個人事業者が押さえておきたい令和7年度税制改正の内容

 2025(令和7)年度税制改正において、物価上昇局面における税負担の調整や就業調整対策の観点から、所得税の基礎控除や給与所得控除の引き上げ、扶養親族等の所得要件の見直し、特定親族特別控除の新設等が行われました。

 これらの改正は、2025(令和7)年12月1日に施行され、2025(令和7)年分以後の所得税から適用されます。

 以下では、これらの改正のうち、個人事業者が令和7年分の所得税の確定申告をするにあたって、押さえておきたい主な改正項目の内容を確認します。

1.収入(年収)と所得の違い

 改正の内容を確認する前に、混同しやすい「収入(年収)」と「所得」の違いを確認します。

(1) 給与所得者(会社員、パート、アルバイトなど)の場合

 収入-給与所得控除=所得 → 所得-所得控除=課税所得

 給与所得者の場合、「収入」は会社から支払われる1年間の給与等の総支給額(いわゆる「額面」)をいい、源泉徴収票の「支払金額」欄に記載されています。
 この「収入」から給与所得控除を引いたものが「所得」であり、源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」欄に記載されています。

(2) 個人事業者(青色申告の自営業など)の場合

 収入-必要経費-青色申告特別控除=所得 → 所得-所得控除=課税所得

 個人事業者の場合、「収入」は事業活動で得た1年間の売上高をいい、青色申告決算書・損益計算書の「売上(収入)金額(雑収入を含む)①」欄に記載されています。
 この「収入」から必要経費と青色申告特別控除を引いたものが「所得」であり、損益計算書の「所得金額㊺」欄に記載されています。

 (1)(2)ともに、「収入」から必要経費(給与所得控除は給与所得者の必要経費)を引いたものが「所得」となります。

 なお、(1)(2)ともに「所得」から「所得控除」(社会 保険料控除、生命保険料控除、配偶者控除、基礎控除、医療費控除など)を引いたものが「課税所得」であり、この「課税所得」に税率を掛けて所得税を算出します。

 「所得」とは、「収入」から必要経費等を引いた後の金額であり、各所得を合計した「合計所得金額」は扶養親族等を判定する際に用いられます(確定申告書第一表・所得金額等の「合計⑫」欄の金額)

 
 「課税所得」とは、「所得」から社会保険料控除などの所得控除を引いた後の金額であり、所得税を算出する際に用いられます(確定申告書第一表・税金の計算の「課税される所得金額㉛」欄の金額)。


※ 合計所得金額については、「『合計所得金額』『総所得金額』『総所得金額等』の違いとは?」をご参照ください。

2.押さえておきたい令和7年度税制改正:基礎控除

 令和7年度税制改正で、基礎控除が下表のように変わりました。

 なお、基礎控除の改正は所得税のみの改正であり、住民税の基礎控除額は従前通りの43万円です。

本人の合計所得金額 基礎控除額
改正前 令和7・8年分 令和9年分以後
132万円以下
(200万3,999円以下)
48万円 95万円 95万円
132万円超~336万円以下
(200万3,999円超~475万1,999円以下)
88万円 58万円
336万円超~489万円以下
(475万1,999円超~665万5,556万円以下)
68万円
489万円超~655万円以下
(665万5,556円超~850万円以下)
63万円
655万円超~2,350万円以下
(850万円超~2,545万円以下)
58万円
2,350万円超~2,400万円以下
(2,545万円超~2,595万円以下)
48万円
2,400万円超~2,450万円以下
(2,595万円超~2,645万円以下)
32万円
2,450万円超~2,500万円以下
(2,645万円超~2,695万円以下)
16万円
2,500万円超
(2,695万円超)
0円

※カッコ内の金額は収入が給与だけの場合の収入金額

 確定申告をする個人事業者(以下「本人」といいます)の合計所得金額(確定申告書第一表・所得金額等の「合計⑫」欄の金額)が、上表の合計所得金額のどの区分に当てはまるかに応じて、基礎控除額を算定します。

 例えば、本人の合計所得金額が400万円の場合、令和7年・8年分の基礎控除は68万円、令和9年分以後の基礎控除は58万円となります。

 なお、給与所得控除についても改正されましたが、給与所得のある個人事業者が確定申告をする際には、給与の支払者(会社など)から発行された源泉徴収票の内容を転記するだけですので、給与所得控除の改正内容については省略します。

3.押さえておきたい令和7年度税制改正:扶養親族等の所得要件

 令和7年度税制改正で、扶養親族等の所得の範囲(所得要件)が以下のように変わりました。ただし、所得要件以外の要件(同一生計である、事業専従者ではないなど)は変わっていません。

(1) 扶養控除・配偶者控除・ひとり親控除

 扶養控除・配偶者控除・ひとり親控除の対象となる扶養親族等の所得要件が、改正前の48万円以下(給与収入だけの場合は年収103万円以下)から58万円以下(給与収入だけの場合は年収123万円以下)に変わりました。

 この所得要件を満たす扶養親族、同一生計配偶者、ひとり親の生計を一にする子がいる場合は、本人の所得控除額は次のようになります。

対象者の区分 所得控除の種類 所得控除額
一般の扶養親族(16歳以上) 扶養控除 38万円
特定扶養親族(19歳以上23歳未満) 63万円
老人扶養親族(70歳以上の同居老親等) 58万円
老人扶養親族(70歳以上の同居老親等以外) 48万円
同一生計配偶者(70歳未満) 配偶者控除 38万円
同一生計配偶者(70歳以上) 48万円
ひとり親の生計を一にする子 ひとり親控除 35万円

※ 扶養親族(一般・特定・老人)は、本人と同一生計であることが必要です。同一生計については、「所得控除における『生計を一にする』の判定基準」をご参照ください。※ 配偶者控除は、本人の合計所得金額が900万円以下の場合の控除額です。

(2) 配偶者特別控除

 配偶者特別控除の対象となる配偶者の所得要件が、改正前の48万円超133万円以下(給与収入だけの場合は年収103万円超201万5,999円以下)から58万円超133万円以下(給与収入だけの場合は年収123万円超201万5,999円以下)に変わりました。

 この所得要件を満たす同一生計配偶者がいる場合は、本人の配偶者特別控除額は次のようになります。

配偶者の合計所得金額 本人の合計所得金額
900万円以下 900万円超950万円以下 950万円超1,000万円以下
58万円超95万円以下 38万円 26万円 13万円
95万円超100万円以下 36万円 24万円 12万円
100万円超105万円以下 31万円 21万円 11万円
105万円超110万円以下 26万円 18万円 9万円
110万円超115万円以下 21万円 14万円 7万円
115万円超120万円以下 16万円 11万円 6万円
120万円超125万円以下 11万円 8万円 4万円
125万円超130万円以下 6万円 4万円 2万円
130万円超133万円以下 3万円 2万円 1万円
133万円超 0円 0円 0円

 配偶者の合計所得金額が58万円以下の場合は配偶者控除を適用し、58万円超133万円以下の場合は配偶者特別控除を適用します。

4.押さえておきたい令和7年度税制改正:特定親族特別控除の新設

 令和7年度税制改正で、特定親族特別控除が新設されました。

 特定親族とは、本人と生計を一にする年齢19歳以上23歳未満の親族(配偶者、青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者を除きます)で合計所得金額が58万円超123万円以下(給与収入だけの場合は年収123万円超188万円以下)の人をいいます。

 この特定親族がいる場合は、本人の特定親族特別控除額は次のようになります。

特定親族の合計所得金額 特定親族特別控除額
58万円超 85万円以下 (123万円超 150万円以下) 63万円
85万円超 90万円以下(150万円超 155万円以下) 61万円
90万円超 95万円以下(155万円超 160万円以下) 51万円
95万円超 100万円以下(160万円超 165万円以下) 41万円
100万円超 105万円以下(165万円超 170万円以下) 31万円
105万円超 110万円以下(170万円超 175万円以下) 21万円
110万円超 115万円以下(175万円超 180万円以下) 11万円
115万円超 120万円以下(180万円超 185万円以下) 6万円
120万円超 123万円以下(185万円超 188万円以下) 3万円

※カッコ内の金額は収入が給与だけの場合の収入金額

 19歳以上23歳未満の扶養親族の合計所得金額が58万円以下の場合は扶養控除を適用し、58万円超123万円以下の場合は特定親族特別控除を適用します。

5.年収の壁(参考)

 令和7年度税制改正により、従前からあった給与所得者の年収の壁も変わっています。
 新たな年収の壁については、「令和7年度税制改正で年収の壁はこのように変わった!」をご参照ください。

扶養親族等の所得要件・住宅借入金等特別控除・生命保険料控除の見直し(令和7年度税制改正)

 2025(令和7)年度税制改正では、所得税の基礎控除や給与所得控除の引き上げ等が行われましたが、これに伴い、扶養控除等の対象となる扶養親族等の所得要件が見直されました。

 また、住宅借入金等特別控除や生命保険料控除についても見直しが行われていますので、以下ではこれらについて確認します。

※ 令和7年度税制改正の内容については、「基礎控除・給与所得控除の引き上げと源泉徴収事務・年収の壁への影響(令和7年度税制改正)」、「特定親族特別控除の創設と源泉徴収事務への影響(令和7年度税制改正)」、「令和7年度税制改正で年収の壁はこのように変わった!」をご参照ください。

1.扶養親族等の所得要件の改正

 基礎控除の改正に伴い、扶養控除、配偶者控除、ひとり親控除、障害者控除、寡婦控除、配偶者特別控除、勤労学生控除の対象となる扶養親族等の所得要件が、下表のように改正されました。

扶養親族等の区分 改正前の所得要件※1 改正後の所得要件※1
扶養親族
同一生計配偶者
ひとり親の生計を一にする子
48万円以下
(103万円以下)※2
58万円以下
(123万円以下)※2
配偶者特別控除の対象となる配偶者 48万円超133万円以下
(103万円超201万5,999円以下)※2
58万円超133万円以下
(123万円超201万5,999円以下)※2
勤労学生 75万円以下
(130万円以下)※2
85万円以下
(150万円以下)※2

※1 合計所得金額(ひとり親の生計を一にする子については総所得金額等の合計額)の要件をいいます。合計所得金額、総所得金額等については、「『合計所得金額』『総所得金額』『総所得金額等』の違いとは?」をご参照ください。
※2 表中のカッコ内の金額は、収入が給与だけの場合の収入金額です。特定支出控除の適用がある場合は、表の金額とは異なります。

2.住宅借入金等特別控除の改正

 子育て世帯・若い夫婦世帯※1が、①認定住宅等※2の新築、②認定住宅等で建築後使用されたことのないものの取得、③買取再販認定住宅等※3の取得をして、2025(令和7)年1月1日から同年12月31日までの間に居住の用に供した場合の住宅借入金等の借入限度額を次のとおりとして、所得税額の特別控除が適用できることとされました。

住宅の区分 改正前の借入限度額 改正後の借入限度額
認定住宅 4,500万円 5,000万円
ZEH水準省エネ住宅 3,500万円 4,500万円
省エネ基準適合住宅 3,000万円 4,000万円

※1 子育て世帯・若い夫婦世帯とは、年齢19歳未満の扶養親族のいる世帯又は夫婦のいずれかが年齢40歳未満の世帯をいいます。
※2 認定住宅等とは、認定住宅、ZEH水準省エネ住宅及び省エネ基準適合住宅をいいます。認定住宅とは、認定長期優良住宅及び認定低炭素住宅をいいます。
※3 買取再販認定住宅等とは、認定住宅等である既存住宅のうち宅地建物取引業者により一定の増改築等が行われたものをいいます。

 また、①認定住宅等の新築、②認定住宅等で建築後使用されたことのないものの取得に係る床面積要件について、合計所得金額1,000万円以下の者に限り40㎡に緩和(原則50㎡)する措置が、2025(令和7)年12月31日以前(改正前は2024(令和6)年12月31日以前)に建築確認を受けた家屋について適用できることとされました。

 なお、これらの住宅借入金等特別控除に関する今回の改正は、2025(令和7)年限りの時限的措置となっています。

3.生命保険料控除の改正

 生命保険料控除について以下の見直しが行われたほか、所要の措置が講じられました。この改正は、2026(令和8)年分の所得税について適用されます(2026(令和8)年分のみの適用)。

(1) 新生命保険料に係る一般生命保険料控除について、23歳未満の扶養親族を有する場合の一般生命保険料控除の控除額は、次のとおり計算することとされました。

年間の新生命保険料 控除額
30,000円以下 新生命保険料の全額
30,000円超 60,000円以下 新生命保険料×1/2+15,000円
60,000円超 120,000円以下 新生命保険料×1/4+30,000円
120,000円超 一律60,000円

(2)  旧生命保険料及び上記(1)の適用がある新生命保険料を支払った場合の一般生命保険料控除の適用限度額が6万円(改正前は4万円)とされました。
 なお、一般生命保険料控除、介護医療保険料控除及び個人年金保険料控除の合計適用限度額は、現行と同様の12万円となります。

令和7年度税制改正で年収の壁はこのように変わった!

 2025(令和7)年度税制改正において、物価上昇局面における税負担の調整や就業調整対策の観点から、所得税の基礎控除や給与所得控除の引き上げ、特定親族特別控除の創設等が行われました※。

 以下では、これらの税制改正により、従前からあった給与所得者の年収の壁がどのように変わったのかについて確認します。

※ 令和7年度税制改正の内容については、「基礎控除・給与所得控除の引き上げと源泉徴収事務・年収の壁への影響(令和7年度税制改正)」、「特定親族特別控除の創設と源泉徴収事務への影響(令和7年度税制改正)」、「扶養親族等の所得要件・住宅借入金等特別控除・生命保険料控除の見直し(令和7年度税制改正)」をご参照ください。

1.110万円の壁(住民税)

 改正で給与所得控除の最低保障額が55万円から65万円に引き上げられたことにより、住民税が非課税となる年収が、従前の100万円から110万円に変わりました。

 住民税は、所得金額に応じて課税される「所得割と、定額で課税される「均等割」から成りますが、住んでいる地域や家族構成によって住民税が非課税となる所得金額は異なります。

 例えば、兵庫県宝塚市で均等割が非課税となる所得は、次の算式で算出します。

 35万円×(同一生計配偶者+扶養親族数+本人)+10万円+21万円(同一生計配偶者または扶養親族を有する場合のみ)

 単身の場合は、35万円×1+10万円=45万円が非課税となる所得であり、給与収入に置き換えると110万円(45万円+給与所得控除65万円)となります。

2.123万円の壁(所得税)

 従前の103万円の壁は、年収の壁として広く一般に認識されていたものと思われます。

 改正で基礎控除と給与所得控除最低保障額がそれぞれ10万円ずつ引き上げられたことにより、この103万円の壁が123万円の壁に変わりました。

 また、改正により、配偶者控除や扶養控除の対象となる合計所得金額が48万円以下から58万円以下に変わりましたので、配偶者や扶養親族の年収が123万円以下であれば、配偶者控除や扶養控除の対象となります(給与収入123万円-給与所得控除65万円=58万円)。

 ただし、123万円の壁は配偶者控除や扶養控除の対象となる給与収入を意味するものであり、従前の103万円の壁が持っていた納税者本人に所得税がかからない給与収入という意味はありません。

 納税者本人に所得税がかからない年収の壁については、下記4をご参照ください。

3.150万円の壁(所得税):2つの意味

 従前からあった150万円の壁は、配偶者特別控除について満額の38万円を適用できる年収の壁でしたが、改正により、150万円の壁の意味は以下のように変わりました。

 扶養親族の年収が123万円を超えると扶養控除の対象から外れますので(上記2)、年齢19歳以上23歳未満の扶養親族(以下「大学生年代」といいます)についても、年収が123万円を超えると63万円の扶養控除を適用することができません。

 しかし、大学生年代については、年収が123万円を超えても、令和7年度税制改正で新設された特定親族特別控除を適用することができ、年収が150万円以下であれば、特定親族特別控除について満額の63万円を適用することができます。

 さらに、大学生年代の年収が150万円を超えても188万円以下であれば、納税者本人は段階的に逓減する特定親族特別控除を受けることができます。

 また、勤労学生本人が受けられる勤労学生控除の合計所得金額の要件が、改正により従前の75万円以下から85万円以下に変わりましたので、勤労学生本人の給与収入が150万円以下であれば、勤労学生控除27万円を受けることができます(給与収入150万円-給与所得控除65万円=85万円)。

 なお、社会保険における150万円の壁については、下記8をご参照ください。

4.160万円の壁(所得税):2つの意味

 改正後の年収160万円の壁については、以下の二つの意味があります。

 第一に、納税者本人に所得税がかからない従前の103万円の壁が、160万円の壁に変わりました。

 改正により基礎控除の10万円の引き上げが行われましたが、さらに低~中所得者層の税負担への配慮から、特例として最大95万円の基礎控除が設けられました。

 したがって、給与所得控除最低保障額65万円と合わせて、年収160万円以下であれば、納税者本人に所得税はかかりません(給与収入160万円-給与所得控除65万円-基礎控除95万円=給与所得0円)。

 第二に、配偶者特別控除について満額の38万円を適用できる年収の壁が、従前の150万円から160万円に変わりました。

 満額の38万円を適用できる合計所得金額の上限は従前どおりの95万円ですが、給与所得控除最低保障額が10万円引き上げられたことにより、配偶者の年収が160万円以下であれば、納税者本人は配偶者特別控除38万円の適用を受けることができます(ただし、納税者の合計所得金額が900万円以下の場合です)。

 また、配偶者の年収が160万円を超えても201万円以下(正確には201万5,999円以下)であれば、納税者本人は段階的に逓減する配偶者特別控除を受けることができます。

5.188万円の壁(所得税)

 大学生年代の年収が150万円を超えると段階的に特定親族特別控除が減っていきますが、年収188万円を超えると特定親族特別控除はゼロとなります(上記3)。

 188万円の壁とは、特定親族特別控除が適用されるか否かの年収の分岐点のことをいい、改正後に新しくできた年収の壁です。

6.201万円の壁(所得税)

 配偶者の年収が160万円を超えると段階的に配偶者特別控除が減っていきますが、年収201万円(正確には201万5,999円)を超えると配偶者特別控除はゼロとなります(上記4)。

 201万円の壁とは、配偶者特別控除が適用されるか否かの年収の分岐点のことをいいますが、改正後もこの部分は変わっていません。

7.106万円の壁(社会保険)

 令和7年度税制改正は、以下の社会保険制度上の年収の壁である106万円の壁には影響ありません。

 下記条件を満たす場合は、パートやアルバイトで働く人が自ら社会保険の被保険者となり社会保険の扶養から外れます(関連記事「従業員51人以上の会社で働くパート・アルバイトの社会保険加入義務(令和6年10月1日~)」)。

 ①従業員が51人以上の会社で働く(2024(令和6)年10月以降)※1
 ②週の労働時間が20時間以上
 ③月収8.8万円以上(年収106万円以上)※2
 ④2か月を超える雇用の見込がある
 ⑤学生でない

※1 2025(令和7)年6月13日に成立した年金制度改正法により、2027(令和9)年10月から、「企業規模要件」が段階的に撤廃されます。
※2 2025(令和7)年6月13日に成立した年金制度改正法により、法律の公布から3年以内に「賃金要件」は撤廃されます。

8.130万円の壁と150万円の壁(社会保険)

 令和7年度税制改正によって19歳以上23歳未満の親族等を扶養する場合における特定扶養控除の要件の見直し等が行われたことを踏まえ、扶養認定日が2025(令和7)年10月1日以降で、扶養認定を受ける人(被扶養者)が19歳以上23歳未満の場合(被保険者の配偶者を除く)は、現行の「年間収入130万円未満」が「年間収入150万円未満」に変わりますなお、この「年間収入要件」以外の要件に変更はありません。

 年齢要件(19歳以上23歳未満)は、扶養認定日が属する年の12月31日時点の年齢で判定します。
 例えば、扶養認定を受ける人が令和7年11月に19歳の誕生日を迎える場合には、令和7年(暦年)における年間収入要件は150万円未満となります。

 令和7年10月1日以降の届出で、令和7年10月1日より前の期間について認定する場合、19歳以上23歳未満の被扶養者にかかる年間収入の要件は130万円未満で判定します。

 130万円又は150万円の壁とは、社会保険被保険者である給与所得者(例えば親)が扶養する者(例えば子)については、親が負担する社会保険料のみで子の健康保険料及び国民年金保険料まで賄われるという年収の分岐点のことをいいます。

 従業員が51人以上(2024(令和6)年10月以降)の企業では106万円、それより規模の小さい企業では130万円又は150万円が年収の壁となります。

※ 社会保険の150万円の壁については、「令和7年10月1日から19歳以上23歳未満の人の健康保険の被扶養者認定基準が年収150万円未満に変わります」をご参照ください。

パート・アルバイトの税制上と社会保険制度上の年収の壁

 年末が近づいてくると、パートやアルバイトで働く人の中には、ある一定の年収を超えないように就業調整をする人が出てきます。
 例えば、年収103万円を超えると配偶者控除や扶養控除の対象から外れるため、労働時間を抑制して103万円というラインを超えないようにします
 この103万円というラインのことを一般に「年収の壁」と呼びますが、年収の壁は103万円だけではありません。
 以下においては、パートやアルバイトで働く給与所得者を前提として、税制上と社会保険制度上の年収の壁について確認します。

※ 2025(令和7)年度税制改正により、年収の壁となる給与収入金額が変わっています。詳細については、「令和7年度税制改正で年収の壁はこのように変わった!」をご参照ください。

1.100万円の壁(住民税)

 年収の壁としてまず直面するのは、住民税における100万円の壁です。給与収入が年間で100万円を超えると住民税がかかります(兵庫県宝塚市や西宮市の場合)。
 住民税は、所得金額に応じて課税される「所得割と、定額で課税される「均等割」から成りますが、住んでいる地域や家族構成によって住民税が非課税となる所得金額は異なります。
 例えば、宝塚市で均等割が非課税となる所得は、次の算式で算出します。

 35万円×(同一生計配偶者+扶養親族数+本人)+10万円+21万円(同一生計配偶者または扶養親族を有する場合のみ)

 単身の場合は、35万円×1+10万円=45万円が非課税となる所得であり、給与収入に置き換えると100万円(45万円+給与所得控除55万円)となります。
 詳しくは本ブログ記事「住民税非課税世帯とは?」をご参照ください。

2.103万円の壁(所得税)

 年収の壁として広く一般に認識されているのは、所得税における103万円の壁です。
 配偶者控除や扶養控除の対象となるには合計所得金額が48万円以下であることが必要ですが、年収が103万円であれば、給与収入103万円-給与所得控除55万円=48万円となるので、配偶者控除や扶養控除の対象となります。
 また、年収が103万円であれば、給与収入103万円-給与所得控除55万円-基礎控除48万円=0円となるので本人にも所得税はかかりません。

3.106万円の壁(社会保険)

 社会保険制度上の年収の壁として、106万円の壁があります。
 ①従業員が101人以上(2024(令和6)年10月からは51人以上)、②週の労働時間が20時間以上、③月収8.8万円以上(年収106万円以上)、④2か月を超える雇用の見込、⑤学生でない、といった条件を満たす場合は、パートやアルバイト従業員が自ら社会保険被保険者となり社会保険の扶養から外れます(関連記事「従業員51人以上の会社で働くパート・アルバイトの社会保険加入義務(令和6年10月1日~)」)。

4.130万円の壁(社会保険)

 所得税における103万円の壁と同様に広く一般に認識されているのが、社会保険における130万円の壁です。
 130万円の壁とは、社会保険被保険者である給与所得者(例えば夫)が扶養する者(例えば妻)については、夫が負担する社会保険料のみで妻の健康保険料及び国民年金保険料まで賄われるという年収の分岐点のことをいいます。
 従業員が101人以上(2024(令和6)年10月からは51人以上)の企業では106万円、それより規模の小さい企業では130万円が年収の壁となっています(関連記事「年収130万円以上となっても社会保険の扶養のまま働ける?」)。

5.150万円の壁(所得税)

 年収103万円を超えると配偶者控除の対象から外れますが(上記2)、年収150万円以下であれば、配偶者特別控除は満額の38万円が適用されます(ただし、給与所得者の合計所得金額が900万円以下の場合です)。
 年収150万円を超えると、段階的に配偶者特別控除が減っていきます。

6.180万円の壁(社会保険)

 意外と見落とされやすいのが、社会保険における180万円の壁です。
 60歳以上や障がい者の方は、年収130万円ではなく年収180万円までは社会保険の扶養に入ることができます(関連記事「扶養判定における遺族年金の取扱いは所得税と社会保険で異なる!」)。

7.201万円の壁(所得税)

 年収150万円を超えると段階的に配偶者特別控除が減っていきますが(上記5)、年収201万円を超えると配偶者特別控除はゼロとなります。
 201万円の壁とは、配偶者特別控除が適用されるか否かの年収の分岐点のことをいいます。