役員に金銭を貸付けた場合の所得税法上の問題

 会社が役員に対して金銭を貸し付けた場合には、収受すべき利息の額が適正か否かが問題となります。
 その貸付けが通常の利率よりも高い利率で行われた場合は、特殊なケースを除き、課税上の問題が生じることはありません。 

1.役員に対する金銭の貸付けの適正利率は?

 しかし、無償又は通常の利率よりも低い利率で貸付けが行われた場合には、通常取得すべき利率により計算した利息の額と実際に収受した利息の額との差額に相当する金額は、その役員に供与した経済的利益(役員に対する給与)となります(法人税基本通達9-2-9(7))。 

 では、ここでいう「通常の利率」とはいかなるものでしょうか? 所得税基本通達36-49では、「利息相当額の評価」として次のように定めています。

(1)その金銭を法人が他から借り入れて貸し付けたものであることが明らかな場合には、その借入金の利率によります。
(2)その他の場合は、貸付けを行った日の属する年の租税特別措置法93条2項に規定する特例基準割合による利率によります。 

 特例基準割合は、2000年(平成12年)1月1日から2013年(平成25年)12月31日までは、貸付けを行った日の属する年の前年の11月30日の日本銀行が定める基準割引率(従来の公定歩合)に年4%の割合を加えたものです。
 2014年(平成26年)1月1日以降は、各年の前々年の10月から前年9月までの各月における銀行の新規の短期貸出約定平均金利の合計を12で除して得た割合として各年の前年の12月15日までに財務大臣が告示する割合に年1%の割合を加えたものです。
 具体的には、次のようになります。
①平成12年1月1日~平成13年12月31日・・・4.5%
②平成14年1月1日~平成18年12月31日・・・4.1%
③平成19年1月1日~平成19年12月31日・・・4.4%
④平成20年1月1日~平成20年12月31日・・・4.7%
⑤平成21年1月1日~平成21年12月31日・・・4.5%
⑥平成22年1月1日~平成25年12月31日・・・4.3%
⑦平成26年1月1日~平成26年12月31日・・・1.9%
⑧平成27年1月1日~平成27年12月31日・・・1.8%
⑨平成28年1月1日~平成28年12月31日・・・1.8%
⑩平成29年1月1日~平成29年12月31日・・・1.7%
⑪平成30年1月1日~平成30年12月31日・・・1.6%
⑫平成31年1月1日~平成31年12月31日・・・1.6%
※平成31年は2019年

2.役員に対する無利息又は低利率による貸付けが給与課税されない場合

 上述したように、会社が役員に対して金銭を無償又は通常の利率よりも低い利率で貸し付けた場合には、通常取得すべき利率により計算した利息の額と実際収受した利息の額との差額に相当する金額は、その役員に供与した経済的利益となり給与課税されます。
 しかし、課税されない場合が所得税基本通達36-28に「課税しない経済的利益・・・金銭の無利息貸付け等」として定められています。
 これは、金銭の無利息又は低利率による貸付けにより受ける経済的利益であっても、次の(1)から(3)までのいずれかに該当する場合には、給与として課税しなくても差し支えないというものです。

(1)災害や病気などで臨時に多額の生活資金が必要となった役員に、その資金に充てるため、合理的と認められる金額や返済期間で金銭を貸し付ける場合
(2)役員に貸し付けた金額につき、会社における借入金の平均調達金利(例えば、会社が貸付けを行った日の前事業年度中における借入金の平均残高に占める前事業年度中に支払うべき利息の額の割合など合理的に計算された利率)など合理的と認められる貸付利率を定め、この利率によって役員に対して金銭を貸し付ける場合
(3)(1)及び(2)の貸付金以外の貸付金の場合で、上記1の利率により計算した利息の額と実際に支払う利息の額との差額が1年間で5,000円(法人の事業年度が1年に満たないときは、5,000円にその事業年度の月数(1月未満の端数は1月に切り上げた月数)を乗じて12で除して計算した金額)以下である場合

3.まとめ

 今回の記事をまとめると、会社が役員に金銭を貸し付けた場合の利率の基準は以下のようになります。

(1)会社が他から借り入れて役員に貸し付けた場合は、その借入金の利率
(2)その他の場合は、特例基準割合による利率と、借入金の平均調達金利など合理的と認められる利率のいずれか低い利率

※ 平均調達金利の計算方法については、本ブログ記事「平均調達金利と貸付金利息の計算方法」をご参照ください。