譲渡所得の各種の特例における「居住用家屋」の判定基準

1.税務調査の際の判定基準

 譲渡所得に係る居住用財産の特例措置には、「3,000万円特別控除の特例(措法35①)」、「軽減税率の特例(措法31の3)」、「買換え特例(措法36の2)」、「空き家の3,000万円特別控除の特例(措法35③)」などがあります。

 これらの特例措置の適用にあたってポイントとなるのが、「居住用家屋」に該当するかどうかという点です。居住用家屋とは、その者が生活の拠点として利用している家屋をいい、税務調査の際には、次に掲げるような状況を総合的に勘案して判断されます。

(1) その者及び配偶者等の日常生活状況
(2) その家屋への入居目的
(3) その家屋の構造及び設備の状況
(4) その他の事情

2.総合的に勘案した判断とは?

 上記1(1)~(4)の判定基準を税務署が「総合的に勘案した判断」について、以下で具体的に述べていきます。

(1) その者及び配偶者等の日常生活状況

 日常生活を行うにあたり、その家屋で寝起きし、食事をとるなど、特別な事情がない限り配偶者や扶養親族と起居をともにしているか否かが判断のポイントになります。
 また、郵便物がどこに届くかも日常生活状況を判断するポイントになります。
さらに、光熱費の利用状況が近隣のその者と同様の家族がいる家庭と比べて、その利用が著しく少ない場合には日常生活をその場所で行っていなかったのではないかと疑問を持たれる可能性があります。

(2) 家屋への入居目的

 税務署が入居目的を確認する場合は、その家屋を購入して入居した経緯や、その家屋を選んだ理由などが問われます。
 特に入居後に短期間で譲渡した場合は、居住用財産の譲渡の特例を使うことを目的として入居したものか否かを判断するために確認がされます。
 しかし、この内容は事実認定によるため、何かしらの立証をすることは難しいものと思われます。

(3) その家屋の構造及び設備の状況

 日常生活を送るうえで、電気・水道・ガスが整備されており、家屋には風呂・トイレ・台所の設備があるのが通常です。しかし、事務所のみの利用を目的にしている家屋は、風呂や台所の設備は設置されていないか、設置されていたとしても光熱費の利用状況などから使用の痕跡が認められない場合があります。このような場合に、居住用財産の譲渡であることを主張しても認められない可能性があります。

(4) その他の事情

 家屋の所有者が、単身赴任転地療養などにより自分で所有する家屋以外の家屋で家族と離れて生活を送るような場合であっても、その事情が解消した時には家族が住んでいる家屋で家族と起居をともにすることとなると認められる場合には、その家族が住んでいる家屋は、その者にとっての居住用家屋として認められます。
 この場合、休日や正月など、その者と家族のプライベートな時間をどのように過ごしているかなどが確認されます。

譲渡所得の各種の特例における「居住用家屋」の範囲

 居住用財産(マイホーム)を売却した場合の特例には、「3,000万円特別控除の特例(措法35①)」、「軽減税率の特例(措法31の3)」、「買換え特例(措法36の2)」など従来から存在する規定と、2016年度(平成28年度)税制改正で創設された「空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例(措法35③)」があります。
 従来から存在する規定と税制改正で新たに創設された規定では、居住用家屋の範囲が一部異なります。
 今回は、譲渡所得の特例における居住用家屋の範囲について確認します。

1.「3,000万円特別控除の特例」等における居住用家屋の範囲

 「3,000万円特別控除の特例」など従来から存在する規定における居住用家屋とは、生活の拠点として利用している家屋をいい、2棟以上の建築物から成る一構えの家屋も含まれます。例えば、母屋の他に単独で居住の用に供するに足りる機能を備えない離れ、隠居部屋、子供の勉強部屋、茶室、あずまや、土蔵等の別棟が該当します。 

 「3,000万円特別控除の特例」等は、個人が居住用家屋を譲渡した場合には、これに代わる新たな家屋を取得するのが通常であり、一般の資産の譲渡に比べて特殊な事情があり、担税力も高くないことを考慮して設けられた特例措置です。

 したがって、上述した建築物は譲渡者の生活の根幹に関わるものであり、別棟であってもその生活に不可欠な家屋は居住用家屋として特例の対象になります。

 なお、特例の対象となるかどうかは、日常生活の状況、入居目的、その家屋の構造及び設備の状況その他の事情を総合勘案して判定することとされています。

2.「空き家の3,000万円特別控除の特例」の被相続人居住用家屋の範囲

 これに対し、「空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例」における居住用家屋については、家屋が2以上の建築物から成る場合は、被相続人が主として居住の用に供していたと認められる一の建築物のみが該当することとされています。

 すなわち、母屋とは別棟の離れ、倉庫、蔵、車庫などがある場合には、その母屋と一体として居住の用に供していたときであっても、その母屋部分のみが特例の対象となる被相続人居住用家屋に該当することになります。

 また、被相続人居住用家屋の敷地等についても同様に考え、その敷地の面積に、2以上の建築物(母屋と離れなど)の床面積の合計のうちに一の建築物である被相続人居住用家屋(母屋)の床面積の占める割合を乗じた部分が被相続人居住用家屋の敷地等になります。

 「空き家の譲渡所得に係る3,000万円特別控除の特例」は、毎年増加している空き家の発生を抑制することで、地域住民の生活環境への悪影響を未然に防ぐために設けられた特例措置です。

 つまり、この特例は譲渡者の生活の根幹に関わるものではなく、家屋の耐震改修費又は解体工事費などが必要になるとはいえ、担税力は高いと考えられます。このような理由から、一の建築物(母屋)のみに特例が適用されます。

空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例

 被相続人の空き家を売却した際の3,000万円特別控除の特例制度は、相続開始直前まで被相続人の居住の用に供されていた家屋が対象とされていました。
 2019年度(平成31年度)税制改正では、被相続人が対象家屋から転居し、相続開始直前に老人ホーム等に入所していた場合でも、一定の要件に該当すればこの特例制度の適用が受けられることになり、適用期限も延長されました。
 今回は、改正点も踏まえてこの特例制度について整理します。

1.制度の概要

 被相続人の居住の用に供されていた家屋及びその敷地等を、相続又は遺贈によって取得した相続人が、2016年(平成28年)4月1日から2023年(令和5年)12月31日までに譲渡した場合は、相続時から譲渡時まで空き家であったことなど一定の要件を満たせば、譲渡益から最高3,000万円を控除することができます。

2.特例対象となる家屋とその敷地等

(1) 家屋(被相続人居住用家屋)

 特例の対象となる家屋(被相続人居住用家屋)とは、相続の開始直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋で、次の3つの要件すべてに当てはまるものをいいます(主として被相続人の居住の用に供されていた一の建築物に限ります(注))。

1981年(昭和56年)5月31日以前に建築されたこと
  昭和56年5月31日以前に建築された家屋は、現行の耐震基準を満たしていません。
区分所有建物登記がされている建物でないこと
  区分所有建物登記がされている建物とは、分譲マンションのことです。
相続の開始直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと
  被相続人が当該家屋に一人暮らしをしていたということです。

(注)「一の建築物に限る」とは、家屋が複数の建築物(例えば、母屋と離れなど)から成る場合は、被相続人が主として居住の用に供していたと認められる一の建築物(母屋)のみが特例の対象となることをいいます。
 ※関連記事「譲渡所得の各種の特例における『居住用家屋』の範囲

 なお、2019年度(平成31年度)税制改正で、要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所するなど、特定の事由により相続の開始直前において被相続人の居住の用に供されていなかった場合で一定の要件を満たすときは、その居住の用に供されなくなる直前まで被相続人の居住の用に供されていた家屋(以下「従前居住用家屋」といいます)は被相続人居住用家屋に該当することとなりました。平成31年度税制改正については、下記(3)で述べます。

(2) 敷地等(被相続人居住用家屋の敷地等)

 特例の対象となる敷地等(被相続人居住用家屋の敷地等)とは、相続の開始直前(従前居住用家屋の敷地の場合は、被相続人の居住の用に供されなくなる直前)において被相続人居住用家屋の敷地の用に供されていた土地又はその土地の上に存する権利をいいます。

(3) 平成31年度税制改正(老人ホーム等に入所していた場合)

① 従前居住用家屋

 この特例制度では、相続の開始直前において被相続人の居住の用に供されていなかった家屋及びその敷地等であっても、次のイからハの要件を満たす場合は、その居住の用に供されなくなる直前まで被相続人の居住の用に供されていた家屋(従前居住用家屋)及びその敷地等は、特例の対象になります。

イ.次に掲げる事由(以下「特定事由」といいます)により、相続の開始直前において被相続人の居住の用に供されていなかった場合であること。

(イ) 介護保険法第19条第1項に規定する要介護認定若しくは同条第2項に規定する要支援認定を受けていた被相続人又は介護保険法施行規則第140条の62の4第2号に該当していた被相続人が、次に掲げる住居又は施設に入居又は入所をしていたこと。

㋑ 老人福祉法第5条の2第6項に規定する認知症対応型老人共同生活援助事業が行われる住居、同法第20条の4に規定する養護老人ホーム、同法第20条の5に規定する特別養護老人ホーム、同法第20条の6に規定する軽費老人ホーム又は同法第29条第1項に規定する有料老人ホーム
㋺ 介護保険法第8条第28項に規定する介護老人保健施設又は同条第29項に規定する介護医療院
㋩ 高齢者の居住の安定確保に関する法律第5条第1項に規定するサービス付き高齢者向け住宅(㋑の有料老人ホームを除きます)

(ロ) 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律第21条第1項に規定する障害支援区分の認定を受けていた被相続人が同法第5条第11項に規定する障害者支援施設(同条第10項に規定する施設入所支援が行われるものに限ります)又は同条第17項に規定する共同生活援助を行う住居に入所又は入居をしていたこと。

(注)被相続人が、上記(イ)の要介護認定若しくは要支援認定又は上記(ロ)の障害支援区分の認定を受けていたかどうかは、特定事由により被相続人居住用家屋が被相続人の居住の用に供されなくなる直前において、被相続人がその認定を受けていたかにより判定します。

ロ.次に掲げる要件を満たしていること。

(イ) 特定事由によりその家屋が被相続人の居住の用に供されなくなった時から相続の開始直前まで、引き続きその家屋がその被相続人の物品の保管その他の用に供されていたこと。
(ロ) 特定事由によりその家屋が被相続人の居住の用に供されなくなった時から相続の開始直前まで、その家屋が事業の用、貸付けの用又は被相続人以外の者の居住の用に供されていたことがないこと。
(ハ) 被相続人が上記イ(イ)又は(ロ)の住居又は施設(以下「老人ホーム等」といいます)に入所をした時から相続の開始直前までの間において、被相続人が主としてその居住の用に供していたと認められる家屋がその老人ホーム等であること。

ハ.その家屋が次の3つの要件すべてに当てはまるもの(特定事由によりその家屋が被相続人の居住の用に供されなくなる直前において、主として被相続人の居住の用に供されていた一の建築物に限ります)であること。

(イ) 1981年(昭和56年)5月31日以前に建築されたこと
(ロ) 区分所有建物登記がされている建物でないこと
(ハ) 特定事由により被相続人の居住の用に供されなくなる直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと

② 適用期限の延長

 この特例制度の適用期限が、2023年(令和5年)12月31日(改正前:2019年(令和元年)12月31日)まで4年延長されました。

③ 適用関係

 上記①②の改正は、2019年(平成31年)4月1日以後に行う被相続人居住用家屋又はその敷地等の譲渡について適用されます。

3.適用を受けるための要件

 この特例の適用を受けるためには、次の(1)から(7)の要件を満たす必要があります。

(1) 売った人が、相続又は遺贈により被相続人居住用家屋及びその敷地等を取得したこと。

(2) 次の①又は②の売却をしたこと。

① 相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋を売るか、被相続人居住用家屋とともにその敷地等を売ること。

(注)被相続人居住用家屋は次のイとロの2つの要件に、被相続人居住用家屋の敷地等は次のイの要件に当てはまることが必要です。

イ.相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。
ロ.譲渡の時において一定の耐震基準を満たすものであること。

② 相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋の全部の取壊し等をした後に被相続人居住用家屋の敷地等を売ること。

(注)被相続人居住用家屋は次のイの要件に、被相続人居住用家屋の敷地等は次のロ及びハの要件に当てはまることが必要です。

イ.相続の時から取壊し等の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。
ロ.相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。
ハ.取壊し等の時から譲渡の時まで建物又は構築物の敷地の用に供されていたことがないこと。

(3) 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。

(4) 売却代金が1億円以下であること。

(5) 売った家屋や敷地等について、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を受けていないこと。

(6) 同一の被相続人から相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋又はその敷地等について、この特例の適用を受けていないこと。

(7) 親子や夫婦など特別の関係がある人に対して売ったものでないこと。
 特別の関係には、このほか生計を一にする親族、家屋を売った後その売った家屋で同居する親族、内縁関係にある人、特殊な関係のある法人なども含まれます。

4.適用を受けるための手続

 この特例の適用を受けるためには、次に掲げる(1)、(2)の区分に応じて、それぞれ次に掲げる書類を添えて確定申告をすることが必要です。

(1) 相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋を売るか、被相続人居住用家屋とともにその敷地等を売った場合

譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)〔土地・建物用〕

② 売った資産の登記事項証明書等で次の3つの事項を明らかにするもの

イ.売った人が被相続人居住用家屋及びその敷地等を被相続人から相続又は遺贈により取得したこと
ロ.被相続人居住用家屋が昭和56年5月31日以前に建築されたこと
ハ.被相続人居住用家屋が区分所有建物登記がされている建物でないこと

③ 売った資産の所在地を管轄する市区町村長から交付を受けた「被相続人居住用家屋等確認書

(注)ここでいう「被相続人居住用家屋等確認書」とは、市区町村長が次のイからヘまでの6つの事項(被相続人居住用家屋が従前居住用家屋以外の場合は、イ及びロに掲げる事項)を確認した旨を記載した書類をいいます。

イ.相続の開始直前(従前居住用家屋の場合は、被相続人の居住の用に供されなくなる直前)において、被相続人が被相続人居住用家屋を居住の用に供しており、かつ、被相続人居住用家屋に被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと。
ロ.被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋及びその敷地等が相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。
ハ.被相続人居住用家屋が、被相続人が要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所するなど、特定の事由により相続の開始直前において被相続人の居住の用に供されていなかったこと。
ニ.被相続人居住用家屋が被相続人の居住の用に供されなくなった時から相続の開始直前まで引き続き被相続人の物品の保管その他の用に供されていたこと。
ホ.被相続人居住用家屋が被相続人の居住の用に供されなくなった時から相続の開始直前まで事業の用、貸付けの用又は被相続人以外の者の居住の用に供されていたことがないこと。
ヘ.被相続人が老人ホーム等に入所した時から相続の開始の直前までの間において被相続人の居住の用に供する家屋が2以上ある場合には、これらの家屋のうちその老人ホーム等が、被相続人が主として居住の用に供していた一の家屋であること。

耐震基準適合証明書又は建設住宅性能評価書の写し

売買契約書の写しなどで売却代金が1億円以下であることを明らかにするもの

(2) 相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋の全部の取壊し等をした後に被相続人居住用家屋の敷地等を売った場合

① 上記(1)の①、②及び⑤に掲げる書類

② 売った資産の所在地を管轄する市区町村長から交付を受けた「被相続人居住用家屋等確認書

(注)ここでいう「被相続人居住用家屋等確認書」とは、市区町村長が次のイからニの4つの事項(被相続人居住用家屋が従前居住用家屋以外の場合は、イからハに掲げる事項)を確認した旨を記載した書類をいいます。

イ.上記(1)の③のイの事項。
ロ.被相続人居住用家屋が相続の時から取壊し等の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。
ハ.被相続人居住用家屋の敷地等が次の2つの要件を満たすこと。

(イ) 相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。
(ロ) 取壊し等の時から譲渡の時まで建物又は構築物の敷地の用に供されていたことがないこと。

ニ.上記(1)の③のハからヘの事項。

5.留意点

 この空き家の譲渡所得の特例と取得費加算の特例は、いずれかの選択適用となります。
 取得費加算の特例とは、相続後3年10か月以内に相続財産を売却した場合は、相続税額の一部を取得費に加算することにより譲渡所得にかかる所得税を軽減する制度です。
 なお、例えば、相続で取得した被相続人(親)の自宅(空き家)の売却と、相続人(子)のマイホーム取得が同一年となった場合など、空き家の譲渡所得の特例と他の譲渡所得や所得税の特例との併用は制限されていません。ただし、マイホームの3,000万円控除とは同一年合計で控除限度額3,000万円となります。

太陽光発電設備による売電収入の所得区分と必要経費

 個人が太陽光発電設備の設置によって得られる売電収入は、次の場合は確定申告が必要になります。

・売電収入が雑所得に該当する場合は所得が20万円を超えるとき
・売電収入が事業所得又は不動産所得に該当する場合は所得が38万円を超えるとき

 このように、売電収入の所得区分によって確定申告の要否が異なります。以下では、太陽光発電設備の設置場所と売電方法という観点から、売電収入の所得区分と必要経費について述べていきます。

1.自宅に設置した場合

(1) 余剰売電

 太陽光発電は設置容量10kWを境に売電方法が変わります。10kW未満(住宅用)の場合は、その設備の中で発電した電力のうち、実際に使用して余った分を売電する「余剰売電」になります。10kW以上(産業用)の場合は、「余剰売電」又は発電した電気を全て売電する「全量売電」のうち任意の方法を選択できます。

 太陽光発電設備を自宅(自宅の屋根や駐車場スペースなど)に設置して売電方法が余剰売電の場合、売電収入の所得区分は大規模なものを除き「雑所得」になります。
 大規模なものは「事業所得」となりますが、例えば発電量が50kW以上であったり、太陽光発電設備に対してフェンスを設置するなど一定の管理を行ったりしている場合などが該当します。

 また、売電収入を得るための必要経費として以下のものが考えられます。

①減価償却費
②ローン利息
③固定資産税
④遠隔監視システムや通信などにかかる管理費
⑤太陽光発電設備に対する損害保険料
⑥メンテナンス費用
⑦パワーコンディショナーの電気代

 余剰売電の場合は、これらの経費の全額を必要経費にすることはできません。例えば、減価償却費については本年分の普通償却費の全額ではなく、全発電量のうち売却した電力量の占める割合に対応する部分に限られます。これは、太陽光発電設備を家事の用にも同時に供していることから、事業供用割合として「電力量」を基準とするためです。

減価償却費の必要経費算入額=本年分の普通償却費×売電した電力量/全発電量

(2) 全量売電

 太陽光発電設備を自宅に設置して売電方法が全量売電の場合、売電収入の所得区分は大規模なものは「事業所得」、それ以外のものは「雑所得」になります。

 全量売電の場合は、減価償却費等の経費は全額が必要経費に算入されます。全量売電の場合は自家消費分がなく、事業供用割合が100%となるからです。

2.賃貸物件に設置した場合

(1) 余剰売電

 太陽光発電設備を賃貸物件(賃貸物件の屋根や外壁など)に設置して余剰売電の場合、売電収入の所得区分は「不動産所得」(付随所得)になります。

 余剰売電ですが、上記1.(1)と異なり、減価償却費等の経費は全額が必要経費に算入されます。これは、消費された電力量についても不動産事業の用に供されているため、按分の必要がないからです。

(2) 全量売電

 太陽光発電設備を賃貸物件に設置して全量売電の場合、不動産所得の付随所得となることはなく、自宅に設置した場合と同様に規模に応じて「事業所得」又は「雑所得」になります。

 全量売電の場合は、上記1.(2)と同様に、減価償却費等の経費は全額が必要経費に算入されます。全量売電の場合は自家消費分がなく、事業供用割合が100%となるからです。

3.自宅兼賃貸物件に設置した場合

(1) 余剰売電

 太陽光発電設備を自宅兼賃貸物件(自宅兼アパートの屋根など)に設置して余剰売電(自宅・賃貸物件の使用分の余りを売却)の場合、売電収入の所得区分は「不動産所得」(付随所得)になります。

 経費については、全発電量のうち売電した電力量及び賃貸物件で消費した電力量の合計に対応する部分を必要経費に算入します。自宅で消費した電力量に対応する部分は必要経費に算入できません。

(2) 全量売電

 太陽光発電設備を自宅兼賃貸物件に設置して全量売電の場合、不動産所得の付随所得となることはなく、自宅に設置した場合と同様に規模に応じて「事業所得」又は「雑所得」になります。

 経費についても、上記2.(2)と同様に、減価償却費等の経費は全額が必要経費に算入されます。

 最後に太陽光発電による売電収入の所得区分をまとめると次のようになります。

売電方法 設置場所 所得区分
余剰売電 自宅 事業所得又は雑所得
賃貸物件 不動産所得
自宅兼賃貸物件

全量売電

自宅 事業所得又は雑所得
賃貸物件
自宅兼賃貸物件



所得税から引ききれなかった住宅ローン控除額の住民税からの控除

1.住宅ローン控除の概要

 住宅ローンを使って住宅の取得、新築、増改築等をして、2021年(令和3年)12月31日までに居住を開始した場合は、居住開始年以後10年間(注)の各年分の所得税において、住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)の適用を受けることができます。
 控除額は、その年の12月31日現在の住宅ローン等の残高の1.0%とされ、新築等した居住用家屋の区分に応じて、年間最大控除額は40万円又は50万円となります。

(注)2019年(令和1年)10月1日からの消費税率引き上げに際し、消費税等の税率が10%である住宅の取得等をして2019年(令和1年)10月1日から2020年(令和2年)12月31日までの間に居住した場合、住宅ローン等の所得税額の控除期間を13年間(3年間延長)とする特例が創設されました。
 住宅ローン等の年末残高×1%と、住宅の税抜購入価格×2%÷3のうち、いずれか少ない金額を11年目から13年目までの各年に控除することができます。
 なお、1年目から10年目までは現行と同様の金額が控除可能です。

区分 居住年 住宅ローン等年末残高 控除率 年間最大控除額 控除期間
一般住宅 ~令和2年12月 最大4,000万円 1.0% 40万円 10年間
認定住宅 ~令和2年12月 最大5,000万円 1.0% 50万円 10年間

 住宅ローン控除可能額のうち、所得税から控除しきれなかった残額がある場合は、翌年度分の住民税から、その残額相当額が控除されます。

2.住民税からの控除額の計算方法

(1) 住民税からの控除額の上限

 住宅ローン控除前の所得税額が住宅ローン控除額より少ない場合は、所得税から住宅ローン控除額が引ききれません。このように、所得税から控除しきれなかった残額がある場合は、翌年度分の住民税からその残額相当額が控除されます。
 ただし、住民税から控除する額には上限があり、上限額は住宅を取得等したときに課された消費税率によって異なります。
 消費税率が5%又は非課税のときは、所得税の課税総所得金額等×5%(最高9.75万円)が上限とされ、消費税率が8%のときは、所得税の課税総所得金額等×7%(最高13.65万円)とされます。
 なお、2014年(平成26年)4月以降でも経過措置により5%の消費税率が適用される場合や消費税が非課税とされている中古住宅の個人間売買などは2014年(平成26年)3月までの措置が適用されます。

居住年 上限額
~平成26年3月 9.75万円(課税総所得金額等×5%)
平成26年4月~令和3年12月 13.65万円(課税総所得金額等×7%)

(2) 所得税の控除可能額

 以下の簡単な設例を使って、所得税で引ききれなかった住宅ローン控除額の住民税からの控除額の計算方法を確認していきます。

【設例】
 2018年(平成30年)中に取得した土地に認定住宅である建物を新築して居住を開始しました。取得価額は土地建物合計で5,000万円、2019年(令和1年)12月31日現在の住宅ローン残高は4,000万円でした。なお、2019年(令和1年)分の所得税の課税総所得金額等は350万円、所得税額は25万円です。

所得税の控除可能額は、次のようになります。
 住宅ローン年末残高4,000万円<取得価額5,000万円→低い方4,000万円
 4,000万円×1.0%=40万円  ∴40万円

(3) 所得税からの控除額

所得税からの控除額は、次のようになります。
 控除可能額40万円≧所得税額25万円  ∴25万円

(4) 住民税からの控除額

住民税からの控除額は、次のようになります。
 控除可能額40万円-所得税の控除額25万円=控除しきれなかった金額15万円
 所得税の総所得金額等350万円×7%=24.5万円≧住民税の控除上限額13.65万円
 控除しきれなかった金額15万円≧住民税の控除上限額13.65万円  
 ∴翌年度分(令和2年度分)の住民税から13.65万円が控除されます。

(5) 控除額合計

住宅ローン控除可能額40万円のうち、所得税から25万円、住民税から13.65万円、合計38.65万円が控除されることになります。

寡婦・寡夫控除の要件と注意点

 寡婦控除は、女性の給与の支払を受ける人が一般の寡婦のときは27万円、特別の寡婦のときは35万円が控除されます。
 寡夫控除は、男性の給与の支払を受ける人が寡夫のときに27万円が控除されます。
 寡婦・寡夫控除は、その原因(離婚か死別か)や扶養親族の有無、給与の支払を受ける人の所得金額により適用要件と控除金額が異なります。

※2020年度(令和2年度)税制改正で寡婦(夫)控除が改正されました。改正後については、本ブログ記事「未婚のひとり親控除の新設と寡婦(夫)控除の改正」をご参照ください。

1. 寡婦控除の要件と控除額

 寡婦とは、女性の給与の支払を受ける人がその年12月31日の現況で、次の①、②のいずれかに該当する人です。

次のいずれかに該当する人で、扶養親族又は生計を一にする子のある人
イ.夫と死別した後、婚姻していない人
ロ.夫と離婚した後、婚姻していない人
ハ.夫の生死が明らかでない人
 なお、「生計を一にする子」とは、所得金額が38万円以下で、他の所得者の控除対象配偶者や扶養親族となっていない人です。

② 上記①に掲げる人のほか、次のいずれかに該当する人で、合計所得金額が500万円以下の人
イ.夫と死別した後婚姻していない人
ロ.夫の生死が明らかでない人

 具体的な要件と控除額は、下表を参照して下さい。

離婚・死別の区分 扶養親族などの有無の要件 所得金額の要件 寡婦の区分 控除額
離婚・死別(生死不明) 扶養親族である子がいる人 500万円以下 特別の寡婦 350,000円
同上 扶養親族又は生計を一にする子がいる人 要件なし 一般の寡婦 270,000円
死別(生死不明) 要件なし 500万円以下 一般の寡婦 270,000円

※ 離婚が原因で寡婦となった人は、扶養親族又は生計を一にする子がいないときは寡婦控除の要件に該当しません。

2. 寡夫控除の要件と控除額

 寡夫とは、男性の給与の支払を受ける人がその年12月31日の現況で、次の要件の①、②又は③のいずれかに該当する人で、生計を一にする子があり、かつ、合計所得金額が500万円以下の人です。

① 妻と死別した後、婚姻していない人
② 妻と離婚した後、婚姻していない人
③ 妻の生死が明らかでない人

 具体的な要件と控除額は、下表を参照して下さい。

離婚・死別の区分 扶養親族などの有無の要件 所得金額の要件 控除額
          離婚・死別             (生死不明) 生計を一にする子がいる人 500万円以下 270,000円

※ 寡夫の人は、生計を一にする子がいないときは寡夫控除の要件に該当しません。

3. 寡婦・寡夫控除の注意点

① 寡婦・寡夫控除は、16歳未満の年少扶養親族がいる人も適用できます。
未婚の母(シングルマザー)は寡婦控除の対象にはなりません。寡婦は婚姻してから死別、離婚、生死不明の状態となり、以後婚姻をしていない人が該当しますので、仮に認知された子を有していても、婚姻したことがない未婚の母(シングルマザー)は寡婦になりません。
未婚の母(シングルマザー)が婚姻しその後離婚した場合は、寡婦控除の対象になります。扶養親族である子は婚姻後に出生したいわゆる嫡出子に限定されていないので、当初シングルマザーであったとしても、税法どおり「夫と離婚してから婚姻をしていない者で扶養親族又は生計を一にする子を有する者」に該当する限り、寡婦控除の適用があります。
寡夫控除と配偶者控除を二重に受けられる場合があります。年の途中で死亡した者については、その扶養親族等の判定は死亡時の現況で行うこととなりますので、配偶者の死亡時にその配偶者が所得要件を満たしている場合には、配偶者控除の適用を受けることができます。また、その年12月31日の現況で、寡夫の要件に該当すれば寡夫控除も受けることができます。
離婚して元妻に引き取られた子の養育費を支払っている場合、所得が500万円以下であれば寡夫控除を受けることができます。離婚に伴う養育費の支払いが扶養義務の履行として行われている場合には、その子は「生計を一にしている親族」として扶養控除の対象とされ、さらに、元夫の合計所得金額が500万円以下であれば、寡夫控除の適用を受けることができます。一方、元妻は子と同居していても「夫と死別し、若しくは夫と離婚した後婚姻をしていない者又は夫の生死がわからない者で、扶養親族その他その者と生計を一にする親族を有する者」に該当しないため、寡婦控除を受けることはできません

国外居住親族に係る扶養控除等の適用

 最近はベトナムなどから外国人技能実習生を受け入れる企業が増えています。外国人技能実習生に支給する研修手当は、雇用契約に基づく労働の対価(給与)に該当しますので、所得税を源泉徴収しなければなりません。また、このような外国人技能実習生に対する給与は、年末調整の対象になります。
 今回は、年末調整の際に、外国人技能実習生が非居住者である親族(日本国外に居住する親族)に係る扶養控除等の適用を受けるための手続きについて紹介します。

1.扶養控除等申告書に必要事項を「親族関係書類」から記載する

 給与等の源泉徴収において、非居住者である親族に係る扶養控除、配偶者控除、障害者控除又は配偶者特別控除の適用を受ける居住者(外国人技能実習生)は、当該親族に係る「親族関係書類」を源泉徴収義務者に提出する扶養控除等申告書に添付し、又はその申告書等の提出の際に提示しなければなりません。

 「親族関係書類」とは、次の(1)又は(2)のいずれかの書類で、その非居住者がその居住者(外国人技能実習生)の親族であることを証するものをいいます。

(1) 戸籍の附票の写しその他の国又は地方公共団体が発行した書類及び国外居住親族の旅券(パスポート)の写し
(2) 外国政府又は外国の地方公共団体(以下、「外国政府等」といいます)が発行した書類(国外居住親族の氏名、生年月日及び住所又は居所の記載があるものに限ります)

 「親族関係書類」に関する注意事項は次のとおりです。

① 親族関係書類が外国語により作成されている場合には、訳文を添付等する必要があります。
② 親族関係書類は、国外居住親族の旅券の写しを除き、原本の提出又は提示が必要です。
③ 上記(2)の外国政府等が発行した書類は、例えば次のような書類が該当します。
イ.戸籍謄本
ロ.出生証明書
ハ.婚姻証明書
④ 外国政府等が発行した書類について、一つの書類に国外居住親族の氏名、生年月日及び住所又は居所のすべてが記載されていない場合は、複数の書類を組み合わせることにより氏名、生年月日及び住所又は居所を明らかにする必要があります。
⑤ 一つの書類だけでは国外居住親族が居住者(外国人技能実習生)の親族であることを証明できない場合には、複数の書類を組み合わせることにより、居住者(外国人技能実習生)の親族であることを明らかにする必要があります。
⑥ 16歳未満の非居住者である扶養親族(扶養控除の対象とならない扶養親族)であっても障害者控除を受ける場合には、親族関係書類及び送金関係書類の提出又は提示が必要です。

2.年末調整では国外居住親族への「送金関係書類」を確認する

 給与等の年末調整において、非居住者である親族に係る扶養控除、配偶者控除、障害者控除の適用を受ける居住者(外国人技能実習生)は、「送金関係書類」を源泉徴収義務者に提出する扶養控除等申告書に添付し、又はその申告書の提出の際に提示しなければなりません。

 非居住者である配偶者に係る配偶者特別控除の適用を受ける居住者(外国人技能実習生)は、「親族関係書類」及び「送金関係書類」を源泉徴収義務者に提出する配偶者特別控除申告書に添付し、又はその申告書の提出の際に提示しなければなりません。

 「送金関係書類」とは次の書類で、その居住者(外国人技能実習生)がその非居住者である親族の生活費又は教育費に充てるための支払を、必要の都度、各人に行ったことを明らかにするものをいいます。

(1) 金融機関の書類又はその写しで、その金融機関が行う為替取引により居住者から国外居住親族に支払をしたことを明らかにする書類
(2) クレジットカード発行会社の書類又はその写しで、国外居住親族がそのクレジットカード発行会社が交付したカードを提示してその国外居住親族が商品等を購入したこと等により、その商品等の購入等の代金に相当する額の金銭をその居住者(外国人技能実習生)から受領した、又は受領することとなることを明らかにする書類

 「送金関係書類」に関する注意事項は次のとおりです。

① 送金関係書類が外国語により作成されている場合には、訳文を添付等する必要があります。
② 送金関係書類については、原本に限らずその写しも送金関係書類として取り扱うことができます。
③ 送金関係書類は、具体的には次のような書類が該当します。
イ.外国送金依頼書の控え
 その年において送金をした外国送金依頼書の控え
ロ.クレジットカードの利用明細書
 クレジットカードの利用明細書とは、居住者(外国人技能実習生)がクレジットカード発行会社と契約を締結し、国外居住親族が使用するために発行されたクレジットカードで、その利用代金を居住者(外国人技能実習生)が支払うこととしているもの(いわゆる家族カード)に係る利用明細書をいいます。
 この場合、その利用明細書は家族カードの名義人となっている国外居住親族の送金関係書類として取り扱います。
 クレジットカードの利用明細書は、クレジットカードの利用日の年分の送金関係書類となります(クレジットカードの利用代金の支払(引落し)日の年分の送金関係書類とはなりません)。
 なお、現金での手渡しの場合は、国外居住親族に係る扶養控除等を適用できません。
④ 国外居住親族が複数いる場合には、送金関係書類は扶養控除等を適用する国外居住親族の各人ごとに必要となります
 例えば、国外に居住する配偶者と子がいる場合で、配偶者に対してまとめて送金している場合には、その送金に係る送金関係書類は、配偶者(送金の相手方)のみに対する送金関係書類として取り扱い、子の送金関係書類として取り扱うことはできません。
⑤ 送金関係書類については、扶養控除等を適用する年に送金等を行ったすべての書類を提出又は提示する必要があります。
 複数年分をまとめて送金している旨の申立てがあった場合でも、複数年にわたる送金関係書類として使用することはできません。
 同一の国外居住親族への送金等が年3回以上となる場合には、一定の事項を記載した明細書の提出と各国外居住親族のその年最初と最後に送金等をした際の送金関係書類の提出又は提示をすることにより、それ以外の送金関係書類の提出又は提示を省略することができます。この場合、提出又は提示を省略した送金関係書類については、居住者(外国人技能実習生)本人が保管する必要があります。
⑥ 送金額の基準は特に定められていませんが、送金の目的(生活費又は教育費に充てるためのものかどうか)を確認する必要があります。
⑦ 16歳未満の非居住者である扶養親族(扶養控除の対象とならない扶養親族)であっても障害者控除を受ける場合には、親族関係書類及び送金関係書類の提出又は提示が必要です。

扶養控除の要件等

1.控除対象扶養親族の要件

 2011年(平成23年)分から、年齢16歳未満の扶養親族(年少扶養親族)に対する扶養控除が廃止されました。これに伴い、扶養控除の対象者は年齢16歳以上の扶養親族(控除対象扶養親族)とされました。
 扶養控除は、給与の支払を受ける人が控除対象扶養親族を有する場合に適用されます。控除対象扶養親族とは、その年の12月31日に次の要件のすべてに当てはまる人です。

(1) 配偶者以外の年齢16歳以上の親族(6親等内の血族及び3親等内の姻族をいいます)又は都道府県知事から養育を委託された児童(里子)や市町村長から養護を委託された養護老人
(2) 生計を一にしている
(3) その年の合計所得金額が38万円以下
(4) 他の所得者の控除対象配偶者又は控除対象扶養親族となっていない
(5) 青色申告者の事業専従者として給与の支払を受けていない
(6) 白色申告者の事業専従者となっていない

※ 2018(平成30)年度税制改正により、2020(令和2)年分より「48万円以下」に引き上げられました。

2.扶養控除額

 扶養控除額は、下表のように一般の控除対象扶養親族は38万円、19歳から22歳までの特定扶養親族は63万円、70歳以上の老人扶養親族で同居している直系尊属(給与の支払を受ける人又はその配偶者の父母・祖父母等)は58万円、その他の老人扶養親族は48万円となります。

扶養控除の区分 扶養控除額
年少扶養親族(0歳~15歳) 0円
一般の控除対象扶養親族(16歳~18歳) 380,000円
特定扶養親族(19歳~22歳) 630,000円
一般の控除対象扶養親族(23歳~69歳) 380,000円
老人扶養親族(70歳~)で同居老親等以外の者 480,000円
老人扶養親族(70歳~)で同居老親等 580,000円

 一般の控除対象扶養親族は、扶養親族のうちその年の12月31日現在(年の中途で死亡した場合は死亡時)の年齢が16歳以上19歳未満の人又は年齢が23歳以上70歳未満の人です。
 特定扶養親族は、扶養親族のうちその年の12月31日現在(年の中途で死亡した場合は死亡時)の年齢が19歳以上23歳未満の人です。
 老人扶養親族は、扶養親族のうちその年の12月31日現在(年の中途で死亡した場合は死亡時)の年齢が70歳以上の人です。
 また、同居老親等は、老人扶養親族のうち、給与の支払を受ける人又は配偶者の直系尊属(父母、祖父母など)で給与の支払を受ける人又はその配偶者と常に同居している人をいいます。
 したがって、給与の支払を受ける人又はその配偶者の兄弟姉妹と伯叔父母(父母の兄弟姉妹)で70歳以上の人は直系尊属ではないため、同居老親等ではなくて老人扶養親族になります。

3.「生計を一にする」とは

 「生計を一にする」とは、必ずしも同じ家屋に同居していることをいうのではなく、それぞれ次によることとされています。

(1) 勤務、修学、療養などの都合で同居していない親族がいる人は、以下のときにはこの親族は生計を一にするものとします。
 ① 同居をしていない親族が、その親族の休日や休暇のときには同居をしている
 ② 同居をしていない親族に、生活費、学資金、療養費などを常に送金している
(2) 親族が同じ家屋に同居しているときには、明らかに独立した生活をしている場合以外は、その親族は生計を一にするものとします。

4.入院している人の「同居老親等」の判定

 同居老親等の判定では、70歳以上老人扶養親族の人が給与の支払を受ける人又はその配偶者と常に同居していることが必要になります。
 しかし、老人扶養親族の人が、病気の入院などのために一時的に別居している場合があります。この場合、病気の治療のための入院であれば同居老親等に該当することになります。
 一方、老人扶養親族で老人ホームや介護老人福祉施設などに長期間入所している人は、その老人ホームが居所となり同居老親等には該当しません

5.年の中途で死亡又は出国した場合

 給与の支払を受ける人の控除対象扶養親族は、その年の12月31日現在で判定することになっています。
 したがって、その年の12月31日において、同じ人を対象として複数の人が重ねて扶養控除を受けることはできません
 しかし、給与の支払を受ける人が年の途中で死亡又は出国した場合は、その死亡又は出国の時により判定することになります。
 このため、年の途中で死亡した人の控除対象扶養親族として申告した人であっても、その後その年中において他の人の控除対象扶養親族として申告することができます
 例えば、給与所得者の父がその年中に死亡した場合、その年の合計所得金額が38万円以下(2020(令和2)年分以後は48万円以下)の子は父の控除対象扶養親族となります。
 その後、給与所得者の母と生計を一にしている場合は、母の年末調整においても控除対象扶養親族となることができます。

「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」のマイナンバー記載を省略する方法

 2016年(平成28年)1月1日以後に提出を受ける「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」には、①給与の支払者の個人番号又は法人番号、②給与の支払を受ける人、③控除対象配偶者(2018年(平成30年)分からは「源泉控除対象配偶者」)、④控除対象扶養親族及び⑤16歳未満の扶養親族の個人番号を記載しなければなりません。
 しかし、2017年(平成29年)1月1日以後に提出を受ける「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」については、一定の要件の下、上記②~⑤の個人番号の記載を省略することができます。
 今回は、個人番号の記載を省略するための一定の要件(2つの方法)について紹介します。

1.給与支払者が「個人番号の記載を不要とするために備える帳簿」を作成する場合

 扶養控除等申告書の個人番号の記載を省略するための1つ目の方法は、給与支払者が「個人番号の記載を不要とするために備える帳簿」を作成することです。
 この「個人番号の記載を不要とするために備える帳簿」には、以下の事項を記載します。

(1) 扶養控除等申告書に記載される提出者本人、源泉控除対象配偶者、控除対象扶養親族、16歳未満の扶養親族の氏名、住所及びマイナンバー(個人番号)
(2) 帳簿の作成に当たり提出を受けた申告書の名称
(3) その申告書の提出年月

 上記(2)の申告書は、次のものに限ります。

① 給与所得者の扶養控除等申告書
② 従たる給与についての扶養控除等申告書
③ 給与所得者の配偶者控除等申告書
④ 退職所得の受給に関する申告書
⑤ 公的年金等の受給者の扶養親族等申告書

 なお、次の2に掲げるように、「給与支払者に提供済のマイナンバー(個人番号)と相違ない」旨を記載して提出された「マイナンバー(個人番号)と紐付け管理された扶養控除等申告書」も「個人番号の記載を不要とするために備える帳簿」作成の基となる扶養控除等申告書とすることができます。

2.従業員が扶養控除等申告書に「給与支払者に提供済みのマイナンバー(個人番号)と相違ない」と記載する場合

 給与支払者と従業員との間での合意により、従業員が扶養控除等申告書の個人番号欄又は余白に「マイナンバー(個人番号)については給与支払者に提供済みのマイナンバー(個人番号)と相違ない」と記載し、給与支払者はすでに提供を受けている従業員等の個人番号を確認してから確認した旨を扶養控除等申告書に表示すると、扶養控除等申告書の個人番号の記載を省略することができます。
 この場合、給与支払者は保有している「個人番号」と「個人番号の記載が省略された扶養控除等申告書」について、適切かつ容易に紐付けられるように管理しておく必要があります。

ロータリークラブ、ライオンズクラブの会費は法人と個人で経理処理が異なる!

 9月決算・11月申告法人の決算書・申告書のチェックをしていた際に、ロータリークラブの入会金と会費が決算書の「諸会費」に計上されていることに気づきました。
 ロータリークラブやライオンズクラブの入会金と通常会費については、その経理処理が法人と個人で異なります。経費(法人税法上の損金、所得税法上の必要経費)として認められるか否かについて、以下述べていきます。

1.法人の場合は交際費として損金算入

 法人が支出したロータリークラブやライオンズクラブの入会金・通常(経常)会費は、次の法人税基本通達9-7-15の2(1)より交際費となります。

「9-7-15の2 法人がロータリークラブ又はライオンズクラブに対する入会金又は会費等を負担した場合には、次による。(昭55年直法2-15「十六」により追加)

(1) 入会金又は経常会費として負担した金額については、その支出をした日の属する事業年度の交際費とする。
(2) (1)以外に負担した金額については、その支出の目的に応じて寄附金又は交際費とする。ただし、会員たる特定の役員又は使用人の負担すべきものであると認められる場合には、当該負担した金額に相当する金額は、当該役員又は使用人に対する給与とする。」

 (2)は、入会金・経常会費以外に負担した金額、例えば懇親会参加費用などは交際費となりますが、本来個人が負担すべき金額を法人で支払った場合は、その個人に対する給与となることをいっています。

 なお、ロータリークラブやライオンズクラブの入会金・通常会費の消費税の課税区分は不課税です。

2.個人の場合は必要経費不算入

 一方、個人事業主が支出したロータリークラブやライオンズクラブの入会金・通常会費は、必要経費として認められません。所得税基本通達に規定はありませんが、過去の裁決例、例えば2016年(平成28年)7月19日裁決において、個人事業主である弁護士がロータリークラブの会費の必要経費性を主張したところ、国税不服審判所は次のように判断しています。

「本件ロータリークラブは、定款に従って、各種の奉仕活動を行うとともに、会員同士の親睦を深めたり、講演や卓話を通じて教養を高めるなどの活動をしていたものと認められる。そして、請求人の本件クラブの会員としての活動の主なものは、①例会への出席、②親睦会への出席、③奉仕活動への参加及び④講演会への出席であり、請求人がこれらの活動を行うことで報酬を得ていたなどの事情は特に見当たらない。 」

「本件クラブの活動内容を踏まえ、請求人が本件クラブの会員として行う以上のような活動を社会通念に照らして客観的にみれば、その活動はいずれも営利性、有償性を有しておらず、請求人が弁護士としてその計算と危険において報酬を得ることを目的として継続的に法律事務を行う経済活動に該当するものではないというべきである。」

「そうすると、本件各会費は、請求人が本件クラブの会員であることに伴って支出したものであるから、請求人の所得を生ずべき事業と直接関係し、かつ、当該事業の遂行上必要であるとは認められない。したがって、本件各会費は、事業所得の金額の計算上必 要経費に算入されない。」

「請求人は、弁護士業においては、顧客獲得のための積極的な営業・広報動等を広く展開することが重要であり、本件クラブの会員であることは、業務遂行上必要かつ極めて有益な要因である旨主張する。しかしながら、本件クラブの会員であることで、請求人が主張するような側面があったとしても、これは、会費を支出することの直接の目的ではなく、飽くまでも間接的、副次的に生ずる効果にすぎないとみるのが相当であるから、会費を支出することが、弁護士業務の遂行上必要であるということはできない。したがって、請求人の上記主張には理由がない。」

 また、この裁決の中で、ロータリークラブの会費を法人が支出した場合は経費になるのに対し、個人が支出した場合は経費にならない理由について、国税不服審判所は次のように述べています。

「さらに、請求人は、法人が支出するロータリークラブの会費は、法人税基本通達において、クラブ加入の実質的目的を根拠に経費性が認められており、実態として全く変わりのない個人としての弁護士に関しても当然経費性が肯定されるべきである旨主張する。しかしながら、私的な消費生活を行う個人と、それを観念できない法人とでは、支出に関する取扱いを異にすることは、所得税法及び法人税法におけるそれぞれの課税所得の計算構造をみても当然に予定されているものというべきであるから、この点に関する請求人の主張にも理由がない。」