免税事業者がインボイスの登録を受ける場合の2年縛りに注意!

 2023(令和5)年10月1日からインボイス制度がスタートしましたが、インボイス制度開始後も登録申請ができます。
 ただし、免税事業者がインボイスの登録を受ける場合は、消費税課税事業者選択届出書を提出していなくても、登録日から最低2年間は免税事業者に戻ることができない場合があります(いわゆる「2年縛り」です)。
 以下では、この2年縛りについて確認します。

1.免税事業者が経過措置期間中に登録を受ける場合

 免税事業者が、2023(令和5)年10月1日から2029(令和11)年9月30日までの日の属する課税期間中において、2023(令和5)年10月1日(=10月2日以後)に登録を受ける場合は、登録申請書に「提出日から15日以降の日」を登録希望日として記載することで、その登録希望日から登録を受けることとなる(=課税事業者となる)経過措置が設けられています。

 また、免税事業者が登録を受けるためには、原則として消費税課税事業者選択届出書を提出して課税事業者となる必要がありますが、この経過措置の適用を受けることとなる場合は、登録を受けるに当たり、課税事業者選択届出書を提出する必要はありません。

 なお、この経過措置の適用を受けてインボイス発行事業者の登録を受けた場合、基準期間の課税売上高にかかわらず、登録日から課税期間の末日までの期間について、消費税の申告が必要となります。

2.登録日の属する課税期間が令和5年10月1日を含まない場合は2年縛りあり

 上記の経過措置の適用を受ける登録日の属する課税期間が2023(令和5)年10月1日を含まない場合は、登録日の属する課税期間の翌課税期間から登録日以後2年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間については免税事業者となることはできません。

 例えば、免税事業者である個人事業者や12月決算法人が2023(令和5)年12月1日から登録を受ける場合は、登録日(R5.12.1)の属する課税期間(R5.1.1~R5.12.31)が2023(令和5)年10月1日を含みますので、2年縛りはありません。
 したがって、最短では2024(令和6)年1月1日から免税事業者に戻ることができます(登録取消届出書を、翌課税期間の初日から起算して15 日前の日までに提出する必要があります)。

 しかし、免税事業者である個人事業者や12月決算法人が2024(令和6)年1月1日から登録を受ける場合は、登録日(R6.1.1)の属する課税期間(R6.1.1~R6.12.31)が2023(令和5)年10月1日を含みませんので、2年縛りがあります。
 この場合は、登録日(R6.1.1)の属する課税期間(R6.1.1~R6.12.31)の翌課税期間(R7.1.1~R7.12.31)から登録日以後2年を経過する日(R7.12.31)の属する課税期間(R7.1.1~R7.12.31)まで免税事業者になることができません。
 したがって、課税事業者としての強制適用期間は、2024(令和6)年1月1日から2025(令和7)年12月31日までの2年間となります。

 また、免税事業者である個人事業者や12月決算法人が2024(令和6)年2月1日から登録を受ける場合も、登録日(R6.2.1)の属する課税期間(R6.1.1~R6.12.31)が2023(令和5)年10月1日を含みませんので、2年縛りがあります。
 この場合は、登録日(R6.2.1)の属する課税期間(R6.1.1~R6.12.31)の翌課税期間(R7.1.1~R7.12.31)から登録日以後2年を経過する日(R8.1.31)の属する課税期間(R8.1.1~R8.12.31)まで免税事業者になることができません。
 したがって、課税事業者としての強制適用期間は、2024(令和6)年2月1日から2026(令和8)年12月31日までの2年11か月間となります。

 上記のように免税事業者である個人事業者や12月決算法人を前提にすると、2024(令和6)年1月1日以降にインボイスの登録を受ける場合は、消費税課税事業者選択届出書を提出していなくても、2年縛りがあります。

 免税事業者がインボイスの登録を受ける場合の2年縛りの有無について、結論を示すと次のようになります。

2023(令和5)年10月1日を含む課税期間に、登録に係る経過措置の適用により登録を受ける場合は、「2年縛りなし
2023(令和5)年10月1日を含む課税期間の翌課税期間以後に、登録に係る経過措置の適用により登録を受ける場合は、「2年縛りあり

今日から始まるインボイス制度~Q&A~

 今日からインボイス制度が始まります。新しい制度の導入前後は混乱が生じやすいですが、事業者の皆さんは疑問点をクリアにして、実務対応を図る必要があります。
 今回は、FM宝塚「インボイス制度ってな~に?パート2」で本日の8:15からオンエアした内容を、Q&A形式でお伝えします。

※ 番組の概要については、本ブログ記事「FM宝塚で今年もインボイス制度等の解説をします」をご参照ください。

1.免税事業者と交渉の場を持つ

Q.課税事業者が免税事業者との取引(価格交渉など)において注意すべき点は?

A.取引上優越的な立場にある課税事業者が、インボイス制度実施後も免税事業者でいることを選択した事業者に対し、「課税事業者にならなければ消費税分は払わない」とか「取引を打ち切る」などと一方的に通告することは、下請法や独占禁止法上問題となるおそれがあります。

Q.課税事業者も法令違反になるのは避けたいところですが、具体的にはどのように免税事業者と取引すればいいでしょうか?

A.経過措置を思い出して下さい。

Q.経過措置とは、免税事業者からの仕入であっても、インボイス制度実施後(今日)から3年間は80%、その後の3年間は50%の仕入税額控除ができるというものでしたね。

A.はい。免税事業者との取引でも仕入税額控除が全くできないということではありませんので、いきなり消費税分を払わないなどと言わずに価格交渉の場を持ち、多少の妥協を含みながらも双方が納得できる着地点を探ることが大事です。一方的な通告はダメです。

2.令和5年10月1日前後の実務対応

Q.免税事業者の中には今回インボイスの登録申請をした方もいると思うのですが、インボイスの登録申請期限は9月30日(昨日)まででしたね。登録番号の通知はすぐに届くのでしょうか?

A.今のところ、e-Taxで申請した場合は通知が届くまで約1か月、郵送の場合は約2か月半かかるようです。駆け込みで登録申請した場合は、10月1日(今日)までに登録通知が届かないと思いますが、9月30日までに登録申請書を提出した場合は、10月1日(今日)から登録を受けたものとみなされます。

Q.とはいえ、登録通知が届かないということは、売り手が発行する請求書等に登録番号を記載できないということであり、インボイスの記載事項を欠くことになりますよね?登録通知が届くまでの間、売り手はどのように対応すればいいですか?

A.次の3つの方法が考えられます。

(1) 事前にインボイスの交付が遅れる旨を取引先に伝え、通知後にインボイスを交付する。
(2) 通知を受けるまでは登録番号のない請求書等を交付し、通知後に改めてインボイスを交付し直す。
(3) 通知を受けるまでは登録番号のない請求書等を交付し、その請求書等との関連性を明らかにした上で、インボイスに不足する登録番号を書類やメール等でお知らせする。

Q.継続的な取引関係がある事業の場合はこの3つの方法で対応ができますが、不特定多数の人を相手にする小売店や飲食店などの場合は、後でインボイスを交付したりメールで登録番号をお知らせしたりできないですよね?この場合はどうすればいいですか?

A.小売店等の売り手は、事前にインボイスの交付が遅れる旨をHPや店頭でお知らせした上で、次の2つの方法を採ることが考えられます。

(1) 登録通知が届いたら小売店等のHPや店頭で、「弊社の登録番号は『T1234・・・』です。令和5年10月1日から令和5年○月○日(通知を受けた日)までの間のレシート等をお持ちの方で仕入税額控除を行う方におきましては、当ページを印刷するなどの方法により、レシート等と併せて保存してください。」のように掲示して、広く一般に周知する方法。

(2) 買い手側から電話等で質問を受けたときに登録番号をお知らせし、その登録番号の記録とレシート等とを併せてインボイスとして保存してもらうという、インボイスが必要な人だけに対応する方法。

Q.売り手側ではこのような対応ができますが、いずれにしても登録番号の通知が届くまでは、登録番号を記載したインボイスを交付することができません。そうすると、登録番号のない請求書等を受け取った買い手がそのまま申告期限を迎えた場合、仕入税額控除を行っていいのかどうかという疑問が生じます。

A.この点については、事前に売り手からインボイス発行事業者の登録を受ける旨の連絡があったときは、申告期限後であってもインボイスや登録番号のお知らせを受け取るのであれば、登録番号のない請求書等に記載された金額を基礎として仕入税額控除を行うことができます。この場合は、事後的に交付されたインボイスや登録番号のお知らせを保存することが必要となります。

Q.インボイスがないまま仕入税額控除を行ったものの、後で売り手からインボイスや登録番号のお知らせをもらえなかった場合はどうすればいいですか?

A.そのような場合には、仕入税額控除を行った翌課税期間において、本来の控除税額との差額を調整することとして差し支えありません。

必ずしも10月1日以降からインボイスの交付義務が生じるのではない

1.インボイスの交付対象時期は10月1日以降の「取引」から

 2023(令和5)年10月1日から、現行の区分記載請求書等保存方式から新制度である適格請求書等保存方式(以下「インボイス制度」といいます)に切り替わります。

 インボイス制度が始まると、インボイス発行事業者である売り手には、取引の相手方(課税事業者に限ります)の求めに応じ、インボイスを交付する義務が課されます。
 しかし、必ずしも10月1日以降に交付する請求書等からインボイスの交付義務が生じるのではありません。

 インボイスの交付義務が生じるのは10月1日以降の取引からとされており、10月1日以降に交付(発行)する請求書等からインボイスに対応しなければならないわけではありません。

 例えば、令和5年9月中の取引(サービスの提供やモノの販売)について令和5年10月に請求書を交付する場合は、請求書の交付が10月1日以降であってもその請求書に記載されているのは9月中の取引であるため、インボイス対応の必要はありません。もちろん、令和5年9月以前の取引であっても、インボイス対応すること自体に問題はありません。
 
 一方、令和5年9月中に請求書を出し令和5年10月に取引を行う場合は、請求書の交付が9月中であってもその請求書に記載されているのは10月1日以降の取引であるため、インボイス対応の必要があります。
 この場合、サービスの提供やモノの販売の時点で新たにインボイスを交付するか、登録番号を通知して先に交付した請求書と併せて保存してもらうなどの対応が必要です。

 このように、インボイスの交付義務が生じるかどうかは、「交付日」ではなく「取引日」で判断します。

2.売り手の売上計上時期と買い手の仕入計上時期が異なる場合

 上記1の取扱いは、2023(令和5)年10月1日以後に売り手が行う課税資産の譲渡等及び買い手が行う課税仕入れについて適用されます。
 しかし、同じ取引であっても、売り手における売上げの計上時期と買い手における仕入れの計上時期が必ずしも一致しない場合があります。

 例えば、モノの販売において、売り手が出荷基準により令和5年9月に課税売上げを計上し、買い手が検収基準により令和5年10月に課税仕入れを計上するといったことも生じます。

 この場合、売り手においては、インボイス制度の開始前に行った取引であることから、買い手から当該取引についてインボイスの交付を求められたとしても、当該取引に係るインボイスの交付義務はありません。
 このため、買い手においては、原則として売り手における課税売上げの計上時期が令和5年10月1日以後のものとなる取引から、仕入税額控除の適用を受けるためにインボイス等を保存する必要があります。

 なお、上記の例のように、売り手における課税売上げの計上時期が令和5年9月となる取引については、買い手は区分記載請求書等保存方式により仕入税額控除の適用を受けることができます。

令和5年10月1日にインボイス登録通知が未達の場合の売り手の対応と買い手の仕入税額控除

 インボイス制度が始まる2023(令和5)年10月1日から登録を受けようとする事業者は、2023(令和5)年9月30日までに納税地を所轄する税務署長に登録申請書を提出しなければなりません。
 2023(令和5)年9月30日までに登録申請書を提出した場合は、制度開始日の2023(令和5)年10月1日までに登録通知が届かなかったとしても、同日から登録を受けたものとみなされます。
 しかし、登録通知が届かないということは、売り手が発行する請求書等に登録番号を記載できないということであり、インボイスの記載事項を欠くことになります。
 そうすると、登録番号のない請求書等を受け取った買い手がそのまま申告期限を迎えた場合、仕入税額控除を行っていいのかどうかという疑問が生じます
 以下では、登録申請手続を2023(令和5)年9月30日までに行ったものの、同年10月1日までに登録番号の通知が届かなかった場合の売り手のインボイスの交付と買い手の仕入税額控除について確認します。

※ 国税庁が2023(令和5)年8月25日に更新した情報によると、登録申請書を提出してから登録通知が届くまでの期間が1か月~2か月半と想定されていますので、記載事項を満たしたインボイスを受領しないまま申告期限を迎える可能性はあります。
 登録通知時期の目安等については、本ブログ記事「令和5年10月1日(日)からインボイス発行事業者になる場合の登録申請期限と登録通知時期の目安」をご参照ください。

1.売り手の対応①:インボイスの事後交付・再交付・登録番号の別途通知

 インボイスを交付しなければならないタイミングまでに登録番号の通知が届かない場合、売り手は例えば次のように対応することが考えられます。

(1) 事前にインボイスの交付が遅れる旨を取引先に伝え、通知後にインボイスを交付する。
(2) 取引先に対して、通知を受けるまでは登録番号のない請求書等を交付し、通知後に改めてインボイスを交付し直す。
(3) 取引先に対して、通知を受けるまでは登録番号のない請求書等を交付し、その請求書等との関連性を明らかにした上で、インボイスに不足する登録番号を書類やメール等でお知らせする。

2.売り手の対応②:小売業等の事後交付等が困難な場合

 小売業等の不特定かつ多数の者に対して事業を行う場合には、上記1の事後交付等の対応が困難な場合があると考えられます。
 そのため、小売店などを営む事業者が不特定かつ多数の者に登録番号のないレシート等を交付している場合、売り手は事前にインボイスの交付が遅れる旨を事業者のHPや店頭にてお知らせした上で、例えば次のように対応することが考えられます。

(1) 当該事業者のHP等において、以下のように掲示する。
「弊社の登録番号は『T1234・・・』となります。令和5年10月1日から令和5年○月○日(通知を受けた日)までの間のレシート等をお持ちの方で仕入税額控除を行う方におきましては、当ページを印刷するなどの方法により、レシート等と併せて保存してください。」
(2) 買い手側から電話等を受け、その際に登録番号をお知らせし、買い手側においてその登録番号の記録とレシート等とを併せてインボイスとして保存してもらう。

 なお、これらの取扱いは、登録申請手続を令和5年9月30日までに行ったものの、令和5年10月1日までに登録番号の通知が届かなかった場合における経過的な取扱いとなります。
 したがって、登録番号の通知が届き、登録番号を記載したインボイスを交付できるようになった日以降は、記載事項を満たしたインボイスを交付する必要があります。

3.売り手が登録申請中であることを以って買い手は仕入税額控除できるか?

 売り手の対応は上記1及び2のとおりですが、いずれにしても登録番号の通知が届くまでは、登録番号を記載したインボイスを交付することができません。
 そうすると、登録番号のない請求書等を受け取った買い手がそのまま申告期限を迎えた場合、仕入税額控除を行っていいのかどうかという疑問が生じます。

 この点については、事前に売り手からインボイス発行事業者の登録を受ける旨の連絡等があったときは、申告期限後に記載事項を満たすインボイスを受領する又は登録番号のお知らせを受けることとなった場合であっても、登録番号のない請求書等に記載された金額を基礎として仕入税額控除を行うこととして差し支えないとされています。
 この場合には、事後的に交付されたインボイスや登録番号のお知らせを保存することが必要となります。
 なお、事後的にインボイスの交付等を受けることができなかった場合には、仕入税額控除を行った翌課税期間において、本来の控除税額との差額を調整することとして差し支えないとされています。

※ 基準期間における課税売上高が1億円以下又は特定期間における課税売上高が5千万円以下の事業者は、税込1万円未満の課税仕入れについて、インボイスの保存がなくても帳簿の保存のみで仕入税額控除が可能とされています(少額特例)。
 そのため、この少額特例の適用対象となる買い手においては、こうした課税仕入れについて上記のような対応は必要ありません。

令和5年10月1日(日)からインボイス発行事業者になる場合の登録申請期限と登録通知時期の目安

 国税庁は、2023(令和5)年8月25日にインボイスの登録件数等の情報を更新しました。
 これによると、2023(令和5)年7月末現在の登録件数は3,420,017件となっており、申請ベースでは約370万件の登録申請書の提出があったようです。
 インボイス制度がスタートする2023(令和5)年10月1日まで約1か月の期間となりましたので、今後は駆け込みで登録申請をする事業者もいるものと思われます。
 今回は、2023(令和5)年10月1日からインボイス発行事業者になる場合の、登録申請期限の注意点と登録通知が届くまでの期間の目安について確認します。

1.登録申請期限の注意点

 インボイス制度が始まる2023(令和5)年10月1日から登録を受けようとする事業者は、2023(令和5)年9月30日までに納税地を所轄する税務署長に登録申請書を提出しなければなりません。
 2023(令和5)年9月30日までに登録申請書を提出した場合は、制度開始日の2023(令和5)年10月1日までに登録通知が届かなかったとしても、同日から登録を受けたものとみなされます。

 登録申請書を提出する際に注意しなければならないのは、申請期限である9月30日が土曜日であるという点です。
 この場合、インボイスの登録申請期限はあくまでも9月30日(土)であって、消費税の申告期限のように10月2日(月)に延長されることはありません。

 また、登録申請書の提出方法によっては、次のように申請期限が異なります。

(1) e-Taxの場合は、9月30日(土)の23:59:59までの受付となります。
(2)郵送の場合は、9月30日(土)の通信日付印のあるものまでとなります。
(3)窓口提出の場合は、9月29日(金)の閉庁時間(17:00)までとなります。

 なお、郵送により提出する場合の送付先は、各国税局のインボイス登録センターとなります(参考:国税庁ホームページ「郵送による提出先のご案内」)。

2.登録通知が届くまでの期間

 国税庁が2023(令和5)年8月25日に更新した情報によると、登録通知が届くまでの期間の目安は次のようになっています。

(1) e-Tax提出の場合は、提出から約1か月
(2) 書面提出の場合は、提出から約2か月半

 また、登録通知時期の目安は次のようになっています。

提出時期 登録通知までの目安
e-Tax提出分 書面提出分
5月16日~5月31日 登録通知は送付済みです 8月下旬
6月1日~6月15日 9月上旬
6月16日~6月30日 9月下旬
7月1日~7月15日 登録通知の送付が10月以降になる場合があります
7月16日~7月31日 8月下旬
8月1日~8月15日 9月上旬
8月16日~8月31日 9月下旬

インボイス制度後の免税事業者との取引は独占禁止法・下請法違反に注意

1.免税事業者のジレンマと相談事例

 インボイス制度の施行が近づき、免税事業者の方からインボイス発行事業者として登録すべきか否かというご相談が増えています。
 多くの免税事業者の方は、取引先には迷惑をかけたくないという意思がある一方で、インボイスの登録をするとご自身に消費税の納税義務が生じるという点でジレンマに陥っています。
 ご相談の中には、取引先から「インボイスの登録をして課税事業者になれば請求額に消費税分を上乗せしてもよいという提案を受けた」事例※1もありますが、「インボイスの登録をしない場合は従前の契約単価を引き下げることを文書で通知された」事例もあります。
 また、「インボイスの登録をしたら従前の契約単価を引き上げるという提案を受けてインボイスの登録をしたが、ふたを開けてみれば、その取引先との主要な業務の単価は据え置かれていて、これまでほとんど実績のない業務の方の単価だけが引き上げられていた」という事例もあります。
 これらの事例の中には、独占禁止法や下請法上問題となるケースも含まれています。今回は、インボイス制度の実施を契機として、免税事業者との取引において課税事業者側が注意すべき点を確認します。

※1 詳しくは、本ブログ記事「インボイス登録すれば外税請求できると提案され・・・」をご参照ください。

2.独占禁止法上又は下請法上の考え方

 事業者がどのような条件で取引するかについては、基本的に、取引当事者間の自主的な判断に委ねられるものですが、免税事業者等の小規模事業者は、売上先の事業者との間で取引条件について情報量や交渉力の面で格差があり、取引条件が一方的に不利になりやすい場合も想定されます。
 したがって、取引上優越した地位にある事業者が、経過措置※2により一定の範囲で仕入税額控除が認められているにもかかわらず、取引先の免税事業者に対し、インボイス制度の実施後も課税事業者に転換せず免税事業者を選択する場合に、消費税相当額を取引価格から引き下げるなどと一方的に通告することは、独占禁止法上問題となるおそれがあります※3
 また、下請法上の親事業者が、経過措置※2により一定の範囲で仕入税額控除が認められているにもかかわらず、取引先の免税事業者である下請事業者に対し、インボイス制度の実施後も課税事業者に転換せず免税事業者を選択する場合に、消費税相当額を取引価格から引き下げるなどと一方的に通告することは、下請法上問題となるおそれがあります※4

※2 免税事業者からの課税仕入れについては、インボイス制度の実施後3年間は、仕入税額相当額の8割、その後の3年間は同5割の控除ができることとされています。詳しくは本ブログ記事「インボイス制度導入後の免税事業者からの仕入れに係る仕入税額控除の特例(経過措置)」をご参照ください。

※3 独占禁止法上問題となるのは、行為者の地位が相手方に優越していること、また、免税事業者が今後の取引に与える影響等を懸念して、行為者による要請等を受け入れざるを得ないことが前提となります。

※4 事業者(買手)と免税事業者である仕入先との取引が、下請法にいう親事業者と下請事業者の取引に該当する場合であって、下請法第2条第1項から第4項までに規定する①製造委託、②修理委託、③情報成果物作成委託、④役務提供委託に該当する場合には、下請法の規制の対象となります。
 なお、下請法と独占禁止法のいずれも適用可能な行為については、通常、下請法が適用されます。

3.独占禁止法・下請法上問題となる事例

 財務省ホームページには、独占禁止法や下請法に違反する又は違反するおそれがある行為として、以下の事例が掲載されています。

出所;財務省ホームページ

コンサル業等のインボイスに具体的な「取引年月日」の記載は必要か?

1.インボイスの記載事項に誤りがあった場合

 2023(令和5)年10月1日からインボイス制度(適格請求書等保存方式)がスタートします。
 インボイス制度の下では、原則としてインボイスの保存及び帳簿の保存が仕入税額控除の要件となっています。したがって、インボイスの保存が必要であることは言うまでもありませんが、インボイスには記載事項が定められており、その記載事項を欠くものはインボイスとは認められませんので、「正しい」インボイスを保存しなければなりません。
 もし、交付を受けたインボイスの記載事項に誤りがあった場合は、そのインボイスの発行者(売り手)から修正したインボイスの交付を受けなければ、買い手は仕入税額控除をすることができません。自ら修正や追記を行うことはできませんので、ご注意ください。
 一方、インボイスの発行者である売り手は、買い手に対して修正したインボイスを再交付しなければなりません。

2.インボイスの記載事項の確認が必要

 インボイス制度がスタートすると、買い手側では交付を受けたインボイスが正しく記載されているかどうかを確認しなければなりません。インボイスの記載事項に誤りがあれば、修正したインボイスの発行・受領が必要になりますので、売り手側にも買い手側にも追加的な作業が発生し、事務が煩雑になります。
 そのようなことが無いように、まずは売り手側において自ら発行するインボイスの記載事項に漏れ等が無いように点検しておくことが大事です。
 インボイスの記載事項は、次のとおりです。

① 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
② 取引年月日
③ 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
④ 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜き又は税込み)及び適用税率
⑤ 税率ごとに区分した消費税額等
⑥ 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

 下図は、飲食料品や日用雑貨の卸売業者が取引先に対して発行するインボイスの記載例です(図中の①~⑥の番号は上記①~⑥に対応しています)。

出所:国税庁ホームページ

3.コンサル業務の取引年月日を特定できない場合

 インボイスの記載事項は、業種にかかわりなく上記2のように定められていますが、ここで若干の疑問が生じます。
 上記2の記載例は卸売業のものでしたが、例えばコンサル業を営む事業者の場合、上記2の記載例における②取引年月日はどのように記載すればいいのでしょうか?
 卸売業の場合は、実際の納品日を取引年月日として記載することに疑問の余地はありませんが、コンサル業においては取引年月日を明確に示すことはできるのでしょうか?

 コンサルタントは、専門知識や経験を活かしてクライアントの問題点を解決するための方策を提示することを業務としています。
 例えば社員研修などの案件単位の依頼であれば、社員研修を実施した日を取引年月日として記載すれば問題ありません。
 しかし、案件単位ではなく継続的なコンサルティング業務を依頼された場合は、取引内容を「顧問料」や「相談料」などとして報酬を請求しますが、明確にコンサル業務を行った日を特定することが難しい場合もあります。
 このような場合には、具体的な年月日を記載しなくても、「○年△月分」(例えば、2023年11月分など)と記載すれば問題はありません。3か月分をまとめて請求するのであれば、2023年10月分~12月分などと記載します。

FM宝塚で今年もインボイス制度等の解説をします

 2023(令和5)年10月1日から始まるインボイス制度と2024年(令和6)年1月1日から全面的に施行される電子帳簿保存法について、今年もFM宝塚で解説をさせていただくことになりました(提供:宝塚商工会議所)。

 令和5年度税制改正でインボイス制度と電子帳簿保存法の何が変わったのか?
 免税事業者はインボイス発行事業者として登録した方がいいのか?
 登録するかどうかは何を基準に判断すればいいのか?
 電子帳簿保存法で最低限対応しなければならないのは何か?
 猶予措置によって電子帳簿保存法への対応を焦らなくてもよくなった?

などについて、パーソナリティーの芦田純子さんと一緒に解説をしていきます。

 インボイス制度や電子帳簿保存法への対応を「そのうちに考えよう」と先延ばしにしてきた事業者の方も、制度開始が間近に迫っていますので、本腰を入れて考えなければなりません。
 どのように対応したらいいのか、あるいは対応しなくてもいいのかについて、この放送を判断材料にしていただければと思います。

 番組名は「インボイス制度ってな~に?パート2」で、2023(令和5)年7月2日(日)より毎週日曜日の8:15~8:30に放送します(第5週目の日曜日は放送はありません)。放送回数は全20回です(再放送を含みます)。

放送日 内容
7月 2日 インボイス制度の基本をおさらい
9日 インボイス制度の基本をおさらい(再)
16日 登録制度の見直しと手続きの柔軟化
23日 登録制度の見直しと手続きの柔軟化(再)
8月 6日 2割納税の特例!
13日 2割納税の特例!(再)
20日 2割納税の特例と簡易課税はどちらが有利?
27日 2割納税の特例と簡易課税はどちらが有利?(再)
9月 3日 少額特例と少額返還インボイスの交付義務免除
10日 少額特例と少額返還インボイスの交付義務免除(再)
17日 インボイスなしで仕入税額控除する!?
24日 インボイスなしで仕入税額控除する!?(再)
10月 1日 あなたの質問にお答えします
8日 あなたの質問にお答えします(再)
15日 電子帳簿保存法のよくある誤解
22日 電子帳簿保存法のよくある誤解(再)
11月 5日 電子データ保存の鍵
12日 電子データ保存の鍵(再)
19日 あなたの質問にお答えします
26日 あなたの質問にお答えします(再)

インボイスの保存がなくても仕入税額控除が認められる「少額特例」とは?

 2023(令和5)年10月1日からインボイス制度(適格請求書等保存方式)がスタートします。このインボイス制度は、免税事業者を中心に多くの事業者へ影響を及ぼすことから、その影響を緩和するために、2023(令和5)年度税制改正で以下の負担軽減措置(支援措置)が講じられました。

(1) 売上税額の2割を納税額とする「2割特例」
(2) 帳簿保存のみで仕入税額控除ができる「少額特例」
(3) 少額な返還インボイスの交付義務の免除
(4) 登録制度の見直しと手続きの柔軟化

 今回は、上記の負担軽減措置のうち、(2)の「少額特例」の内容を確認します。

1.少額特例の内容

 「少額特例」は、インボイス制度への移行後6年間に限り、一定規模以下の事業者が行う1万円未満の課税仕入れについては、インボイスの保存がなくても帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるという事務負担の軽減措置です。
 具体的な内容は、以下のとおりです。

(1) 適用対象期間

 本特例は、2023(令和5)年10月1日から2029(令和11)年9月30日までの期間が適用対象期間となり、その間に行う課税仕入れに適用されます。
 そのため、たとえ課税期間の途中であっても、2029(令和11)年10月1日以後に行う課税仕入れについては適用されません。
 例えば、2029(令和11)年1月1日~同年12月31日を課税期間とする個人事業者や12月決算法人は、2029(令和11)年9月30日までは本特例を適用できますが、残りの3か月(10月1日~12月31日)は税込1万円未満の課税仕入れでもインボイスの保存が必要となります。
 なお、本特例は、少額(税込1万円未満)の課税仕入れについてインボイスの保存を不要とするものであり、インボイス発行事業者の交付義務が免除されているわけではありませんので、インボイス発行事業者は課税事業者からインボイスを求められた場合には交付する必要があります。

(2) 適用対象者

 基準期間※1における課税売上高が1億円以下又は特定期間※2における課税売上高が5,000万円以下の事業者が、適用対象者となります。
 なお、特定期間における課税売上高の判定に当たり、課税売上高に代えて給与支払額の合計額で判定することはできません。

※1 「基準期間」とは、個人事業者の場合はその年の前々年、事業年度が1年である法人の場合はその事業年度の前々事業年度のことをいいます。
※2 「特定期間」とは、個人事業主については前年1月から6月までの期間をいい、法人については前事業年度開始の日以後6月の期間をいいます。

(3) 課税仕入れの金額の判定

 本特例の対象となる1万円未満かどうかの判定は、税込価額で行います。
 また、その金額の判定単位は、課税仕入れに係る1商品ごとの金額により判定するのではなく、1回の取引の合計額が税込1万円未満であるかどうかにより判定します。
 例えば、8,000円の商品と7,000円の商品を同時に購入した場合、1商品ごとの金額は1万円未満になりますが、1回の取引の合計額が15,000円になりますので、少額特例の対象とはなりません。

2.少額特例とは別の「保存が免除される取引」

 少額特例は、インボイスの保存がなくても帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるという特例ですが、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる別の規定もあります。
 例えば、個人からマイホームやマイカーを買い取ることが多い不動産業者や中古車販売業者などは、取引の相手方である個人からインボイスの発行を受けることができません。
 このような個人からの仕入れが多い事業者には、インボイスの交付を受けることが困難であるなどの理由により、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる例外的な措置が講じられています。
 この例外的な措置については、本ブログ記事「インボイス制度導入後の個人(消費者)からの仕入れに係る仕入税額控除」をご参照ください。
 

国税庁からのお知らせ(インボイス負担軽減措置など)が届きました

 国税庁では、インボイス制度について更なる周知を行うため、案内文等を個人事業者及び法人に対して、税理士関与の有無やインボイス発行事業者の登録の有無を問わず、以下のとおり送付することを予定しています。

1.e-Tax利用者の場合

 e-Tax利用者については、e-Taxメッセージボックスへメッセージが格納されます。
 メッセージ格納時期は、個人事業者は2023(令和5)年4月17日(月)から5月26日(金)まで、法人は2023(令和5)年4月26日(水)から4月28日(金)までとなっています。
 当事務所の関与先(法人)のメッセージボックスにも、2023(令和5)年4月27日(木)15:00前後に次のようなメッセージが続々と格納されています。

 メッセージボックスの画面上の「関連ページの確認」に記載されている「インボイス制度に係る負担軽減措置などのお知らせ(国税庁ホームページ)」をクリックすると、次の案内文(国税庁からのお知らせ)が開きます。

出所:国税庁ホームページ

2.e-Tax未利用者の場合

 e-Tax未利用者については、ダイレクトメール(メール便)が送付されます。
 発送時期は2023(令和5)年5月12日(金)頃から5月末までで、国税庁指定の業者から次の封筒で順次発送されます(差出人・返還先名は、大阪国税局課税第二部消費税課となっています)。

 送付物は、以下の案内文と税制改正リーフレットです。

出所:国税庁ホームページ