1.生産性向上特別措置法による支援
2018年(平成30年)6月6日に施行された生産性向上特別措置法では、2020年度(平成32年度)までを生産性革命・集中投資期間と位置づけ、中小企業の生産性革命の実現のため、市区町村の認定を受けた中小企業の設備投資を支援しています。
具体的には、中小企業者等が「先端設備等導入計画」を作成し、国から導入促進基本計画の同意を受けている市区町村に提出して同計画について認定を受けた場合は、税制支援、金融支援、予算支援を受けることができるといったものです。
税制支援とは、導入した設備の固定資産税(償却資産税)の課税標準を、3年間にわたってゼロ以上2分の1以下の範囲内で軽減する制度です(固定資産税の軽減措置については、本ブログ記事「生産性向上特別措置法による新固定資産税の特例」を参照)。
金融支援とは、先端設備等導入計画に基づく事業について、必要な資金繰りを支援(信用保証)する制度です。
予算支援とは、認定事業者に対する一部補助金における採択を優先(審査時の加点)する制度です。
先日、製造業を営むA社から、上記のうち税制支援を受けたいというご相談がありました。設備取得まで土曜日曜を含めて10日しかない状況でしたが、B市の担当者に事前確認した上で必要書類を提出し、無事認定を受けることができました。
今回は、その際に得られた書類記載上の注意点等について述べていきます。
2.B市に確認したこと
先端設備等導入計画は、設備取得前に認定を受けなければなりません。設備取得まで時間がなかったので、書類作成に先立って、B市の担当者に以下の点について確認しました。
(1) 認定に間に合うか?
B市のホームページには、計画認定までの目安として2週間程度と記載されていました。
そこで、設備の取得まで10日しかない状況で申請して、認定が間に合うかどうか尋ねたところ、明後日までに書類がB市に届くなら審査はできるとのことでした(つまり、土曜日曜を除く6日間で審査をすることは可能ということです)。
(2) 書類提出方法は郵送だけか?
B市のホームページには、書類の提出は郵送のみとありました。時間がなかったので、作成した申請書類をB市に持参するつもりだったのですが、郵送でしか受け付けられないとのことでした。
郵送の場合、速達で出してもB市に到着するまで1日かかります。すると、認定までのスケジュールを考えると、申請書類は1日で仕上げる必要がありました。
設備取得まで10日-土曜日曜の2日-郵送にかかる1日-審査にかかる6日=1日
(3) 書類に不備があった場合は?
提出した書類に不備があった場合は、A社へメールで連絡が入るとのことでした。
その後、修正した書類が届くまで審査は中断されるとのことでしたので、不備は許されない状況でした。
実は、「先端設備等導入計画」に1か所不備があったのですが、押印が不要な書類でしたので、修正したものは郵送によらずメール送信にて済ますことができました。
3.書類記載上の注意点
このような状況のもと、1日で以下の申請書類を仕上げなくてはなりません。
(1) 先端設備等導入計画に係る認定申請書
(2) 先端設備等導入計画
(3) 先端設備等導入計画に関する確認書
(4) B市暴力団排除条例に係る誓約書
(5) 申請書提出用チェックシート
なお、税制支援を受ける場合は、上記以外に工業会証明書(写し)も必要ですが、A社は事前に入手されていました。
では、これらの書類について、記載上の主な注意点と記載例を紹介していきます。
(1) 先端設備等導入計画に係る認定申請書
① 「宛名」(認定申請書の提出先)は、先端設備等が所在する市区町村長宛となります(B市市長 〇〇〇〇様)。本店の所在地を管轄する市区町村長ではありません。
② 「住所」(認定申請書の申請者)は、本店所在地を記載します。支店等で手続きをする場合でも、支店等の所在地ではなく本店の所在地を記載します。
③ 「名称及び代表者の氏名」で注意を要するのは、「代表者の氏名」です。名称は「A株式会社」、代表者の氏名は「代表取締役 〇〇〇〇」と記載します。
B市によると、この代表取締役という役職名が抜けている場合は、修正の対象になるそうです。あらかじめB市担当者からよくある間違いとして聞いていましたが、聞いていなければ抜かしていたかもしれません。
(2) 先端設備等導入計画
「先端設備等導入計画」の記載要領は、上記(1)の「先端設備等導入計画に係る認定申請書」に載っています。
主な注意点は次のとおりです。
① 「1 名称等」
(イ) 「2 代表者名(事業者が法人の場合)」欄には、念のため「代表取締役 〇〇〇〇」と記載しました。
(ロ) 「5 常時使用する従業員の数」欄に、役員は含めません。また、正社員以外のパート、アルバイト、契約社員等を従業員数に含めるかどうかは、個別判断とされています(含めても含めなくてもよい)。
② 「2 計画期間」
計画期間は、3年間、4年間、5年間とされています。先端設備等導入計画の実施時期の月から起算して36か月、48か月、60か月のいずれかの期間を設定します。
A社の場合は3年間の計画とし、「平成31年3月~平成34年2月」と記載しました。
気をつけなければならないのは、例えば「平成31年3月~平成34年3月」のような期間設定はできないということです(年号が問題なのではありません)。
「平成31年3月~平成34年3月」は37か月であり、年単位に端数が生じています。計画期間は3年間(36か月)、4年間(48か月)、5年間(60か月)のいずれかしか設定できません。
B市によると、この間違いも多いそうです。
③ 「3 現状認識」
(イ) 「①自社の事業概要」は、適用を受ける業種の内容を記載します。A社の場合は、次のように記載しました。
「創業〇〇年の法人事業者で、アルミなどの非鉄金属の切削・表面処理を中心に、精密機器等の部品加工及び製造を行う。」
(ロ) 「②自社の経営状況」は、売上高や営業利益率の推移による経営分析を行い、自社の特徴や経営上の課題、改善点、目標などを記載します。
A社の場合は、概ね次のように記載しました。
「売上は平成29年3月期が〇〇千円、平成30年3月期が〇〇千円と減少しているが、営業利益は〇〇千円から〇〇千円に増加しており、営業利益率も〇.〇%から〇.〇%へ改善されている。
他方で、〇〇、〇〇が、今後、当社の生産性を高め、業績を伸ばしていく上での課題である。」
④ 「4 先端設備等導入の内容」
(イ) 「(1) 事業の内容及び実施時期」欄には、「① 具体的な取組内容」と「② 将来の展望」を記載します。
「① 具体的な取組内容」は、具体的な設備内容と導入による効果を記載します。
注意しなければならないのは、先端設備等の導入による「人員削減のための計画」は、先端設備等の導入に関する指針に定める「雇用への配慮」の観点から認められないということです。
A社の場合は、次のように記載しました。
「従来のNC工作機械の老朽化に伴い、本社工場に立形マシニングセンタを導入する。当該設備の導入により、手動式であった工具交換を自動化し、製造時の省力化によるコスト削減を図る。
また、立形マシニングセンタは、加工物の複数面に同時に数種類の加工を連続して行うことができ、これまでよりも複雑な形状の加工も可能となるため、受注の変化に応じた柔軟な生産体制を構築することができる。」
「② 将来の展望」は、上記の「①具体的な取組内容」の結果、期待される自社の生産性向上などを記載します。
A社の場合は、次のように記載しました。
「新設備の導入で作業の自動化・省力化が進み、熟練工以外の工員であっても作業可能領域が広がるため、人的資源を適切に配置することができるようになる。人的資源の適切な配置によって製品の品質が向上し、より多くの受注にも柔軟な対応が可能となるため、生産性向上の実現が可能となる。」
(ロ)「(2) 先端設備等の導入による労働生産性向上の目標」
現状(A) |
計画終了時の目標(B) |
伸び率(B-A/A) |
〇〇千円 |
〇〇千円 |
9.0% |
労働生産性の伸び率は、設備導入の直近の事業年度末から計画終了時において、年平均3%以上向上する必要があります。
A社の場合、計画期間を3年に設定しましたので、伸び率が9%(3%×3年)以上向上している必要があります。
労働生産性は、以下の算式により算定します。
労働生産性=(営業利益+人件費+減価償却費)/労働投入量
上記算式の人件費は、製造原価の労務費だけではなく販管費の人件費も対象になります。役員報酬を含めるかどうかは、個別判断とされています(含めても含めなくてもよい)。
減価償却費は会計上の減価償却費が対象となり、製造原価及び販管費の減価償却費の合計となります。会計上の減価償却費は費用配分の原則に基づくことから、税務上認められている即時償却を予定している場合は計画終了時の労働生産性が正しく算定されないこともあるため、計算上は各計画期間に配分されるようにします。
労働投入量は、「労働者数」又は「労働者数×1人当たりの年間就業時間」となります。労働者数は、上記算式の人件費の計算の基礎となった人数にします(人件費に役員報酬を含めた場合は、労働者数にも役員を含めます)。
A社の場合は、労働者数を労働投入量としました。
労働生産性の「現状(A)」欄は、設備導入の直近の事業年度末の決算書から数字を拾います。「計画終了時の目標(B)」欄は、A社の場合、伸び率が9.0%以上となるように逆算して算定しました。
B市によると、労働生産性の算定にあたっては、現状と計画終了時において期間比較性が確保されるように、算定条件は必ず同一にしなければならないとのことでした(例えば、「現状(A)」欄の人件費に役員報酬を含めたのであれば、「計画終了時の目標(B)」欄にも役員報酬を含める必要があります)。
また、計画終了時に9.0%以上の伸び率が達成できなかったとしても、罰則等はありません。
(ハ)「先端設備等の種類及び導入計画時期」
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設備名/型式 |
導入時期 |
所在地 |
1 |
マシニングセンタ/MT-12R |
平成31年3月 |
〇〇県〇〇市〇〇3-4-5 |
2 |
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設備等の種類 |
単価(千円) |
数量 |
金額(千円) |
証明書等の文書番号 |
1 |
機械装置 |
30,000 |
1 |
30,000 |
31-6147 |
2 |
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設備等の種類 |
数量 |
金額(千円) |
設備等の種類別小計 |
機械装置 |
1 |
30,000 |
合計 |
|
1 |
30,000 |
「設備名/型式」欄は、工業会証明書に記載されている「設備の名称」と「設備型式」を転記します。
「所在地」欄は、取得予定の先端設備等が設置される住所を記載します。〇〇県や〇〇府から記載します。
「設備等の種類」欄と「証明書等の文書番号」欄は、工業会証明書に記載されている「減価償却資産の種類」と「整理番号」を転記します。
「金額」欄は千円単位となっていますので、ご注意下さい。
⑤ 「5 先端設備等導入に必要な資金の額及びその調達方法」
使用・用途 |
資金調達方法 |
金額(千円) |
先端設備等購入資金 |
融資 |
25,000 |
|
自己資金 |
5,000 |
「使用・用途」欄は、「先端設備等購入資金」と記載します。
「資金調達方法」欄は、「自己資金」「融資」「補助金」のいずれかを記載します。
「金額」欄は、上記④(ハ)下段の表にある「合計」欄と必ず一致するように記載します。実は、B市から修正の指摘を受けたのは、この箇所でした。
当初、金額欄には融資を受ける25,000千円だけを記載していましたが、取得設備の合計金額30,000千円と一致していないとの指摘でした。残りの5,000千円についてA社に確認したところ自己資金で賄うとのことでしたので、上記のように修正してB市にメール送信しました。
時間がなくあせっていたとはいえ、金額の不一致に気づかなかった私のケアレスミスでした。
(3) 先端設備等導入計画に関する確認書
この書類は、税理士事務所等の認定経営革新等支援機関が、中小企業者等が作成した先端設備等導入計画の内容を確認し発行するものです。
B市によると、間違いが多いのは日付だそうです。確認書の日付は、必ず申請書の日付より前の日付としなければなりません。
「宛名」は、先端設備等導入計画を申請する「A株式会社 代表取締役 〇〇〇〇殿」と記載します。
認定支援機関の「代表者役職」は、個人の税理士事務所に複数の税理士(所属税理士)がいる場合は、「所長税理士」などと記載します。
「1.認定経営革新等支援機関担当者名等」の「①認定経営革新等支援機関担当者名」は、先端設備等導入計画事案を直接担当するのであれば、所長税理士、所属税理士以外に、税理士資格を持たない職員でもいいとのことでした。
「2.先端設備等導入計画の実施に対する所見」は、導入する先端設備等が生産・販売活動等に直接利用されているか、先端設備等の導入によって労働生産性向上の目標に寄与するかといった観点から内容を確認します。
A社の場合は、次のように3つの観点から記載しました。
「(1) 導入する先端設備等が生産活動に直接供されるかどうかについて
マシニングセンタの導入により、作業の自動化・省力化によるコスト削減が可能となる。
また、当該設備の導入により複雑な形状の加工も可能となるため、受注の変化に応じた柔軟な生産体制を構築することができるようになる。
よって、今回導入する設備は、労働生産性の向上に資するものであり、生産に直接供される設備である。
(2) 先端設備等の導入の確実性について
導入時期については、平成31年3月を見込んでおり、納入業者との調整もできていることから、問題ない。
また、日本政策金融公庫からの設備資金2,500万円の融資の実行が確実であり、自己資金も潤沢であることから、導入に特段の問題はなく、導入は確実である。
(3) 労働生産性向上の目標達成見込について
平成30年3月期において、営業利益〇〇千円、人件費〇〇千円、減価償却費〇〇千円、実労働者数〇〇人、労働生産性〇〇千円であった。
先端設備等を導入することによって、計画期間終了後には、営業利益〇〇千円、人件費〇〇千円、減価償却費〇〇千円、実労働者数〇〇人、労働生産性〇〇千円となり、3年間で労働生産性の向上率9%を達成する計画である。
雇用を確保しながら売上増による営業利益の増加が想定されることから、当該計画は妥当であり、労働生産性向上の目標達成見込みは高い。」
(4) B市暴力団排除条例に係る誓約書
「宛名」は、「先端設備等導入計画に係る認定申請書」の宛名と同じく、先端設備等が所在する市区町村長宛となります(B市市長 〇〇〇〇様)。
「商号又は名称」と「氏名又は職及び代表者名」は、フリガナを付けます。代表者名には、「代表取締役 〇〇〇〇」と記載しました。
なお、この誓約書はB市独自の提出書類ですので、すべての市区町村で必要ということではありません。
(5) 申請書提出用チェックシート
記入上の注意点は特にありませんが、「事業者名」は「A株式会社 代表取締役 〇〇〇〇」、「代表者名」は「代表取締役 〇〇〇〇」というように、役職名を記載しました。
「申請者チェック」欄に✔を付けて提出します。
4.まとめ
今回は申請までのスケジュールがタイトで大変でしたが、事前に市の担当者に確認・相談することが重要であると感じました。
市区町村によって、提出書類や提出方法等が異なる場合もありますので、事前の確認は重要です。
また、設備の取得が10日後に迫っていることを相談した上で申請しましたので、市の担当者も迅速に対応してくれたのだと思います。
認定は、設備取得日の前日にとれました。