生前贈与加算期間はいつから7年になる?

 2023(令和5)年度税制改正で、暦年課税と相続時精算課税の見直しが行われました。今回はそのうちの暦年課税の改正について確認します(暦年課税の詳細については、本ブログ記事「贈与税の課税方法『暦年課税』」をご参照ください)。

1.暦年課税の改正点

 年間110万円以下の贈与であれば贈与税がかからない暦年課税において、贈与を受けた財産を相続の際に相続財産に加算する「持ち戻し」期間が、相続開始前3年から7年に延長されました。
 また、延長された4年の間に受けた贈与のうち総額100万円までは相続財産に加算しないこととされました。
 これらの改正は、2024(令和6)年1月1日以後に受けた贈与について適用されます。

出所:財務省ホームページ

2.令和13年1月1日以後の相続から加算期間が7年になる

 上記改正は2024(令和6)年1月1日以後に受けた贈与から適用されますが、いきなり加算期間が7年になるわけではありません。
 生前贈与の加算の対象となる相続開始前7年以内とは、相続開始日から遡って7年目の応当日から相続開始日までをいいます。
 例えば、X年5月10日に相続があった場合には、(X-7)年5月10日からX年5月10日までをいいます。
 したがって、2024(令和6)年5月10日が相続開始日の場合は、2017(平成29)年5月10日から2024(令和6)年5月10日までが相続開始前7年以内にあたりますが、2017(平成29)年5月10日から2021(令和3)年5月9日までの贈与は改正前の期間ですので、2021(令和3)年5月10日から2024(令和6)年5月10日までの3年間に受けた贈与が加算の対象となります。
 下表において、相続開始日を各年の5月10日とした場合の生前贈与の加算対象期間と加算期間を示します。

相続開始日 加算対象期間 加算期間
2024(令和6)年5月10日 2021(令和3)年5月10日~2024(令和6)年5月10日の贈与 3年間
2025(令和7)年5月10日 2022(令和4)年5月10日~2025(令和7)年5月10日の贈与 3年間
2026(令和8)年5月10日 2023(令和5)年5月10日~2026(令和8)年5月10日の贈与 3年間
2027(令和9)年5月10日 2024(令和6)年1月1日~2027(令和9)年5月10日の贈与 3年5か月10日
2028(令和10)年5月10日 2024(令和6)年1月1日~2028(令和10)年5月10日の贈与 4年5か月10日
2029(令和11)年5月10日 2024(令和6)年1月1日~2029(令和11)年5月10日の贈与 5年5か月10日
2030(令和12)年5月10日 2024(令和6)年1月1日~2030(令和12)年5月10日の贈与 6年5か月10日
2031(令和13)年5月10日 2024(令和6)年5月10日~2031(令和13)年5月10日の贈与 7年間

 年が進むにつれて加算期間が増えていき、2031(令和13)年1月1日以後の相続から加算期間が7年になります。

相続開始前3年以内の贈与の節税メリット

 相続開始前3年以内に被相続人から贈与された財産は、相続の際には相続税の課税価格に加算する必要があります(いわゆる生前贈与加算の特例)。
 これは、被相続人の余命があとわずかというときに、相続税を少しでも安くするために、あらかじめ相続人に財産を移転する、というような行為を抑えることを狙ったものです。
 このような生前贈与加算の特例が適用されても、生前贈与を行うメリットはあるのでしょうか?
 今回は、生前贈与加算の特例と生前贈与のメリットについて整理します。

※ 2023(令和5)年度税制改正で、生前贈与の加算期間が3年から7年に延長されました。詳細については、本ブログ記事「生前贈与加算期間はいつから7年になる?」をご参照ください。

1.生前贈与加算の特例

 生前贈与加算の特例とは、相続又は遺贈により財産を取得した者が、その相続開始前3年以内にその相続に係る被相続人から財産を贈与を受けていた場合、その贈与により取得した財産(贈与税の非課税財産を除きます)の価額(贈与を受けた時の価額)を相続財産に加算し、贈与を受けた財産につき課された贈与税額は、その者の相続税額から控除するというものです。
 この場合の相続開始前3年以内とは、相続開始の日から遡って3年目の応当日から相続開始の日までをいいます。
 例えば、X年4月5日に相続があった場合には、(X-3)年4月5日からX年4月5日までをいいます。
 なお、相続開始前3年以内に贈与を受けた財産に相続税がかかるのは、相続や遺贈によって財産を取得した者がいる場合です。
 例えば、相続人である長男が、被相続人が亡くなる1年前に土地をもらっていたとします。この場合、長男が今回の相続によって被相続人の財産をもらったときは、この土地を相続財産に加えて相続税を計算することになります。
 しかし、もし、長男が今回の相続によって被相続人の財産を何ももらっていないときは、この土地を相続財産に加える必要はありません。

2.生前贈与の節税メリット

 このような生前贈与加算の特例の適用を受ける場合でも、次のような節税効果が期待できます。

(1) 前述したように、生前贈与加算の対象は、相続又は遺贈により財産を取得した者に限定されています。したがって、孫(相続又は遺贈により財産を取得している場合を除きます)への贈与は加算対象外となります。

(2) 贈与税の非課税財産は、生前贈与加算の対象外です。例えば、扶養義務者相互間における生活費や教育費の贈与等は加算対象外です。

(3) 居住用不動産の贈与で贈与税の配偶者控除の適用を受けた場合は、控除額相当額(最高2,000万円)は生前贈与加算の対象外です。また、直系尊属からの住宅取得等資金贈与の非課税特例、直系尊属からの教育資金の一括贈与の特例(一定の場合は、贈与者死亡時の管理残額が加算の対象)及び結婚・子育て資金の一括贈与の特例(贈与者死亡時の管理残額が加算の対象)についても、同様の効果があります。

(4) 生前贈与加算の特例により加算される価額は、贈与時の財産の価額となるため、値上がりしている財産については節税効果があります。

 上記(1)~(4)の節税効果以外に、生前贈与には、被相続人の意思に基づいた財産の移転が確実に実行できるメリットがあります。
 ただし、生前贈与に係る遺留分侵害額の請求に留意する必要があります。

贈与税の課税方法「暦年課税」

 個人が法人から財産の贈与を受けた場合は、所得税の対象となります。一方、個人が個人から財産の贈与を受けたときは、贈与税の対象となります。
 贈与税の課税方法には「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つがありますが、今回は贈与税の基本的な制度である暦年課税について紹介します。

1.贈与とは

 贈与とは、自分の財産を無償で相手方に贈るという意思表示をし、相手方がこれを承認することによって成立する民法上の契約をいいます。
 つまり、贈与というのは「あげましょう」「もらいます」の2つの意思表示があってはじめて成立するものです。この2つの意思をはっきりとしておくために、贈与契約書を必ず作っておくことが重要です。

2.贈与税がかかるケース

 贈与税は、贈与者(贈与をした人)から受贈者(贈与を受けた人)へ財産が無償で移ったときに受贈者にかかります。財産が無償で移るケーズとして、次の4つがあります。

(1) 個人から個人へ
(2) 個人から法人へ
(3) 法人から個人へ
(4) 法人から法人へ

 上記のうち、贈与税がかかるケースは、原則として(1)の個人から個人へのケースだけです。他の3つのケースでは原則として贈与税はかかりませんが、下表のように法人税、所得税が受贈者に課されます。

          財産が無償で移った場合の課税関係

贈与者 受贈者 課税関係
個人 個人 贈与税
個人 法人 法人税
法人 個人 所得税
      法人       法人      法人税

3.贈与税がかかる財産

 贈与税は、原則として、個人から贈与によって取得した財産で、金銭で見積もることができる経済的価値のあるものすべてについて課税されます。例えば、土地、家屋、借地権、現預金、株式などがあります。これらの財産は、当然に贈与税がかかるものとして本来の贈与財産といいます。

 また、本来の贈与に基づかない場合であっても、例えば次のようなものは贈与があったものとみなして贈与税が課税されます。これを本来の贈与財産に対して、みなし贈与財産といいます。

(1) 親族から時価1,000万円の土地を300万円で買った場合

 低額譲受けとして、差額の700万円の贈与があったものとして課税されます。

(2) 親が建築資金を全額拠出した二世帯住宅の名義が親子共有となっている場合

 建築資金を拠出していない子の共有持分の贈与があったものとして課税されます。

(3) 親子間の金銭の貸し借りで返済期日や利息が決められていない場合

 実態が贈与であるものとして課税されます(真に金銭の貸借と認められるものは課税されません)。

(4) 債務免除を受けた場合

 債務免除額に対して課税されます。

(5) 保険料支払人が夫、被保険者が夫の満期保険金を妻が受け取った場合

 夫から妻への贈与として満期保険金に対して課税されます(死亡保険金の場合は相続税が課されます)。

 なお、扶養義務者相互間(親から子など)での通常必要と認められる生活費や教育費の贈与や、個人から受けた社会通念上相当と認められる香典、花輪代、年末年始の贈答、祝い物、見舞いなどの金品については、贈与税の非課税財産とされています。

4.贈与税の計算方法

 贈与税は、1月1日から12月31日までの1年間に個人から贈与を受けた財産で課税対象となるものの価額(評価額)の合計額を課税価格とし、その課税価格から基礎控除額110万円を差し引き、その残額に税率を乗じて税額を計算します。
 また、20歳以上の者が直系尊属(父母、祖父母など)から受ける贈与については、特例贈与として一般贈与(特例贈与以外の贈与)より税率が軽減されます。(参考:国税庁ホームページ

(1) 一般贈与又は特例贈与のいずれかのみにより財産を取得した場合

 本来の贈与財産+みなし贈与財産-非課税財産=課税価格

(課税価格-基礎控除額110万円)×税率-速算表の控除額=贈与税額

(2) 一般贈与と特例贈与により財産を取得した場合

 課税価格合計-基礎控除額110万円=基礎控除後の課税価格(A)

 ①((A)×一般贈与の税率-一般贈与の速算表の控除額)×一般贈与財産の課税価格÷課税価格合計
 ②((A)×特例贈与の税率-特例贈与の速算表の控除額)×特例贈与財産の課税価格÷課税価格合計
 ①+②=贈与税額

5.贈与税の申告

 贈与税申告書を提出しなければならない人は、納めなければならない贈与税額がある人です。贈与によって財産をもらっても、贈与税額がない人は申告する必要がありません。
 すなわち、課税価格が基礎控除額110万円以下であれば、申告する必要はありません(ただし、2,000万円の配偶者控除の特例住宅取得等資金贈与の非課税特例相続時精算課税制度の特例を受けるためには、贈与税額がゼロの場合でも申告書を提出しなければなりません)。

 贈与税申告書は、受贈者の住所地を所轄する税務署へ提出しなければなりません(贈与者の住所地を所轄する税務署ではありません)。
 また、提出期限は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間です。