退職所得に関する注意事項

 退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職によって一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与による所得をいいます。
 また、社会保険制度などにより退職に基因して支給される一時金、適格退職年金契約に基づいて支給を受ける退職一時金なども退職所得となります。
 では、解雇予告手当の所得区分は何になるでしょうか?解雇予告手当とは、解雇すなわち退職を原因として一時に支給されるものです。「一時」の文言から一時所得と勘違いしてしまいそうですが、答えは退職所得です(所得税基本通達30-5)。
 今回は、このような見落としがちな退職所得に関する注意事項について確認します。

1.確定申告する場合に退職所得の記載は必要か?

 先日、ある方から次のような質問を受けました。
 「会社を退職したときに、会社に『退職所得の受給に関する申告書』を提出し、退職所得の全部について適正に源泉徴収がされているので、確定申告をする場合でも退職所得は記載しなくてもいいんですよね?」

 退職金等の支払者(会社)に「退職所得の受給に関する申告書」を提出した場合、退職金等の支払者が所得税額及び復興特別所得税額を計算し、その退職手当等の支払の際に退職所得の金額に応じた所得税等の額を源泉徴収するため、原則として確定申告は不要です(所得税法121条2項)。
 しかし、退職所得のある人が確定申告書を提出する場合は、退職所得を含めて申告する必要があります(所得税法120条、122条)。
 したがって、「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出して適正に源泉徴収が行われている場合でも、確定申告するときはその確定申告書に退職所得を記載しなければなりません。

2.課税関係が完結している退職所得は損益通算できるか?

 国内の銀行預金の利子所得のような源泉分離課税とされている所得は、源泉徴収だけで課税関係が終わり確定申告をすることができません。
 しかし、退職所得は利子所得と異なり、源泉徴収で課税関係が完結していても確定申告をすることができます。
 したがって、その年に事業所得の赤字等がある場合には、確定申告をして損益通算を受けることができます。 

3.退職所得の収入時期は?

 退職所得の収入時期は、原則としてその支給の基因となった退職日によります。ただし、会社役員等の場合で、その支給について株主総会等の決議を要するものについては、その役員の退職後その決議があった日とされます(所得税基本通達36-10)。
 例えば、従業員であった人が令和3年に退職し、その翌年の令和4年に退職金の支給を受けた場合は、支給を受けた令和4年ではなく退職した令和3年の退職所得となります。
 また、役員であった人が令和3年に退職し、その役員に対する退職金支給の決議が令和4年に行われた場合は、退職した令和3年ではなく決議のあった令和4年の退職所得となります。

 では、退職した従業員が退職金の支給日前に死亡した場合は、その退職金は退職所得と相続財産のどちらになるのでしょうか?
 退職所得の収入時期である退職日においてその従業員は生存していますので、その退職金は遺族のみなし相続財産ではなく、従業員の退職金となります(所得税基本通達9-17、36-10)。

 また、退職した役員が取締役会で退職金の支給額を決議する前に死亡した場合は、その退職金は退職所得と相続財産のどちらになるのでしょうか?
 退職所得の収入時期である決議のあった日前に役員が死亡したため、役員の退職所得とはならず遺族の相続財産となります(相続税法3条1項、所得税基本通達9-17、36-10(1))。