不動産販売業の売上計上時期

 不動産の売買では、売買契約を締結してから物件の引渡しまでに通常1~3か月かかります。
 同一事業年度内に契約と引渡しが行われる場合、例えば、不動産販売業を営む法人(3月決算)が、1月に買主との間で売買契約を締結し3月に引渡しを行う場合は、その売上計上時期について特に疑問は生じません。
 しかし、契約と引渡しが事業年度をまたぐ場合、例えば、1月に売買契約を締結し引渡しが4月になる場合は、契約した当期に売上計上するのか引き渡した翌期に売上計上するのか、若干の疑問が生じます。仮に、契約した当期に売上を計上すべきとした場合に翌期に売上計上しているときは、税務調査の際に売上計上遅延を指摘される懸念も残ります。
 今回は、不動産販売業を営む法人の売上計上時期について確認します。

1.不動産販売業における不動産は棚卸資産

 不動産販売業以外の業種、例えば製造業などを営む法人は、不動産を固定資産として保有しますが、不動産販売業を営む法人は、不動産を販売することを目的として保有します。
 販売目的で保有する不動産は棚卸資産に該当し、貸借対照表では販売用不動産などの科目で表示されます。
 販売用不動産には、①開発中の販売用不動産と②開発を行わない販売用不動産及び開発が完了した販売用不動産があります。
 ①は、例えば、土地を仕入れて造成や建物の建築を行っている不動産をいい、②は、土地や土地付き建物を仕入れてそのまま転売する不動産、造成工事や建築工事が完了し完成在庫となっている不動産をいいます。
 法人税法上の棚卸資産は、「商品、製品、半製品、仕掛品、原材料その他の資産で棚卸しをすべきものとして政令で定めるもの(有価証券及び第61条第1項(短期売買商品等の譲渡損益及び時価評価損益)に規定する短期売買商品等を除く。)」をいいます(法人税法第2条20号)。政令で定めるものとは、「商品又は製品(副産物及び作業くずを含む)、半製品、仕掛品(半成工事を含む)、主要原材料、補助原材料、消耗品で貯蔵中のもの、これらの資産に準ずるもの」をいいます(法人税法施行令第10条)。
 販売用不動産は、①の場合は半製品、仕掛品に該当し、②の場合は商品、製品に該当します。

2.不動産販売の収益認識

(1) 会計上の取扱い

 不動産販売の売上計上時期については、企業会計原則における実現主義によって収益を認識することとなります。実現主義とは、「財貨又は役務の提供」とそれに対する「現金又は現金同等物の受領」という2要件を満たした時点で収益を認識(売上を計上)する基準です。
 通常の不動産販売であれば、①売買契約の締結・手付金の受領、②物件引渡し・残金決済、③②とほぼ同時に所有権移転登記が行われますが、②の物件引渡しと残金決済の時点で 実現主義の2要件を満たすと考えられます。
 したがって、不動産販売業においては、買戻し条件や譲渡人からの融資といった特殊な状況がなければ、物件の引渡しが行われた時点で売上を計上します。

(2) 法人税法上の取扱い

 法人税法でも、「棚卸資産の販売による収益の額は、その引渡しがあった日の属する事業年度の益金の額に算入する」こととされています(法人税基本通達2-1-1)。
 棚卸資産の引渡しの日がいつであるかについては、「例えば出荷した日、相手方が検収した日、相手方において使用収益ができることとなった日、検針等により販売数量を確認した日等当該棚卸資産の種類及び性質、その販売に係る契約の内容等に応じその引渡しの日として合理的であると認められる日のうち法人が継続してその収益計上を行うこととしている日によるものとする」とされています(法人税基本通達2-1-2)。
 また、「この場合において、当該棚卸資産が土地又は土地の上に存する権利であり、その引渡しの日がいつであるかが明らかでないときは、次に掲げる日のうちいずれか早い日にその引渡しがあったものとすることができる。
(1) 代金相当部分(おおむね50%以上)を収受するに至った日
(2) 所有権移転登記の申請(その登記の申請に必要な書類の相手方への交付を含む。)をした日」とされています (法人税基本通達2-1-2)。

 一般的な不動産販売であれば、引渡基準によれば会計上も税務上も売上計上が認められます。
 しかし、税務で認められている代金の相当部分(おおむね50%以上)を収受した日に売上計上する方法については、実現主義の2要件のうち「財貨又は役務の提供」を満たしているとはいえず、会計上は売上を計上することは認められないとされています。

(3) 引渡しがあった日とは?

 以上から、不動産販売業では物件の引渡しがあった日に売上を計上することになりますが、この「引渡しがあった日」の判定については、裁判における判決の中で次のように判示されています。

「不動産の販売による売上げの計上時期については、不動産の引渡しがあった日の属する事業年度の益金の額に算入すべきであり、その判断は、諸事情を考慮し、現実の支配が移転した時期をもって行うべきである」(東京地裁 平9.10.27、東京高裁 平10.7.1)
「目的物の現実支配が移転した場合は引渡があったと認めるのが相当で、不動産の場合、売主から買主に登記関係書類が交付されたか否か、代金の全部又は一部が支払われたか、売主の合意によって所有権移転登記を経由したか否か等を指標として合理的に判断すべきものと解される」(福岡高裁 昭60.4.24、最高裁 昭61.10.9)

同族会社・役員間の不動産売買における時価の算定方法

 独立した第三者間で不動産売買が行われる場合、その売買価額について税務上の問題は通常生じません。しかし、同族関係にある会社と役員の間で行われる不動産売買については、その売買価額の決定に恣意性が介入する可能性があります。
 その結果、会社又は役員のいずれかが過大に利益を受けたり、税負担が不当に軽減されたりするため、その売買価額が適正であるか否かについて税務署のチェックは厳しいものとなります。
 もし、その売買価額が適正でないと判断された場合には、思わぬ税負担が生じることもありますので、売買価額は慎重に決定しなければなりません。
 今回は、同族関係にある会社と役員の間で行われる不動産売買について、その売買価額(時価)の算定方法を確認します。

1.不動産の適正な時価とは?

 時価とは、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われた場合に通常成立すると認められる価額、すなわち客観的な交換価値をいうものと一般的に解されています。
 しかし、所得税法・法人税法では「その時における価額」とされているだけで、時価の算定方法を示した明確な規定はありません。
 一方、通達には時価に関するいくつかの規定があります。法人税基本通達4-1-3及び9-1-3(時価)では、時価について「当該資産が使用収益されるものとしてその時において譲渡される場合に通常付される価額」と規定しています。
 また、法人税基本通達4-1-8及び9-1-19(減価償却資産の時価)では、「当該資産の再取得価額を基礎として旧定率法により償却を行ったものとした場合に計算される未償却残高に相当する金額によっているときは、これを認める」旨が規定されています。
 さらに、法人税基本通達12の3-2-1(連結納税の開始等に伴う時価評価資産に係る時価の意義(2)土地)において、「当該土地につき近傍類地の売買実例を基礎として合理的に算定した価額又は当該土地につきその近傍類地の公示価格等から合理的に算定した価額をもって当該土地の価額とする方法」によりその時の価額を算定しているときは、課税上弊害がない限りこれを認めると規定しています。
 これらの通達などを基に、以下で不動産(土地と建物)の時価の算定方法をみていきます。

2.土地の時価の算定方法

(1) 一般的な時価の算定方法

 実務上採用されている適正な時価の算定方法には、以下のものがあります。

① 不動産鑑定評価に基づく方法
 不動産鑑定士が不動産鑑定評価基準等に基づき算定する方法です。合理的な方法の一つですが、不動産鑑定士に対する報酬などの費用負担を伴います。

② 売買実例価額に基づく方法
 類似する近隣の売買実例との比較等により算定する方法です。所得税法・法人税法では、最も合理的で相当な方法と解されていますが、実際に売買実例に基づいて時価を算定することは、時間的、場所的及び物件的、用途的な同一性の点で、類似した物件の売買実例を把握することに技術面や費用面で困難を伴うことが多いといえます。

③ 地価公示価格に基づく方法
 類似する近隣の地価公示価格に基づき算定する方法です。土地の形状などの条件が異なる場合には、土地の補正等が必要になります。

④ 相続税評価額÷80%
 路線価が地価公示価格の80%を目安に設定されているため、路線価地域に所在する土地の相続税評価額を地価公示価格の水準に置き換える方法です。

⑤ 固定資産評価額÷70%
 固定資産評価額が地価公示価格の70%を目安に設定されているため、土地の固定資産税評価額を地価公示価格の水準に置き換える方法です。

(2) 公示価格比準倍率による算定方法(参考)

 公示価格比準倍率による算定方法とは、過去の裁判(東京高裁平3.11.21、千葉地裁平3.2.28,東京高裁平1.9.25)で採用された時価の算定方法であり、相続税評価額に公示価格比準倍率及び時点修正率を乗じて時価(公示価格水準)を算定する方法です。
 具体的な算定方法は、次のとおりです。

Ⅰ 平均比準倍率の算出
① 公示価格比準倍率:譲渡年の比較対象地の公示価格÷譲渡年の比較対象地の路線価
② 平均比準倍率:①の平均値

Ⅱ 譲渡日への時点修正
① 公示価格の前年比:譲渡年の翌年の比較対象地の公示価格÷譲渡年の比較対象地の公示価格×100
② 年初から譲渡日までの経過月数
③ 時点修正率:1+(①-100)×②÷12
※ 公示価格は、地価公示法に基づいて、国土交通省土地鑑定委員会が毎年1月1日時点における標準地の正常な価格を3月に公示するものです。

Ⅲ 公示価格相当額(時価)
相続税評価額×平均比準倍率×時点修正率

 次の簡単な数値例で、上記計算式の確認をします。

【設例】
・会社が役員に対して会社所有の土地を譲渡する
・譲渡年月日:令和3年8月16日
・評価対象地:1㎡当たりの相続税評価額250,000円、地積200㎡
・比較対象地:3地点(A~C)の公示価格及び路線価
  公示価格(R3) 公示価格(R4) 路線価
A 320,000円 322,000円 252,000円
B 332,000円 340,000円 280,000円
C 330,000円 334,000円 267,000円
【時価の算定】
Ⅰ 平均比準倍率の算出
① 譲渡年(R3)の比較対象地の公示価格比準倍率(小数点以下第3位四捨五入)
A:320,000円÷252,000円=1.27(比準倍率)
B:332,000円÷280,000円=1.19(比準倍率)
C:330,000円÷267,000円=1.24(比準倍率)
② 平均比準倍率
(1.27+1.19+1.24)÷3=1.23

Ⅱ 譲渡日への時点修正
① 比較対象地の公示価格の前年比(小数点以下第2位四捨五入)
A:322,000円÷320,000円×100=100.6%
B:340,000円÷332,000円×100=102.4%
C:334,000円÷330,000円×100=101.2%
平均値:(100.6+102.4+101.2)÷3=101.4%
② 年初(1/1)から譲渡日(8/16)までの経過月数
1/1~8/16→8か月
③時点修正率
1+(101.4-100)÷100×(8÷12)=1.009(小数点以下第4位四捨五入)

Ⅲ 公示価格相当額(時価)
250,000円×1.23×1.009×200㎡=62,053,500円

 この公示価格比準倍率による算定方法は、過去の裁判(個人から法人への土地の譲渡価額について、所得税法59条1項2号(みなし課税)及び法人税法22条(受贈益の認定課税)の適用の可否が争われた裁判)において被告である税務署長が主張した時価の算定方法です。
 この判決の中で「公示価格は客観的な取引価格に近いものであるが、通常は時価をある程度下回るものであることは公知の事実である」と判示されており、この方法により算定した価額は、基本的には当該土地の時価を上回ることはなく、時価の範囲内での更正処分を認めたものです。したがって、この方法により算定した価額がただちに税務上の時価であるとはいえませんが、先に述べた法人税基本通達12の3-2-1にあるように、土地の時価の算定方法の一つとして参考になる評価方法といえます。

3.建物の時価の算定方法

 実務上採用されている適正な時価の算定方法には、以下のものがあります。

① 不動産鑑定評価に基づく方法
 不動産鑑定士が不動産鑑定評価基準等に基づき算定する方法です。

② 売買実例価額に基づく方法
 類似する近隣の売買実例との比較等により算定する方法です。評価の対象となる建物が中古物件の場合には、近隣の取引事例の把握が困難な場合が多いと思われます。

③ 相続税評価額(固定資産税評価額)に基づく方法
 固定資産税評価額による方法です。利用状況に応じ、自家用家屋、貸付用家屋に区分されます。

④ 再取得価額から減価償却額を控除する方法(複成価格法)
 売買を行う時点で、新品として取得する場合の価額(再取得価額)から経過年数に応じた減価償却額を控除する方法です。
 なお、建物の再取得価額は、国土交通省の建築統計年報等に基づく建築価額当により計算することができます。

会社設立時に提出する税務上の書類

 会社を設立した場合には、納税地を所轄する役所(税務署、都道府県税事務所、市町村役場)に対して、法人の設立に伴う様々な届出書及び申請書を提出しなければなりません。
 今回は、会社を設立した場合に必要な書類について確認します。

1.税務署へ提出する書類

 会社設立時に所轄税務署へ提出する書類は、下記のとおりです(消費税免税事業者を前提とします)。

(1) 法人設立届出書
(2) 青色申告の承認申請書
(3) 棚卸資産の評価方法の届出書
(4) 減価償却資産の償却方法の届出書
(5) 有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出方法の届出書
(6) 給与支払事務所等の開設届出書
(7) 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
(8) 申告期限の延長の特例の申請書
(9) 事前確定届出給与に関する届出書(付表1、付表2)
(10) 個人事業の廃業等の届出書(法人成りの場合)
(11) 所得税の青色申告の取りやめ届出書(法人成りの場合)

 以下で、それぞれの概要をみていきます。

(1) 法人設立届出書

 会社を設立した場合は、「 法人設立届出書 」を納税地の所轄税務署長に提出しなければなりません。
 この届出書には、次の書類を添付します(②その他の書類は基本的には添付不要ですが、税務署によっては登記事項証明書などを求められる場合があります)。

① 定款等の写し
② その他の書類(登記事項証明書(コピー可)など)

 提出期限は、会社設立の日(設立登記の日)以後2か月以内です。

(2) 青色申告の承認申請書

 法人税の確定申告書、中間申告書等を青色申告書によって提出することの承認を受ける場合に必要な書類です。
 設立第1期目から青色申告の承認を受けようとする場合の提出期限は、設立の日以後3か月を経過した日と設立第1期の事業年度終了の日とのうちいずれか早い日の前日までです。なお、この期限が休日等に当たる場合は、休日等明けの日が提出期限となります。

(3) 棚卸資産の評価方法の届出書

 棚卸資産の評価方法を選定して届け出る書類です。提出しない場合は、棚卸資産の評価方法は最終仕入原価法となります。
 提出期限は、設立第1期の事業年度の確定申告書の提出期限までです。

(4) 減価償却資産の償却方法の届出書

 減価償却資産の償却方法を選定して届け出る書類です。提出しない場合は、減価償却資産の償却方法は定率法(建物・建物附属設備・構築物は定額法)となります。
 提出期限は、設立第1期の事業年度の確定申告書の提出期限までです。

(5) 有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出方法の届出書

 有価証券の評価方法を選定して届け出る書類です。提出しない場合は、有価証券の評価方法は移動平均法となります。
 提出期限は、有価証券を取得した日の属する事業年度(必ずしも、設立第1期とは限りません)の確定申告書の提出期限までです。

(6) 給与支払事務所等の開設届出書

 給与の支払者が、国内において給与等の支払事務を取り扱う事務所等を開設、移転又は廃止した場合に、その旨を所轄税務署長に届け出る書類です。
 提出期限は、開設、移転又は廃止の事実があった日から1か月以内です。

(7) 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書

 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請を行うための書類です。
 提出期限は、特に設けられていません(原則として、提出した日の翌月に支払う給与等から適用されます)。

※ 詳細については、本ブログ記事「納期の特例はいつから適用される?」をご参照ください。

(8) 申告期限の延長の特例の申請書

 会計監査人の監査を受けなければならない等の理由により決算が確定しないため、今後、申告期限までに確定申告書を提出できない常況にある法人が申告期限の延長の特例を申請しようとする場合の書類です。
 提出期限は、最初に適用を受けようとする事業年度終了の日までです。

(9) 事前確定届出給与に関する届出書

 設立1期目であっても、事前確定届出給与の制度を利用することができます。この制度を利用することにより、役員賞与を損金算入することができます
 設立1期目の提出期限は、設立の日以後2か月を経過する日までです。

※ 事前確定届出給与については、本ブログ記事「『事前確定届出給与に関する届出書』等の書き方と記載例」「事前確定届出給与を支給しなかった場合のリスクを回避するための手続き」等をご参照ください。

(10) 個人事業の廃業等の届出書(法人成りの場合)

 法人成りして、個人事業を廃止したときの書類です。
 提出期限は、個人事業の廃業の事実があった日から1か月以内です。

(11) 所得税の青色申告の取りやめ届出書(法人成りの場合)

 個人事業の青色申告の承認を受けていた者が、青色申告書による申告を取りやめようとする場合の書類です(必ずしも提出する必要はありません)。
 提出期限は、青色申告を取りやめようとする年の翌年3月15日までです。

2.都道府県税事務所へ提出する書類

 会社設立時に所轄都道府県税事務所へ提出する書類は、下記のとおりです 。

(1) 法人設立届出書
(2) 法人県民税・法人事業税の申告書の提出期限の延長の処分等の届出書・承認申請書
(3) 個人事業の廃業等の届出書(法人成りの場合)

 以下で、それぞれの概要をみていきます。

(1) 法人設立届出書

 法人を設立した場合又は他の都道府県において主たる事務所もしくは事業所を設けて事業を行う法人が、県内に事務所もしくは事業所を設置して新たに納税義務が生じた場合は、「法人設立届出書」を所轄都道府県税事務所へ提出しなければなりません。
 この届出書には、次の書類を添付します。

① 定款等の写し
② 登記事項証明書(コピー可)

 提出期限は、会社設立の日(設立登記の日)又は当該事務所もしくは事業所を設置した日から1か月以内です。

(2) 法人県民税・法人事業税の申告書の提出期限の延長の処分等の届出書・承認申請書

 法人税の確定申告書の提出期限が延長された場合、会計監査人の監査を受けなければならない等の理由により決算が確定しないため、今後、申告期限までに確定申告書を提出できない常況にある法人が申告期限の延長の申請をしようとする場合の書類です。
 この申告期限の延長特例には、次の書類を添付します。

① 法人県民税関係・・・法人税における延長承認申請書の写し(税務署の受付印のあるもの)
② 法人事業税・地方法人特別税関係・・・申告書の提出期限までに決算が確定しない事由を確認できるもの(定款の写し等)

 提出期限は、法人県民税の場合、申告書の提出期限の延長の処分があった日の属する事業年度終了の日から22日以内です。法人事業税の場合、当該延長を受けようとする事業年度終了の日までです。

(3) 個人事業の廃業等の届出書(法人成りの場合)

 法人成りして、個人事業を廃止したときの書類です。
 提出期限は、個人事業の廃業の場合においては、廃業した日から10日以内です。

3.市町村役場へ提出する書類

 会社設立時に所轄市町村役場へ提出する書類は、下記のとおりです 。

(1) 法人設立届出書
(2) 個人事業の廃業等の届出書(法人成りの場合)

 以下で、それぞれの概要をみていきます。

(1) 法人設立届出書

 法人を設立した場合又は他の市町村において主たる事務所もしくは事業所を設けて事業を行う法人が、市町村内に事務所もしくは事業所を設置して新たに納税義務が生じた場合は、「法人設立届出書」を所轄市町村役場へ提出しなければなりません。
 この届出書には、次の書類を添付します。

① 定款等の写し
② 登記事項証明書(コピー可)

 提出期限は、会社設立の日(設立登記の日)又は当該事務所もしくは事業所を設置した日から1か月以内です。

(2) 個人事業の廃業等の届出書(法人成りの場合)

 法人成りして、個人事業を廃止したときの書類です。
 提出期限は、個人事業の廃業の場合においては、廃業した日から遅滞なくとされています。

未払役員賞与の辞退があった場合の法人税・所得税・源泉徴収の取扱い

 費用処理により未払役員賞与を計上していたところ、その後の市場環境の悪化等による資金繰りのひっ迫のため、役員が未払役員賞与の受給を辞退することがあります。
 今回は、このような場合の税務上の取扱いについて確認します。

1.法人税法上の取扱い

 役員賞与は、事前確定届出により支給額があらかじめ定められており、かつ、その通りの支給が行われた場合に限り、当該事業年度の損金に算入されます。したがって、事前確定届出をしないで役員賞与を未払計上した場合や事前確定届出をしていても役員賞与を未払計上した場合は、損金不算入となります。
 また、この損金不算入の未払役員賞与を支給しないこととなり、役員から債務免除を受けた場合は、未払賞与に係る債務免除であっても、これにより生じた債務免除益は、原則としてその免除を受けた事業年度の益金の額に算入されます。
 ただし、損金不算入の未払賞与に係る債務免除益に課税するというのは不合理ですので、その債務免除が次の(1)~(4)に掲げる要件を満たすときは、その未払賞与に係る債務免除益は益金に算入しないことができるように取り扱われています。

(1) 支給しないこととなった原因が、会社の整理、事業の再建、業績不振のためのものであること
(2) 支給しないことが、取締役会等の決議に基づき決定されたこと
(3) 支給しないこととなる金額が、未払賞与金の全額又は大部分であること
(4) 支給しないこととなる金額が、その支給を受ける金額に応じて計算される等一定の基準によっていること

2.所得税法上の取扱い

 役員賞与については、株主総会等の決議があった日に給与所得の収入金額に算入すべきこととされ、その決議が総額のみで各人ごとの支給額を定めていないときは、各人ごとの支給額が具体的に定められた日に収入金額に算入すべきこととされています。
 このように給与所得の収入金額に算入した役員が賞与の受領を辞退した場合には、「資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例」(所得税法第64条)を適用して、債務免除した金額に対応する部分の金額は、個人の所得金額の計算上なかったものとみなすこととされています。

3.源泉徴収の取扱い

 役員や使用人に毎月支払われる給与等が、定められた支給日に支払われずに未払となる場合、源泉徴収は給与等を実際に支払う際に行いますので、原則として支払われるまでは源泉徴収は行われないこととなります
 ただし、役員に対する賞与は、支払の確定した日から1年を経過した日までにその支払がされない場合には、その1年を経過した日において支払があったものとみなされ源泉徴収を行います。
 この支払があったものとみなされた役員賞与について、その後、賞与の受給辞退が行われても、その未払賞与につき源泉徴収した税額は、その源泉徴収をした源泉徴収義務者に還付する過誤納金とはなりません。

※ 年末調整を行う際に未払が残っている場合は、その未払となっている給与等の金額も年間の給与等の支払金額の総額に含めるとともに、その未払給与等に対応する所得税及び復興特別所得税の額も年間の所得税及び復興特別所得税の額の総額に含めたところで年末調整を行います。

 一方、法人の債務超過の状態が相当期間継続し、賞与の支払いを受けることができないと認められる場合にその賞与の受給辞退が行われたときは、源泉徴収をする必要はありません。
 また、その法人について次のような特殊事情があった場合に、一般債権者の損失を軽減するために役員賞与の受給を辞退したときは、辞退により支払わないこととなった部分については源泉徴収をしなくてもよいこととされています。

(1) 整理開始の命令又は特別清算の開始命令を受けたこと等
(2) 破産手続の開始決定を受けたこと
(3) 更生手続の開始決定を受けたこと
(4) 事業不振のため会社整理の状態に陥り、債権者集会等の協議決定により債務の切捨てを行ったこと

被災地に義援金を送金した場合等の税務上の取扱い

 個人又は法人が、災害により被害を受けられた方を支援するために、被災地の地方公共団体に設置される災害対策本部等に義援金や支援金を支払った場合等の税務上の取扱いについて確認します。
 なお、義援金は「お悔やみや応援の気持ちを込めて被災者に直接届けるお金」のことをいい、支援金は「自分が応援したい団体に寄付し、被災地の支援活動に役立ててもらうお金」のことをいいますが、本稿では両者を合わせて「義援金」といいます。

1.被災地の地方公共団体に設置された災害対策本部に対して義援金を支払った場合

 個人又は法人が、被災地の地方公共団体に設置された災害対策本部に対して義援金を支払った場合の税務上の取扱いは、次のとおりです。

個人  個人の方が、被災地の地方公共団体に設置された災害対策本部に対して支払った義援金は「特定寄附金」に該当し、寄附金控除の対象となります。
 なお、当該義援金は、地方公共団体に対する寄附金として個人住民税の寄附金税額控除の対象となり、原則としてふるさと納税に該当します(ワンストップ特例制度の適用ができますが、通常は返礼品はありません)。
法人  法人が、被災地の地方公共団体に設置された災害対策本部に対して支払った義援金は「国等に対する寄附金」に該当し、その全額が損金の額に算入されます。

2.日本赤十字社又は社会福祉法人中央共同募金会等に対して義援金を支払った場合

 個人又は法人が、日本赤十字社や社会福祉法人中央共同募金会等が被災者への支援を目的として設けた専用口座に対して義援金を支払った場合の税務上の取扱いは、次のとおりです。

個人  個人が、日本赤十字社や社会福祉法人中央共同募金会等に対して支払った義援金については、その義援金が最終的に地方公共団体(義援金配分委員会等)に対して拠出されるものであるときは、「特定寄附金」に該当し、寄附金控除の対象となります。
 なお、当該義援金は、地方公共団体に対する寄附金として個人住民税の寄附金税額控除の対象となり、原則としてふるさと納税に該当します(ワンストップ特例制度の適用ができますが、通常は返礼品はありません)。
法人  法人が、日本赤十字社や社会福祉法人中央共同募金会等に対して支払った義援金については、その義援金が最終的に義援金配分委員会等に対して拠出されることが募金趣意書等において明らかにされているものであるときは、「国等に対する寄附金」に該当し、その全額が損金の額に算入されます。

※ 日本赤十字社や社会福祉法人中央共同募金会等に対して支払った義援金であっても、例えば、日本赤十字社や社会福祉法人中央共同募金会等の事業資金として使用されるなど、最終的に地方公共団体に拠出されるものでないものについては、上記と異なる取扱いになる場合がありますので、義援金の支払先に確認する必要があります。

3.被災地の救援活動等を行っている認定NPO法人等に対して義援金を支払った場合

 被災地の救援活動や被災者への救護活動を行っているNPO法人が「認定NPO法人等」であり、支払った義援金がその認定NPO法人等の行う特定非営利活動に係る事業に関連するものであるときには、その義援金は「認定NPO法人等に対する寄附金」に該当します。
 個人又は法人が、認定NPO法人に対して義援金を支払った場合の税務上の取扱いは、次のとおりです。

個人  個人の方が、「認定NPO法人等に対する寄附金」として支払った義援金は、寄附金控除(所得控除)又は寄附金特別控除(税額控除)の対象となります(選択適用)。ふるさと納税には該当しません。
法人  法人が、「認定NPO法人等に対する寄附金」として支払った義援金は、「特定公益増進法人に対する寄附金」に含めて損金算入限度額を計算し(特別損金算入限度額)、その範囲内で損金の額に算入されます。

4.被災地の救援活動等を行っている認定NPO法人等以外の法人等に対して義援金を支払った場合

 個人又は法人が、認定NPO法人等以外の法人等に対して義援金を支払った場合(※)には、次に掲げるような支払先の区分に応じて、税務上の取扱いが異なります。
 支払先の区分や支払った義援金の税務上の取扱いについては、直接支払先の法人等に確認する必要があります。

※ 「国等に対する寄附金」及び「指定寄附金」に該当するものを支払った場合を除きます。

支払先

公益社団法人・公益財団法人の場合(その法人の主たる目的である業務に関連するものに限ります)

NPO法人(認定NPO法人等でないもの)、職場の有志で組織した団体などの人格のない社団等の場合
個人  寄附金控除(所得控除)の対象となります。
 支払先が一定の要件を満たす公益社団法人・公益財団法人である場合には、寄附金特別控除(税額控除)との選択適用が可能です。
 寄附金控除等の対象となりません。
法人  特定公益増進法人に対する寄附金として、特別損金算入限度額の範囲内で損金の額に算入できます。  一般の寄附金として、損金算入限度額の範囲内で損金の額に算入できます。

5.募金団体を通じて地方公共団体に対して義援金を支払った場合

 関係する個人、法人から義援金を集め、これを取りまとめた上で、一括して地方公共団体に対して支払う場合(※)、義援金を取りまとめる団体(以下「募金団体」といいます)に寄附した個人、法人の税務上の取扱いは、次のとおりです。

※ 税務署において、募金団体に対して支払う義援金が、最終的に国、地方公共団体に拠出されるものであるかどうかの確認が行われます。

個人  個人が、募金団体に対して支払った義援金については、その義援金が最終的に地方公共団体(義援金配分委員会等)に対して拠出されることが募金団体が発行する預り証において明らかにされているものであるときは、「特定寄附金」に該当し、寄附金控除の対象となります。
 なお、当該義援金は、地方公共団体に対する寄附金として個人住民税の寄附金税額控除の対象となり、原則としてふるさと納税に該当します(ワンストップ特例制度の適用ができますが、通常は返礼品はありません)。
法人  法人が、募金団体に対して支払った義援金については、その義援金が最終的に義援金配分委員会等に対して拠出されることが募金団体が発行する預り証において明らかにされているものであるときは、「国等に対する寄附金」に該当し、その全額が損金の額に算入されます。

6.法人が被災した取引先に対して義援金を支払った場合

 法人が、被災した取引先に対し、被災前の取引関係の維持・回復を目的として、災害を受けた取引先が通常の営業活動を再開するための復旧過程にある期間において支出する災害見舞金は、交際費等に該当せず損金の額に算入されます。

7.法人が自社製品を被災者に提供した場合

 法人が、不特定又は多数の被災者を救援するために緊急に行う自社製品等の提供に要する費用は、寄附金又は交際費等には該当せず、広告宣伝費に準ずるものとして損金の額に算入されます。

事前確定届出給与(複数人支給)を特定の役員だけ届出通りに支給しなかった場合

1.全員分が損金不算入となるか?

 事前確定届出給与として当該事業年度の損金の額に算入される給与は、所定の時期に確定した額の金銭等を支給する旨の定めに基づいて支給するもの、すなわち、支給時期、支給金額が事前に確定し、実際にもその定めのとおりに支給される給与に限られます。

 したがって、所轄税務署長へ届け出た支給額と実際の支給額が異なる場合には、事前確定届出給与に該当しないこととなり、損金不算入となります。

 では、複数人に支給する事前確定届出給与について、ある人(役員A)には届出通りに支給をし、ある人(役員B)には届出通りに支給をしなかった場合はどうなるのでしょうか?

 届出通りに支給しなかった役員Bに対する給与が損金算入されないことは明白ですが、この場合、会社全体として事前確定届出給与を届出通りに支給していないことになりますので、届出通りに支給した役員Aに対する給与も損金不算入となるのでしょうか?

2.他の役員への影響はない

 結論を先に述べると、届出通りに支給した役員Aに対する事前確定届出給与は損金算入されます。

 法人税法第34条第1項第2号では、「その役員の職務につき所定の時期に確定した額の金銭又は確定した数の株式(出資を含みます)、新株予約権、確定した額の金銭債権に係る特定譲渡制限付株式又は特定新株予約権を交付する旨の定めに基づいて支給する給与」と規定しており、個々の役員に係る給与について規定しているものであることから、「その役員(役員B)」以外の他の役員(役員A)に対する給与に影響を与えるものとはなっていません。

 したがって、役員Bに対して届出書の記載額と異なる金額の役員給与を支給したとしても、そのことを理由として、役員B以外の他の役員に対して支給した役員給与が損金不算入になることはありません。

※ 事前確定届出給与に関する基本的な注意点については本ブログ記事「事前確定届出給与の提出期限と支給額の注意点」を、複数回支給の取扱いについては「事前確定届出給与(複数回支給)を届出通りに支給しなかった場合」をご参照ください。

令和3年度改正後の中小企業経営強化税制

1.令和3年度改正の内容

出所:経済産業省「令和3年度(2021年度)経済産業関係 税制改正について」

 2021(令和3)年度税制改正で、中小企業経営強化税制(中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は特別税額控除制度)の見直しが行われ、従前の対象設備(A類型・B類型・C類型)に「経営資源集約化設備(D類型)」が追加された上で、その適用期限が2年間延長されました。
 中小企業経営強化税制の改正内容は、次のとおりです。

(1) 中小企業者等の範囲

 中小企業者の判定における大規模法人から一定の独立行政法人中小企業基盤整備機構を除外する特例が廃止されました。

(2) 特定経営力向上設備等の範囲

 特定経営力向上設備等の対象に、計画終了年度に修正ROA又は有形固定資産回転率が一定以上上昇する経営力向上計画を実施するために必要不可欠な設備が加えられました。

(3) 適用期間

 2021(令和3)年4月1日から2023(令和5)年3月31日までの間に取得等する特定経営力向上設備等について適用されます。

 これらの改正を踏まえて、改正後の制度の内容を以下にまとめます。

2.改正後の中小企業経営強化税制

 中小企業者等※1で青色申告書を提出するもののうち、中小企業等経営強化法の認定を受けた同法の中小企業者等に該当するもの※2が、2021(令和3)年4月1日から2023(令和5)年3月31日までの間に新品の特定経営力向上設備等※3の取得又は制作をして、その者の営む指定事業※4の用に供した場合には、即時償却又はその取得価額の7%(一定の中小企業者等※5の場合は10%)相当額の税額控除ができます。
 ただし、その事業年度の所得に対する法人税の額(個人事業主の場合は、所得税の額)の20%相当額を限度※6とし、限度を超える部分の金額については1年間の繰越しが認められています。
 なお、中小企業者等のうち特定中小企業者等※4以外の法人については、税額控除はできません。

※1 中小企業者等とは、青色申告書を提出する者のうち、以下のイ~ハに該当するものをいいます。
イ.中小企業者(中小企業者については、本ブログ記事「租税特別措置法上の『中小企業者』の定義とその判定時期」をご参照ください。ただし、本制度においては、中小企業者の判定における大規模法人から一定の独立行政法人中小企業基盤整備機構が除外する特例が廃止されています。)
ロ.常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主
ハ.農業協同組合、農業協同組合連合会、中小企業等協同組合、出資組合である商工組合及び商工組合連合会、商店街振興組合、内航海運組合、内航海運組合連合会、出資組合である生活衛生同業組合、漁業協同組合、漁業協同組合連合会、水産加工業協同組合、水産加工業協同組合連合会、森林組合並びに森林組合連合会

※2 本税制の適用対象法人は、租税特別措置法に定める中小企業者、農業協同組合等又は商店街振興組合で、青色申告書を提出するものに該当することに加え、中小企業等経営強化法の中小企業者等にも該当して同法の認定を受けることが必要です。ただ、措置法の中小企業者及び商店街振興組合は基本的に経営強化法の中小企業者等にも該当しますが、措置法の農業協同組合等は経営強化法の中小企業者等に該当するものとしないものがありますので、それぞれの根拠法令の確認が必要です。

租税特別措置法の中小企業者等の範囲(青色申告書を提出するもの) 左のうち、中小企業等経営強化法の中小企業者等にも該当して同法の認定を受けることができる法人
中小企業者
農業協同組合等 △(組合ごとに要確認)
※ 農業協同組合は非該当
商店街振興組合

※3 特定経営力向上設備等とは、中小企業等経営強化法に規定する次の設備をいいます。
イ.生産性向上設備(A類型)
 下表の対象設備のうち、以下の2つの要件を満たすもの
(イ) 一定期間内に販売されたモデル(最新モデルである必要はありません)
(ロ) 経営力の向上に資するものの指標(生産効率、エネルギー効率、精度など)が旧モデルと比較して年平均1%以上向上している設備(ソフトウェアについては、情報収集機能及び分析・指示機能を有するもの)

設備の種類 用途又は細目 最低価額(1台1基又は一の取得価額) 販売開始時期
機械装置 全て 160万円以上 10年以内
工具 測定工具及び検査工具 30万円以上 5年以内
器具備品 全て 30万円以上 6年以内
建物附属設備 全て 60万円以上 14年以内
ソフトウェア 設備の稼働状況等に係る情
報収集機能及び分析・指示
機能を有するもの
70万円以上 5年以内

(注) 以下の㋑~㋥は、B類型、C類型についても同様です。
㋑ 機械装置のうち、発電の用に供する設備にあっては、主として電気の販売を行うために取得又は製作をするもの(経営力向上計画の実施時期のうちで発電した電気の販売を行う期間中の発電量のうち、販売を行うことが見込まれる電気の量が占める割合が2分の1を超える発電設備等。以下同じ)を除きます。
㋺ 器具備品のうち、医療機器にあっては、医療保健業を行う事業者が取得又は製作をするものを除きます。
㋩ 建物附属設備のうち、医療保健業を行う事業者が取得又は建設をするものを除くものとし、発電の用に供する設備にあっては主として電気の販売を行うために取得又は建設をするものを除きます。
㋥ ソフトウェアのうち、複写して販売するための原本、開発研究用のもの、サーバー用OSのうち一定のものなどは除きます(中小企業投資促進税制と同様)。

ロ.収益力強化設備(B類型)
 下表の対象設備のうち、年平均の投資利益率が5%以上となることが見込まれることにつき、経済産業大臣(経済産業局)の確認を受けた投資計画に記載された投資の目的を達成するために必要不可欠な設備

設備の種類 用途又は細目 最低価額(1台1基又は一の取得価額)
機械装置 全て 160万円以上
工具 全て 30万円以上
器具備品 全て 30万円以上
建物附属設備 全て 60万円以上
ソフトウェア 全て 70万円以上

ハ.デジタル化設備(C類型)
 下表の対象設備のうち、事業プロセスの①遠隔操作、②可視化、③自動制御化のいずれかを可能にする設備として、経済産業大臣(経済産業局)の確認を受けた投資計画に記載された投資の目的を達成するために必要不可欠な設備

設備の種類 用途又は細目 最低価額(1台1基又は一の取得価額)
機械装置 全て 160万円以上
工具 全て 30万円以上
器具備品 全て 30万円以上
建物附属設備 全て 60万円以上
ソフトウェア 全て 70万円以上

ニ.経営資源集約化設備(D類型)
 修正ROA又は有形固定資産回転率が一定以上上昇する設備

※4 指定事業とは、製造業、建設業、農業、林業、漁業、水産養殖業、鉱業、採石業、砂利採取業、卸売業、小売業、一般旅客自動車運送業、道路貨物運送業、倉庫業、港湾運送業、ガス業、料理店業その他の飲食店業(一定の類型を除き(注㋥参照)、料亭、バー、キャバレー、ナイトクラブ、その他これらに類する事業を除きます。)、海洋運輸業及び沿海運輸業、内航船舶貸渡業、旅行業、こん包業、郵便業、損害保険代理
業、情報通信業、駐車場業、学術研究、専門・技術サービス業、不動産業、物品賃貸業、広告業、宿泊業、洗濯・理容・美容・浴場業、その他の生活関連サービス業、医療、福祉業、社会保険・社会福祉・介護事業、教育、学習支援業、映画業、協同組合(他に分類されないもの)、サービス業(他に分類されないもの)をいいます。

(注)㋑ 中小企業投資促進税制の対象事業に該当する全ての事業が、中小企業経営強化税制の指定事業となります。
㋺ 電気業、水道業、鉄道業、航空運輸業、銀行業、娯楽業(映画業を除く)等は対象になりません。
㋩ 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第2条第5項に規定する性風俗関連特殊営業に該当するものを除きます。
㋥ 風俗営業に該当するものは、①料亭、バー、キャバレー、ナイトクラブその他これらに類する飲食店業で生活衛生同業組合の組合員が営むもの、②宿泊業のうち旅館業、ホテル業で風俗営業の許可を受けているもの、以外は指定事業から除かれます。

※5 一定の中小企業者等とは、中小企業者等のうち資本金の額若しくは出資金の額が3,000万円以下の法人、農業協同組合等又は商店街振興組合をいいます。

※6 税額控除額は、中小企業経営強化税制、中小企業投資促進税制の控除税額の合計で、その事業年度の法人税額又は所得税額の20%が上限となります。

令和3年度改正後の中小企業投資促進税制

1.商業・サービス業・農林水産業活性化税制の廃止

 2021(令和3)年度税制改正で、「商業・サービス業・農林水産業活性化税制(特定中小企業者等が経営改善設備を取得した場合の特別償却又は特別税額控除制度)」が適用期限(2021(令和3)年3月31日)の到来をもって廃止されました。
 この商業・サービス業・農林水産業活性化税制の対象者(商店街振興組合)や対象事業(不動産業等)を「中小企業投資促進税制(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は特別税額控除制度)」に盛り込む形で制度が一本化され、中小企業投資促進税制の適用期限が2年間延長されました。
 中小企業投資促進税制の改正内容は、次のとおりです。

(1) 中小企業者等の範囲

 中小企業者等の範囲について、次の見直しが行われました。

① 本制度の対象となる中小企業者等に商店街振興組合が追加されました。
② 中小企業者の判定における大規模法人から一定の独立行政法人中小企業基盤整備機構を除外する特例が廃止されました。

(2) 指定事業の範囲

 対象となる指定事業に、次の事業が追加されました。

① 不動産業
② 物品賃貸業
③ 料亭、バー、キャバレー、ナイトクラブその他これらに類する事業(生活衛生同業組合の組合員が行うものに限る)

(3) 特定機械装置等の範囲

 本制度の対象となる減価償却資産から、匿名組合契約その他これに類する一定の契約の目的である事業の用に供するものが除外されました。

(4) 適用期間

 2021(令和3)年4月1日から2023(令和5)年3月31日までの間に取得等する特定機械装置等について適用されます。

 これらの改正を踏まえて、改正後の制度の内容を以下にまとめます。

2.改正後の中小企業投資促進税制

出所:中小企業庁広報資料「概要」

 中小企業者等※1で青色申告書を提出するものが、2021(令和3)年4月1日から2023(令和5)年3月31日までの間に新品の特定機械装置等※2の取得又は制作をして、その者の営む指定事業※3の用に供した場合には、基準取得価額(特定機械装置等の取得価額として一定のもの)の30%相当額の特別償却又は7%相当額の税額控除ができます。
 ただし、その事業年度の所得に対する法人税の額(個人事業主の場合は、所得税の額)の20%相当額を限度※4とし、限度を超える部分の金額については1年間の繰越しが認められています。
 なお、中小企業者等のうち特定中小企業者等※5以外の法人については、税額控除はできません。

※1 中小企業者等とは、青色申告書を提出する者のうち、以下のイ~ハに該当するものをいいます。
イ.中小企業者(中小企業者については、本ブログ記事「租税特別措置法上の『中小企業者』の定義とその判定時期」をご参照ください。ただし、本制度においては、中小企業者の判定における大規模法人から一定の独立行政法人中小企業基盤整備機構が除外する特例が廃止されています。)
ロ.常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主
ハ.農業協同組合、農業協同組合連合会、中小企業等協同組合、出資組合である商工組合及び商工組合連合会、商店街振興組合、内航海運組合、内航海運組合連合会、出資組合である生活衛生同業組合、漁業協同組合、漁業協同組合連合会、水産加工業協同組合、水産加工業協同組合連合会、森林組合並びに森林組合連合会

※2 特定機械装置等とは、次のイ~ホの減価償却資産をいいます。ただし、匿名組合契約その他これに類する一定の契約の目的である事業の用に供するものは除外されます
イ.機会及び装置で1台又は1基の取得価額が160万円以上のもの
ロ.製品の品質管理の向上等に資する測定工具及び検査工具で1台又は1基の取得価額が120万円以上のもの(その事業年度の取得価額の合計額が120万円以上のもの(1台又は1基の取得価額が30万円未満のものを除く)を含む)
ハ.一定のソフトウェアで一のソフトウェアの取得価額が70万円以上のもの(その事業年度の取得価額の合計額が70万円以上のもの(少額減価償却資産及び一括償却資産の適用を受けたものを除く)を含む)
ニ.車両重量が3.5トン以上の普通自動車で貨物の運送の用に供するもの
ホ.内航海運業の用に供される船舶

※3 指定事業とは、製造業、建設業、農業、林業、漁業、水産養殖業、鉱業、卸売業、道路貨物運送業、倉庫業、港湾運送業、ガス業、小売業、料理店業その他の飲食店業(料亭、バー、キャバレー、ナイトクラブその他これらに類する事業については生活衛生同業組合の組合員が行うものに限る)、一般旅客自動車運送業、海洋運輸業及び沿海運輸業、内航船舶賃貸業、旅行業、こん包業、郵便業、通信業、損害保険代理業及びサービス業(映画業以外の娯楽業を除く)、不動産業物品賃貸業をいいます。

※4 税額控除額は、中小企業経営強化税制、中小企業投資促進税制の控除税額の合計で、その事業年度の法人税額又は所得税額の20%が上限となります。

※5 特定中小企業者等とは、中小企業者等のうち資本金の額若しくは出資金の額が3,000万円以下の法人又は農業協同組合等をいいます。

中小企業者等の所得拡大促進税制の令和3年度改正《令和3年4月1日以後開始事業年度》

 所得拡大促進税制は、青色申告書を提出している中小企業者等が、一定の要件を満たした上で前年度より給与等の支給額を増加させた場合、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度です。
 この所得拡大促進税制について、2021(令和3)年度税制改正において、適用期間の2年間延長と適用要件の見直し(継続雇用要件の撤廃等)が行われました。
 今回は、現行制度の概要と改正内容について確認します。

※ 所得拡大促進税制については、2023(令和5)年3月31日の期限到来前に2022(令和4)年度改正が行われたため、2021(令和3)年4月1日から2022(令和4)年3月31日までの間に開始する事業年度(個人事業主の場合は2022(令和4)年)について適用されることとなりました。

1.現行制度の概要

 中小企業者等※1で青色申告書を提出するものが、2018(平成30)年4月1日から2021(令和3)年3月31日までの間に開始する各事業年度(個人事業主の場合は、2019(令和元)年から2021(令和3)年までの各年)において国内雇用者※2に対して給与等※3を支給する場合において、その事業年度においてその中小企業者等の継続雇用者給与等支給額※4から継続雇用者比較給与等支給額※5を控除した金額のその継続雇用者比較給与等支給額に対する割合が1.5%以上であるとき(その中小企業者等の雇用者給与等支給額※6が比較雇用者給与等支給額※7以下である場合を除く)は、雇用者給与等支給額から比較雇用者給与等支給額を控除した金額の15%※8(下記(1)(2)の要件を満たす場合は25%)相当額の特別税額控除ができることとされています。
 ただし、その事業年度の所得に対する法人税額(個人事業主の場合は、その年の事業所得の金額に係る所得税額)の20%相当額が限度となります。

(1) 継続雇用者給与等支給額から継続雇用者比較給与等支給額を控除した金額のその継続雇用者比較給与等支給額に対する割合が2.5%以上であること

(2) 次に掲げる要件のいずれかを満たすこと
① その事業年度の損金の額(個人事業主の場合は、その年分の必要経費)に算入される教育訓練費※9の額から中小企業比較教育訓練費※10の額を控除した金額のその中小企業比較教育訓練費に対する割合が10%以上であること
② その中小企業者等が、その事業年度終了の日(個人事業主の場合は、その年の12月31日)までに中小企業等経営強化法に規定する経営力向上計画の認定を受けたものであり、その経営力向上計画に記載された同法に規定する経営力向上が確実に行われたものとして一定の証明がされたこと

※1 中小企業者等とは、青色申告書を提出する者のうち、以下に該当するものをいいます。
イ.中小企業者(中小企業者については、本ブログ記事「租税特別措置法上の『中小企業者』の定義とその判定時期」をご参照ください)
ロ.常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主
ハ.農業協同組合、農業協同組合連合会、中小企業等協同組合、出資組合である商工組合及び商工組合連合会、内航海運組合、内航海運組合連合会、出資組合である生活衛生同業組合、漁業協同組合、漁業協同組合連合会、水産加工業協同組合、水産加工業協同組合連合会、森林組合並びに森林組合連合会

※2 国内雇用者とは、法人又は個人事業主の使用人のうちその法人又は個人事業主の国内に所在する事業所につき作成された賃金台帳に記載された者を指します。パート、アルバイト、日雇い労働者も含みますが、使用人兼務役員を含む役員及び役員の特殊関係者、個人事業主と特殊の関係のある者は含まれません。
 なお、特殊関係者(特殊の関係のある者)とは、法人の役員又は個人事業主の親族を指します。親族の範囲は6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族までが該当します。また、当該役員又は個人事業主と婚姻関係と同様の事情にある者、当該役員又は個人事業主から生計の支援を受けている者等も特殊関係者に含まれます。

※3 給与等とは、俸給・給料・賃金・歳費及び賞与並びに、これらの性質を有する給与(所得税法第28条第1項に規定する給与所得)をいいます。退職金など、給与所得とならないものについては、原則として給与等に該当しません。
 なお、所得税法上課税されない通勤手当等の額については、給与所得となるので、給与等に含まれます。ただし、賃金台帳に記載された支給額のみを対象に、所得税法上課税されない通勤手当等の額を含めずに計算する等、合理的な方法により継続して国内雇用者に対する給与等の支給額の計算をすることも認められます。

※4 継続雇用者給与等支給額とは、継続雇用者(前年度の期首から適用年度の期末までの全ての月分の給与等の支給を受けた従業員のうち、一定の者)に支払った給与等の総額をいいます。

出所:経済産業省「中小企業向け所得拡大促進税制ご利用ガイドブック-平成30年4月1日以降開始の事業年度用-(個人事業主は令和元年分以降用)」

※5 継続雇用者比較給与等支給額とは、継続雇用者に対する前事業年度の給与等の金額として一定の金額をいいます。

※6 雇用者給与等支給額とは、適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額(その給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額がある場合には、その金額を控除した金額)をいいます。

※7 比較雇用者給与等支給額とは、前事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額をいいます。

※8 その事業年度において「地方活力向上地域等において雇用者の数が増加した場合の特別税額控除制度(雇用促進税制)」の適用を受ける場合には、その規定による控除を受ける金額の計算の基礎となった者に対する給与等の支給額として一定の方法により計算した金額を控除した残額となります。

※9 教育訓練費とは、所得の金額の計算上損金の額に算入される、国内雇用者の職務に必要な技術又は知識を習得させ、又は向上させるために支出する費用で一定のものをいいます。

※10 中小企業比較教育訓練費とは、中小企業者等の適用年度開始の日前1年以内に開始した各事業年度の損金の額に算入される教育訓練費の額(その各事業年度の月数とと適用年度の月数が異なる場合には、教育訓練費の額に適用年度の月数を乗じてこれを各事業年度の月数で除して計算した金額)の合計額をその1年以内に開始した各事業年度の数で除して計算した金額をいいます。

2.令和3年度改正の内容

 所得拡大促進税制について次の見直しが行われた上、その適用期限が2年延長され、2021(令和3)年4月1日から2023(令和5)年3月31日までの間に開始する各事業年度(個人事業主の場合は、2022(令和4)年から2023(令和5)年までの各年)について適用されます。

※ 所得拡大促進税制については、2023(令和5)年3月31日の期限到来前に2022(令和4)年度改正が行われたため、2021(令和3)年4月1日から2022(令和4)年3月31日までの間に開始する事業年度(個人事業主の場合は2022(令和4)年)について適用されることとなりました。

(1) 適用要件のうち、継続雇用者給与等支給額から継続雇用者比較給与等支給額を控除した金額の継続雇用者比較給与等支給額に対する割合が1.5%以上であることの要件が、雇用者給与等支給額から比較雇用者給与等支給額を控除した金額の比較雇用者給与等支給額に対する割合が1.5%以上であることの要件に見直されました。

(2) 特別税額控除率(原則:15%)が25%となる要件(上記1.(1)及び(2)の要件)のうち、継続雇用者給与等支給額から継続雇用者比較給与等支給額を控除した金額の継続雇用者比較給与等支給額に対する割合が2.5%以上であることの要件が、雇用者給与等支給額から比較雇用者給与等支給額を控除した金額の比較雇用者給与等支給額に対する割合が2.5%以上であることの要件に見直されました。

(3) 給与等の支給額から控除される給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額(上記1.※6参照)について、その範囲が明確化されるとともに、次の見直しが行われました。
① 上記(1)及び(2)の要件を判定する場合には、雇用安定助成金額を控除しないこととする
② 特別税額控除率(15%又は25%)を乗ずる基礎となる雇用者給与等支給額から比較雇用者給与等支給額を控除した金額は、雇用安定助成金額を控除して計算した金額を上限とする

※ 給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額には、以下のものが該当します。
イ.その補助金、助成金、給付金又は負担金その他これらに準ずるもの(以下「補助金等」といいます)の要綱、要領又は契約において、その補助金等の交付の趣旨又は目的がその交付を受ける法人の給与等の支給額に係る負担を軽減させることが明らかにされている場合のその補助金等の交付額

該当する補助金等の例
業務改善助成金

ロ.イ以外の補助金等の交付額で、資産の譲渡、資産の貸付け及び役務の提供に係る反対給付としての交付額に該当しないもののうち、その算定方法が給与等の支給実績又は支給単価(雇用契約において時間、日、月、年ごとにあらかじめ定められている給与等の支給額をいいます)を基礎として定められているもの

該当する補助金等の例

雇用調整助成金、緊急雇用安定助成金、産業雇用安定助成金、労働移動支援助成金(早期雇い入れコース)、キャリアアップ助成金(正社員化コース)、特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)、特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)

ハ.イ及びロ以外の補助金等の交付額で、法人の使用人が他の法人に出向した場合において、その出向した使用人(以下「出向者」といいます)に対する給与を出向元法人(出向者を出向させている法人をいいます)が支給することとしているときに、出向元法人が出向先法人(出向元法人から出向者の出向を受けている法人をいいます)から支払を受けた出向先法人の負担すべき給与に相当する金額

 なお、出向先法人は、賃金台帳に出向者と給与負担金を記載することで、集計対象となる給与総額に含めることが可能となります。
(出向先法人の負担すべき給与に相当する金額については、本ブログ記事「出向先法人が支出する給与負担金の取扱い」をご参照ください)

出向先法人が支出する給与負担金の取扱い

1.給与負担金は出向先と出向元のどちらの損金?

 法人(例えば親会社)の使用人が他の法人(例えば子会社)に出向した場合において、その出向した使用人(以下「出向者」といいます)に対する給与を出向元の法人が支給することとしているため、出向先の法人がその出向者の給与(退職給与を除きます。以下同じ)に相当する金額(以下「給与負担金」といいます)を出向元の法人に支出したときは、当該給与負担金の額は、出向先の法人におけるその出向者に対する給与として取り扱われます。つまり、出向先法人が支出する給与負担金は、出向先法人の損金となります。
 この給与負担金の取扱いは、出向者が出向先法人において使用人となっているか、役員になっているかにより異なります。
 具体的には次のとおりとなります。

2.出向者が出向先法人において使用人の場合

 出向先法人が支出する給与負担金の額は、原則として、出向先法人における使用人に対する給与として、損金の額に算入されます(法人税基本通達9-2-45)

3.出向者が出向先法人において役員の場合

 出向者が出向先法人において役員となっている場合において、下記(1)(2)のいずれにも該当するときは、出向先法人が支出する当該役員に係る給与負担金の支出を出向先法人における当該役員に対する給与の支給として、法人税法第34条(役員給与の損金不算入)の規定が適用されます(法人税基本通達9-2-46)。
 つまり、出向先法人が支出する給与負担金の額は、それが定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与に該当するのであれば、出向先法人における役員給与として損金の額に算入されます。

(1) 当該役員に係る給与負担金の額について、当該役員に対する給与として出向先の法人の株主総会、社員総会又はこれらに準ずるものの決議がされていること
(2) 出向契約等において当該出向者に係る出向期間及び給与負担金の額があらかじめ定められていること

 この取扱いの適用を受ける給与負担金について、事前確定届出給与の規定の適用を受ける場合には、出向先法人がその納税地の所轄税務署長にその出向契約等に基づき支出する給与負担金に係る定めの内容に関する届出を行うこととなります。

 なお、出向先法人が給与負担金として支出した金額が、出向元法人が当該出向者に支給する給与の額を超える場合には、その超える部分の金額については給与負担金としての性格はないこととなります。したがって、そのことについて合理的な理由がない場合には、出向元法人に対する寄附金として取り扱われることになります。

4.出向者に対する給与較差補てん金の取扱い

 出向元法人が出向先法人との給与条件の較差を補てんするため出向者に対して支給した給与は、出向期間中であっても、出向者と出向元法人との雇用契約が依然として維持されていることから、出向元法人の損金の額に算入されます。
 また、次のような場合も、給与較差補てん金として取り扱われます。

(1) 出向先法人が経営不振等で出向者に賞与を支給することができないため、出向元法人がその出向者に賞与を支給する場合
(2) 出向先法人が海外にあるため、出向元法人が留守宅手当を支給する場合

 この給与較差補てん金は、出向元法人が出向者に直接支給しても、出向先法人を通じて支給しても同様に取り扱われます。