賃上げ促進税制における1月未満の端数の取扱い

 賃上げ促進税制は、青色申告書を提出している中小企業者等が、前年度より給与等の支給額を一定の要件を満たした上で増加させた場合、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度です(関連記事:「中小企業者等の賃上げ促進税制《令和4年4月1日~令和6年3月31日開始事業年度》」)。

 従来の所得拡大促進税制よりも適用要件が簡素化されたとはいえ、判断に迷うケースもあります。
 例えば、決算期の変更や前事業年度が設立初年度である場合など、前事業年度と適用事業年度で月数が異なるケースです。

 今回は、前事業年度の月数と適用事業年度の月数が異なる場合の調整計算について確認します。

1.前事業年度の月数と適用事業年度の月数が異なる場合

 前述したように、決算期の変更や前事業年度が設立初年度である場合など、前事業年度と適用事業年度で月数が異なる場合は、「雇用者給与等支給額・比較雇用者給与等支給額」や「教育訓練費の額・比較教育訓練費の額」について調整の必要があります。

 この調整は、比較雇用者給与等支給額や比較教育訓練費の額において行います。具体的な計算方法は以下のとおりです(比較雇用者給与等支給額の調整のみ確認します)。

(1) 前事業年度の月数が適用事業年度の月数に満たない場合(前事業年度が6月以上の場合)

 次のとおり、前事業年度の雇用者給与等支給額を、適用事業年度の月数分に合わせて増加させる形で調整します。

比較雇用者給与等支給額= 前事業年度の雇用者給与等支給額×適用事業年度の月数÷前事業年度の月数

 例えば、前事業年度 が令和4年10月~令和5年3月(6か月決算)で、適用事業年度が令和5年4月~令和6年3月(12か月決算)の場合は、比較雇用者給与等支給額=前事業年度の雇用者給与等支給額×12÷6となります。 

(2) 前事業年度の月数が適用事業年度の月数に満たない場合(前事業年度が6月に満たない場合)

 次のとおり、適用事業年度の開始の日の前日から過去1年(適用事業年度が1年に満たない場合には適用事業年度の期間)以内に終了した各事業年度に係る雇用者給与等支給額の合計額を、適用事業年度の月数分に合わせて減少させる形で調整します。

比較雇用者給与等支給額= 適用事業年度の開始の日の前日から過去1年(適用事業年度が1年に満たない場合には適用事業年度の期間)以内に終了した各事業年度に係る雇用者給与等支給額の合計額×適用事業年度の月数÷適用事業年度の開始の日の前日から過去1年(適用事業年度が1年に満たない場合には適用事業年度の期間)以内に終了した各事業年度の月数の合計

 例えば、前々事業年度が令和4年1月~令和4年12月(12か月決算)で、前事業年度が令和5年1月~令和5年3月(3か月決算)、 適用事業年度が令和5年4月~令和6年3月(12か月決算)の場合は、比較雇用者給与等支給額=(前々事業年度+前事業年度の雇用者給与等支給額)×12÷(12+3)となります。

(3) 前事業年度の月数が適用事業年度の月数を超える場合

 次のとおり、前事業年度の雇用者給与等支給額を、適用事業年度の月数分に合わせて減少させる形で調整します。

比較雇用者給与等支給額= 前事業年度の雇用者給与等支給額 ×適用事業年度の月数÷前事業年度の月数

 例えば、前事業年度が令和4年4月~令和5年3月(12か月決算)で、適用事業年度が令和5年4月~令和5年9月(6か月決算)の場合は、比較雇用者給与等支給額=前事業年度の雇用者給与等支給額×6÷12となります。 

2.事業年度に1月未満の端数が生じる場合

 前事業年度と適用事業年度で月数が異なる場合の比較雇用者給与等支給額の調整計算は、上記1のとおりですが、いずれのケースも事業年度に1月未満の端数が生じていないことを前提としています。

 事業年度が令和5年10月1日~令和6年3月31日のような場合は、事業年度の月数を6か月とすることに疑問の余地はありません。
 では、事業年度が令和5年10月11日~令和6年3月31日のような場合は、事業年度の月数は5か月となるのでしょうか?それとも6か月となるのでしょうか?

 結論を先に述べると、答えは6か月となります。

 事業年度が令和5年10月11日~令和6年3月31日の場合の期間は5か月と21日ですが、10月に生じたこの21日という1月未満の端数については、賃上げ促進税制では1月とカウントします。

 根拠は、次の租税特別措置法施行令第27条の12の5(給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)第22項にあります。

22 第7項、第9項、第12項から第15項まで及び第18項から前項までの月数は、暦に従つて計算し、1月に満たない端数を生じたときは、これを1月とする。

 上記のとおり、賃上げ促進税制においては、1月未満の端数が生じたときは、これを1月とします。

定額減税の年調減税事務の流れ

 2024(令和6)年分所得税については定額減税が実施されていますので、年末調整の際には、例年の年末調整と異なり年調減税事務を行う必要があります。

 年調減税事務では、年末調整の際、年末調整時点の定額減税額(以下「年調減税額」といいます)に基づき、年間の所得税額との精算を⾏います。

 今回は、定額減税の年調減税事務の流れ(手順)について確認します。

1.年調減税事務の対象となる人

 令和6年の年末調整において年調減税事務の対象となる人は、原則として、年末調整の対象となる人です。

 具体的には、前年以前から引き続き勤務している人や年の中途で就職し年末まで勤務している人(青色事業専従者を含みます)で、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書※1」を年末調整を行う日までに提出している人です(給与の収入金額が2,000万円を超える人を除きます)。

 この年末調整の対象となる⼈が、原則として、年調所得税額から年調減税額を控除する対象者(年調減税事務の対象者)となります※2

 ただし、年末調整の対象となる⼈のうち、給与所得以外の所得を含めた合計所得⾦額が1,805万円を超えると⾒込まれる⼈については、年調減税額を控除しないで年末調整を⾏うことになります※3

※1 扶養控除等(異動)申告書については、本ブログ記事「令和6年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の書き方と記載例」をご参照ください。

※2 年調所得税額とは、年末調整により算出された所得税額で、住宅借入⾦等特別控除の適用を受ける場合には、その控除後の⾦額をいいます。つまり、例年通りの計算方法で年調所得税額を算出します。

※3 年末調整において合計所得⾦額が1,805万円を超えるかどうかは、基礎控除申告書により把握した合計所得⾦額を用います。

2.年調減税額の計算

 年調減税額は、「本人30,000円」と「同一生計配偶者と扶養親族1人につき30,000円」との合計額となります。

 年調減税額の計算に当たっては、「扶養控除等(異動)申告書」や「配偶者控除等申告書」などから、年末調整を行う時の現況における同一生計配偶者の有無及び扶養親族(同一生計配偶者及び扶養親族はいずれも居住者に限ります)の人数を確認することになります※4

 なお、同一生計配偶者(居住者に限ります)を年調減税額の計算に含めるためには、従業員本人が「配偶者控除等申告書兼年末調整に係る定額減税のための申告書」にその配偶者を記載して提出する必要があります※5

※4 定額減税における「同一生計配偶者」と「扶養親族」の内容については、本ブログ記事「定額減税と年末調整で異なる『同一生計配偶者』『扶養親族』の範囲に注意!」をご参照ください。

※5 基礎控除申告書および配偶者控除等申告書に、本人(配偶者)定額減税対象のチェック欄が追加されました。所得金額などから、年調減税額の対象となる場合はチェックを付けます。
 また、年末調整に係る定額減税のための申告書が追加されました。従業員本人の令和6年中の合計所得金額の見積額が1,000万円超で、かつ居住者である同一生計配偶者(令和6年中の合計所得金額の見積額が48万円以下)を年調減税額の計算対象とする場合は、こちらに記載します。

3.年調年税額の計算(年調減税額の控除)

 年調減税額の控除は、住宅借入金等特別控除後の所得税額(年調所得税額)から、その住宅借入金等特別控除後の所得税額を限度に行います。年調年税額の計算手順は次のとおりです。

(1) 年調所得税額の計算
 例年通りの計算方法で、年調所得税額を算出します。

(2) 年調減税額の控除
 年調所得税額から年調減税額を控除します。この金額(下図の「定額減税額控除後の所得金額」)に102.1%(復興特別所得税)を乗じて年調年税額を算出し、過不足額の精算を行います。

出所:国税庁ホームページ

4.源泉徴収簿の作成

 上記2で求めた「年調減税額」、上記3で求めた「年調所得税額から年調減税額を控除した金額」、「年調減税額のうち控除しきれなかった金額(控除外額)」がある場合はその額(無い場合は0円)を、それぞれ源泉徴収簿の余白に記載します。

出所:国税庁ホームページ

 上の例において、「年調所得税額㉔163,600円」を算出するところまでは例年通りです。例年と変わるのは、「年調年税額㉕44,500円」の記入方法です。

 まず、源泉徴収簿の余白に「㉔-2 120,000円」(年調減税額)を記入します。

 次に、源泉徴収簿の余白に「年調所得税額㉔163,600円」から「㉔-2 120,000円」(年調減税額)を控除し、その控除後の残額を「㉔-3 43,600円」と記入します。
 このとき、年調減税額のうち控除しきれなかった⾦額はありませんので、余白に「㉔-4 0円」(控除外額)と記入します。
 年調減税額のうち控除しきれなかった⾦額があるときは、余白に「㉔-3 0円」と記入し、「㉔-4 〇〇〇円」(控除外額)と記入します。

 最後に、「㉔-3 43,600円」(年調減税額控除後の年調所得税額)に102.1%を乗じて復興特別所得税を含む年調年税額44,500円を算出し(100円未満切り捨て)、「年調年税額㉕」欄に記入します。

 この後の手順は例年通りです。「年調年税額㉕44,500円」と「税額⑧204,810円」とを比べて過不⾜額160,310円を「差引超過額⼜は不⾜額㉖」欄に記入し、通常の年末調整と同様にその過不⾜額の精算(160,310円の還付)を⾏います。

5.源泉徴収票の記載例

(1) 年末調整を行った一般的な場合

 年末調整終了後に作成する「令和6年分給与所得の源泉徴収票」には、その「(摘要)」欄に、実際に控除した年調減税額を「源泉徴収時所得税減税控除済額120,000円」と記載します。
 また、年調減税額のうち年調所得税額から控除しきれなかった⾦額がない場合は「控除外額0円」と記載します。
 控除しきれなかった⾦額がある場合は、「控除外額〇〇〇円」と記載します。

出所:国税庁ホームページ

(2) 非控除対象配偶者分の定額減税を受けた場合

 合計所得⾦額が1,000万円超である居住者の同一生計配偶者(以下「非控除対象配偶者」といいます)分を年調減税額の計算に含めた場合には、上記(1)に加えて「非控除対象配偶者減税有」と「(摘要)」欄に記載します。

出所:国税庁ホームページ

(3) 非控除対象配偶者が障害者に該当する場合

 非控除対象配偶者を有する人で、その同一生計配偶者が障害者、特別障害者⼜は同居特別障害者に該当する場合は、「(摘要)」欄に同一生計配偶者の氏名及び同一生計配偶者である旨を記載することとされていますが、この場合に当該非控除対象配偶者分を年調減税額の計算に含めた場合には、「減税有」の追記で差し⽀えありません。

出所:国税庁ホームページ

(4) 年末調整を行っていない場合

 年末調整を⾏わずに退職した人や、令和6年分の給与の収入⾦額が2,000万円を超えるなどの理由により年末調整の対象とならなかった人については、その「令和6年分給与所得の源泉徴収票」の「(摘要)」欄には、定額減税の情報を記載する必要はありません※6
 なお、「源泉徴収税額」欄には、控除前税額から月次減税額を控除した後の実際に源泉徴収した税額の合計額を記載することになります。

※6 関連記事:「令和6年6月1日以後に退職した人の定額減税(年調未済の場合)

資本的支出を行った資産を譲渡した場合の長期・短期の考え方

 譲渡所得の計算では、資産の所有期間が5年を超えれば長期譲渡、5年以下であれば短期譲渡となり、その取扱いを異にしていますので、長期と短期の区分は重要です。

 単独資産の場合は、その所有期間が5年を超えるか否かで長期・短期の区分を判定しますが、資産本体に資本的支出を行った場合は、本体と資本的支出のどちらの所有期間で判定するのか疑問が生じます。

 今回は、資本的支出を行った資産を譲渡した場合の長期と短期の区分の判定について、業務用資産と非業務用資産に分けて確認します。

※ 分離課税の場合は所有期間で、総合課税の場合は保有期間で長期・短期の区分の判定をします。詳細については、本ブログ記事「譲渡所得の短期と長期の判定基準」をご参照ください。

1.業務用資産の場合

 2007(平成19)年4月1日以後に資本的支出を行った場合には、その資本的支出の金額を取得価額とする減価償却資産を新たに取得したものとされますが、これは減価償却資産に関する取扱いです(関連記事:「資本的支出に少額減価償却資産の損金算入の特例は適用できるか?」)。

 他方、譲渡所得とは資産の譲渡による所得をいい、その資産の保有期間中の価値の増加益(キャピタル・ゲイン)について、資産が売買等によりその所有者の手を離れるのを機会に、その保有期間中の価値の増加益に相当する所得の実現があったものとして課税するものです。
 この場合の資産、すなわち譲渡所得の基因となる資産とは、一般にその経済的価値が認められて取引の対象となる資産をいうものと解されています。

 ところで、業務用資産に対して資本的支出を行い、その資本的支出の金額を取得価額とする新たな減価償却資産を取得したものとされたとしても、その資本的支出は、既存の減価償却資産につき改良、改造等のために行われた支出です。
 
 その資本的支出のみが減価償却資産本体と区分され、単独資産として取引の対象となるのであれば別ですが、通常は減価償却資産本体と一体となって取引の対象となる資産が形成されます。

 そうすると、資本的支出を行った資産の譲渡は資本的支出を含めた減価償却資産全体の譲渡となり、減価償却資産本体の所有期間により長期または短期の区分を判定するものと考えられます。

 したがって、例えば、所有期間5年超の業務用資産について、それを譲渡する3か月前に資本的支出を行ったとしても、業務用資産本体を長期譲渡、資本的支出を短期譲渡とはしません。
 原則として、業務用資産本体の所有期間5年超で判定しますので、資本的支出を含めたすべてが長期譲渡となります。

2.非業務用資産の場合

 上記1の業務用資産に行った資本的支出に対する長期と短期の区分の判定は、非業務用資産でも同様の取扱いと考えられます。

 したがって、自宅等の非業務用資産に対する資本的支出についても、原則として、その非業務用資産本体の所有期間により長期または短期の区分を判定するものと考えられます。

資本的支出に少額減価償却資産の損金算入の特例は適用できるか?

 2007(平成19)年4月1日以後に行った資本的支出は、原則として、その資本的支出の金額を取得価額とする減価償却資産を新たに取得したものとされます。
 では、その資本的支出の金額を取得価額として新たに取得したものとされる減価償却資産に、少額減価償却資産の損金算入の特例は適用できるのでしょうか?
 以下では、この点について確認します。

※ 少額減価償却資産の損金算入の特例については、本ブログ記事「30万円未満の少額減価償却資産の損金算入制度と別表16(7)の記載例」をご参照ください。

1.原則として適用不可

 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例(以下「少額資産の特例」といいます)とは、青色申告の中小企業者等が2006(平成18)年4月1日から2026(令和8)年3月31日までの間に取得し、又は製作し、若しくは建設し、かつ、当該中小企業者等の事業の用に供した減価償却資産で、その取得価額が30万円未満のものについては、その取得価額の合計額が300万円に達するまでは損金の額に算入できるという制度です(租税特別措置法第67条の5第1項)。

 2007(平成19)年度税制改正により、2007(平成19)年4月1日以後に行った資本的支出は、原則として、その資本的支出の金額を取得価額とする減価償却資産を新たに「取得」したものとされますが、この場合の「取得」は、少額資産の特例における「取得」又は「製作」若しくは「建設」に該当するのでしょうか?

 2007(平成19)年度税制改正において、資本的支出の金額を取得価額として、減価償却資産本体と種類及び耐用年数を同じくする減価償却資産を新たに取得したものとされたのは、減価償却資産本体に係る取得価額と区分して、資本的支出に係る費用を別の取得価額とすることにより、2007(平成19)年3月31日以前に取得された減価償却資産に対する資本的支出についても新しい償却方法により償却ができることとされるなど、償却限度額の計算上の単なる取得価額の区分に関するものであると考えられます

 したがって、資本的支出の金額を取得価額として新たに取得したものとされる減価償却資産であっても、既存の減価償却資産につき改良、改造等のために行った支出であることから、原則として、少額資産の特例における「取得し、又は製作し、若しくは建設し、かつ、当該中小企業者等の事業の用に供した減価償却資産」には該当しません(租税特別措置法関係通達67の5-3前段)。

※ 資本的支出がその資産全体の使用可能期間の延長又は価額の増加といった効果を与えるものであること及び資産本体と物理的に一体であることは、従前と変わりません。

2.例外的に適用可能

 しかしながら、資本的支出といってもその内容は様々であり、資産本体に単に付随して機能するようなものばかりでなく、その資本的支出自体が一個の資産として機能し、資産本体とは別個の資産として管理・償却を行うとしても問題のないものも見受けられ、既存の取扱いの中にも、そのようなものが存在します。

 例えば、その資本的支出の内容が規模の拡張である場合や単独資産としての機能の付加である場合など、実質的に新たな資産を取得したと認められる場合には、例外的に少額資産の特例を適用することができるとされています(租税特別措置法関係通達67の5-3後段)

 なお、「規模の拡張である場合や単独資産としての機能の付加である場合など」としては、例えば、ソフトウエアのバージョンアップを行った場合であって、既存の機能の強化・拡充にとどまらず、それ自体機能的独立性が高い新機能を追加した場合などが考えられます。

※ 個人に関しては、このような通達は発遣されていませんが、租税特別措置法の規定振りが法人と同様であることから、同じ結論になるものと考えられます。

譲渡所得の短期と長期の判定基準

 譲渡所得とは資産の譲渡による所得をいい、短期譲渡所得と長期譲渡所得では適用される税率が異なります。

 短期譲渡所得の税率(所得税及び復興特別所得税と住民税の合計税率)は39.63%ですが長期譲渡所得は20.315%であり、短期と長期のどちらに該当するかで課される税金の額も大きく変わります。

 短期と長期の区分は、資産を取得した日からの期間が5年を超えるか否かで判定し、その期間の考え方に「所有期間」と「保有期間」があります。

 以下では、「所有期間」と「保有期間」について確認します。

1.譲渡所得の5区分

 譲渡所得は、譲渡する資産の種類とその資産の所有期間(保有期間)によって、以下のように区分されます。

(1)分離短期譲渡所得
 土地(借地権を含む)、建物、構築物等の譲渡で、譲渡年の1月1日における所有期間が5年以下のものをいいます。

(2)分離長期譲渡所得
 土地(借地権を含む)、建物、構築物等の譲渡で、譲渡年の1月1日における所有期間が5年超のものをいいます。

(3)株式等に係る譲渡所得等
 株式等の譲渡で、所有期間は関係ありません。

(4)総合短期譲渡所得
 上記(1)~(3)以外の資産の譲渡で、保有期間が5年以下のものをいいます。

(5)総合長期譲渡所得
 上記(1)~(3)以外の資産の譲渡で、保有期間が5年超のものをいいます。

2.所有期間と保有期間

 上記1より、分離課税の譲渡所得は所有期間が5年を超えるか否かで短期と長期の判定をします。
 一方、総合課税の譲渡所得は保有期間が5年を超えるか否かで短期と長期の判定をします。

 これらを図解すると、次のようになります。

 つまり、所有期間とは取得した日から譲渡した年の1月1日までの期間をいい、保有期間とは取得した日から譲渡した日までの期間をいいます。

3.「取得した日」、「譲渡した日」とは?

 譲渡所得の短期と長期の判定は、上記2のように分離課税は所有期間、総合課税は保有期間で行います。

 では、「取得した日」と「譲渡した日」とはいかなるものをいうのでしょうか?

 譲渡所得の収入を計上すべき時期は、原則として「資産の引渡しがあった日」となりますが、「売買契約の効力発生日」を収入すべき時期として選択することもできます(所得税基本通達36-12)。

 つまり、買い手の「取得した日」と売り手の「譲渡した日」は、原則として「資産の引渡しがあった日」となりますが、「売買契約の効力発生日」とすることもできます。

 また、資産を「取得した日」と「譲渡した日」の判定基準は、異なっても差し支えないこととされています。
 例えば、取得した日は契約日で、譲渡した日は引渡し日とすることも可能です。

 なお、「売買契約の効力発生日」を選択して申告した後、修正申告または更正の請求等で収入すべき時期を「資産の引渡しがあった日」に変更することはできません。

令和6年6月1日以後に退職した人の定額減税(年調未済の場合)

 2024(令和6)年6月1日以後最初に支払われる給与・賞与から、所得税の定額減税(月次減税)が開始されています。

 定額減税(月次減税)の対象となるのは、令和6年6月1日(以下「基準日」といいます)現在において給与の支払者のもとで勤務している人のうち、給与所得の源泉徴収税額表の甲欄が適用される居住者の人(その給与の支払者に扶養控除等申告書を提出している居住者の人)です。

 今回は、定額減税(月次減税)の対象である給与所得者が、年末調整を受けずに年の中途で退職した場合の定額減税について確認します。

※ 定額減税の対象である給与所得者の年末調整については、「定額減税の年調減税事務の流れ」をご参照ください。

1.退職日までの給与について会社は月次減税を行う

 基準日以後に退職した人は、退職日まではその給与の支払者のもとに勤務していますので、基準日現在において扶養控除等申告書を提出していれば、退職日までの給与について会社は定額減税(月次減税)を行います。

2.退職者に渡す源泉徴収票の記載方法

 基準日以後に給与所得者が退職した場合には、源泉徴収の段階で定額減税の適用を受けた上、再就職先での年末調整又は確定申告で最終的な定額減税との精算を行うこととなるため、「令和6年分給与所得の源泉徴収票」の「摘要」欄には、定額減税に関する情報(源泉徴収時所得税減税控除済額×××円、控除外額××× 円)を記載する必要はありません。

 なお、「源泉徴収税額」欄には、控除前税額から月次減税額を控除した後の実際に源泉徴収した税額の合計額を記載することになります。

3.再就職後の月次減税

 前の勤務先で定額減税(月次減税)を受けていた人が、基準日以後に年末調整を受けずに年の中途で退職し、その後において国内にある他の企業等へ再就職して再就職先で主たる給与の支給を受ける場合は、月次減税は行われません。
 この場合は、年末調整時に年調減税を受けることになります。

4.退職所得に係る源泉所得税の定額減税

 退職所得の源泉徴収の際に定額減税は実施されませんが、令和6年分の退職所得を有する人(居住者)は、その退職所得を含めた所得に係る所得税について、確定申告により定額減税額の控除を受けることができます。

 したがって、給与等に係る源泉徴収において控除しきれなかった定額減税額がある場合には、令和6年分の確定申告書を提出することで、退職所得を含めた所得に係る所得税について、定額減税の適用を受けることができます。

※ 関連記事:「退職所得の受給に関する申告書を提出した人が還付を受けるためにする確定申告」、「給与所得者と公的年金等受給者の確定申告不要制度の注意点

令和6年度地域別最低賃金が10月1日から順次引き上げられます

 最低賃金は、パート、アルバイト、正社員、臨時、嘱託など雇用形態や呼称の如何を問わず、すべての労働者に適用されます。
 近年は最低賃金引き上げの流れが続いており、2024(令和6)年度の全国加重平均は時給1,055円と過去最高となっており、引き上げ幅51円も過去最高となっています。
 以下では、2024(令和6)年度の最低賃金について確認します。

1.最低賃金とは?

 最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低額を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければならないとする制度です。
 仮に、最低賃金額より低い賃金を労働者、使用者双方の合意の上で定めても、それは法律によって無効とされ、最低賃金額と同様の定めをしたものとみなされます。
 また、使用者が労働者に最低賃金未満の賃金しか支払っていない場合には、使用者は労働者に対してその差額を支払わなくてはなりません。
 地域別最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、最低賃金法に罰則(50万円以下の罰金)が定められています※1
 なお、特定(産業別)最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、労働基準法に罰則(30万円以下の罰金)が定められています※2

※1 「地域別最低賃金」とは、産業や職種にかかわりなく、各都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に対して適用される最低賃金です。各都道府県に1つずつ、全部で47件の最低賃金が定められています。

※2 「特定(産業別)最低賃金」は、特定の産業について設定されている最低賃金です。関係労使が基幹的労働者を対象として、「地域別最低賃金」よりも金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認める産業について設定されており、全国で224件の最低賃金が定められています(令和6年3月31日現在)。

2.最高額は東京都の時給1,163円

 厚生労働省は、都道府県労働局に設置されている地方最低賃金審議会が答申した2024(令和6)年度の地域別最低賃金の改定額(以下「改定額」)を取りまとめました。改定額及び発効予定年月日は、次の別紙のとおりです。

出所:厚生労働省ホームページ

 この「令和6年度地域別最低賃金答申状況」は、厚生労働大臣の諮問機関である中央最低賃金審議会が令和6年7月25日に示した「令和6年度地域別最低賃金額改定の目安について」などを参考として、各地方最低賃金審議会が調査・審議して答申した結果を、厚生労働省が取りまとめて令和6年8月29日に公表したものです。

 答申された改定額は、都道府県労働局での関係労使からの異議申出に関する手続を経た上で、都道府県労働局長の決定により、10月1日から11月1日までの間に順次発効される予定です。

 地域別最低賃金の全国整合性を図るため目安額のランクが設けられていますが、4区分だったランクが前年度から3区分に変更されています。
 改定額を見ていくとAからCの47都道府県すべてで50円以上引き上げられ、東京都は時給1,163円と最高です。
 最高額1,163円(東京都)と最低額951円(秋田県)の金額差は212円です。最高額に対する最低額の割合は81.8%(951円÷1,163円≒81.8%)と8割を超えており、地域格差は少しずつ改善しています※3

※3 前年度の比率は80.2%でした。なお、この比率は10年連続で改善されています。

3.令和6年度の引き上げ幅は50円~84円

 また、地域経済の活性化や若年層の流出を防ぎ労働人口を確保するには、目安より高い金額の上乗せが必至とした回答が27県あり、目安を上回る引き上げが賃金の低い地方で相次ぎました。
 下表は、2024(令和6)年度の改定額を引き上げ幅ごとに見たものです。

引き上げ幅 改定額
50円

北海道1010円 宮城 973円 栃木 1004円 群馬 985円 埼玉1078円 千葉1076円 東京1163円 神奈川1162円 富山998円 山梨988円 長野 998円 静岡1034円 愛知1077円 三重 1023円 滋賀1017円 京都1058円 大阪1114円 奈良 986円 岡山982円 広島 1020円

51円

石川 984円 岐阜1001円 兵庫1052円 和歌山980円 山口979円 福岡992円

52円

茨城 1005円 香川970円

53円

福井984円

54円

秋田951円 新潟985円 熊本952円

55円

青森953円 山形955円 福島955円 高知952円 長崎953円 大分954円 宮崎952円  

56円

佐賀956円 鹿児島953円 沖縄952 円    

57円

鳥取957円

58円

島根 962円

59円

岩手952円 愛媛 956円   

84円

徳島980円  

所得税・住民税負担のない給与収入103万円超で働く人は調整給付(不足額給付)を受けられる!

 2024(令和6)年6月1日以後最初に支払われる給与・賞与から、所得税の定額減税(月次減税)が開始されています。

 定額減税額の計算対象である同一生計配偶者と扶養親族は、年間の合計所得金額が48万円(給与所得だけの場合は給与の収入金額が103万円)以下であることが要件となっていますので、給与収入103万円超で働く人は定額減税の対象外となります(誰か(配偶者や親など)の定額減税額を計算する際の対象人数としてカウントされません)。

 一方、給与収入103万円超で働く人は、基本的に所得税(および翌年度の住民税)を負担することになりますので、自らの定額減税(月次減税)を受けることができます。

 しかし、給与収入103万円超で働く人の中には、最終的に所得税や住民税を負担しない人もいます。
 例えば、パートやアルバイトで働く人が、年末調整や確定申告で各種控除(社会保険料控除、生命保険料控除、勤労学生控除、寄附金控除、医療費控除など)の適用を受けた結果、所得税額も住民税額(所得割)も0円となるケースです。

 このような場合は、たとえ給与収入103万円超で働く人であっても自らの定額減税を受けられず、また、扶養親族等として誰かの定額減税の対象にもなりません。
 つまり、所得税・住民税負担のない給与収入103万円超で働く人は、定額減税制度の蚊帳の外となっています。

 この点について以前から是正を求める声が上がっていましたが、結果として、所得税・住民税負担のない給与収入103万円超で働く人には、調整給付(不足額給付)が行われることになりました。

 内閣官房ホームページの「よくあるご質問」が更新され、以下の問答が示されています。

Q 令和5年分と令和6年分の所得税の合計所得金額はそれぞれ48万円超ですが、各種控除を適用した結果、所得税額と個人住民税所得割はともに0です。調整給付の支給はありますか。

A 原則として、合計所得金額が48万円超の方で所得税や個人住民税所得割が生じている方は、ご自身が定額減税の対象となりますが、各種控除の適用により所得税、個人住民税所得割の税額がいずれもないことによって本人としての定額減税が受けられず、扶養親族等としての定額減税の対象にも制度上含まれない方については、1人あたり原則4万円の支援が行われるよう調整給付(不足額給付)の対象としています。

※ このうち、調整給付(当初給付)や低所得世帯向け給付(住民税非課税世帯への給付等)を受給している場合は給付対象となりません。


 この場合、調整給付(不足額給付)の受給にあたっては、要件を確認させていただく必要があるため、原則としてご本人からの申請をお願いすることとしています。具体的な給付時期や申請にあたって必要となる書類は、お住まいの市区町村にご確認ください。

※ 市区町村によっては、申請を不要とする場合もありますので詳細はお住まいの市区町村にご確認をお願いいたします。


 上記問答にあるように、1人あたり原則として4万円の不足額給付が行われますが、調整給付(当初給付)や低所得世帯向け給付(住民税非課税世帯への給付等)を受給している場合は給付対象となりません。

 この不足額給付は2025(令和7)年度に実施されると思われますが、不足額給付を受ける際の手続きについては、本人からの申請が必要か否かも含めて、各市区町村に確認する必要があります。

※ 調整給付(当初給付)については、本ブログ記事「調整給付金(定額減税補足給付金)の算定方法と疑問点の検証」をご参照ください。

令和6年10月1日から変わる税金・社会保険その他の主な制度

 2024(令和6)年10月1日から、税金や社会保険などにおいて制度変更が行われるものがあります。
 それらの中には、会社の経営や従業員の働き方などに影響を及ぼすものもありますので、どのような制度変更があるのかを確認しておくことは有意義であると思われます。
 以下では、令和6年10月1日から変更される主な制度について確認します。

1.中小企業倒産防止共済掛金の損金算入制限

 中小企業倒産防止共済制度(経営セーフティ共済)は、取引先事業者が倒産した際に無担保・無保証人で掛金の最大10倍(上限額8,000万円)の金額を借りることができ、中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度です。

 取引先の突然の倒産などの「もしも」のときに備えるというのが本来の目的ですが、掛金全額(1年間で最大240万円)を損金または必要経費に算入できることから、節税対策としても活用されています。

 一方、掛金の積立額は上限800万円とされており、上限に達した後は任意のタイミングで解約して解約手当金を受け取ることになりますが、この解約手当金は収益(益金または収入金額)となります。

 黒字のタイミングで解約すれば解約手当金がすべて課税対象となってしまい、せっかくの損金算入が単なる課税の繰り延べになってしまいますので、節税効果を活かすためには解約するタイミングは重要です。

 一般的には、赤字のタイミングで解約したり、役員退職金や大規模修繕などの大型の経費を計上するタイミングで解約して、解約手当金と相殺する方法があります。

 さらに、解約した後にすぐに再加入して、掛金(前納すれば最大240万円)と解約手当金を相殺するという方法が用いられることがありましたが、この部分が中小企業庁に不適切であると指摘され、見直しが行われました。

 その結果、2024(令和6)年10月1日以後に解約した中小企業倒産防止共済については、解約の日から2年を経過する日までの間に支出する掛金は損金算入することができないとされました。
 これにより、解約後すぐに再加入して節税するというスキームが封じられることになります。

 もし、再加入による掛金の損金算入を検討している場合は、令和6年9月30日までに現契約を一度解約した上で再加入する必要があります。

※ 損金算入制限については、「中小企業倒産防止共済の再加入後の損金算入制限に注意」をご参照下さい。

2.免税事業者等からの仕入れに係る経過措置の適用の制限

 インボイス制度の下では、免税事業者等(消費者、免税事業者又は登録を受けていない課税事業者)からの課税仕入れについては、仕入税額控除のために保存が必要なインボイスの交付を受けることができないことから、仕入税額控除を行うことができません。

 ただし、インボイス制度開始から一定期間(6年間)は、免税事業者等からの課税仕入れであっても、仕入税額相当額の一定割合(80%・50%)を仕入税額とみなして控除できる経過措置が設けられています。

期間 割合
令和5年10月1日から令和8年9月30日まで 仕入税額相当額の80%
令和8年10月1日から令和11年9月30日まで 仕入税額相当額の50%

 上記経過措置が2024(令和6)年度税制改正により見直しが行われ、一の免税事業者等から行う当該経過措置の対象となる課税仕入れの額の合計額がその年又はその事業年度で税込み10億円を超える場合には、その超えた部分の課税仕入れについて、本経過措置は適用できないこととされました。
 この改正は、2024(令和6)年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。

※ 経過措置については、「インボイス制度導入後の免税事業者からの仕入れに係る仕入税額控除の特例(経過措置)」をご参照下さい。

3.パート・アルバイトの社会保険加入義務の拡大

 パートやアルバイトで働く方の社会保険(健康保険及び厚生年金保険)加入義務の判定基準が、2024(令和6)年10月1日から変わります。

 パートやアルバイトで働く短時間労働者の方でも、一定の要件を満たす場合は社会保険に加入しなければなりません。
 一定の要件とは次の4要件をいい、これらの要件をすべて満たす場合は社会保険の加入義務が生じます。

(1) 週の所定労働時間が20時間以上であること
(2) 所定内賃金が月額8.8万円以上であること
(3) 2か月を超える雇用の見込みがあること
(4) 学生でないこと

 現在、厚生年金保険の被保険者数が101人以上の企業等で働く上記4要件を満たす短時間労働者は、社会保険の加入対象となっています。
 この短時間労働者の加入要件がさらに拡大され、令和6年10月1日から厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業等で働く短時間労働者の社会保険加入が義務化されます。

 今回の加入要件の拡大に伴い、該当するパート・アルバイトの方やその家族の生活、働き方の選択などに大きな影響を及ぼす可能性がありますので、事前に制度変更の周知を図る必要があります。

※ 加入要件の詳細については、「従業員51人以上の会社で働くパート・アルバイトの社会保険加入義務(令和6年10月1日~)」をご参照ください。

4.代表取締役等住所非表示措置

 現行の会社法においては、株式会社の代表取締役など会社の代表者は氏名と住所を登記する必要があり、登記後はその氏名と住所が登記簿上で公開されます。

 この登記簿上の代表者の住所について、2024(令和6)年10月1日から登記申請時に代表者の住所を非公開にすることができるという制度(代表取締役等住所非表示措置)が始まります。

 この措置により、登記事項証明書等で公開が必要だった代表者の氏名と住所のうち、住所を非公開にすることができるようになります。
 ただし、非公開にできるのは住所の一部であり、最小行政区画までは公開されます。つまり、市区町村(東京都においては特別区、指定都市においては区)までは公開されます。

 なお、代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合には、登記事項証明書等によって会社代表者の住所を証明することができないこととなるため、金融機関から融資を受けるに当たって不都合が生じたり、不動産取引等に当たって必要な書類(会社の印鑑証明書等)が増えたりするなど、一定の支障が生じることが想定されます。

 そのため、代表取締役等住所非表示措置の申出をする前に、このような影響があり得ることについて、慎重かつ十分な検討が必要です。

※ 制度の詳細については、「令和6年10月1日から登記申請時に社長の住所を非公開にできます」をご参照ください。

5.給与所得者の保険料控除申告書

 2024(令和6)年10月1日以後に提出する「給与所得者の保険料控除申告書」について、以下の「申告者との続柄」の記載を要しないこととされました。

(1) 社会保険料について、社会保険料のうちに自己と生計を一にする配偶者その他の親族が負担すべきものがある場合におけるこれらの者の申告者との続柄
(2) 新生命保険料及び旧生命保険料について、保険金、年金、共済金、確定給付企業年金、退職年金又は退職一時金の受取人の申告者との続柄
(3) 介護医療保険料について、保険金、年金又は共済金の受取人の申告者との続柄
(4) 新個人年金保険料及び旧個人年金保険料について、年金の受取人の申告者との続柄

6.地域別最低賃金の引き上げ

 最低賃金は、パート、アルバイト、正社員、臨時、嘱託など雇用形態や呼称の如何を問わず、すべての労働者に適用されます。

 近年は最低賃金引き上げの流れが続いており、2024(令和6)年度の全国加重平均は時給1,055円と過去最高となっており、引き上げ幅51円も過去最高となっています。
 令和6年度の地域別最低賃金を見ると、最高額は東京都の1,163円、最低額は秋田県の951円となっています。

 令和6年度地域別最低賃金は、令和6年10月1日から同年11月1日にかけて順次引き上げられる予定です。

※ 詳細については、「令和6年度地域別最低賃金が10月1日から順次引き上げられます」をご参照ください。

7.郵便料金の値上げ

 2024(令和6)年10月1日から郵便料金が値上げされます。主な郵便料金の変更内容は次のとおりです。

出所:日本郵便ホームページ

調整給付金(定額減税補足給付金)の算定方法と疑問点の検証

 調整給付金は、2024(令和6)年度に実施される所得税・個人住民税所得割の定額減税を十分に受けられない人に対して、市区町村から支給される給付金(定額減税を補足する給付金)です。

 具体的には、定額減税可能額が2024(令和6)年分の推計所得税額または2024(令和6)年度分の個人住民税所得割額を上回る人に対して、当該上回る額の合計額を基礎として1万円単位で切り上げて算定した額が、2024(令和6)年7月下旬~8月に支給されます。

 今回は、調整給付金の算定方法と、調整給付金について想定される疑問点を検証します。

1.調整給付金の算定方法

 先に述べたように、調整給付金は、定額減税可能額が2024(令和6)年分の推計所得税額または2024(令和6)年度分の個人住民税所得割額を上回る人に対して、当該上回る額の合計額を基礎として1万円単位で切り上げて算定した額が支給されるというものです。

 定額減税可能額は、次のとおりです。

【所得税分】 3万円 × 減税対象人数(納税者本人+同一生計配偶者+扶養親族の数)
【住民税分】 1万円 × 減税対象人数(納税者本人+控除対象配偶者+扶養親族の数)

※ 同一生計配偶者とは、納税者と生計を一にする配偶者(青色専従者等を除く)のうち、合計所得が48万円以下の人です。
※ 控除対象配偶者とは、同一生計配偶者のうち、納税者の所得が1,000万円以下で、配偶者の合計所得が48万円以下の人(配偶者控除の対象者)です。
※ 扶養親族には16歳未満の扶養親族も含みます。
※ 非居住者(国外居住者など)は、減税対象人数に含みません。

 調整給付金は、例えば、家族構成4人(本人、配偶者、子ども2人)、令和6年分推計所得税額10万円、令和6年度分個人住民税所得割額3万5千円の場合を前提とすると、次のように算定します。

【所得税】
定額減税可能額=3万円 × 減税対象人数4人=12万円
控除不足額=定額減税可能額12万円-推計所得税額10万円=2万円
【住民税】
定額減税可能額=1万円 × 減税対象人数4人=4万円
控除不足額=定額減税可能額4万円-住民税所得割額3万5千円=5千円
【調整給付金】
調整給付金=所得税の控除不足額2万円+住民税の控除不足額5千円=2万5千円→3万円(1万円単位に切り上げ)

2.調整給付金に関するQ&A

 調整給付金の算定方法は上記1のとおりですが、以下では調整給付金に関する疑問点をQ&A形式で検証します。

(1) 令和6年分推計所得税額はどのようにして算出しているのか?

 調整給付金の算定において、所得税の控除不足額は定額減税可能額から令和6年分推計所得税額を引いて算定しますが、この推計所得税額は2023(令和5)年分所得等を基に市区町村で算出しています。

 国からの通知に基づき、国の算定ツールを用いて算出するため、2023(令和5)年分確定申告書や勤務先から交付された2023(令和5)年分源泉徴収票の所得税額とは一致しない場合があります。
 特に住宅ローン控除を所得税で引ききっている場合(住民税で控除の適用がない場合)などは、算定ツールの仕様上、実際の所得税額と一致しません。

 このような場合には、次の(2)の対応になります。

(2) 調整給付金の支給額が不足していることが判明した場合は?

 調整給付金の算定に用いる令和6年分推計所得税額や令和6年度分個人住民税所得割額が実際の数値と異なる場合でも、基本的に調整給付金の変更は行われません。

 令和6年分推計所得税額は実額による算出ではないことを踏まえ、令和6年分所得税額が確定した後(年末調整または確定申告)に調整給付金の支給額に不足が生じていること(令和6年分推計所得税額>令和6年分確定所得税額)が判明した場合は、当該不足額が2025(令和7)年度に追加で給付される予定です。

(3) 調整給付金の支給額が過大となっていることが判明した場合は?

 上記(2)とは逆に、令和6年分所得税額が確定した後(年末調整または確定申告)に調整給付金の支給額に過大額が生じていること(令和6年分推計所得税額<令和6年分確定所得税額)が判明した場合は、当該過大額を返還しなければならないのでしょうか?

 答えは「否」です。調整給付金の支給額に過大額が生じていたとしても、返還は不要です。
 国は、給付しすぎた部分については返還を求めないとの方針を公表しています。

(4) 令和6年度住民税所得割も令和5年分所得税も課税されていない場合、調整給付の対象になるか?

 2024(令和6)年度住民税所得割(定額減税前の税額)も2023(令和5)年分所得税も課税されていない(0円)場合は、調整給付(当初給付)の対象となりません。

 ただし、世帯全員の令和6年度住民税所得割が非課税で、令和5年度に実施された(令和5年度個人住民税で判定)非課税世帯を対象とする給付金(7万円)、均等割のみ課税世帯を対象とする給付金(10万円)の対象となっていない世帯であれば、令和6年度低所得者支援給付金の対象となる場合がありますので、支給要件をご確認ください。

(5) 定額減税後に控除しきれない額が3,000円ある場合、均等割(5800円)から控除するのか?

 個人住民税には、所得に応じた負担を求める「所得割」と、所得にかかわらず定額の負担を求める「均等割」があり、所得の水準に基づき、市区町村において税額(所得割額・均等割額)が決定されます。
 今回の定額減税は「所得割」から控除するものであるため、均等割からは控除されません。

(6) 調整給付金は課税対象や差押えの対象となるか?

 調整給付金は課税対象ではありません。また、法律により差押えが禁止されています。