令和7年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の書き方と記載例

 年末調整では、勤務先に扶養控除等申告書をはじめとする各種申告書を提出することで、いろいろな控除を受けることができます。
 
 令和7年分扶養控除等申告書は今年(令和7年)の1月から支払われる給与の計算や年末調整に使用するため、勤務先に提出します※1

 令和7年分扶養控除等申告書は昨年(令和6年)の年末調整時に提出済み、途中入社の方は入社時に提出するものと思われますが、今年(令和7年)の年末調整時に異動事項(結婚や出産により扶養者が増えた等)の有無を確認するため、勤務先より再度配布されます。

 令和7年分の年末調整は、令和7年度税制改正※2で給与所得控除や基礎控除の引き上げ、特定親族特別控除の創設等が行われたことにより、申告書の様式や所得の計算方法等が変わりましたので、例年に比べて複雑になると思われます。

 令和7年分扶養控除等申告書については、様式の改定は予定されていませんが、税制改正の影響で記入にあたっては注意を要する箇所もあります。
 以下で、令和7年分扶養控除等申告書の書き方について確認します(税制改正部分は赤文字で表示しています)。

※1 令和7年1月1日以後に支給される給与等について提出する「令和7年分給与所得者の扶養控除等申告書」及び「令和7年分従たる給与についての扶養控除等申告書」に「簡易な申告書」が創設されました。詳細については、「簡易な扶養控除等申告書とは?」をご参照ください。

※2 令和7年度税制改正については、「令和7年度税制改正で年収の壁はこのように変わった!」をご参照ください。

1.氏名、住所などの記入

(1) 所轄税務署長等
 給与の支払者(勤務先)の所在地等の所轄税務署長とあなた(給与所得者)の住所地等の市区町村長を記載します。

(2) 給与の支払者の法人(個人)番号
 この申告書を受理した給与の支払者が、給与の支払者の個人番号又は法人番号を付記します。給与の支払者が法人の場合は、給与の支払者の法人番号をあらかじめ記載(印字)して、給与所得者に配付しても差し支えありません。

(3) あなたの個人番号
 あなたの個人番号を記載する必要がありますが、一定の要件の下、個人番号の記載を要しない場合がありますので、給与の支払者に確認してください。

※一定の要件については、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」のマイナンバー記載を省略する方法」をご参照ください。

(4) あなたの住所又は居所
 令和7年分は、令和7年12月31日時点の住所を記載します(給与の支払者の指示に従ってください)。令和8年分は、令和8年1月1日時点の住所を記載します。

(5) 配偶者の有無
 ここでいう配偶者とは、一定の要件を満たす必要のある源泉控除対象配偶者のことではありません。単に配偶者がいれば「有」に○、いなければ「無」に○を付けます。

(6) 従たる給与についての扶養控除等申告書の提出
 2か所以上から給与の支払を受けている人が、他の給与の支払者に「従たる給与についての扶養控除等申告書」を提出している場合に◯を付けます。

※ 従たる給与についての扶養控除等申告書については、「『従たる給与についての扶養控除等申告書』とは?」をご参照ください。

2.源泉控除対象配偶者、控除対象扶養親族の記入

(1) 源泉控除対象配偶者
 配偶者が「源泉控除対象配偶者」となるには、以下の要件を満たす必要があります。

① あなたの所得金額※1が900万円以下である(給与収入のみならば年収1,095万円以下)
② 配偶者の所得金額※1が95万円以下である(給与収入のみならば年収160万円以下※2
③ あなたと生計を一にする配偶者である※3
④ 青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者のいずれにも該当しない

 上記4要件を満たす場合は、配偶者の情報を記入します。なお、年末調整において配偶者(特別)控除の適用を受けるには、この欄の記載の有無に関わらず「給与所得者の配偶者控除等申告書」の提出が必要です。

※1 ここでいう所得金額は合計所得金額です(以下、同じ)。合計所得金額については、「『合計所得金額』『総所得金額』『総所得金額等』の違いとは?」をご参照ください。

※2 所得要件は95万円以下で変更はありませんが、令和7年度税制改正で給与所得控除の最低保障額が10万円引き上げられて65万円になったことに伴い、給与収入のみの場合は従前の年収150万円以下から年収160万円以下に変わりました。

※3 「生計を一にする」については、「所得控除における『生計を一にする』の判定基準」をご参照ください。
 
(2) 控除対象扶養親族
 親族が「控除対象扶養親族」となるには、以下の要件を満たす必要があります(①~③は扶養親族の要件)。

① 親族の所得金額が58万円以下である(給与収入のみならば年収123万円以下)※1
② あなたと生計を一にする親族である
③ 配偶者、青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者のいずれにも該当しない
④ 居住者のうち、年齢16歳以上である人(平成22年1月1日以前生)
⑤ 非居住者※2のうち、次のイ~ハのいずれかに該当する人
イ 年齢16歳以上30歳未満の人(平成8年1月2日から平成22年1月1日までの間に生まれた人)
ロ 年齢70歳以上の人(昭和31年1月1日以前に生まれた人)
ハ 年齢30歳以上70歳未満の人(昭和31年1月2日から平成8年1月1日までの間に生まれた人)のうち、「留学により国内に住所及び居所を有しなくなった人」、「障害者」又は「あなたから令和7年中において生活費又は教育費に充てるための支払を38万円以上受ける人」

 上記の要件(①~④又は①~③⑤)を満たす場合は、親族の情報を記入します。なお、児童福祉法の規定により養育を委託されたいわゆる里子や老人福祉法の規定により養護を委託されたいわゆる養護老人で、あなたと生計を一にし、令和7年中の合計所得金額の見積額が58万円以下の人も扶養親族に含まれます※1

※1 令和7年度税制改正で、申告書に記載する「扶養親族」、「同一生計配偶者」、「ひとり親控除を受ける場合の生計を一にする子」の範囲が変わりました。これまでは、所得の見積額が48万円以下(給与収入のみならば年収103万円以下)の場合に記載していましたが、令和7年分からは、所得の見積額が58万円以下(給与収入のみならば年収123万円以下)の場合に記載します。

※2 「非居住者」とは、国内に住所を有せず、かつ、現在まで引き続いて1年以上国内に居所を有しない個人をいいます。

(3) 個人番号
 源泉控除対象配偶者及び控除対象扶養親族の個人番号を記載する必要がありますが、一定の要件の下、個人番号の記載を要しない場合がありますので、給与の支払者に確認してください(上記1.(3)参照)。

(4) 老人扶養親族
 控除対象扶養親族が年齢70歳以上(昭和31年1月1日以前生)の場合には、次のとおりいずれかに✓を付けます。

① その人があなた又はあなたの配偶者の直系尊属で、あなた又はあなたの配偶者のいずれかと同居を常況としている人であるとき→「同居老親等」に✓を付けます。
② その人が①以外の人であるとき →「その他」に✓を付けます。

(5) 特定扶養親族
 控除対象扶養親族が年齢19歳以上23歳未満(平成15年1月2日~平成19年1月1日生)の場合に、✓を付けます

年齢19歳以上23歳未満所得58万円超123万円以下(給与収入のみの場合は年収123万円超188万円以下)の親族については、令和7年度税制改正で新設された特定親族特別控除の適用を受けることができます(特定親族特別控除については、「特定親族特別控除の創設と源泉徴収事務への影響(令和7年度税制改正)」をご参照ください)
 年末調整で特定親族特別控除の適用を受けるには、「給与所得者の特定親族特別控除申告書」の提出が必要です。


(6) 非居住者である親族
 源泉控除対象配偶者が非居住者である場合に「非居住者である親族」欄に○を付けます。
 また、控除対象扶養親族が非居住者であり、その非居住者の年齢が16歳以上30歳未満又は70歳以上である場合には「非居住者である親族」欄の「16歳以上30歳未満又は70歳以上」に✓を付け、30歳以上70歳未満の場合には、「留学」、「障害者」又は「38万円以上の支払」のうち該当するいずれかの項目に✓を付けます。
 源泉控除対象配偶者や控除対象扶養親族が非居住者である場合、親族関係書類の添付等が必要です。
 また、上記の「留学」に✓を付けた場合は、留学ビザ等書類の添付等が必要です。

3.障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生の記入

(1) 同一生計配偶者
 同一生計配偶者が一般の障害者、特別障害者又は同居特別障害者に該当する場合には、該当する欄に✓を付けます。

※「同一生計配偶者」とは、あなたと生計を一にする配偶者(青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者を除きます)で、令和7年中の合計所得金額の見積額が58万円以下の人をいいます。

(2) 扶養親族
 扶養親族が一般の障害者、特別障害者又は同居特別障害者に該当する場合には、該当する欄に✓を付けます。
 なお、障害者控除の対象となる扶養親族は、控除対象扶養親族とは異なり、年齢16歳未満(平成22年1月2日以後生)の扶養親族も対象となります。

(3) 寡婦、ひとり親、勤労学生
 あなたが寡婦、ひとり親、勤労学生に該当する場合に✓を付けます
 寡婦は、ひとり親に該当しない女性で、以下のいずれかに当てはまる人です。

① 所得金額が500万円以下で、夫と離婚した後に婚姻をしておらず、扶養親族がいる
② 所得金額が500万円以下で、夫と死別した後婚姻をしていない、もしくは夫の生死が明らかでない

 ひとり親は、現在婚姻していない人、もしくは配偶者の生死が明らかでない一定の人のうち、以下のすべてに当てはまる人です。

① 所得金額が500万円以下である
② 生計を一にする子がいる
③ 事実上の婚姻関係にある人がいない

※寡婦、ひとり親については、本ブログ記事「ひとり親控除の新設と寡婦(夫)控除の改正」をご参照ください。

 勤労学生は、以下のすべてに当てはまる人です。

① あなたが学生である(小学校、中学校、高等学校、高等専門学校、大学の学生、国や地方公共団体、学校法人などが設立した専修学校、各種学校、または職業訓練学校のうち一定の要件を満たす学校の学生)
② アルバイトなどの勤労による所得金額が85万円以下である(収入が1つの勤務先からのアルバイト代(給与収入)のみならば、年収150万円以下)

令和7年度税制改正による基礎控除の引き上げに伴い、所得要件が従前の75万円から85万円に変わりました。

(4) 障害者又は勤労学生の内容
 左記の障害者又は勤労学生に該当する(人がいる)場合、その該当する事実やその人の氏名を記載します。
(例)障害者の場合・・・障害の状態又は交付を受けている手帳などの種類と交付年月日、障害の程度(等級)などの障害者に該当する事実を記載します。

(注)寡婦、ひとり親に該当する方について、死別、離婚、生死不明の別、生計を一にする子の氏名及びその子の所得の見積額など、寡婦又はひとり親に該当する事実の記載は必要ありません。

4.他の所得者が控除を受ける扶養親族等の記入

 他の所得者が控除を受ける扶養親族等の欄については、共働きなどで子供を扶養親族としなかった方が子供の氏名等を記入する欄ですが、空欄でも構いません。記入しなかったとしても「控除額が減り、損をする」というわけではありません。

5.住民税に関する事項の記入

(1) 16歳未満の扶養親族
 年齢16歳未満(平成22年1月2日以後生)の扶養親族について記載します。16歳未満の扶養親族は「扶養控除」の対象外ですが、住民税の計算で利用するためあわせて記載します。

(2) 控除対象外国外扶養親族
 国内に住所を有しない16歳未満の扶養親族に該当する場合に○を付けます。この場合、親族関係書類及び送金関係書類を令和8年3月16日までに住所所在地の市区町村に提出しなければならない場合があります。

(3) 退職手当等を有する配偶者・扶養親族
 退職手当等(源泉徴収されるものに限ります。以下同じです)の支払を受ける配偶者(あなたと生計を一にする配偶者で、令和7年中の退職所得を除いた合計所得金額の見積額が133万円以下であるものに限ります)又は扶養親族について記載します。

(4) 非居住者である親族
 退職手当等の支払を受ける配偶者が非居住者である場合には、「非居住者である親族」欄の「配偶者」に✓を付けます。
 また、退職手当等の支払を受ける扶養親族が非居住者であり、その非居住者の年齢が30歳未満又は70歳以上である場合には「非居住者である親族」欄の「30歳未満又は70歳以上」に✓を付け、30歳以上70歳未満の場合には、「留学」(留学により国内に住所及び居所を有しなくなった人)、「障害者」又は「38万円以上の支払」(あなたから令和7年中において生活費又は教育費に充てるための支払を38万円以上受ける人)のうち該当するいずれかの項目に✓を付けます。
 この場合、親族関係書類、留学ビザ等書類、送金関係書類及び38万円送金書類を令和8年3月16日までに住所所在地の市区町村に提出しなければならない場合があります。

(5) 令和7年中の所得の見積額(退職所得を除く)
 令和7年中の退職所得の金額を除いた合計所得金額の見積額を記載します。

(6) 障害者区分
 退職手当等の支払を受ける配偶者のうち同一生計配偶者(あなたと生計を一にする配偶者で、令和7年中の退職所得を除いた合計所得金額の見積額が58万円以下である人をいいます)又は扶養親族について、その配偶者又は扶養親族が障害者である場合は「一般」に✓を付け、特別障害者である場合は「特別」に✓を付けます。

(7) 寡婦又はひとり親
 退職所得を除くと令和7年中の合計所得金額の見積額が58万円以下となる扶養親族を有することにより、あなたが寡婦又はひとり親に該当する場合に、✓を付けます。

(注)記載欄が足りない場合は、適宜の様式に記載してこの申告書に添付します。なお、住民税では、扶養親族等の要件とされる所得の金額には、退職所得の金額は含めないこととされています。

個人の申告漏れ所得金額が高額な上位10業種(令和5事務年度)

 国税庁は毎年11月に、各事務年度における「所得税及び消費税調査等の状況」を報道発表資料として公表しています。

 以下では、2023(令和5)事務年度(令和5年7月~令和6年6月)について、所得税の調査等の状況と事業所得を有する個人の1件当たりの申告漏れ所得金額が高額な上位10業種についてみていきます。

1.所得税の調査等の状況

 国税庁の公表資料によると、調査の選定にAIを活⽤するなどして効率的に調査を⾏った結果、申告漏れ所得⾦額の総額及び追徴税額の総額は過去最高を記録しています。

 「実地調査」と「簡易な接触」を合わせた「調査等」の合計件数は、60万5千件(対前年比94.9%)で、そのうち申告漏れ等の⾮違があった件数は31万1千件(同92.0%)となっています。

 「実地調査」と「簡易な接触」を合わせた「調査等」による申告漏れ所得⾦額は、9,964 億円(同110.2%)となっています。

 「実地調査」と「簡易な接触」を合わせた「調査等」による追徴税額は、1,398億円(同102.2%)と、過去最⾼となっています。

  実地調査 簡易な接触 調査等合計
特別・一般 着眼
調査等件数(件) 37,092(103.8%) 10,436(98.9%) 47,528(102.6%) 557,549(94.3%) 605,077(94.9%)
申告漏れ等の非違件数(件) 32,685(104.5%) 7,446(104.1%) 40,131(104.5%) 271,133(90.4%) 311,264(92.0%)
申告漏れ所得金額(億円) 5,081(97.6%) 435(111.5%) 5,516(98.6%) 4,448(129.0%) 9,964(110.2%)
追徴税額(億円) 1,019(104.0%) 47(134.3%) 1,066(105.0%) 332(94.1%) 1,398(102.2%)
1件当たり追徴税額(万円) 275(100.4%) 45(136.4%) 224(102.3%) 6(100.0%) 23(109.5%)

(備考)
(1) 上表のカッコ内の数字は、対前年比の割合を示しています。

(2) 実地調査(特別調査・一般調査)とは、高額・悪質な不正計算が見込まれる事案を対象に深度ある調査を行うもので、特に、特別調査は、多額な脱漏が見込まれる個人を対象に、相当の日数(1件当たり10日以上を目安)を確保して実施しているものです。

(3) 実地調査(着眼調査)とは、資料情報や申告内容の分析の結果、申告漏れ等が見込まれる個人を対象に実地に臨場して短期間で行う調査です。

(4) 簡易な接触とは、原則、納税者宅等に臨場することなく、文書、電話による連絡又は来署依頼による面接を行い、申告内容を是正するものです。

2.直近5年間の申告漏れ所得金額が高額な上位10業種

 国税庁は、公表している「所得税及び消費税調査等の状況」の中で、「参考計表」として「事業所得を有する個人の1件当たりの申告漏れ所得金額が高額な上位10業種」を挙げています。
 
 2023(令和5)事務年度(令和5年7月~令和6年6月)から2019(令和1)事務年度(令和1年7月~令和2年6月)までの直近5事務年度における上位10業種は、以下のとおりです。

順位 R5 R4 R3 R2 R1
1 経営コンサルタント 経営コンサルタント 経営コンサルタント プログラマー 風俗業
2 ホステス、ホスト くず金卸売業 システムエンジニア 畜産農業(肉用牛) 経営コンサルタント
3 コンテンツ配信 ブリーダー ブリーダー 内科医 キャバクラ
4 くず金卸売業 焼肉 商工業デザイナー キャバクラ 太陽光発電
5 ブリーダー タイル工事 不動産代理仲介 太陽光発電 システムエンジニア
6 焼き鳥 冷暖房設備工事 外構工事 建築士 土木工事
7 太陽光発電 鉄骨、鉄筋工事 型枠工事 経営コンサルタント ダンプ運送
8 内科医 太陽光発電 機械部品受託加工 小売業・犬 タイル工事
9 スナック バー 一般貨物自動車運送 不動産代理仲介 冷暖房設備工事
10 西洋料理 電気通信工事 司法書士、行政書士 商工業デザイナー 清掃業

※ 上記調査事績は、特別調査及び一般調査に基づく実施結果です。

個人事業主が所得税・社会保険の扶養に入るための要件(令和7年度税制改正)

1.年収の壁

 扶養の範囲内で働きたいパートの方は、収入が一定額を超えないように労働調整をする場合があります。
 例えば、夫が配偶者控除38万円の適用を受けられるように、妻はパート先での収入を123万円以下に抑えようとします
 また、夫の社会保険の扶養の範囲内で働きたい場合は、妻はパート先での収入を130万円未満に抑えようとします(パート先の従業員が50人以下の場合)。
 この所得税と社会保険(健康保険・厚生年金)における年収の壁は、いずれも収入額が基準となっていますので、パートで働く給与所得者の場合はわかりやすいと言えます。

 一方、個人事業主として開業しても、事業が軌道に乗るまでは親や配偶者の扶養の範囲内で仕事をしたいという場合があります。
 ここで、個人事業主が扶養に入るための判定基準はどのように考えたらいいのか、という疑問が生じます。
 所得税と社会保険の年収の壁について、個人事業主も給与所得者と同じように収入(年商)で判定することができるのでしょうか、それとも収入から経費を差し引いた所得で判定するのでしょうか?
 結論を先に述べると、個人事業主の所得税と社会保険の年収の壁は、どちらも収入から経費を差し引いた「所得」で判定します。
 以下において、若干の注意点を踏まえながら確認します。

2025(令和7)年度税制改正で、夫が配偶者控除を受けるための妻の年収は、従前の103万円以下から123万円以下に変わりました。その他の年収の壁も変わっています詳細については、「令和7年度税制改正で年収の壁はこのように変わった!」をご参照ください。

2.所得税の扶養の判定は確定申告書の合計所得金額を見る

 所得税における扶養の範囲(扶養親族)は、所得者と生計を一にする親族(配偶者、青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者を除きます)で合計所得金額が58万円以下の人をいいます(2025(令和7)年度税制改正で、所得要件が合計所得金額58万円以下に変わりました)。
 給与所得だけの場合は、給与の年間収入が123万円以下であれば、合計所得金額が58万円以下になります

 個人事業主の場合は、先に述べたとおり収入から経費を差し引いた所得が58万円以下であれば、扶養に入ることができます。
 58万円以下であるかどうかを判定するにあたっては、次の点に注意が必要です。

(1) 事業所得の他に所得がある場合は、それらの合計額で58万円以下であるかどうかを判定します。
(2) 青色申告者の場合は、青色申告特別控除額を差し引いた後の所得で判定します。
(3) 社会保険料控除や基礎控除などの所得控除を差し引く前の金額で判定します。

 つまり、確定申告書第1表の合計所得金額(下図の黄色マーカーを付した⑫欄の数字)が58万円以下であるかどうかを判定します。

2025(令和7)年度税制改正では、基礎控除と給与所得控除が引き上げられたため、扶養親族等の所得要件も変わっています。
 したがって、給与所得だけの場合は、給与の年間収入が123万円以下であれば、合計所得金額が58万円以下になります(給与収入123万円-給与所得控除額65万円=給与所得58万円)。
 詳細については、「扶養親族等の所得要件・住宅借入金等特別控除・生命保険料控除の見直し(令和7年度税制改正)」をご参照ください。
 なお、合計所得金額については、「『合計所得金額』『総所得金額』『総所得金額等』の違いとは?」をご参照ください。

3.社会保険の扶養の判定(協会けんぽの場合)

 社会保険(健康保険・厚生年金)の被扶養者に該当する条件は、日本国内に住所(住民票)を有しており、被保険者(扶養する人)により主として生計を維持されていること、および「収入要件」と「同一世帯の条件」のいずれにも該当した場合です(同一世帯の条件の説明は省略します)。

【収入要件】
 年間収入130万円未満(60歳以上または障害者の場合は、年間収入180万円未満)かつ
 ・同居の場合は収入が被保険者(扶養する人)の収入の半分未満
 ・別居の場合は収入が被保険者(扶養する人)からの仕送り額未満

 上記の収入要件に関する注意点は、次のとおりです。

(1) 年間収入とは、過去の収入のことではなく、被扶養者に該当する時点および認定された日以降の年間の見込み収入額のことをいいます(給与所得等の収入がある場合は月額108,333円以下、雇用保険等の受給者の場合は日額3,611円以下であれば要件を満たします)。
 また、被扶養者の収入には、雇用保険の失業等給付、公的年金、健康保険の傷病手当金や出産手当金も含まれます。

(2) 収入が被保険者(扶養する人)の収入の半分以上の場合であっても、被保険者(扶養する人)の年間収入を上回らないときで、日本年金機構がその世帯の生計の状況を総合的に勘案して、被保険者(扶養する人)がその世帯の生計維持の中心的役割を果たしていると認めるときは被扶養者となることがあります。

 このような収入要件がありますが、先に述べたように個人事業主の場合は、収入から経費を差し引いた所得が130万円未満(又は180万円未満)であれば、扶養に入ることができます。
 130万円未満であるかどうかを判定するにあたっては、次の点に注意が必要です。

(1) 事業所得の他に所得がある場合は、それらの合計額で130万円未満であるかどうかを判定します。
(2) 青色申告者の場合は、青色申告特別控除額を差し引く前の所得で判定します。
(3) 社会保険料控除や基礎控除などの所得控除を差し引く前の金額で判定します。

 (2)の青色申告特別控除額は、あくまでも税制上の特典ですので、社会保険の扶養を判定する際の所得の算定上は控除できません。それ以外の青色申告決算書に記載した経費は差し引くことができます。

令和7年度税制改正によって19歳以上23歳未満の親族等を扶養する場合における特定扶養控除の要件の見直し等が行われたことを踏まえ、扶養認定日が2025(令和7)年10月1日以降で、扶養認定を受ける人(被扶養者)が19歳以上23歳未満の場合(被保険者の配偶者を除く)は、現行の「年間収入130万円未満」が「年間収入150万円未満」に変わります。この「年間収入要件」以外の要件に変更はありません。

 年齢要件(19歳以上23歳未満)は、扶養認定日が属する年の12月31日時点の年齢で判定します。例えば、扶養認定を受ける人が令和7年11月に19歳の誕生日を迎える場合には、令和7年(暦年)における年間収入要件は150万円未満となります。

 ただし、令和7年10月1日以降の届出で、令和7年10月1日より前の期間について認定する場合は、19歳以上23歳未満の被扶養者にかかる年間収入の要件は130万円未満で判定します。

 詳細については、「令和7年10月1日から19歳以上23歳未満の人の健康保険の被扶養者認定基準が年収150万円未満に変わります」をご参照ください。

4.社会保険の扶養の判定(健康保険組合の場合)

 上記3で確認した内容は、政府が管掌する全国健康保険協会(協会けんぽ)の場合です。
 被保険者(扶養する人)の勤め先が、大手企業やグループ企業で構成される健康保険組合に加入している場合は、健康保険組合ごとに収入要件の取扱いが異なります。
 例えば、A健康保険組合の場合は、収入(売上)から差し引ける経費は売上原価のみであるのに対し、B健康保険組合の場合は、売上原価と人件費が差し引ける、などです。
 被保険者(扶養する人)の勤め先が加入しているのは協会けんぽなのか健康保険組合なのか、健康保険組合に加入している場合はどのような扶養条件があるのか、事前に確認しておくことが大事です。

不足額給付の続報-対象者判定のためのフローチャート

 兵庫県宝塚市では、2024(令和6)年8~10月に、定額減税しきれないと見込まれる方へ給付金(調整給付)が支給されました
 調整給付は2023(令和5)年の課税情報に基づき算定されていましたので、2024(令和6)年分所得税や定額減税の実績額が確定した際に、調整給付に不足が生じる方がいます。
 また、青色事業専従者など、税制度上定額減税の対象外であった方もいます。

 これらの方が定額減税を補足する給付金(不足額給付)の対象となるか否かについては、本ブログ記事「定額減税調整給付金(不足額給付)の対象となる人の具体例と給付額の計算例」、「所得税・住民税が非課税でも青色事業専従者等は定額減税調整給付金(不足額給付)の対象となる!」において詳細を記載しています。

 2025(令和7)年7月23日に、宝塚市のホームページにおいて不足額給付に関する情報が更新され、不足額給付の対象となるか否かを判定するためのフローチャート(下図)が公表されました。

出所:宝塚市ホームページ

 
 宝塚市では、不足額給付の対象者には、2025(令和7)年8月下旬に市から書面が送付されます
 申請受け付けは、2025(令和7)年9月頃から開始される予定です

 なお、不足額給付の対象者のうち、転入者(2024(令和6)年1月2日~2025(令和7)年1月1日に宝塚市へ転入した方)については、転入前の自治体で発行された調整給付支給要件確認書(調整給付額の算出根拠となる資料)を添えて、2025(令和7)年9月~10月末(予定)にご自身で申し出・申請を行う必要があります。

 転入者については、当初調整給付に関する情報を宝塚市で把握できず、対象者を特定できないことから宝塚市から通知書面などは送付されませんのでご注意ください。

 宝塚市における不足額給付の申請手続き等については、「不足額給付の申請受付開始時期と提出書類(兵庫県宝塚市の場合)」をご参照ください。

※ 2025(令和7)年9月1日に宝塚市のホームページが更新されました。それによると、8月29日に支給事前通知書(お知らせ)・確認書が発送され、9月1日~5日に順次お手元に届く予定とのことです。
 なお、一部の方については支給額の算定に時間を要しているため、9月中旬頃をめどに確認書が送付されるようです。
 黄色の封筒で届きますので、届き次第、内容の確認をしてください。

キャッシュレス納付の類型と手続きの概要

 国税庁では効率化とコスト抑制の観点から「納付書」の送付対象者を見直し、2024(令和6)年5月よりe-Taxで申告書を提出した法人などには納付書が送付されなくなりました。

 これまで通り納付書で税金の納付を行いたい場合は、税務署に送付依頼の電話をかければ納付書を入手することができますが、近年は納付書を使わない納付方法(以下「キャッシュレス納付」といいます)も多様化して選択肢が増えています。

 キャッシュレス納付は、納税者の事務手続きや現金処理業務の効率化(現金管理に伴うコスト削減)に資する面もありますので、今すぐではなくとも将来的に活用することも検討されてはいかがでしょうか。

 以下では、国税に関するキャッシュレス納付の類型と手続きについて概観します

地方税についても地方税統一QRコードにより多くの地方自治体でキャッシュレス納付ができるようになりましたが、自治体によっては対応していない場合や対応している税目等が異なりますので、納付先の自治体にご確認ください。

1.振替納税

 振替納税は、納税者名義の預貯金口座からの自動引落しにより国税を納付する方法です。古くからある制度ですので、納税者にとってはなじみ深いものだと思われます。

 振替納税を利用するにあたっては、事前(国税の納期限まで)に所轄税務署または希望する預貯金口座のある金融機関へ振替依頼書を書面またはe-Taxにより提出する必要があります。

 利用できる税目は、申告所得税及び復興特別所得税消費税及び地方消費税(個人事業者)であり、個人に限られます。

 利用にあたって、手数料はかかりません。

2.ダイレクト納付

 ダイレクト納付は、e-Taxにより申告書を提出した後、納税者名義の預貯金口座から即時または振替日を指定して口座引き落としにより納付する方法です。

 事前に振替を行う預貯金口座の届け出が必要で、届け出から利用開始までに約1か月程度かかります。

 2024(令和6)年4月からはe-Taxによる申告と同時に法定納期限当日に自動的に口座引き落としされる「自動ダイレクト」が機能として追加されました

 すべての税目で利用でき、利用にあたって手数料はかかりません。

法定納期限当日に手続きをした場合は、その翌取引日に自動引落しされます。この場合、法定納期限から引落しの日までの延滞税や加算税はかかりません。

3.インターネットバンキング納付

 インターネットバンキング納付は、e-Taxにより申告書を提出した際に受け取った納付情報を基に、金融機関のインターネットバンキングやATMを利用して納付をする方法です。

 事前に金融機関に対してインターネットバンキングの契約が必要ですが、ATMから納付する場合は不要です。

 上記2のダイレクト納付と異なり、振替日の指定はできず、即時の納付となります。

 すべての税目で利用でき、利用にあたって手数料はかかりません

インターネットバンキングやATMの利用手数料がかかる場合があります。

4.クレジットカード納付

 クレジットカード納付は、事前の手続きなしでパソコンやスマホから国税クレジットカードお支払いサイトを通じて税金を納付する方法です。

 納付情報を直接入力して納付する方法以外に、e-Taxにより申告書を提出した際に受け取った納付情報を基に納付することも可能です。

 クレジットカード納付はインターネット上のみの手続きであり、金融機関やコンビニ、税務署の窓口ではクレジットカード納付はできません。

 すべての税目で利用できますが、利用にあたっては納付税額に応じた決済手数料がかかります。

5.スマホアプリ納付

 スマホアプリ納付は、e-Taxにより申告書を提出した際に格納される受信通知(納付区分番号通知)からスマートフォン決済専用サイトへアクセスし、Pay払いで納付する方法です。

 利用可能なPay払いは、次の6つです(LINE Payの取扱いは2025(令和7)年4月14日で終了しました)。

出所:国税庁ホームページ

 アカウント残高を利用した支払方法のみ利用可能なため、事前に利用するPay払いへのアカウント登録と残高チャージが必要です。なお、納付しようとする金額が30万円以下の場合に利用可能です。

 すべての税目で利用でき、利用にあたって手数料はかかりません。

amazon payの場合はamazonギフトカードで残高チャージができるため、amazonギフトカードをクレジットカードで購入すれば、通常の買い物と同様にクレジットカードのポイントも貯まりますのでお得な方法です。
 amazon payによるスマホアプリ納付の詳細については、「Amazon Payでスマホアプリ納付をする方法(決済手数料0円)」をご参照ください。

毎年7月10日は事務手続き期限の集中日

 毎年7月10日は、事務手続きの期限が集中します。代表的なものを挙げると、労働 保険(労災保険・雇用保険)の年度更新、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の算定基礎届、納期の特例(源泉所得税)、新年度の特別徴収住民税の納付開始などがあります。

 以下では、これらの手続きの概要について確認します。

1.労働保険の年度更新

 労災保険と雇用保険をあわせて労働保険といいます。

 労働保険の保険料は、前年4月1日から当年3月31日までの1年間を単位として計算し、その額はすべての労働者(雇用保険については被保険者)に支払われる賃金の総額※1に、その事業ごとに定められた保険料率を乗じて算定します※2

 事業主は、新年度の概算 保険料を納付するための申告・納付と、前年度の保険料を精算するための確定保険料の申告・納付の手続きが必要です。これを年度更新といいます。

 この年度更新の手続きは、毎年6月1日から7月10日までの間(土日祝日を除く)に行わなければなりません。

※1 賃金の総額には、通勤手当等の交通費(非課税分、現物支給の定期代等)を含みます。

※2 2025(令和7)年度の保険料率については、「令和7年度の雇用保険料率が改定されます(労災保険料率・子ども子育て拠出金率は据え置き)」をご参照ください。

2.社会保険の算定基礎届

 健康保険と厚生年金保険をあわせて社会保険といいます。

 事業主は、社会保険の被保険者の実際の報酬と標準報酬月額との間に大きな差が生じないように、7月1日現在で使用している全被保険者の当年3か月間(4月、5月、6月)に支払った給与等を算定基礎届によって届出をする必要があります。

 このように、毎年1回標準報酬月額の見直しを行うことを定時決定といい、見直し後の標準報酬月額は、原則として当年9月から翌年8月までの各月に適用されます。

 算定基礎届(届出用紙)は、6月中旬以降に事業所あてに送付され、5月中旬頃までに届出された被保険者の氏名、生年月日、従前の標準報酬月額等が印字されています※3

 算定基礎届の提出期間は、毎年7月1日から7月10日まで(10日が土曜または日曜の場合は、翌営業日が提出期限)とされています※4

※3 定時決定は、7月1日現在で事業所に在籍している全被保険者(従業員・役員)を対象として行われる標準報酬月額の見直しであるため、6月30日以前に退職・退任した従業員・役員については定時決定の対象外となります。
 したがって、6月30日以前に退職・退任した従業員・役員の情報が印字されている場合には、算定基礎届の「備考」欄の「9 その他」欄に「退職・退任年月」を記入します。

※4 算定基礎届送付時に同封されている返信用封筒により事務センターへ郵送する場合は、7月1日より前に郵送すると事務センターに届かずに戻ってくることがあるようですので、算定基礎届は提出期間内に提出する必要があります。

3.納期の特例

 事業主は、源泉徴収した所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」といいます)を、原則として、給与などを実際に支払った月の翌月10日までに国に納めなければなりません。

 ただし、給与の支給人員が常時10人未満である事業主は、源泉徴収した所得税等を半年分まとめて納めることができる特例があります。これを納期の特例といいます※5

 この特例の適用を受けていると、その年の1月から6月までに源泉徴収した所得税等は7月10日、7月から12月までに源泉徴収した所得税等は翌年1月20日が、それぞれ納付期限となります。

 ただし、この特例の適用対象となるのは、給与や退職金から源泉徴収をした所得税等と、税理士、弁護士、司法書士などの一定の報酬から源泉徴収をした所得税等に限られています※6

※5 納期の特例については、「納期の特例の要件である「常時10人未満」とは?」、「納期の特例はいつから適用される?」、「納期の特例の要件に該当しなくなった場合の届出と納期限」をご参照ください。

※6 納期の特例の対象とならない外交員報酬などについては、報酬を支払った月の翌月10日までに、源泉徴収した所得税等を納めなければなりません(関連記事:「外交員報酬に係る源泉徴収税額の計算方法」、「ホステス等に支払う報酬・料金の源泉徴収税額の計算方法」、「セミナー講師料を支払った場合の源泉徴収」)。

4.特別徴収した新年度の住民税の納付開始

 特別徴収とは、毎月の給与から差し引いた個人住民税を、事業主(給与支払者)が従業員(納税義務者)に代わり納付する制度で、所得税等の源泉徴収と同じ仕組みのものです。

 特別徴収義務者である事業主は、従業員の給与から個人住民税を毎月天引きして、翌月10日までに納付しなければなりません。

 新年度の個人住民税は6月に支給する給与から特別徴収を開始し、その特別徴収した新年度の個人住民税は、7月10日までに納付しなければなりません。年度が変わって特別徴収する個人住民税の額が変わりますので、注意が必要です。

 なお、毎月納付する手間を減らす方法として、源泉徴収した所得税等と同様に、従業員が常時10人未満である事業主には納期を年2回とする納期の特例が個人住民税にも認められています。

 源泉徴収した所得税等の納期限は7月10日(1月~6月徴収分)と1月20日(7月~12月徴収分)ですが、個人住民税の納期限は6月10日(12月~5月徴収分)と12月10日(6月~11月徴収分)となり、所得税等と個人住民税では納期限が異なります※7

※7 個人住民税を毎月納付する手間を減らすには、納期の特例を受けることになりますが、所得税等と納期限がズレていますので、それを煩雑に感じる場合もあります。
 そのような場合は、1年分(当年6月分~翌年5月分)の納付書を持参して一括納付することができる市区町村もあります。
 特に届出は必要ありませんが、市区町村によって取扱いが異なりますので、事前に市区町村に相談・確認する必要があります。

ホステス等に支払う報酬・料金の源泉徴収税額の計算方法

 ホステス等に報酬・料金を支払うときは、所得税および復興特別所得税(以下「所得税等」といいます)を源泉徴収しなければなりません。

 業務委託契約を締結したホステス等に支払う報酬・料金は基本的には外注費に該当し、このようなホステス等の報酬に係る所得税等の源泉徴収税額の計算方法は、源泉徴収税額表を用いて計算する給与や賞与の場合と異なります。

 以下では、ホステス等に支払う報酬・料金の源泉徴収税額の計算方法を確認します。

ただし、その内容が給与や賞与に該当するものについては、外注費(事業所得や雑所得)ではなく給与所得として源泉徴収を行います。
 外注費と給与のどちらに該当するかについては、「外注費か給与か・・・国税庁の判断基準」をご参照ください。

1.ホステス等の報酬とは?

 ホステス等に支払う報酬・料金として、所得税等を源泉徴収しなければならないのは、次に該当する場合です。

(1) バーやキャバレーの経営者が、そこで働くホステスなどに報酬・料金を支払う場合

(2) いわゆるバンケットホステス・コンパニオン等を、ホテル、旅館その他飲食をする場所に派遣して接待等の役務の提供を行わせることを内容とする事業を営む者が、そのバンケットホステス・コンパニオン等に報酬・料金を支払う場合

バンケットホステス・コンパニオン等とは、ホテル、旅館、飲食店その他飲食をする場所で行われるパーティー等の飲食を伴う会合において、専ら客の接待等の役務の提供を行うことを業務とする人をいいます。

2.ホステス報酬の源泉徴収税額の計算方法

(1) 月払いの場合

 源泉徴収すべき所得税等の額は、報酬・料金の額から同一人に対し1回に支払われる金額について、5千円にその報酬・料金の「計算期間の日数」を乗じて計算した金額(同月中に給与等の支払がある場合には、その計算した金額からその計算期間の給与等の支給額を控除した金額)を差し引いた残額に10.21パーセントの税率を乗じて算出します。
(注)求めた税額に1円未満の端数があるときは、これを切り捨てます。

 なお、「計算期間の日数」とは、「営業日数」または「出勤日数」ではなく、ホステス報酬の支払金額の計算の基礎となった期間の初日から末日までの全日数です。

 源泉徴収税額={(ホステス報酬-5千円×計算期間の日数)-給与等の支給額}×10.21%

 具体的には、以下のように計算します。

〈計算例〉
・ホステス報酬の支払金額:30万円
・ホステス報酬の支払金額の計算の基礎期間:7月1日から7月31日(31日間)
・営業日数:25日間
・出勤日数:10日間
・7月中の給与支給額:なし

 源泉徴収税額=(30万円-5千円×31日)×10.21%=14,804円(1円未満切り捨て)

(2) 日払いの場合

 上記(1)の計算例は、ホステス報酬を月払い(月末締・翌月10日払い等)することを前提としていましたが、ホステス報酬をその日のうちに支払う日払いのケースもあります。

 この場合の源泉徴収税額は、どのように計算するのでしょうか?

 源泉徴収すべき所得税等の額は、報酬・料金の額から同一人に対し1回に支払われる金額について計算することとなっていますので、日払いの場合の「計算期間の日数」は1日となり、報酬を支給する毎に源泉徴収をしなければなりません。

 源泉徴収税額={(ホステス報酬-5千円)-給与等の支給額}×10.21%

 具体的には、以下のように計算します。

〈計算例〉
・ホステス報酬の支払金額:3万円
・ホステス報酬の支払金額の計算の基礎期間:7月1日から7月31日(31日間)
・営業日数:25日間
・出勤日数:1日(7月7日)
・7月7日の給与支給額:なし

 源泉徴収税額=(3万円-5千円)×10.21%=2,552円(1円未満切り捨て)

3.留意事項

 ホステス等に支払った報酬・料金から源泉徴収した所得税等は、支払った月の翌月10日までに納付しなければなりません。
 支払者が源泉所得税の納期の特例の適用を受けている場合であっても、ホステス等に支払う報酬・料金については、納期の特例の対象とはなりませんのでご注意ください。

 また、ホステス等の報酬・料金について、同一人に対するその年中の支払金額の合計額が50万円を超えるものについては、「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」を税務署に提出しなければなりません。

※ 関連記事:「外交員報酬に係る源泉徴収税額の計算方法」、「セミナー講師料を支払った場合の源泉徴収

中小企業者等の賃上げ促進税制《令和6年4月1日~令和9年3月31日開始事業年度》

 中小企業向け賃上げ促進税制は、青色申告書を提出している中小企業者等(下記2(3)参照)が、前年度より給与等の支給額を増加させた場合に、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度です。

 以下では、賃上げ促進税制に関する2024(令和6)年度税制改正の概要と、改正後の中小企業向け賃上げ促進税制の内容について確認します。

1.令和6年度税制改正の概要

 2024(令和6)年税制改正では、賃上げ促進税制の強化がはかられ、これまでの大企業向けと中小企業向けの2制度から、新たに中堅企業向けの制度が新設され、3制度となりました。

 中小企業向けの措置については、5年間の繰越税額控除制度が新設され、教育訓練費の増加があった場合の税額控除率10%の上乗せ措置に対する要件なども見直されています。

 上乗せ措置については、プラチナくるみん認定を受けている場合などは、さらに税額控除率を5%上乗せできる要件が新設されています。

 改正後の中小企業向け賃上げ促進税制の適用要件と税額控除率は、下図のとおりです。

 必須要件については改正前と変更はありませんが、上乗せ要件①については「教育訓練費が5%以上増加していること」(改正前は10%以上)の他に、「教育訓練費が雇用者給与等支給額の0.05%以上であること」が必要となっています。

 また、上乗せ要件②が新設され、要件を満たせば税額控除率を5%上乗せできるようになったことから、税額控除率は最大で45%(30%+10%+5%)となっています。

出所:中小企業庁ホームページ

2.中小企業向け賃上げ促進税制の内容

 2024(令和6)年度税制改正による中小企業向け賃上げ促進税制の内容は、次のとおりです。

(1) 制度概要

 中小企業者等で青色申告書を提出するものが、国内雇用者※1に対して給与等※2を支給する場合において、一定の要件(必須要件)を満たす場合には、その雇用者給与等支給増加額の15%又は30%(上乗せ要件をすべて満たす場合は最大で45%)の税額控除を適用できます。

※1 国内雇用者とは、法人又は個人事業主の使用人のうちその法人又は個人事業主の国内に所在する事業所につき作成された賃金台帳に記載された者を指します。
 パート、アルバイト、日雇い労働者も含みますが、使用人兼務役員を含む役員及び役員の特殊関係者、個人事業主の特殊関係者は含まれません。
 なお、特殊関係者とは、法人の役員又は個人事業主の親族などを指します。親族の範囲は6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族までが該当します。
 また、当該役員又は個人事業主と婚姻関係と同様の事情にある者、当該役員又は個人事業主から生計の支援を受けている者等も特殊関係者に含まれます。

※2 給与等とは、俸給・給料・賃金・歳費及び賞与並びに、これらの性質を有する給与(所得税法第28条第1項に規定する給与等)をいいます。
 したがって、例えば、所得税法第9条(非課税所得)の規定により非課税とされる給与所得者に対する通勤手当等についても、原則的には本制度における「給与等」に含まれることになります。
 ただし、賃金台帳に記載された支給額のみを対象に、所得税法上課税されない通勤手当等の額を含めずに計算する等、合理的な方法により継続して国内雇用者に対する給与等の支給額の計算をすることも認められます。
 なお、退職金など、給与所得とならないものについては、原則として給与等に含まれません。

(2) 適用期間

 2024(令和6)年4月1日から2027(令和9)年3月31日までの間に開始する各事業年度(個人事業主は2025(令和7)年から2027(令和9)年の各年が対象)

(3) 適用対象者

 適用対象となる中小企業者等とは、青色申告書を提出する者のうち、以下の①~③に該当するものを指します。

① 以下のイ、ロのいずれかに該当する法人(ただし、前3事業年度の所得金額の平均額が15億円を超える法人は対象外)

イ.資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人
ただし、以下の法人は対象外
(イ) 同一の大規模法人※3から2分の1以上の出資を受ける法人
(ロ) 2以上の大規模法人※3から3分の2以上の出資を受ける法人

※3 大規模法人とは、資本金の額若しくは出資金の額が1億円超の法人、資本若しくは出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人超の法人又は大法人(資本金の額又は出資金の額が5億円以上である法人等)との間に当該大法人による完全支配関係がある法人等をいい、中小企業投資育成株式会社を除きます。

ロ.資本又は出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下の法人

② 常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主

③ 農業協同組合、農業協同組合連合会、中小企業等協同組合、出資組合である商工組合及び商工組合連合会、内航海運組合、内航海運組合連合会、出資組合である生活衛生同業組合、漁業協同組合、漁業協同組合連合会、水産加工業協同組合、水産加工業協同組合連合会、森林組合並びに森林組合連合会

(4) 適用要件

 必須要件(税額控除率15%又は30%)と上乗せ要件(税額控除率10%)は、次のとおりです(上乗せ要件については、くるみん認定の取得は省略します)。

① 必須要件1(税額控除率15%)
 雇用者給与等支給額が前事業年度と比べて1.5%以上増加していること

雇用者給与等支給額(適用年度)- 比較雇用者給与等支給額(前事業年度)/比較雇用者給与等支給額(前事業年度) ≧1.5%

  雇用者給与等支給額※4及び比較雇用者給与等支給額※5に、給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額(雇用安定助成金額※6を除きます)がある場合には、当該金額を控除して要件の適用判定を行います。

※4 雇用者給与等支給額とは、適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される全ての国内雇用者に対する給与等の支給額をいいます。

※5 比較雇用者給与等支給額とは、前事業年度における雇用者給与等支給額をいいます。

※6 雇用安定助成金額(国又は地方公共団体から受ける雇用保険法第62条第1項第1号に掲げる事業として支給が行われる助成金その他これに類するものの額)には、以下のものが該当します。
a 雇用調整助成金、産業雇用安定助成金又は緊急雇用安定助成金の額
b aに上乗せして支給される助成金の額その他のaに準じて地方公共団体から支給される助成金の額

出所:中小企業庁ホームページ

② 必須要件2(必須要件1の税額控除率15%+15%=30%)
 雇用者給与等支給額が前事業年度と比べて2.5%以上増加していること

雇用者給与等支給額(適用年度)- 比較雇用者給与等支給額(前事業年度)/比較雇用者給与等支給額(前事業年度) ≧2.5%

 雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額に、給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額(雇用安定助成金額を除きます)がある場合には、当該金額を控除して要件の適用判定を行います。

③ 上乗せ要件(税額控除率10%)
 教育訓練費の額が前事業年度と比べて5%以上増加し、かつ、適用事業年度の教育訓練費の額が適用事業年度の雇用者給与等支給額の0.05%以上であること

教育訓練費の額(適用年度)- 比較教育訓練費の額(前事業年度)/比較教育訓練費の額(前事業年度) ≧5%
かつ
教育訓練費の額(適用年度)/雇用者給与等支給額(適用年度)≧0.05%

 教育訓練費とは、所得の金額の計算上損金の額に算入される、国内雇用者の職務に必要な技術又は知識を習得させ、又は向上させるために支出する費用のうち一定のものをいいます。
 具体的には、法人が教育訓練等を自ら行う場合の費用(外部講師謝金等、外部施設使用料等)、他の者に委託して教育訓練等を行わせる場合の費用(研修委託費等)、他の者が行う教育訓練等に参加させる場合の費用(外部研修参加費等)などをいいます。

 なお、教育訓練の対象者は法人又は個人の国内雇用者です。したがって、以下の者は国内雇用者ではないため対象外となります。

イ.当該法人の役員又は個人事業主
ロ.使用人兼務役員
ハ.当該法人の役員又は個人事業主の特殊関係者((イ) 役員の親族、(ロ) 事実上婚姻関係と同様の事情にある者、(ハ)役員から生計の支援を受けている者、(ニ) (ロ)又は(ハ)と生計を一にする親族)
ニ.内定者等の入社予定者

(5) 税額控除額

① 必須要件1(税額控除率15%)を満たす場合
 控除対象雇用者給与等支給増加額の15%を法人税額又は所得税額から控除します。ただし、税額控除額は法人税額又は所得税額の20%が上限となります。

税額控除額 = 控除対象雇用者給与等支給増加額 ×15%

 控除対象雇用者給与等支給増加額とは、適用年度の雇用者給与等支給額から前事業年度の比較雇用者給与等支給額を控除した金額をいいます。ただし、調整雇用者給与等支給増加額を上限とします。
 調整雇用者給与等支給増加額とは、適用年度の雇用安定助成金額を控除した雇用者給与等支給額から、前事業年度の雇用安定助成金額を控除した比較雇用者給与等支給額を控除した金額をいいます。
 なお、雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額に、給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額(雇用安定助成金額を除きます)がある場合には、当該金額を控除して計算を行います。

出所:中小企業庁ホームページ

② 必須要件2(税額控除率15%)を満たす場合
 上記(5)①の必須要件1の控除率15%に15%が上乗せされて、税額控除率は30%となります(必須要件1の15%+必須要件2の15%=30%)。
 下記③を併用する場合は、税額控除率は40%となります(必須要件1の15%+必須要件2の15%+上乗せ要件10%=40%)。
 ただし、税額控除額は法人税額又は所得税額の20%が上限となります。

③ 上乗せ要件(税額控除率10%)を満たす場合
 上記(5)①の必須要件1の控除率15%に10%が上乗せされて、税額控除率は25%となります(必須要件1の15%+上乗せ要件10%=25%)。
 上記②を併用する場合は、税額控除率は40%となります(必須要件1の15%+必須要件2の15%+上乗せ要件10%=40%)。
 ただし、税額控除額は法人税額又は所得税額の20%が上限となります。

(6) 繰越税額控除制度

 2024(令和6)年度税制改正で、中小企業者等が要件を満たす賃上げを実施した年度に控除しきれなかった金額について、翌年度以降に5年間の繰り越しが可能となりました。

出所:中小企業庁ホームページ

 
 繰越税額控除制度を適用する場合は、以下の①及び②の対応が必要です。

未控除額が発生した事業年度以後の各事業年度の確定申告書に繰越税額控除限度超過額の明細書を添付して提出

繰越税額控除制度の適用を受けようとする事業年度の確定申告書等に繰越控除を受ける金額を記載するとともに、繰越控除を受ける金額の計算に関する明細書を添付して提出

 繰越税額控除制度を適用する際の留意点は、次のとおりです。

イ.上記①の明細書が提出されていない場合、未控除額は繰り越されず、繰越税額控除制度を適用できません。
 未控除額を翌年度以降に繰り越す場合には、未控除が発生した事業年度以後の各事業年度の確定申告書に、繰越税額控除限度超過額の明細書の添付が必ず必要です。

ロ.繰越税額控除制度の適用を受けようとする事業年度において、雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額より増加している場合に限り、適用可能です。

ハ.繰越税額控除制度の適用を受けようとする事業年度においては、青色申告書を提出する必要がありますが、中小企業者等に該当しない場合でも適用可能です。
 なお、中小企業者等に該当するかどうかの判定は、適用を受ける事業年度終了の時の現況によるものとされています。

(関連記事)

※ 賃上げ促進税制における出向者の取扱いについては、「賃上げ促進税制における出向者の取扱い」をご参照ください。

※ 前事業年度と適用事業年度の月数が異なる場合の調整計算や月数に1月未満の端数が生じた場合については、「賃上げ促進税制における1月未満の端数の取扱い」をご参照ください。

扶養親族等の所得要件・住宅借入金等特別控除・生命保険料控除の見直し(令和7年度税制改正)

 2025(令和7)年度税制改正では、所得税の基礎控除や給与所得控除の引き上げ等が行われましたが、これに伴い、扶養控除等の対象となる扶養親族等の所得要件が見直されました。

 また、住宅借入金等特別控除や生命保険料控除についても見直しが行われていますので、以下ではこれらについて確認します。

※ 令和7年度税制改正の内容については、「基礎控除・給与所得控除の引き上げと源泉徴収事務・年収の壁への影響(令和7年度税制改正)」、「特定親族特別控除の創設と源泉徴収事務への影響(令和7年度税制改正)」、「令和7年度税制改正で年収の壁はこのように変わった!」をご参照ください。

1.扶養親族等の所得要件の改正

 基礎控除の改正に伴い、扶養控除、配偶者控除、ひとり親控除、障害者控除、寡婦控除、配偶者特別控除、勤労学生控除の対象となる扶養親族等の所得要件が、下表のように改正されました。

扶養親族等の区分 改正前の所得要件※1 改正後の所得要件※1
扶養親族
同一生計配偶者
ひとり親の生計を一にする子
48万円以下
(103万円以下)※2
58万円以下
(123万円以下)※2
配偶者特別控除の対象となる配偶者 48万円超133万円以下
(103万円超201万5,999円以下)※2
58万円超133万円以下
(123万円超201万5,999円以下)※2
勤労学生 75万円以下
(130万円以下)※2
85万円以下
(150万円以下)※2

※1 合計所得金額(ひとり親の生計を一にする子については総所得金額等の合計額)の要件をいいます。合計所得金額、総所得金額等については、「『合計所得金額』『総所得金額』『総所得金額等』の違いとは?」をご参照ください。
※2 表中のカッコ内の金額は、収入が給与だけの場合の収入金額です。特定支出控除の適用がある場合は、表の金額とは異なります。

2.住宅借入金等特別控除の改正

 子育て世帯・若い夫婦世帯※1が、①認定住宅等※2の新築、②認定住宅等で建築後使用されたことのないものの取得、③買取再販認定住宅等※3の取得をして、2025(令和7)年1月1日から同年12月31日までの間に居住の用に供した場合の住宅借入金等の借入限度額を次のとおりとして、所得税額の特別控除が適用できることとされました。

住宅の区分 改正前の借入限度額 改正後の借入限度額
認定住宅 4,500万円 5,000万円
ZEH水準省エネ住宅 3,500万円 4,500万円
省エネ基準適合住宅 3,000万円 4,000万円

※1 子育て世帯・若い夫婦世帯とは、年齢19歳未満の扶養親族のいる世帯又は夫婦のいずれかが年齢40歳未満の世帯をいいます。
※2 認定住宅等とは、認定住宅、ZEH水準省エネ住宅及び省エネ基準適合住宅をいいます。認定住宅とは、認定長期優良住宅及び認定低炭素住宅をいいます。
※3 買取再販認定住宅等とは、認定住宅等である既存住宅のうち宅地建物取引業者により一定の増改築等が行われたものをいいます。

 また、①認定住宅等の新築、②認定住宅等で建築後使用されたことのないものの取得に係る床面積要件について、合計所得金額1,000万円以下の者に限り40㎡に緩和(原則50㎡)する措置が、2025(令和7)年12月31日以前(改正前は2024(令和6)年12月31日以前)に建築確認を受けた家屋について適用できることとされました。

 なお、これらの住宅借入金等特別控除に関する今回の改正は、2025(令和7)年限りの時限的措置となっています。

3.生命保険料控除の改正

 生命保険料控除について以下の見直しが行われたほか、所要の措置が講じられました。この改正は、2026(令和8)年分の所得税について適用されます(2026(令和8)年分のみの適用)。

(1) 新生命保険料に係る一般生命保険料控除について、23歳未満の扶養親族を有する場合の一般生命保険料控除の控除額は、次のとおり計算することとされました。

年間の新生命保険料 控除額
30,000円以下 新生命保険料の全額
30,000円超 60,000円以下 新生命保険料×1/2+15,000円
60,000円超 120,000円以下 新生命保険料×1/4+30,000円
120,000円超 一律60,000円

(2)  旧生命保険料及び上記(1)の適用がある新生命保険料を支払った場合の一般生命保険料控除の適用限度額が6万円(改正前は4万円)とされました。
 なお、一般生命保険料控除、介護医療保険料控除及び個人年金保険料控除の合計適用限度額は、現行と同様の12万円となります。

令和7年度税制改正で年収の壁はこのように変わった!

 2025(令和7)年度税制改正において、物価上昇局面における税負担の調整や就業調整対策の観点から、所得税の基礎控除や給与所得控除の引き上げ、特定親族特別控除の創設等が行われました※。

 以下では、これらの税制改正により、従前からあった給与所得者の年収の壁がどのように変わったのかについて確認します。

※ 令和7年度税制改正の内容については、「基礎控除・給与所得控除の引き上げと源泉徴収事務・年収の壁への影響(令和7年度税制改正)」、「特定親族特別控除の創設と源泉徴収事務への影響(令和7年度税制改正)」、「扶養親族等の所得要件・住宅借入金等特別控除・生命保険料控除の見直し(令和7年度税制改正)」をご参照ください。

1.110万円の壁(住民税)

 改正で給与所得控除の最低保障額が55万円から65万円に引き上げられたことにより、住民税が非課税となる年収が、従前の100万円から110万円に変わりました。

 住民税は、所得金額に応じて課税される「所得割と、定額で課税される「均等割」から成りますが、住んでいる地域や家族構成によって住民税が非課税となる所得金額は異なります。

 例えば、兵庫県宝塚市で均等割が非課税となる所得は、次の算式で算出します。

 35万円×(同一生計配偶者+扶養親族数+本人)+10万円+21万円(同一生計配偶者または扶養親族を有する場合のみ)

 単身の場合は、35万円×1+10万円=45万円が非課税となる所得であり、給与収入に置き換えると110万円(45万円+給与所得控除65万円)となります。

2.123万円の壁(所得税)

 従前の103万円の壁は、年収の壁として広く一般に認識されていたものと思われます。

 改正で基礎控除と給与所得控除最低保障額がそれぞれ10万円ずつ引き上げられたことにより、この103万円の壁が123万円の壁に変わりました。

 また、改正により、配偶者控除や扶養控除の対象となる合計所得金額が48万円以下から58万円以下に変わりましたので、配偶者や扶養親族の年収が123万円以下であれば、配偶者控除や扶養控除の対象となります(給与収入123万円-給与所得控除65万円=58万円)。

 ただし、123万円の壁は配偶者控除や扶養控除の対象となる給与収入を意味するものであり、従前の103万円の壁が持っていた納税者本人に所得税がかからない給与収入という意味はありません。

 納税者本人に所得税がかからない年収の壁については、下記4をご参照ください。

3.150万円の壁(所得税):2つの意味

 従前からあった150万円の壁は、配偶者特別控除について満額の38万円を適用できる年収の壁でしたが、改正により、150万円の壁の意味は以下のように変わりました。

 扶養親族の年収が123万円を超えると扶養控除の対象から外れますので(上記2)、年齢19歳以上23歳未満の扶養親族(以下「大学生年代」といいます)についても、年収が123万円を超えると63万円の扶養控除を適用することができません。

 しかし、大学生年代については、年収が123万円を超えても、令和7年度税制改正で新設された特定親族特別控除を適用することができ、年収が150万円以下であれば、特定親族特別控除について満額の63万円を適用することができます。

 さらに、大学生年代の年収が150万円を超えても188万円以下であれば、納税者本人は段階的に逓減する特定親族特別控除を受けることができます。

 また、勤労学生本人が受けられる勤労学生控除の合計所得金額の要件が、改正により従前の75万円以下から85万円以下に変わりましたので、勤労学生本人の給与収入が150万円以下であれば、勤労学生控除27万円を受けることができます(給与収入150万円-給与所得控除65万円=85万円)。

 なお、社会保険における150万円の壁については、下記8をご参照ください。

4.160万円の壁(所得税):2つの意味

 改正後の年収160万円の壁については、以下の二つの意味があります。

 第一に、納税者本人に所得税がかからない従前の103万円の壁が、160万円の壁に変わりました。

 改正により基礎控除の10万円の引き上げが行われましたが、さらに低~中所得者層の税負担への配慮から、特例として最大95万円の基礎控除が設けられました。

 したがって、給与所得控除最低保障額65万円と合わせて、年収160万円以下であれば、納税者本人に所得税はかかりません(給与収入160万円-給与所得控除65万円-基礎控除95万円=給与所得0円)。

 第二に、配偶者特別控除について満額の38万円を適用できる年収の壁が、従前の150万円から160万円に変わりました。

 満額の38万円を適用できる合計所得金額の上限は従前どおりの95万円ですが、給与所得控除最低保障額が10万円引き上げられたことにより、配偶者の年収が160万円以下であれば、納税者本人は配偶者特別控除38万円の適用を受けることができます(ただし、納税者の合計所得金額が900万円以下の場合です)。

 また、配偶者の年収が160万円を超えても201万円以下(正確には201万5,999円以下)であれば、納税者本人は段階的に逓減する配偶者特別控除を受けることができます。

5.188万円の壁(所得税)

 大学生年代の年収が150万円を超えると段階的に特定親族特別控除が減っていきますが、年収188万円を超えると特定親族特別控除はゼロとなります(上記3)。

 188万円の壁とは、特定親族特別控除が適用されるか否かの年収の分岐点のことをいい、改正後に新しくできた年収の壁です。

6.201万円の壁(所得税)

 配偶者の年収が160万円を超えると段階的に配偶者特別控除が減っていきますが、年収201万円(正確には201万5,999円)を超えると配偶者特別控除はゼロとなります(上記4)。

 201万円の壁とは、配偶者特別控除が適用されるか否かの年収の分岐点のことをいいますが、改正後もこの部分は変わっていません。

7.106万円の壁(社会保険)

 令和7年度税制改正は、以下の社会保険制度上の年収の壁である106万円の壁には影響ありません。

 ①従業員が51人以上(2024(令和6)年10月以降)、②週の労働時間が20時間以上、③月収8.8万円以上(年収106万円以上)、④2か月を超える雇用の見込、⑤学生でない、といった条件を満たす場合は、パートやアルバイトで働く人が自ら社会保険被保険者となり社会保険の扶養から外れます(関連記事「従業員51人以上の会社で働くパート・アルバイトの社会保険加入義務(令和6年10月1日~)」)。

8.130万円の壁と150万円の壁(社会保険)

 令和7年度税制改正によって19歳以上23歳未満の親族等を扶養する場合における特定扶養控除の要件の見直し等が行われたことを踏まえ、扶養認定日が2025(令和7)年10月1日以降で、扶養認定を受ける人(被扶養者)が19歳以上23歳未満の場合(被保険者の配偶者を除く)は、現行の「年間収入130万円未満」が「年間収入150万円未満」に変わりますなお、この「年間収入要件」以外の要件に変更はありません。

 年齢要件(19歳以上23歳未満)は、扶養認定日が属する年の12月31日時点の年齢で判定します。
 例えば、扶養認定を受ける人が令和7年11月に19歳の誕生日を迎える場合には、令和7年(暦年)における年間収入要件は150万円未満となります。

 令和7年10月1日以降の届出で、令和7年10月1日より前の期間について認定する場合、19歳以上23歳未満の被扶養者にかかる年間収入の要件は130万円未満で判定します。

 130万円又は150万円の壁とは、社会保険被保険者である給与所得者(例えば親)が扶養する者(例えば子)については、親が負担する社会保険料のみで子の健康保険料及び国民年金保険料まで賄われるという年収の分岐点のことをいいます。

 従業員が51人以上(2024(令和6)年10月以降)の企業では106万円、それより規模の小さい企業では130万円又は150万円が年収の壁となります。

※ 社会保険の150万円の壁については、「令和7年10月1日から19歳以上23歳未満の人の健康保険の被扶養者認定基準が年収150万円未満に変わります」をご参照ください。