事前確定届出給与(複数回支給)を届出通りに支給しなかった場合

 事前確定届出給与として当該事業年度の損金の額に算入される給与は、所定の時期に確定した額の金銭等を支給する旨の定めに基づいて支給するもの、すなわち、支給時期、支給金額が事前に確定し、実際にもその定めのとおりに支給される給与に限られます。
 したがって、所轄税務署長へ届け出た支給額と実際の支給額が異なる場合には、事前確定届出給与に該当しないこととなり、損金不算入となります。
 では、複数回支給する事前確定届出給与について、ある回は届出通りの支給をし、ある回は届出通りに支給しなかった場合はどうなるのでしょうか?
 届出通りに支給した給与だけが損金算入されるのでしょうか、それとも届出通りに支給した給与も含めて複数回支給した給与のすべてが損金不算入とされるのでしょうか?
 今回は、この点について確認します。

※ 事前確定届出給与に関する基本的な注意点については、本ブログ記事「事前確定届出給与の提出期限と支給額の注意点」をご参照ください。

1.異なる事業年度に複数回支給する場合

 国税庁ホームページの質疑応答事例「定めどおりに支給されたかどうかの判定(事前確定届出給与)」では、事前確定届出給与に該当するか否かの判定ついて、次のように記載されています。

 一般的に、役員給与は定時株主総会から次の定時株主総会までの間の職務執行の対価であると解されますので、その支給が複数回にわたる場合であっても、定めどおりに支給されたかどうかは当該職務執行の期間を一つの単位として判定すべきであると考えられます。
 したがって、複数回の支給がある場合には、原則として、その職務執行期間に係る当該事業年度及び翌事業年度における支給について、その全ての支給が定めどおりに行われたかどうかにより、事前確定届出給与に該当するかどうかを判定することとなります(下線筆者)。


 これは、国税庁が示した原則的な判定基準といえますが、この判定基準で以下の事例を確認します。

(1) 全額が損金算入不可となる場合

《事例1》3月決算法人が、令和3年5月26日から令和4年5月25日までを職務執行期間とする役員に対し、令和3年12月及び令和4年5月にそれぞれ200万円の給与を支給することを定めて所轄税務署長に届け出た場合において、令和3年12月には100万円しか支給せず、令和4年5月には満額の200万円を支給した。

 この場合、原則的な基準で判定すると、1回目(令和3年12月)の支給が届出通りではなかったので、その職務執行期間に係る支給の全てが定めどおりに行われたとはいえないため、届出通りに支給した2回目(令和4年5月)も含めて300万円全額が事前確定届出給与には該当せず、損金不算入となります。

 ただし、国税庁ホームページの質疑応答事例では、次のような例外的な取扱いも掲載されています。

(2) 一部が損金算入可となる場合

《事例2》3月決算法人が、令和3年5月26日から令和4年5月25日までを職務執行期間とする役員に対し、令和3年12月及び令和4年5月にそれぞれ200万円の給与を支給することを定めて所轄税務署長に届け出た場合において、令和3年12月には満額の200万円を支給したが、令和4年5月には100万円しか支給しなかった。

 結論を先に述べると、1回目(令和3年12月)の200万円は損金算入可、2回目(令和4年5月)の100万円は損金算入不可になります。

 《事例1》と異なるのは、《事例2》は、1回目(令和3年12月)は届出通りの支給、2回目(令和4年5月)は届出通りの支給ではないという点です。
 つまり、事業年度内(令和4年3月期)に《事例1》は届出通りの支給が行われていないのに対して、《事例2》は届出通りの支給が行われていることです。
 《事例2》のように、3月決算法人が当該事業年度(令和4年3月期)中は定めどおりに支給したものの、翌事業年度(令和5年3月期)において定めどおりに支給しなかった場合は、その支給しなかったことにより直前の事業年度(令和4年3月期)の課税所得に影響を与えるようなものではないことから、翌事業年度(令和5年3月期)に支給した給与の額のみについて損金不算入と取り扱っても差し支えないものとされています。

 《事例1》《事例2》については以上ですが、ここで、新たな疑問が生じます。国税庁ホームページの質疑応答事例で言及されている《事例1》《事例2》は、ともに異なる事業年度に複数回支給する場合です。
 もしこれが、同一事業年度内に複数回支給されるとしたらどうなるでしょうか?例えば、次のような事例の場合です。

2.同一事業年度に複数回支給する場合

《事例3》3月決算法人が、令和3年5月26日から令和4年5月25日までを職務執行期間とする役員に対し、令和3年12月及び令和4年3月にそれぞれ200万円の給与を支給することを定めて所轄税務署長に届け出た場合において、令和3年12月には満額の200万円を支給したが、令和4年3月には100万円しか支給しなかった。

 この場合は、届出通りに支給した1回目(令和3年12月)の200万円も含めて300万円全額が事前確定届出給与には該当せず、損金不算入となります。
 原則的な判定として、2回目(令和4年3月)の支給が届出通りではなかったので、その職務執行期間に係る支給の全てが定めどおりに行われたとはいえないため、損金不算入となります。
 また、例外的な判定を考慮したとしても、届出通りに支給しなかったことにより、事業年度(令和4年3月期)の課税所得に影響を与えるものであることから、損金不算入となります。

新型コロナの影響で家賃を減額しても寄附金にはならない

 新型コロナウイルス感染症拡大に伴う休業の協力要請等に応じた中小企業や個人事業主の中には、賃貸している店舗や事務所等の家賃の支払いに困っているところも少なくないと思います。これらの中小企業・個人事業主から、家賃の減額を求められた場合、家賃の減額に応じる賃貸物件のオーナーもいるようです。
 その際に懸念されるのが、家賃の減額分が法人税法上の寄附金に該当しないかということです。
 この点に関して、国税庁は、コロナウイルスの影響で賃貸物件のオーナーが家賃の減額を行った場合、取引先等の営業継続や雇用確保など復旧支援を目的としているなど一定の条件を満たせば、減額分は寄附金に該当しないとしています。
 今回は、新型コロナウイルスの影響による家賃の減額の税務上の取扱いを確認します。

1.寄附金の何が問題なのか?

 賃貸物件のオーナーである法人が、賃貸借契約を締結している取引先等に対して家賃(賃料)を減額した場合、その家賃を減額したことに合理的な理由がなければ、減額前の家賃と減額後の家賃との差額は、原則として相手方に対して寄附金を支出したものとして税務上取り扱われます。

 例えば、5か月の間、月額10万円の家賃を6万円に減額した場合、会計上は次のように仕訳したとします。

借方 金額 貸方 金額
現金預金 30万円 受取家賃 50万円
雑損失 20万円    

 この雑損失20万円が全額損金算入されれば、会計上の利益も税務上の所得金額も30万円となるため、問題はありません。
 しかし、家賃の減額に合理的な理由がなければ、雑損失20万円は税務上は寄附金として取り扱われます。

 では、寄附金となった場合、何が問題なのでしょうか?

 基本的に一般の寄附金は、以下の計算式が示すように、大部分が経費(損金)になりません。

損金算入限度額={所得金額×(2.5/100)+期末の資本金等の額×(当期の月数/12)×(2.5/1,000)}×1/4

 例えば、資本金を1,000万円とすると、寄附金20万円のうち損金算入できるのは8,125円だけです。そうすると会計上の利益は30万円であるのに対し、税務上の益金は49.1875万円となってしまいます。オーナーの立場で考えると、実際の家賃収入は30万円なのに課税所得が49.1875万円となり、減額前とあまり変わらない法人税を支払うことになります。

2.寄附金に該当しないための条件

 家賃の減額に合理的な理由がない場合は、上記のように減額分は寄附金となりますが、今般の新型コロナウイルスの影響により家賃を減額した場合は、以下の条件を満たせば、実質的には取引先等との取引条件の変更と考えられるとして、その減額分は寄附金には該当しないこととされました。

(1) 取引先等において、新型コロナウイルス感染症に関連して収入が減少し、事業継続が困難となったこと、又は困難となるおそれが明らかであること

(2) 不動産貸付業者が行う賃料の減額が、取引先等の復旧支援(営業継続や雇用確保など)を目的としたものであり、そのことが書面などにより確認できること

(3) 賃料の減額が、取引先等において被害が生じた後、相当の期間(通常の営業活動を再開するための復旧過程にある期間をいう)内に行われたものであること

 また、取引先等に対して既に生じた賃料の減免(債権の免除等)を行う場合についても、同様に取り扱われます。
 なお、賃料の減免を受けた賃借人(事業者)においては、減免相当額の受贈益と既に費用計上した支払賃料が同額となるため、結果として課税所得が生じることはありません。
 ちなみに、賃貸物件のオーナーが法人ではなく個人事業主の場合は、寄附金という論点はなく、家賃収入が減少するだけです。

事前確定届出給与の届出期限と支給額の注意点

 従来は臨時的ないわゆる役員賞与については損金算入が認められていませんでしたが、事前確定届出給与の制度を利用すれば、臨時的な給与(賞与)であっても一定の要件を満たせば損金算入が可能です。
 事前確定届出給与は、その役員の職務につき、所定の時期に確定額を支給する旨の定めに基づいて支給する給与で、一定の日までに納税地の所轄税務署長に対して、あらかじめ確定している支給時期、支給金額のほか必要事項を記載した届出をしている場合の当該給与をいいます。 

1.事前確定届出給与に関する届出書の提出期限

 この制度を利用するには、「事前確定届出給与に関する届出書」を納税地の所轄税務署長に提出する必要があるのですが、その提出期限に注意しなければなりません。
 以下では、3月決算法人が2019年(平成31年)5月27日に定時株主総会を開催した場合について、届出書の記載文言の内容を確認しながら、提出期限がいつになるかを述べていきます。

①「事前確定届出給与に係る株主総会等の決議をした日及びその決議をした機関等」は、「株主総会」や「取締役会」など事前確定届出給与に関する決議をした機関名と決議日を記入します。
 今回の例では、「決議をした日」が2019年(平成31年)5月27日、「決議をした機関等」が株主総会となります。

②「事前確定届出給与に係る職務の執行を開始する日」は、一般的に役員給与は定時株主総会から次の定時株主総会までの間の職務執行の対価であると考えられるため、定時株主総会開催日を記入します。
 今回の例では、2019年(平成31年)5月27日となります。

③「届出期限」欄の「①又は②に記載した日のうちいずれか早い日から1月を経過する日」は、①又は②の翌日を起算日として暦に従って計算します。
 今回の例では、①②ともに5月27日ですので、その翌日の5月28日が起算日となり6月27日が「1月を経過する日」になります。

④「届出期限」欄の「会計期間4月経過日等」は、会計期間開始の日から4月を経過する日を記入します。
 今回の例では、会計期間開始日が2019年(平成31年)4月1日ですので2019年(平成31年)7月31日となります。

⑤ 以上より、届出期限は③と④のうちいずれか早い日となりますので、今回の例では、2019年(平成31年)6月27日が届出期限となります。

2.支給額に超過額又は未払額が発生した場合

 事前確定届出給与は、届出通りの日に届出通りの金額を支給しなければなりません。
 この届出支給金額よりも多く支給した場合には、超過部分だけではなく、届出支給金額部分も含めた支給金額全額が損金不算入となります。
  また、届出支給金額よりも少なく支給した場合にも、当該支給金額全額が損金不算入となります。 未払部分をその後一括して又は数回に分割して支給し、当該支給金額との合計が届出支給金額と一致したとしても、その全額が損金不算入となります。
 事前確定届出給与は、支給時期及び支給金額が事前に確定していることが要件となっているため、超過額や未払額が発生するということは事前に確定していなかったということであり、したがって事前確定届出給与には該当せず、損金不算入となります。