賃上げ促進税制は、青色申告書を提出している中小企業者等が、前年度より給与等の支給額を一定の要件を満たした上で増加させた場合、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度です(関連記事:「中小企業者等の賃上げ促進税制《令和4年4月1日~令和6年3月31日開始事業年度》」)。
従来の所得拡大促進税制よりも適用要件が簡素化されたとはいえ、判断に迷うケースもあります。
例えば、決算期の変更や前事業年度が設立初年度である場合など、前事業年度と適用事業年度で月数が異なるケースです。
今回は、前事業年度の月数と適用事業年度の月数が異なる場合の調整計算について確認します。
1.前事業年度の月数と適用事業年度の月数が異なる場合
前述したように、決算期の変更や前事業年度が設立初年度である場合など、前事業年度と適用事業年度で月数が異なる場合は、「雇用者給与等支給額・比較雇用者給与等支給額」や「教育訓練費の額・比較教育訓練費の額」について調整の必要があります。
この調整は、比較雇用者給与等支給額や比較教育訓練費の額において行います。具体的な計算方法は以下のとおりです(比較雇用者給与等支給額の調整のみ確認します)。
(1) 前事業年度の月数が適用事業年度の月数に満たない場合(前事業年度が6月以上の場合)
次のとおり、前事業年度の雇用者給与等支給額を、適用事業年度の月数分に合わせて増加させる形で調整します。
比較雇用者給与等支給額= 前事業年度の雇用者給与等支給額×適用事業年度の月数÷前事業年度の月数 |
例えば、前事業年度 が令和4年10月~令和5年3月(6か月決算)で、適用事業年度が令和5年4月~令和6年3月(12か月決算)の場合は、比較雇用者給与等支給額=前事業年度の雇用者給与等支給額×12÷6となります。
(2) 前事業年度の月数が適用事業年度の月数に満たない場合(前事業年度が6月に満たない場合)
次のとおり、適用事業年度の開始の日の前日から過去1年(適用事業年度が1年に満たない場合には適用事業年度の期間)以内に終了した各事業年度に係る雇用者給与等支給額の合計額を、適用事業年度の月数分に合わせて減少させる形で調整します。
比較雇用者給与等支給額= 適用事業年度の開始の日の前日から過去1年(適用事業年度が1年に満たない場合には適用事業年度の期間)以内に終了した各事業年度に係る雇用者給与等支給額の合計額×適用事業年度の月数÷適用事業年度の開始の日の前日から過去1年(適用事業年度が1年に満たない場合には適用事業年度の期間)以内に終了した各事業年度の月数の合計 |
例えば、前々事業年度が令和4年1月~令和4年12月(12か月決算)で、前事業年度が令和5年1月~令和5年3月(3か月決算)、 適用事業年度が令和5年4月~令和6年3月(12か月決算)の場合は、比較雇用者給与等支給額=(前々事業年度+前事業年度の雇用者給与等支給額)×12÷(12+3)となります。
(3) 前事業年度の月数が適用事業年度の月数を超える場合
次のとおり、前事業年度の雇用者給与等支給額を、適用事業年度の月数分に合わせて減少させる形で調整します。
比較雇用者給与等支給額= 前事業年度の雇用者給与等支給額 ×適用事業年度の月数÷前事業年度の月数 |
例えば、前事業年度が令和4年4月~令和5年3月(12か月決算)で、適用事業年度が令和5年4月~令和5年9月(6か月決算)の場合は、比較雇用者給与等支給額=前事業年度の雇用者給与等支給額×6÷12となります。
2.事業年度に1月未満の端数が生じる場合
前事業年度と適用事業年度で月数が異なる場合の比較雇用者給与等支給額の調整計算は、上記1のとおりですが、いずれのケースも事業年度に1月未満の端数が生じていないことを前提としています。
事業年度が令和5年10月1日~令和6年3月31日のような場合は、事業年度の月数を6か月とすることに疑問の余地はありません。
では、事業年度が令和5年10月11日~令和6年3月31日のような場合は、事業年度の月数は5か月となるのでしょうか?それとも6か月となるのでしょうか?
結論を先に述べると、答えは6か月となります。
事業年度が令和5年10月11日~令和6年3月31日の場合の期間は5か月と21日ですが、10月に生じたこの21日という1月未満の端数については、賃上げ促進税制では1月とカウントします。
根拠は、次の租税特別措置法施行令第27条の12の5(給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)第22項にあります。
22 第7項、第9項、第12項から第15項まで及び第18項から前項までの月数は、暦に従つて計算し、1月に満たない端数を生じたときは、これを1月とする。
上記のとおり、賃上げ促進税制においては、1月未満の端数が生じたときは、これを1月とします。