国税の納税猶予制度

 関与先様からの新型コロナウイルス感染症に関する税制上の措置についての問い合わせが増えています。中でも、本年(2020年)4月以降は、納税に関する質問が増えていますので、今回は、従来からある現行の国税の納税猶予制度について解説します。
 新型コロナウイルス感染症の影響により、新たに設けられる納税猶予制度の特例については、次回解説します。

1.現行の納税猶予制度の概要

 新型コロナウイルス感染症の影響により、国税を一時に納付することができない場合には、所轄の税務署に申請して法令の要件を満たせば、原則として1年以内の期間に限り、換価の猶予(国税徴収法第151条の2)が認められます。
 また、新型コロナウイルス感染症にり患した場合等、個別の事情がある場合は、納税の猶予(国税通則法第46条)が認められる場合もあります。

2.現行の納税猶予制度の要件等

(1) 換価の猶予の要件(国税徴収法第151条の2)

 次の要件のすべてに該当する場合は、現行の納税猶予制度の適用を受けることができます。

① 国税を一時に納付することにより、事業の継続又は生活の維持を困難にするおそれがあると認められること

② 納税について誠実な意思を有すると認められること

③ 猶予を受けようとする国税以外の国税の滞納がないこと

④ 納付すべき国税の納期限から6か月以内に申請書が提出されていること

注1) 担保の提供が明らかに可能な場合を除いて、担保は不要となります。
注2)2019年分(令和元年分)の申告所得税、贈与税及び個人事業者の消費税の確定申告は、延長された期限(2020年(令和2年)4月 16 日)が納期限となります。
注3)既に滞納がある場合や滞納となってから6月を超える場合であっても、税務署長の職権による換価の猶予(国税徴収法第 151 条)が受けられる場合もあります。

(2) 換価の猶予の効果(国税徴収法第151条の2)

 申請が認められると、次のように猶予を受けることができます。

① 原則として1年間猶予が認められます(期間中、資力に応じて分割納付。 状況に応じて更に1年間猶予される場合があります)。

② 猶予期間中の延滞税が軽減されます(通常:8.9%/年→猶予期間中 1.6%/ 年)。

③ 財産の差押えや換価(売却)が猶予されます。

 更に個別の事情に該当する場合は、次の猶予制度(国税通則法第46条)を活用することもできます。

(3) 納税の猶予の要件(国税通則法第46条)

 新型コロナウイルス感染症に関連して以下のような個別の事情に該当する場合は、納税の猶予が認められることがあります。

① 災害により財産に相当な損失が生じた場合
 新型コロナウイルス感染症の患者が発生した施設で消毒作業が行われたことにより、備品や棚卸資産を廃棄した場合

② 本人又は家族が病気にかかった場合
 納税者本人又は生計を同じにする家族が病気にかかった場合、国税を一時に納付できない額のうち、医療費や治療等に付随する費用

③ 事業を廃止し、又は休止した場合
 納税者が営む事業について、やむを得ず休廃業をした場合、国税を一時に納付できない額のうち、休廃業に関して生じた損失や費用に相当する金額

④ 事業に著しい損失を受けた場合
 納税者が営む事業について、利益の減少等により著しい損失を受けた場合、国税 を一時に納付できない額のうち、受けた損失額に相当する金額

注)ケースにより申請に必要な書類等が異なりますので、税務署(徴収担当)に事前に相談してください。

(4) 納税の猶予の効果(国税通則法第46条)

 申請が認められると、次のように猶予を受けることができます。

① 原則として1年間猶予が認められます(状況に応じて更に1年間猶予される場合があります)。

② 猶予期間中の延滞税が軽減又は免除されます。

③ 財産の差押えや換価(売却)が猶予されます。

(5) 猶予申請書

 換価の猶予と納税の猶予に関する申請書様式及び記載要領等については、国税庁ホームページを参照してください。