毎年7月10日は事務手続き期限の集中日

 毎年7月10日は、事務手続きの期限が集中します。代表的なものを挙げると、労働 保険(労災保険・雇用保険)の年度更新、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の算定基礎届、納期の特例(源泉所得税)、新年度の特別徴収住民税の納付開始などがあります。

 以下では、これらの手続きの概要について確認します。

1.労働保険の年度更新

 労災保険と雇用保険をあわせて労働保険といいます。

 労働保険の保険料は、前年4月1日から当年3月31日までの1年間を単位として計算し、その額はすべての労働者(雇用保険については被保険者)に支払われる賃金の総額※1に、その事業ごとに定められた保険料率を乗じて算定します※2

 事業主は、新年度の概算 保険料を納付するための申告・納付と、前年度の保険料を精算するための確定保険料の申告・納付の手続きが必要です。これを年度更新といいます。

 この年度更新の手続きは、毎年6月1日から7月10日までの間(土日祝日を除く)に行わなければなりません。

※1 賃金の総額には、通勤手当等の交通費(非課税分、現物支給の定期代等)を含みます。

※2 2025(令和7)年度の保険料率については、「令和7年度の雇用保険料率が改定されます(労災保険料率・子ども子育て拠出金率は据え置き)」をご参照ください。

2.社会保険の算定基礎届

 健康保険と厚生年金保険をあわせて社会保険といいます。

 事業主は、社会保険の被保険者の実際の報酬と標準報酬月額との間に大きな差が生じないように、7月1日現在で使用している全被保険者の当年3か月間(4月、5月、6月)に支払った給与等を算定基礎届によって届出をする必要があります。

 このように、毎年1回標準報酬月額の見直しを行うことを定時決定といい、見直し後の標準報酬月額は、原則として当年9月から翌年8月までの各月に適用されます。

 算定基礎届(届出用紙)は、6月中旬以降に事業所あてに送付され、5月中旬頃までに届出された被保険者の氏名、生年月日、従前の標準報酬月額等が印字されています※3

 算定基礎届の提出期間は、毎年7月1日から7月10日まで(10日が土曜または日曜の場合は、翌営業日が提出期限)とされています※4

※3 定時決定は、7月1日現在で事業所に在籍している全被保険者(従業員・役員)を対象として行われる標準報酬月額の見直しであるため、6月30日以前に退職・退任した従業員・役員については定時決定の対象外となります。
 したがって、6月30日以前に退職・退任した従業員・役員の情報が印字されている場合には、算定基礎届の「備考」欄の「9 その他」欄に「退職・退任年月」を記入します。

※4 算定基礎届送付時に同封されている返信用封筒により事務センターへ郵送する場合は、7月1日より前に郵送すると事務センターに届かずに戻ってくることがあるようですので、算定基礎届は提出期間内に提出する必要があります。

3.納期の特例

 事業主は、源泉徴収した所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」といいます)を、原則として、給与などを実際に支払った月の翌月10日までに国に納めなければなりません。

 ただし、給与の支給人員が常時10人未満である事業主は、源泉徴収した所得税等を半年分まとめて納めることができる特例があります。これを納期の特例といいます※5

 この特例の適用を受けていると、その年の1月から6月までに源泉徴収した所得税等は7月10日、7月から12月までに源泉徴収した所得税等は翌年1月20日が、それぞれ納付期限となります。

 ただし、この特例の適用対象となるのは、給与や退職金から源泉徴収をした所得税等と、税理士、弁護士、司法書士などの一定の報酬から源泉徴収をした所得税等に限られています※6

※5 納期の特例については、「納期の特例の要件である「常時10人未満」とは?」、「納期の特例はいつから適用される?」、「納期の特例の要件に該当しなくなった場合の届出と納期限」をご参照ください。

※6 納期の特例の対象とならない外交員報酬などについては、報酬を支払った月の翌月10日までに、源泉徴収した所得税等を納めなければなりません(関連記事:「外交員報酬に係る源泉徴収税額の計算方法」、「ホステス等に支払う報酬・料金の源泉徴収税額の計算方法」、「セミナー講師料を支払った場合の源泉徴収」)。

4.特別徴収した新年度の住民税の納付開始

 特別徴収とは、毎月の給与から差し引いた個人住民税を、事業主(給与支払者)が従業員(納税義務者)に代わり納付する制度で、所得税等の源泉徴収と同じ仕組みのものです。

 特別徴収義務者である事業主は、従業員の給与から個人住民税を毎月天引きして、翌月10日までに納付しなければなりません。

 新年度の個人住民税は6月に支給する給与から特別徴収を開始し、その特別徴収した新年度の個人住民税は、7月10日までに納付しなければなりません。年度が変わって特別徴収する個人住民税の額が変わりますので、注意が必要です。

 なお、毎月納付する手間を減らす方法として、源泉徴収した所得税等と同様に、従業員が常時10人未満である事業主には納期を年2回とする納期の特例が個人住民税にも認められています。

 源泉徴収した所得税等の納期限は7月10日(1月~6月徴収分)と1月20日(7月~12月徴収分)ですが、個人住民税の納期限は6月10日(12月~5月徴収分)と12月10日(6月~11月徴収分)となり、所得税等と個人住民税では納期限が異なります※7

※7 個人住民税を毎月納付する手間を減らすには、納期の特例を受けることになりますが、所得税等と納期限がズレていますので、それを煩雑に感じる場合もあります。
 そのような場合は、1年分(当年6月分~翌年5月分)の納付書を持参して一括納付することができる市区町村もあります。
 特に届出は必要ありませんが、市区町村によって取扱いが異なりますので、事前に市区町村に相談・確認する必要があります。

永年勤続表彰金は社会保険・労働保険・所得税の対象となるか?

1.社会保険の報酬に含まれるか?

 2023(令和5)年6月27日に改正された「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」に、永年勤続表彰金について以下の問答が追加されました。

問3 事業主が長期勤続者に対して支給する金銭、金券又は記念品等(以下「永年勤続表彰金」という。)は、「報酬等」に含まれるか。

(答) 永年勤続表彰金については、企業により様々な形態で支給されるため、その取扱いについては、名称等で判断するのではなく、その内容に基づき判断を行う必要があるが、少なくとも以下の要件を全て満たすような支給形態であれば、恩恵的に支給されるものとして、原則として「報酬等」に該当しない。
 ただし、当該要件を一つでも満たさないことをもって、直ちに「報酬等」と判断するのではなく、事業所に対し、当該永年勤続表彰金の性質について十分確認した上で、総合的に判断すること。
≪永年勤続表彰金における判断要件≫
① 表彰の目的
 企業の福利厚生施策又は長期勤続の奨励策として実施するもの。なお、支給に併せてリフレッシュ休暇が付与されるような場合は、より福利厚生としての側面が強いと判断される。
② 表彰の基準
 勤続年数のみを要件として一律に支給されるもの。
③ 支給の形態
 社会通念上いわゆるお祝い金の範囲を超えていないものであって、表彰の間隔が概ね5年以上のもの。


 この問答に示されているように、上記「永年勤続表彰金における判断要件」①②③を満たす永年勤続表彰金は原則として「報酬等」に該当せず、社会保険の対象とはなりません。

2.労働保険の賃金に含まれるか?

 労働保険における賃金総額とは、事業主がその事業に使用する労働者(年度途中の退職者を含みます)に対して賃金、手当、賞与、その他名称のいかんを問わず労働の対償として支払うすべてのもので、税金その他社会保険料等を控除する前の支払総額をいいます。
 永年勤続表彰金の労働保険における取扱いは、「行政手引50502(2)賃金と解されないものの例」に次のように記載されています。

ヌ 勤続褒賞金
 勤続年数に応じて支給される 勤続褒賞金は、一般的には、賃金とは認められない。


 したがって、永年勤続表彰金は一般的には「賃金」に該当せず、労働保険の対象とはなりません。

3.所得税における給与となるか?

 永年勤続表彰金の所得税における取扱いは、「国税庁タックスアンサーNo.2591創業記念品や永年勤続表彰記念品の支給をしたとき」によると、次に掲げる要件をすべて満たしていれば、給与として課税しなくてもよいことになっています。

(1) 創業記念などの記念品の場合
① 支給する記念品が社会一般的にみて記念品としてふさわしいものであること。
② 記念品の処分見込価額による評価額が10,000円(消費税および地方消費税の額を除きます。)以下であること。
③ 創業記念のように一定期間ごとに行う行事で支給をするものは、おおむね5年以上の間隔で支給するものであること。

(2) 永年勤続者に支給する記念品や旅行や観劇への招待費用の場合
① その人の勤続年数や地位などに照らして、社会一般的にみて相当な金額以内であること。
② 勤続年数がおおむね10年以上である人を対象としていること。
③ 同じ人を2回以上表彰する場合には、前に表彰したときからおおむね5年以上の間隔があいていること。

 なお、記念品の支給や旅行や観劇への招待費用の負担に代えて現金、商品券などを支給する場合には、その全額(商品券の場合は券面額)が給与として課税されます。
 また、本人が自由に記念品を選択できる場合にも、その記念品の価額が給与として課税されます。

賞与(ボーナス)の社会保険料と所得税の計算方法

 社会保険料(健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料)と雇用保険料は毎月の給与から控除(天引き)しますが、ボーナス(賞与)に対しても社会保険料・雇用保険料はかかります。
 ボーナスから控除する社会保険料や所得税の計算方法は、毎月の給与から控除する場合と計算方法が異なります(雇用保険料は、ボーナスの場合も毎月の給与の場合も計算方法は同じです)。
 以下では、ボーナスに対する社会保険料・雇用保険料及び所得税の計算方法と、ボーナス支給後の手続きについて確認します。

1.賞与に対する社会保険料の計算方法

出所:全国健康保険協会ホームページ

 毎月の社会保険料は標準報酬月額に基づいて計算しますが、ボーナスから控除する社会保険料は「標準賞与額」に基づいて計算します。
 標準賞与額とは、支給する賞与額の1,000円未満の端数を切り捨てた金額をいいます。この標準賞与額に保険料率を乗じて社会保険料を算出し、算出された社会保険料を事業主と被保険者が労使折半で負担します。

 例えば、2022(令和4)年12月にAさん(兵庫県在住の38歳の従業員で扶養親族は1人)に400,800円のボーナスを支給する場合、ボーナスから控除する社会保険料と雇用保険料は次のように計算します。

標準賞与額400,000円×健康保険料率10.13%×1/2=20,260円(健康保険料)
標準賞与額400,000円×厚生年金保険料率18.3%×1/2=36,600円(厚生年金保険料)
実際支給額400,800円×雇用保険料率5/1000=2,004円(雇用保険料)※
控除合計額20,260円+36,600円+2,004円=58,864円

※社会保険料計算では、1,000円未満の端数を切り捨てた標準賞与額に保険料率を乗じますが、雇用保険料計算の際は1,000円未満の端数を切り捨てずに保険料率を乗じます。

 また、2022(令和4)年12月にBさん(兵庫県在住の41歳の従業員で扶養親族は1人)に400,800円のボーナスを支給する場合、ボーナスから控除する社会保険料と雇用保険料は次のように計算します。

標準賞与額400,000円×健康保険料率11.77%×1/2=23,540円(健康保険料・介護保険料)
標準賞与額400,000円×厚生年金保険料率18.3%×1/2=36,600円(厚生年金保険料)
実際支給額400,800円×雇用保険料率5/1000=2,004円(雇用保険料)
控除合計額23,540円+36,600円+2,004円=62,144円

2.賞与に対する所得税の計算方法

出所:国税庁ホームページ

 ボーナスに対する社会保険料と雇用保険料の計算ができたら、次は「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を用いて、所得税(源泉徴収税額)の計算をします。
 所得税の計算方法は次のとおりです。

(1) まず、「前月の社会保険料等控除後の給与等の金額」を求めます。具体的には、その人の前月の給与額から前月の給与額に対する社会保険料・雇用保険料を差し引いた金額になります。
(2) 次に、その人の扶養親族等(源泉控除対象配偶者及び控除対象扶養親族)の数に応じて、(1)で求めた金額が記載されている行の「賞与の金額に乗ずべき率」を求めます。
(3) (2)で求めた率を、ボーナスの金額からボーナスにかかる社会保険料・雇用保険料を控除した金額に乗じて所得税を算出します。

 例えば、前月のAさんの給与が260,000円、社会保険料が37,102円、雇用保険料が1,300円だった場合、ボーナス400,800円に対する所得税は次のように計算します。

(1) 前月の給与額260,000円-前月の社会保険料37,102円-前月の雇用保険料1,300円=221,598円
(2) 扶養親族等の数が1人なので、(1)の金額は「94千以上243千円未満」の区分に該当し、賞与に乗ずべき率は2.042%。
(3) 所得税=(400,800円-58,864円)×2.042%=6,982円(円未満切捨て)

3.被保険者賞与支払届の提出

 事業主が被保険者および70歳以上被用者へ賞与を支給した場合は、支給日より5日以内に「被保険者賞与支払届」により支給額等を届出します。
 この届出内容により標準賞与額が決定され、これにより賞与の保険料額が決定されるとともに、被保険者が受給する年金額の計算の基礎となるものですので、忘れずに届出をしなければなりません。
 また、賞与にかかる保険料は、毎月の保険料と合算されて賞与支払月の翌月の「納入告知書(口座振替の場合は、納入告知額通知書)」で通知されます。

労働保険の年度更新の仕組みと会計処理(仕訳)

1.労働保険とは?

 労働保険は、労災保険(労働者災害補償保険)と雇用保険に分かれます。
 労災保険は、従業員が仕事中にけがをしたり通勤途中で事故にあった場合に、その治療費や診療費を負担する保険で、その保険料は事業主が全額負担します。
 雇用保険は、失業した場合に当面の生活費を補償する保険で、その保険料は負担割合に応じて事業主と従業員が負担します。

※ 2023(令和5)年度の雇用保険料率については、本ブログ記事「令和5年度雇用保険料率が改定されます」をご参照ください。

2.労働保険の年度更新とは?

 労働保険料を計算する期間を「保険年度」といい、毎年4月1日から翌年の3月31日までの1年間を単位とします。この1年間に支払われる賃金総額の見込額に事業の種類ごとに定められた保険料率を掛けて算出した概算保険料を、その年度の6月1日から7月10日までに当年度分(4/1~翌3/31)として労働基準監督署(ハローワーク等)へ申告・納付します。

 労働保険料の申告・納付では、当年度分の概算保険料だけではなく、前年度に支給された実際の賃金総額をもとに算定した確定保険料と前年度に納付した概算保険料との差額を精算します。この一連の手続きを「労働保険の年度更新」といいます。
 つまり、年度更新は、前年度の概算保険料の精算と当年度の概算保険料の納付という2つの手続きから成ります。
 概算保険料の精算は、前年度分の確定保険料が前年度に納付した概算保険料より多い場合は前年度の不足分を納付し、前年度分の確定保険料が前年度に納付した概算保険料より少ない場合は当年度の概算保険料の納付額に充当されます(原則として還付金は受け取りません)。

 なお、労働保険の年度更新の際には、労災保険料と雇用保険料の他に一般拠出金も納付します。
 一般拠出金とは、石綿(アスベスト)健康被害者の救済費用にあてるため創設されたもので、全額を事業主が負担します。

3.年度更新の会計処理

 労働保険の会計処理は、前年度の概算保険料を精算する必要があることから、他の社会保険(健康保険・厚生年金)より少し複雑です。
 会計処理上のポイントは、労働保険の手続きの流れと誰が保険料を負担するのかを理解することです。そのうえで、事業主負担分は法定福利費として費用処理し、従業員負担分は立替金などの勘定科目で処理します。

 労働保険の会計処理には、法人税法で認められている会計処理と期間帰属を重視した会計処理がありますが、ここでは実務的に有用な前者の会計処理について確認します。

【設例】
(1) 前年度(R4年度)の概算保険料329,200円の内訳
労災保険:85,800円
雇用保険:243,400円(事業主負担分162,300円 従業員負担分81,100円

(2) 前年度(R4年度)の確定保険料337,800円の内訳
労災保険:88,400円
雇用保険:249,400円(事業主負担分166,300円 従業員負担分83,100円

(3) 当年度(R5年度)の概算保険料393,200円の内訳
労災保険:88,400円
雇用保険:304,800円(事業主負担分194,000円 従業員負担分110,800円

※ 一般拠出金は省略します

(1) 前年度(R4年度)概算保険料の納付

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
法定福利費 248,100 ※2 現金預金 329,200
立替金 ※1 81,100 ※3    

※1 立替金勘定以外に「仮払金」勘定なども可
※2 事業主負担分:85,800+162,300=248,100
※3 従業員負担分:81,100
※4 (参考)R4年度(R4.4.1~R5.3.31)の給与支給時の仕訳(1年間の合計額)

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
給料手当 ××× 現金預金 ×××
    立替金 ※1 83,100 ※2

※1 立替金勘定以外に「預り金」勘定なども可
※2 前年度(R4年度)雇用保険(従業員負担分)の確定保険料

(2) 前年度(R4年度)概算保険料と確定保険料の精算

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
法定福利費 6,600 ※1 現金預金 8,600
立替金 2,000 ※2    

※1 事業主負担分:88,400+166,300-248,100=6,600
※2 従業員負担分:83,100-81,100=2,000

(3) 当年度(R5年度)概算保険料の納付

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
法定福利費 282,400 ※1 現金預金 393,200
立替金 110,800 ※2    

※1 事業主負担分:88,400+194,000=282,400
※2 従業員負担分:110,800

 年度更新の一連の流れに沿った会計処理(仕訳)を示すと、上記のようになります。あとは保険年度ごとに(2)と(3)の仕訳を繰り返し行っていくことになります。