賃上げ促進税制の繰越税額控除制度の注意点

 中小企業向け賃上げ促進税制は、青色申告書を提出している中小企業者等が、前年度より 給与等の支給額を増加させた場合に、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度です。

 賃上げ促進税制における税額控除額は、調整前法人税額の20%を限度とするとされていますので、中小企業者等が要件を満たす賃上げを実施しても、その実施した事業年度に控除しきれなかった金額(税額控除限度超過額)が生じることがあります。

 この税額控除限度超過額はその期で失効せず、その後5年間の繰越控除が認められています(2024(令和6)年度税制改正)。

 以下では、中小企業向け賃上げ促進税制の繰越税額控除制度を適用する際の注意点について確認します。

1.ゼロ申告でも賃上げ促進税制の別表を添付

 この繰越税額控除の適用を受けるためには、税額控除限度超過額が生じた事業年度以後の各事業年度の確定申告書に繰越税額控除限度超過額の明細書を添付し、繰越控除の適用を受ける事業年度の確定申告書に控除の対象となる繰越税額控除限度超過額と控除を受ける金額を記載するとともに、その金額の計算に関する明細書を添付する必要があります

 このように、その適用に当たっては、賃上げ促進税制の別表を作成・提出し続けることが要件となっています。

 繰越欠損金の発生事業年度や繰越欠損金がある事業年度であっても、賃上げ促進税制による税額控除限度超過額が発生した場合には、ゼロ申告でも賃上げ促進税制の別表を添付することになります。

 従来においても、ゼロ申告の事業年度でも、税務調査で納税額が出ることになる可能性がある場合に備えて、法人税申告書に賃上げ促進税制の別表を添付しておき、税額控除の適用の可能性を担保しておくべき、と言われていました。

 2024(令和6)年度税制改正で5年間の繰越控除が可能となりましたので、今後はこのようなリスク管理的な配慮ではなく、5年間の内に黒字を達成すれば税額控除の適用を受けられるようにしておく必要があります。

※ 賃上げ促進税制の別表の書き方については、「中小企業者等の賃上げ促進税制に係る別表六の書き方と記載例《令和6年4月1日~令和9年3月31日開始事業年度》」をご参照ください。

2.継続的な賃上げが不可欠

 ところで、賃上げ促進税制のほかにも各種の税額控除制度があります。例えば、中小企業者等が機械等を取得した場合の税額控除制度(中小企業投資促進税制)などです。

 中小企業投資促進税制では、翌期に法人税額があれば税額控除が可能です。

 しかし、賃上げ促進税制では、繰越税額控除を適用する各事業年度において、雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額より増加していなければ控除は認められない、という追加要件が課されている点には注意が必要です。

 税額控除の権利は保持できても、実際に税額控除をするには継続的な賃上げが不可欠だということです。

 また、賃上げ促進税制での税額控除額は、調整前法人税額の20%を限度とするとされています。
 複数の税額控除制度を適用する場合、調整前法人税額の20%という部分は、重複して適用を受けられます。

 ただし、20%の税額控除が幾つもあった場合、その合計額については、調整前法人税額の90%を限度とする制限規定があります。
 したがって、調整前法人税額の90%を超える部分の金額(調整前法人税額超過額)は、調整前法人税額から控除することができません。

 この調整前法人税額超過額は、各種の税額控除制度による控除可能期間が最も長いものから順次成ることとされています。
 つまり、調整前法人税額超過額は、まず残りの控除可能期間の長いものに配賦し、次に控除可能期間が同じものについては、法人の選択により配賦することとされています。