役員報酬の前払いは定期同額給与(経費)になりません

 前回、「役員報酬の前払いは短期前払費用(経費)になりません」という記事を書きました。この記事では、翌期の役員報酬を当期に前払いしても、当期の経費にならないことを確認しました。
 では、当期の役員報酬を当期に前払いした場合は、その役員報酬は当期の経費になるのでしょうか。今回は、この点について確認します。

1.設例

 以下の簡単な例を設けて話を進めます。

【設例】
(1) A社(3月決算法人)は○年5月25日に定時株主総会を開き、代表取締役甲の5月26日から翌年5月25日までの役員報酬を1,200万円(月額100万円)とすることを決議をした。なお、支給日は各月25日である。

(2) A社は、○年6月25日に6月分の役員報酬100万円と7月分以降の残り11回分1,100万円を甲に支給した。その際、A社は次のように会計処理をした。

借方 金額 貸方 金額
役員報酬 100万円 現金預金 1,200万円
前払金 1,100万円    

(3) A社は、〇年7月25日以降の各支給日に次のように会計処理をした。

借方 金額 貸方 金額
役員報酬 100万円 前払金 100万円

 

2.定期同額給与になるか?

 法人税法第34条第1項第1号(役員給与の損金不算入)において、定期同額給与は次のように定義されています。

法人税法第34条 (役員給与の損金不算入)
 内国法人がその役員に対して支給する給与・・・のうち次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
1 その支給時期が1月以下の一定の期間ごとである給与・・・で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものその他これに準ずるものとして政令で定める給与(次号において「定期同額給与」という。)

 また、法人税基本通達9-2-12において、定期同額給与は次のように定められています。

9-2-12 法第34条第1項第1号《定期同額給与》の「その支給時期が1月以下の一定の期間ごと」である給与とは、あらかじめ定められた支給基準(慣習によるものを含む。)に基づいて、毎日、毎週、毎月のように月以下の期間を単位として規則的に反復又は継続して支給されるものをいう・・・。

 上記設例において、A社は甲に対して、7月以降も各支給日に毎月100万円を支給していますので、定期同額給与とすることに問題がないように見えます。
 しかし、税務調査の際には、次の指摘がされる可能性があります。

3.役員に対する貸付金又は賞与

 税務署は、定期同額給与の判定において、上記のように役員報酬が前払いされている場合はその理由を問うこととしており、通常、当該役員に一時金が必要だったと判断されるようです。
 そのため、役員報酬を前払いした場合は、役員に対する貸付金又は賞与と認定される可能性があります。

役員報酬の前払いは短期前払費用(経費)になりません

 決算間近の節税対策として、翌1年分の家賃や保険料を前払いして当期の経費とすることがあります。しかし、使い方を間違えると、税務調査の際に否認されてしまいます。
 最近も顧問先様から、この短期前払費用の特例を使って役員報酬を前払いしたいとの相談がありました。直感的に無理だと思いましたが、根拠を示さなければなりません。調べてみると、裁決事例集に同じような事例が載っていました。
 今回は、役員報酬の前払いが短期前払費用に該当しない(当期の経費にならない)ことを確認します。

1.設例

 裁決事例集No.65-343頁を参考に、以下の簡単な例を設けて説明します。

【設例】
(1) A社(3月決算法人)は○年3月25日に臨時株主総会を開き、以下の決議をした。
① 代表取締役甲の3月26日から翌年3月25日までの役員報酬を1,200万円とすること
② 甲が、上記①の期間中に辞任するか解任された場合は、原則として、年俸額を⽇数按分すること

(2) A社は、○年3月25日に額面金額100万円の約束手形12枚を振り出して甲に支給した。なお、約束⼿形の決済期⽇は、4⽉25⽇以降の各⽉の25⽇である。

2.債務は確定しているか?

 法⼈税法第22条第3項第2号は、内国法⼈の各事業年度の所得の⾦額の計算上当該事業年度の損⾦の額に算⼊すべき⾦額として、当該事業年度の販売費、⼀般管理費その他の費⽤(以下「費⽤等」という。)の額を掲げるとともに、その費⽤等の範囲について、償却費以外の費⽤の場合には、当該事業年度終了の⽇までに債務の確定しているものとする旨を規定しています。

 また、法⼈税基本通達2-2-12《債務の確定の判定》は、上記の「当該事業年度終了の⽇までに債務の確定しているもの」とは、別に定めるものを除き、当該事業年度終了の⽇までに、以下の3要件すべてを満たすものとしています。
(1) 当該費⽤に係る債務が成⽴していること(以下「債務成⽴要件」という)
(2) 当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発⽣していること(以下「給付原因発⽣要件」という)
(3) その⾦額を合理的に算定することができるものであること(以下「合理的算定要件」という)

 上記1の設例において、A社は甲に対する債務が確定しているので、甲に対する役員報酬1,200万円を当期に損金算入できると主張しています。臨時株主総会の決議でA社は甲に役員報酬を支払う法的義務があり、実際に手形を振り出して支払っているからです。

 A社の主張に対し、審判所は、A社と甲の間にA社がいう法的な債務が成⽴し、役員報酬が具体的に⽀払われていることを認めながらも、法⼈税法上いずれの事業年度の損⾦の額に算⼊されるべきかを判断する(債務の確定の判定)に当たっては、事業年度終了の⽇までに確定債務3要件(債務成立要件、給付原因発生要件、合理的算定要件)すべてを充⾜しなければならないことを確認しました。
 そして、臨時株主総会の決議によって、辞任や退職等によって労務の提供等がされない場合には役員報酬の⽀払義務が⽣じないことと定められていることからしても、役員報酬は、役務の提供等を受けることを具体的な給付原因として⽀出されるものであるから、給付原因発⽣要件を充⾜しているとは認められないとしました。
 したがって、当期の損⾦の額に算⼊すべき債務が確定しているものとは認められないので、具体的に役務の提供等を受ける翌事業年度の損⾦の額に算⼊すべきであると結論付けました。

 以上をまとめると、役員報酬は役員が株主からの委任を受けて業務を執⾏したことの対価として⽀払われるものであり、その職務等を全うすることによって初めて、役員は役員報酬を法⼈に請求することができ、法⼈においては、その時に⽀払債務が確定することになります。
 そうすると、当事業年度終了の⽇までに甲は労務の提供等をしていないから、給付原因発⽣要件を満たしているとはいえず、A社の⽀払債務は確定していないということになります。

3.短期前払費用に該当するか?

 法⼈税基本通達2-2-14《短期の前払費⽤》は、その前段において、前払費⽤(⼀定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために⽀出した費⽤のうち、当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていないものをいう。以下同じ。)の額は、当該事業年度の損⾦の額に算⼊されないとの原則を定めるとともに、その後段において、前払費⽤の額でその⽀払った⽇から1年以内に提供を受ける役務に係るものを⽀払った場合において、その⽀払った額に相当する⾦額を継続してその⽀払った⽇の属する事業年度の損⾦の額に算⼊しているときは、これを認める旨の取扱い(以下「後段の取扱い」という。)を定めています。

 A社は、仮に債務が確定しておらず役員報酬が翌事業年度に対応する費⽤であるとしても、短期前払費用に該当するから、当期の損⾦の額に算⼊すべきであると主張しました。

 これに対し審判所は、前払費⽤は、企業会計上、⼀定の契約に従い、継続して役務の提供を受ける場合において、いまだ提供されていない役務に対して⽀払われる対価で、時間の経過とともに次期以降の費⽤となるものであり、また、前払費⽤のうち、重要性の乏しいものについては、重要性の原則から、これを経過勘定項⽬として処理しないことができ、その代表的なものは、未経過保険料、未経過利息、前払賃借料等で、時の経過に応じて⾃動的、合理的に費⽤化されるものであると説明しました。

 そして、前払費⽤は、本来、その⽀出事業年度の損⾦に算⼊されないのが原則であるが、上記のような企業会計の趣旨から、法⼈税法第22条第4項に規定する⼀般に公正妥当と認められる会計処理の基準といえる重要性の原則(企業の会計処理の基準となる原則の1つで、重要性の乏しいものについては本来の厳密な会計処理によらないで他の簡便な⽅法によることを認める旨の原則をいうに沿う限りにおいて、後段の取扱いを例外として適⽤する旨を定めているとしました。
 また、後段の取扱いは、重要性の原則の範囲内においてその適⽤が認められるべきものであり、同原則の範囲内か否かの判断に当たっては、前払費⽤の⾦額だけではなく、当該法⼈の財務内容に占める割合や影響等も含めて総合的に考慮する必要があるとしました。

 そのうえで審判所は、役員報酬は企業の業務を執⾏したことに対する対価として支払われ企業が営利活動を⾏う上で必要なものであり、企業活動の根幹に係る⾏為に対する対価であることからすると、会計科⽬としての重要性を有するとし、また、⼈件費のうちに甲に対する役員報酬の⾦額が占める割合も、⾼率かつ可変的であり、⾦額的にみても重要性を有するとしました。

 そうすると、役員報酬は、時の経過に応じて⾃動的、合理的に費⽤化されるような重要性の乏しい費⽤とは本質的にその性質を異にするものであると認められることから、役員報酬に対して後段の取扱いを適⽤することはできないと結論付けました。

 以上をまとめると、短期前払費用は前払費⽤に係る費⽤収益対応の原則の例外であり、重要性の原則に基づく会計処理を税務においても認めたものであるといえます。
 甲に対する役員報酬は、課税所得の計算上重要性が乏しいとは言えませんので、短期前払費用の適⽤を受けることはできないということになります。

離婚により自宅を財産分与した場合にかかる税金は?

 夫婦が離婚したとき、相手方の請求に基づいて一方の人が相手方に財産を渡すことを財産分与といいます。
 この財産分与の対象財産として、自宅(土地や建物)を相手方に渡すケースも多いと思います。
 今回は、離婚により夫が妻に自宅を財産分与した場合の課税関係についてみていきます。

1.財産分与をした者(夫)

(1) 譲渡所得として課税される

 結論を先に述べると、財産分与が自宅(土地や建物)で行われたときは、分与した人(夫)に譲渡所得の課税が行われることになります。

 夫は自宅を妻に渡しても、妻から金銭を受け取ることはありません。しかし、自宅という財産の移転は、夫の財産分与の義務を消滅させるものであり、それ自体が一つの経済的利益の享受といえます。
 したがって、その財産分与の義務の消滅という経済的利益を対価とする資産の譲渡があったものとして、夫に譲渡所得の課税が行われることになります。

(2) 譲渡所得の収入金額は?

 この場合、分与した時の自宅(土地や建物)の時価が譲渡所得の収入金額となります。

 民法768条の財産分与の規定による財産の分与として資産の移転があった場合には、その分与をした者(夫)は、その分与をした時において、そのときの価額により資産を譲渡したことになります。
 したがって、自宅という譲渡所得の基因となる財産を分与した場合は、その分与時の時価で自宅の譲渡をしたものとして、譲渡所得の計算を行うことになります。

(3) 居住用財産の譲渡所得の特例(3,000万円控除と軽減税率)の適用はあるか?

 自宅を財産分与した場合でも、居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除及び軽減税率の特例を、夫は受けることができます。

 3,000万円特別控除と軽減税率の特例は、配偶者等の親族及び居住用財産の譲渡者から受ける金銭その他の財産によって生計を維持している者(以下「特殊関係者」といいます)への譲渡については、適用を受けることができません。つまり、夫から妻への自宅の譲渡は、特例の適用対象外ということになります。
 しかし、財産分与による資産の譲渡は、離婚後における譲渡になるため、親族(配偶者)に対する譲渡には該当しないこととなり、居住用財産の特例の適用を受けることができます。
 また、離婚に伴う財産分与として受け取っている金銭等により生計を維持している者は特殊関係者に該当しないことになるので、離婚後に養育費等の名目で元妻に金銭等を支払っている場合でも、元妻へ財産分与した自宅については、居住用財産の特例の適用を受けることができます。

2.財産分与を受けた者(妻)

(1) 財産分与により取得した自宅の取得費

 分与を受けた人(妻)は、分与を受けた日にその時の時価で自宅(土地や建物)を取得したことになります。

 自宅を財産分与した者(夫)の当初の取得費を引き継がないので、元妻が分与を受けた自宅を譲渡する際は、取得費として分与時の時価を算定する必要があります。
 また、財産分与を受けた日を基に、長期譲渡になるか短期譲渡になるかを判定することになります。

(2) 贈与税はかからない?

 離婚により相手方(夫)から自宅をもらった場合、通常、妻に贈与税がかかることはありません。

 離婚による財産分与によって取得した財産については、財産分与請求権(民法768条)に基づく財産の取得ですので、贈与により取得した財産とはなりません。つまり、相手方から贈与を受けたものではなく、夫婦の財産関係の清算や離婚後の生活保障のための財産分与請求権に基づき給付を受けたものといえます。
 したがって、原則として、財産分与を受けた者に贈与税はかかりません。

 ただし、次のいずれかに当てはまる場合には贈与税がかかります。

① 分与された財産の額が婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額やその他すべての事情を考慮してもなお多過ぎる場合
 この場合は、その多過ぎる部分に贈与税がかかることになります。
② 離婚が贈与税や相続税を免れるために行われたと認められる場合
 この場合は、離婚によってもらった財産すべてに贈与税がかかります。

税理士の顧問契約書に貼る印紙はいくら?

 クライアントの皆様と顧問契約を締結する際に、顧問契約書にいくらの印紙を貼ればよいか質問されることがあります。
 顧問契約書に貼る印紙については、相手の税理士が個人の場合と税理士法人の場合で取扱いが異なります。
 今回は、税理士との顧問契約書に貼る印紙について確認します。

1.継続的取引の基本となる契約書か?

 次の一般的な顧問契約書を見ながら、貼る印紙について確認します。

                顧問契約書

 委任者 ○○株式会社(以下「甲」という)と受任者 税理士○○(以下「乙」という)は、税理士の業務に関して下記の通り契約を締結する。

第1条 委任業務の範囲
税務に関する委任の範囲は、次の項目とする。
 1 甲の法人税、事業税、住民税及び消費税の税務書類の作成並びに税務代理業務 
 2 甲の税務調査の立会い
 3 甲の税務相談
会計に関する委任の範囲は、次の項目とする。
 4 甲の総勘定元帳及び試算表の作成並びに決算
 5 甲の会計処理に関する指導及び相談
前記に掲げる項目以外の業務については、別途協議する。

第2条 契約期間
 令和2年9月1日から令和3年8月31日までの1年間とする。
 ただし、双方より意思表示のない限り、自動継続することを妨げない。

第3条 報酬の額
報酬は、次のとおりとする。
 1 税務・会計の顧問報酬として月額        30,000円
 2 決算書類作成及び法人税申告報酬        100,000円
 3 消費税申告報酬                40,000円
 4 上記各報酬額には別途消費税が付加される。
 5 上記に含まれない業務報酬については、別途協議の上決定する。

 上記の顧問契約書の内容から、まずこの契約書は、継続的取引の基本となる契約書(第7号文書)に該当する可能性があります。第7号文書に該当する場合は、契約書1通につき一律4,000円の印紙を貼る必要があります。

 ところで、第7号文書に該当するには「営業者間取引であること」が必要です。しかし、個人の税理士や弁護士等の士業は、印紙税法上の営業者には当たらないので、個人の士業との顧問契約書が第7号文書になることはありません。

 一方、税理士法人は営業者に該当しますので、税理士法人との顧問契約書は第7号文書になります。

2.委任契約か請負契約か?

 次に問題となるのが、上記顧問契約書の内容が委任契約か請負契約かということです。
 委任契約書は、第1号から第20号までのどの課税文書にも該当しない不課税文書です。委任契約書であれば、印紙を貼る必要はありません。

 委任契約か請負契約かの判定は、記載されている取引の内容について、成果物があるか否かによって区分します。
 成果物がある場合は、請負契約となり、課税文書(第2号文書)になります。成果物がない場合は、委任契約となり、不課税文書になります。

 上記顧問契約書の黄色マーカー部分に注目してください。第1条1項と4項で税務書類や試算表の作成を請け負っています。この税務書類や試算表が成果物となりますので、この契約書は課税文書(第2号文書)と判定され、印紙を貼ることになります。

 もし、第1条において黄色マーカー部分の業務がなければ、具体的な成果物がないため、この契約書は委任契約書となり、印紙を貼る必要はありません。

3.記載金額はいくらか?

 では、上記顧問契約書の記載金額はいくらになるのでしょうか?上記顧問契約書の青色マーカー部分に注目してください。契約期間が1年、月額顧問料が30,000円、法人税申告報酬が100,000円、消費税申告報酬が40,000円とあるので、30,000円×12か月+100,000円+40,000円=500,000円が記載金額となります。

 なお、消費税の特例により、契約金額に消費税が含まれている場合は、消費税を除いた金額をもって記載金額とします。ただし、消費税額が明確であること、文書の作成者が課税事業者であることが条件です。

4.契約書に貼る印紙はいくら?

(1) 個人の税理士の場合

 上記1と2より、契約の相手方が個人の税理士の場合は第7号文書にはなりませんので、上記顧問契約書は第2号文書になります。
 上記3より、この顧問契約書の記載金額は500,000円ですので、第2号文書として200円の印紙を貼ることになります。
 ※参考:国税庁ホームページ「印紙税額一覧表(第1号文書から第4号文書まで)

(2) 税理士法人の場合

 一方、契約の相手方が税理士法人の場合は、第2号文書と第7号文書の両方に当てはまります。

 印紙税法では、契約書が複数の課税文書に当てはまる場合は、最終的にどちらか一方の文書に該当することとされています。つまり、上記の例であれば、第2号文書と第7号文書のいずれかに該当するわけです。
 第2号文書と第7号文書に該当する場合、最終的にどちらの課税文書になるかについては次のルールがあります。

記載金額がある場合 第2号文書
記載金額がない場合 第7号文書

 上記3より、この顧問契約書の記載金額は500,000円ですので第2号文書に該当し、200円の印紙を貼ることになります。
 なお、契約書に記載金額がない場合は、第7号文書として4,000円の印紙を貼ることになります。

低未利用土地等を譲渡した場合の100万円特別控除の創設

 空き地などの低未利用土地等が売却されずにそのまま放置され、都市が虫食い状にスポンジ化して問題となっています。
 そこで、2020年度(令和2年度)税制改正において、空き地の売却を促して有効活用を図るための特例措置が創設されました。
 保有期間が5年を超えていて売却額が500万円以下の土地を、市区町村長の確認を取得して親族や特別関係者以外へ譲渡した場合に、土地の売却益から最大100万円を控除するというものです。
 今回は、低未利用土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の特別控除制度について確認します。

1.適用対象となる譲渡の要件

(1) 要件

 特例措置の適用対象となる譲渡は、以下の要件に該当する譲渡とされています。

① 譲渡した者が個人であること
② 都市計画区域内にある低未利用土地又はその上に存する権利で、市区町村長の確認がされたもの
③ 譲渡の年の1月1日において所有期間が5年を超えるものの譲渡であること
④ 譲渡者の配偶者等、当該譲渡者と特別の関係がある者への譲渡でないこと
⑤ 低未利用土地等及び当該低未利用土地等とともにした当該低未利用土地等の上にある資産の譲渡の対価の額の合計が500万円を超えないこと
⑥ 一筆であった土地からその年の前年又は前々年に分筆された土地又は当該土地の上に存する権利の譲渡を当該前年又は前々年中にした場合において本特例措置の適用を受けていないこと

(2) 低未利用土地とは?

 上記(1)要件②における低未利用土地とは、都市計画法第4条第2項に規定する都市計画区域内にある土地基本法第13条第4項に規定する低未利用土地(居住の用、業務の用その他の用途に供されておらず、又はその利用の程度がその周辺の地域における同一の用途若しくはこれに類する用途に供されている土地の利用の程度に比し著しく劣っていると認められる土地)をいいます。

 具体的には、空き地(一定の設備投資を行わずに利用がされている土地を含みます)及び空き家・空き店舗等の存する土地をいいます。
 ただし、コインパーキングについては、一定の設備投資を行い、業務の用に供しているものであっても、譲渡後に建物等を建ててより高度な利用をする意向が確認された場合は、従前の土地の利用の程度がその周辺の地域における同一の用途又はこれに類する用途に供されている土地の利用の程度に比し著しく劣っており、低未利用土地に該当すると考えて差し支えないとされています。

(3) 市区町村長の確認とは?

 上記(1)要件②における市区町村長の確認は、以下のいずれも満たす必要があります。

① 当該土地が低未利用土地であること
② 買主が利用意向を有すること
③ 譲渡の年1月1日において所有期間が5年を超えること

 上記①~③の確認のために、市区町村長に提出する書類は次のとおりです。

  提出書類
①の確認 イ.別記様式①-1
ロ.売買契約書の写し
ハ.以下のいずれかの書類
 (イ) 所在市区町村等が運営する空き地・空き家バンクへの登録が確
認できる書類
 (ロ) 宅地建物取引業者が、現況更地・空き家・空き店舗である旨を表
示した広告
 (ハ) 電気、水道又はガスの使用中止日が確認できる書類
 (ニ) その他要件を満たすことを容易に認めることができる書類
②の確認 別記様式②-1(宅地建物取引業者の仲介により譲渡した場合)
別記様式②-2(宅地建物取引業者を介さず相対取引にて譲渡した場合)

※ 別記様式②-1 及び②-2 を提出できない場合に限り、別記様式③(宅地建物取引業者が譲渡後の利用について確認した場合)によっても確認可能とする。
③の確認 土地等に係る登記事項証明書

(4) 特別の関係がある者とは?

 上記(1)要件④における特別の関係がある者とは、次に掲げる者をいいます。

① 当該個人の配偶者及び直系血族
② 当該個人の親族(①を除く)で当該個人と生計を一にしているもの
③ 当該個人と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者及びその者の親族でその者と生計を一にしているもの
④ ①~③に掲げる者及び当該個人の使用人以外の者で当該個人から受ける金銭その他の財産によって生計を維持しているもの及びその者の親族でその者と生計を一にしているもの
⑤ 当該個人、当該個人の①及び②に掲げる親族、当該個人の使用人若しくはその使用人の親族でその使用人と生計を一にしているもの又は当該個人に係る③④に掲げる者を判定の基礎となる所得税法第2条第1項第8号の2に規定する株主等とした場合に法人税法施行令第4条第2項に規定する特殊の関係その他これに準ずる関係のあることとなる会社その他の法人

(5) 500万円を超えないとは?

 上記(1)要件⑤における譲渡対価500万円には、当該土地と当該土地を敷地とする建物等だけではなく、それらの固定資産税精算金も含みます。

(6) 分割譲渡等への適用制限

 上記(1)要件⑥は、分割譲渡等への適用を制限するために設けられています。なお、要件⑥を満たすことについて、市区町村長は 別記様式①-1 (低未利用土地等確認書)に記載することとされています。

2.適用対象期間

 本特例措置は、2020年(令和2年)7月1日から2022年(令和4年)12月31日までの間に上記1(1)の要件を満たした譲渡をした場合に適用を受けることができます。

持続化給付金の支給対象拡大と税理士の確認

1.税理士の役割が重要

 新型コロナウイルス感染症拡大により、特に大きな影響を受ける中小法人・個人事業者に対して、 事業の継続を下支えし再起の糧とするために、事業全般に広く使える 持続化給付金が支給されています。

 しかし、フリーランスを含む個人事業者については、 前年に事業所得として確定申告している者に対象が限られており、給与所得や雑所得として申告していた者は対象から外されていたため、批判の声がありました。

 そこで、経済産業省は2020年(令和2年)6月26日に、以下の事業者を新たに対象とすることを発表し、同月29日から申請の受付を開始しています(申請期間は2021年(令和3年)1月15日までです)。

(1) 主たる収入を 雑所得・給与所得 で確定申告した個人事業者
(2) 2020年(令和2年)1月~3月の間に創業した事業者

 (1)については、2019年分(令和元年分)の確定申告義務がない者など一部の場合は、税理士の確認を受けた申立書の提出が必要となっており、(2)についても、創業月から対象月までの事業収入を証明する書類について、税理士による確認が必要となっています。

 以下では、新たに対象とされた上記(1)及び(2)について、要件と必要書類等の確認をします。

2. 主たる収入を 雑所得・給与所得 で確定申告した個人事業者

(1) 要件

 以下の要件を満たす事業者が対象となります。

① 雇用契約によらない業務委託契約等に基づく収入であって、 雑所得・給与所得として計上されるもの(以下「業務委託契約等収入」といいます)を主たる収入として得ており、 今後も事業継続する意思がある(※ 確定申告で事業収入としていた事業者は現行制度で申請できます )
② 今年(令和2年)の対象月※1の収入が昨年(令和元年)の月平均収入と比べて50%以上減少している
③ 2019年(令和元年)以前から、被雇用者※2又は被扶養者ではない

※1 対象月は、2020年(令和2年)1月から申請を行う日の属する月の前月までの間で、2019年(令和元年)の月平均の業務委託契約等収入と比較して、業務委託契約等収入が50%以上減少した月のうち、ひと月を申請者が任意に選択できます。
 また、対象月の収入については、新型コロナウイルス感染症対策として地方公共団体から休業要請に伴い支給される協力金などの現金給付を除いて算定することができます。

※2 会社等に雇用されている方(サラリーマンの方、パート・アルバイ ト・派遣・日雇い労働等の方を含む。)をいいます。ただし、 2019年(令和元年)中に独立・開業した場合は対象になり得ます。

(2) 必要書類

 申請時には、以下の書類を提出します。

① 前年分(令和元年分)の確定申告書
② 今年(令和2年)の対象月の収入が分かる書類(売上台帳等)
③ ①の収入が、業務委託契約等の事業活動からであることを示す書類(下記イ~ハの中からいずれか2つを提出し、ロの源泉徴収票の場合はイとの組合せが必須です)
 イ.業務委託等の契約書の写し又は契約があったことを示す申立書※3
 ロ.支払者が発行した支払調書又は源泉徴収票
 ハ.支払があったことを示す通帳の写し
④ 国民健康保険証の写し
⑤ 振込先口座通帳の写し、本人確認書類の写し

※3 業務委託等の契約書がない場合は、契約があったことを示す申立書を契約先に書いてもらう必要があります。

3.2020年1月~3月の間に創業した事業者 (法人の場合)

(1) 要件

 以下の要件を満たす事業者が対象となります。

① 2020年(令和2年)4月1日時点において、次のいずれかを満たす法人であること。 ただし、組合若しくはその連合会又は一般社団法人については、その直接 又は間接の構成員たる事業者の3分の2以上が個人又は次のいずれかを 満たす法人であること。
イ.資本金の額又は出資の総額※1が10億円未満であること。
ロ.資本金の額又は出資の総額が定められていない場合は、常時 使用する従業員※2の数が2,000人以下であること。

② 2020年(令和2年)1月から3月の間に事業により事業収入(売上)を得ており、今後も 事業を継続する意思があること※3

③ 2020年(令和2年)4月以降、新型コロナウイルス感染症拡大の影響等により、2020年の法人を設立した日の属する月から3月の月平均の事業収入に比べて事業収入が50%以上減少した月(以下「2020新規創業対象月」という。)が存在すること※4

※1 「基本金」を有する法人については「基本金の額」と、一般財団法人については「当該法人に拠出されている財産の額」と読み替えます。

※2 「常時使用する従業員」とは、労働基準法第20条の規定に基づく「予め解雇の予告を必要とする者」を指します(パート、アルバイト、派遣社員、契約社員、非正規社員及び出向者については、当該条文をもとに個別に判断します。会社役員及び個人事業主は予め解雇の予告を必要とする者に該当しないため、「常時使用する従業員」には該当しません。) 。

※3 事業収入は、確定申告書(法人税法第二条第一項三十一号に規定する確定申告書を指す。以下同じ。)別表一における「売上金額」欄に記載されるものと同様の考え方によるものとします。

※4 「2020新規創業対象月」は、2020年(令和2年)4月から申請する月の前月までの間で、 前年同月比で事業収入が50%以上減少した月のうち、ひと月を任意で選択できます。
 「2020新規創業対象月」の事業収入については、新型コロナウイルス感染症対策として地方公共団体から休業要請に伴い支給される協力金などの現金給付を除いて算定することができます。
 また、2019年(令和元年)1月から12月の間に法人を設立した者であって、当該期間に事業による事業収入を得ておらず、2020年(令和2年)1月から3月の間に事業により事業収入を得ている場合は、2020年1月から3月の月平均の事業収入に比べて事業収入が50%以上減少した月(対象月)が存在する必要があります。

(2) 必要書類

 申請時には、以下の書類を提出します。

① 持続化給付金に係る収入等申立書(中小法人等向け)※5
② 通帳の写し
③ 履歴事項全部証明書(設立日が2020年1月1日から3月31日のものに限る)

※5 申立書は、2020年(令和2年)1月から対象月までの事業収入( 確定申告書別表一における「売上金額」欄に記載されるものと同様の考え方によるもの)を記載し、税理士による署名又は記名押印が必要です。
 また、持続化給付金に係る収入等申立書において2020新規創業対象月の月間事業収入が記載されるため、2020新規創業対象月の売上台帳は不要です。

4.2020年1月~3月の間に創業した事業者 (個人事業者の場合)

(1) 要件

 以下の要件を満たす事業者が対象となります。

① 2020年(令和2年)1月から3月の間に事業により事業収入(売上)を得ており、今後も 事業を継続する意思があること※1

② 2020年4月以降、新型コロナウイルス感染症拡大の影響等により、2020年の開業月から3月までの月平均の事業収入に比べて事業収入が50%以上減少した月(以下「2020新規開業対象月」という。)が存在すること※2

※1 事業収入は、証拠書類として提出する確定申告書(所得税法第二条第一項三十七号に規定する確定申告書を指す。以下同じ。)第一表における「収入金額等」の事業欄に記載される額と同様の算定方法によるものとします。

※2 「2020新規開業対象月」は、2020年4月から申請を行う日の属する月の前月の間で、ひと月を申請者が任意に選択できます。
 「2020新規開業対象月」の事業収入については、新型コロナウイルス感染症対策として地方公共団体から休業要請に伴い支給される協力金等の現金給付を除いて算出することができます。
 また、2019年(令和元年)1月から12月の間に開業した者であって、当該期間に事業による事業収入を 得ておらず、2020年1月から3月の間に事業により事業収入を得ている場合は、 2020年1月から3月の月平均の事業収入に比べて事業収入が50%以上減少した月(対象月)が存在する必要があります。

(2) 必要書類

 申請時には、以下の書類を提出します。

① 持続化給付金に係る収入等申立書(個人事業者等向け)※3
② 通帳の写し
③ 本人確認書類
④ 個人事業の開業・廃業等届出書※4
  ※開業日が2020年1月1日から3月31日まで
  ※提出日が2020年5月1日以前
  ※税務署受付印が押印されていること

 又は、事業開始等申告書※4
  ※事業開始日が2020年1月1日から3月31日まで
  ※提出日が2020年5月1日以前
  ※受付印等が押印されていること

※3 持続化給付金に係る収入等申立書(個人事業者等向け)において対象月の月間事業収入が記載 されるため、2020新規開業対象月の売上台帳は不要です。

※4 ④については、代替書類(開業日、所在地、代表者、業種、書類提出日の記載がある書類 )も認められています。

令和2年分から適用される基礎控除の改正と所得金額調整控除の新設

 2020年分(令和2年分)から適用される2018年度(平成30年度)改正事項には、給与所得控除・公的年金等控除・基礎控除の見直しと、所得金額調整控除の新設等があります。

 これらのうち、給与所得控除と公的年金等控除については前回「令和2年分から適用される給与所得控除と公的年金等控除の改正」で確認しましたので、今回は基礎控除の改正と新たに設けられた所得金額調整控除について確認します。

1.基礎控除の改正

 給与所得控除額及び公的年金等控除額を一律10万円引き下げる一方、その分を基礎控除に振り替える形で、基礎控除額が一律10万円引き上げられて48万円(改正前は38万円)とされました。
 ただし、合計所得金額が2,400万円を超える個人についてはその合計所得金額に応じて基礎控除額を逓減し、合計所得金額が2,500万円を超える個人については基礎控除の適用はできないこととされました。

 この改正により、2020年分(令和2年分)以後の基礎控除額は、個人の所得金額に応じて下表のとおりとなります。

合計所得金額 基礎控除額
2,400万円以下 48万円
2,400万円超2,450万円以下 32万円
2,450万円超2,500万円以下 16万円
2,500万円超 0円(適用なし)

 なお、個人の所得金額が給与所得だけの場合は、給与等の収入金額が2,595万円のときに合計所得金額が2,400万円、給与等の収入金額が2,695万円のときに合計所得金額が2,500万円になります。
 したがって、給与等の収入金額が2,595万円を超え2,695万円以下の場合は基礎控除額は32万円又は16万円になり、2,695万円を超える場合には基礎控除の適用を受けることはできません。

 また、年末調整はその年中の給与等の収入金額が2,000万円以下の居住者について行われます。
 したがって、合計所得金額が2,400万円(収入金額2,595万円)を超えることはありませんので、給与所得以外の所得を有しない年末調整の対象者の基礎控除額はすべて48万円となります。

2.所得金額調整控除の新設

 給与所得控除の改正により、850万円を超える給与等の収入金額のある居住者については、給与所得控除額が一律10万円引き下げられたことに加え、その上限額が195万円とされたことにより、その居住者が特別障害者である場合や年齢23歳未満の扶養親族を有する場合等については負担が増加することが見込まれます。

 そのため、これらの者の経済的負担に配慮して一定額を給与所得の金額から控除する以下のような調整措置が設けられました。

(1) 対象者

 給与等の収入金額が850万円を超える居住者で次に掲げる者が対象です。

① その居住者本人が特別障害者に該当する者
② 年齢23歳未満の扶養親族を有する者
③ 特別障害者である同一生計配偶者又は扶養親族を有する者

(2) 控除額

 上記(1)に該当する居住者の総所得金額を計算する場合、給与等の収入金額(その金額が1,000万円を超える場合には1,000万円)から850万円を控除した金額の10%相当額を、給与所得の金額から控除します。
 つまり、給与所得の金額から最高15万円が控除されることになり、給与所得控除額の上限額の引き下げ25万円のうち一律引き下げの10万円を除く15万円に相当します。
 その結果、所得金額調整控除の適用がある場合の総所得金額は、給与所得の金額から所得金額調整控除を控除した残額により計算することになります。

(3) 計算例

 例えば、22歳の扶養親族を有する給与所得者の給与等の収入金額が900万円の場合、給与所得控除額は上限の195万円となり、給与所得控除後の給与等の金額は705万円(900万円-195万円)です。
 一方、所得金額調整控除額は、50万円(900万円-850万円)の10%の5万円となります。これを705万円から控除した700万円が給与所得金額になります。

(4) 留意点

 所得税法の扶養控除は、2以上の居住者の扶養親族に該当する者がある場合には、その者はこれらの居住者のうちいずれか一の居住者の扶養親族にのみ該当するものとみなすこととされています。
 しかし、所得金額調整控除にはそのようなみなし規定はありません。したがって、夫婦のそれぞれがその年の給与等の収入金額が850万円を超える居住者に該当し、その夫婦に23歳未満の扶養親族に該当する子がいるような場合は、その夫婦それぞれが所得金額調整控除の適用を受けることができます。例えば、20歳の子供を共働きの夫婦(どちらも給与収入850万円超)が扶養しているときは、夫婦の両方が所得金額調整控除の適用を受けることができます。

令和2年分から適用される給与所得控除と公的年金等控除の改正

 2018年度(平成30年度)改正で、給与所得控除や公的年金等控除を一律10万円引き下げる一方、その分を基礎控除に振り替える形で基礎控除が一律10万円引き上げられました。

 このような改正が行われた背景には、「特定の働き方等による収入にのみ適用される給与所得控除や公的年金等控除といった『所得計算上の控除』から、どのような働き方等による所得にでも適用される基礎控除等の『人的控除』に、負担調整のウェイトをシフトさせていくことが適当である」(平成29年11月・税制調査会中間報告)という考え方があります。つまり、多様な働き方を後押しするものといえます。

 今回は、2020年分(令和2年分)から適用される給与所得控除と公的年金等控除について確認をします。なお、2020年分(令和2年分)から適用される他の改正項目のうち、主なものは下表のとおりです。

配偶者控除・扶養控除 配偶者・扶養親族の合計所得金額基準38万円以下を48万円以下にする。
配偶者特別控除 配偶者の合計所得金額基準85万円以下を95万円以下にする。
青色申告特別控除 控除額を65万円から55万円にする。
※電子申告等の要件を満たす場合、控除額を65万円(基礎控除との控除合計額113万円)とする特例あり。
家内労働者等の事業所得の所得計算の特例 必要経費とする額を65万円から55万円とする。

1.給与所得控除の改正

 2020年分(令和2年分)から適用される給与所得控除の改正は次のとおりです。

(1) 給与所得控除額の一律10万円の引き下げ
(2) 給与所得控除額の上限額が適用される給与等の収入金額の850万円(改正前は1,000万円)への引き下げ、及びその上限額の195万円(改正前は220万円)への引き下げ
(3) 上記(1)及び(2)の見直しに伴い、給与所得の源泉徴収税額表の月額表と日額表、賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表及び年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表(別表2~5)の改正

 上記(1)及び(2)の改正により、改正後の給与所得控除額は下表のとおりとなります。

給与等の収入金額 改正後 改正前
162.5万円以下 55万円 65万円
162.5万円等180万円以下 収入金額×40%-10万円 収入金額×40%
180万円超360万円以下 収入金額×30%+8万円 収入金額×30%+18万円
360万円超660万円以下 収入金額×20%+44万円 収入金額×20%+54万円
660万円超850万円以下 収入金額×10%+110万円 収入金額×10%+120万円
850万円超1,000万円以下 195万円
1,000万円超 220万円

(留意点)
① 2020年(令和2年)以後、給与等の収入金額が1,195万円を超える給与所得者は、配偶者控除及び配偶者特別控除のいずれも適用が受けられません。
② 給与等の収入金額が660万円未満の場合の給与所得の金額は、給与等の収入金額から上表の算式により計算した給与所得控除額を控除した残額によらず、所得税法別表第5の「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」により、その給与等の収入金額に応じて掲げられている給与所得控除後の給与等の金額により求めた金額となります。

2.公的年金等控除の改正

 2020年分(令和2年分)から適用される公的年金等控除の改正は次のとおりです。

(1) 公的年金等控除額の一律10万円の引き下げ
(2) 公的年金等の収入金額が1,000万円を超える場合の控除額について、195万5,000円の上限を設ける
(3) 公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額が1,000万円を超え2,000万円以下である場合の控除額が上記(1)及び(2)の見直し後の控除額から一律10万円引き下げ、公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額2,000万円を超える場合の控除額が上記(1)及び(2)の見直し後の控除額から一律20万円引き下げ

消費税の申告期限も延長できます(令和2年度税制改正)

 従来から、法人税には申請による確定申告書の提出期限の延長が認められており、2017年度(平成29年度)税制改正では延長可能月数の拡大も行われていましたが、消費税には提出期限の延長が認められていませんでした。

 そのため、消費税の申告後に、会社の決算承認手続きの過程で決算額の変動など法人税の申告調整が発生した場合、消費税の修正申告や更正の請求を行う事務負担が生じていました。

 このような状況から、法人税の申告期限を延長している企業から、消費税の申告期限についても延長を求める声が上がっていました。

 今回は、法人税の申告期限延長可能月数が拡大された2017年度(平成29年度)税制改正と、消費税の申告期限が延長された2020年度(令和2年度)税制改正の内容を確認します。

1.法人税の申告期限延長特例の拡大

 2017年度(平成29年度)税制改正で、企業と投資家の対話の充実を図り、上場企業等が株主総会の開催日を柔軟に設定できるようにするため、法人税の申告期限の延長可能月数が1か月から4か月に拡大されました。

(1) 会社法上の取扱い

 会社法上、法人は柔軟に株主総会の日の設定が可能とされています。例えば3月決算法人が、決算日から4か月後である7月末に株主総会を開催することが可能であり、8月以降に株主総会を開催することも可能とされています。

(2) 法人税法上の取扱い

① 原則

 内国法人は、原則として各事業年度終了の日の翌日から2か月以内に税務署長に対し、確定した決算に基づく申告書を提出しなければならないとされています。
 例えば3月決算法人の場合は、5月末までに申告書を提出しなければなりません。

② 特例(平成29年度税制改正)

 定款の定め又は特別な事情があることにより、その事業年度以降の各事業年度終了の日の翌日から2か月以内にその各事業年度の決算についての定時株主総会が招集されない常況にあると認められるときは、納税地の所轄税務署長は、その法人の申請に基づき、その事業年度以後の各事業年度の申告書の提出期限を1か月間延長をすることができます。
 例えば3月決算法人の場合は、5月末の提出期限を1か月延長して6月末とすることができます。

 ただし、次のイ又はロに掲げる場合に該当するときには、それぞれに掲げる期間を延長することができます。

イ.会計監査人を置き定款等の定めがある場合

 法人が、会計監査人を置いている場合で、かつ、定款、寄附行為、規則その他これらに準するもの(以下「定款等」といいます)の定めによりその事業年度以降の各事業年度終了の日の翌日から3か月以内にその各事業年度の決算についての定時株主総会が招集されない常況にあると認められるときには、確定申告書の提出期限をその定めの内容を勘案して4か月を超えない範囲内において税務署長が指定する月数の期間まで延長することができます。
 例えば3月決算法人の場合、5月末の提出期限を4か月延長して9月末とすることができます。

ロ.特別の事情がある場合

 特別の事情があることにより各事業年度終了の日の翌日から3か月以内にその各事業年度の決算についての定時株主総会が招集されない常況にあることその他やむを得ない事情があると認められるときには、税務署長が指定する月数の期間まで延長することができます。

(3) 適用時期

 上記(2)②の改正は、2017年(平成29年)4月1日以降の申請に係る法人税から適用されます。

 なお、これらの申請は、確定申告書等に係る事業年度終了の日までに、定款等の定め又は特別の事情の内容、指定を受けようとする月数等を記載した申請書(申告期限の延長の特例の申請書) をもって行います。

(4) 留意事項

 2017年度(平成29年度)税制改正では、法人税の申告期限は延長されましたが、法人税の納付期限は延長されていませんので、確定申告期限(事業年度終了の日の翌日から2か月以内)までに見込納付をする必要があります。
 また、法人税だけではなく、住民税及び事業税についても、申告期限の延長の特例の申請をする必要があるので、ご注意ください。

2.消費税の申告期限の特例の創設

 2017年度(平成29年度)税制改正では、法人税の申告期限は延長されましたが、消費税の申告期限は従来のままでした。
 そこで、法人税と消費税の申告期限が異なることによる事務負担を軽減するために、2020年度(令和2年度)税制改正で消費税の申告期限の特例が創設されました。

(1) 特例の内容(令和2年度税制改正)

 法人税の確定申告書の提出期限の延長の特例を受けている法人が、消費税の確定申告書の提出期限を延長する旨の届出書(消費税申告期限延長届出書)を提出した場合には、消費税の確定申告書の提出期限が1か月延長されます。

 届出の効力が生じるのは、提出した日の属する事業年度以後の各事業年度の末日の属する課税期間からです。

(2) 適用時期

 2021年(令和3年)3月31日以後に終了する事業年度の末日の属する課税期間から適用されます。
 例えば3月決算法人の場合、2020年(令和2年)4月1日~2021年(令和3年)3月31日の課税期間から適用されます。

(3) 留意事項

 法人税と同様に、確定申告書の提出期限が延長された期間の消費税の納付については利子税が発生するため、見込納付をする必要があります。
 また、消費税の課税期間を1か月ごと又は3か月ごとに短縮している場合、提出期限の延長が認められる課税期間は、事業年度の末日の属する課税期間のみとなります。

中間申告期限は督促状が届いてもコロナ延長可能

 先日、「新型コロナ対応で中間申告も期限延長できます(延滞税に注意!)」という記事を書きましたが、その際に疑問に思ったのが、税務署側では納税者が中間申告のコロナ延長申請をするまでその事実を知ることができないため、納税者に督促状が送られてくるのではないかということでした。

 この点について、国税庁では「中間申告書の提出期限の延長に関するお知らせ」の案内文を納税者に送付する措置をとっているようです。

 今回は、「中間申告書の提出期限の延長に関するお知らせ」の内容を確認します。

1.納税者の不安を払拭するため

 国税庁では、2020年(令和2年)5月現在ですでに中間申告期限が到来している納税者には、督促状の送付前に「中間申告書の提出期限の延長に関するお知らせ」の案内文を個別に送付するとともに、6月以降に中間申告期限が到来する納税者には案内文を中間申告書に同封することとしています。
 期限延長(個別延長)を予定していても、延長がなされるまで督促状が送付される場合があるためです。

 中間申告書の提出がなく、その提出期限に提出があったとみなされた後でも、新型コロナウイルスを理由とする提出期限の延長は可能とされています。

 しかし、この期限延長がなされるまでは督促状が発送される場合があることから、納税者が不安を抱くことが懸念されるため、今回の対応となったようです。

2.コロナ延長申請で督促状は効力を失う

 「お知らせ」では、中間申告書についてその提出期限までに提出がなかった場合には、その提出期限に提出があったものとみなされていますが、みなされた後であっても、提出期限の個別延長は可能であることを改めて周知しています。

 そして、中間申告書の提出ができることとなった時点で、中間申告書の提出の際に、その中間申告書の余白部分に「新型コロナウイルス感染症の影響による期限延長申請」である旨を記載して提出することを求めています。

 また、中間申告書を提出できない状態が確定申告書の提出期限まで続く場合には、中間申告書の提出は不要となることを周知しています。

 提出期限の延長申請を予定している場合であっても督促状が送付される場合がありますが、国税庁は上記と同様に、中間申告書の提出の際に、その中間申告書の余白部分に期限の延長申請である旨を記載して提出することにより、その提出日まで提出期限が延長され、その督促状は効力を失うと説明しています。

 さらに、延長申請をした後に督促状が届いた場合は、行き違いである旨を述べています。