注意!フリーレント契約の支払家賃の計上時期と経理処理

 不動産賃貸におけるフリーレント契約とは、賃貸借契約開始後の当初数か月間の賃料を無料にする、あるいは減額するというものです(本記事では、無料を前提とします)。
 貸主にとっては、賃貸不動産物件の稼働率の向上が見込めるというメリットがあり、また、借主にとっては初期費用を抑えることができるというメリットがありますが、賃料が無料であるということは、その間(フリーレント期間)の経理処理はどうしたらいいのか、という疑問が生じます
 この点について、前回は貸主側の処理を確認しました(前回記事「フリーレント契約の受取家賃の計上時期と経理処理」をご参照ください)。
 今回は、借主側の処理について確認します。

1.中途解約禁止条項がある場合

 フリーレント契約の場合、フリーレント期間中あるいはフリーレント期間経過直後に解約されてしまうことを防止するために、中途解約禁止条項が設けられているのが一般的です。例えば、次のようなフリーレント契約です。

「賃貸借期間2年間のうち、当初3か月間の賃料(月額40万円)はゼロとするフリーレント契約において、中途解約は禁止であり、仮に賃借人の都合で解約する場合は、賃借人はフリーレント期間に係る賃料相当額120万円(40万円×3か月)及び解約後の未経過期間に係る賃料相当額(40万円×未経過期間月数)を賃貸人に支払う。」

 このような内容のフリーレント契約の場合、貸主には受取家賃の計上時期と経理処理について、理論的方法と実務的方法の2つが認められていました。
 理論的方法は、フリーレント期間開始時から受取家賃を計上する方法であり、実務的方法は、フリーレント期間は受取家賃を計上せずフリーレント期間終了後から受取家賃を計上する方法です。

 では、借主側にも理論的方法と実務的方法が認められているのでしょうか?この点について、以下で確認します。

(1) フリーレント期間開始時から支払家賃を計上―否認される可能性あり

 上記のフリーレント契約においては、中途解約が禁止されており、仮に賃貸借期間の中途で賃借人が自己の都合で解約する場合は、賃貸人は賃借人から、フリーレント期間に係る賃料相当額120万円及び解約後の未経過期間に係る賃料相当額の支払を受けることになります。
 すなわち、賃貸借期間の2年間に係る賃料相当額840万円(40万円×(24か月-3か月))は、このフリーレント契約締結時に、これを受領する権利が確定しているといえます。
 このようなケースでは、受取家賃をフリーレント期間を含む全賃貸借期間に係る賃料として、各期間に配分して収益計上すること(理論的方法)が貸主側の経理処理として相当とされています。具体的には、月額35万円(840万円÷24か月)の受取家賃をフリーレント期間開始時から計上する処理です。

 では、この取引の裏側にある借主側にも同様の経理処理が認められるのでしょうか?具体的には、賃料を支払っていないフリーレント期間開始時から月額35万円の支払家賃を計上する次のような経理処理です。

借方 金額 貸方 金額
支払家賃 35万円 未払金 35万円

 また、フリーレント期間終了後の4か月目からの経理処理は、次のようになります。

借方 金額 貸方 金額
支払家賃 35万円 現金預金 40万円
未払金 5万円    

 貸主側の裏側の処理として当然認められそうに思いますが、このような借主側の経理処理は否認される可能性があります。
 2018(平成30)年6月15日裁決(この裁決事例は、フリーレント期間の賃料を無料ではなく減額するというものでした)において、国税不服審判所は、債務が確定していないなどとして損金算入を認めませんでした(国税不服審判所ホームページ・公表裁決事例「平成30年6月15日裁決」参照)。個人的には、国税不服審判所の判断には疑問が残りますが、借主側の経理処理としては否認される可能性があることに注意が必要です。

(2) フリーレント期間終了後から支払家賃を計上

 賃料を支払っていないフリーレント期間は支払家賃を計上せず、実際に賃料の支払が始まるフリーレント期間終了後から支払家賃を計上する方法です。
 経理処理は、フリーレント期間は仕訳なし、フリーレント期間終了後の4か月目から次のようになります。

借方 金額 貸方 金額
支払家賃 40万円 現金預金 40万円

2.中途解約禁止条項がない場合

 フリーレント契約において、中途解約禁止条項を設けないのはあまり一般的とはいえませんが、この場合は、上記1(2)と同様に、フリーレント期間終了後から支払家賃を計上します。

フリーレント契約の受取家賃の計上時期と経理処理

 不動産賃貸におけるフリーレント契約とは、賃貸借契約開始後の当初数か月間の賃料を無料にする、あるいは減額するというものです(本記事では、無料を前提とします)。
 貸主にとっては、賃貸不動産物件の稼働率の向上が見込めるというメリットがありますが、賃料が無料であるということは、その間(フリーレント期間)の受取家賃は計上しなくてもいいのか、という疑問が生じます。
 今回は、フリーレント契約の場合の受取家賃の計上時期と経理処理(貸主側の処理)について確認します。

※借主側の処理については、本ブログ記事「注意!フリーレント契約の場合の支払家賃の計上時期と経理処理」をご参照ください。

1.中途解約禁止条項がある場合

 フリーレント契約の場合、フリーレント期間中あるいはフリーレント期間経過直後に解約されてしまうことを防止するために、中途解約禁止条項が設けられているのが一般的です。例えば、次のようなフリーレント契約です。

「賃貸借期間2年間のうち、当初3か月間の賃料(月額40万円)はゼロとするフリーレント契約において、中途解約は禁止であり、仮に賃借人の都合で解約する場合は、賃借人はフリーレント期間に係る賃料相当額120万円(40万円×3か月)及び解約後の未経過期間に係る賃料相当額(40万円×未経過期間月数)を賃貸人に支払う。」

 以下では、このフリーレント契約の内容を前提に、受取家賃の計上時期と経理処理を確認します。

(1) フリーレント期間開始時から受取家賃を計上する

 上記のフリーレント契約においては、中途解約が禁止されており、仮に賃貸借期間の中途で賃借人が自己の都合で解約する場合は、賃貸人は賃借人から、フリーレント期間に係る賃料相当額120万円及び解約後の未経過期間に係る賃料相当額の支払をうけることになります。
 すなわち、賃貸借期間の2年間に係る賃料相当額840万円(40万円×(24か月-3か月))は、このフリーレント契約締結時に、これを受領する権利が確定しているといえます。
 したがって、このようなケースでは、受取家賃はフリーレント期間を含む全賃貸借期間に係る賃料として、各期間に配分して収益計上することになります。
 具体的には、賃貸人は月額35万円(840万円÷24か月)の受取家賃をフリーレント期間開始時から計上することになり、次のように経理処理します。

借方 金額 貸方 金額
未収入金 35万円 受取家賃 35万円

 なお、フリーレント期間(3か月間)終了後の4か月目からは、次のように経理処理します。

借方 金額 貸方 金額
現金預金 40万円 受取家賃 35万円
    未収入金 5万円

※貸方・未収入金5万円=35万円×3か月÷(24か月-3か月) 

 理論的には、上記のように受取家賃を計上することが相当と考えられますが、実務的には、次の方法も認められます。

(2) フリーレント期間終了後から受取家賃を計上する

 昨今のフリーレントは、取引実態が「賃料の免除又は値引き」といえるため、会計上フリーレント期間に対応する賃料相当額を収益に計上していない場合でも、税務上認容されます(週刊税務通信No.3338)。
 したがって、フリーレント期間の3か月間は受取家賃を計上せず、フリーレント期間終了後の4か月目から月額40万円の受取家賃を21か月間計上することになります。
 経理処理は、フリーレント期間は仕訳なし、フリーレント期間終了後の4か月目から次のようになります。

借方 金額 貸方 金額
現金預金 40万円 受取家賃 40万円

2.中途解約禁止条項がない場合

 フリーレント契約において、中途解約禁止条項を設けないのはあまり一般的とはいえませんが、例えば、次のようなフリーレント契約があるとします。

「賃貸借期間2年間のうち、当初3か月間の賃料(月額40万円)はゼロとするフリーレント契約において、中途解約が可能であり、解約後の未経過期間に係る賃料相当額の支払義務はないものの、賃借人の都合で解約する場合は、賃借人はフリーレント期間に係る賃料相当額120万円(40万円×3か月)を、中途解約時に賃貸人に支払う。」

 このようなケースでは、フリーレント契約の締結時に、全賃貸借期間に係る賃料相当額が確定しているとは認められませんので、当事者間の契約に従ってフリーレント期間の3か月間は受取家賃を計上せず、フリーレント期間終了後の4か月目から月額40万円の受取家賃を21か月間計上することになります。
 経理処理は、上記1(2)と同様になります。

不祥事による役員報酬の一時的な減額は定期同額給与になるか?

 会社や役員が不祥事を起こした場合に、役員がその不祥事の責任をとって役員報酬を一定期間減額するということがよく報道されています。
 例えば、不祥事が発覚した会社でそのイメージダウンを避けるために、役員が責任をとって役員報酬を6か月間30%減額するなどという場合です。
 このような場合、その減額された役員報酬は定期同額給与として損金算入できるのでしょうか?今回は、この点について確認します。

1.臨時改定事由とは?

 事業年度の中途で役員報酬の減額が行われた場合、それが臨時改定事由によるものであるときは、定期同額給与に該当するものとされています(法人税法施行令69条1項1号)。
 臨時改定事由とは、「役員の職制上の地位の変更、役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情」をいいます。
 例えば、社長が任期途中で退任したことに伴い副社長が社長に就任する場合は、一般的には、その地位及び職務内容ともに重大な変更があると認められることから、臨時改定事由に該当するといえます。
 また、合併法人の取締役が合併後も引き続き同じ地位に留まるものの、その職務内容に大幅な変更がある場合等も臨時改定事由に該当するといえます。
 なお、ここでいう「役員の職制上の地位」とは、定款等の規定又は総会若しくは取締役会の決議等により付与されたものをいい、いわゆる自称専務等はこれに該当しません。

2.臨時改定事由に該当するか?

 ここで、今回の減額事由(不祥事の責任をとる)が「その他これらに類するやむを得ない事情」に該当するか否かがポイントになります。
 役員がとるべき不祥事の責任には、例えば法令違反により行政処分を受けるなど役員個人の行為が原因となるものや、役員は直接かかわっていなくても組織ぐるみで隠ぺいや改ざんを行うなど組織の行為が原因となるものがあります。
 いずれにせよ、これらの不祥事に対する役員の責任を問うために、一定期間役員報酬を減額することは、企業慣行として定着していると考えられます。
 そのため、役員報酬を一時的に減額する理由が、企業秩序を維持して円滑な企業運営を図るため、あるいは法人の社会的評価への悪影響を避けるために、やむを得ず行われたものであり、かつ、その処分の内容が、その役員の行為に照らして社会通念上相当のものであると認められる場合には、「やむを得ない事情」に該当するものとして、減額された期間においても引き続き同額の定期給与の支給が行われているものとして取り扱って差し支えないとされています(2006(平成18)年12月 国税庁・質疑応答事例「一定期間の減額」より)。

3.自主返還された場合

 なお、国税庁・質疑応答事例「一定期間の減額」では、不祥事の責任をとるため、いったん支給した定期給与を役員が自主的に返還した場合には、その自主返還された定期給与は定期同額給与として取り扱われるとしています。この場合、自主返還された定期給与は、雑収入等で処理することとなります。

定期同額給与の類型と改定

 同族会社では、役員報酬は経営者の個人的意思により決定できることが多いと考えられるため、法人税法は役員報酬に係る諸規定を設けています。
 これは、多額の利益が見込まれる事業年度に多額の役員報酬を計上し、法人税等の負担を軽減するといったような経営者による意図的な操作を排除するためです。
 今回は、損金算入できる役員報酬のうち、定期同額給与の類型と改定について確認します。

※ 損金算入できる役員報酬には、定期同額給与、事前確定届出給与及び業績連動給与があります(同族会社にあっては、同族会社以外の法人との間にその法人による完全支配関係があるものに限り、業績連動給与の支払者とされます)。事前確定届出給与については、本ブログ記事「事前確定届出給与の届出期限と支給額の注意点」をご参照ください。

1.定期同額給与の類型

 定期同額給与とは、次に掲げる給与をいいます。

類型 根拠条文
その支給時期が1か月以下の一定の期間ごとである給与(以下「定期給与」といいます)で、その事業年度の各支給時期における支給額又は支給額から源泉税等の額(注1)を控除した金額が同額であるもの 法人税法34条1項
その事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月を経過する日までに改定された定期給与 法人税法施行令69条1項1号イ
その事業年度において、その法人の役員の職制上の地位の変更、職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情(以下「臨時改定事由」といいます)により改定された定期給与 法人税法施行令69条1項1号ロ
その事業年度において、その法人の経営状況が著しく悪化したことその他これに類する理由(以下「業績悪化改定事由」といいます)により改定された定期給与(その定期給与の額を減額した改定に限られます) 法人税法施行令69条1項1号ハ
継続的に供与される経済的利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの 法人税法施行令69条1項1号ニ

(注1)源泉税等の額とは、源泉徴収をされる所得税の額、特別徴収をされる地方税の額、定期給与の額から控除される社会保険料の額その他これらに類するものの額の合計額をいいます。
(注2)上表の法人税法施行令69条1項1号イ~ハに規定する定期給与が定期同額給与に該当するためには、その改定前の各支給時期における支給額が同額であること及びその改定後の各支給時期における支給額が同額であること、が必要となります。
(注3)上表の法人税法施行令69条1項1号ニに規定する経済的利益は定期同額給与の類型の一つですが、その詳細については今回の記事では省略します。

 当該事業年度の1か月以内の各支給時期に同額を支給する場合に限り定期同額給与に該当し、損金算入が可能となります(法人税法34条1項)。事業年度の中途における増額・減額がある場合や、臨時・不定期な支給の場合には、原則として定期同額給与に該当せず、損金不算入となります。
 ただし、以下の場合は、事業年度中途における改定であっても、損金算入が認められる定期同額給与に該当します(法人税法施行令69条1項1号イ~ハ)。

2.損金算入できる定期給与の改定

(1) 定時株主総会における定期給与の改定

 上記1のとおり、その事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月を経過する日までに株主総会等で役員報酬を改定した場合は、その改定前の各支給時期における支給額が同額である定期給与及びその改定後の各支給時期における支給額が同額である定期給与のそれぞれについて、損金算入が認められます。
 例えば、3月決算法人が5月30日に開催した定時株主総会で、代表取締役の役員報酬月額60万円を6月分から80万円に改定した場合、改定前の60万円×2か月=120万円と改定後の80万円×10か月=800万円は、全額損金算入が認められます。

 しかし、多額の利益が見込まれるため、定時株主総会開催日に遡及して増額改定する旨の決議を行い、改定前と改定後の役員報酬の差額を決算月等に別途支給した場合は、当該差額全額が損金不算入となります。
 また、臨時株主総会等において、事業年度の中途で定期給与の増額改定が決議され、当該増額改定後の各支給時期における支給額が同額であったとしても、当該増額部分は損金不算入となります。
 例えば、3月決算法人が5月30日に開催した定時株主総会で代表取締役の役員報酬の改定を行わず、10月1日に開催した臨時株主総会で役員報酬月額60万円を10月分から80万円に改定した場合、改定後の増額部分(80万円-60万円)×6か月=120万円は損金不算入となります。
 ただし、次の臨時改定事由に該当する場合は、臨時増額改定であっても損金算入が認められます。

(2) 臨時改定事由

 代表者の急逝等やむを得ない事情により、役員の職制上の地位、職務内容に重大な変更が生じた場合は、当該役員に対する定期給与の増額改定が当該事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月を経過する日後に行われたものであっても、定期同額給与として取り扱われます。この場合には、増額改定前の定期給与と増額改定後の定期給与のそれぞれが、定期同額給与として取り扱われます。
 例えば、3月決算法人が、代表取締役Aの急逝により10月1日に開催した臨時株主総会において、取締役Bを代表取締役に選任するとともに、Bの役員報酬月額50万円を10月分から前任者Aと同額の80万円に増額改定した場合、改定前の50万円×6か月=300万円と改定後の80万円×6か月=480万円は、全額損金算入が認められます。

(3) 業績悪化改定事由

 役員報酬の事業年度中途における改定が行われた場合は、増額改定だけではなく減額改定についても、原則として損金不算入となります。
 例えば、業績、財務状況及び資金繰りの悪化等により、事業年度中途において定期給与を減額改定した場合には、減額改定前の定期給与のうち減額改定後の定期給与を超える部分の金額は損金不算入となります。
 例えば、3月決算法人が5月30日に開催した定時株主総会で代表取締役の役員報酬の改定を行わず、10月25日に開催した臨時株主総会で、資金繰りが悪化したために役員報酬月額60万円を11月分から40万円に改定した場合、改定前の定期給与60万円のうち改定後の定期給与40万円を超える部分の金額(60万円-40万円)×7か月=140万円は、損金不算入となります。

 しかし、減額改定が業績悪化改定事由による場合は、減額改定前と減額改定後の各支給時期における支給額が同額であれば、定期同額給与として損金算入が認められます。
 例えば、3月決算法人が5月30日に開催した定時株主総会で代表取締役の役員報酬の改定を行わず、10月25日に開催した臨時株主総会で、業績悪化改定事由により役員報酬月額60万円を11月分から40万円に改定した場合、改定前の60万円×7か月=420万円と改定後の40万円×5か月=200万円は、全額損金算入が認められます。
 この業績悪化改定事由とは、「経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由」と規定され、経営状況が著しく悪化したことなどやむを得ず役員報酬を減額せざるを得ない事情があることをいいますので、財務諸表の数値が相当程度悪化したことや倒産の危機に瀕したことだけではなく、経営状況の悪化に伴い、第三者である利害関係者(株主、債権者、取引先等)との関係上、役員報酬を減額せざるを得ない事情が生じていることが必要です。
 具体的には、次のような場合の減額改定は、通常、業績悪化改定事由による改定に該当します。

① 株主との関係上、経営上の責任から役員報酬を減額せざるを得ない場合
② 取引銀行との借入金返済リスケジュール協議上、役員報酬を減額せざるを得ない場合
③ 取引先等からの信用を維持・確保する必要性から策定した経営改善計画に役員報酬の減額が盛り込まれた場合

控除対象外消費税額等の処理

1.控除対象外消費税額等とは

 法人又は個人事業者が、消費税等の経理方法として税抜経理方式を採用している場合、原則として納付すべき消費税額は、仮受消費税等から仮払消費税等を控除した金額となります(いわゆる消費税差額は、原則的には生じません)。
 しかし、その課税期間の課税売上高が5億円超又は課税売上割合が95%未満である場合には、仮払消費税等のうち控除対象とされない部分の消費税額(消費税差額)が発生します。これを控除対象外消費税額等といいます。
 控除対象外消費税額等が生じるのは、仕入控除税額が課税仕入れ等に係る消費税額の全額ではなく、課税売上割合に対応した部分に限られるからです。
 例えば、建物を5,500万円(うち消費税額等500万円)で取得し、その課税期間の課税売上割合が60%だとしたら、500万円×(1-60%)=200万円が控除対象外消費税額等になります。
 この控除対象外消費税額等については、以下に掲げる方法により処理します。なお、税込経理方式を採用している場合は、消費税等は資産の取得価額又は経費の額に含まれますので、控除対象外消費税額等の調整は必要ありません。

2.資産に係る控除対象外消費税額等

 資産に係る控除対象外消費税額等は、次のいずれかの方法により損金の額又は必要経費に算入します。

(1) 資産の取得価額に算入します。

(2) 次のいずれかに該当する場合は、法人については損金経理を要件としてその事業年度の損金の額に、個人事業者はその年分の必要経費に算入します。

① その事業年度又は年分の課税売上割合が80%以上であること
② 棚卸資産に係る控除対象外消費税額等であること
③ 一の資産に係る控除対象外消費税額等が20万円未満であること

(3) 上記に該当しない場合は「繰延消費税額等」として資産計上し、5年以上の期間で償却します。

① 繰延消費税額等が生じた事業年度
 損金算入限度額=繰延消費税額等×その事業年度の月数/60×1/2

②その後の事業年度
 損金算入限度額=繰延消費税額等×その事業年度の月数/60

 例えば、200万円の繰延消費税額等が生じた場合、その生じた事業年度の損金算入限度額は、200万円×12/60×1/2=20万円となります(資産を取得した事業年度は2分の1が損金となります)。
 この場合、会計上は消費税差額200万円を全額雑損失(又は租税公課)で処理することは可能ですが、法人税の計算においては別表十六(十)で損金算入限度額20万円を計算し、限度額20万円を超える額180万円については別表四で加算します。そして、次期以降5年間にわたり180万円を認容していく必要があります。

3.経費に係る控除対象外消費税額等

 経費に係る控除対象外消費税額等は、その全額をその事業年度の損金の額又はその年分の必要経費に算入します。
 ただし、法人税の計算において、交際費等に係る控除対象外消費税額等については、消費税の計算後、会計上は経費に係る分として雑損失(又は租税公課)で処理され損金経理されますが、科目は交際費とはならなくても支出した交際費等として把握し、交際費等の損金不算入の計算が必要になります。
 この場合、交際費等に係る控除対象外消費税額等の金額を、別表十五(交際費等の損金算入に関する明細書)の「支出交際費等の額の明細」欄に、交際費自体の額とは別に記載しなければなりません。
 また、課税資産を購入して寄附した場合の控除対象外消費税額等については、支出寄附金等の額として、寄附金等の損金不算入額を計算しなければなりません。
 なお、交際費等に係る控除対象外消費税額等は、以下のようになります。

(1) 個別対応方式で計算している場合

① 課税売上対応の交際費に係る税額については、控除対象外消費税額等は生じません。
② 非課税売上対応の交際費に係る税額については、その全額が控除対象外消費税額等になります。
③ 共通対応の交際費に係る税額については、交際費等のうち次の算式で計算した金額が控除対象外消費税額等になります。
 控除対象外消費税額等=共通対応の交際費に係る税額×(1-課税売上割合)

(2) 一括比例配分方式で計算している場合

 交際費等のうち、次の算式で計算した金額が控除対象外消費税額等になります。
 控除対象外消費税額等=交際費に係る税額×(1-課税売上割合)

慰安旅行費が福利厚生費となるための3要件と注意点

 福利厚生の一環として、日頃の従業員の頑張りを労うために慰安旅行を実施することがあります。福利厚生の一環として実施する慰安旅行なので、会社が負担した旅行代は当然福利厚生費になるものと経営者(または経理担当者)は考えがちですが、必ずしもそうではありません。
 今回は、慰安旅行費が福利厚生費となるための要件と注意点について確認します。

1.福利厚生費となる要件

 会社行事として行われる慰安旅行に参加することによって従業員が経済的利益を受ければ、原則としてこの経済的利益も給与と同様に所得税の課税対象になります。
 ただし、税務上の取扱いとして、会社が負担した費用が参加した従業員の給与として課税されるかどうかは、その旅行の条件を総合的に勘案して判定することとなります。
 国税庁タックスアンサーによると、慰安旅行によって従業員に供与する経済的利益の額が少額の現物給与は強いて課税しないという少額不追及の趣旨を逸脱しないものであると認められ、かつ、その旅行が次の(1)と(2)のいずれの要件も満たすものであるときは、原則として、その旅行の費用を旅行に参加した人の給与としなくてもよいことになっています。

(1) その旅行に要する期間が4泊5日(海外旅行の場合は、外国での滞在日数が4泊5日)以内であること
(2) その旅行に参加する従業員等の数が全従業員等(工場、支店等で行う場合は、その工場、支店等の従業員等)の50%以上であること

 (1)について補足すると、海外旅行の場合は4泊5日に移動日数(機内泊や船内泊)は含めません。また、(2)について補足すると、アルバイトや契約社員の方は参加比率に含めません。
 いずれにしても、この(1)(2)の要件については形式的に判断できますので、迷うことはないと思います。

 問題は、「少額の現物給与は強いて課税しないという少額不追及の趣旨を逸脱しないものであると認められ」る少額の金額はいくらなのか?ということです。
 これについて明文規定はありませんが、国税庁タックスアンサーに参考になる記載があります。タックスアンサーには、次の3つの事例が掲載されています。

[事例1]
イ 旅行期間3泊4日
ロ 費用及び負担状況 旅行費用15万円(内使用者負担7万円
ハ 参加割合100%
・・・旅行期間・参加割合の要件及び少額不追及の趣旨のいずれも満たすと認められることから原則として課税しなくてもよい

[事例2]
イ 旅行期間4泊5日
ロ 費用及び負担状況 旅行費用25万円(内使用者負担10万円
ハ 参加割合100%
・・・旅行期間・参加割合の要件及び少額不追及の趣旨のいずれも満たすと認められることから原則として課税しなくてもよい

[事例3]
イ 旅行期間5泊6日
ロ 費用及び負担状況 旅行費用30万円(内使用者負担15万円
ハ 参加割合50%
・・・旅行期間が5泊6日以上のものについては、その旅行は、社会通念上一般に行われている旅行とは認められないことから課税

 事例1と2は給与課税しなくてもよい例であり、会社負担額の7万円(1泊あたり2.33万円)と10万円(1泊あたり2.5万円)は、いずれも少額不追及の趣旨を満たす「少額の金額」とされています。
 一方、事例3は給与課税になる例ですが、旅行期間が4泊5日を超えているためであり、会社負担額の15万円(1泊あたり3万円)が少額であるか否かについては定かではありません。
 これらの事例から、3泊4日であれば7万円、4泊5日であれば10万円までは福利厚生費として処理して差し支えないと思われます。

2.慰安旅行費の注意点

 次のような場合には、慰安旅行費の会社負担額は福利厚生費になりませんのでご注意ください。

(1) 自己都合による不参加者に対し、その旅行への参加に代えて金銭を支給する場合には、不参加者のみならず参加者に対しても、その不参加者に対して支給する金銭に相当する給与の支給があったものとして課税されます。
 なお、会社の業務上の都合(商品搬入のための休日出勤等)による不参加者に対して、その旅行への参加に代えて金銭を支給する場合は、その不参加者のみが給与課税されます。
(2) 役員だけで行う旅行は役員賞与とみなされ、損金不算入となります。また、役員個人に対して給与課税されます。
(3) 取引先に対する接待、供応、慰安等のための旅行は、交際費になります。交際費が損金算入限度額を超える場合は、その超過分は損金不算入となります。

不良債権の未収利息はいつまで計上しなければならないか?

 資金を融資した場合、その貸付金に係る利息のうち支払期日が到来していないものについては、時の経過に応じて収益として計上しなければなりません。
 元本と利息は支払期日ごとに返済を受けていくことになりますが、資金を融資した相手先の経営状態が悪化し、これらの返済が滞ることがあります。
 今後も返済が滞ることが予測される場合でも、未収利息の計上は継続しなければならないのでしょうか?
 この点について、税務上の取扱いを以下で確認します。

1.法人税基本通達2-1-25

 税務上は法人税基本通達2-1-25において、法人の有する貸付金又は当該貸付金に係る債務者について次のいずれかの事実が生じた場合には、当該貸付金から生ずる利子の額(実際に支払を受けた金額を除く)のうち当該事業年度に係るものは、当該事業年度の益金の額に算入しないことができるとされています。

(1) 債務者が債務超過に陥っていることその他相当の理由により、その支払を督促したにもかかわらず、当該貸付金から生ずる利子の額のうち当該事業年度終了の日以前6月(当該事業年度終了の日以前6月以内に支払期日がないものは1年以内にその支払期日が到来したものの全額が当該事業年度終了の時において未収となっており、かつ当該期間内にその支払期日が到来したもの以外の利子について支払を受けた金額が全くないか又は極めて少額であること
(2) 債務者につき更生手続が開始されたこと
(3) 債務者につき債務超過の状態が相当期間継続し、事業好転の見通しがないこと、当該債務者が天災事故経済事情の急変等により多大の損失を蒙ったことその他これらに類する事由が生じたため、当額貸付金の額の全部又は相当部分についてその回収が危ぶまれるに至ったこと
(4) 更生計画認可の決定債権者集会の協議決定等により当該貸付金の額の全部又は相当部分について相当期間(おおむね2年以上)棚上げされることとなったこと

 これらの事例にあたる場合は、決算処理で未収利息を計上しなくてもよいこととなっています。受け取っていない、また、受け取る見込みのない利息を収益に計上して課税されることのないように注意しなければなりません。

2.法人税基本通達2-1-25の趣旨

 法人税基本通達2-1-25に掲げる未収利息の収益計上を見合わせる場合の事情は、いずれも元本そのものが不良債権化したというものであって、さらに具体的事情によっては元本自体の貸倒処理又は貸倒引当金の設定も考慮しなければならないケースです。
 このような場合にも、原則どおり未収利息の計上を強制することは実態に合いませんので、同通達により未収利息の計上見合せの特例が設けられています。

事業者が経費支払時にポイントを使用した場合の経理処理

 VISAやJCBなどのクレジットカードで買い物をすると、利用金額に応じてポイントが付与されます。このポイントは、次回以降の買い物の際に購入代金に充てることができます。
 今回は、事業者(法人、個人)が経費支払時にこのようなポイントを使用した場合の経理処理について確認します。
 なお、一般消費者である個人がポイントを使用したときの課税関係については、本ブログ記事「個人が商品購入時に取得又は使用したポイントは所得税の課税対象となるか?」をご覧ください。
 

1.事業者が法人の場合

 法人がポイントで経費を支払った場合の経理処理は、次のいずれかの方法によります(消費税の会計処理は税込方式とします)。

(1) 値引処理(ポイント使用後の支払金額を経費算入する処理)

〇月〇日 消耗品11,000円をクレジットカードで購入した。

借方 金額 貸方 金額
消耗品費 11,000 未払金 11,000

△月△日 〇月〇日の購入代金11,000円が決済され、110円分のポイントが付与された。

借方 金額 貸方 金額
未払金 11,000 現金預金 11,000

◇月◇日 消耗品5,500円をクレジットカードで購入し、△月△日に付与された110円分のポイントを使用した。

借方 金額 貸方 金額
消耗品費 5,390 未払金 5,390

※ ポイント使用後の金額(5,500-110=5,390)を経費算入します。

(2) 両建処理(ポイント使用前の支払金額を経費算入し、ポイント使用額を雑収入に計上する処理)

〇月〇日 消耗品11,000円をクレジットカードで購入した。

借方 金額 貸方 金額
消耗品費 11,000 未払金 11,000

△月△日 〇月〇日の購入代金11,000円が決済され、110円分のポイントが付与された。

借方 金額 貸方 金額
未払金 11,000 現金預金 11,000

◇月◇日 消耗品5,500円をクレジットカードで購入し、△月△日に付与された110円分のポイントを使用した。

借方 金額 貸方 金額
消耗品費 5,500 未払金 5,390
    雑収入 110

※ ポイント使用前の金額(5,500)を経費算入し、ポイント使用額(110)を雑収入に計上します。雑収入の消費税課税区分は不課税です。

2.事業者が個人(個人事業主)の場合

 個人事業主がポイントで経費を支払った場合の経理処理は、法人より少し複雑です。
 個人事業主には一般消費者としての側面と事業者としての側面がありますが、クレジットカードの利用で貯まったポイントも、プライベートで貯まったものと事業で貯まったものがあります。
 事業で貯まったポイントを使用した場合の経理処理は、法人の場合と同様に値引処理と両建処理のいずれかの方法によります(両建処理における雑収入の所得区分は事業所得、消費税課税区分は不課税となります)。
 プライベートで貯まったポイントを事業で使用した場合の経理処理は、次のようになります。

〇月〇日 消耗品11,000円をクレジットカードで購入した。

借方 金額 貸方 金額
消耗品費 11,000 未払金 11,000

△月△日 〇月〇日の購入代金11,000円が決済され、110円分のポイントが付与された。

借方 金額 貸方 金額
未払金 11,000 現金預金 11,000

◇月◇日 消耗品5,500円をクレジットカードで購入し、△月△日に付与された110円分のポイントを使用した。

借方 金額 貸方 金額
消耗品費 5,500 未払金 5,390
    事業主借 110

プライベートで貯まったポイントを使用したときは、使用前の金額(5,500)を経費算入し、ポイント使用額を事業主借とします。ポイント使用額は一時所得の課税対象になることもありますので、雑収入ではなく事業主借で処理して事業所得の収入金額に算入しないようにします。

 プライベートで貯まったポイントを事業で使用した場合の経理処理は、上記のようになります。このような処理は、プライベート用と事業用のクレジットカードを分けるなどして、ポイントが区分できることが前提です。
 しかし、現実的にはプライベートで貯まったポイントなのか事業で貯まったポイントなのかを区分することは煩雑であり、ポイント使用額を雑収入とするのか事業主借とするのか判断しかねることもあります。また、雑収入とすべきものを事業主借とすると、税務調査の際にポイント使用額分の課税漏れを指摘される懸念もあります。
 このような場合は、簡易的な処理として、ポイント使用後の金額を経費に算入する次の処理でも問題ありません(値引処理と同じになります)。

借方 金額 貸方 金額
消耗品費 5,390 未払金 5,390

紹介料が交際費とならないための要件

 不動産業者や建設業者などが顧客や物件の紹介を受けたときに、紹介者(紹介をしてくれた人)に対して紹介料(情報提供料)を支払うことがあります。
 この場合、その紹介料は交際費に該当するケースもありますが、一定の要件を満たせば交際費にならないケースもあります。
 今回は、紹介料が交際費にならないための要件を確認します。

1.紹介者が情報提供を業とする場合

 情報提供を業とする者とは、例えば不動産仲介業のように仲介、代理、斡旋を行う業者(法人・個人)が考えられます。また、不動産売買を主たる業務とする事業者が、自身の販売網を活かして情報提供を行う場合も考えられます。
 これらの者に支払う紹介料については、紹介者が業務として紹介を行っていますので交際費とはならず、支払手数料等として全額が損金になります。
 交際費の問題が生じるのは、情報提供を業としない者へ紹介料を支払った場合です。

2.紹介者が情報提供を業としない場合

 情報提供を業としない者(法人・個人)に対して紹介料を支払った場合は、その紹介料は原則として交際費になります。
 現行制度では、資本金1億円以下の中小企業の場合、年間800万円までの交際費は損金算入されますが、800万円を超える部分は損金算入不可です。交際費とすべき紹介料を支払手数料として処理していた場合に、その紹介料が税務調査の際に交際費と認定されて、結果的に交際費が年間800万円を超えてしまうこともあります。
 しかし、次の要件をすべて満たす場合は、情報提供を業としない者に支払った紹介料は交際費に該当しないこととされています(租税特別措置法通達61の4(1)-8)。

(1) その金品の交付があらかじめ締結された契約に基づくものであること
(2) 提供を受ける役務の内容が当該契約において具体的に明らかにされており、かつ、これに基づいて実際に役務の提供を受けていること
(3) その交付した金品の価額がその提供を受けた役務の内容に照らし相当と認められること

 (1)の「あらかじめ締結された契約に基づくもの」という要件については、契約そのものは口頭でも成立しますが、税務調査の際に証拠を示すためにも、文書による契約が望ましいといえます。しかし、紹介者が情報提供を業とする者なら別ですが、そうでない者との間にあらかじめ文書による契約を交わすことは稀であると思われます。
 そこで、契約書でなくても、例えば、紹介料の支払基準を記載したポスターやチラシなどを、社内その他所要の場所に掲示する方法でも構いません。

 (2)の「役務の提供を受けていること」という要件については、何をもって役務の提供を受けたとするかを明らかにしておく必要があります。
 例えば、建設会社が紹介を受けた見込客と交渉した結果、他の建設会社の方が条件がよいとされ成約しなかった場合、役務の提供を受けたか否かが問題となります。役務の提供の程度がどうであるかは、契約の具体的内容がどのようになっているかに係る問題であると解されるため、成約したら支払うのか、確かな情報だけに支払うのか、いわゆるガセネタでも支払うのか等を明らかにしておく必要があります。

 (3)の「提供を受けた役務の内容に照らし相当と認められること」という要件については、(2)で明示された役務の提供の程度(成約したら支払う、確かな情報だけに支払う、ガセネタでも支払う等)を考慮して判断されます。
 しかし、紹介料には統一的な相場はなく、業種や規模、内容等によって異なりますので、同業他社の相場情報が参考になると思われます。
 注意しなければならないことは、同程度の役務の内容なのに紹介をしてくれた相手によって支払額が変わったりすると、単なる謝礼として交際費とみなされる可能性があるということです。税務調査で否認されないためにも、合理的な支払基準を作成する必要があります。

役員報酬の前払いは定期同額給与(経費)になりません

 前回、「役員報酬の前払いは短期前払費用(経費)になりません」という記事を書きました。この記事では、翌期の役員報酬を当期に前払いしても、当期の経費にならないことを確認しました。
 では、当期の役員報酬を当期に前払いした場合は、その役員報酬は当期の経費になるのでしょうか。今回は、この点について確認します。

1.設例

 以下の簡単な例を設けて話を進めます。

【設例】
(1) A社(3月決算法人)は○年5月25日に定時株主総会を開き、代表取締役甲の5月26日から翌年5月25日までの役員報酬を1,200万円(月額100万円)とすることを決議をした。なお、支給日は各月25日である。

(2) A社は、○年6月25日に6月分の役員報酬100万円と7月分以降の残り11回分1,100万円を甲に支給した。その際、A社は次のように会計処理をした。

借方 金額 貸方 金額
役員報酬 100万円 現金預金 1,200万円
前払金 1,100万円    

(3) A社は、〇年7月25日以降の各支給日に次のように会計処理をした。

借方 金額 貸方 金額
役員報酬 100万円 前払金 100万円

 

2.定期同額給与になるか?

 法人税法第34条第1項第1号(役員給与の損金不算入)において、定期同額給与は次のように定義されています。

法人税法第34条 (役員給与の損金不算入)
 内国法人がその役員に対して支給する給与・・・のうち次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
1 その支給時期が1月以下の一定の期間ごとである給与・・・で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものその他これに準ずるものとして政令で定める給与(次号において「定期同額給与」という。)

 また、法人税基本通達9-2-12において、定期同額給与は次のように定められています。

9-2-12 法第34条第1項第1号《定期同額給与》の「その支給時期が1月以下の一定の期間ごと」である給与とは、あらかじめ定められた支給基準(慣習によるものを含む。)に基づいて、毎日、毎週、毎月のように月以下の期間を単位として規則的に反復又は継続して支給されるものをいう・・・。

 上記設例において、A社は甲に対して、7月以降も各支給日に毎月100万円を支給していますので、定期同額給与とすることに問題がないように見えます。
 しかし、税務調査の際には、次の指摘がされる可能性があります。

3.役員に対する貸付金又は賞与

 税務署は、定期同額給与の判定において、上記のように役員報酬が前払いされている場合はその理由を問うこととしており、通常、当該役員に一時金が必要だったと判断されるようです。
 そのため、役員報酬を前払いした場合は、役員に対する貸付金又は賞与と認定される可能性があります。