旅行業者の売上は契約内容によっては純額で計上できる!

1.総額主義と純額主義

 企業会計原則では、「費用及び収益は、総額によって記載することを原則とし、費用の項目と収益の項目とを直接に相殺することによってその全部又は一部を損益計算書から除去してはならない。」とされています。これを総額主義といいます。
 例えば、1,000万円で仕入れた商品を1,200万円で売った場合は、損益計算書の表示は次のようになります。

 売 上 高  1,200万円
 仕 入 高  1,000万円
 売上総利益   200万円

 これに対して、費用の項目と収益の項目を相殺する純額主義による損益計算書の表示は次のようになります。

 売 上 高   200万円
 仕 入 高    0万円
 売上総利益   200万円

2.法人税と消費税への影響

 総額主義が原則とされていますので、会計処理も売上と仕入を両立する総額による処理(以下、本記事では総額主義による会計処理を「総額処理」といい、純額主義による会計処理を「純額処理」といいます)を行い、税務署等には総額主義による決算書を提出します。
 しかし、総額処理でも純額処理でも利益は200万円になりますので、法人税等の計算には影響がないといえます。
 
 一方、消費税の計算には大きな影響があります。
 総額処理によると売上が1,000万円を超えていますので、2年後は消費税の課税事業者と判定されるのに対し、純額処理では売上が1,000万円以下ですので、2年後は免税事業者と判定されます。
 もちろん、消費税では総額処理により課税事業者・免税事業者の判定を行います。

 ところが、旅行業者については、契約の内容によっては純額処理により売上を計上することができます。

3.企画旅行と手配旅行

 旅行業者が取り扱う旅行契約は、「企画旅行」と「手配旅行」に大別されます。
企画旅行は、さらに「募集型」と「受注型」に分かれます。
 「募集型企画旅行」は、旅行業者があらかじめ目的地・日程等の旅行内容や旅行代金を定めた旅行計画を作成し、パンフレット・広告などにより参加者を募集してその旅行を実施するものです。パッケージツアーまたはパック旅行といわれるものがこれにあたります。
 「受注型企画旅行」は、旅行業者が旅行者の依頼により目的地・日程等の旅行内容や旅行代金を定めた旅行計画を作成し、その旅行を実施するものです。学校の修学旅行や企業の慰安旅行などがこれにあたります。
 「手配旅行」は、旅行者のため又は運送機関や宿泊施設等のために、サービスの提供について代理して契約を締結、媒介、取次ぎをすることをいいます。JR券、航空券、宿泊券等の予約・手配がこれにあたります。

4.企画旅行は総額処理、手配旅行は純額処理

 売上の計上方法は、企画旅行は総額処理、手配旅行は純額処理になります。

(1) 企画旅行の場合・・・総額処理

 例えば、当社が企画・主催したパック旅行54,000円を旅行者に販売し、新幹線のチケット代32,400円とホテルの宿泊代10,800円(それぞれ実費)をJRとホテルに支払ったときの会計処理は、次のようになります。

 (現金預金)54,000(旅行売上)54,000
 (旅行仕入)43,200(現金預金)43,200

 企画旅行の場合は、新幹線のチケット代とホテルの宿泊代などの実費43,200円を課税仕入、パック旅行代金54,000円を課税売上として認識します。

(2) 手配旅行の場合・・・純額処理

 例えば、旅行者のために新幹線のチケット代32,400円とホテルの宿泊代10,800円(それぞれ実費)を手配し、これに手数料10,800円を上乗せして54,000円で旅行者に販売したときの会計処理は、次のようになります。

 ① 旅行者に販売時
 (現金預金)54,000(旅行売上)10,800
            (預 り 金)43,200
 ② 業者に支払時
 (預 り 金)43,200(現金預金)43,200

 手配旅行の場合は、新幹線のチケット代とホテルの宿泊代などの実費43,200円は、預り金などの通過勘定で処理し、実費に上乗せした手数料10,800円を課税売上(役務の提供の対価)として認識します。

(3) 企画旅行の例外的処理・・・純額処理

 他社が主催するパック旅行を仕入れて販売する場合や、実質が手配旅行契約と認められるもの(手配の集合体方式)については、上記(2)「手配旅行」の場合と同じ純額処理になります。

予定納付額の計算は「×6」が先か「÷12」が先か?

1.中間申告の方法

 事業年度が6か月を超える法人は、前事業年度の確定法人税額が20万円を超えた場合に、事業年度開始の日から6か月を経過した日から2か月以内に中間申告書(予定申告書)を提出しなければなりません。
 この中間申告には次の2つの方法があり、いずれかを選択することができます。

(1) 前年度実績による予定申告
 「前事業年度の確定法人税額×6/前事業年度の月数」で計算した税額を中間分の税額として予定申告します。
(2) 仮決算による中間申告
 事業年度開始の日以後6か月の期間を1事業年度とみなして仮決算を行い中間申告します。

2.予定申告納付額の計算方法

 上記(1)の予定申告の場合、計算式の「×6/前事業年度の月数」の分数部分に気を付けなければなりません。
 例えば、事業年度を12か月とする法人が、前事業年度の確定法人税額1,000,000円に基づいて予定納付額の計算をする場合、1,000,000円×6÷12=500,000円とするのか、1,000,000円÷12(円未満切捨て)×6=499,998円→499,900円(百円未満切捨て)とするのか、つまり、「×6」が先か「÷12」が先かということです。
 法人税については「÷12」が先で、後から「×6」をして予定納付額の計算をします(法人税法第71条第1項第1号)。
 以下に予定納付額の計算方法についてまとめます(前事業年度を12か月とします)。

(1) 先に12で除して後から6倍する税目・・・法人税(地方法人税)、消費税、事業税(地方法人特別税)
(2) 先に6倍して後から12で除す税目・・・道府県民税、市民税

譲渡所得がある場合の消費税の申告

 譲渡所得がある場合の確定申告は、譲渡所得にばかり気を取られがちですが、消費税の申告も忘れないようにしましょう。

1.消費税が課税されない場合

 個人が土地や建物を売却すると、譲渡所得として所得税が課されます。所得税は、その土地や建物が居住用など生活用の資産であっても、家賃収入などを生み出す事業用の資産であっても課税されます。
 注意しなければならないのは、このような譲渡所得の基となる資産の譲渡には、消費税が課税される場合と課税されない場合があることです
  消費税が課税されない場合は、消費税の課税事業者が生活用の資産を譲渡したときや、免税事業者や事業者でない人が生活用又は事業用の資産を譲渡したときです。 

2.消費税が課税される場合

 これに対し、消費税の課税事業者が事業用の資産を譲渡したときは、消費税が課税されます。
 事業用の資産の譲渡は、事業に付随して対価を得て行われる資産の譲渡となりますので、消費税が課税されます(土地の譲渡は非課税なので、消費税は課税されません)。
 消費税が課税される場合の消費税の経理処理は、その資産をその用に供していた事業所得や不動産所得を生ずべき業務に係る取引について選択していた消費税の経理処理と同じ経理処理により行います。
 したがって、事業所得等について選択していた経理処理が税抜経理方式の場合には、譲渡所得を計算するときも税抜経理方式で行います。そして、仮受消費税等と仮払消費税等の清算などの調整は、その事業所得等の計算で行います。
 また、事業所得等について選択していた経理処理が税込経理方式の場合には、譲渡所得を計算するときも税込経理方式で行います。そして、納付すべき消費税の必要経費への算入や還付される消費税の総収入金額への算入は、その事業所得等の計算で行います。

消費税の各種届出書の提出期限と効力

1.消費税の各種届出書の提出期限が日曜日等の場合

 消費税の届出書には、消費税課税事業者選択届出書や消費税簡易課税制度選択届出書など各種ありますが、これらの届出書の提出期限は、その適用を受けようとする課税期間の初日の前日までとされています。
 では、これらの届出書の提出期限が土曜日、日曜日の休日と重なった場合、納税申告書のように提出期限が月曜日にまで延長されるのでしょうか?

 答は「否」です。
 提出期限が課税期間の初日の前日までとされている届出書については、該当日が日曜日等の国民の休日に当たる場合であっても、その日までに提出がなければそれぞれの規定の適用を受けることができませんのでご注意下さい。 

 ただし、これらの届出書が郵便又は信書便(レターパック)により提出された場合には、その郵便物又は信書便物の通信日付印により表示された日に提出されたものとみなされます(発信主義)。
 従来、納税申告書及びその添付書類以外は到達主義によるものとされていましたが、2006年度(平成18年度)税制改正により国税通則法が改正され、2006年(平成18年)4月1日以後は発信主義によるものとされました(不適用届出書も同じです)。
 郵便又は信書便以外(ゆうパックや宅急便等)は、税務署に到着した日が提出の日となりますのでご注意下さい。

2.消費税課税事業者選択届出書の効力

 消費税の免税事業者は、課税事業者を選択することにより、課税仕入れ等に係る消費税額の還付を受けることができます。
 課税事業者を選択する場合は、課税事業者選択届出書を納税地の所轄税務署長に提出します。
 この届出書の効力は、通常はその提出日の属する課税期間の翌課税期間の初日から発生します(つまり、翌課税期間から課税事業者になります)。  

 一方、事業を開始した課税期間等に届出書を提出した場合は、その提出日の属する課税期間又はその翌課税期間の初日から効力が発生します(つまり、提出日の属する課税期間又はその翌課税期間から課税事業者になることを選択できます)。
 この場合、課税事業者選択届出書の「適用開始課税期間」の欄で、その適用を受けようとする課税期間を選択します。

3.間違って提出した消費税の選択届出書は取下げ可能?

 消費税の課税事業者選択届出書や簡易課税制度選択届出書の効力は、通常はこれらの届出書を提出した課税期間の翌課税期間の初日から発生します。
 もし、間違ってこれらの届出書を提出してしまった場合でも、提出した課税期間の末日まで(選択の効力が発生するまで)は、その取下げが可能であると解されています。
 ただし、これらの届出書を設立の日の属する課税期間等に提出し、その提出課税期間から適用を受ける場合は、取下げは難しいと思われます。

法定調書における消費税等がある場合の提出範囲の金額基準と記載方法

 「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」「不動産の使用料等の支払調書」「不動産等の譲受けの対価の支払調書」「不動産の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書」に係る取引については、支払金額に消費税及び地方消費税(以下「消費税等」といいます)が課されている場合があります。
 この場合の法定調書における消費税等の取扱いは、以下のとおりです。

1.提出範囲の金額基準

  提出範囲の金額基準には、原則として消費税等の額を含めますが、請求書等において消費税等の額が明確に区分されている場合には、消費税等の額を含めないで判定できます。

2.支払金額の記載方法

  支払金額の記載には、原則として消費税等の額を含めて記載しますが、請求書等において消費税等の額が明確に区分されている場合には、消費税等の額を含めないで記載できます。この場合、摘要欄にその消費税等の額を記載します。

 したがって、例えば、原稿料51,840円(請求書の内訳:原稿料48,000円、消費税等3,840円)を支払った場合、請求書において原稿料の額と消費税等の額が明確に区分されているときは、消費税等の額を含めないと5万円以下になることから、「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」を提出する必要はありません。
 また、支払金額は消費税等の額を含めないで48,000円と記載し、摘要欄に「外消費税等の額3,840円」などと記載します。