の末日又は当月若しくは当週の初日のTTB若しくはTTS又はこれらの日におけるTTM
(2) 取引日の属する月の前月又は前週の平均相場のように1月以内の一定期間におけるTTM、TTB又はTTSの平均値

換算方法 換算レート
原則 取引日の為替レート
例外 前月や前週の末日または当月や当週の初日の為替レート(一定時点の為替レート)
前月や前週の平均相場(一定期間の為替レートの平均値)

 上記のように、一定時点の為替レートや一定期間の為替レートの平均値による換算も認められているため、外貨建取引の多い会社では、実務的には例外的な方法により換算することも考えられます。

 ただし、1か月を超える期間(例えば四半期や半年など)、為替レートを固定することはできませんので注意しなければなりません。

3.会計処理(為替差損益の認識)

 以下の簡単な例によって、外貨建取引の会計処理を確認します。

(1) 取引発生時
 海外企業へ商品1,000ドルを売上げ、代金は掛けとした(当日の為替レート(TTM)は100円/ドル)。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
売掛金 100,000 売上 100,000

(2) 代金決済時
 上記取引における売掛金代金が普通預金に入金された(当日の為替レート(TTM)は120円/ドル)。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
普通預金 120,000 売掛金 100,000
    為替差益 20,000

 外貨建取引の売上金額や仕入金額の円換算は、原則として売上げや仕入れとして計上する日のTTMによることとされています。
 そのため、これらの売上金額が入金された場合や、仕入金額を支払った場合には、売上げや仕入れに計上した日と実際に円貨で決済した日との為替レートの差により、いわゆる為替差損益が発生します。

 なお、外貨建取引に伴う消費税の取扱いについては、上記(1)の商品を課税商品とすると貸方・売上は「輸出免税(0%課税)」となり、上記(2)の貸方・為替差益は「不課税(対象外)」となります。

賃上げ促進税制における1月未満の端数の取扱い

 賃上げ促進税制は、青色申告書を提出している中小企業者等が、前年度より給与等の支給額を一定の要件を満たした上で増加させた場合、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度です(関連記事:「中小企業者等の賃上げ促進税制《令和4年4月1日~令和6年3月31日開始事業年度》」)。

 従来の所得拡大促進税制よりも適用要件が簡素化されたとはいえ、判断に迷うケースもあります。
 例えば、決算期の変更や前事業年度が設立初年度である場合など、前事業年度と適用事業年度で月数が異なるケースです。

 今回は、前事業年度の月数と適用事業年度の月数が異なる場合の調整計算について確認します。

1.前事業年度の月数と適用事業年度の月数が異なる場合

 前述したように、決算期の変更や前事業年度が設立初年度である場合など、前事業年度と適用事業年度で月数が異なる場合は、「雇用者給与等支給額・比較雇用者給与等支給額」や「教育訓練費の額・比較教育訓練費の額」について調整の必要があります。

 この調整は、比較雇用者給与等支給額や比較教育訓練費の額において行います。具体的な計算方法は以下のとおりです(比較雇用者給与等支給額の調整のみ確認します)。

(1) 前事業年度の月数が適用事業年度の月数に満たない場合(前事業年度が6月以上の場合)

 次のとおり、前事業年度の雇用者給与等支給額を、適用事業年度の月数分に合わせて増加させる形で調整します。

比較雇用者給与等支給額= 前事業年度の雇用者給与等支給額×適用事業年度の月数÷前事業年度の月数

 例えば、前事業年度 が令和4年10月~令和5年3月(6か月決算)で、適用事業年度が令和5年4月~令和6年3月(12か月決算)の場合は、比較雇用者給与等支給額=前事業年度の雇用者給与等支給額×12÷6となります。 

(2) 前事業年度の月数が適用事業年度の月数に満たない場合(前事業年度が6月に満たない場合)

 次のとおり、適用事業年度の開始の日の前日から過去1年(適用事業年度が1年に満たない場合には適用事業年度の期間)以内に終了した各事業年度に係る雇用者給与等支給額の合計額を、適用事業年度の月数分に合わせて減少させる形で調整します。

比較雇用者給与等支給額= 適用事業年度の開始の日の前日から過去1年(適用事業年度が1年に満たない場合には適用事業年度の期間)以内に終了した各事業年度に係る雇用者給与等支給額の合計額×適用事業年度の月数÷適用事業年度の開始の日の前日から過去1年(適用事業年度が1年に満たない場合には適用事業年度の期間)以内に終了した各事業年度の月数の合計

 例えば、前々事業年度が令和4年1月~令和4年12月(12か月決算)で、前事業年度が令和5年1月~令和5年3月(3か月決算)、 適用事業年度が令和5年4月~令和6年3月(12か月決算)の場合は、比較雇用者給与等支給額=(前々事業年度+前事業年度の雇用者給与等支給額)×12÷(12+3)となります。

(3) 前事業年度の月数が適用事業年度の月数を超える場合

 次のとおり、前事業年度の雇用者給与等支給額を、適用事業年度の月数分に合わせて減少させる形で調整します。

比較雇用者給与等支給額= 前事業年度の雇用者給与等支給額 ×適用事業年度の月数÷前事業年度の月数

 例えば、前事業年度が令和4年4月~令和5年3月(12か月決算)で、適用事業年度が令和5年4月~令和5年9月(6か月決算)の場合は、比較雇用者給与等支給額=前事業年度の雇用者給与等支給額×6÷12となります。 

2.事業年度に1月未満の端数が生じる場合

 前事業年度と適用事業年度で月数が異なる場合の比較雇用者給与等支給額の調整計算は、上記1のとおりですが、いずれのケースも事業年度に1月未満の端数が生じていないことを前提としています。

 事業年度が令和5年10月1日~令和6年3月31日のような場合は、事業年度の月数を6か月とすることに疑問の余地はありません。
 では、事業年度が令和5年10月11日~令和6年3月31日のような場合は、事業年度の月数は5か月となるのでしょうか?それとも6か月となるのでしょうか?

 結論を先に述べると、答えは6か月となります。

 事業年度が令和5年10月11日~令和6年3月31日の場合の期間は5か月と21日ですが、10月に生じたこの21日という1月未満の端数については、賃上げ促進税制では1月とカウントします。

 根拠は、次の租税特別措置法施行令第27条の12の5(給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)第22項にあります。

22 第7項、第9項、第12項から第15項まで及び第18項から前項までの月数は、暦に従つて計算し、1月に満たない端数を生じたときは、これを1月とする。

 上記のとおり、賃上げ促進税制においては、1月未満の端数が生じたときは、これを1月とします。

2以上の事業を兼営している場合の貸倒引当金の法定繰入率

 貸倒引当金の繰入限度額は、個別評価金銭債権と一括評価金銭債権とに区分して計算します。

 このうち、一括評価金銭債権については、原則として「貸倒実績率」を用いて貸倒引当金の繰入限度額を計算しますが、中小法人等は貸倒実績率に代えて「法定繰入率」を用いて計算することもできます。

 この法定繰入率は、1つの法人に対して1つの繰入率が適用されますので、1つの法人が2以上の事業を兼営している場合に、どの法定繰入率を適用するかが問題となります。
 以下では、2以上の事業を兼営している場合の貸倒引当金の法定繰入率について確認します。

1.法定繰入率

 法定繰入率は、下表のように事業区分によって決められています。

事業区分 法定繰入率
卸売及び小売業(飲食店業及び料理店業を含み、割賦販売小売業を除く) 10/1000
製造業(電気業等を含む) 8/1000
金融及び保険業 3/1000
割賦販売小売業等 13/1000
上記事業以外の事業 6/1000

 法人の営む事業が、上表におけるどの事業に該当するかは、日本標準産業分類(総務省)の分類を基準として判定します。

2.主たる事業の判定基準

 法人が2以上の事業を兼営している場合に、どの事業に該当するか(どの法定繰入率を適用するか)については、措置法通達57の9-4に次のように定められています(下線は筆者による)。

57の9-4 法人が措置法令第33条の7第4項に掲げる事業の2以上を兼営している場合における貸倒引当金勘定への繰入限度額は、主たる事業について定められている割合により計算し、それぞれの事業ごとに区分して計算するのではないことに留意する。この場合において、いずれの事業が主たる事業であるかは、それぞれの事業に属する収入金額又は所得金額の状況、使用人の数等事業の規模を表す事実、経常的な金銭債権の多寡等を総合的に勘案して判定する。

 つまり、2以上の事業を兼営している場合は主たる事業の法定繰入率を用いて計算し、どの事業が主たる事業であるかについては、以下の(1)~(3)の項目等を総合的に勘案して判定することになります。

(1) 各事業に属する収入金額又は所得金額の状況
(2) 使用人の数等事業の規模を表す事実
(3) 経常的な金銭債権の多寡

 なお、自己の計算において原材料等を購入し、これをあらかじめ指示した条件に従って下請加工させて完成品として販売するいわゆる製造問屋の事業(製造と販売を兼営)は、措置法通達57の9-5において製造業に該当するとされています。

 また、措置法通達57の9-4(注)において、法人が2以上の事業を兼営している場合に、当該2以上の事業のうち一の事業を主たる事業として判定したときは、その判定の基礎となった事実に著しい変動がない限り、継続して当該一の事業を主たる事業とすることができるとされています。

交際費等から除かれる「1人当たり10,000円以下の飲食費」について

 2024(令和6)年度税制改正で、交際費等の範囲から除かれる一定の飲食費に係る金額基準が「1人当たり10,000円以下(改正前:5,000円以下)」に引き上げられました。
 以下では、この1人当たり10,000円以下の飲食費について確認します。

1.交際費等とは?

 交際費等とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者などに対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為(以下「接待等」といいます)のために支出するものをいいます。

 これらの交際費等は、会計上はその事業年度の費用として処理されますが、法人税の所得計算上は一定限度額までしか損金に算入されません。

 2024(令和6)年4月1日以後開始事業年度の交際費等の損金算入額は、下表のとおりです(表中における「接待飲食費」とは、飲食その他これに類する行為のために要する費用で、専らその法人の役員もしくは従業員またはこれらの親族に対する接待等のために支出するもの(社内飲食費)を除きます)。

企業規模 損金算入額
期末の資本金又は出資金の額が1億円以下の法人
※ 資本金又は出資金の額が5億円以上の会社の100%子会社等は、1億円超の法人と同じ取扱いとなります。
次のいずれかを選択できます。
(A)交際費等のうち、接待飲食費50%相当額以下の金額
(B)交際費等の金額の年800万円(定額控除限度額)以下の金額
期末の資本金又は出資金の額が1億円超の法人 交際費等のうち、接待飲食費50%相当額以下の金額
期末の資本金又は出資金の額が100億円超の法人 なし

2.交際費等の範囲から除かれるもの

 上記1のように、交際費等の損金算入には一定の制限がかかりますが、次に掲げる費用は交際費等から除かれます。つまり、損金算入の制限はありません。

(1) 専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用
(2) カレンダー、手帳、扇子、うちわ、手ぬぐいその他これらに類する物品を贈与するために通常要する費用
(3) 会議に関連して、茶菓、弁当その他これらに類する飲食物を供与するために通常要する費用
(4) 新聞、雑誌等の出版物または放送番組を編集するために行われる座談会その他記事の収集のために、または放送のための取材に通常要する費用
(5) 1人当たり10,000円以下の飲食費

 上記(5)の金額基準が、2024(令和6)年度税制改正において、1人当たり5,000円以下から10,000円以下に引き上げられました。

3.1人当たり10,000円以下の飲食費とは?

 1人当たり10,000円以下の飲食費とは、飲食その他これに類する行為のために要する費用で、その支出する金額を飲食等に参加した者の数で割って計算した金額が10,000円以下である費用をいいます。

 ただし、専らその法人の役員もしくは従業員またはこれらの親族に対する接待等のために支出するもの(社内飲食費)を除きます。

 また、この規定は次の事項を記載した書類を保存している場合に限り適用されます。

(1) 飲食等のあった年月日
(2) 飲食等に参加した得意先、仕入先その他事業に関係のある者等の氏名または名称およびその関係
(3) 飲食等に参加した者の数
(4) その飲食等に要した費用の額、飲食店等の名称および所在地(店舗がない等の理由で名称または所在地が明らかでないときは、領収書等に記載された支払先の氏名または名称、住所等)
(5) その他参考となるべき事項(その他飲食等に要した費用であることを明らかにするために必要な事項)

 なお、1人当たり10,000円以下の飲食費の判定や交際費等の額の計算は、法人の適用している消費税等の経理処理(税抜経理方式または税込経理方式)により算定した価額により行います。

4.飲食費に該当するもの・しないもの

 上記3の飲食費については、租税特別措置法に「飲食その他これに類する行為のために要する費用(社内飲食費を除きます。)」と規定されています。
 したがって、次のような費用については、社内飲食費に該当するものを除き、飲食費に該当します。

(1) 自己の従業員等が得意先等を接待して飲食するための「飲食代」
(2) 飲食等のために支払うテーブルチャージ料やサービス料等
(3) 飲食等のために支払う会場費
(4) 得意先等の業務の遂行や行事の開催に際して、弁当の差入れを行うための「弁当代」(得意先等において差入れ後相応の時間内に飲食されるようなもの)
(5) 飲食店等での飲食後、その飲食店等で提供されている飲食物の持ち帰りに要する「お土産代」

 一方、次の費用は飲食費に該当しません。

(1) ゴルフや観劇、旅行等の催事に際しての飲食等に要する費用
(2) 接待等を行う飲食店等へ得意先等を送迎するために支出する送迎費
(3) 飲食物の詰め合わせを贈答するために要する費用

※ 飲食等が催事とは別に単独で行われていると認められる場合、例えば、企画した旅行の行程の全てが終了して解散した後に一部の取引先の者を誘って飲食等を行った場合などは、飲食費に該当します。

5.保存書類への参加者の氏名等の具体的な記載方法

 上記3(2)で見たように、1人当たり10,000円以下の飲食費の規定の適用要件として、「飲食費に係る飲食等に参加した得意先、仕入先その他事業に関係のある者等の氏名又は名称及びその関係」を記載した書類を保存しなければなりません。

 これは、社内飲食費でないことを明らかにするためのものであり、飲食等を行った相手方である社外の得意先等に関する事項を「○○会社・□□部、△△◇◇(氏名)、卸売先」というように、原則として、相手方の氏名や名称の全てを記載する必要があります。

 ただし、相手方の氏名について、その一部が不明の場合や多数参加したような場合には、その参加者が真正である限りにおいて、「○○会社・□□部、△△◇◇(氏名)部長他10名、卸売先」という記載であっても差し支えないものとされています(氏名の一部又は全部が相当の理由があることにより明らかでないときには、記載を省略しても差し支えありません)。

 また、その保存書類の様式は法定されているものではありませんので、記載事項を欠くものでなければ、適宜の様式で作成して差し支えありません。

 なお、一の飲食等の行為を分割して記載すること、相手方を偽って記載すること、参加者の人数を水増しして記載すること等は、事実の隠ぺい又は仮装に当たりますのでご注意ください。

資本的支出に少額減価償却資産の損金算入の特例は適用できるか?

 2007(平成19)年4月1日以後に行った資本的支出は、原則として、その資本的支出の金額を取得価額とする減価償却資産を新たに取得したものとされます。
 では、その資本的支出の金額を取得価額として新たに取得したものとされる減価償却資産に、少額減価償却資産の損金算入の特例は適用できるのでしょうか?
 以下では、この点について確認します。

※ 少額減価償却資産の損金算入の特例については、本ブログ記事「30万円未満の少額減価償却資産の損金算入制度と別表16(7)の記載例」をご参照ください。

1.原則として適用不可

 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例(以下「少額資産の特例」といいます)とは、青色申告の中小企業者等が2006(平成18)年4月1日から2026(令和8)年3月31日までの間に取得し、又は製作し、若しくは建設し、かつ、当該中小企業者等の事業の用に供した減価償却資産で、その取得価額が30万円未満のものについては、その取得価額の合計額が300万円に達するまでは損金の額に算入できるという制度です(租税特別措置法第67条の5第1項)。

 2007(平成19)年度税制改正により、2007(平成19)年4月1日以後に行った資本的支出は、原則として、その資本的支出の金額を取得価額とする減価償却資産を新たに「取得」したものとされますが、この場合の「取得」は、少額資産の特例における「取得」又は「製作」若しくは「建設」に該当するのでしょうか?

 2007(平成19)年度税制改正において、資本的支出の金額を取得価額として、減価償却資産本体と種類及び耐用年数を同じくする減価償却資産を新たに取得したものとされたのは、減価償却資産本体に係る取得価額と区分して、資本的支出に係る費用を別の取得価額とすることにより、2007(平成19)年3月31日以前に取得された減価償却資産に対する資本的支出についても新しい償却方法により償却ができることとされるなど、償却限度額の計算上の単なる取得価額の区分に関するものであると考えられます

 したがって、資本的支出の金額を取得価額として新たに取得したものとされる減価償却資産であっても、既存の減価償却資産につき改良、改造等のために行った支出であることから、原則として、少額資産の特例における「取得し、又は製作し、若しくは建設し、かつ、当該中小企業者等の事業の用に供した減価償却資産」には該当しません(租税特別措置法関係通達67の5-3前段)。

※ 資本的支出がその資産全体の使用可能期間の延長又は価額の増加といった効果を与えるものであること及び資産本体と物理的に一体であることは、従前と変わりません。

2.例外的に適用可能

 しかしながら、資本的支出といってもその内容は様々であり、資産本体に単に付随して機能するようなものばかりでなく、その資本的支出自体が一個の資産として機能し、資産本体とは別個の資産として管理・償却を行うとしても問題のないものも見受けられ、既存の取扱いの中にも、そのようなものが存在します。

 例えば、その資本的支出の内容が規模の拡張である場合や単独資産としての機能の付加である場合など、実質的に新たな資産を取得したと認められる場合には、例外的に少額資産の特例を適用することができるとされています(租税特別措置法関係通達67の5-3後段)

 なお、「規模の拡張である場合や単独資産としての機能の付加である場合など」としては、例えば、ソフトウエアのバージョンアップを行った場合であって、既存の機能の強化・拡充にとどまらず、それ自体機能的独立性が高い新機能を追加した場合などが考えられます。

※ 個人に関しては、このような通達は発遣されていませんが、租税特別措置法の規定振りが法人と同様であることから、同じ結論になるものと考えられます。

令和6年10月1日から変わる税金・社会保険その他の主な制度

 2024(令和6)年10月1日から、税金や社会保険などにおいて制度変更が行われるものがあります。
 それらの中には、会社の経営や従業員の働き方などに影響を及ぼすものもありますので、どのような制度変更があるのかを確認しておくことは有意義であると思われます。
 以下では、令和6年10月1日から変更される主な制度について確認します。

1.中小企業倒産防止共済掛金の損金算入制限

 中小企業倒産防止共済制度(経営セーフティ共済)は、取引先事業者が倒産した際に無担保・無保証人で掛金の最大10倍(上限額8,000万円)の金額を借りることができ、中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度です。

 取引先の突然の倒産などの「もしも」のときに備えるというのが本来の目的ですが、掛金全額(1年間で最大240万円)を損金または必要経費に算入できることから、節税対策としても活用されています。

 一方、掛金の積立額は上限800万円とされており、上限に達した後は任意のタイミングで解約して解約手当金を受け取ることになりますが、この解約手当金は収益(益金または収入金額)となります。

 黒字のタイミングで解約すれば解約手当金がすべて課税対象となってしまい、せっかくの損金算入が単なる課税の繰り延べになってしまいますので、節税効果を活かすためには解約するタイミングは重要です。

 一般的には、赤字のタイミングで解約したり、役員退職金や大規模修繕などの大型の経費を計上するタイミングで解約して、解約手当金と相殺する方法があります。

 さらに、解約した後にすぐに再加入して、掛金(前納すれば最大240万円)と解約手当金を相殺するという方法が用いられることがありましたが、この部分が中小企業庁に不適切であると指摘され、見直しが行われました。

 その結果、2024(令和6)年10月1日以後に解約した中小企業倒産防止共済については、解約の日から2年を経過する日までの間に支出する掛金は損金算入することができないとされました。
 これにより、解約後すぐに再加入して節税するというスキームが封じられることになります。

 もし、再加入による掛金の損金算入を検討している場合は、令和6年9月30日までに現契約を一度解約した上で再加入する必要があります。

※ 損金算入制限については、「中小企業倒産防止共済の再加入後の損金算入制限に注意」をご参照下さい。

2.免税事業者等からの仕入れに係る経過措置の適用の制限

 インボイス制度の下では、免税事業者等(消費者、免税事業者又は登録を受けていない課税事業者)からの課税仕入れについては、仕入税額控除のために保存が必要なインボイスの交付を受けることができないことから、仕入税額控除を行うことができません。

 ただし、インボイス制度開始から一定期間(6年間)は、免税事業者等からの課税仕入れであっても、仕入税額相当額の一定割合(80%・50%)を仕入税額とみなして控除できる経過措置が設けられています。

期間 割合
令和5年10月1日から令和8年9月30日まで 仕入税額相当額の80%
令和8年10月1日から令和11年9月30日まで 仕入税額相当額の50%

 上記経過措置が2024(令和6)年度税制改正により見直しが行われ、一の免税事業者等から行う当該経過措置の対象となる課税仕入れの額の合計額がその年又はその事業年度で税込み10億円を超える場合には、その超えた部分の課税仕入れについて、本経過措置は適用できないこととされました。
 この改正は、2024(令和6)年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。

※ 経過措置については、「インボイス制度導入後の免税事業者からの仕入れに係る仕入税額控除の特例(経過措置)」をご参照下さい。

3.パート・アルバイトの社会保険加入義務の拡大

 パートやアルバイトで働く方の社会保険(健康保険及び厚生年金保険)加入義務の判定基準が、2024(令和6)年10月1日から変わります。

 パートやアルバイトで働く短時間労働者の方でも、一定の要件を満たす場合は社会保険に加入しなければなりません。
 一定の要件とは次の4要件をいい、これらの要件をすべて満たす場合は社会保険の加入義務が生じます。

(1) 週の所定労働時間が20時間以上であること
(2) 所定内賃金が月額8.8万円以上であること
(3) 2か月を超える雇用の見込みがあること
(4) 学生でないこと

 現在、厚生年金保険の被保険者数が101人以上の企業等で働く上記4要件を満たす短時間労働者は、社会保険の加入対象となっています。
 この短時間労働者の加入要件がさらに拡大され、令和6年10月1日から厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業等で働く短時間労働者の社会保険加入が義務化されます。

 今回の加入要件の拡大に伴い、該当するパート・アルバイトの方やその家族の生活、働き方の選択などに大きな影響を及ぼす可能性がありますので、事前に制度変更の周知を図る必要があります。

※ 加入要件の詳細については、「従業員51人以上の会社で働くパート・アルバイトの社会保険加入義務(令和6年10月1日~)」をご参照ください。

4.代表取締役等住所非表示措置

 現行の会社法においては、株式会社の代表取締役など会社の代表者は氏名と住所を登記する必要があり、登記後はその氏名と住所が登記簿上で公開されます。

 この登記簿上の代表者の住所について、2024(令和6)年10月1日から登記申請時に代表者の住所を非公開にすることができるという制度(代表取締役等住所非表示措置)が始まります。

 この措置により、登記事項証明書等で公開が必要だった代表者の氏名と住所のうち、住所を非公開にすることができるようになります。
 ただし、非公開にできるのは住所の一部であり、最小行政区画までは公開されます。つまり、市区町村(東京都においては特別区、指定都市においては区)までは公開されます。

 なお、代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合には、登記事項証明書等によって会社代表者の住所を証明することができないこととなるため、金融機関から融資を受けるに当たって不都合が生じたり、不動産取引等に当たって必要な書類(会社の印鑑証明書等)が増えたりするなど、一定の支障が生じることが想定されます。

 そのため、代表取締役等住所非表示措置の申出をする前に、このような影響があり得ることについて、慎重かつ十分な検討が必要です。

※ 制度の詳細については、「令和6年10月1日から登記申請時に社長の住所を非公開にできます」をご参照ください。

5.給与所得者の保険料控除申告書

 2024(令和6)年10月1日以後に提出する「給与所得者の保険料控除申告書」について、以下の「申告者との続柄」の記載を要しないこととされました。

(1) 社会保険料について、社会保険料のうちに自己と生計を一にする配偶者その他の親族が負担すべきものがある場合におけるこれらの者の申告者との続柄
(2) 新生命保険料及び旧生命保険料について、保険金、年金、共済金、確定給付企業年金、退職年金又は退職一時金の受取人の申告者との続柄
(3) 介護医療保険料について、保険金、年金又は共済金の受取人の申告者との続柄
(4) 新個人年金保険料及び旧個人年金保険料について、年金の受取人の申告者との続柄

6.地域別最低賃金の引き上げ

 最低賃金は、パート、アルバイト、正社員、臨時、嘱託など雇用形態や呼称の如何を問わず、すべての労働者に適用されます。

 近年は最低賃金引き上げの流れが続いており、2024(令和6)年度の全国加重平均は時給1,055円と過去最高となっており、引き上げ幅51円も過去最高となっています。
 令和6年度の地域別最低賃金を見ると、最高額は東京都の1,163円、最低額は秋田県の951円となっています。

 令和6年度地域別最低賃金は、令和6年10月1日から同年11月1日にかけて順次引き上げられる予定です。

※ 詳細については、「令和6年度地域別最低賃金が10月1日から順次引き上げられます」をご参照ください。

7.郵便料金の値上げ

 2024(令和6)年10月1日から郵便料金が値上げされます。主な郵便料金の変更内容は次のとおりです。

出所:日本郵便ホームページ

新紙幣発行に伴うシステム改修費の税務上の取扱い

 20年ぶりに肖像画のモデルが変更された新紙幣の発行が、本日(2024(令和6)年7月3日)から始まります。
 新紙幣は肖像画のモデル変更だけではなく、新技術による透かしや3Dホログラム等が導入されていますので、これまで使用していたレジシステムや自動券売機、自動販売機などは新紙幣への対応が必要になります。
 この新紙幣へ対応するためには、レジシステムなどのプログラム修正や部品の入替えなどをしなければなりませんが、1台当たり100万円以上かかるケースもあるため、その対応に苦慮している中小事業者もいます。
 今回は、このような新紙幣発行に伴うシステム改修費の税務上の取扱いについて確認します。

1.インボイス導入が類似事例として参考になる

 新紙幣発行に伴うシステム改修費の税務上の取扱い、すなわち、その改修費を資本的支出として資産計上しなければならないのか、修繕費として費用処理が可能なのかについては、国税庁が公表している法令解釈に関する情報(軽減税率導入の際の「消費税の軽減税率制度の実施に伴うシステム修正費用の取扱いについて」やインボイス導入の際の「消費税のインボイス制度の実施に伴うシステム修正費用の取扱いについて」)が類似事例として参考になります。

 これら法令解釈に関する情報に照らし合わせると、新紙幣発行に伴うプログラムの修正は「システムに従来備わっていた機能の効用を維持するために必要な修正を行うものである」ことから、「新たな機能の追加、機能の向上等に該当せず、これらの修正に要する費用は修繕費として取り扱われる」こととなります。

 ただし、プログラムの修正の中に、新たな機能の追加、機能の向上等に該当する部分が含まれている場合には、この部分に関しては資本的支出として取り扱うこととなります。

 なお、資本的支出であっても、修正に要した費用の額が20万円に満たない場合や、当該費用の額のうちに資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでない金額がある場合に、その金額が次のいずれかに該当するときは、修繕費として取り扱って差し支えありません。

① その金額が60万円に満たない場合
② その金額が、修正に係るソフトウエアの前期末における取得価額のおおむね10%相当額以下である場合

出所:国税庁ホームページ

2.新紙幣対応で利用できる補助金

 新紙幣への対応に苦慮している中小事業者は、手続きが煩雑なものもありますが、補助金を活用するのも一考です。
 例えば、中小企業の省力化を支援する「中小企業省力化投資補助金」は、パネル式券売機を導入すると最大1,500万円の補助を受けることができます。
 また、「IT導入補助金(インボイス枠)」は、インボイス制度に対応した会計ソフトの導入にあわせて券売機等を取得することで最大20万円の補助を受けることができます。
 さらに、自治体独自で支援策を講ずるところもありますので、一度問い合わせてみてはいかがでしょうか。