建設業を営むA社から、次のような問い合わせがありました。
「請負契約の金額を減額することになり覚書を交わすことになったが、この覚書に印紙を貼らなければならないか?」
すでに成立している契約の内容を変更する場合には、A社のように覚書や念書を作成して後々のトラブルを未然に防ぐ必要があります。その際、印紙を貼るべきか、また、貼るならいくらの印紙を貼らなければならないか、という疑問が生じます。
そこで、このような事例における印紙の取扱いについて述べていきます。
1.印紙税法上の契約書とは
今回のように「覚書」や「念書」等の表題を用いて原契約書の内容を変更する文書を作成する場合がありますが、これらの文書は印紙税法上の「契約書」にあたるのでしょうか?
印紙税法上の契約書とは、契約の成立、更改、内容の変更又は補充の事実を証明する目的で作成する文書をいいます。したがって、文書のタイトルが「覚書」や「念書」となっていても、そこに内容の変更(請負契約金額の変更)に関する事項が書かれているのであれば、印紙税法上は「契約書」と判断されます。
収入印紙が必要かどうかは、あくまでも文書の内容によって判断されますので、タイトルは関係ないということです。
2.変更契約書に印紙を貼るのはどんな場合?
A社が今回作成する覚書は、印紙税法上の契約書(以下、「変更契約書」といいます)にあたります。では、変更契約書であれば必ず印紙を貼らなければならないのでしょうか?
印紙を貼るべき文書を課税文書といいますが、変更契約書が課税文書に該当するかどうかは、その変更契約書に「重要な事項」が含まれているかどうかにより判定します。
つまり、原契約書により証されるべき事項のうち、重要な事項を変更するために作成した変更契約書は課税文書となり、印紙を貼る必要があります。重要な事項を含まない場合は課税文書に該当しませんので、印紙を貼る必要はありません。
3.重要な事項とは
請負に関する契約書(第2号文書)の変更についての重要な事項は以下のとおりです。
(1) 請負の内容
(2) 請負の期日または期限
(3) 契約金額(消費税額を含む)
(4) 取扱数量
(5) 単価
(6) 契約金額の支払方法又は支払期日
(7) 割戻金等の計算方法又は支払方法
(8) 契約期間
(9) 契約に付される停止条件又は解除条件
(10) 債務不履行の場合の損害賠償の方法
したがって、A社が作成する覚書(請負契約金額の減額)は上記(3)の重要な事項を含むため、印紙を貼らなければなりません。
なお、第2号文書以外の文書に関する「重要な事項」については、本ブログ記事「変更契約書における『重要な事項』の変更とは?」をご参照ください。
4.記載金額を変更する場合の印紙
では、A社はいくらの印紙を貼ればいいのでしょうか?これについては、変更前の契約金額を記載した契約書が作成されていること、及び変更契約書において変更金額が明らかであるか否かによって、次のようなルールがあります。
(1) 変更前の契約金額を記載した契約書が作成されていることが明らかな場合
①変更金額が明らかである場合
変更金額が明らかで増額変更の場合は、増額した金額が記載金額になり、その増額した金額に応じた印紙を貼ります。例えば、次のような変更契約書を作成した場合です。
変更契約書
注文者甲と請負者Aは、令和元年11月25日に締結した建築工事請負契約について、以下のように変更する。
既定金額 5,000万円 変更金額 6,000万円 増額 1,000万円
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この変更契約書には、変更前契約書の締結年月日(令和元年11月25日)が記載されていますので、変更前の契約金額を記載した契約書が作成されていることが明らかであり、かつ、変更金額(6,000万円)の記載があることから変更金額も明らかです。したがって、増額した金額(1,000万円)が記載金額となり、貼る印紙は5,000円となります。
また、変更金額が明らかで減額変更の場合は、記載金額なしとなり、契約金額の記載のないもの(第2号文書)として200円の印紙を貼ります。例えば、次のような変更契約書を作成した場合です。
変更契約書
注文者甲と請負者Aは、令和元年11月25日に締結した建築工事請負契約について、以下のように変更する。
既定金額 5,000万円 変更金額 4,000万円 減額 1,000万円
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この変更契約書には、変更前契約書の締結年月日(令和元年11月25日)が記載されていますので、変更前の契約金額を記載した契約書が作成されていることが明らかであり、かつ、変更金額(4,000万円)の記載があることから変更金額も明らかです。したがって、減額(1,000万円)した場合は記載金額なしとなり、貼る印紙は200円となります。
A社はこのケースに該当しますので、A社の貼るべき印紙は200円になります。
②変更金額が明らかでない場合
変更金額が明らかでない場合は、変更後の契約金額が記載金額となり、その変更後の金額に応じた印紙を貼ります。例えば、次のような変更契約書を作成した場合です。
変更契約書
注文者甲と請負者Aは、令和元年11月25日に締結した建築工事請負契約について、仕様変更に伴い契約金額を6,000万円に変更する。
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この変更契約書には、仕様を変更したことに伴い契約金額を6,000万円に変更したことが記載されています。
先の2つの例のように、原契約書に記載された契約金額がわかれば6,000万円との差額がこの変更契約書の記載金額となります。しかし、この契約書からは変更前の金額がわからないため、増減額が明らかではありません。したがって、この変更契約書の記載金額は6,000万円と判断され、貼る印紙は30,000円となります。
(2) 変更前の契約金額を記載した契約書が作成されていることが明らかでない場合
①変更金額のみが記載されている場合
増額・減額を問わず、その変更金額が記載金額となります。
②契約金額の記載がある場合
変更後の契約金額が記載金額となります。