給与収入103万円以下の青色事業専従者は自分の定額減税を受けることができるか?

 2024(令和6)年6月1日以後最初に支払われる給与・賞与から、所得税の定額減税(月次減税)が開始されます。
 所得税の定額減税額の計算においては、給与所得者本人だけではなく、その同一生計配偶者と扶養親族についても対象とされています※1

 定額減税額の計算対象である同一生計配偶者と扶養親族は、年間の合計所得金額が48万円(給与所得だけの場合は給与の収入金額が103万円)以下であることが要件となっており、扶養の範囲内で働きたい人や自ら所得税を負担したくない人などは、給与収入が103万円以下となるように就業調整をしているものと思われます※2

 給与収入103万円以下で働く同一生計配偶者と扶養親族については、これらの同一生計配偶者等を扶養している所得者本人の定額減税額の計算対象となるため、自ら定額減税を受けること(重複して定額減税を受けること)はできません※3
 
 一方、給与の支払いを受けている青色事業専従者は、所得者本人の定額減税額の計算対象外とされていますが、青色事業専従者自身は定額減税を受けることができます※4

 この青色事業専従者についても、自身の所得税負担が生じないように専従者給与を103万円以下に設定している場合があります(所得税だけではなく住民税負担も生じないように専従者給与を100万円以下に設定している場合もあります)。

 給与収入103万円超で働く青色事業専従者は、令和6年6月1日以後最初に支給される給与から所得税の定額減税(月次減税)を受けることができます。
 では、所得税負担がかからないように給与収入103万円以下で働く青色事業専従者も自らの定額減税(月次減税)を受けることができるのでしょうか?

 現時点での答えは「否」です。

 給与収入103万円以下で働く人のうち、誰かの同一生計配偶者や扶養親族になっている人は自らの定額減税は受けられないものの、その誰かの定額減税の対象とされていますので間接的に定額減税を受けているといえます。

 しかし、103万円以下で働く青色事業専従者は、誰かの同一生計配偶者や扶養親族になることができないため間接的に定額減税を受けることができず、かつ、定額減税の制度設計上、自らの定額減税も受けることができないとされています。

 現時点では、給与収入103万円以下の青色事業専従者は、定額減税の蚊帳の外となっています。
 しかし、この点を問題視し、財務省や内閣府に対して是正を要請する動きもありますので、今後何らかの措置が講じられるかもしれません※5

※1 関連記事:「定額減税と年末調整で異なる『同一生計配偶者』『扶養親族』の範囲に注意!

※2 関連記事:「パート・アルバイトの税制上と社会保険制度上の年収の壁

※3 関連記事:「給与収入103万円以内で働く人は自分の定額減税を受けることができるか?

※4 関連記事:「青色事業専従者自身の定額減税について

※5 関連記事:「給与収入103万円以下の青色事業専従者は調整給付(不足額給付)を受けられる!

給与収入103万円以内で働く人は自分の定額減税を受けることができるか?

 2024(令和6)年6月1日以後最初に支払われる給与・賞与から、所得税の定額減税(月次減税)が開始されます。

 所得税の定額減税額の計算においては、給与所得者本人だけではなく、その同一生計配偶者と扶養親族についても計算対象とされています※1

 一方、これらの同一生計配偶者や扶養親族となっている人は、その所得が48万円(給与収入が103万円)以下で源泉徴収税額がないと見込まれても、原則として給与支払者の月次減税事務の対象となっています※2

 つまり、誰かの同一生計配偶者や扶養親族となっている人は、その誰かの定額減税額の計算対象であると同時に、自らは給与所得者として給与支払者の月次減税事務の対象でもあるということです。

 今回は、このような同一生計配偶者や扶養親族となっている人が、自らの定額減税を受けることができるかどうかについて確認します※3
 
※1 定額減税における同一生計配偶者と扶養親族については、本ブログ記事「定額減税と年末調整で異なる『同一生計配偶者』『扶養親族』の範囲に注意!」をご参照ください。

※2 給与支払者の月次減税事務については、「給与支払者の定額減税の方法(月次減税事務:計算から納付まで)」をご参照ください。

※3 専従者給与を103万円以下としている青色事業専従者の定額減税については、「給与収入103万円以下の青色事業専従者は自分の定額減税を受けることができるか?」をご参照ください。

1.重複して定額減税は受けられない

 定額減税額の計算対象である同一生計配偶者と扶養親族は、年間の合計所得金額が48万円(給与所得だけの場合は給与等の収入金額が103万円)以下であることが要件となっており、扶養の範囲内で働きたい人や自ら所得税を負担したくない人などは、給与収入が103万円以下となるように就業調整をしているものと思われます。

 これら103万円以内で働く給与所得者の源泉徴収票にどのように定額減税額を記載するかについては、国税庁の「令和6年分所得税の定額減税Q&A」10-6に次のように示されています(下線は筆者による)。

問 同一生計配偶者や扶養親族となっている給与所得者の源泉徴収票には、定額減税額等をどのように記載しますか。
 また、ある月の給与について、源泉徴収税額があるため月次減税を行ったが、年末調整で合計所得金額が48万円以下となった給与所得者の源泉徴収票には、定額減税額等をどのように記載しますか。

[A]
 同一生計配偶者や扶養親族となっている人については、令和6年分の合計所得金額が 48万円以下となり、源泉徴収税額が発生しないため、「給与所得の源泉徴収票」の「(摘要)」欄には「源泉徴収時所得税減税控除済額0円」「控除外額30,000円」と記載してください。
 令和6年6月以降に支払う給与について、一部源泉徴収税額が発生し月次減税を行った給与所得者で、令和6年分の合計所得金額が48万円以下となり、最終的に年間の源泉徴収税額が発生しなかった人についても「給与所得の源泉徴収票」の記載は同様となります。
(注) 同一生計配偶者や扶養親族となっている人の源泉徴収票に記載された控除外額は、その人の定額減税としてではなく、その同一生計配偶者や扶養親族を扶養している居住者の定額減税の計算において加味されます。

 このQ&Aでは、所得税負担のない同一生計配偶者や扶養親族についても、源泉徴収票に「源泉徴収時所得税減税控除済額0円」「控除外額30,000円」と記載することが示されています。
 「控除外額30,000円」を記載するということは、通常であれば個人住民税の課税団体である市町村からの給付があることを意味しますが、同一生計配偶者や扶養親族となっている場合でも給付されるのでしょうか?

 答えは「否」です。上記Q&Aの下線部に注目すると、「その人の定額減税としてではなく、その同一生計配偶者や扶養親族を扶養している居住者の定額減税の計算において加味されます。」とあります。

 つまり、誰かの同一生計配偶者や扶養親族となっている人は、自ら定額減税を受けることはできないということです。
 定額減税を受ける本人の方で同一生計配偶者・扶養親族の分についても減税を受けますので、重複して減税を受けることはできません。

2.なぜ源泉徴収票に控除外額3万円の記載が必要か?

 では、何のために源泉徴収票に「控除外額30,000円」と記載するのでしょうか?

 これは、定額減税を受ける本人の方で、漏れなく同一生計配偶者分・扶養親族分の減税を受けているかどうかを市町村で確認するためです。

 上記Q&Aの下線部が「給付されます」ではなく「加味されます」という表現になっているのは、市町村で確認した結果、定額減税を受ける本人が同一生計配偶者分・扶養親族分の減税を受けていないのであれば給付されますし、既に減税を受けているのであれば給付はないためです。

定額減税と年末調整で異なる「同一生計配偶者」「扶養親族」の範囲に注意!

 2024(令和6)年6月1日以後最初に支払う給与・賞与から、所得税の定額減税(月次減税)が開始されます。

 給与支払者は、従業員等から提出された「令和6年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」(以下「扶養控除等申告書」といいます)の記載内容に基づき定額減税を行いますが、定額減税における「同一生計配偶者」と「扶養親族」の範囲が年末調整の場合と一致しないことに注意しなければなりません。

 今回は、定額減税における「同一生計配偶者」と「扶養親族」の内容について確認します。

1.所得税の定額減税額

 所得税の定額減税額は、次の金額の合計額です。

(1) 本人(居住者に限ります)・・・3万円
(2) 同一生計配偶者及び扶養親族(居住者に限ります)※1・・・1人につき3万円

 例えば、「同一生計配偶者:有、扶養親族:2人」の場合は、3万円(本人分)+3万円×3人(同一生計配偶者と扶養親族の分)=12万円が本人の定額減税額(月次減税額)となります。
 
※1 青色申告者の事業専従者としてその年に給与の支払を受けている人または白色申告者の事業専従者を除きます。
 なお、青色事業専従者自身は定額減税の対象となります。詳しくは、本ブログ記事「青色事業専従者自身の定額減税について」をご参照ください。

2.同一生計配偶者の範囲

 月次減税額の計算対象となる同一生計配偶者であるかどうかは、扶養控除等申告書の「源泉控除対象配偶者」欄で確認します。
 扶養控除等申告書に記載されている源泉控除対象配偶者は、次の①~④の要件を満たす人です※2

① 本人の所得金額が900万円以下である(給与収入のみならば年収1,095万円以下)
② 配偶者の所得金額が95万円以下である(給与収入のみならば年収150万円以下)
③ 本人と生計を一にする配偶者である
④ 青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者のいずれにも該当しない配偶者

 一方、定額減税における同一生計配偶者は、次の①~④の要件を満たす人です。

居住者に限る
② 配偶者の所得金額が48万円以下である(給与収入のみならば年収103万円以下)
③ 本人と生計を一にする配偶者である
④ 青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者のいずれにも該当しない配偶者

 扶養控除等申告書に記載された源泉控除対象配偶者と定額減税における同一生計配偶者を比較すると、次のイ~ハのことがわかります。

イ.源泉控除対象配偶者の所得が95万円以下であるのに対し、同一生計配偶者の所得は48円以下である
ロ.源泉控除対象配偶者は居住者に限定されないが、同一生計配偶者は居住者に限る
ハ.源泉控除対象配偶者の要件に給与所得者本人の所得制限(900万円以下)がついているのに対し、同一生計配偶者の要件には給与所得者本人の所得制限はない

 したがって、給与支払者が扶養控除等申告書の記載内容に基づいて定額減税額の計算を行うにあたっては、以下の2点に注意しなければなりません。

 第一に、イ・ロより、定額減税における同一生計配偶者に該当するかどうかは、扶養控除等申告書に記載されている源泉控除対象配偶者の「令和6年中の所得の見積額」が48万円以下であること、及び「非居住者である家族」欄で居住者であることを確認する必要があります。

 第二に、ハより、本人の令和6年中の所得金額の見積額が900万円超の場合、その同一生計配偶者は令和6年中の所得の見積額が48万円以下であっても源泉控除対象配偶者に該当しないため、扶養控除等申告書に記載されていません。
 そのため、同一生計配偶者を月次減税額の計算対象とするには、本人から同一生計配偶者についての記載がある「源泉徴収に係る定額減税のための申告書」の提出を受け、その配偶者の所得の見積額が48万円以下で居住者であることを確認しなければなりません。

※2 令和6年分の扶養控除等申告書の記載内容については、本ブログ記事「令和6年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の書き方と記載例」をご参照ください。

3.扶養親族の範囲

 月次減税額の計算対象となる扶養親族であるかどうかも、扶養控除等申告書の記載内容で確認します。

 扶養控除等申告書に記載されている控除対象扶養親族は、次の①~⑤の要件を満たす人です。

① 親族の所得金額が48万円以下である(給与収入のみならば年収103万円以下)
② 本人と生計を一にする親族である
③ 配偶者、青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者のいずれにも該当しない
④ 居住者のうち、年齢16歳以上である人(平成21年1月1日以前生)
⑤ 非居住者のうち、次のイ~ハのいずれかに該当する人
イ 年齢16歳以上30歳未満の人(平成7年1月2日から平成21年1月1日までの間に生まれた人)
ロ 年齢70歳以上の人(昭和30年1月1日以前に生まれた人)
ハ 年齢30歳以上70歳未満の人(昭和30年1月2日から平成7年1月1日までの間に生まれた人)のうち、「留学により国内に住所及び居所を有しなくなった人」、「障害者」又は「本人から令和6年中において生活費又は教育費に充てるための支払を38万円以上受ける人」

 一方、定額減税における扶養親族は現行の所得税法の定義によりますが、居住者に限ることとされていますので、月次減税額の計算対象に含めることができるのは、上記のうち①~④の要件を満たす人です(⑤は非居住者ですので対象外です)。

 ただし、①~④に該当する控除対象扶養親族以外に、居住者に該当する「16歳未満の扶養親族」についても月次減税額の計算に含めることができますので注意が必要です。

 16歳未満の扶養親族については、所得税の扶養控除の適用を受けることができないことから、扶養控除等申告書に記載していない従業員がいるかもしれません。

 このような場合は、令和6年6月1日以後最初の給与・賞与の支払日の前日までに、扶養控除等申告書の「住民税に関する事項」に16歳未満の扶養親族を記載して再提出を受けることで、その扶養親族を月次減税額の計算に含めることができます。

 また、扶養控除等申告書の再提出に代えて、「源泉徴収に係る定額減税のための申告書」の提出を受けることによっても、16歳未満の扶養親族を月次減税額の計算に含めることができます。
 ただし、この場合には、年末調整の際にその16歳未満の扶養親族を記載した「年末調整に係る定額減税のための申告書」の提出を受ける必要があります。

※ 給与所得者に係る月次減税については、本ブログ記事「給与支払者の定額減税の方法(月次減税事務:計算から納付まで)」をご参照ください。

青色事業専従者自身の定額減税について

 給与所得者については、2024(令和6)年6月1日以後最初に支払われる給与等から所得税の定額減税(月次減税)が開始されます。

 個人事業主については、原則として令和6年分の所得税確定申告で定額減税を行うことになりますが、その個人事業主のもとで給与を支給されている青色事業専従者(個人事業主の配偶者など)は定額減税を受けることができるのでしょうか?
 
 今回は、青色事業専従者の定額減税について確認します。

※ 個人事業主の定額減税については、本ブログ記事「個人事業主の定額減税の概要」をご参照ください。

1.定額減税の対象者と減税額

 定額減税の対象となるのは、令和6年分所得税の納税者である居住者で、令和6年分の所得税に係る合計所得金額が1,805万円以下である人です。

 また、所得税の定額減税額は、次の金額の合計額です。

(1) 本人(居住者に限ります)・・・3万円
(2) 同一生計配偶者及び扶養親族(居住者に限ります)・・・1人につき3万円

2.青色事業専従者は定額減税の計算対象外

 定額減税は本人分だけではなく、上記1(2)にあるように、同一生計配偶者及び扶養親族(居住者に限ります)についても、1人につき3万円の減税を受けることができます。
 例えば、同一生計配偶者と扶養親族1人がいる場合は、3万円(本人分)+3万円×2(同一生計配偶者及び扶養親族分)=9万円の減税を受けることができます。

 本人が給与所得者の場合はこのように定額減税額を計算しますが、本人が個人事業主(事業所得者等)の場合は若干の疑問が生じます。
 すなわち、同一生計配偶者や扶養親族に対して青色事業専従者として給与を支給していても、定額減税の計算対象に含めてもいいのかどうか?ということです。

 国税庁の「令和6年分所得税の定額減税Q&A」(令和6年4月11日改訂)には、同一生計配偶者(問1-4)と扶養親族(問1-5)について、次のように記載されています(下線は筆者による)。

問 「同一生計配偶者」とは、どのような人をいうのですか。
[A]「同一生計配偶者」とは、その年の12月31日(納税者が年の中途で死亡し又は出国する場合は、その死亡又は出国の時)の現況で、納税者と生計を一にする配偶者(青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていない人又は白色申告者の事業専従者でない人に限ります。)で、年間の合計所得金額が48万円(給与所得だけの場合は給与等の収入金額が103万円)以下の人をいいます。

問 「扶養親族」とは、どのような人をいうのですか。
[A]「扶養親族」とは、その年の12月31日(納税者が年の中途で死亡し又は出国する場合は、その死亡又は出国の時)の現況で、次の4つの要件のすべてに当てはまる人をいいます。
⑴ 配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族をいいます。)又は都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人であること。
⑵ 納税者と生計を一にしていること。
⑶ 年間の合計所得金額が48万円以下であること。
青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと又は白色申告者の事業専従者でないこと。

 上記の問答から、納税者本人の定額減税額の計算においては、給与を支給している青色事業専従者は含めない(計算対象人数としてカウントしない)ことがわかります。

3.青色事業専従者自身は定額減税を受けることができる!

 上記2より、個人事業主本人の定額減税の計算対象に青色事業専従者は含めないことがわかりますが、ここで新たな疑問が生じます。
 すわなち、個人事業主のもとで給与を支給されている青色事業専従者自身は、定額減税を受けることができるのか?ということです。
 青色事業専従者といえども、給与所得者であることに変わりはありません。給与所得者であるならば、給与所得者本人として定額減税を受けることができるとも考えられます。

 この点については、「令和6年分所得税の定額減税Q&A」(令和6年4月11日改訂)の問2-9に次のように記載されています(下線は筆者による)。

問 青色事業専従者は定額減税の適用を受けますか。
[A]青色事業専従者として給与の支払を受ける人についても、主たる給与の支払者のもとで、令和6年6月1日以後最初に支払を受ける給与等に係る源泉徴収において、月次減税額を順次控除することとされ、年末調整や確定申告においても定額減税の適用を受けます。

 なお、青色事業専従者として給与の支払を受ける人は、納税者の同一生計配偶者や扶養親族とはされませんので、その納税者と生計を一にしていたとしても、定額減税の計算には含まれません。

 上記の問答より、個人事業主の定額減税の計算対象に青色事業専従者は含まれませんが、青色事業専従者自身は、給与所得者として定額減税を受けることができるとわかります※1。

 なお、給与所得者の定額減税の計算対象にも青色事業専従者は含まれません。
 個人事業主ではない給与所得者に青色事業専従者がいるのかと疑問が生じるかもしれませんが、例えば、給与所得者であるAの妻Bが、個人事業主である父C(妻Bの父)の青色事業専従者として給与の支給を受けている場合などが想定されます。
 この場合、Aは妻BをAの定額減税の計算対象に含めることはできませんが、一方で妻Bは父Cから支給される給与で定額減税を受けることができます※2。

※1 専従者給与を103万円以下としている青色事業専従者の定額減税については、本ブログ記事「給与収入103万円以下の青色事業専従者は自分の定額減税を受けることができるか?」をご参照ください。

※2 父Cが給与支払者として行う定額減税の方法については、本ブログ記事「給与支払者の定額減税の方法(月次減税事務:計算から納付まで)」をご参照ください。

定額減税の実施前に給与支払者が最低限知っておきたいこと

 2024(令和6)年6月1日以後最初に支払う給与等から所得税の定額減税(月次減税)が開始されます。この定額減税を実施する前に給与支払者が最低限知っておきたい(知っておくべき)ことについて、以下で確認します。

※ 例えば、給与計算の締め日が月末(5月31日)で支給日が翌月10日(6月10日)の給与を社内で「5月分給与」と呼んでいる場合は、その「5月分給与」から定額減税を行います。
 定額減税を実施する際の具体的な手順については、本ブログ記事「給与支払者の定額減税の方法(月次減税事務:計算から納付まで)」をご参照ください。

1.定額減税の対象者

 定額減税の対象となるのは、令和6年分所得税の納税者である居住者※1で、令和6年分の所得税に係る合計所得金額※2が1,805万円以下である人です。

 給与所得者に対する定額減税は、給与支払者が令和6年6月以後の各月に支給する給与等から控除する「月次減税」と、年末調整の際に年調所得税額から控除する「年調減税」によって行われます。

 月次減税の対象者は、令和6年6月1日現在、給与支払者に扶養控除等申告書※3を提出している人(源泉徴収税額表の甲欄適用者)です。
 したがって、扶養控除等申告書を提出していない人(源泉徴収税額表の乙欄または丙欄適用者)は、定額減税の対象となりません。
 令和6年6月2日以後に雇用した人については、年調減税を行います。

 年調減税の対象者は、令和6年分の年末調整時に給与支払者に扶養控除等申告書を提出している人です。
 令和6年6月1日以後に、年の中途で退職した人(死亡退職、12月中に支給期の到来する給与の支払を受けた後に退職した人など)や海外の支店へ転勤したことなどの理由により非居住者となった人も年調減税の対象となります。
 一方、令和6年中の給与収入が2,000万円を超える人や合計所得金額が1,805万円を超える人などは、年調減税の対象となりません。

 上述したとおり、定額減税は合計所得金額が1,805万円以下の人が対象ですが、給与収入が2,000万円を超える人など、合計所得金額が1,805万円を超えることが見込まれる人であっても、月次減税の対象(甲欄適用者)となる場合は月次減税を行う必要があります(給与所得者が定額減税を受けるか受けないかを自分で選択することはできません)。

 この場合、合計所得金額が 1,805 万円を超える人については年調減税を受けることができませんので、給与収入が2,000万円以下のときは年末調整の際にそれまで月次減税で控除した定額減税額の精算を行うことになります。
 例えば、給与収入1,900万円(給与所得1,705万円)で不動産所得が200万円ある人のように、給与収入は2,000万円を超えないが他の所得があるために合計所得金額が1,805万円を超える人が該当します。

 給与収入が2,000万円を超える人は年末調整の対象となりませんので、その人は確定申告で最終的な年間の所得税額と月次減税で控除した定額減税額との精算を行うことになります。

 なお、令和6年分の年末調整や確定申告をしても控除しきれない所得税の定額減税額がある場合は、個人住民税を課税する市区町村から2025(令和7)年に1万円単位で給付されるようです。
 例えば、令和6年分の確定した所得税額が132,730円で定額減税額が150,000円の場合は控除しきれない定額減税額が17,270円ありますが、市区町村から給付される額は20,000円(1万円未満切り上げ)となります。

※1 居住者とは、国内に住所を有する個人または現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人をいいます。居住者以外の個人である非居住者は、定額減税の対象となりません。
※2 合計所得金額については、本ブログ記事「『合計所得金額』『総所得金額』『総所得金額等』の違いとは?」をご参照ください。
※3 令和6年分の扶養控除等申告書の書き方については、本ブログ記事「令和6年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の書き方と記載例」をご参照ください。

2.所得税の定額減税額

 所得税の定額減税額は、次の金額の合計額です。

(1) 本人(居住者に限ります)・・・3万円
(2) 同一生計配偶者及び扶養親族(居住者に限ります)・・・1人につき3万円

 例えば、「同一生計配偶者:有、扶養親族:3人」の場合は、3万円(本人分)+3万円×4人(同一生計配偶者と扶養親族の分)=15万円が定額減税額(月次減税額)となります。

 月次減税額の計算対象となる同一生計配偶者とは、その年の12月31日の現況で、上記1の定額減税対象者と生計を一にする配偶者で、年間の合計所得金額が48万円以下(給与所得だけの場合は給与等の収入金額が103万円以下)の人をいいます。
 扶養控除等申告書に記載された「源泉控除対象配偶者」のうち、合計所得金額の見積額が48万円以下、かつ、居住者である人が該当します。

 定額減税対象者の令和6年中の所得金額の見積額が900万円超の場合、その同一生計配偶者は令和6年中の所得金額の見積額が48万円以下であっても「源泉控除対象配偶者」に該当しないため扶養控除等申告書に記載されていません。したがって、月次減税額の計算に含めません。
 ただし、定額減税対象者から同一生計配偶者についての記載がある「源泉徴収に係る申告書」の提出があり、その配偶者の合計所得金額の見積額が48万円以下で居住者であることを確認できた場合には、月次減税額の計算のための人数に含めます。

 月次減税額の計算対象となる扶養親族とは、所得税法上の控除対象扶養親族だけでなく16歳未満の扶養親族も含まれます。
 扶養控除等申告書(住民税に関する事項)に記載されている「16歳未満の扶養親族」のうち、居住者である人は月次減税額の計算に含めることとされています。

 なお、令和6年6月1日現在の扶養控除等申告書の記載内容に異動があった場合でも、定額減税額の再計算は行わず、年末調整や確定申告で調整することとなっています。

※ 青色申告者の事業専従者としてその年に給与の支払を受けている人または白色申告者の事業専従者を除きます。
 なお、個人事業主だけではなく、給与所得者の定額減税の計算対象にも青色事業専従者等は含まれません。
 個人事業主ではない給与所得者に青色事業専従者がいるのかと疑問が生じるかもしれませんが、例えば、給与所得者であるAの妻Bが、個人事業主である父C(妻Bの父)の青色事業専従者として給与の支給を受けている場合などが想定されます。
 個人事業主と青色事業専従者自身の定額減税については、本ブログ記事「個人事業主の定額減税の概要」、「青色事業専従者自身の定額減税について」をご参照ください。