リース資産について中小企業が賃貸借処理した場合の仕入税額控除(新リース会計基準)

 2024(令和6)年9月に企業会計基準委員会より新リース会計基準が公表され、これを受けて2025(令和7)年度税制改正で新リース会計基準を踏まえた税務上の対応がなされています。

 以下では、新リース会計基準の下で、所有権移転外ファイナンス・リース取引について中小企業が「賃貸借取引に準じた会計処理」(以下「賃貸借処理」といいます)をした場合の仕入税額控除について確認します。

1.新リース会計基準で賃貸借処理は認められるか?

 新リース会計基準では、借り手の会計処理について、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区分が廃止され、すべてのリースについて使用権資産とリース負債を貸借対照表に計上する「売買取引に準じた会計処理」(以下「売買処理」といいます)に統一されました(短期リース・少額リースを除きます)。

 そのため、所有権移転外ファイナンス・リース取引やオペレーティング・リース取引については、新リース会計基準の下では賃貸借処理ではなく売買処理をすることになり、会計処理が煩雑になる懸念があります。

 しかし、この懸念に対して結論を述べると、上場企業や会社法上の大企業は新リース会計基準が強制適用されますが、未上場企業や中小企業は新リース会計基準が強制適用されず、従来通りの会計処理を継続することができます

 つまり、所有権移転外ファイナンス・リース取引やオペレーティング・リース取引について、新リース会計基準の下でも中小企業は賃貸借処理をすることが可能です。 

新リース会計基準については、「新リース会計基準の導入が中小企業に及ぼす会計上と税務上の影響(令和7年度税制改正)」をご参照ください。

2.賃貸借処理した場合の仕入税額控除の時期

 上記1のように、新リース会計基準の下でも、中小企業は売買処理によらずに賃貸借処理をすることができます。

 では、所有権移転外ファイナンス・リース取引(以下「移転外リース取引」といいます)について借り手が賃貸借処理をしている場合に、そのリース料を支払うべき日の属する課税期間において仕入税額控除(分割控除)することは認められるでしょうか?
 
 移転外リース取引は、リース資産の引渡し時にリース資産の売買があったものとして取り扱われるため、移転外リース取引について借り手が賃貸借処理をしている場合でも、原則として当該リース資産の引渡しを受けた日の属する課税期間において、そのリース資産の取得価格に係る消費税額を仕入税額控除(一括控除)することになります

 ただし、一括控除を原則としながらも、そのリース料を支払うべき日の属する課税期間に仕入税額控除(分割控除)することも認められます。

 なお、令和7年度税制改正により、リース譲渡に係る資産の譲渡等の時期の特例(延払基準)が廃止されましたが、貸し手における処理にかかわらず、借り手において会計上賃貸借処理が可能な場合には、引き続き分割控除することができます。

例えば、会計上賃貸借処理をしている借り手が一括控除する場合など、会計処理の方法と消費税額の計算が異なる場合、帳簿の摘要欄等にリース料総額を記載する方法や、会計上のリース資産の計上価額から消費税における課税仕入れに係る支払対価の額を算出するための資料を作成し、帳簿と合わせて保存する方法などにより、帳簿においてリース料総額(対価の額)を明らかにする必要があります。

3.賃貸借処理に基づいて分割控除している場合の留意点

 移転外リース取引に係るリース資産の仕入税額控除の時期については、そのリース資産の引渡しを受けた日の属する課税期間(リース期間の初年度)において一括控除することが原則であるため、賃貸借処理に基づいて分割控除している場合には、以下の点に留意する必要があります。

(1) 仕入税額控除の時期を変更することの可否

 例えば、賃貸借処理しているリース期間が3年の移転外リース取引(リース料総額660,000円)について、リース期間の初年度にその課税期間に支払うべきリース料(220,000円)について仕入税額控除を行い、2年目にその課税期間に支払うべきリース料と残額の合計額(440,000円)について仕入税額控除を行うといった処理は認められません。

(2) 簡易課税から原則課税に移行した場合等の取扱い

 次に掲げるような場合のリース期間の2年目以降の課税期間については、その課税期間に支払うべきリース料について仕入税額控除することができます。

① リース期間の初年度において簡易課税制度を適用し、リース期間の2年目以降は原則課税に移行した場合

② リース期間の初年度において免税事業者であった者が、リース期間の2年目以降は課税事業者となった場合

新リース会計基準の導入が中小企業に及ぼす会計上と税務上の影響(令和7年度税制改正)

 リース取引は、契約内容によって「ファイナンス・リース取引」と「オペレーティング・リース取引」に分けられ、さらに、ファイナンス・リース取引は、「所有権移転ファイナンス・リース取引」と「所有権移転外ファイナンス・リース取引」に分けられます。

 ファイナンス・リース取引とは、リース期間中に契約を解除できない(ノンキャンセラブル)、かつ、借り手がリース物件の経済的利益を享受しコストを負担する(フルペイアウト)リース取引をいいます。
 
 さらに、ファイナンス・リース取引は、リース期間終了後に資産の所有権が貸し手から借り手に移ると認められる所有権移転ファイナンス・リース取引と、リース期間が終了しても借り手に所有権が移らない所有権移転外ファイナンス・リース取引に分かれます。

 また、オペレーティング・リース取引とは、ファイナンス・リース取引以外のリース取引をいいます。

 これらのリース取引について、2024(令和6)年9月に企業会計基準委員会より新リース会計基準が公表され、2025(令和7)年度税制改正で新リース会計基準を踏まえた税務上の対応がなされています。

 以下では、借り手である中小企業の立場から、新リース会計基準の導入が及ぼす会計上と税務上の影響について確認します。

1.新基準によるオペレーティング・リース取引の会計上の取扱い

 2024(令和6)年9月に、企業会計基準委員会より新リース会計基準が公表されました。旧リース会計基準からの見直しの内容は次のとおりです。

(1) 借り手については、これまでのファイナンス・リース(売買取引に準じた会計処理)とオペレーティング・リース(賃貸借取引に準じた会計処理)との区分を廃止し、使用権資産とリース負債を計上する単一の会計モデルを採用することとされました。

(2) 貸し手については、引き続きファイナンス・リースとオペレーティング・リースを区分することとし、その区分に応じた処理を行うこととされました。
 なお、ファイナンス・リースの場合の会計処理のうち、リース料受取時に売上高と売上原価を計上する方法による会計処理は、収益認識会計基準において割賦基準が認められなくなったことを踏まえて、廃止することとされました。

(3) 新リース会計基準は、2027(令和9)年4月1日以後に開始する事業年度の期首から適用することとされていますが、2025(令和7)年4月1日以後に開始する事業年度の期首からの早期適用も認めることとされました。

出所:国税庁ホームページ

 新リース会計基準では、ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引の区分は廃止され、原則として、すべてのリース取引はオンバランスでの会計処理に統一されます。
 オンバランスとは、貸借対照表に資産や負債を計上し、売買取引に準じた会計処理を行うことをいいます。

 したがって、これまで賃貸借取引に準じた会計処理(資産や負債を計上せずにリース料を費用計上する会計処理)が認められていたオペレーティング・リース取引についても、ファイナンス・リース取引と同様に売買取引に準じた会計処理となりますので、従来に比べてリース取引の会計処理が煩雑になる懸念があります。

2.オペレーティング・リース取引の税務上の取扱い

 新リース会計基準では、オペレーティング・リース取引について、会計上は売買取引に準じた会計処理を行うこととされましたが、法人税法上は従来と変わらず、賃貸借取引に準じた会計処理とされました(法人税法第53条が新設されました)。

出所:国税庁ホームページ

 したがって、オペレーティング・リース取引については、会計上は新リース会計基準に則った売買取引に準じた会計処理を行い、税務上は賃貸借取引に準じた会計処理を行うことになりますので、会計上と税務上で会計処理の乖離が生じ、申告調整が必要となります。 

 ところが、中小企業など、監査対象法人以外の法人については、新リース会計基準によらず、引き続き「中小企業の会計に関する指針」又は「中小企業の会計に関する基本要領」に則った会計処理も可能とされていますので、オペレーティング・リース取引について会計上も賃貸借取引に準じた会計処理を行った場合は、会計上と税務上で会計処理の乖離は生じず、申告調整も不要となります。

 また、旧リース会計基準においては、所有権移転ファイナンス・リース取引は売買取引に準じた会計処理を行いますが、所有権移転外ファイナンス・リース取引については、「借り手が中小企業」又は「リース期間が1年以内、又は、リース契約1件当たりのリース料総額が300万円以下」の条件に該当する場合は、賃貸借取引に準じた会計処理が認められていました。

 新リース会計基準においても「短期リース(リース期間が12か月以内)」と「少額リース(重要性の乏しいリース契約1件当たりのリース料総額が300万円以下のリースなど)については、オンバランス不要の賃貸借取引に準じた会計処理が認められていますので、多くの中小企業は簡便な賃貸借取引に準じた会計処理を行うものと思われます。

 そのため、今回の新リース会計基準の導入が借り手である中小企業に与える影響は、実質的には大きくないものと思われます。

令和7年度地域別最低賃金が10月1日から順次引き上げられます

 最低賃金は、パート、アルバイト、正社員、臨時、嘱託など雇用形態や呼称の如何を問わず、すべての労働者に適用されます。

 近年は最低賃金引き上げの流れが続いており、2025(令和7)年度の全国加重平均は時給1,121円(昨年度は1,055円)と過去最高となっており、引き上げ幅66円(昨年度は51円)も過去最高となっています。

 最低賃金の引き上げには、物価上昇局面における国民の生活水準の改善という狙いがある一方、事業主にとっては人件費の増加による経営圧迫というリスクをもたらしています。

 以下では、2025(令和7)年度の最低賃金について確認します。

1.最低賃金とは?

 最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低額を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければならないとする制度です。
 仮に、最低賃金額より低い賃金を労働者、使用者双方の合意の上で定めても、それは法律によって無効とされ、最低賃金額と同様の定めをしたものとみなされます。

 また、使用者が労働者に最低賃金未満の賃金しか支払っていない場合には、使用者は労働者に対してその差額を支払わなくてはなりません。
 地域別最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、最低賃金法に罰則(50万円以下の罰金)が定められています※1

 なお、特定(産業別)最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、労働基準法に罰則(30万円以下の罰金)が定められています※2

※1 「地域別最低賃金」とは、産業や職種にかかわりなく、各都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に対して適用される最低賃金です。各都道府県に1つずつ、全部で47件の最低賃金が定められています。

※2 「特定(産業別)最低賃金」は、特定の産業について設定されている最低賃金です。関係労使が基幹的労働者を対象として、「地域別最低賃金」よりも金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認める産業について設定されており、全国で224件の最低賃金が定められています(令和7年3月31日現在)。

2.最高額は東京都の時給1,226円

 厚生労働省は、都道府県労働局に設置されている地方最低賃金審議会が答申した2025(令和7)年度の地域別最低賃金の改定額(以下「改定額」)を取りまとめました。改定額及び発効予定年月日は、次のとおりです。

出所:厚生労働省ホームページ

 この「令和7年度地域別最低賃金答申状況」は、厚生労働大臣の諮問機関である中央最低賃金審議会が令和7年8月4日に示した「令和7年度地域別最低賃金額改定の目安について」などを参考として、各地方最低賃金審議会が調査・審議して答申した結果を、厚生労働省が取りまとめて公表したものです。

 答申された改定額は、都道府県労働局での関係労使からの異議申出に関する手続を経た上で、都道府県労働局長の決定により、令和7年10月1日から令和8年3月31日までの間に順次発効される予定です。

 地域別最低賃金の全国整合性を図るため目安額のランクが設けられていますが、4区分だったランクが前々年度から3区分に変更されています。
 改定額を見ていくとAからCの47都道府県すべてで63円以上引き上げられ、東京都は時給1,226円と最高です。
 最高額1,226円(東京都)と最低額1,023円(高知県、宮崎県、沖縄県)の金額差は203円です。最高額に対する最低額の割合は83.4%(1,023円÷1,226円≒83.4%)と8割を超えており、地域格差は少しずつ改善しています※3

※3 前年度の比率は81.8%でした。なお、この比率は11年連続で改善されています。

3.令和7年度の引き上げ幅は63円~82円

 下表は、2025(令和7)年度の改定額を引き上げ幅ごとに見たものです。

引き上げ幅 改定額
63円

埼玉1141円 東京1226円 神奈川1225円 長野 1061円     静岡1097円 愛知1140円 滋賀1080円 大阪1177円 

64円

栃木 1068円 千葉1140円 富山1062円 山梨1052円      岐阜1065円 三重 1087円 京都1122円 兵庫1116円 山口1043円 

65円

北海道1075円 宮城 1038円 新潟1050円 奈良 1051円     和歌山1045円 岡山1047円 広島 1085円 福岡1057円

66円

徳島1046円 香川1036円

69円

茨城1074円 福井1054円 

70円

石川 1054円  

71円

島根 1033円 高知1023円 宮崎1023円 沖縄1023 円    

73円

鳥取1030円 鹿児島1026円 

74円

佐賀1030円 

76円

青森1029円    

77円

山形1032円 愛媛 1033円   

78円

福島1033円 群馬 1063円 長崎1031円 

79円

岩手1031円 

80円

秋田1031円 

81円

大分1035円

82円

熊本1034円

税抜経理方式と税込経理方式を併用する場合の問題点とその調整のための会計処理

 消費税(地方消費税を含みます。以下同じ)の会計処理方法には税込経理方式と税抜経理方式があり、どちらの方式を選択してもよいことになっていますが※1、選択した方式は、その事業者が行うすべての取引に適用するのが原則です。

 ところが、税抜経理方式を選択適用している場合は、一定の条件の下で、税込経理方式を併用することができます※2

 しかし、税抜経理方式を選択適用する場合の税込経理方式の併用(以下「併用方式」といいます)には、問題点もあります。

 以下では、併用方式の問題点とそれを調整するための会計処理について確認します。

※1 免税事業者は、税込経理方式しか適用できません。

※2 税抜経理方式を選択適用している場合の税込経理方式の併用条件等については、「税抜経理方式の場合に棚卸資産を税込で計上するときの条件と損益に与える影響」をご参照ください。
 なお、税込経理方式を選択適用している場合は、すべての取引について税込経理方式しか適用できません。

1.併用方式の問題点

 事業者がすべての取引について税抜経理方式を選択適用した場合、消費税等が課される取引については税抜金額で計上し、課税売上げに対する消費税等の額は仮受消費税等とし、また、課税仕入れに対する消費税等の額は仮払消費税等とします。

 例えば、税込330万円の商品を仕入れて、その商品を税込550万円で売った場合の会計処理は次のようになります(税率10%)。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仕入 300万円 現金預金 330万円
仮払消費税等 30万円    
借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
現金預金 550万円 売上 500万円
    仮受消費税等 50万円

 

 また、決算において、仮受消費税等の合計額から仮払消費税等の合計額を差し引いて(精算して)、納税額を未払計上します。上記以外の取引が無かったものとすると、決算仕訳は次のようになります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仮受消費税等 50万円 仮払消費税等 30万円
    未払消費税等 20万円

 一方、併用方式においては、売上などの収益に係る取引については必ず税抜経理をしなければなりませんが、次の各グループに関する取引のいずれかについては、グループごとに税込経理を適用することが認められています。

(1) 棚卸資産の取得
(2) 固定資産・繰延資産の取得
(3) 販売費・一般管理費など(以下「経費等」といいます)の支出

 この場合、仮受消費税等の合計額から仮払消費税等の合計額を差し引いた金額は、納税額または還付税額と一致しません。

 例えば、経費等の支出に係る取引について税込経理を適用した場合には、経費等に含まれる消費税等を仮払消費税等としないため、その課税期間の仮受消費税等の合計額から仮払消費税等の合計額を差し引いた金額と納付すべき税額または還付されるべき税額との間に差額が出ます。

 上記の例(税込330万円の商品を仕入れて、その商品を税込550万円で売った場合)を、併用方式(仕入を税込処理)で会計処理すると次のようになります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仕入 330万円 現金預金 330万円
仮払消費税等 0万円    
借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
現金預金 550万円 売上 500万円
    仮受消費税等 50万円
借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仮受消費税等 50万円 仮払消費税等 0万円
    未払消費税等 20万円

 上記の決算仕訳においては、仮受消費税等の合計額(50万円)から仮払消費税等の合計額(0円)を差し引いた金額(50万円)と未払消費税等(20万円)との間に差額(30万円)が出ており仕訳が成り立ちません。

 また、所得金額または損益の点から検討すると、この例では、税込経理した仕入に含まれる消費税の額(30万円)だけ経費等の額が多くなります。
 裏を返せば、すべての取引について税抜経理方式を適用した場合に比べて、一部を税込経理する併用方式を適用した場合は、利益が少なく算出されることになります(下図)。

税抜経理方式と併用方式は会計処理(記帳)の方法であって消費税の納税額の計算方法ではありませんので、どちらの方式を適用したとしても納税額(未払消費税等)は同じになります。

2.差額を益金または総収入金額に算入

 併用方式により生じた、仮受消費税等の合計額から仮払消費税等の合計額を差し引いた金額と納付すべき税額または還付されるべき税額との差額については、法人においては、その課税期間を含む事業年度の益金の額に算入し、個人事業者においては、その課税期間を含む年の総収入金額に算入します。

 上記1の例では、併用方式の決算仕訳は次のようになります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仮受消費税等 50万円 仮払消費税等 0万円
    未払消費税等 20万円
    雑収入 30万円

 その結果、すべての取引について税抜経理方式を適用した場合と併用方式を適用した場合の利益は同額となり、所得金額または損益の点からも、併用方式の問題点は解消されます(下図)。

税抜経理方式の場合に棚卸資産を税込で計上するときの条件と損益に与える影響

 消費税(地方消費税を含みます。以下同じ)の会計処理方法には税込経理方式と税抜経理方式があり、どちらの方式を選択してもよいことになっていますが※1、選択した方式は、その事業者が行うすべての取引に適用するのが原則です。

 棚卸資産を例に挙げると、税込経理方式を選択している場合は棚卸資産も税込金額で計上し、税抜経理方式を選択している場合は棚卸資産も税抜金額で計上します。

 ところが、税抜経理方式を選択適用している場合は、一定の条件の下で、棚卸資産を税込金額で計上することもできます※2

 以下では、棚卸資産を中心に、税抜経理方式を選択適用する場合の税込経理方式の併用条件と併用が損益に与える影響について確認します。

※1 免税事業者は、税込経理方式しか適用できません。

※2 税込経理方式を選択適用している場合に、棚卸資産を税抜金額で計上することはできません。

1.税抜経理方式と税込経理方式の併用条件

 税抜経理方式を選択適用する場合は、売上げなどの収益に係る取引については、必ず税抜経理をしなければなりません。

 一方、次の各グループに関する取引のいずれかについては、税抜経理方式を選択適用していても税込経理方式を適用することが認められています。

(1) 棚卸資産の取得
(2) 固定資産・繰延資産の取得
(3) 販売費・一般管理費など(以下「経費等」といいます)の支出

 ただし、以下の条件に留意する必要があります。

イ.売上などの収益に係る取引に加えて、上記(1)(2)(3)のうち、少なくとも1グループについては税抜経理をしなければなりません(例えば、(1)は税込み、(2)と(3)は税抜きなどは認められますが、(1)(2)(3)すべてを税込みとすることはできません)。

ロ.棚卸資産の取得に関する取引については、継続適用を条件として、固定資産・繰延資産の取得に関する取引と異なる経理方式を適用することができます。

ハ.税抜経理方式と税込経理方式を併用して適用する場合でも、個々の棚卸資産、固定資産、繰延資産、または個々の経費等について異なる経理方式を適用することはできません(例えば、棚卸資産のうち、ある棚卸資産は税抜きとし、そのほかの棚卸資産は税込みとする処理は認められません)。

 なお、上記(1)棚卸資産の取得について税込経理をする場合に、「棚卸資産の取得」という文言から、期末棚卸資産だけでなく、その仕入時(棚卸資産の取得時)も税込経理する必要があるのかというとそうではなく、仕入時は税抜金額で計上し、決算時は期末棚卸資産を税込金額で計上します。

 したがって、決算書の当期仕入高は税抜金額で、期末棚卸高は税込金額で表示されることになります。

2.併用方式が損益に与える影響

 税抜経理方式と税込経理方式は会計処理の方法であって消費税の納税額の計算方法ではありませんので、どちらの方式を選択適用したとしても納税額に差異はなく、算出される利益は原則として同じになります。

 しかし、税抜経理方式を選択適用している場合に棚卸資産を税込金額で計上するとき(以下「併用方式」といいます)は、税抜経理方式のみで会計処理する場合と比べて、利益は大きくなります。

 例えば、税込110万円分(税率10%)の期末在庫(期末棚卸資産)があったとすると、税抜経理方式のみで会計処理する場合の期末在庫が100万円であるのに対し、併用方式の場合の期末在庫は110万円となるので、消費税10万円分だけ期末在庫が大きくなり、その分売上原価が小さくなります。
 売上原価が10万円小さくなると、売上総利益が10万円大きく算出されることになります。
 その結果、課税される法人税(個人の場合は所得税)も多くなります。

 上図は、説明を簡略化するため、期首在庫(期首棚卸資産)を無いものとしていますが、税抜経理方式から税込経理方式に、税込経理方式から税抜経理方式に変更した場合でも、期首在庫の価額について、仕入時に計上した金額を修正する必要はありません。
 会計処理を変更した場合でも、前期の期末在庫の金額をそのまま当期の期首在庫の金額として引き継ぎます。

ふるさと納税の寄附金控除の計算方法とよくある誤解(令和7年度個人住民税)

 ふるさと納税は、「生まれ育ったふるさとに貢献できる制度」、「自分の意思で応援したい自治体を選ぶことができる制度」として創設されました。

 「納税」という言葉がついていますが、実際には、都道府県、市区町村への「寄附」のことをいい、ふるさと納税の限度額をきちんと把握しておけば、ふるさと納税額から2,000円を除いた全額が寄附金控除の対象となります。

 所得税からの寄附金控除は、ふるさと納税を行った年の所得税から控除され、個人住民税からの寄附金控除は、ふるさと納税を行った翌年度の個人住民税から控除されます。

 以下では、個人住民税におけるふるさと納税の寄附金控除の計算方法を確認し、ふるさと納税に関するよくある誤解について解説します。

1.個人住民税からの控除額の計算方法

 個人住民税からの控除には「基本分」と「特例分」があり、それぞれ次のように計算します。

① 個人住民税からの控除(基本分)=(ふるさと納税額-2,000円)×10%
 控除の基本分は、上記①の計算式で計算します。なお、控除の対象となるふるさと納税額は、総所得金額等の30%が上限です。
② 個人住民税からの控除(特例分)=(ふるさと納税額-2,000円)×個人住民税の課税総所得金額から人的控除差調整額を控除した金額に応じた割合
 控除の特例分は、この特例分が個人住民税所得割額の2割を超えない場合は、上記②の計算式で計算します。なお、「個人住民税の課税総所得金額から人的控除差調整額を控除した金額に応じた割合」は、下表のとおりです。
課税総所得金額から人的控除差調整額を控除した金額 割合
0円以上195万円以下 84.895%
195万円超330万円以下 79.79%
330万円超695万円以下 69.58%
695万円超900万円以下 66.517%
900万円超1,800万円以下 56.307%
1,800万円超4,000万円以下 49.16%
4,000万円超 44.055%
 この特例分が個人住民税所得割額の2割を超えない場合は、個人住民税からの控除額は①(基本分)と②(特例分)の合計額となります。
③ 住民税からの控除(特例分)=個人住民税所得割額×20%
 上記②で計算した特例分が個人住民税所得割額の2割を超える場合は、上記③の計算式で計算します。このときの個人住民税からの控除額は、①(基本分)と③(特例分)の合計額となります。

2.個人住民税からの控除額の計算例

 以下の説例で、個人住民税からの寄附金控除額を計算してみます。

・個人住民税の課税総所得金額:150万円(基礎控除43万円のみ適用あり)
・ふるさと納税額:2万5千円(ふるさと納税の限度額の範囲内)

① 個人住民税からの控除(基本分)=(25,000円-2,000円)×10%=2,300円
市民税分:2,300円×3/5=1,380円
県民税分:2,300円×2/5=920円

② 個人住民税からの控除(特例分)=(25,000円-2,000円)×84.895%=19,525.85円
市民税分:19,525.85円×3/5=11,715.51円≒11,716円(端数切り上げ)
県民税分:19,525.85円×2/5=7,810.34円≒7,811円(端数切り上げ)

 したがって、個人住民税額からの寄附金控除の合計額は、①+②=21,827円(=1,380円+920円+11,716円+7,811円)となります。

3.ふるさと納税のよくある誤解

 ふるさと納税の個人住民税からの寄附金控除額は上記のように計算しますが、この寄附金控除額に関して、納税者の方から次のような質問をよく受けます。

(1) ふるさと納税から2千円を引いた全額が住民税から控除されていないのはなぜか?

 例えば、上記2の計算例では、25,000円のふるさと納税に対して、個人住民税から控除された額は21,827円となっています。このときに次の質問をよく受けます。

 「ふるさと納税額25,000円から自己負担額の2,000円を引いた23,000円が個人住民税から控除されるはずなのに21,827円しか控除されていないのはなぜですか?」

 これに対する回答は、次のとおりです。

 「ふるさと納税は、限度額の範囲内で行う限り、所得税(復興特別所得税を含む)と個人住民税を合わせて23,000円の控除となるようになっています。

 所得税から(25,000円-2,000円)×所得税率5%=1,150円、復興特別所得税から(25,000円-2,000円)×0.1021%≒23円、合計1,173円が控除されていますので、個人住民税からの控除額21,827円と合わせると23,000円になります。」

(2) ワンストップ特例を受けたら所得税から寄付金控除が受けられない?

 給与所得しかない納税者の方で医療費控除などの所得控除を受けない方は、ふるさと納税のワンストップ特例を適用することができます。

 この場合、所得税の確定申告をする必要はないのですが、確定申告をしないということは、個人住民税ではふるさと納税の寄附金控除を受けることができても所得税では寄附金控除を受けられないのではないか?という疑問を持つ納税者の方もいます。

 確かに、ふるさと納税のワンストップ特例を適用した場合は、所得税で寄附金控除を受けることはありません。
 ただし、この場合は、個人住民税から(ふるさと納税額-2,000円)の全額が控除されます
(先の説例では25,000円-2,000円=23,000円が個人住民税から控除されます)。

 ワンストップ特例を適用して損をするということはありませんので、ご安心ください。

個人が開業して1年後に従業員を雇う場合の「給与支払事務所等の開設届」と「納期の特例承認申請書」の書き方・記載例

 個人が開業して、しばらくの間は1人で事業をしていましたが、その事業が軌道に乗ってきたため従業員を雇って給与を支給することになった場合は、所轄税務署に「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」を提出する必要があります

 また、給与から源泉徴収した所得税は、原則として徴収した日の翌月10日までに納付しなければなりませんが、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を所轄税務署に提出することで、半年分を年2回にまとめて納付することができます(1月~6月分は7月10日までに、7月~12月分は翌年1月20日までに納付します)。

 以下では、開業後すぐではなく、開業後一定期間が経過してから給与の支給を開始する場合の「給与支払事務所等の開設届」と「納期の特例承認申請書」の書き方を確認します。

提出しなくてもペナルティはありませんが、税務署に給与支払者(源泉徴収義務者)として認識されませんので、源泉所得税の納付書や年末調整関係書類が送られてきません。その結果、源泉所得税の納付もれ等につながる危険があります。

1.給与支払事務所等の開設届の書き方と記載例

 給与支払事務所等の開設届は、給与の支払者が国内において給与等の支払事務を取り扱う事務所等を開設した場合に、開設の事実があった日から1か月以内に税務署に提出するものです

 以下の記載例を見ながら、給与支払事務所等の開設届の書き方を確認します。

個人が、新たに事業を始めたり事業を行うために事務所等を設けた場合には、「個人事業の開業・廃業等届出書」(いわゆる開業届)を所轄税務署長に提出することになっていますので(所得税法229条)、開業時に給与支払事務所等の開設届出書を提出する必要はありません(所得税法230条)。

① タイトルの「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」の「開設」の文字を〇で囲みます。

② 開設した給与支払事務所等の所在地の所轄税務署名を記載します。

③ 個人事業者は、申告所得税の納税地を記載します。

④ 個人事業者は、記載不要です。

⑤ 「開設・移転・廃止年月日」欄は、給与支払事務所等を開設した年月日を、「給与支払を開始する年月日」欄は、給与支払事務所等を開設した月中に給与の支払が開始されない場合に、給与の支払を開始した日(又は開始予定日)を記載します。上記記載例では、給与の締め日を月末、給与の支給日を翌月10日としています。

⑥ 「開設」」の内容に応じて該当するものにレ印を付けます。開業と同時に給与支払事務所等を設ける場合は「開業又は法人の設立」欄にレ印を付けますが(ただし、個人は開業届を提出することになっていますので開業時の開設届の提出は基本的に不要です)、開業後一定期間が経過してから設ける場合は「上記以外」にレ印を付けます。

⑦ 「開設・異動前」欄に、給与支払事務所等の開設者の氏名・住所等を記載します。

⑧ 「異動後」欄は、「開設」の場合は記載不要です。

⑨ 「従事員数」欄には、給与等を支払う職種別の人員数を記載します。「計」も忘れずに記載してください。

2.納期の特例承認申請書の書き方と記載例

 源泉所得税の納期の特例の適用を受けることができるのは、給与等の支払を受ける人の人数が常時10人未満である給与支払者(源泉徴収義務者)です。

 「常時10人未満」というのは、平常の状態において10人に満たないということであって、多忙な時期等において臨時に雇い入れた人がいるような場合には、その人数を除いた人数が10人未満ということです。
 詳細については、「納期の特例の要件である『常時10人未満』とは?」をご参照ください。

 以下の記載例を見ながら、納期の特例承認申請書の書き方を確認します。

① 提出年月日を記載します。提出した月(令和7年9月)の翌月末日までに税務署長から承認又は却下の通知がない場合には、その日の属する月(令和7年10月)支払分の給与等から納期の特例の対象となります。詳細については、「納期の特例はいつから適用される?」をご参照ください。

② 申請の日前6か月間(令和7年3月~令和7年8月)に給与は支給していませんので、空欄のまま提出します。

令和7年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の書き方と記載例

 年末調整では、勤務先に扶養控除等申告書をはじめとする各種申告書を提出することで、いろいろな控除を受けることができます。
 
 令和7年分扶養控除等申告書は今年(令和7年)の1月から支払われる給与の計算や年末調整に使用するため、勤務先に提出します※1

 令和7年分扶養控除等申告書は昨年(令和6年)の年末調整時に提出済み、途中入社の方は入社時に提出するものと思われますが、今年(令和7年)の年末調整時に異動事項(結婚や出産により扶養者が増えた等)の有無を確認するため、勤務先より再度配布されます。

 令和7年分の年末調整は、令和7年度税制改正※2で給与所得控除や基礎控除の引き上げ、特定親族特別控除の創設等が行われたことにより、申告書の様式や所得の計算方法等が変わりましたので、例年に比べて複雑になると思われます。

 令和7年分扶養控除等申告書については、様式の改定は予定されていませんが、税制改正の影響で記入にあたっては注意を要する箇所もあります。
 以下で、令和7年分扶養控除等申告書の書き方について確認します(税制改正部分は赤文字で表示しています)。

※1 令和7年1月1日以後に支給される給与等について提出する「令和7年分給与所得者の扶養控除等申告書」及び「令和7年分従たる給与についての扶養控除等申告書」に「簡易な申告書」が創設されました。詳細については、「簡易な扶養控除等申告書とは?」をご参照ください。

※2 令和7年度税制改正については、「令和7年度税制改正で年収の壁はこのように変わった!」をご参照ください。

1.氏名、住所などの記入

(1) 所轄税務署長等
 給与の支払者(勤務先)の所在地等の所轄税務署長とあなた(給与所得者)の住所地等の市区町村長を記載します。

(2) 給与の支払者の法人(個人)番号
 この申告書を受理した給与の支払者が、給与の支払者の個人番号又は法人番号を付記します。給与の支払者が法人の場合は、給与の支払者の法人番号をあらかじめ記載(印字)して、給与所得者に配付しても差し支えありません。

(3) あなたの個人番号
 あなたの個人番号を記載する必要がありますが、一定の要件の下、個人番号の記載を要しない場合がありますので、給与の支払者に確認してください。

※一定の要件については、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」のマイナンバー記載を省略する方法」をご参照ください。

(4) あなたの住所又は居所
 令和7年分は、令和7年12月31日時点の住所を記載します(給与の支払者の指示に従ってください)。令和8年分は、令和8年1月1日時点の住所を記載します。

(5) 配偶者の有無
 ここでいう配偶者とは、一定の要件を満たす必要のある源泉控除対象配偶者のことではありません。単に配偶者がいれば「有」に○、いなければ「無」に○を付けます。

(6) 従たる給与についての扶養控除等申告書の提出
 2か所以上から給与の支払を受けている人が、他の給与の支払者に「従たる給与についての扶養控除等申告書」を提出している場合に◯を付けます。

※ 従たる給与についての扶養控除等申告書については、「『従たる給与についての扶養控除等申告書』とは?」をご参照ください。

2.源泉控除対象配偶者、控除対象扶養親族の記入

(1) 源泉控除対象配偶者
 配偶者が「源泉控除対象配偶者」となるには、以下の要件を満たす必要があります。

① あなたの所得金額※1が900万円以下である(給与収入のみならば年収1,095万円以下)
② 配偶者の所得金額※1が95万円以下である(給与収入のみならば年収160万円以下※2
③ あなたと生計を一にする配偶者である※3
④ 青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者のいずれにも該当しない

 上記4要件を満たす場合は、配偶者の情報を記入します。なお、年末調整において配偶者(特別)控除の適用を受けるには、この欄の記載の有無に関わらず「給与所得者の配偶者控除等申告書」の提出が必要です。

※1 ここでいう所得金額は合計所得金額です(以下、同じ)。合計所得金額については、「『合計所得金額』『総所得金額』『総所得金額等』の違いとは?」をご参照ください。

※2 所得要件は95万円以下で変更はありませんが、令和7年度税制改正で給与所得控除の最低保障額が10万円引き上げられて65万円になったことに伴い、給与収入のみの場合は従前の年収150万円以下から年収160万円以下に変わりました。

※3 「生計を一にする」については、「所得控除における『生計を一にする』の判定基準」をご参照ください。
 
(2) 控除対象扶養親族
 親族が「控除対象扶養親族」となるには、以下の要件を満たす必要があります(①~③は扶養親族の要件)。

① 親族の所得金額が58万円以下である(給与収入のみならば年収123万円以下)※1
② あなたと生計を一にする親族である
③ 配偶者、青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者のいずれにも該当しない
④ 居住者のうち、年齢16歳以上である人(平成22年1月1日以前生)
⑤ 非居住者※2のうち、次のイ~ハのいずれかに該当する人
イ 年齢16歳以上30歳未満の人(平成8年1月2日から平成22年1月1日までの間に生まれた人)
ロ 年齢70歳以上の人(昭和31年1月1日以前に生まれた人)
ハ 年齢30歳以上70歳未満の人(昭和31年1月2日から平成8年1月1日までの間に生まれた人)のうち、「留学により国内に住所及び居所を有しなくなった人」、「障害者」又は「あなたから令和7年中において生活費又は教育費に充てるための支払を38万円以上受ける人」

 上記の要件(①~④又は①~③⑤)を満たす場合は、親族の情報を記入します。なお、児童福祉法の規定により養育を委託されたいわゆる里子や老人福祉法の規定により養護を委託されたいわゆる養護老人で、あなたと生計を一にし、令和7年中の合計所得金額の見積額が58万円以下の人も扶養親族に含まれます※1

※1 令和7年度税制改正で、申告書に記載する「扶養親族」、「同一生計配偶者」、「ひとり親控除を受ける場合の生計を一にする子」の範囲が変わりました。これまでは、所得の見積額が48万円以下(給与収入のみならば年収103万円以下)の場合に記載していましたが、令和7年分からは、所得の見積額が58万円以下(給与収入のみならば年収123万円以下)の場合に記載します。

※2 「非居住者」とは、国内に住所を有せず、かつ、現在まで引き続いて1年以上国内に居所を有しない個人をいいます。

(3) 個人番号
 源泉控除対象配偶者及び控除対象扶養親族の個人番号を記載する必要がありますが、一定の要件の下、個人番号の記載を要しない場合がありますので、給与の支払者に確認してください(上記1.(3)参照)。

(4) 老人扶養親族
 控除対象扶養親族が年齢70歳以上(昭和31年1月1日以前生)の場合には、次のとおりいずれかに✓を付けます。

① その人があなた又はあなたの配偶者の直系尊属で、あなた又はあなたの配偶者のいずれかと同居を常況としている人であるとき→「同居老親等」に✓を付けます。
② その人が①以外の人であるとき →「その他」に✓を付けます。

(5) 特定扶養親族
 控除対象扶養親族が年齢19歳以上23歳未満(平成15年1月2日~平成19年1月1日生)の場合に、✓を付けます

年齢19歳以上23歳未満所得58万円超123万円以下(給与収入のみの場合は年収123万円超188万円以下)の親族については、令和7年度税制改正で新設された特定親族特別控除の適用を受けることができます(特定親族特別控除については、「特定親族特別控除の創設と源泉徴収事務への影響(令和7年度税制改正)」をご参照ください)
 年末調整で特定親族特別控除の適用を受けるには、「給与所得者の特定親族特別控除申告書」の提出が必要です。


(6) 非居住者である親族
 源泉控除対象配偶者が非居住者である場合に「非居住者である親族」欄に○を付けます。
 また、控除対象扶養親族が非居住者であり、その非居住者の年齢が16歳以上30歳未満又は70歳以上である場合には「非居住者である親族」欄の「16歳以上30歳未満又は70歳以上」に✓を付け、30歳以上70歳未満の場合には、「留学」、「障害者」又は「38万円以上の支払」のうち該当するいずれかの項目に✓を付けます。
 源泉控除対象配偶者や控除対象扶養親族が非居住者である場合、親族関係書類の添付等が必要です。
 また、上記の「留学」に✓を付けた場合は、留学ビザ等書類の添付等が必要です。

3.障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生の記入

(1) 同一生計配偶者
 同一生計配偶者が一般の障害者、特別障害者又は同居特別障害者に該当する場合には、該当する欄に✓を付けます。

※「同一生計配偶者」とは、あなたと生計を一にする配偶者(青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者を除きます)で、令和7年中の合計所得金額の見積額が58万円以下の人をいいます。

(2) 扶養親族
 扶養親族が一般の障害者、特別障害者又は同居特別障害者に該当する場合には、該当する欄に✓を付けます。
 なお、障害者控除の対象となる扶養親族は、控除対象扶養親族とは異なり、年齢16歳未満(平成22年1月2日以後生)の扶養親族も対象となります。

(3) 寡婦、ひとり親、勤労学生
 あなたが寡婦、ひとり親、勤労学生に該当する場合に✓を付けます
 寡婦は、ひとり親に該当しない女性で、以下のいずれかに当てはまる人です。

① 所得金額が500万円以下で、夫と離婚した後に婚姻をしておらず、扶養親族がいる
② 所得金額が500万円以下で、夫と死別した後婚姻をしていない、もしくは夫の生死が明らかでない

 ひとり親は、現在婚姻していない人、もしくは配偶者の生死が明らかでない一定の人のうち、以下のすべてに当てはまる人です。

① 所得金額が500万円以下である
② 生計を一にする子がいる
③ 事実上の婚姻関係にある人がいない

※寡婦、ひとり親については、本ブログ記事「ひとり親控除の新設と寡婦(夫)控除の改正」をご参照ください。

 勤労学生は、以下のすべてに当てはまる人です。

① あなたが学生である(小学校、中学校、高等学校、高等専門学校、大学の学生、国や地方公共団体、学校法人などが設立した専修学校、各種学校、または職業訓練学校のうち一定の要件を満たす学校の学生)
② アルバイトなどの勤労による所得金額が85万円以下である(収入が1つの勤務先からのアルバイト代(給与収入)のみならば、年収150万円以下)

令和7年度税制改正による基礎控除の引き上げに伴い、所得要件が従前の75万円から85万円に変わりました。

(4) 障害者又は勤労学生の内容
 左記の障害者又は勤労学生に該当する(人がいる)場合、その該当する事実やその人の氏名を記載します。
(例)障害者の場合・・・障害の状態又は交付を受けている手帳などの種類と交付年月日、障害の程度(等級)などの障害者に該当する事実を記載します。

(注)寡婦、ひとり親に該当する方について、死別、離婚、生死不明の別、生計を一にする子の氏名及びその子の所得の見積額など、寡婦又はひとり親に該当する事実の記載は必要ありません。

4.他の所得者が控除を受ける扶養親族等の記入

 他の所得者が控除を受ける扶養親族等の欄については、共働きなどで子供を扶養親族としなかった方が子供の氏名等を記入する欄ですが、空欄でも構いません。記入しなかったとしても「控除額が減り、損をする」というわけではありません。

5.住民税に関する事項の記入

(1) 16歳未満の扶養親族
 年齢16歳未満(平成22年1月2日以後生)の扶養親族について記載します。16歳未満の扶養親族は「扶養控除」の対象外ですが、住民税の計算で利用するためあわせて記載します。

(2) 控除対象外国外扶養親族
 国内に住所を有しない16歳未満の扶養親族に該当する場合に○を付けます。この場合、親族関係書類及び送金関係書類を令和8年3月16日までに住所所在地の市区町村に提出しなければならない場合があります。

(3) 退職手当等を有する配偶者・扶養親族
 退職手当等(源泉徴収されるものに限ります。以下同じです)の支払を受ける配偶者(あなたと生計を一にする配偶者で、令和7年中の退職所得を除いた合計所得金額の見積額が133万円以下であるものに限ります)又は扶養親族について記載します。

(4) 非居住者である親族
 退職手当等の支払を受ける配偶者が非居住者である場合には、「非居住者である親族」欄の「配偶者」に✓を付けます。
 また、退職手当等の支払を受ける扶養親族が非居住者であり、その非居住者の年齢が30歳未満又は70歳以上である場合には「非居住者である親族」欄の「30歳未満又は70歳以上」に✓を付け、30歳以上70歳未満の場合には、「留学」(留学により国内に住所及び居所を有しなくなった人)、「障害者」又は「38万円以上の支払」(あなたから令和7年中において生活費又は教育費に充てるための支払を38万円以上受ける人)のうち該当するいずれかの項目に✓を付けます。
 この場合、親族関係書類、留学ビザ等書類、送金関係書類及び38万円送金書類を令和8年3月16日までに住所所在地の市区町村に提出しなければならない場合があります。

(5) 令和7年中の所得の見積額(退職所得を除く)
 令和7年中の退職所得の金額を除いた合計所得金額の見積額を記載します。

(6) 障害者区分
 退職手当等の支払を受ける配偶者のうち同一生計配偶者(あなたと生計を一にする配偶者で、令和7年中の退職所得を除いた合計所得金額の見積額が58万円以下である人をいいます)又は扶養親族について、その配偶者又は扶養親族が障害者である場合は「一般」に✓を付け、特別障害者である場合は「特別」に✓を付けます。

(7) 寡婦又はひとり親
 退職所得を除くと令和7年中の合計所得金額の見積額が58万円以下となる扶養親族を有することにより、あなたが寡婦又はひとり親に該当する場合に、✓を付けます。

(注)記載欄が足りない場合は、適宜の様式に記載してこの申告書に添付します。なお、住民税では、扶養親族等の要件とされる所得の金額には、退職所得の金額は含めないこととされています。

個人の申告漏れ所得金額が高額な上位10業種(令和5事務年度)

 国税庁は毎年11月に、各事務年度における「所得税及び消費税調査等の状況」を報道発表資料として公表しています。

 以下では、2023(令和5)事務年度(令和5年7月~令和6年6月)について、所得税の調査等の状況と事業所得を有する個人の1件当たりの申告漏れ所得金額が高額な上位10業種についてみていきます。

1.所得税の調査等の状況

 国税庁の公表資料によると、調査の選定にAIを活⽤するなどして効率的に調査を⾏った結果、申告漏れ所得⾦額の総額及び追徴税額の総額は過去最高を記録しています。

 「実地調査」と「簡易な接触」を合わせた「調査等」の合計件数は、60万5千件(対前年比94.9%)で、そのうち申告漏れ等の⾮違があった件数は31万1千件(同92.0%)となっています。

 「実地調査」と「簡易な接触」を合わせた「調査等」による申告漏れ所得⾦額は、9,964 億円(同110.2%)となっています。

 「実地調査」と「簡易な接触」を合わせた「調査等」による追徴税額は、1,398億円(同102.2%)と、過去最⾼となっています。

  実地調査 簡易な接触 調査等合計
特別・一般 着眼
調査等件数(件) 37,092(103.8%) 10,436(98.9%) 47,528(102.6%) 557,549(94.3%) 605,077(94.9%)
申告漏れ等の非違件数(件) 32,685(104.5%) 7,446(104.1%) 40,131(104.5%) 271,133(90.4%) 311,264(92.0%)
申告漏れ所得金額(億円) 5,081(97.6%) 435(111.5%) 5,516(98.6%) 4,448(129.0%) 9,964(110.2%)
追徴税額(億円) 1,019(104.0%) 47(134.3%) 1,066(105.0%) 332(94.1%) 1,398(102.2%)
1件当たり追徴税額(万円) 275(100.4%) 45(136.4%) 224(102.3%) 6(100.0%) 23(109.5%)

(備考)
(1) 上表のカッコ内の数字は、対前年比の割合を示しています。

(2) 実地調査(特別調査・一般調査)とは、高額・悪質な不正計算が見込まれる事案を対象に深度ある調査を行うもので、特に、特別調査は、多額な脱漏が見込まれる個人を対象に、相当の日数(1件当たり10日以上を目安)を確保して実施しているものです。

(3) 実地調査(着眼調査)とは、資料情報や申告内容の分析の結果、申告漏れ等が見込まれる個人を対象に実地に臨場して短期間で行う調査です。

(4) 簡易な接触とは、原則、納税者宅等に臨場することなく、文書、電話による連絡又は来署依頼による面接を行い、申告内容を是正するものです。

2.直近5年間の申告漏れ所得金額が高額な上位10業種

 国税庁は、公表している「所得税及び消費税調査等の状況」の中で、「参考計表」として「事業所得を有する個人の1件当たりの申告漏れ所得金額が高額な上位10業種」を挙げています。
 
 2023(令和5)事務年度(令和5年7月~令和6年6月)から2019(令和1)事務年度(令和1年7月~令和2年6月)までの直近5事務年度における上位10業種は、以下のとおりです。

順位 R5 R4 R3 R2 R1
1 経営コンサルタント 経営コンサルタント 経営コンサルタント プログラマー 風俗業
2 ホステス、ホスト くず金卸売業 システムエンジニア 畜産農業(肉用牛) 経営コンサルタント
3 コンテンツ配信 ブリーダー ブリーダー 内科医 キャバクラ
4 くず金卸売業 焼肉 商工業デザイナー キャバクラ 太陽光発電
5 ブリーダー タイル工事 不動産代理仲介 太陽光発電 システムエンジニア
6 焼き鳥 冷暖房設備工事 外構工事 建築士 土木工事
7 太陽光発電 鉄骨、鉄筋工事 型枠工事 経営コンサルタント ダンプ運送
8 内科医 太陽光発電 機械部品受託加工 小売業・犬 タイル工事
9 スナック バー 一般貨物自動車運送 不動産代理仲介 冷暖房設備工事
10 西洋料理 電気通信工事 司法書士、行政書士 商工業デザイナー 清掃業

※ 上記調査事績は、特別調査及び一般調査に基づく実施結果です。

令和7年10月1日から19歳以上23歳未満の人の健康保険の被扶養者認定基準が年収150万円未満に変わります

 2025(令和7)年度税制改正において、物価上昇局面における税負担の調整や現下の厳しい人手不足の状況における就業調整対策の観点から、19歳以上23歳未満の親族等を扶養する場合における特定扶養控除の要件の見直しが行われ、特定親族特別控除が創設されました

 この税制改正の趣旨との整合性を図る観点から、社会保険(健康保険)においても扶養認定を受ける人(被保険者の配偶者を除きます)が19歳以上23歳未満である場合の年間収入要件の取り扱いが、2025(令和7)年10月1日から以下のように変わります。

※ 特定親族特別控除については、「特定親族特別控除の創設と源泉徴収事務への影響(令和7年度税制改正)」をご参照ください。

1.被扶養者認定における年間収入要件

 扶養認定日が2025(令和7)年10月1日以降で、扶養認定を受ける人(被扶養者)が19歳以上23歳未満の場合(被保険者の配偶者を除きます)は、現行の「年間収入130万円未満」が「年間収入150万円未満」に変わります。
 なお、この「年間収入要件」以外の要件に変更はありません。

 現行では、年間収入要件は次のようになっています。

年間収入130万円未満(60歳以上または障害者の場合は、年間収入180万円未満)
および
・同居の場合:収入が扶養者(被保険者)の収入の半分未満
・別居の場合:収入が扶養者(被保険者)からの仕送り額未満

 上記の年間収入要件が、19歳以上23歳未満の被扶養者(被保険者の配偶者を除きます)については次のようになります。

年間収入150万円未満(障害者の場合は、年間収入180万円未満)
および
・同居の場合:収入が扶養者(被保険者)の収入の半分未満
・別居の場合:収入が扶養者(被保険者)からの仕送り額未満

2.年齢要件(19歳以上23歳未満)の判定

 年齢要件(19歳以上23歳未満)は、扶養認定日が属する年の12月31日時点の年齢で判定します。
 例えば、扶養認定を受ける人が令和7年11月に19歳の誕生日を迎える場合には、令和7年(暦年)における年間収入要件は150万円未満となります。

 このように扶養認定日が属する年の12月31日時点の年齢によって年間収入要件が変わりますが、もっとわかりやすく言うと、誕生日を迎える年の年末時点における年齢によって年間収入要件が変わるということです。
 具体的には、次のとおりです。

・18歳の誕生日を迎える年における年間収入要件は130万円未満
・19歳から22歳の誕生日を迎える年における年間収入要件は150万円未満
・23歳の誕生日を迎える年以降60歳に達するまでの間の年間収入要件は130万円未満

 さらに、扶養認定日が属する年の12月31日時点の年齢については民法の期間計算のルールが用いられており、年齢は誕生日の前日に加算されます。
 つまり、1月1日生まれの人は、12月31日に年齢が1つ増えるという扱いになりますので、例えば2025(令和7)年~2027(令和9)年に年間収入要件が150万円未満となる被扶養者(19歳以上23歳未満)の範囲は次のとおりです。

・2025(令和7)年:2003(平成15)年1月2日~2007(平成19)年1月1日生まれ
・2026(令和8)年:2004(平成16)年1月2日~2008(平成20)年1月1日生まれ
・2027(令和9)年:2005(平成17)年1月2日~2009(平成21)年1月1日生まれ

3.留意点

 今回の変更の対象者には、19歳以上23歳未満の者であっても被保険者の配偶者は含まれません。
 ここでいう配偶者とは、健康保険法等における取扱いと同様、届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含みます。

 また、年間収入が150万円未満かどうかの判定は、従来と同様の年間収入の考え方により判定します。
 具体的には、認定対象者(被扶養者)の過去の収入、現時点の収入または将来の収入の見込みなどから、今後1年間の収入を見込むこととなります。
 過去1年間の収入で判定する所得税法上の取扱いと異なりますのでご注意ください。