個人事業主が所得税・社会保険の扶養に入るための要件

1.「103万円の壁」と「130万円の壁」

 扶養の範囲内で働きたいパートの方は、収入が一定額を超えないように労働調整をする場合があります。
 例えば、夫が配偶者控除38万円の適用を受けられるように、妻はパート先での収入を103万円以下に抑えようとします(いわゆる「103万円の壁」です)。
 また、夫の社会保険の扶養の範囲内で働きたい場合は、妻はパート先での収入を130万円未満に抑えようとします(いわゆる「130万円の壁」です)。
 この所得税における103万円の壁と社会保険(健康保険・厚生年金)における130万円の壁は、いずれも収入額が基準となっていますので、パートで働く給与所得者の場合はわかりやすいと言えます。
 一方、個人事業主として開業しても、事業が軌道に乗るまでは親や配偶者の扶養の範囲内で仕事をしたいという場合があります。
 ここで、個人事業主が扶養に入るための判定基準はどのように考えたらいいのか、という疑問が生じます。
 103万円の壁と130万円の壁について、個人事業主も給与所得者と同じように収入(年商)で判定するのでしょうか、それとも収入から経費を差し引いた所得で判定するのでしょうか?
 結論を先に述べると、個人事業主の103万円の壁と130万円の壁は、どちらも収入から経費を差し引いた「所得」で判定します。
 以下において、若干の注意点を踏まえながら確認します。

2.所得税の扶養の判定は確定申告書の合計所得金額を見る

 所得税における扶養の範囲(扶養親族)は、所得者と生計を一にする親族(配偶者、青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者を除きます)で合計所得金額が48万円以下の人をいいます。
 給与所得だけの場合は、給与の年間収入が103万円以下であれば、合計所得金額が48万円以下になります(給与収入103万円-給与所得控除額55万円=給与所得48万円)。
 個人事業主の場合は、先に述べたとおり収入から経費を差し引いた所得が48万円以下であれば、扶養に入ることができます。
 48万円以下であるかどうかを判定するにあたっては、次の点に注意が必要です。

(1) 事業所得の他に所得がある場合は、それらの合計額で48万円以下であるかどうかを判定します。
(2) 青色申告者の場合は、青色申告特別控除額を差し引いた後の所得で判定します。
(3) 社会保険料控除や基礎控除などの所得控除を差し引く前の金額で判定します。

 つまり、確定申告書第1表の合計所得金額(下図の黄色マーカーを付した⑫欄の数字)が48万円以下であるかどうかを判定します。

※ 合計所得金額については、本ブログ記事「『合計所得金額』『総所得金額』『総所得金額等』の違いとは?」をご参照ください。

3.社会保険の扶養の判定(協会けんぽの場合)

 社会保険(健康保険・厚生年金)の被扶養者に該当する条件は、日本国内に住所(住民票)を有しており、被保険者(扶養する人)により主として生計を維持されていること、および「収入要件」と「同一世帯の条件」のいずれにも該当した場合です(同一世帯の条件の説明は省略します)。

【収入要件】
 年間収入130万円未満(60歳以上または障害者の場合は、年間収入180万円未満)かつ
 ・同居の場合は収入が被保険者(扶養する人)の収入の半分未満
 ・別居の場合は収入が被保険者(扶養する人)からの仕送り額未満

 上記の収入要件に関する注意点は、次のとおりです。

(1) 年間収入とは、過去の収入のことではなく、被扶養者に該当する時点および認定された日以降の年間の見込み収入額のことをいいます(給与所得等の収入がある場合は月額108,333円以下、雇用保険等の受給者の場合は日額3,611円以下であれば要件を満たします)。
 また、被扶養者の収入には、雇用保険の失業等給付、公的年金、健康保険の傷病手当金や出産手当金も含まれます。

(2) 収入が被保険者(扶養する人)の収入の半分以上の場合であっても、被保険者(扶養する人)の年間収入を上回らないときで、日本年金機構がその世帯の生計の状況を総合的に勘案して、被保険者(扶養する人)がその世帯の生計維持の中心的役割を果たしていると認めるときは被扶養者となることがあります。

 このような収入要件がありますが、先に述べたように個人事業主の場合は、収入から経費を差し引いた所得が130万円未満(又は180万円未満)であれば、扶養に入ることができます。
 130万円未満であるかどうかを判定するにあたっては、次の点に注意が必要です。

(1) 事業所得の他に所得がある場合は、それらの合計額で130万円未満であるかどうかを判定します。
(2) 青色申告者の場合は、青色申告特別控除額を差し引く前の所得で判定します。
(3) 社会保険料控除や基礎控除などの所得控除を差し引く前の金額で判定します。

 (2)の青色申告特別控除額は、あくまでも税制上の特典ですので、社会保険の扶養を判定する際の所得の算定上は控除できません。それ以外の青色申告決算書に記載した経費は差し引くことができます。

4.社会保険の扶養の判定(健康保険組合の場合)

 上記3で確認した内容は、政府が管掌する全国健康保険協会(協会けんぽ)の場合です。
 被保険者(扶養する人)の勤め先が、大手企業やグループ企業で構成される健康保険組合に加入している場合は、健康保険組合ごとに収入要件の取扱いが異なります。
 例えば、A健康保険組合の場合は、収入(売上)から差し引ける経費は売上原価のみであるのに対し、B健康保険組合の場合は、売上原価と人件費が差し引ける、などです。
 被保険者(扶養する人)の勤め先が加入しているのは協会けんぽなのか健康保険組合なのか、健康保険組合に加入している場合はどのような扶養条件があるのか、事前に確認しておくことが大事です。

令和3年分給与所得者の保険料控除申告書の書き方と記載例

 保険料控除申告書は、給与の支払を受ける人(給与所得者)が、その年の年末調整において生命保険料控除、地震保険料控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除を受けるために給与の支払者(勤務先)に提出するものです。
 今回は、生命保険料控除申告書の書き方について確認します。なお、年末調整で勤務先に提出する書類については「年末調整に必要な書類(各種申告書と証明書等)」をご参照ください。

1.氏名、住所などの記入

(1) 所轄税務署長
 給与の支払者の所在地等の所轄税務署長を記入します。

(2) 給与の支払者の法人番号
 この申告書を受理した給与の支払者が、給与の支払者の法人番号を付記します。

2.生命保険料控除の記入

(1) 控除証明書の内容を記入(転記) 
 保険会社から送られてきた生命保険料控除証明書や契約証書などを参考に、下記項目を記入します。

項目 記入内容
保険会社等の名称 保険会社等の名称(略称可)
保険等の種類 控除証明書の「保険種類」
保険期間又は年金支払期間 控除証明書の「保険期間」
保険等の契約者の氏名 控除証明書に記載されている人の「氏名」
保険金等の受取人 控除証明書に記載されている「保険金受取人名」(控除証明書に記載が無い場合は、契約証書等を参照)
あなたとの続柄 自分の場合は「本人」、それ以外の場合は「妻、夫、配偶者、父、母、子」など
新・旧の区分 控除証明書に記載されている「適用制度」の新旧の区分
あなたが本年中に支払った保険料等の金額 控除証明書に記載されている参考欄の「12月末時点の申告予定額
給与の支払者の確認印 勤務先の記入欄なので記入不要

 なお、保険料控除を受けるためには、保険金等の受取人があなた又はあなたの配偶者や親族(個人年金保険料については親族を除きます)であることが必要です(参考:本ブログ記事「妻が契約者でも夫の生命保険料控除の対象にできるか?」)。
 また、「給与所得者の保険料控除申告書」を提出する際は、旧生命保険料で一契約の保険料の金額が9,000円以下であるものを除き、証明書類の添付等が必要です。

(2) 控除額の計算
 保険料控除申告書の下部に記載されている「計算式Ⅰ(新保険料等用)」「計算式Ⅱ(旧保険料等用)」に当てはめて控除額を計算します。控除額の計算において算出した金額に1円未満の端数があるときは、その端数を切り上げます。

3.地震保険料控除の記入

 地震保険料控除についても生命保険料控除と同じように、保険会社から送られてきた地震保険料控除証明書の内容を記入(転記)して、地震保険料控除額の計算式に当てはめて控除額を計算します。
 なお、保険等の対象となった家屋等に居住又は家財を利用している人は、あなた又はあなたと生計を一にする親族であることが必要です(参考:本ブログ記事「賃貸住宅に住んでいる場合に地震保険料控除の適用はあるか?」)(同一生計を要件とする所得控除については、本ブログ記事「所得控除における『生計を一にする』の判定基準」をご参照ください)。
 また、「給与所得者の保険料控除申告書」を提出する際は、証明書類の添付等が必要です。

4.社会保険料控除の記入

 国民年金保険料など、あなたが直接支払った社会保険料を記入します。給与から差し引かれた社会保険料は記入しません。
 具体的には、次のような場合に記入が必要です。
(1) 勤務先が社会保険に未加入で、国民年金保険料・国民健康保険料を自分で支払っている場合
(2) 年の途中で就職し、それまでは国民年金保険料・国民健康保険料を支払っていた場合
(3) 配偶者、親、子の代わりに国民年金保険料・国民健康保険料を支払っている場合

 これらに該当する場合は、下記項目を記入します。

項目 記入内容
社会保険の種類 国民年金、国民年金基金、国民健康保険など
保険料支払先の名称 日本年金機構、市区町村名など
保険料を負担することになっている人 あなたや家族の氏名
あなたとの続柄 自分の場合は「本人」、それ以外の場合は「妻、夫、配偶者、父、母、子」など
あなたが本年中に支払った保険料の金額 ①国民年金や国民年金基金の場合
控除証明書に記載されている「合計額(納付済額+見込額)
②国民健康保険料(税)の場合
控除証明書がないので、領収書等から支払額を集計
合計(控除額) すべての額の合計

 なお、国民年金と国民年金基金については控除証明書の添付等が必要ですが、国民健康保険は控除証明書がありません(勤務先から「市町村の支払額の通知書」の提出を求められる場合があります)。

5.小規模企業共済等掛金控除の記入

 iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金など、あなたが直接支払った小規模企業共済等掛金を記入します。給与から差し引かれた掛金は記入しません。
 独立行政法人中小企業基盤整備機構や国民年金基金連合会、地方公共団体から送付された証明書をもとに下記項目の金額を記入します。
 なお、「給与所得者の保険料控除申告書」を提出する際は、証明書類の添付等が必要です。 

項目 記入内容
独立行政法人中小企業基盤整備機構の共済契約の掛金 小規模企業共済
※フリーランスの退職金の準備のための掛金。
確定拠出年金法に規定する企業型年金加入者掛金 企業型DC(企業型確定拠出年金)
※企業が掛金を拠出し、従業員が運用する。通常は、給与から差し引かれるため記入不要。
確定拠出年金法に規定する個人型年金加入者掛金 iDeCo(個人型確定拠出年金)
※自分で加入する。
心身障害者扶養共済制度に関する契約の掛金 心身障害者扶養共済掛金
※障害者を扶養している保護者が毎月一定の掛金を支払うことで、保護者に万一のことがあったときに障害者に年金が支給される。

令和3年分基礎控除・配偶者控除等・所得金額調整控除申告書の書き方と記載例

 給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書は、基礎控除申告書、配偶者控除等申告書、所得金額調整控除申告書の3つが一体の書式になっています。
 今回は、令和3年分基礎控除・配偶者控除等・所得金額調整控除申告書の書き方を確認します。

※ 年末調整で勤務先に提出する書類については本ブログ記事「年末調整に必要な書類(各種申告書と証明書等)」をご参照ください。

1.氏名、住所などの記入

(1) 所轄税務署長
 給与の支払者(勤務先)の所在地等の所轄税務署長を記入します。

(2) 給与の支払者の法人番号
 この申告書を受理した給与の支払者が、給与の支払者の法人番号を付記しますので、あなた(給与所得者)が記入する必要はありません。

2.給与所得者の基礎控除申告書の記入

(1) あなたの本年中の合計所得金額の見積額の計算
 給与所得については、令和3年中の給与の収入金額(給与を2か所以上から受けている場合は、その合計額)の見積額を「収入金額」欄に記入し、その給与の収入金額を基に下表を使用して「所得金額」を計算します。

給与の収入金額(A) 給与所得の金額
1円以上    550,999円以下 0円
551,000円以上 1,618,999円以下 A-550,000円
1,619,000円以上 1,619,999円以下 1,069,000円
1,620,000円以上 1,621,999円以下 1,070,000円
1,622,000円以上 1,623,999円以下 1,072,000円
1,624,000円以上 1,627,999円以下 1,074,000円
1,628,000円以上 1,799,999円以下 A÷4(千円未満切捨て)…B
B×2.4+100,000円
1,800,000円以上 3,599,999円以下 A÷4(千円未満切捨て)…B
B×2.8-80,000円
3,600,000円以上 6,599,999円以下 A÷4(千円未満切捨て)…B
B×3.2-440,000円
6,600,000円以上 8,499,999円以下 A×0.9-1,100,000円
   8,500,000円以上 A-1,950,000円

 ただし、所得金額調整控除の適用を受ける人は、上の表に従って求めた給与所得の金額から所得金額調整控除の控除額を差し引いた額を記入してください。
 所得金額調整控除の額の計算方法は、次のとおりです(①②の両方がある場合は、その合計額)。
① (給与の収入金額※1-850万円)×10%
 ※1 1,000万円を超える場合は1,000万円
② 給与所得控除後の給与等の金額※2+公的年金等に係る雑所得の金額※2-10万円
 ※2 10万円を超える場合は10万円

 例えば、給与の収入金額が8,970,000円の場合、上の表より給与所得の金額は8,970,000円-1,950,000円=7,020,000円と計算されますが、所得金額調整控除の額(8,970,000円-8,500,000円)×10%=47,000円を差し引いた6,973,000円を「所得金額」欄に記入します。

(2) 控除額の計算
 上記(1) の「あなたの本年中の合計所得金額の見積額の計算」の表で計算した合計額を基に「判定」欄の該当箇所に✓を付け、判定結果に対応する控除額を「基礎控除の額」欄に記入します。

(3) 区分Ⅰ
 配偶者控除又は配偶者特別控除の適用を受けようとする人は、「控除額の計算」の「判定」欄の判定結果に対応する記号(A~C)を記入します。

3.給与所得者の配偶者控除等申告書の記入

(1) 配偶者の氏名、個人番号など
 一定の要件の下、個人番号の記載を要しない場合がありますので、給与の支払者に確認してください(本ブログ記事「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書のマイナンバー記載を省略する方法」をご参照ください)。
 また、配偶者が非居住者である場合には、「非居住者である配偶者」欄に○を付け、「生計を一にする事実」欄にその年に送金等をした金額の合計額を記入します。この場合、親族関係書類及び送金関係書類の添付等が必要ですが、親族関係書類については、扶養控除等(異動)申告書を提出した際に添付等をしているときは必要ありません。

(2) 配偶者の本年中の合計所得金額の見積額の計算
 上記 2.(1)を参考に、配偶者の収入金額、所得金額を記入して下さい。例えば、給与収入の見積額が920,000円でかつ、所得金額調整控除が適用されない人の場合には、所得金額は920,000円-550,000円=370,000円となります。

(3) 判定及び区分Ⅱ
 上記3.(2)で計算した合計所得金額及び配偶者の生年月日を基に、「判定」欄の該当箇所に✓を付け、判定結果に対応する記号(①~④)を「区分Ⅱ」欄に記入します。

(4) 配偶者控除の額又は配偶者特別控除の額
 区分Ⅱが①又は②の場合は「配偶者控除の額 」欄に、区分Ⅱが③又は④の場合は「 配偶者特別控除の額 」欄に、「控除額の計算」の表で求めた配偶者控除額又は配偶者特別控除額を記入します。

4.所得金額調整控除申告書の記入

(1) 要件
 該当する要件に✓を付けます。複数の項目に該当する場合は、いずれか1つを選んで✓を付けます。
 「特別障害者」とは、障害者のうち身体障碍者手帳に身体上の障害の程度が一級又は二級である者として記載されている人など、精神又は身体に重度の障害のある人をいいます。
 「同一生計配偶者」とは、あなたと生計を一にする配偶者(青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者を除きます)で、令和3年中の合計所得金額の見積額が48万円以下の人をいいます。
 「扶養親族」とは、あなたと生計を一にする親族(配偶者、青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者を除きます)で、令和3年中の合計所得金額の見積額が48万円以下の人をいいます。 なお、児童福祉法の規定により養育を委託されたいわゆる里子や老人福祉法の規定により養護を委託されたいわゆる養護老人で、あなたと生計を一にし、令和3年中の合計所得金額の見積額が48万円以下の人も扶養親族に含まれます。

(2) ☆扶養親族等
 「要件」欄で「同一生計配偶者が特別障害者」、「扶養親族が特別障害者」、「扶養親族が年齢23歳未満」の項目に✓を付けた場合、その要件に該当する同一生計配偶者又は扶養親族の氏名、個人番号及び生年月日等を記入します。
 なお、「扶養親族が特別障害者」、「扶養親族が年齢23歳未満」の項目に✓を付けた場合でその扶養親族が2人以上いる場合は、いずれか1人の氏名、個人番号及び生年月日を記入します。
 また、 一定の要件の下、個人番号の記載を要しない場合がありますので、給与の支払者に確認してください (上記3.(1)参照)。

(3) ★特別障害者
 「特別障害者に該当する事実」欄には、障害の状態又は交付を受けている手帳などの種類と交付年月日、障害の程度(障害の等級)などの特別障害者に該当する事実を記入します。
 なお、特別障害者に該当する人が「扶養控除等(異動)申告書」に記載している特別障害者と同一である場合には、特別障害者に該当する事実の代わりに「扶養控除等申告書のとおり」と記載することも認められています。

※所得金額調整控除については、本ブログ記事「令和2年分から適用される基礎控除の改正と所得金額調整控除の新設」をご参照ください。

令和3年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の書き方と記載例

 年末調整では、勤務先に各種申告書(扶養控除等申告書、基礎控除・配偶者控除等・所得金額調整控除申告書、保険料控除申告書、住宅借入金等特別控除申告書)を提出することで、いろいろな控除を受けることができます(年末調整で勤務先に提出する書類については本ブログ記事「年末調整に必要な書類(各種申告書と証明書等)」をご参照ください)。
 これらの申告書のうち、今回は2021(令和3)年分扶養控除等申告書の書き方を確認します。扶養控除等申告書には2022(令和4)年分もありますが、令和3年分は今年(令和3年)の年末調整の計算に使用するため、令和4年分は来年(令和4年)1月から支払う給与の計算に使用するため、勤務先に提出します。
 令和3年分扶養控除等申告書は、昨年(令和2年)の年末調整時に提出済み、途中入社の方は入社時に提出済みだと思われますが、今年(令和3年)の年末調整で修正事項(結婚や出産により扶養者が増えた等)の有無を確認するため、勤務先より配布されます。
 以下で、令和3年分扶養控除等申告書の書き方について確認します。

1.氏名、住所などの記入

(1) 所轄税務署長等
 給与の支払者(勤務先)の所在地等の所轄税務署長とあなた(給与所得者)の住所地等の市区町村長を記載します。

(2) 給与の支払者の法人(個人)番号
 この申告書を受理した給与の支払者が、給与の支払者の個人番号又は法人番号を付記します。給与の支払者が法人の場合は、給与の支払者の法人番号をあらかじめ記載(印字)して、給与所得者に配付しても差し支えありません。

(3) あなたの個人番号
 あなたの個人番号を記載する必要がありますが、一定の要件の下、個人番号の記載を要しない場合がありますので、給与の支払者に確認してください。
※本ブログ記事「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」のマイナンバー記載を省略する方法」をご参照ください。

(4) あなたの住所又は居所
 令和3年分は、令和3年12月31日時点の住所を記載します(給与の支払者の指示に従ってください)。令和4年分は、令和4年1月1日時点の住所を記載します。

(5) 配偶者の有無
 ここでいう配偶者とは、一定の要件を満たす必要のある源泉控除対象配偶者のことではありません。単に配偶者がいれば「有」に○、いなければ「無」に○を付けます。

(6) 従たる給与についての扶養控除等申告書の提出
 2か所以上から給与の支払を受けている人が、他の給与の支払者に「従たる給与についての扶養控除等申告書」を提出している場合に◯を付けます。

2.源泉控除対象配偶者、控除対象扶養親族の記入

(1) 源泉控除対象配偶者
 配偶者が「源泉控除対象配偶者」となるには、以下の要件を満たす必要があります。
① あなたの所得金額が900万円以下である(給与収入のみならば年収1,095万円以下)
② 配偶者の所得金額が95万円以下である(給与収入のみならば年収150万円以下)
③ あなたと生計を一にする配偶者である
※「生計を一にする」については、本ブログ記事「所得控除における『生計を一にする』の判定基準」をご参照ください。
④ 青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者のいずれにも該当しない
 上記4要件を満たす場合は、配偶者の情報を記入します。なお、年末調整において配偶者(特別)控除の適用を受けるには、この欄の記載の有無に関わらず「給与所得者の配偶者控除等申告書」の提出が必要です。

(2) 控除対象扶養親族
 親族が「控除対象扶養親族」となるには、以下の要件を満たす必要があります(①~③は扶養親族の要件)。
① 親族の所得金額が48万円以下である(給与収入のみならば年収103万円以下)
② あなたと生計を一にする親族である
③ 配偶者、青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者のいずれにも該当しない
④ 年齢16歳以上である(平成18年1月1日以前生)
 上記4要件を満たす場合は、親族の情報を記入します。なお、児童福祉法の規定により養育を委託されたいわゆる里子や老人福祉法の規定により養護を委託されたいわゆる養護老人で、あなたと生計を一にし、令和3年中の合計所得金額の見積額が48万円以下の人も扶養親族に含まれます。

(3) 個人番号
 源泉控除対象配偶者及び控除対象扶養親族の個人番号を記載する必要がありますが、一定の要件の下、個人番号の記載を要しない場合がありますので、給与の支払者に確認してください(上記1.(3)参照)。

(4) 老人扶養親族
 控除対象扶養親族が年齢70歳以上(昭和27年1月1日以前生)の場合には、次のとおりいずれかに✓を付けます。
① その人があなた又はあなたの配偶者の直系尊属で、あなた又はあなたの配偶者のいずれかと同居を常況としている人であるとき→「同居老親等」に✓を付けます。
② その人が①以外の人であるとき →「その他」に✓を付けます。

(5) 特定扶養親族
 控除対象扶養親族が年齢19歳以上23歳未満(平成11年1月2日~平成15年1月1日生)の場合に、✓を付けます。

(6) 非居住者である親族
 源泉控除対象配偶者又は控除対象扶養親族が非居住者である場合に○を付けます。この場合、親族関係書類の添付等が必要です。
※「非居住者」とは、国内に住所を有せず、かつ、現在まで引き続いて1年以上国内に居所を有しない個人をいいます。

3.障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生の記入

(1) 同一生計配偶者
 同一生計配偶者が一般の障害者、特別障害者又は同居特別障害者に該当する場合には、該当する欄に✓を付けます。
※「同一生計配偶者」とは、あなたと生計を一にする配偶者(青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者を除きます)で、令和3年中の合計所得金額の見積額が48万円以下の人をいいます。

(2) 扶養親族
 扶養親族が一般の障害者、特別障害者又は同居特別障害者に該当する場合には、該当する欄に✓を付けます。
 なお、障害者控除の対象となる扶養親族は、控除対象扶養親族とは異なり、年齢16歳未満(平成18年1月2日以後生)の扶養親族も対象となります。

(3) 寡婦、ひとり親、勤労学生
 あなたが寡婦、ひとり親、勤労学生に該当する場合に✓を付けます
 寡婦は、ひとり親に該当しない女性で、以下のいずれかに当てはまる人です。
① 所得金額が500万円以下で、夫と離婚した後に婚姻をしておらず、扶養親族がいる
② 所得金額が500万円以下で、夫と死別した後婚姻をしていない、もしくは夫の生死が明らかでない
 ひとり親は、現在婚姻していない人、もしくは配偶者の生死が明らかでない一定の人のうち、以下のすべてに当てはまる人です。
① 所得金額が500万円以下である(給与収入のみならば、年収6,777,778円以下)
② 生計を一にする子がいる
③ 事実上の婚姻関係にある人がいない
※寡婦、ひとり親については、本ブログ記事「ひとり親控除の新設と寡婦(夫)控除の改正」をご参照ください。
 勤労学生は、以下のすべてに当てはまる人です。
① あなたが学生である(小学校、中学校、高等学校、高等専門学校、大学の学生、国や地方公共団体、学校法人などが設立した専修学校、各種学校、または職業訓練学校のうち一定の要件を満たす学校の学生)
② アルバイトなどの勤労による所得金額が75万円以下である(収入が1つの勤務先からのアルバイト代(給与収入)のみならば、年収130万円以下)

(4) 障害者又は勤労学生の内容
 左記の障害者又は勤労学生に該当する(人がいる)場合、その該当する事実やその人の氏名を記載します。
(例)障害者の場合・・・障害の状態又は交付を受けている手帳などの種類と交付年月日、障害の程度(等級)などの障害者に該当する事実を記載します。
(注)寡婦、ひとり親に該当する方について、死別、離婚、生死不明の別、生計を一にする子の氏名及びその子の所得の見積額など、寡婦又はひとり親に該当する事実の記載は必要ありません。

4.他の所得者が控除を受ける扶養親族等の記入

 他の所得者が控除を受ける扶養親族等の欄については、共働きなどで子供を扶養親族としなかった方が子供の氏名等を記入する欄ですが、空欄でも構いません。記入しなかったとしても「控除額が減り、損をする」というわけではありません。

5.住民税に関する事項の記入

(1) 16歳未満の扶養親族
 年齢16歳未満(平成18年1月2日以後生)の扶養親族について記載します。16歳未満の扶養親族は「扶養控除」の対象外ですが、住民税の計算で利用するためあわせて記載します。

(2) 控除対象外国外扶養親族
 国内に住所を有しない扶養親族に該当する場合に○を付けます。

マスク、PCR検査、オンライン診療は医療費控除の対象になるか?

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大は、日常生活へ大きな影響を及ぼしています。街中では感染防止のためにほとんどの人がマスクを着用し、PCR検査を受ける人も増えています。また、在宅で診療を受けることができるオンライン診療を始めた医療機関もあります。
 今回は、一向に収まる気配の無い新型コロナウイルス感染症に関連して支出した標題の費用が、医療費控除の対象となるか否かについて確認します。

1.医療費控除の対象

 所得税法では、医療費控除の対象となる医療費は、①医師等による診療や治療のために支払った費用、②治療や療養に必要な医薬品の購入費用、などとされています(所得税法73条2項、所得税法施行令207条1項)。
 医療費控除の対象となるか否かの判断基準は、簡単に言うと、その支出が治療目的の場合は可、予防目的の場合は不可ということです。
 例えば、インフルエンザに感染したときに支払う診察料や医薬品代は、治療目的のための支出ですから医療費控除の対象となります。一方、インフルエンザの感染防止のためにする予防接種は、予防目的のための支出ですから医療費控除の対象となりません。
 この観点から、マスク購入費用、PCR検査費用、オンライン診療に係る諸費用が医療費控除の対象となるか否かについて、以下でみていきます。

2.マスク購入費用

 新型コロナウイルス感染症を予防するためのマスク購入費用は、病気の治療目的ではなく感染予防を目的とした支出であるため、医療費控除の対象にはなりません。

3.PCR検査費用

 PCR検査については、医師等の判断により受ける場合と自己の判断で受ける場合があります。

(1) 医師等の判断によりPCR検査を受けた場合

 新型コロナウイルス感染症にかかっている疑いがある場合に、医師等の判断により受けたPCR検査の検査費用は、治療目的の支出( 医師等による診療や治療のために支払った費用 )に該当するため、医療費控除の対象となります。
 ただし、医療費控除の対象となる金額は自己負担部分に限られますので、公費負担により行われる部分の金額については、医療費控除の対象にはなりません。

(2) 自己の判断によりPCR検査を受けた場合

 単に感染していないことを明らかにする目的で受けるPCR検査など、自己の判断により受けたPCR検査の検査費用は、治療目的の支出に該当しないため、医療費控除の対象となりません。
 ただし、PCR検査の結果、「陽性」であることが判明し、引き続き治療を行った場合には、その検査は、治療に先立って行われる診察と同様に考えることができますので、その場合の検査費用については医療費控除の対象となります(所得税基本通達73-4)。

4.オンライン診療に係る諸費用

 オンライン診療は、在宅で医師の診療を受けることができ、また、処方された医薬品については、医療機関から患者が希望した薬局に処方箋情報が送付され、その薬局から患者の自宅へ医薬品を配送できる仕組みとなっています。
 この仕組みを利用するためには、以下のとおり、オンライン診療料に係る費用のほか、システムの利用料等の支払が必要となります。

(1) オンライン診療料

 オンライン診療料のうち、医師等による診療や治療のために支払った費用については、医療費控除の対象となります(所得税法73条2項、所得税法施行令207条1項)。

(2) オンラインシステム利用料

 医師等による診療や治療を受けるために支払ったオンラインシステム利用料については、オンライン診療に直接必要な費用に該当しますので、医療費控除の対象となります(所得税基本通達73-3)。

(3) 処方された医薬品の購入費用

 処方された医薬品の購入費用が、治療や療養に必要な医薬品の購入費用に該当する場合は、医療費控除の対象となります(所得税法73条2項、所得税法施行令207条1項2号)。

(4) 処方された医薬品の配送料

 医薬品の配送料については、治療又は療養に必要な医薬品の購入費用に該当しませんので、医療費控除の対象となりません。

寡婦・寡夫控除の要件と注意点

 寡婦控除は、女性の給与の支払を受ける人が一般の寡婦のときは27万円、特別の寡婦のときは35万円が控除されます。
 寡夫控除は、男性の給与の支払を受ける人が寡夫のときに27万円が控除されます。
 寡婦・寡夫控除は、その原因(離婚か死別か)や扶養親族の有無、給与の支払を受ける人の所得金額により適用要件と控除金額が異なります。

※2020年度(令和2年度)税制改正で寡婦(夫)控除が改正されました。改正後については、本ブログ記事「未婚のひとり親控除の新設と寡婦(夫)控除の改正」をご参照ください。

1. 寡婦控除の要件と控除額

 寡婦とは、女性の給与の支払を受ける人がその年12月31日の現況で、次の①、②のいずれかに該当する人です。

次のいずれかに該当する人で、扶養親族又は生計を一にする子のある人
イ.夫と死別した後、婚姻していない人
ロ.夫と離婚した後、婚姻していない人
ハ.夫の生死が明らかでない人
 なお、「生計を一にする子」とは、所得金額が38万円以下で、他の所得者の控除対象配偶者や扶養親族となっていない人です。

② 上記①に掲げる人のほか、次のいずれかに該当する人で、合計所得金額が500万円以下の人
イ.夫と死別した後婚姻していない人
ロ.夫の生死が明らかでない人

 具体的な要件と控除額は、下表を参照して下さい。

離婚・死別の区分 扶養親族などの有無の要件 所得金額の要件 寡婦の区分 控除額
離婚・死別(生死不明) 扶養親族である子がいる人 500万円以下 特別の寡婦 350,000円
同上 扶養親族又は生計を一にする子がいる人 要件なし 一般の寡婦 270,000円
死別(生死不明) 要件なし 500万円以下 一般の寡婦 270,000円

※ 離婚が原因で寡婦となった人は、扶養親族又は生計を一にする子がいないときは寡婦控除の要件に該当しません。

2. 寡夫控除の要件と控除額

 寡夫とは、男性の給与の支払を受ける人がその年12月31日の現況で、次の要件の①、②又は③のいずれかに該当する人で、生計を一にする子があり、かつ、合計所得金額が500万円以下の人です。

① 妻と死別した後、婚姻していない人
② 妻と離婚した後、婚姻していない人
③ 妻の生死が明らかでない人

 具体的な要件と控除額は、下表を参照して下さい。

離婚・死別の区分 扶養親族などの有無の要件 所得金額の要件 控除額
          離婚・死別             (生死不明) 生計を一にする子がいる人 500万円以下 270,000円

※ 寡夫の人は、生計を一にする子がいないときは寡夫控除の要件に該当しません。

3. 寡婦・寡夫控除の注意点

① 寡婦・寡夫控除は、16歳未満の年少扶養親族がいる人も適用できます。
未婚の母(シングルマザー)は寡婦控除の対象にはなりません。寡婦は婚姻してから死別、離婚、生死不明の状態となり、以後婚姻をしていない人が該当しますので、仮に認知された子を有していても、婚姻したことがない未婚の母(シングルマザー)は寡婦になりません。
未婚の母(シングルマザー)が婚姻しその後離婚した場合は、寡婦控除の対象になります。扶養親族である子は婚姻後に出生したいわゆる嫡出子に限定されていないので、当初シングルマザーであったとしても、税法どおり「夫と離婚してから婚姻をしていない者で扶養親族又は生計を一にする子を有する者」に該当する限り、寡婦控除の適用があります。
寡夫控除と配偶者控除を二重に受けられる場合があります。年の途中で死亡した者については、その扶養親族等の判定は死亡時の現況で行うこととなりますので、配偶者の死亡時にその配偶者が所得要件を満たしている場合には、配偶者控除の適用を受けることができます。また、その年12月31日の現況で、寡夫の要件に該当すれば寡夫控除も受けることができます。
離婚して元妻に引き取られた子の養育費を支払っている場合、所得が500万円以下であれば寡夫控除を受けることができます。離婚に伴う養育費の支払いが扶養義務の履行として行われている場合には、その子は「生計を一にしている親族」として扶養控除の対象とされ、さらに、元夫の合計所得金額が500万円以下であれば、寡夫控除の適用を受けることができます。一方、元妻は子と同居していても「夫と死別し、若しくは夫と離婚した後婚姻をしていない者又は夫の生死がわからない者で、扶養親族その他その者と生計を一にする親族を有する者」に該当しないため、寡婦控除を受けることはできません

国外居住親族に係る扶養控除等の適用

 最近はベトナムなどから外国人技能実習生を受け入れる企業が増えています。外国人技能実習生に支給する研修手当は、雇用契約に基づく労働の対価(給与)に該当しますので、所得税を源泉徴収しなければなりません。また、このような外国人技能実習生に対する給与は、年末調整の対象になります。
 今回は、年末調整の際に、外国人技能実習生が非居住者である親族(日本国外に居住する親族)に係る扶養控除等の適用を受けるための手続きについて紹介します。

1.扶養控除等申告書に必要事項を「親族関係書類」から記載する

 給与等の源泉徴収において、非居住者である親族に係る扶養控除、配偶者控除、障害者控除又は配偶者特別控除の適用を受ける居住者(外国人技能実習生)は、当該親族に係る「親族関係書類」を源泉徴収義務者に提出する扶養控除等申告書に添付し、又はその申告書等の提出の際に提示しなければなりません。

 「親族関係書類」とは、次の(1)又は(2)のいずれかの書類で、その非居住者がその居住者(外国人技能実習生)の親族であることを証するものをいいます。

(1) 戸籍の附票の写しその他の国又は地方公共団体が発行した書類及び国外居住親族の旅券(パスポート)の写し
(2) 外国政府又は外国の地方公共団体(以下、「外国政府等」といいます)が発行した書類(国外居住親族の氏名、生年月日及び住所又は居所の記載があるものに限ります)

 「親族関係書類」に関する注意事項は次のとおりです。

① 親族関係書類が外国語により作成されている場合には、訳文を添付等する必要があります。
② 親族関係書類は、国外居住親族の旅券の写しを除き、原本の提出又は提示が必要です。
③ 上記(2)の外国政府等が発行した書類は、例えば次のような書類が該当します。
イ.戸籍謄本
ロ.出生証明書
ハ.婚姻証明書
④ 外国政府等が発行した書類について、一つの書類に国外居住親族の氏名、生年月日及び住所又は居所のすべてが記載されていない場合は、複数の書類を組み合わせることにより氏名、生年月日及び住所又は居所を明らかにする必要があります。
⑤ 一つの書類だけでは国外居住親族が居住者(外国人技能実習生)の親族であることを証明できない場合には、複数の書類を組み合わせることにより、居住者(外国人技能実習生)の親族であることを明らかにする必要があります。
⑥ 16歳未満の非居住者である扶養親族(扶養控除の対象とならない扶養親族)であっても障害者控除を受ける場合には、親族関係書類及び送金関係書類の提出又は提示が必要です。

2.年末調整では国外居住親族への「送金関係書類」を確認する

 給与等の年末調整において、非居住者である親族に係る扶養控除、配偶者控除、障害者控除の適用を受ける居住者(外国人技能実習生)は、「送金関係書類」を源泉徴収義務者に提出する扶養控除等申告書に添付し、又はその申告書の提出の際に提示しなければなりません。

 非居住者である配偶者に係る配偶者特別控除の適用を受ける居住者(外国人技能実習生)は、「親族関係書類」及び「送金関係書類」を源泉徴収義務者に提出する配偶者特別控除申告書に添付し、又はその申告書の提出の際に提示しなければなりません。

 「送金関係書類」とは次の書類で、その居住者(外国人技能実習生)がその非居住者である親族の生活費又は教育費に充てるための支払を、必要の都度、各人に行ったことを明らかにするものをいいます。

(1) 金融機関の書類又はその写しで、その金融機関が行う為替取引により居住者から国外居住親族に支払をしたことを明らかにする書類
(2) クレジットカード発行会社の書類又はその写しで、国外居住親族がそのクレジットカード発行会社が交付したカードを提示してその国外居住親族が商品等を購入したこと等により、その商品等の購入等の代金に相当する額の金銭をその居住者(外国人技能実習生)から受領した、又は受領することとなることを明らかにする書類

 「送金関係書類」に関する注意事項は次のとおりです。

① 送金関係書類が外国語により作成されている場合には、訳文を添付等する必要があります。
② 送金関係書類については、原本に限らずその写しも送金関係書類として取り扱うことができます。
③ 送金関係書類は、具体的には次のような書類が該当します。
イ.外国送金依頼書の控え
 その年において送金をした外国送金依頼書の控え
ロ.クレジットカードの利用明細書
 クレジットカードの利用明細書とは、居住者(外国人技能実習生)がクレジットカード発行会社と契約を締結し、国外居住親族が使用するために発行されたクレジットカードで、その利用代金を居住者(外国人技能実習生)が支払うこととしているもの(いわゆる家族カード)に係る利用明細書をいいます。
 この場合、その利用明細書は家族カードの名義人となっている国外居住親族の送金関係書類として取り扱います。
 クレジットカードの利用明細書は、クレジットカードの利用日の年分の送金関係書類となります(クレジットカードの利用代金の支払(引落し)日の年分の送金関係書類とはなりません)。
 なお、現金での手渡しの場合は、国外居住親族に係る扶養控除等を適用できません。
④ 国外居住親族が複数いる場合には、送金関係書類は扶養控除等を適用する国外居住親族の各人ごとに必要となります
 例えば、国外に居住する配偶者と子がいる場合で、配偶者に対してまとめて送金している場合には、その送金に係る送金関係書類は、配偶者(送金の相手方)のみに対する送金関係書類として取り扱い、子の送金関係書類として取り扱うことはできません。
⑤ 送金関係書類については、扶養控除等を適用する年に送金等を行ったすべての書類を提出又は提示する必要があります。
 複数年分をまとめて送金している旨の申立てがあった場合でも、複数年にわたる送金関係書類として使用することはできません。
 同一の国外居住親族への送金等が年3回以上となる場合には、一定の事項を記載した明細書の提出と各国外居住親族のその年最初と最後に送金等をした際の送金関係書類の提出又は提示をすることにより、それ以外の送金関係書類の提出又は提示を省略することができます。この場合、提出又は提示を省略した送金関係書類については、居住者(外国人技能実習生)本人が保管する必要があります。
⑥ 送金額の基準は特に定められていませんが、送金の目的(生活費又は教育費に充てるためのものかどうか)を確認する必要があります。
⑦ 16歳未満の非居住者である扶養親族(扶養控除の対象とならない扶養親族)であっても障害者控除を受ける場合には、親族関係書類及び送金関係書類の提出又は提示が必要です。

扶養控除の要件等

1.控除対象扶養親族の要件

 2011年(平成23年)分から、年齢16歳未満の扶養親族(年少扶養親族)に対する扶養控除が廃止されました。これに伴い、扶養控除の対象者は年齢16歳以上の扶養親族(控除対象扶養親族)とされました。
 扶養控除は、給与の支払を受ける人が控除対象扶養親族を有する場合に適用されます。控除対象扶養親族とは、その年の12月31日に次の要件のすべてに当てはまる人です。

(1) 配偶者以外の年齢16歳以上の親族(6親等内の血族及び3親等内の姻族をいいます)又は都道府県知事から養育を委託された児童(里子)や市町村長から養護を委託された養護老人
(2) 生計を一にしている
(3) その年の合計所得金額が38万円以下
(4) 他の所得者の控除対象配偶者又は控除対象扶養親族となっていない
(5) 青色申告者の事業専従者として給与の支払を受けていない
(6) 白色申告者の事業専従者となっていない

※ 2018(平成30)年度税制改正により、2020(令和2)年分より「48万円以下」に引き上げられました。

2.扶養控除額

 扶養控除額は、下表のように一般の控除対象扶養親族は38万円、19歳から22歳までの特定扶養親族は63万円、70歳以上の老人扶養親族で同居している直系尊属(給与の支払を受ける人又はその配偶者の父母・祖父母等)は58万円、その他の老人扶養親族は48万円となります。

扶養控除の区分 扶養控除額
年少扶養親族(0歳~15歳) 0円
一般の控除対象扶養親族(16歳~18歳) 380,000円
特定扶養親族(19歳~22歳) 630,000円
一般の控除対象扶養親族(23歳~69歳) 380,000円
老人扶養親族(70歳~)で同居老親等以外の者 480,000円
老人扶養親族(70歳~)で同居老親等 580,000円

 一般の控除対象扶養親族は、扶養親族のうちその年の12月31日現在(年の中途で死亡した場合は死亡時)の年齢が16歳以上19歳未満の人又は年齢が23歳以上70歳未満の人です。
 特定扶養親族は、扶養親族のうちその年の12月31日現在(年の中途で死亡した場合は死亡時)の年齢が19歳以上23歳未満の人です。
 老人扶養親族は、扶養親族のうちその年の12月31日現在(年の中途で死亡した場合は死亡時)の年齢が70歳以上の人です。
 また、同居老親等は、老人扶養親族のうち、給与の支払を受ける人又は配偶者の直系尊属(父母、祖父母など)で給与の支払を受ける人又はその配偶者と常に同居している人をいいます。
 したがって、給与の支払を受ける人又はその配偶者の兄弟姉妹と伯叔父母(父母の兄弟姉妹)で70歳以上の人は直系尊属ではないため、同居老親等ではなくて老人扶養親族になります。

3.「生計を一にする」とは

 「生計を一にする」とは、必ずしも同じ家屋に同居していることをいうのではなく、それぞれ次によることとされています。

(1) 勤務、修学、療養などの都合で同居していない親族がいる人は、以下のときにはこの親族は生計を一にするものとします。
 ① 同居をしていない親族が、その親族の休日や休暇のときには同居をしている
 ② 同居をしていない親族に、生活費、学資金、療養費などを常に送金している
(2) 親族が同じ家屋に同居しているときには、明らかに独立した生活をしている場合以外は、その親族は生計を一にするものとします。

4.入院している人の「同居老親等」の判定

 同居老親等の判定では、70歳以上老人扶養親族の人が給与の支払を受ける人又はその配偶者と常に同居していることが必要になります。
 しかし、老人扶養親族の人が、病気の入院などのために一時的に別居している場合があります。この場合、病気の治療のための入院であれば同居老親等に該当することになります。
 一方、老人扶養親族で老人ホームや介護老人福祉施設などに長期間入所している人は、その老人ホームが居所となり同居老親等には該当しません

5.年の中途で死亡又は出国した場合

 給与の支払を受ける人の控除対象扶養親族は、その年の12月31日現在で判定することになっています。
 したがって、その年の12月31日において、同じ人を対象として複数の人が重ねて扶養控除を受けることはできません
 しかし、給与の支払を受ける人が年の途中で死亡又は出国した場合は、その死亡又は出国の時により判定することになります。
 このため、年の途中で死亡した人の控除対象扶養親族として申告した人であっても、その後その年中において他の人の控除対象扶養親族として申告することができます
 例えば、給与所得者の父がその年中に死亡した場合、その年の合計所得金額が38万円以下(2020(令和2)年分以後は48万円以下)の子は父の控除対象扶養親族となります。
 その後、給与所得者の母と生計を一にしている場合は、母の年末調整においても控除対象扶養親族となることができます。

配偶者控除が適用される給与収入限度額が150万円に引き上げられた?

 2017年度(平成29年度)税制改正で、就業調整を意識せずにすむような環境づくりを目指して、配偶者控除及び配偶者特別控除の見直しが行われました。この改正は、2018年分(平成30年分)の所得税から適用されます。

1.給与収入限度額はあくまでも103万円

 配偶者控除の改正点は、配偶者控除を受けることができる納税者本人に所得制限が設けられたという点のみであり、当時の一部報道等に見受けられた「配偶者控除の適用を受けられる給与収入限度額が150万円に引き上げられた」とされる点は、配偶者特別控除においての改正点です。
 つまり、配偶者控除の適用を受けられる配偶者の給与収入限度額はあくまでも103万円以下であり、38万円の配偶者特別控除が適用される給与収入限度額が150万円以下に引き上げられたものです(ただし、納税者本人の給与収入が1,120万円以下であることが必要です)。

 以下で、配偶者控除と配偶者特別控除の改正点について述べていきます。

2.配偶者控除の改正点

 配偶者控除の額は、改正前は配偶者控除の適用を受ける納税者本人の所得の多寡にかかわらず38万円でしたが、改正後は納税者本人の合計所得金額に応じ、次のようになりました。

(1) 納税者の合計所得金額が900万円以下・・・控除対象配偶者38万円、老人控除対象配偶者48万円
(2) 納税者の合計所得金額が900万円超950万円以下・・・控除対象配偶者26万円、老人控除対象配偶者32万円
(3) 納税者の合計所得金額が950万円超1,000万円以下・・・控除対象配偶者13万円、老人控除対象配偶者16万円
(4) 納税者の合計所得金額が1,000万円超・・・適用なし

 なお、合計所得金額900万円は給与収入では1,120万円に、950万円は1,170万円に、1,000万円は1,220万円になります。
 また、この改正により、納税者と生計を一にする配偶者で合計所得金額が38万円以下の配偶者は「同一生計配偶者」と定義され、同一生計配偶者のうち合計所得金額が1,000万円以下である納税者の配偶者は「控除対象配偶者」と定義されました。

3.配偶者特別控除の改正点

 2017年度(平成29年度)税制改正で、配偶者特別控除の対象となる配偶者の合計所得金額の範囲が38万円超(給与収入で103万円超)から123万円以下(給与収入で201万円以下)とされ、配偶者特別控除額を納税者及び配偶者の合計所得金額に応じて、次のとおりとされました。

(1) 納税者の合計所得金額が900万円以下
① 配偶者の合計所得金額が38万円超85万円以下・・・38万円
② 配偶者の合計所得金額が85万円超90万円以下・・・36万円
③ 配偶者の合計所得金額が90万円超95万円以下・・・31万円
④ 配偶者の合計所得金額が95万円超100万円以下・・・26万円
⑤ 配偶者の合計所得金額が100万円超105万円以下・・・21万円
⑥ 配偶者の合計所得金額が105万円超110万円以下・・・16万円
⑦ 配偶者の合計所得金額が110万円超115万円以下・・・11万円
⑧ 配偶者の合計所得金額が115万円超120万円以下・・・6万円
⑨ 配偶者の合計所得金額が120万円超123万円以下・・・3万円
⑩ 配偶者の合計所得金額が123万円超・・・適用なし

(2) 納税者の合計所得金額が900万円超950万円以下
① 配偶者の合計所得金額が38万円超85万円以下・・・26万円
② 配偶者の合計所得金額が85万円超90万円以下・・・24万円
③ 配偶者の合計所得金額が90万円超95万円以下・・・21万円
④ 配偶者の合計所得金額が95万円超100万円以下・・・18万円
⑤ 配偶者の合計所得金額が100万円超105万円以下・・・14万円
⑥ 配偶者の合計所得金額が105万円超110万円以下・・・11万円
⑦ 配偶者の合計所得金額が110万円超115万円以下・・・8万円
⑧ 配偶者の合計所得金額が115万円超120万円以下・・・4万円
⑨ 配偶者の合計所得金額が120万円超123万円以下・・・2万円
⑩ 配偶者の合計所得金額が123万円超・・・適用なし

(3) 納税者の合計所得金額が950万円超1,000万円以下
① 配偶者の合計所得金額が38万円超85万円以下・・・13万円
② 配偶者の合計所得金額が85万円超90万円以下・・・12万円
③ 配偶者の合計所得金額が90万円超95万円以下・・・11万円
④ 配偶者の合計所得金額が95万円超100万円以下・・・9万円
⑤ 配偶者の合計所得金額が100万円超105万円以下・・・7万円
⑥ 配偶者の合計所得金額が105万円超110万円以下・・・6万円
⑦ 配偶者の合計所得金額が110万円超115万円以下・・・4万円
⑧ 配偶者の合計所得金額が115万円超120万円以下・・・2万円
⑨ 配偶者の合計所得金額が120万円超123万円以下・・・1万円
⑩ 配偶者の合計所得金額が123万円超・・・適用なし

 なお、合計所得金額900万円は給与収入では1,120万円に、950万円は1,170万円に、1,000万円は1,220万円になります。