外貨建預金の為替差益を申告(認識)しなければならない場合

 前回の記事(「外貨建預金の為替差益を申告(認識)しなくてもよい場合とは?」)で、外貨建預金を払い出しても為替差損益を認識しなくてもよいケースについて確認しましたが、今回は外貨建預金を払い出して為替差損益を認識しなければならないケースについて確認します。

1.為替差益を認識しなければならないケース

 例えば、次のような取引があった場合、建物の購入時点で預金A及び預金Bに係る為替差益を認識して雑所得として申告する必要はあるでしょうか?

 米ドル建で預け入れていた預金10万ドル(以下「預金A」という)と5万ドル(以下「預金B」という)を払い出し、これらの資金を用いて米国内にある貸付用の建物を12万ドルで購入し、残りの3万ドルは引き続き米ドルで保有している。

・預金Aの預入時のレート:1ドル=100円(円からドルへの交換と預金Aの預入は同日)
預金Bの預入時のレート:1ドル=112円(円からドルへの交換と預金Bの預入は同日)
預金の払出時のレート:1ドル=115円
建物購入時のレート:1ドル=120円

※ 便宜上、預金の利子は考慮しない。

 この場合、建物の購入時点で為替差益を認識する必要があります。したがって、雑所得として申告する必要があります。

 外貨建取引とは、外国通貨で支払が行われる資産の販売及び購入、役務の提供、金銭の貸付け及び借入れその他の取引をいい、居住者が外貨建取引を行った場合には、その外貨建取引の金額の円換算額はその外貨建取引を行った時における外国為替の売買相場により換算した金額として、その者の各年分の各種所得の金額を計算するものとされています(所得税法第57条の3第1項)。

 上記の例のように、外貨建の預金をもって貸付用の建物を外貨建取引により購入した場合には、新たな経済的価値(その購入時点における評価額)を持った資産が外部から流入したことにより、それまでは評価差額にすぎなかった為替差損益に相当するものが所得税法第36条の「収入すべき金額」として実現したものと考えられますので、当該建物の購入価額の円換算額とその購入に充てた外国通貨を取得した時の為替レートにより円換算した金額との差額(為替差損益)を所得として認識する必要があります。

 つまり、資産の種類が変わった場合(預金から現金、預金から有価証券など)や外貨の種類が変わった場合(ドルから円など)には、為替差損益を認識する必要があります。

2.為替差損益の計算方法

 上記1の例のように、建物の購入に充てた外国通貨の取得が複数回ある場合の為替差損益の計算については、所得税法施行令第118条第1項(譲渡所得の基因となる有価証券の取得費等)の規定に準じて、次のとおり計算するのが相当です。

(1) 保有するドルの1ドル当たりのレートの計算
 預金A:100円×10万ドル=10,000,000円
 預金B:112円×5万ドル=5,600,000円
 1ドル当たりのレート:(10,000,000円+5,600,000円)÷15万ドル=104円

(2) 為替差益の計算
 (120円-104円)×12万ドル=1,920,000円

 なお、購入した建物は、その購入時の為替レートによる円換算額を取得価額として、その後の不動産所得の金額を計算する際に減価償却費が計算されるほか、当該建物を譲渡した場合の取得費も当該取得価額を基に計算されることになります(所得税法第57条の3第1項)。

外貨建預金の為替差益を申告(認識)しなくてもよい場合とは?

 毎年確定申告時期になると、各地に設けられた確定申告相談会場に多くの一般納税者の方が訪れます。
 その相談会場で最近増えてきたのが、外貨建預金が満期等となった場合の為替差益に関するご相談です。
 例えば、外貨建預金を解約して円転した場合に為替差益が生じているときは、これを雑所得として申告する必要があります。
 しかし、以下のように外貨建預金の為替差益を申告しなくてもよいケースもあります。

1.為替差益を認識する必要がないケース

 例えば、次のような取引があった場合、為替差益を認識して雑所得として申告する必要はあるでしょうか?

 A銀行に米ドル建で預け入れていた定期預金(以下「本件預金」という)1万ドルが満期となったため、満期日に全額を払い出した。
 同日、本件預金の元本部分1万ドルをB銀行に預け入れた。

・預入時のレート:1ドル=100円(円からドルへの交換と本件預金の預入は同日)
・払出時のレート:1ドル=125円
・為替差益:(125円-100円)×1万ドル=25万円

 この場合、定期預金をA銀行から払い出してB銀行に預け入れる際に、元本部分について25万円の為替差益が発生していますが、この為替差益を認識する必要はありません。したがって、雑所得として申告する必要もありません。

 外貨建取引とは、外国通貨で支払が行われる資産の販売及び購入、役務の提供、金銭の貸付け及び借入れその他の取引をいい、居住者が外貨建取引を行った場合には、その外貨建取引の金額の円換算額はその外貨建取引を行った時における外国為替の売買相場により換算した金額として、その者の各年分の各種所得の金額を計算するものとされています(所得税法第57条の3第1項)。

 ただし、外国通貨で表示された預貯金を受け入れる金融機関を相手方とする当該預貯金に関する契約に基づき預入が行われる当該預貯金の元本に係る金銭により引き続き同一の金融機関に同一の外国通貨で行われる預貯金の預入は、上記の外貨建取引には該当しないものとされています(所得税法施行令第167条の6第2項)。

 したがって、外貨建預貯金として預け入れていた元本部分の金銭につき、①同一の金融機関に、②同一の外国通貨で、③継続して預け入れる場合の預貯金の預入については、外貨建取引に該当しないこととされていますので、その元本部分に係る為替差損益が認識されることはありません。

2.なぜ認識する必要がないのか?

 上記1のようなケースでは、外貨建預貯金の預入及び払出が行われたとしても、その元本部分に関しては、同一の外国通貨で預入及び払出が行われる限り、その金額に増減はなく、実質的には外国通貨を保有し続けている場合と変わりはないといえます。

 所得税法施行令第167条の6第2項の規定は、このような外貨の保有状態に実質的な変化がない外貨建預貯金の預入及び払出については、その都度これらを外貨建取引として為替差損益を認識することは実情に即さないものであると考えられることから、所得税法第57条の3第1項でいう外貨建取引から除かれることを明らかにした例示規定であると解されています。

 このようなことを踏まえると、本件預金の預入及び払出は、他の金融機関へ預け入れる場合であるとしても、同一の外国通貨で行われる限り、その預入・払出は所得税法施行令第167条の6第2項でいう外国通貨で行われる預貯金の預入に類するものと解され、所得税法第57条の3第1項の外貨建取引に該当しない、すなわち、為替差損益を認識しないとすることが相当と考えられています。

 なお、蛇足ながら、年収2,000万円以下の給与所得者で外貨建預金の為替差益を含めた給与所得以外の所得が年間20万円以下の場合等は、確定申告不要です。

源泉所得税納付書の左上の数字は何を表す?

 給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書(以下「源泉所得税納付書」といいます)は、居住者に対して支払う給与や退職手当、税理士・弁護士・司法書士などに支払う報酬について、源泉徴収をした所得税及び復興特別所得税を納付するときに使用します。
 源泉所得税納付書は、納期の特例の適用を受けている場合と受けていない場合とでは様式が異なっています。ここでは、前者を納期特例用、後者を一般用と呼ぶことにします。

 先日、半年分の給与や士業報酬等を集計して、関与先様へ源泉所得税納付書(納期特例用)の記載例(転記用)をメールでお送りしたところ、次のような質問がありました。

 「先生が送ってくれた納付書と手元にある納付書をよく見ると、納付書の左上の数字が違っているけど、手元にある納付書を使用しても問題ないですか?」

 下図の左側が当事務所がお送りした納付書で番号は「32399」と印字されています。一方、右側が関与先様の手元にある納付書で番号は「32391」と印字されています。

 どちらも納期特例用の納付書ですが、このように番号が異なることがあります。
 
 源泉所得税納付書の左上に印字されている5桁の番号は納付書の種類を表す番号で、国税庁ホームページでは次のように案内されています。

「32309」・・・一般用
「32399」・・・納期特例用

 ところが、税務署から送付される納付書には、今回のように以下の番号が印字されている場合があります。

「32301」・・・一般用
「32391」・・・納期特例用

 一般用と納期特例用のそれぞれについて、番号の末尾が9のものと1のものがありますが、どちらの番号の納付書を使用しても問題はありません

 当事務所がお送りした納付書記載例(32399)と関与先様の手元にある納付書(32391)の番号の違いについて上記の説明を行い、関与先様の手元にある納付書(納期特例用)で納付していただきました。

7月10日期限の労働保険・社会保険・納期特例の給与集計は発生ベース?支払ベース?

1.毎年7月10日は事務手続き期限の集中日

 毎年7月10日は、事務手続きの期限が集中します。代表的なものを挙げると、労働保険(労災保険・雇用保険)の年度更新、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の算定基礎届、納期の特例(源泉所得税)があります。

 これらの事務手続きに共通する作業として、給与と賞与(以下「給与等」といいます)の集計があります。
 給与等の集計期間は、労働保険の年度更新では前年4月1日から当年3月31日まで、社会保険の算定基礎届では当年4月から6月まで、納期特例では当年1月から6月までとされています。
 それぞれの集計期間において給与等を集計することになりますが、その給与等の集計を発生ベースで行うのか、支払ベースで行うのかについては、それぞれの制度によって異なります。

 ここでいう発生ベースとは、実際に給与等が支払われていなくても支払が確定したもの、言い換えれば、給与等の支払日ではなく給与計算期間(締め日)を基準として集計することをいいます。例えば、4月末日締・翌月支払の給与の場合は4月の給与として集計します。
 これに対して支払ベースとは、給与計算期間(締め日)ではなく給与の支払日を基準として集計することをいいます。例えば、4月末日締・翌月支払の給与の場合は5月の給与として集計します。
 以下では、次のA社とB社を例として、制度ごとの給与等の集計方法について確認します。

A社:給与末日締、当月末日支払(月給)
B社:給与末日締、翌月10日支払(月給)

 

2.労働保険年度更新の場合

 事業主は、新年度の概算保険料を納付するための申告・納付と、前年度の保険料を精算するための確定保険料の申告・納付の手続きが必要です。これを年度更新といいます。
 年度更新の手続きには、前年4月1日から当年3月31日までの給与等を集計する必要があります。
 この集計に関して「労働保険 年度更新 申告書の書き方」では次のように記載されており、発生ベースで行うことが読み取れます(下線部は筆者編集)。

 賃金集計表には、前年4月1日から当年3月31日までに使用した全ての労働者に支払った賃金(当年3月31日までに支払いが確定しているが、実際の支払いは同年4月1日以降になる場合も含みます。)の総額を記入してください。

 したがって、年度更新では前年4月1日から当年3月31日までに発生した給与等が集計対象となり、A社の場合は前年4月から当年3月に支払った給与等を集計し、B社の場合は前年5月から当年4月に支払った給与等を集計することになります。

※ 労働保険の年度更新については、本ブログ記事「労働保険の年度更新の仕組みと会計処理(仕訳)」をご参照ください。

3.社会保険算定基礎届の場合

 事業主は、健康保険及び厚生年金保険の被保険者の実際の報酬と標準報酬月額との間に大きな差が生じないように、当年4月~6月に支払った給与等を算定基礎届によって届出をする必要があります。これを定時決定といいます。
 算定基礎届は、当年4月、5月、6月の給与等を集計しますが、「算定基礎届の記入・提出ガイドブック」には次のように記載されており、支払ベースで集計することが読み取れます。

 算定基礎届は4、5,6月に支払われた給与を報酬月額として届出しますが、給与計算の締切日と支払日の関係によって支払基礎日数が異なります。

(例)月給制の場合
給与末日締 当月末日支払

暦日 支払基礎日数
4月 4月1日~30日 30
5月 5月1日~31日 31
6月 6月1日~30日 30

(例)月給制の場合
給与25日締 当月末日支払

暦日 支払基礎日数
4月 3月26日~4月25日 31
5月 4月26日~5月25日 30
6月 5月26日~6月25日 31

(例)月給制の場合
給与末日締 翌月10日支払

暦日 支払基礎日数
4月 3月1日~31日 31
5月 4月1日~30日 30
6月 5月1日~31日 31

 したがって、集計対象となる給与の給与計算期間(締め日)は異なりますがA社もB社も当年4月から6月に支払った給与等を支払ベースで集計することになります。

※ 例えば「4月」の給与については、A社の場合は給与計算期間が4月1日~4月30日であるのに対し、B社の場合は3月1日~3月31日となります。

4.納期の特例の場合

 事業主は、源泉徴収した所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」といいます)を、原則として、給与などを実際に支払った月の翌月10日までに国に納めなければなりません。
 ただし、給与の支給人員が常時10人未満である事業主は、源泉徴収した所得税等を半年分まとめて納めることができる特例があります。これを納期の特例といいます。

 納期の特例では、当年1月から6月までの給与等を集計しますが、国税庁ホームページの「給与などを実際に支払った月の翌月10日までに国に納めなければなりません。」や「納付書の記載のしかた」の「実際の支払年月日を記載してください。」などの文言から、支払ベースで集計することが読み取れます。

 したがって、集計対象となる給与の給与計算期間(締め日)は異なりますがA社もB社も当年1月から6月に支払った給与等を支払ベースで集計することになります。

※ 例えば「1月」の給与については、A社の場合は給与計算期間が当年1月1日~1月31日であるのに対し、B社の場合は前年12月1日~12月31日となります。
 なお、当月締め・翌月払いの給与の年末調整については、本ブログ記事「翌月に支給する給与の年末調整と会計処理」をご参照ください。

FM宝塚で今年もインボイス制度等の解説をします

 2023(令和5)年10月1日から始まるインボイス制度と2024年(令和6)年1月1日から全面的に施行される電子帳簿保存法について、今年もFM宝塚で解説をさせていただくことになりました(提供:宝塚商工会議所)。

 令和5年度税制改正でインボイス制度と電子帳簿保存法の何が変わったのか?
 免税事業者はインボイス発行事業者として登録した方がいいのか?
 登録するかどうかは何を基準に判断すればいいのか?
 電子帳簿保存法で最低限対応しなければならないのは何か?
 猶予措置によって電子帳簿保存法への対応を焦らなくてもよくなった?

などについて、パーソナリティーの芦田純子さんと一緒に解説をしていきます。

 インボイス制度や電子帳簿保存法への対応を「そのうちに考えよう」と先延ばしにしてきた事業者の方も、制度開始が間近に迫っていますので、本腰を入れて考えなければなりません。
 どのように対応したらいいのか、あるいは対応しなくてもいいのかについて、この放送を判断材料にしていただければと思います。

 番組名は「インボイス制度ってな~に?パート2」で、2023(令和5)年7月2日(日)より毎週日曜日の8:15~8:30に放送します(第5週目の日曜日は放送はありません)。放送回数は全20回です(再放送を含みます)。

放送日 内容
7月 2日 インボイス制度の基本をおさらい
9日 インボイス制度の基本をおさらい(再)
16日 登録制度の見直しと手続きの柔軟化
23日 登録制度の見直しと手続きの柔軟化(再)
8月 6日 2割納税の特例!
13日 2割納税の特例!(再)
20日 2割納税の特例と簡易課税はどちらが有利?
27日 2割納税の特例と簡易課税はどちらが有利?(再)
9月 3日 少額特例と少額返還インボイスの交付義務免除
10日 少額特例と少額返還インボイスの交付義務免除(再)
17日 インボイスなしで仕入税額控除する!?
24日 インボイスなしで仕入税額控除する!?(再)
10月 1日 あなたの質問にお答えします
8日 あなたの質問にお答えします(再)
15日 電子帳簿保存法のよくある誤解
22日 電子帳簿保存法のよくある誤解(再)
11月 5日 電子データ保存の鍵
12日 電子データ保存の鍵(再)
19日 あなたの質問にお答えします
26日 あなたの質問にお答えします(再)

ふるさと納税返礼品を一時所得で申告する際の収入金額(時価)とは?

1.返礼品が一時所得となる根拠

 一時所得とは、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の臨時・偶発的な所得で、労務やその他の役務又は資産の譲渡による対価としての性質を有しないものをいい、例えば、次のようなものが該当します。

・福引や懸賞の当選金品(業務に関して受けるものを除く)
・競馬や競輪の払戻金(営利を目的とする継続的行為から生じたものを除く)
・生命保険契約等の一時金(業務に関して受けるものを除く)
・損害保険契約や建物更生共済等と満期返戻金、解約返戻金
・法人から贈与された金品(業務に関して受けるもの、継続的に受けるものを除く)
・売買契約の解除に伴い取得する違約金(業務に関して受けるものを除く)
・ 逸失物拾得者や埋蔵物発見者が受ける報奨金や新たに所有権を取得する資産
・時効により取得した土地等

 ふるさと納税をした人が地方公共団体から受ける特産品等の返礼品は、一時所得に該当します。
 所得税法上、各種所得の金額の計算上収入すべき金額には、金銭以外の物又は権利その他経済的利益の価額も含まれますが、ふるさと納税の謝礼として受ける特産品等に係る経済的利益については、所得税法第9条に規定する非課税所得のいずれにも該当せず、また、地方公共団体は法人とされていますので(地方自治法第2条第1項)、法人からの贈与により取得するものと考えられます。
 したがって、特産品等に係る経済的利益は一時所得に該当します。

2.返礼品の時価は「返礼品調達価格」だけど・・・

 一時所得の金額は次のように計算しますので、ふるさと納税以外に一時所得に該当するものがないときは、受け取った返礼品の価格が50万円までなら課税関係は生じません。

 一時所得の金額=一時所得に係る総収入金額-収入を得るために支出した金額-特別控除額(50万円が上限)

 この算式において、一時所得に係る総収入金額に算入すべき金額は受け取った返礼品の価格になりますが、返礼品の価格とはいかなるものをいうのでしょうか?
 一時所得の総収入金額には、金銭によるもののほか金銭以外の物又は権利その他経済的利益の価額も含まれ、経済的利益の価額は時価により計算します。
 では、返礼品という経済的利益の時価は、どのように算出するのでしょうか?

 国税不服審判所の令和2年8月6日裁決や令和4年2月7日裁決では、返礼品の時価は「地方公共団体が返礼品の調達に当たって現に支出した金額(返礼品調達価格)」とされています(令和4年2月7日裁決は公表裁決事例(裁決事例集No.126)で閲覧できます)。

 以下は、返礼品の時価を争点とする令和4年2月7日裁決の要約です。

(1) 返礼品は、ふるさと納税を受けた地方公共団体が、その謝礼として当該ふるさと納税をした個人に送付するものであるから、当該地方公共団体は、募集に要する費用の額や当該返礼品について、予算計画、返礼品の選定、調達個数、市場調査、事業者との折衝などを踏まえて、ふるさと納税の金額に応じた返礼品を選定し調達するものと推測することができる。このため、当該返礼品を選定し調達を行う地方公共団体が、当該返礼品の価値を最も理解しているものと考えられる。

(2) また、ふるさと納税をした個人は、地方公共団体からの贈与により返礼品を取得するのであるが、ふるさと納税制度における返礼品の提供が当該個人に対する謝礼であることからすれば、当該贈与による当該個人に供与されることとなる経済的利益の価額は、地方公共団体が謝礼(返礼品の調達・提供)のために支出した返礼品調達価格をその算定の基礎とすることが相当である(以下、ふるさと納税を受けた地方公共団体が返礼品の調達に当たって現に支出した金額を「返礼品調達価格」といい、当該調達先の事業者を「調達事業者」という)。
 そして、返礼品調達価格については、地方公共団体と調達事業者との合意により成立したものであり、地方公共団体がふるさと納税の金額に応じた返礼品をホームページ等で公開していることを踏まえると、当該合意された金額について、地方公共団体と調達事業者との間に特別な動機を挟む余地はなく、通常、地方公共団体が当該返礼品をその調達時における時価を超える金額で調達することはないと考えられる。
 なお、返礼品について、地方公共団体と調達事業者との間で不当に高額又は低額で取引されたといった事情は見受けられない。

(3) さらに、地方公共団体は、通常、調達事業者による返礼品の発送をもって、当該調達事業者へその代金(返礼品調達価格)を支払っているものと考えられ、当該代金は当該発送により確定するものと認められる。そうすると、地方公共団体が返礼品を調達した時期とふるさと納税をした者が当該返礼品を取得する時期は、近接していると認められ、この二つの時期を同時期であるとみても特段不合理ではない。

(4) これらのことからすると、返礼品に係る返礼品調達価格は、地方公共団体が返礼品を調達した時における当該返礼品の客観的交換価値(時価)を示すものと評価することができる。

 裁決では返礼品調達価格を時価としていますが、この返礼品調達価格を一般の納税者が知るのは困難であると思われます。
 税務署の調査担当職員だからこそ、地方公共団体に対して返礼品に係る照会を行って回答を得ることができるのであり、同様の照会を一般の納税者が行ったとしても、対応してくれる地方公共団体があるのかどうかは疑問です。

少額な返還インボイスの交付義務の免除

 2023(令和5)年10月1日からインボイス制度(適格請求書等保存方式)がスタートします。このインボイス制度は、免税事業者を中心に多くの事業者へ影響を及ぼすことから、その影響を緩和するために、2023(令和5)年度税制改正で以下の負担軽減措置(支援措置)が講じられました。

(1) 売上税額の2割を納税額とする「2割特例」
(2) 帳簿保存のみで仕入税額控除ができる「少額特例」
(3) 少額な返還インボイスの交付義務の免除
(4) 登録制度の見直しと手続きの柔軟化

 今回は、上記の負担軽減措置のうち、(3)の「少額な返還インボイスの交付義務の免除」の内容を確認します。

1.返還インボイスとは?

 インボイス制度がスタートすると、値引きや返品等があった場合に、インボイス発行事業者である売り手に返還インボイス(適格返還請求書)の交付義務が課せられます。
 返還インボイスの記載事項と記載例は次のとおりです。

① インボイス発行事業者のの氏名又は名称及び登録番号
② 値引・返品等を行う年月日及びその値引・返品等の基となった売上を行った年月日
③ 値引・返品等の基となる売上の内容
④ 値引・返品等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額
⑤ 値引・返品等の金額に係る消費税額等又は適用税率

出所:国税庁ホームページ

2.値引等が税込1万円未満であれば交付義務免除

 インボイス発行事業者である売り手が値引をしたり返品を受けたりする場合には、原則として上記1のような返還インボイスを発行する必要があります。

 しかし、売り手が負担する振込手数料(買い手からの売上代金の振込時に差し引かれる振込手数料)について売り手が値引として処理する場合に、振込手数料という少額な値引にまで返還インボイスの交付義務が課される点については、事務負担などの懸念が示されていました。

 そのため、2023(令和5)年度税制改正で返還インボイスの交付義務の見直しが行われ、値引や返品等の税込価額が1万円未満である場合は、返還インボイスの交付義務が免除されることとなりました。

出所:国税庁ホームページ

 この見直しにより、振込手数料は通常1万円未満と考えられるため、売り手負担の振込手数料に係る事務負担が解消されます。
 なお、この措置(少額な返還インボイスの交付義務の免除)は「2割特例」や「少額特例」と異なり、すべての事業者が対象(適用対象者に制限なし)であり、適用期限のない恒久的な措置となっています。

※ 「2割特例」については本ブログ記事「インボイス制度に係る支援措置:売上税額の2割納税」を、「少額特例」については「インボイスの保存がなくても仕入税額控除が認められる「少額特例」とは?」をご参照ください。

3.売り手負担の振込手数料を支払手数料で処理する場合

 上記のように、売り手負担の振込手数料を「売上値引(売上げに係る対価の返還等)」として処理する場合は、返還インボイスの交付義務は免除されます。

 では、売り手負担の振込手数料を「支払手数料(課税仕入)」として処理する場合も交付義務免除の対象となるのでしょうか?

 この場合は、値引(対価の返還等)ではなく支払手数料(課税仕入)として処理していますので、そもそも返還インボイスの交付は必要ありません。
 ただし、支払手数料として仕入税額控除を行うためには、金融機関や取引先等からの支払手数料に係るインボイスが必要ですが、振込手数料は通常1万円未満と考えられるため、「少額特例」の対象にはなります。

パートやアルバイトの給与を丙欄で源泉徴収するときの注意点と建設業の特例

1.丙欄で源泉徴収するための要件

 パートやアルバイトで働く人に支払う給与は、日給(勤務した日)や時間給(勤務した時間)で計算することが多いと思われますが、これらの人に給与を支払う際に源泉徴収する税額は、一般の従業員と同様に「給与所得の源泉徴収税額表」の「月額表」または「日額表」の「甲欄」または「乙欄」を使って求めます(源泉徴収税額表の月額表、日額表、甲欄、乙欄、丙欄の使い分けの判断基準については、本ブログ記事「源泉徴収税額表の『月額表』『日額表』の使い方と『甲欄』『乙欄』『丙欄』」をご参照ください)。

 一方、パートやアルバイトの人の給与を日給または時間給によって計算していることのほか、次のいずれかの要件に当てはまる場合には、「日額表」の「丙欄」を使って源泉徴収する税額を求めます。

(1) あらかじめ定められている雇用契約の期間が2か月以内であること
(2) 日々雇い入れている場合には、継続して2か月を超えて支払をしないこと

 したがって、2か月以内の短期間(有期雇用)で募集するパートやアルバイトの人に対して日給や時間給で支払う給与は、「日額表」の「丙欄」を使うことになります。

 パートやアルバイトで断続的に勤務する人に対して支払う給与について、日額表の丙欄を使って源泉徴収をすると、日額(その日の社会保険料等控除後の給与等の金額)が9,300円未満であれば源泉徴収税額は0円になります。
 これは、同じ日額表の甲欄や乙欄を使って源泉徴収する場合よりも税額を抑えることができます(給与が日額9,200円以上9,300円未満の区分であれば、甲欄では250円(扶養親族等の数が0人の場合)、乙欄では1,530円の源泉徴収が必要です)。

 ただし、丙欄で源泉徴収するための要件については、常に確認する必要があります。

2.契約期間や支払期間が2か月を超えた場合

 前述したように、2か月以内の短期間(有期雇用)で募集するパートやアルバイトの人に対して日給や時間給で支払う給与は、次のいずれかの要件に基づき「日額表」の「丙欄」を使って源泉徴収をします。

(1) あらかじめ定められている雇用契約の期間が2か月以内であること
(2) 日々雇い入れている場合には、継続して2か月を超えて支払をしないこと

 (1)の要件については、最初の契約期間が2か月以内の場合でも、雇用契約の期間の延長や、再雇用のため2か月を超えることがあります。
 この場合には、契約期間が2か月を超えた日から、「日額表」の「丙欄」を使うことができず、「月額表」または「日額表」の「甲欄」または「乙欄」を使って源泉徴収する税額を求めることになります。

 なお、雇用契約の期間を2か月ごとに更新することとしている場合もあると思います。例えば、5月~6月の2か月を一つの雇用期間とし、この雇用期間が過ぎれば新たに7月~8月の2か月を一つの雇用期間として更新する場合です。
 また、5月~6月の雇用契約が終了した後に、7月は雇用契約をせずに、8月~9月の2か月について新たに雇用契約する場合もあります。
 一つ一つの雇用契約の期間を見れば2か月以内ですが、いずれの場合も雇用契約の期間の延長や再雇用に該当するため、2か月を超えると判断されます。つまり、「日額表」の「丙欄」は使えないということです。

 (2)の要件については、日々雇い入れている場合には、継続して2か月を超えて支払をしないこととなっています。
 日雇賃金については、「日額表」の「丙欄」を使って源泉徴収をしますが、継続して2か月を超えて給与等が支払われた場合には、その2か月を超える部分の期間に支払われるものは日雇賃金にはならず、「日額表」の「丙欄」は使えません。したがって、「月額表」または「日額表」の「甲欄」または「乙欄」を使って源泉徴収をすることになります。

 (2)の要件で少し気になるのは、「継続して」の部分です。
 例えば、5月に8日間、6月に10日間雇い入れて日雇賃金を支払った後、7月は雇い入れずに、8月にまた雇い入れる場合、8月の給与は日雇賃金になるのでしょうか?
 この場合の8月に支払う給与は、日雇賃金にはなりません。5月・6月と8月の間に1か月の空きがありますが、この場合も継続して2か月を超えて給与等が支払われたと判断されますので、8月に支払う給与については「日額表」の「丙欄」は使えません。

 しかし、5月・6月はA社で日雇賃金が支払われ、8月はB社で給与が支払われる場合は、8月の給与は日雇賃金になり「日額表」の「丙欄」を使って源泉徴収をします。
 つまり、1か所の勤務先から継続して2か月を超えて給与等が支払われなければ、「日額表」の「丙欄」を使って源泉徴収をすることになります。

3.建設業従事者の特例

 原則として、雇用契約の期間や日雇賃金の支払期間が2か月を超えると「日額表」の「丙欄」は使えませんが、建設業従事者の場合は、雇用期間等が2か月を超えていても8か月を超えなければ、「日額表」の「丙欄」を使って源泉徴収をすることになります。

 具体的な要件は、次のとおりです(参考:国税庁ホームページ「建設労務者に支払う給与に対する源泉所得税の取扱いに関する要望について」)。

(1) 同一事業主に継続して雇用されることを常態としない
(2) 同一事業主に雇用される期間が継続して8か月を超えない
(3) 同一事業主に継続して1か年を超えて雇用されない

「従たる給与についての扶養控除等申告書」とは?

1.どんな場合に提出するのか?

出所:国税庁ホームページ

 「従たる給与についての扶養控除等(異動)申告書」は、2か所以上から給与等の支払を受ける人で、主たる給与等の支払者から支給される給与だけでは扶養控除等の人的所得控除が控除しきれないと見込まれる人が、従たる給与の支払者(主たる給与の支払者以外の給与の支払者)から支給される給与から配偶者(特別)控除(源泉控除対象配偶者について控除を受けるものに限ります)や扶養控除を受けるために提出する書類です。

 主たる給与とは、「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している人に支払われる給与をいい、主たる給与の源泉徴収税額は源泉徴収税額表の「甲欄」で求めます(扶養控除等申告書の書き方については、本ブログ記事「令和6年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の書き方と記載例」をご参照ください)。

 従たる給与とは、従たる給与の支払者から支払われる給与をいい、従たる給与の源泉徴収税額は源泉徴収税額表の「乙欄」で求めます。

 この従たる給与の支払者のもとで、配偶者(特別)控除や扶養控除を受けるためには、「従たる給与についての扶養控除等申告書」を提出する必要があります。
 具体的には、2か所以上の給与の支払者から給与の支払を受ける人で、その年中の主たる給与等の金額(給与所得控除後の給与等の金額)が次の(1)と(2)の金額の合計額に満たないと見込まれる場合に提出します。

(1) 主たる給与につき控除される社会保険料及び小規模企業共済等掛金の見積額
(2) その人に適用される障害者控除額、寡婦控除額、ひとり親控除額、勤労学生控除額、配偶者(特別)控除額、扶養控除額および基礎控除額の合計額

 なお、主たる給与の支払者に申告した源泉控除対象配偶者や控除対象扶養親族を、年の中途で従たる給与の支払者に申告替えすることはできますが、従たる給与の支払者に申告した源泉控除対象配偶者や控除対象扶養親族を、年の中途で主たる給与の支払者に申告替えすることはできません。

※ 2023(令和5)年度税制改正により、源泉徴収手続の簡素化を図り納税者利便を向上させる観点から、2025(令和7)年1月1日以後に支給される給与等について提出する「給与所得者の扶養控除等申告書」及び「従たる給与についての扶養控除等申告書」に「簡易な申告書」が創設されました。詳細については、本ブログ記事「簡易な扶養控除等申告書とは?」をご参照ください。

2.「従たる給与についての扶養控除等申告書」が提出されている場合の源泉徴収

 「従たる給与についての扶養控除等申告書」の提出がある場合に、月額表の乙欄を使用して給与や賞与に対する源泉徴収税額を求めるときは、乙欄に記載されている税額から申告されている扶養親族等の数に応じ、扶養親族等1人につき1,610円を控除します。

 また、日額表の乙欄を使って源泉徴収税額を求めるときは、乙欄に記載されている税額から申告されている扶養親族等の数に応じ、扶養親族等など1人につき50円を控除します。

 なお、源泉徴収税額表の使い方については、本ブログ記事「源泉徴収税額表の『月額表』『日額表』の使い方と『甲欄』『乙欄』『丙欄』」をご参照ください。

インボイスの保存がなくても仕入税額控除が認められる「少額特例」とは?

 2023(令和5)年10月1日からインボイス制度(適格請求書等保存方式)がスタートします。このインボイス制度は、免税事業者を中心に多くの事業者へ影響を及ぼすことから、その影響を緩和するために、2023(令和5)年度税制改正で以下の負担軽減措置(支援措置)が講じられました。

(1) 売上税額の2割を納税額とする「2割特例」
(2) 帳簿保存のみで仕入税額控除ができる「少額特例」
(3) 少額な返還インボイスの交付義務の免除
(4) 登録制度の見直しと手続きの柔軟化

 今回は、上記の負担軽減措置のうち、(2)の「少額特例」の内容を確認します。

1.少額特例の内容

 「少額特例」は、インボイス制度への移行後6年間に限り、一定規模以下の事業者が行う1万円未満の課税仕入れについては、インボイスの保存がなくても帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるという事務負担の軽減措置です。
 具体的な内容は、以下のとおりです。

(1) 適用対象期間

 本特例は、2023(令和5)年10月1日から2029(令和11)年9月30日までの期間が適用対象期間となり、その間に行う課税仕入れに適用されます。
 そのため、たとえ課税期間の途中であっても、2029(令和11)年10月1日以後に行う課税仕入れについては適用されません。
 例えば、2029(令和11)年1月1日~同年12月31日を課税期間とする個人事業者や12月決算法人は、2029(令和11)年9月30日までは本特例を適用できますが、残りの3か月(10月1日~12月31日)は税込1万円未満の課税仕入れでもインボイスの保存が必要となります。
 なお、本特例は、少額(税込1万円未満)の課税仕入れについてインボイスの保存を不要とするものであり、インボイス発行事業者の交付義務が免除されているわけではありませんので、インボイス発行事業者は課税事業者からインボイスを求められた場合には交付する必要があります。

(2) 適用対象者

 基準期間※1における課税売上高が1億円以下又は特定期間※2における課税売上高が5,000万円以下の事業者が、適用対象者となります。
 なお、特定期間における課税売上高の判定に当たり、課税売上高に代えて給与支払額の合計額で判定することはできません。

※1 「基準期間」とは、個人事業者の場合はその年の前々年、事業年度が1年である法人の場合はその事業年度の前々事業年度のことをいいます。
※2 「特定期間」とは、個人事業主については前年1月から6月までの期間をいい、法人については前事業年度開始の日以後6月の期間をいいます。

(3) 課税仕入れの金額の判定

 本特例の対象となる1万円未満かどうかの判定は、税込価額で行います。
 また、その金額の判定単位は、課税仕入れに係る1商品ごとの金額により判定するのではなく、1回の取引の合計額が税込1万円未満であるかどうかにより判定します。
 例えば、8,000円の商品と7,000円の商品を同時に購入した場合、1商品ごとの金額は1万円未満になりますが、1回の取引の合計額が15,000円になりますので、少額特例の対象とはなりません。

2.少額特例とは別の「保存が免除される取引」

 少額特例は、インボイスの保存がなくても帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるという特例ですが、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる別の規定もあります。
 例えば、個人からマイホームやマイカーを買い取ることが多い不動産業者や中古車販売業者などは、取引の相手方である個人からインボイスの発行を受けることができません。
 このような個人からの仕入れが多い事業者には、インボイスの交付を受けることが困難であるなどの理由により、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる例外的な措置が講じられています。
 この例外的な措置については、本ブログ記事「インボイス制度導入後の個人(消費者)からの仕入れに係る仕入税額控除」をご参照ください。