1.税制適格SOと税制非適格SO
ストックオプションとは、会社が自社または子会社の従業員・役員等に対して付与する自社株式を、一定の期間内にあらかじめ定められた権利行使価格で購入することができる権利(新株予約権)をいいます。
このストックオプションについては、ストックオプション税制の適用を受けて取得する「税制適格ストックオプション」と、その適用を受けないで取得する「税制非適格ストックオプション」があります。
税制適格ストックオプションは、ストックオプションの付与契約において、次に掲げる要件が定められているものをいいます。
(1) 当該ストックオプションは、発行会社の取締役等に付与されたものであること。
(2) 当該ストックオプションの行使は、その契約の基となった付与決議の日後2年を経過した日からその付与決議の日後10年を経過する日(発行会社が設立の日以後の期間が5年未満の株式会社で、金融商品取引所に上場されている株式等の発行者である会社以外の会社であることその他の要件を満たす会社である場合には15年)までの間に行わなければならないこと。
なお、付与決議の日とは、新株予約権の割当に関する決議の日をいいます。
(3) 当該ストックオプションの行使の際の権利行使価額の年間の合計額が1,200万円を超えないこと。
(4) 当該ストックオプションの行使に係る1株当たりの権利行使価額は、当該新株予約権に係る契約を締結した株式会社の当該契約の締結の時における1株当たりの価額相当額以上であること。
(5) 当該ストックオプションについて、譲渡が禁止されていること。
(6) 当該ストックオプションの行使に係る株式の交付が、会社法第 238 条第1項に定める事項に反しないで行われるものであること(無償ストックオプションの発行(会238条1項2号)は、労働モチベーションの向上等、適正な便益を受領しているものと評価できる場合は、有利発行には該当しないものとされています(会238条3項1号))。
(7) 発行会社と金融商品取引業者等との間であらかじめ締結された取決めに従い、金融商品取引業者等において、当該ストックオプションの行使により取得した株式の保管の委託がされること。
2.ストックオプションの課税時期
勤務先から支給を受ける現物支給の給与については、支給時の給与所得として所得税の課税対象とされますが、その現物支給の給与が、譲渡制限の付されたストックオプション(税制非適格ストックオプション)である場合には、そのストックオプションを譲渡して所得を実現させることができないことから、ストックオプションの付与時に所得を認識せず、そのストックオプションを行使した日の属する年分の給与所得として所得税の課税対象とされます。
また、勤務先から適正な時価で有償取得したストックオプション(税制非適格ストックオプション)の課税関係は、次のとおりとなります。
(1) 税制非適格ストックオプション(有償型)は、当該ストックオプションを適正な時価で購入していることから、ストックオプションの購入時は経済的利益は発生せず、課税関係は生じません。
(2) 当該ストックオプションの行使時の経済的利益(ストックオプションの値上がり益)については、所得税法上、認識しないこととされています。
(3) 当該ストックオプションを行使して取得した株式を売却した場合、株式譲渡益課税の対象となります。
一方、税制適格ストックオプションに該当する場合には、当該ストックオプションを行使して株式を取得した日の給与課税を繰り延べ、その株式を売却した日の属する年分の株式譲渡益として所得税の課税対象とされます。
以上をまとめると、ストックオプションの課税時期は下表のようになります(×は課税されない、○は課税されることを示します)。
ストックオプションの類型 | 権利付与時 | 権利行使時 | 株式売却時 |
---|---|---|---|
税制非適格ストックオプション(無償) | × | ○(給与所得) | ○(譲渡所得・分離課税) |
税制非適格ストックオプション(有償) | × | ×(認識しない) | ○(譲渡所得・分離課税) |
税制適格ストックオプション(無償) | × | ×(課税の繰延) | ○(譲渡所得・分離課税) |
また、権利行使時と株式売却時の所得の計算方法は次のとおりです。
権利行使時 | (権利行使時株価-権利行使価格)×株式数=所得金額 | ||
株式売却時 | (売却価格-権利行使時株価)×株式数=所得金額 |
3.計算例
以下では、税制非適格ストックオプション(無償型・有償型)と税制適格ストックオプションの課税関係を、簡単な数値例で確認します。
(1) 税制非適格ストックオプション(無償・有利発行型)の課税関係
勤務先から譲渡制限の付されたストックオプション(税制非適格ストックオプション)を無償で取得した場合の課税関係は、次のとおりです。 【発行会社の株価等】 ・ ストックオプションの付与時 : 200 ・ ストックオプションの行使時 : 800(権利行使価額 200) ・ 権利行使により取得した株式の売却時:1,000 |
① 権利付与時:課税されない ② 権利行使時:800-200=600が給与所得として課税される※ ③ 株式売却時:1,000-800=200が譲渡所得として課税される ※ 発行会社は源泉所得税を徴収して納付する必要あり |
(2) 税制非適格ストックオプション(有償型)の課税関係
勤務先からストックオプションを適正な時価(50)で有償取得した場合の課税関係は、次のとおりです。 【発行会社の株価等】 ・ ストックオプションの付与時 : 200 ・ ストックオプションの行使時 : 800(権利行使価額 200) ・ 権利行使により取得した株式の売却時:1,000 |
① 権利付与時:課税されない ② 権利行使時:課税されない(経済的利益を認識しない) ③ 株式売却時:1,000-50-200=750が譲渡所得として課税される※ ※ 株式譲渡益は、売却時の株価(1,000)から、当該ストックオプションの購入価額(50)と権利行使価額(200)の合計額(250)を差し引いた 750 となる |
(3) 税制適格ストックオプションの課税関係
勤務先から税制適格ストックオプションを取得した場合の課税関係は、次のとおりです。 【発行会社の株価等】 ・ ストックオプションの付与時 : 200 ・ ストックオプションの行使時 : 800(権利行使価額 200) ・ 権利行使により取得した株式の売却時:1,000 |
① 権利付与時:課税されない ② 権利行使時:課税されない(課税が繰り延べられる) ③ 株式売却時:1,000-800=200が譲渡所得として課税される |