新型コロナウィルス感染症の影響による納税猶予制度の特例

 関与先様からの新型コロナウイルス感染症に関する税制上の措置についての問い合わせが増えています。中でも、本年(2020年)4月以降は、納税に関する質問が増えていますので、今回は、新たに設けられる納税猶予制度の特例について解説します。
 なお、本特例は、関係法案が国会で成立することが前提となります

※2020年(令和2年)4月30日に 「新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律案」が成立・公布・施行されました。

1.納税猶予制度の特例の概要

 新型コロナウイルス感染症の影響で、2020年(令和2年)2月以降の任意の期間(1か月以上)において、事業等に係る収入が前年同期比おおむね20%以上減少し、かつ、一時の納税が困難と認められる場合には、申請することにより、無担保かつ延滞税なし1年間納税を猶予することができるようになります。

2.特例の対象者

 以下の2要件をいずれも満たす納税者(個人法人の別、規模は問わず)が対象となります。

(1) 新型コロナウイルスの影響により、2020年(令和2年)2月以降の任意の期間(1か月以上)において、事業等に係る収入※1が前年同期に比べて概ね20%以上減少していること※2
(2) 一時に納税を行うことが困難であること※3

※1 「事業等に係る収入」とは、法人の収入(売上高)のほか、個人の方の経常的な収入(事業の売上、給与収入、不動産賃料収入等)を指します。
 なお、個人の方の「一時所得」などについては、通常、新型コロナウイルスの影響により減少するものではないと考えられますので、「事業等に係る収入」には含まれません。

※2 前年の月別収入が不明の場合には、以下のような方法により収入減少割合を判断することもできます。
① 年間収入を按分した額(平均収入)と比較
② 事業開始後1年を経過していない場合は令和2年1月までの任意の期間と比較

※3 「一時に納税を行うことが困難」かどうかの判断については、少なくとも向こう半年間(現行は1か月)の事業資金を考慮に入れるなど、納税者の置かれた状況に配慮し適切に対応されるようです。

3.特例の対象となる国税

 2020年(令和2年)2月1日から2021年(令和3年)1月31日までに納期限が到来する所得税、法人税、消費税等ほぼすべての税目(印紙で納めるもの等を除く) が対象になります。
 これらのうち、既に納期限が過ぎている未納の国税(他の猶予を受けているものを含む)についても、遡ってこの特例を利用することができます※4

※4 「遡って特例を利用する」とは、例えば未納の国税について、延滞税がかかる他の猶予を受けている納税者は、特例に切り替えることにより、はじめから延滞税がないものとして猶予を受けることができるということです。
 この場合、既に延滞税を納付済みの納税者は、その還付を受けることができます。

4.特例の申請方法等

 関係法令の施行から2か月後、又は、納期限(申告納付期限が延長された場合 は延長後の期限)のいずれか遅い日までに申請が必要です。
 「納税の猶予申請書」のほか、収入や現預金の状況が分かる資料を提出することになりますが、これらの提出が難しい場合は、税務署職員が口頭により聴取することとなっています。
 なお、「納税の猶予申請書」の様式記載方法については、国税庁ホームページを参照してください。

5.特例の留意点

 納税猶予制度の特例の上記1~4以外の留意点は次のとおりです。

(1) 対象期間の損益が黒字の場合でも、収入減少などの2要件を満たせば特例を利用できます。

(2) フリーランスの方を含む事業所得者は、収入減少などの2要件を満たせば特例の対象になります。

(3) パートやアルバイトの方を含む給与所得者のうち、確定申告により納税をされる方は、収入減少などの2要件を満たせば特例の対象になります。

(4) 白色申告の場合も、収入減少などの2要件を満たせば特例の対象になります。

(5) 特例の2要件を満たさない場合でも、一般の猶予制度※5を利用できる場合があります(通常、 年1.6%の延滞税がかかります)。

(6) 猶予期間終了後は、一括して納付しなければならないということではありません。特例の適用期間が終了した後に、一般の猶予制度※5により分割納付をすることもできま す。

※5 一般の猶予制度(現行の猶予制度)については、本ブログ記事「国税の納税猶予制度」を参照してください。

国税の納税猶予制度

 関与先様からの新型コロナウイルス感染症に関する税制上の措置についての問い合わせが増えています。中でも、本年(2020年)4月以降は、納税に関する質問が増えていますので、今回は、従来からある現行の国税の納税猶予制度について解説します。
 新型コロナウイルス感染症の影響により、新たに設けられる納税猶予制度の特例については、次回解説します。

1.現行の納税猶予制度の概要

 新型コロナウイルス感染症の影響により、国税を一時に納付することができない場合には、所轄の税務署に申請して法令の要件を満たせば、原則として1年以内の期間に限り、換価の猶予(国税徴収法第151条の2)が認められます。
 また、新型コロナウイルス感染症にり患した場合等、個別の事情がある場合は、納税の猶予(国税通則法第46条)が認められる場合もあります。

2.現行の納税猶予制度の要件等

(1) 換価の猶予の要件(国税徴収法第151条の2)

 次の要件のすべてに該当する場合は、現行の納税猶予制度の適用を受けることができます。

① 国税を一時に納付することにより、事業の継続又は生活の維持を困難にするおそれがあると認められること

② 納税について誠実な意思を有すると認められること

③ 猶予を受けようとする国税以外の国税の滞納がないこと

④ 納付すべき国税の納期限から6か月以内に申請書が提出されていること

注1) 担保の提供が明らかに可能な場合を除いて、担保は不要となります。
注2)2019年分(令和元年分)の申告所得税、贈与税及び個人事業者の消費税の確定申告は、延長された期限(2020年(令和2年)4月 16 日)が納期限となります。
注3)既に滞納がある場合や滞納となってから6月を超える場合であっても、税務署長の職権による換価の猶予(国税徴収法第 151 条)が受けられる場合もあります。

(2) 換価の猶予の効果(国税徴収法第151条の2)

 申請が認められると、次のように猶予を受けることができます。

① 原則として1年間猶予が認められます(期間中、資力に応じて分割納付。 状況に応じて更に1年間猶予される場合があります)。

② 猶予期間中の延滞税が軽減されます(通常:8.9%/年→猶予期間中 1.6%/ 年)。

③ 財産の差押えや換価(売却)が猶予されます。

 更に個別の事情に該当する場合は、次の猶予制度(国税通則法第46条)を活用することもできます。

(3) 納税の猶予の要件(国税通則法第46条)

 新型コロナウイルス感染症に関連して以下のような個別の事情に該当する場合は、納税の猶予が認められることがあります。

① 災害により財産に相当な損失が生じた場合
 新型コロナウイルス感染症の患者が発生した施設で消毒作業が行われたことにより、備品や棚卸資産を廃棄した場合

② 本人又は家族が病気にかかった場合
 納税者本人又は生計を同じにする家族が病気にかかった場合、国税を一時に納付できない額のうち、医療費や治療等に付随する費用

③ 事業を廃止し、又は休止した場合
 納税者が営む事業について、やむを得ず休廃業をした場合、国税を一時に納付できない額のうち、休廃業に関して生じた損失や費用に相当する金額

④ 事業に著しい損失を受けた場合
 納税者が営む事業について、利益の減少等により著しい損失を受けた場合、国税 を一時に納付できない額のうち、受けた損失額に相当する金額

注)ケースにより申請に必要な書類等が異なりますので、税務署(徴収担当)に事前に相談してください。

(4) 納税の猶予の効果(国税通則法第46条)

 申請が認められると、次のように猶予を受けることができます。

① 原則として1年間猶予が認められます(状況に応じて更に1年間猶予される場合があります)。

② 猶予期間中の延滞税が軽減又は免除されます。

③ 財産の差押えや換価(売却)が猶予されます。

(5) 猶予申請書

 換価の猶予と納税の猶予に関する申請書様式及び記載要領等については、国税庁ホームページを参照してください。

新型コロナウイルス感染症の影響により法人の申告・納付期限も延長されます

 新型コロナウイルス感染症の影響により、個人の確定申告・納付期限が延長されましたが、法人についても同様の措置が講じられています。
 国税庁ホームページでは、以下の「法人税及び地方法人税並びに法人の消費税の申告・納付期限と源泉所得税の納付期限の個別指定による期限延長手続に関するFAQ」が公表されています。

1.どのような場合に個別延長が認められるか?

 新型コロナウイルス感染症の影響により、法人がその期限までに申告・納付ができな いやむを得ない理由がある場合には、下記4の手続きをとることにより期限の個別延長が認 められます。

 このやむを得ない理由については、例えば、次のような方々がいることにより、通常の業務体制が維持できないこと、事業活動を縮小せざるを得ないこと、取引先や関係会社においても感染症による影響が生じていることなどにより決算作業が間に合わず、 期限までに申告が困難なケースが該当します。

(1) 新型コロナウイ ルス感染症に感染した法人の役員や従業員等がいること
(2) 体調不良により外出を控えている方がいること
(3) 平日の在宅勤務を要請している自治体に住んでいる方がいること
(4) 感染拡大防止のため企業の勧奨により在宅勤務等をしている方がいること
(5) 感染拡大防止のため外出を控えている方がいること

2.個別延長の場合の申告・納付期限はいつか?

 新型コロナウイルス感染症の影響により、期限内に申告・納付することが困難な法人 については、申告・納付ができないやむを得ない理由がやんだ日から2か月以内の日を 指定して申告・納付期限が延長されます。
 この場合、法人の申告書等を作成・提出することが可能となった時点で申告を行 うことになりますので、申告期限及び納付期限は原則として申告書等の提出日となります

※会計事務所としては、関与先に申告前に納付書をお渡しして、納付が完了してから申告をすることになります。

3.申請や届出など申告以外の手続きも個別延長の対象となるか?

 法人税や消費税、源泉所得税に係る各種申請や届出など、申告以外の手続きについて も、新型コロナウイルス感染症の影響により提出が困難な場合は、個別に期限延長の 取扱いがあります

4.個別延長する場合はどのような手続きが必要となるか?

 別途、申請書等を提出する必要はなく、申告書の余白に「新型コロナウイルスによる申告・納付期限延長申請」である旨を付記します。
 源泉所得税においては、納付を行う際に納付書(所得税徴収高計算書)の摘要欄に「新型コロナウイルスに よる納付期限延長申請」である旨を付記します。

 具体的な記載方法については、国税庁ホームページ「法人税及び地方法人税並びに法人の消費税の申告・納付期限と源泉所得税の納付期限の個別指定による期限延長手続に関するFAQ」を参照してください。

4月17日(金)以降に個人の確定申告書を提出する際の個別延長の手続き

 新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から、申告所得税及び復興特別所得税、贈与税及び個人事業者の消費税及び地方消費税の申告期限・納付期限が2020年(令和2年)4月16日(木)まで延長されましたが、昨今の感染拡大の状況から外出を控えるなど期限内に申告することが困難な方については、期限を区切らずに4月17日(金)以降であっても確定申告書を提出することができるようになりました。
 これに伴い、国税庁ホームページでは、以下の「申告所得税、贈与税及び個人事業者の消費税の申告・納付期限の個別指定による期限延長手続に関するFAQ」が公表されています。

1.どのような場合に個別延長が認められるか?

 申告・納付期限の個別指定による期限延長(個別延長)が認められるのは、新型コロナウイルス感染症の影響により、以下のように確定申告会場に行くことが困難な方や申告書を作成することが困難な方です。

(1) 新型コロナウイルス感染症に感染した方
(2) 体調不良により外出を控えている方
(3) 平日の在宅勤務を要請している自治体に住んでいる方
(4) 感染拡大により外出を控えている方

2.個別延長の場合の申告・納付期限はいつになるか?

 新型コロナウイルス感染症の影響により、期限内に申告することが困難な方は、4月16日(木)の申告期限にこだわらずに、税務署に行くことが可能になった時点又は申告書を作成することが可能となった時点で申告することができます。
 この場合、申告期限及び納付期限は原則として申告書の提出日となります。

※会計事務所としては、関与先に申告前に納付書をお渡しして、納付が完了してから申告をすることになります。

申告期限・納付期限

  従来 延長後 個別延長後
申告所得税 3月16日(月) 4月16日(木) 申告書の提出日
消費税 3月31日(火)
贈与税 3月16日(月)

 なお、振替納税の振替日については、所轄の税務署から個別に連絡されます。

振替納付日

  従来 延長後 個別延長後
申告所得税 4月21日(火) 5月15日(金) 個別に連絡
消費税 4月23日(木) 5月19日(火)

3.申請や届出など、申告以外の手続きも個別延長の対象となるか?

 申告所得税・贈与税・個人事業者の消費税に係る各種申請や届出など、申告以外の手続きについても、新型コロナウイルス感染症の影響により、届出が困難な場合は、個別に期限延長の取扱いが行われます

4.個別延長する場合には、どのような手続きが必要となるか?

 別途、申請書等を提出する必要はなく、申告書の余白に「新型コロナウイル スによる申告・納付期限延⻑申請」旨を付記することになります。
 具体的な記載方法は、国税庁ホームページ「申告所得税、贈与税及び個人事業者の消費税の申告・納付期限の個別指定による期限延長手続に関するFAQ」を参照してください。

新型コロナウイルス感染症緊急経済対策の概要

 2020年(令和2年)4月7日、「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策における税制上の措置(案)」が閣議決定されました。
 本特例の実施については、関係法案が国会で成立すること等が前提となります。

※2020年(令和2年)4月30日に 「新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律案」が成立・公布・施行されました。

1.新型コロナウイルス感染拡大に伴う納税猶予の特例

 新型コロナウイルスの感染拡大防止のための措置に起因して多くの事業者の収入が急減している現下の状況を踏まえて、無担保かつ延滞税なしで1年間、納税を猶予する特例が設けられます。
 この特例は、2020年(令和2年)2月1日から2021年(令和3年)1月31日までに納期限が到来する国税について適用されます。その際、施行日前に納期限が到来している国税についても遡及して適用することができるとされています。

2.欠損金の繰戻しによる還付の特例

 資本金1億円超10億円以下の法人も青色欠損金の繰戻し還付が受けられる特例が設けられます。
 2020年(令和2年)2月1日から2022年(令和4年)1月31日までの間に終了する各事業年度に生じた欠損金額について適用されます。ただし、大規模法人の100%子会社などは除かれます。

3.テレワーク等のための中小企業の設備投資税制

 中小企業経営強化税制の特定経営力向上設備等の対象に、テレワーク等のための設備投資に係る新たな類型としてデジタル化設備が追加されます。
 要件は遠隔操作、可視化、自動制御化のいずれかに該当する設備で、機械装置、工具、器具備品、建物附属設備、ソフトウエアが対象設備です。

4.中止等されたイベントに係る入場料等の払戻請求権を放棄した者への寄附金控除の適用

 政府の自粛要請を踏まえて文化芸術・スポーツに係る一定のイベント等を中止等した主催者に対し、観客等が入場料等の払戻請求権を放棄した場合には、当該放棄した金額(上限20万円)について、所得税における寄附金控除(所得控除又は税額控除)の対象とされます。

5.住宅ローン控除の適用要件の弾力化

 新型コロナウイルス感染症の影響による住宅建設の遅延等によって住宅への入居が遅れた場合でも、期限内に入居したのと同様の住宅ローン控除を受けることができるに適用要件が弾力化されます。

6.消費税の課税事業者選択届出書等の提出に係る特例

 新型コロナウイルス感染症の影響で2020年(令和2年)2月1日から2021年(令和3年)1月31日までの期間のうち、任意の期間(1か月以上)の収入が前年同期比おおむね50%以上減少した事業者が、申告期限までに申請書を提出し、税務署長の承認を受けた場合は、課税期間開始後でも消費税の課税事業者を選択又はやめることができる特例が設けられます。
 この特例で課税事業者を選択した課税期間の翌課税期間において、課税事業者の選択をやめることも可能です。

7.特別貸付けに係る消費貸借に関する契約書の印紙税の非課税

 公的貸付機関等又は銀行等の金融機関が、新型コロナウイルス感染症の発生により、その経営に影響を受けた事業者に対して行う金銭の特別貸付けに係る消費貸借に関する契約書のうち、2021年(令和3年)1月31日までに作成されるものについては、印紙税を課さないこととされます。
 ここでいう特別貸付けとは、当該機関が行う他の金銭の貸付けの条件に比し特別に有利な条件で行うものをいいます。
 また、施行日の前日までに作成されたものにつき印紙税が納付されている場合には、当該納付された印紙税については、過誤納金とみなして還付されます。

8.中小事業者等が所有する償却資産及び事業用家屋に係る固定資産税及び都市計画税の軽減措置

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のための措置に起因して、厳しい経営環境にある中小事業者等に対して、2021年度(令和3年度)課税の1年分に限り、償却資産及び事業用家屋に係る固定資産税及び都市計画税の負担が2分の1又はゼロとされます。
 原則として業種は限定されず、2021年(令和3年)1月31日までに認定経営革新等支援機関等の認定を受けて各市町村に申告した場合に適用されます。
 なお、この措置による固定資産税及び都市計画税の減収額については、全額国費で補填されます。

住宅の貸付けに係る消費税非課税制度の改正

 2020年度(令和2年度)税制改正で、2020年(令和2年)4月1日から住宅の貸付けに係る消費税の非課税対象が見直されます。

1.居住用の判定は「契約」から「実態」へ

 現行の消費税法では、住宅の貸付けは非課税とされています。住宅(居住用家屋又は家屋のうち居住用部分)の貸付けに該当するかどうかの判定は、これまでは「契約」により行っていました。すなわち、契約で人の居住の用に供することが明らかにされている場合に限り、その賃料は非課税とされていました。

 裏を返せば、「契約」で人の居住の用に供することが明らかにされていない場合は、その賃料は課税とされていました。

 ところが今回の改正で、人の居住の用に供することが契約で明らかにされていない場合であっても、「実態」として人の居住の用に供されていることが明らかであれば、その賃料は非課税とされることになりました。改正後の別表第一13は以下のとおりです(アンダーラインが見直しの箇所)。

 住宅(人の居住の用に供する家屋又は家屋のうち人の居住の用に供する部分をいう。)の貸付け(当該貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされている場合(当該契約において当該貸付けに係る用途が明らかにされていない場合に当該貸付け等の状況からみて人の居住の用に供されていることが明らかな場合を含む。)に限るものとし、一時的に使用させる場合その他の政令で定める場合を除く。)

 この改正は、2020年(令和2年)4月1日以後の貸付けに適用されます。したがって、既存の契約内容や実態に変更がなくても、これまで契約上明らかでなく実態が人の居住の用に供されてきたものは、3月までの賃料は課税ですが、4月からの賃料は非課税に転じることになります。

2.転用した場合の調整計算

 2020年(令和2年)4月前後で賃料が課税から非課税に変わるケースでは、その賃貸建物が課税業務用資産から非課税業務用資産への転用となり、控除対象仕入税額の調整計算が必要となる可能性があります。

 しかし、今回の改正によって、賃料が課税から非課税に変更されたとしても、控除対象仕入税額の調整計算上は、引き続きその賃貸建物を課税業務用資産とみなす経過措置が設けられていますので、この調整計算は免れることになります。

大法人の電子申告(e-Tax)が義務化されます

1.書面により提出した申告書は無効

 2018年度(平成30年度)税制改正により「電子情報処理組織による申告の特例」が創設され、2020年(令和2年)4月1日以後に開始する事業年度(課税期間)から、内国法人のうち事業年度開始時の資本金の額又は出資金の額が1億円を超える法人等は、電子申告(e-Tax)による申告書の提出が義務化されました。

 義務化の対象法人が電子申告により法定申告期限までに申告書を提出せず、書面により提出した場合は、その申告書は無効なものとして取り扱われ、無申告加算税の対象となります。
 また、2期連続で法定申告期限内に申告がない場合は、青色申告の承認の取消対象にもなりますので注意が必要です。

2.電子申告の義務化の概要

 電子申告の義務化の対象となる税目、法人の範囲、手続等は以下のとおりです。

(1) 対象税目

法人税及び地方法人税並びに消費税及び地方消費税
※地方税の法人住民税、法人事業税も対象です

(2) 対象法人の範囲

① 法人税及び地方法人税
 イ.内国法人のうち、その事業年度開始の時において資本金の額又は出資金の額が1億円を超える法人
 ロ.相互会社、投資法人及び特定目的会社
② 消費税及び地方消費税
 ①に掲げる法人に加え、国及び地方公共団体

(3) 対象手続

確定申告書、中間(予定)申告書、仮決算の中間申告書、修正申告書及び還付申告書

(4) 対象書類

申告書及び申告書に添付すべきものとされている書類の全て

3.e-Taxによる申告の特例に係る届出書

 電子申告の義務化の開始に当たり、2020年(令和2年)4月1日以後、義務化対象法人はすべて所轄税務署長に「e-Taxによる申告の特例に係る届出書」を提出しなければなりません。
※「e-Taxによる申告の特例に係る届出書」の様式は国税庁ホームページを参照

 届出書を提出する時期は、次のとおりです。
(1) 2020年(令和2年)3月31日以前に設立された法人で2020年(令和2年)4月1日以後最初に開始する事業年度(課税期間)に対象法人となる場合は同事業年度(課税期間)開始の日以後1か月以内
(2) 2020年(令和2年)4月1日以後に増資により対象法人となる場合は資本金の額又は出資金の額が1億円超となった日から1か月以内
(3) 2020年(令和2年)4月1日以後に設立された法人で設立後最初の事業年度から対象法人となる場合は設立の日から2か月以内
(4) 2020年(令和2年)4月1日以後に対象法人であって消費税の免税事業者から課税事業者となる場合は課税事業者となる課税期間開始の日から1か月以内

4.e-Taxによる申告の特例の適用がなくなった旨の届出書

 一方、減資等により資本金の額又は出資金の額が1億円以下となった場合等により義務化対象法人でなくなった場合には、所轄税務署長に対し、速やかに「e-Taxによる申告の特例の適用がなくなった旨の届出書」を提出します。
※「e-Taxによる申告の特例の適用がなくなった旨の届出書」の様式は国税庁ホームページを参照

5.例外的に書面申告が認められる場合

 電子申告義務化後において、電気通信回線の故障、災害その他の理由によって、e-Taxにより法定申告期限までに申告書を提出することが困難な場合には、所轄税務署長の承認を得た上で、書面により提出することで、例外的に申告義務が履行されたものとみなされ、その書面による申告書は有効なものとして取り扱われます。

 当該承認を得るためには、事前に「e-Taxによる申告が困難である場合の特例の申請書(取りやめの届出書)」及びe-Taxを使用することが困難であることを明らかにする書類を所轄税務署長に提出する必要があります。
※「e-Taxによる申告が困難である場合の特例の申請書(取りやめの届出書)」の様式は国税庁ホームページを参照

ロータリークラブ、ライオンズクラブの会費は法人と個人で経理処理が異なる!

 9月決算・11月申告法人の決算書・申告書のチェックをしていた際に、ロータリークラブの入会金と会費が決算書の「諸会費」に計上されていることに気づきました。
 ロータリークラブやライオンズクラブの入会金と通常会費については、その経理処理が法人と個人で異なります。経費(法人税法上の損金、所得税法上の必要経費)として認められるか否かについて、以下述べていきます。

1.法人の場合は交際費として損金算入

 法人が支出したロータリークラブやライオンズクラブの入会金・通常(経常)会費は、次の法人税基本通達9-7-15の2(1)より交際費となります。

「9-7-15の2 法人がロータリークラブ又はライオンズクラブに対する入会金又は会費等を負担した場合には、次による。(昭55年直法2-15「十六」により追加)

(1) 入会金又は経常会費として負担した金額については、その支出をした日の属する事業年度の交際費とする。
(2) (1)以外に負担した金額については、その支出の目的に応じて寄附金又は交際費とする。ただし、会員たる特定の役員又は使用人の負担すべきものであると認められる場合には、当該負担した金額に相当する金額は、当該役員又は使用人に対する給与とする。」

 (2)は、入会金・経常会費以外に負担した金額、例えば懇親会参加費用などは交際費となりますが、本来個人が負担すべき金額を法人で支払った場合は、その個人に対する給与となることをいっています。

 なお、ロータリークラブやライオンズクラブの入会金・通常会費の消費税の課税区分は不課税です。

2.個人の場合は必要経費不算入

 一方、個人事業主が支出したロータリークラブやライオンズクラブの入会金・通常会費は、必要経費として認められません。所得税基本通達に規定はありませんが、過去の裁決例、例えば2016年(平成28年)7月19日裁決において、個人事業主である弁護士がロータリークラブの会費の必要経費性を主張したところ、国税不服審判所は次のように判断しています。

「本件ロータリークラブは、定款に従って、各種の奉仕活動を行うとともに、会員同士の親睦を深めたり、講演や卓話を通じて教養を高めるなどの活動をしていたものと認められる。そして、請求人の本件クラブの会員としての活動の主なものは、①例会への出席、②親睦会への出席、③奉仕活動への参加及び④講演会への出席であり、請求人がこれらの活動を行うことで報酬を得ていたなどの事情は特に見当たらない。 」

「本件クラブの活動内容を踏まえ、請求人が本件クラブの会員として行う以上のような活動を社会通念に照らして客観的にみれば、その活動はいずれも営利性、有償性を有しておらず、請求人が弁護士としてその計算と危険において報酬を得ることを目的として継続的に法律事務を行う経済活動に該当するものではないというべきである。」

「そうすると、本件各会費は、請求人が本件クラブの会員であることに伴って支出したものであるから、請求人の所得を生ずべき事業と直接関係し、かつ、当該事業の遂行上必要であるとは認められない。したがって、本件各会費は、事業所得の金額の計算上必 要経費に算入されない。」

「請求人は、弁護士業においては、顧客獲得のための積極的な営業・広報動等を広く展開することが重要であり、本件クラブの会員であることは、業務遂行上必要かつ極めて有益な要因である旨主張する。しかしながら、本件クラブの会員であることで、請求人が主張するような側面があったとしても、これは、会費を支出することの直接の目的ではなく、飽くまでも間接的、副次的に生ずる効果にすぎないとみるのが相当であるから、会費を支出することが、弁護士業務の遂行上必要であるということはできない。したがって、請求人の上記主張には理由がない。」

 また、この裁決の中で、ロータリークラブの会費を法人が支出した場合は経費になるのに対し、個人が支出した場合は経費にならない理由について、国税不服審判所は次のように述べています。

「さらに、請求人は、法人が支出するロータリークラブの会費は、法人税基本通達において、クラブ加入の実質的目的を根拠に経費性が認められており、実態として全く変わりのない個人としての弁護士に関しても当然経費性が肯定されるべきである旨主張する。しかしながら、私的な消費生活を行う個人と、それを観念できない法人とでは、支出に関する取扱いを異にすることは、所得税法及び法人税法におけるそれぞれの課税所得の計算構造をみても当然に予定されているものというべきであるから、この点に関する請求人の主張にも理由がない。」

外注費か給与か…国税庁の判断基準

1.国税庁法令解釈通達に一定の判断基準あり

 その業務を他の事業者に委託(外注)することが多い建設業や運送業を営む事業者の税務調査では、外注先に支払った経費が外注費なのか給与なのかで争いが起きることがあります。
 外注先に支払った経費が給与とされると、源泉所得税の徴収漏れを指摘されるとともに消費税の仕入税額控除が否認されます。
 外注費と給与のいずれに該当するかについては判然としないことが多く、明確な線引きも難しいのですが、2009年(平成21年)12月17日の「大工、左官、とび職等の受ける報酬に係る所得税の取扱いについて(法令解釈通達)」において次の判断基準が示されており、実務上はこれらを総合的に勘案して、外注費か給与かを判断することになります。

(1) 他人が代替して業務を遂行すること又は役務を提供することが認められるかどうか。
(2) 報酬の支払者から作業時間を指定される、報酬が時間を単位として計算されるなど時間的な拘束(業務の性質上当然に存在する拘束を除く。)を受けるかどうか。
(3) 作業の具体的な内容や方法について報酬の支払者から指揮監督(業務の性質上当然に存在する指揮監督を除く。)を受けるかどうか。
(4) まだ引渡しを完了しない完成品が不可抗力のため滅失するなどした場合において、自らの権利として既に遂行した業務又は提供した役務に係る報酬の支払を請求できるかどうか。
(5) 材料又は用具等(くぎ材等の軽微な材料や電動の手持ち工具程度の用具等を除く。)を報酬の支払者から供与されているかどうか。

 以下では、これら5点の判断基準について解説します。

2.実務上の判断基準となる5つの観点

(1) 代替性の有無

 他人が代替して業務を遂行すること又は役務を提供することが認められるかどうかという観点から、外注費と給与を区分します。
 
 雇用契約に基づく役務の提供の場合、雇用された者は自分自身が仕事をすることで、その役務の対価(給与)を受け取ることができます。
 一方、請負契約に基づく役務の提供の場合、依頼主との間で仕事の期限や代金等を決定すれば、実際の仕事は必ずしも請け負った者自身に限らず、自己が雇用する第三者に任せることで、その役務の対価(外注費)を受け取ることができます。
 つまり、役務提供者が契約当事者に限定され、他の者が当事者に代わり役務の提供をできない場合や、本人が自らの判断で第三者を使うことが認められていない場合は代替性が無いといえ、給与の該当性を強めるといえます。 

(2) 拘束性の有無

 報酬の支払者から作業時間を指定される、報酬が時間を単位として計算されるなど時間的な拘束(業務の性質上当然に存在する拘束を除く。)を受けるかどうかという観点から、外注費と給与を区分します。

 勤務する日や就業時間が決められていたり、出勤簿、タイムカード又は本人からの報告等で就業時間が管理されていたりする場合には、時間的拘束があるといえ、給与の該当性を強めるといえます。

(3) 指揮監督の有無

 作業の具体的な内容や方法について報酬の支払者から指揮監督(業務の性質上当然に存在する指揮監督を除く。)を受けるかどうかという観点から、外注費と給与を区分します。

 雇用契約の場合、雇用主が定める就業規則に従わなければならず、作業現場では監督者等が個々の作業について指揮命令をするのが一般的です。
 一方、請負契約の場合、仕事の期限さえ守れば途中における進行度合いや手順等について、依頼主から特に指図を受けることがないのが通常です。
 つまり、仕様書、設計図、指示書等の交付により作業の具体的内容や方法が指示されており、業務の遂行が使用者の具体的な指揮命令を受けて行われている場合は、給与の該当性を強めるといえます。

 なお、「業務の性質上当然に存在する指揮監督を除く」とは、例えば運送業の場合、運送物品、運送先及び納入時間の指定は業務の性質上当然であり、これらが指定されているからといって指揮監督の有無に関係するものではないことをいいます。

(4) 報酬請求権の有無

 まだ引渡しを完了しない完成品が不可抗力のため滅失するなどした場合において、自らの権利として既に遂行した業務又は提供した役務に係る報酬の支払を請求できるかどうかという観点から、外注費と給与を区分します。

 請負契約の場合、引渡しを終えていない完成品が不可抗力(災害等)のため滅失して期限までに依頼主に納品できない場合は、一般的には報酬の支払を受けることができません。
 一方、雇用契約の場合、労務の提供を行えば結果に関係なく報酬を請求できます。
 給与が労務の提供自体に支払われるのに対し、外注費は労務の提供ではなく仕事の完成に対して支払われます。
 つまり、役務提供の結果による較差が少なく、業務の量に応じて報酬が支払われる場合は、給与の該当性を強めるといえます。 

(5) 材料又は用具等の供与の有無

 材料又は用具等(くぎ材等の軽微な材料や電動の手持ち工具程度の用具等を除く。)を報酬の支払者から供与されているかどうかという観点から、外注費と給与を区分します。

 雇用契約の場合は雇用主が材料や用具等を役務提供者に支給しますが、請負契約の場合は役務提供者が材料や用具等を自分で用意するのが一般的です。
 つまり、職務遂行に当たり必要な旅費、設備、備品等の費用について、原則として役務提供者が負担する場合は、外注費の該当性を強めるといえます。

 なお、「くぎ材等の軽微な材料や電動の手持ち工具程度の用具等を除く」とは、例えば据え置き式の工具など高価な器具を所有するなど、その経費の多寡も判定要素となることをいいます。

土地の譲渡があった場合の課税売上割合に準ずる割合の適用

 運送業を営む顧問先のA社が、所有していた土地(遊休地)を当期中に売却することになりました。土地の譲渡は消費税の非課税売上ですが、土地の譲渡によりA社の当期の課税売上割合は、例年より大きく減少する見込みです(A社は仕入控除税額を個別対応方式で計算しています)。
 そこで、当期の消費税の申告に備えて、「課税売上割合に準する割合」の適用を検討することになりました。

 A社のように、たまたま土地の譲渡があったことにより課税売上割合が減少する場合において、課税売上割合を適用して控除対象仕入税額を計算すると、その事業者の事業の実態を反映しないと認められるときは、課税売上割合に代えて課税売上割合に準ずる割合を適用することができます。

 今回は、土地の譲渡があった場合の課税売上割合に準ずる割合の適用について紹介します。

1.要件

 A社のようなケースで課税売上割合に準ずる割合を適用するためには、つぎの要件を満たす必要があります。

(1) 土地の譲渡が単発であること
(2) その土地の譲渡がなかったとした場合には、事業の実態に変動がないと認められること(具体的には、事業者の営業の実態に変動がなく、かつ、過去3年間で最も高い課税売上割合と最も低い課税売上割合の差が5%以内であることをいいます)

 以下の数値例を使用して、要件や課税売上割合に準ずる割合の算定方法を確認していきます。

   土地の譲渡があった当期と過去3年間の課税売上割合等  (単位:円)

課税期間 課税売上高 非課税売上高 総売上高 課税売上割合
当期 589,391,004 211,570,080 800,961,084 73.58%
前期 668,809,034 1,348,360 670,157,394 99.79%
前々期 588,936,478 1,176,152 590,112,630 99.80%
前々前期 557,889,004 568,435 558,457,439 99.89%

 運送業を営むA社にとって今回の土地の売却は単発ですので、要件(1)を満たします。
 また、A社の営業の実態に変動はなく、かつ、過去3年間で最も高い課税売上割合99.89%(前々前期)と最も低い課税売上割合99.79%(前期)との差(0.10%)が5%以内ですので、要件(2)も満たします。
 したがって、当期のA社の消費税の申告において、課税売上割合に準ずる割合を適用することができます。

2.課税売上割合に準ずる割合の算定

 課税売上割合に準ずる割合の適用要件を満たしましたので、次の(1)又は(2)の割合のいずれか低い方を課税売上割合に準ずる割合として適用することができます。

(1) 土地の譲渡があった課税期間の前3年に含まれる課税期間の通算課税売上割合
(2) 土地の譲渡があった課税期間の課税期間の課税売上割合

 (1)については、次のように計算します。

 課税売上高÷総売上高=(668,809,034+588,936,478+557,889,004)÷(670,157,394+590,112,630+558,457,439)=1,815,634,516÷1,818,727,463=99.82%

 (2)は、前期の99.79%です。

 したがって、(1)>(2)ですので、99.79%が課税売上割合に準ずる割合になります。

3.消費税課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書

 課税売上割合に準ずる割合を適用する場合は、その土地を譲渡した課税期間内に「消費税課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書」を所轄税務署長に提出し、その承認を受けなければなりません

※ 2021(令和3)年度税制改正により、課税売上割合に準ずる割合の適用開始時期の見直しが行われました。これまでは、課税売上割合に準ずる割合の適用を受ける場合、税務署長の承認を受けた日の属する課税期間から適用することとされていましたが、2021(令和3)年4月1日以後に終了する課税期間から、適用を受けようとする課税期間の末日までに承認申請書を提出し、同日(課税期間の末日)の翌日から同日以後1月を経過する日までの間に税務署長の承認を受けた場合、当該承認申請書を提出した日の属する課税期間から適用されることとなりました(2021(令和3)年4月1日更新)。

4.課税売上割合に準ずる割合の不適用届出書

 この課税売上割合に準ずる割合の承認は、たまたま土地の譲渡があった場合に行うものですから、翌課税期間において「消費税課税売上割合に準ずる割合の不適用届出書」を提出しなければなりません。

 その提出がない場合は、課税売上割に準ずる割合の承認の取消しが行われますので注意しなければなりません。