特定親族特別控除の創設と源泉徴収事務への影響(令和7年度税制改正)

 2025(令和7)年度税制改正において、物価上昇局面における税負担の調整や就業調整対策の観点から、所得税の基礎控除や給与所得控除の引き上げ、、特定親族特別控除の創設等が行われました。

 これらの改正は、原則として2025(令和7)年12月1日に施行され、2025(令和7)年分以後の所得税から適用されます。

 前回は基礎控除と給与所得控除の引き上げについて確認しましたので、今回は新設された特定親族特別控除の内容と、この特定親族特別控除が2025(令和7)年の源泉徴収事務に与える影響について確認します。

※ 基礎控除と給与所得控除の引き上げについては、「基礎控除・給与所得控除の引き上げと源泉徴収事務・年収の壁への影響(令和7年度税制改正)」をご参照ください。

1.特定親族とは?

 2025(令和7)年度税制改正で、居住者が特定親族を有する場合には、その居住者の総所得金額等から、その特定親族1人につき、その特定親族の合計所得金額に応じて63万円~3万円を控除する特定親族特別控除が創設されました。

 特定親族とは、居住者と生計を一にする年齢19歳以上23歳未満の親族(配偶者、青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者を除きます)で合計所得金額が58万円超123万円以下の人をいいます。

 収入が給与だけの場合には、その年中の収入金額が123万円超188万円以下であれば、合計所得金額が58万円超123万円以下となります(給与収入123万円-給与所得控除65万円=58万円、給与収入188万円-給与所得控除65万円=123万円)。

 なお、親族の合計所得金額が58万円以下の場合は、特定親族特別控除の対象とはなりませんが、扶養控除の対象となります。

 居住者と生計を一にする年齢19歳以上23歳未満の親族(配偶者、青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者を除きます)で合計所得金額が58万円以下の人は特定扶養親族に該当しますので、これまで通り扶養控除額は63万円となります。

2.特定親族特別控除額

 所得税の特定親族特別控除額は、下表のとおりです。

特定親族の合計所得金額
※カッコ内は収入が給与だけの場合の収入金額
特定親族特別控除額
58万円超 85万円以下 (123万円超 150万円以下) 63万円
85万円超 90万円以下(150万円超 155万円以下) 61万円
90万円超 95万円以下(155万円超 160万円以下) 51万円
95万円超 100万円以下(160万円超 165万円以下) 41万円
100万円超 105万円以下(165万円超 170万円以下) 31万円
105万円超 110万円以下(170万円超 175万円以下) 21万円
110万円超 115万円以下(175万円超 180万円以下) 11万円
115万円超 120万円以下(180万円超 185万円以下) 6万円
120万円超 123万円以下(185万円超 188万円以下)  3万円

 上の表のとおり、生計を一にする年齢19歳以上23歳未満の親族の収入が給与のみの場合は、年収150万円までは特定扶養控除と同額の63万円の控除が受けられ、年収150万円を超えても188万円までは、控除額が逓減する配偶者特別控除と同様の仕組みとなっています(いわゆる年収の壁については、「令和7年度税制改正で年収の壁はこのように変わった!」をご参照ください)。

3.源泉徴収事務への影響

 上記の税制改正は、原則として、2025(令和7)年12月1日に施行され、2025(令和7)年分以後の所得税及び2026(令和8)年度以後の住民税について適用されます。

 そのため、2025(令和7)年12月に行う年末調整など、2025(令和7)年12月以後の源泉徴収事務に変更が生じますが、11月までの給与の源泉徴収事務に変更は生じません

 したがって、2025(令和7)年分の給与の源泉徴収事務においては、2025(令和7)年12月に行う年末調整の際に、特定親族特別控除を適用します。

 なお、年末調整において特定親族特別控除の適用を受けようとする人は、給与の支払者に「給与所得者の特定親族特別控除申告書」を提出する必要があります。

4.住民税の特定親族特別控除(参考)

 個人住民税における特定親族特別控除額は、下表のとおりです。

特定親族の合計所得金額
※カッコ内は収入が給与だけの場合の収入金額
特定親族特別控除額
58万円超 95万円以下(123万円超 160万円以下) 45万円
95万円超 100万円以下(160万円超 165万円以下) 41万円
100万円超 105万円以下(165万円超 170万円以下) 31万円
105万円超 110万円以下(170万円超 175万円以下) 21万円
110万円超 115万円以下(175万円超 180万円以下) 11万円
115万円超 120万円以下(180万円超 185万円以下) 6万円
120万円超 123万円以下(185万円超 188万円以下)  3万円

 上の表のとおり、生計を一にする年齢19歳以上23歳未満の親族の収入が給与のみの場合は、年収160万円までは特定扶養控除と同額の45万円の控除が受けられ、年収160万円を超えても188万円までは、控除額が逓減する配偶者特別控除と同様の仕組みとなっています。

基礎控除・給与所得控除の引き上げと源泉徴収事務・年収の壁への影響(令和7年度税制改正)

 2025(令和7)年度税制改正において、物価上昇局面における税負担の調整や就業調整対策の観点から、所得税の基礎控除や給与所得控除の引き上げ、、特定親族特別控除の創設等が行われました。

 これらの改正は、原則として2025(令和7)年12月1日に施行され、2025(令和7)年分以後の所得税から適用されます。

 以下では、基礎控除と給与所得控除の引き上げの内容と、これらの引き上げが2025(令和7)年の源泉徴収事務や、いわゆる年収の壁に与える影響について確認します。

※ 特定親族特別控除については、「特定親族特別控除の創設と源泉徴収事務への影響(令和7年度税制改正)」をご参照ください。

1.基礎控除の引き上げ

 令和7年度税制改正により、合計所得金額が2,350万円以下である個人の基礎控除額が48万円から10万円引き上げられ、58万円となりました。

 さらに、低~中所得者層の税負担への配慮から、基礎控除の特例として、所得額に応じて58万円に37万円~5万円の上乗せが行われています。

 なお、基礎控除の改正は所得税のみの改正であり、住民税の基礎控除額は従前通りの43万円です。

 改正後の所得税の基礎控除額は、下表のとおりです。

合計所得金額
※カッコ内は収入が給与だけの場合の収入金額※2
基礎控除額
改正前 令和7・8年分 令和9年分以後
132万円以下
(200万3,999円以下)
48万円 95万円※1 95万円※1
132万円超~336万円以下
(200万3,999円超~475万1,999円以下)
88万円※1 58万円
336万円超~489万円以下
(475万1,999円超~665万5,556万円以下)
68万円※1
489万円超~655万円以下
(665万5,556円超~850万円以下)
63万円※1
655万円超~2,350万円以下
(850万円超~2,545万円以下)
58万円
2,350万円超~2,400万円以下
(2,545万円超~2,595万円以下)
48万円※3
2,400万円超~2,450万円以下
(2,595万円超~2,645万円以下)
32万円※3
2,450万円超~2,500万円以下
(2,645万円超~2,695万円以下)
16万円※3
2,500万円超
(2,695万円超)
0円※3

※1 基礎控除の特例として、58万円にそれぞれ37万円、30万円、10万円、5万円を加算した金額となります(この加算は居住者についてのみ適用があります)。
 なお、合計所得金額132万円以下の低所得者層への特例は恒久的措置となりますが、132万円超~655万円以下の中所得者層への特例は令和7年分及び令和8年分の期間限定となります。
※2 特定支出控除や所得金額調整控除の適用がある場合は、表の金額とは異なります。
※3 合計所得金額2,350万円超の場合の基礎控除額に改正はありません(合計所得金額については、「『合計所得金額』『総所得金額』『総所得金額等』の違いとは?」をご参照ください)。

2.給与所得控除の引き上げ

 令和7年度税制改正により、給与の収入金額が190万円以下の個人について、給与所得控除額の最低保障額が55万円から65万円に引き上げられました。

 給与所得控除の改正は、所得税だけではなく住民税にも適用されます(令和7年分以後の所得税及び令和8年度以後の住民税)。

 改正後の給与所得控除額は、下表のとおりです。

給与の収入金額(A) 改正前 令和7年分以後
162万5,000円以下 55万円 65万円
162万5,000円超~180万円以下 A×40%-10万円
180万円超~190万円以下 A×30%+8万円
190万円超~360万円以下 同左
360万円超~660万円以下 A×20%+44万円
660万円超~850万円以下 A×10%+110万円
850万円超 195万円(上限)

3.源泉徴収事務と年収の壁への影響

 上記1及び2の税制改正は、原則として、2025(令和7)年12月1日に施行され、2025(令和7)年分以後の所得税及び2026(令和8)年度以後の住民税について適用されます。

 そのため、2025(令和7)年12月に行う年末調整など、2025(令和7)年12月以後の源泉徴収事務に変更が生じますが、11月までの給与の源泉徴収事務に変更は生じません。

 したがって、2025(令和7)年分の給与の源泉徴収事務においては、2025(令和7)年12月に行う年末調整の際に、改正後の基礎控除額と「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」に基づいて1年間の税額を計算し、改正前の「源泉徴収税額表」によって計算した源泉徴収税額との精算を行います。

 なお、基礎控除と給与所得控除の改正により、所得税が課税されない給与収入(いわゆる年収の壁)が、これまでの103万円から令和7年分は160万円(基礎控除95万円+給与所得控除65万円)に変わります

 また、給与所得控除の改正により、住民税が課税されない給与収入については、これまでの概ね100万円から2026(令和8)年度は110万円(45万円+給与所得控除65万円)に変わります(各自治体によって異なります)

※ 年収の壁については、「令和7年度税制改正で年収の壁はこのように変わった!」をご参照ください。

子どもの養育費を支払っている親はその子どもを扶養控除の対象にできるか?

 離婚によって子どもと離れて暮らすことになった親は、その子どもの生活や教育のために、子どもを引き取った親(元配偶者)に対して養育費を支払わなければなりません。

 一般的には子どもを引き取った親が親権者になりますが、親権者でなくなった親であっても子どもの親であることに変わりはありませんので,親として養育費の支払義務を負います。

 子どもの養育費を支払っている親にとっては、その子どもを扶養控除の対象とすることができれば、自らの税負担を減らすことができます。

 しかし、離れて暮らしていてもいいのか?あるいは親権者でなくてもいいのか?など、扶養控除を受けるにあたって判然としない点もあります。

 この点について結論を先に述べると、扶養控除を受けるにあたって「同居していること」や「親権者であること」という要件はありませんので、離れて暮らしていても親権者でなくても、扶養控除の適用要件を満たしていれば扶養控除を受けることができます。

 以下において、離婚に伴う養育費の支払いと扶養控除の適用関係について確認します。

1.扶養控除の適用要件

 扶養控除とは、納税者に特定の要件に該当する扶養親族がいる場合、一定の金額(38万円~63万円)を所得金額から控除できる制度です。
 特定の要件に該当する扶養親族とは、次の要件すべてに該当する親族をいいます。

(1) 配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族をいいます)または都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人であること

(2) 納税者と生計を一にしていること

(3) 年間の合計所得金額が48万円以下であること(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)

(4) 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないことまたは白色申告者の事業専従者でないこと

 上記4要件を満たす扶養親族のうち、その年12月31日現在の年齢が16歳以上の人を控除対象扶養親族といい、扶養控除の対象となります。

 離れて暮らす子どもが控除対象扶養親族であるか否かについて、上記の(1)、(3)、(4)、16歳以上という要件については、形式的に判断できますので特に問題はないと思います。

 判断に迷うのは、養育費の支払いが上記(2)の「生計を一にしていること」に該当するか否かだと思われますので、この点について次に確認します。

※ 2025(令和7)年度税制改正で、(3)の要件は「年間の合計所得金額が58万円以下であること(給与のみの場合は給与収入が123万円以下)」に変わりました。

2.「生計を一にする」とは?

 「生計を一にする」とは、必ずしも同居していることを要件とするものではありません。
 例えば、勤務、修学、療養等のために別居している場合であっても、余暇には起居を共にすることを常例としている場合や、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合には、「生計を一にする」ものとして取り扱われます。

 したがって、離れて暮らす子どもが「生計を一にしている」とみることができるかどうかは、離婚に伴う養育費の支払いが「常に生活費等の送金が行われている場合」に当たるか否かによることとなりますが、次のような場合には、扶養控除の対象として差し支えないものとされています。

(1) 扶養義務の履行として支払われる場合

(2) 子が成人に達するまでなど一定の年齢等に限って支払われる場合


 なお、離婚に伴う養育費の支払いが(1)及び(2)のような状況にある場合において、それが一時金として支払われる場合は、「常に生活費等の送金が行われている場合」に該当しないと考えられるため、扶養控除を受けることはできません。

 一方、一時金として支払われる場合であっても、子どもを受益者とする信託契約(契約の解除については元夫婦の両方の同意を必要とするものに限ります)により養育費に相当する給付金が継続的に給付されているときには、その給付されている各年について「常に生活費等の送金が行われている場合」に該当すると考えられるため、扶養控除を受けることができます。
 ただし、信託収益は子どもの所得となりますので、信託収益を含めて子どもの所得金額の判定を行う必要があります。

 また、離れて暮らす親と引き取った親の両方の控除対象扶養親族に子どもが該当する場合には、いずれか一方の親だけしか扶養控除を受けることができません(重複適用はありません)。

※ 離婚に伴う財産分与の課税関係については、本ブログ記事「離婚により自宅を財産分与した場合にかかる税金は?」をご参照ください。

他の者の青色事業専従者を配偶者控除・扶養控除の対象とできるか?

 青色申告者の事業専従者として給与の支払を受ける人または白色申告者の事業専従者である人は、控除対象配偶者や扶養親族にはなれません。

 例えば、青色申告者である夫が、その夫の事業に従事している同一生計の妻に給与を支払っている場合、たとえ給与の支払総額が年間で103万円以内であったとしても、夫は妻を控除対象配偶者とすることができません(夫は配偶者控除を受けることができません)。

 これはよく知られた一般的な例ですが、事業専従者と配偶者控除・扶養控除との関係については、その判断に迷うケースもあります。
 例えば、以下のようなケースです。

※ 2025(令和7)年度税制改正で、配偶者控除や扶養控除の所得要件が合計所得金額58万円以下(給与収入以外に所得が無い場合は給与収入123万円以下)に変わりました。
 2025(令和7)年度税制改正の内容については、「
基礎控除・給与所得控除の引き上げと源泉徴収事務・年収の壁への影響(令和7年度税制改正)」をご参照ください。

1.他の者の青色事業専従者である場合

 サラリーマンであるAさんの妻Bさんは、AさんBさんと生計を一にする父Cさんの青色事業専従者として月額8万円(年間96万円)の給与の支給を受けています。
 この場合、AさんはBさんを控除対象配偶者とすることができるでしょうか(Aさんは配偶者控除を受けることができるでしょうか)?

 答えは「否」です。AさんはBさんを控除対象配偶者とすることができません。

 このケースでは、BさんはAさんの事業に従事しているのではなく、Cさんの事業に従事して青色事業専従者給与の支給を受けています。
 したがって、CさんがBさんを扶養控除の対象にすることができないことに疑問の余地はありません。

 一方、Aさんにとっては、Bさんは自分の青色事業専従者ではないため、Bさんを配偶者控除の対象にできそうにも思えます。
 しかし、AさんはBさんを控除対象配偶者とすることができません。

 理由は次のとおりです。

2.誰の青色事業専従者であるかは問わない

 まず、配偶者控除の適用要件を確認すると、控除対象配偶者となるのは、その年の12月31日の現況で、次の4つの要件のすべてに当てはまる人です。

(1) 民法の規定による配偶者であること(内縁関係の人は該当しません)
(2) 納税者と生計を一にしていること
(3) 年間の合計所得金額が48万円以下であること(2025令和7)年度税制改正後は58万円以下
(4) 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないことまたは白色申告者の事業専従者でないこと

 上記要件のうち(2)~(4)は同一生計配偶者の要件ですが、(4)に注目すると、BさんはAさんの事業専従者として給与の支払を受けていませんので、要件をクリアしているように見えます。

 しかし、同一生計配偶者について条文にかえって確認すると、所得税法第2条第1項第33号に次のように定義されています。

三十三 同一生計配偶者 居住者の配偶者でその居住者と生計を一にするもの(第57条第1項(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)に規定する青色事業専従者に該当するもので同項に規定する給与の支払を受けるもの及び同条第3項に規定する事業専従者に該当するもの(第33号の4において「青色事業専従者等」という。)を除く。)のうち、合計所得金額が48万円以下である者をいう。

 所得税法第2条第1項第33号の「同一生計配偶者」の定義では、同法第57条第1項(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)に規定する青色事業専従者に該当するものを除くとされているのみであって、その居住者の専従者であるとする規定ぶりではないことがわかります。

 つまり、BさんがAさんの専従者であるかどうかは関係なく、Bさんが青色事業専従者に該当するならば同一生計配偶者から除かれるということです。

 したがって、いったん生計を一にする他の者(Cさん)の事業専従者となった者(Bさん)については、その年においてAさんの控除対象配偶者とすることはできません。

 

定額減税の年調減税事務の流れ

 2024(令和6)年分所得税については定額減税が実施されていますので、年末調整の際には、例年の年末調整と異なり年調減税事務を行う必要があります。

 年調減税事務では、年末調整の際、年末調整時点の定額減税額(以下「年調減税額」といいます)に基づき、年間の所得税額との精算を⾏います。

 今回は、定額減税の年調減税事務の流れ(手順)について確認します。

1.年調減税事務の対象となる人

 令和6年の年末調整において年調減税事務の対象となる人は、原則として、年末調整の対象となる人です。

 具体的には、前年以前から引き続き勤務している人や年の中途で就職し年末まで勤務している人(青色事業専従者を含みます)で、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書※1」を年末調整を行う日までに提出している人です(給与の収入金額が2,000万円を超える人を除きます)。

 この年末調整の対象となる⼈が、原則として、年調所得税額から年調減税額を控除する対象者(年調減税事務の対象者)となります※2

 ただし、年末調整の対象となる⼈のうち、給与所得以外の所得を含めた合計所得⾦額が1,805万円を超えると⾒込まれる⼈については、年調減税額を控除しないで年末調整を⾏うことになります※3

※1 扶養控除等(異動)申告書については、本ブログ記事「令和6年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の書き方と記載例」をご参照ください。

※2 年調所得税額とは、年末調整により算出された所得税額で、住宅借入⾦等特別控除の適用を受ける場合には、その控除後の⾦額をいいます。つまり、例年通りの計算方法で年調所得税額を算出します。

※3 年末調整において合計所得⾦額が1,805万円を超えるかどうかは、基礎控除申告書により把握した合計所得⾦額を用います。

2.年調減税額の計算

 年調減税額は、「本人30,000円」と「同一生計配偶者と扶養親族1人につき30,000円」との合計額となります。

 年調減税額の計算に当たっては、「扶養控除等(異動)申告書」や「配偶者控除等申告書」などから、年末調整を行う時の現況における同一生計配偶者の有無及び扶養親族(同一生計配偶者及び扶養親族はいずれも居住者に限ります)の人数を確認することになります※4

 なお、同一生計配偶者(居住者に限ります)を年調減税額の計算に含めるためには、従業員本人が「配偶者控除等申告書兼年末調整に係る定額減税のための申告書」にその配偶者を記載して提出する必要があります※5

※4 定額減税における「同一生計配偶者」と「扶養親族」の内容については、本ブログ記事「定額減税と年末調整で異なる『同一生計配偶者』『扶養親族』の範囲に注意!」をご参照ください。

※5 基礎控除申告書および配偶者控除等申告書に、本人(配偶者)定額減税対象のチェック欄が追加されました。所得金額などから、年調減税額の対象となる場合はチェックを付けます。
 また、年末調整に係る定額減税のための申告書が追加されました。従業員本人の令和6年中の合計所得金額の見積額が1,000万円超で、かつ居住者である同一生計配偶者(令和6年中の合計所得金額の見積額が48万円以下)を年調減税額の計算対象とする場合は、こちらに記載します。

3.年調年税額の計算(年調減税額の控除)

 年調減税額の控除は、住宅借入金等特別控除後の所得税額(年調所得税額)から、その住宅借入金等特別控除後の所得税額を限度に行います。年調年税額の計算手順は次のとおりです。

(1) 年調所得税額の計算
 例年通りの計算方法で、年調所得税額を算出します。

(2) 年調減税額の控除
 年調所得税額から年調減税額を控除します。この金額(下図の「定額減税額控除後の所得金額」)に102.1%(復興特別所得税)を乗じて年調年税額を算出し、過不足額の精算を行います。

出所:国税庁ホームページ

4.源泉徴収簿の作成

 上記2で求めた「年調減税額」、上記3で求めた「年調所得税額から年調減税額を控除した金額」、「年調減税額のうち控除しきれなかった金額(控除外額)」がある場合はその額(無い場合は0円)を、それぞれ源泉徴収簿の余白に記載します。

出所:国税庁ホームページ

 上の例において、「年調所得税額㉔163,600円」を算出するところまでは例年通りです。例年と変わるのは、「年調年税額㉕44,500円」の記入方法です。

 まず、源泉徴収簿の余白に「㉔-2 120,000円」(年調減税額)を記入します。

 次に、源泉徴収簿の余白に「年調所得税額㉔163,600円」から「㉔-2 120,000円」(年調減税額)を控除し、その控除後の残額を「㉔-3 43,600円」と記入します。
 このとき、年調減税額のうち控除しきれなかった⾦額はありませんので、余白に「㉔-4 0円」(控除外額)と記入します。
 年調減税額のうち控除しきれなかった⾦額があるときは、余白に「㉔-3 0円」と記入し、「㉔-4 〇〇〇円」(控除外額)と記入します。

 最後に、「㉔-3 43,600円」(年調減税額控除後の年調所得税額)に102.1%を乗じて復興特別所得税を含む年調年税額44,500円を算出し(100円未満切り捨て)、「年調年税額㉕」欄に記入します。

 この後の手順は例年通りです。「年調年税額㉕44,500円」と「税額⑧204,810円」とを比べて過不⾜額160,310円を「差引超過額⼜は不⾜額㉖」欄に記入し、通常の年末調整と同様にその過不⾜額の精算(160,310円の還付)を⾏います。

5.源泉徴収票の記載例

(1) 年末調整を行った一般的な場合

 年末調整終了後に作成する「令和6年分給与所得の源泉徴収票」には、その「(摘要)」欄に、実際に控除した年調減税額を「源泉徴収時所得税減税控除済額120,000円」と記載します。
 また、年調減税額のうち年調所得税額から控除しきれなかった⾦額がない場合は「控除外額0円」と記載します。
 控除しきれなかった⾦額がある場合は、「控除外額〇〇〇円」と記載します。

出所:国税庁ホームページ

(2) 非控除対象配偶者分の定額減税を受けた場合

 合計所得⾦額が1,000万円超である居住者の同一生計配偶者(以下「非控除対象配偶者」といいます)分を年調減税額の計算に含めた場合には、上記(1)に加えて「非控除対象配偶者減税有」と「(摘要)」欄に記載します。

出所:国税庁ホームページ

(3) 非控除対象配偶者が障害者に該当する場合

 非控除対象配偶者を有する人で、その同一生計配偶者が障害者、特別障害者⼜は同居特別障害者に該当する場合は、「(摘要)」欄に同一生計配偶者の氏名及び同一生計配偶者である旨を記載することとされていますが、この場合に当該非控除対象配偶者分を年調減税額の計算に含めた場合には、「減税有」の追記で差し⽀えありません。

出所:国税庁ホームページ

(4) 年末調整を行っていない場合

 年末調整を⾏わずに退職した人や、令和6年分の給与の収入⾦額が2,000万円を超えるなどの理由により年末調整の対象とならなかった人については、その「令和6年分給与所得の源泉徴収票」の「(摘要)」欄には、定額減税の情報を記載する必要はありません※6
 なお、「源泉徴収税額」欄には、控除前税額から月次減税額を控除した後の実際に源泉徴収した税額の合計額を記載することになります。

※6 関連記事:「令和6年6月1日以後に退職した人の定額減税(年調未済の場合)

令和6年6月1日以後に退職した人の定額減税(年調未済の場合)

 2024(令和6)年6月1日以後最初に支払われる給与・賞与から、所得税の定額減税(月次減税)が開始されています。

 定額減税(月次減税)の対象となるのは、令和6年6月1日(以下「基準日」といいます)現在において給与の支払者のもとで勤務している人のうち、給与所得の源泉徴収税額表の甲欄が適用される居住者の人(その給与の支払者に扶養控除等申告書を提出している居住者の人)です。

 今回は、定額減税(月次減税)の対象である給与所得者が、年末調整を受けずに年の中途で退職した場合の定額減税について確認します。

※ 定額減税の対象である給与所得者の年末調整については、「定額減税の年調減税事務の流れ」をご参照ください。

1.退職日までの給与について会社は月次減税を行う

 基準日以後に退職した人は、退職日まではその給与の支払者のもとに勤務していますので、基準日現在において扶養控除等申告書を提出していれば、退職日までの給与について会社は定額減税(月次減税)を行います。

2.退職者に渡す源泉徴収票の記載方法

 基準日以後に給与所得者が退職した場合には、源泉徴収の段階で定額減税の適用を受けた上、再就職先での年末調整又は確定申告で最終的な定額減税との精算を行うこととなるため、「令和6年分給与所得の源泉徴収票」の「摘要」欄には、定額減税に関する情報(源泉徴収時所得税減税控除済額×××円、控除外額××× 円)を記載する必要はありません。

 なお、「源泉徴収税額」欄には、控除前税額から月次減税額を控除した後の実際に源泉徴収した税額の合計額を記載することになります。

3.再就職後の月次減税

 前の勤務先で定額減税(月次減税)を受けていた人が、基準日以後に年末調整を受けずに年の中途で退職し、その後において国内にある他の企業等へ再就職して再就職先で主たる給与の支給を受ける場合は、月次減税は行われません。
 この場合は、年末調整時に年調減税を受けることになります。

4.退職所得に係る源泉所得税の定額減税

 退職所得の源泉徴収の際に定額減税は実施されませんが、令和6年分の退職所得を有する人(居住者)は、その退職所得を含めた所得に係る所得税について、確定申告により定額減税額の控除を受けることができます。

 したがって、給与等に係る源泉徴収において控除しきれなかった定額減税額がある場合には、令和6年分の確定申告書を提出することで、退職所得を含めた所得に係る所得税について、定額減税の適用を受けることができます。

※ 関連記事:「退職所得の受給に関する申告書を提出した人が還付を受けるためにする確定申告」、「給与所得者と公的年金等受給者の確定申告不要制度の注意点

令和6年10月1日から変わる税金・社会保険その他の主な制度

 2024(令和6)年10月1日から、税金や社会保険などにおいて制度変更が行われるものがあります。
 それらの中には、会社の経営や従業員の働き方などに影響を及ぼすものもありますので、どのような制度変更があるのかを確認しておくことは有意義であると思われます。
 以下では、令和6年10月1日から変更される主な制度について確認します。

1.中小企業倒産防止共済掛金の損金算入制限

 中小企業倒産防止共済制度(経営セーフティ共済)は、取引先事業者が倒産した際に無担保・無保証人で掛金の最大10倍(上限額8,000万円)の金額を借りることができ、中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度です。

 取引先の突然の倒産などの「もしも」のときに備えるというのが本来の目的ですが、掛金全額(1年間で最大240万円)を損金または必要経費に算入できることから、節税対策としても活用されています。

 一方、掛金の積立額は上限800万円とされており、上限に達した後は任意のタイミングで解約して解約手当金を受け取ることになりますが、この解約手当金は収益(益金または収入金額)となります。

 黒字のタイミングで解約すれば解約手当金がすべて課税対象となってしまい、せっかくの損金算入が単なる課税の繰り延べになってしまいますので、節税効果を活かすためには解約するタイミングは重要です。

 一般的には、赤字のタイミングで解約したり、役員退職金や大規模修繕などの大型の経費を計上するタイミングで解約して、解約手当金と相殺する方法があります。

 さらに、解約した後にすぐに再加入して、掛金(前納すれば最大240万円)と解約手当金を相殺するという方法が用いられることがありましたが、この部分が中小企業庁に不適切であると指摘され、見直しが行われました。

 その結果、2024(令和6)年10月1日以後に解約した中小企業倒産防止共済については、解約の日から2年を経過する日までの間に支出する掛金は損金算入することができないとされました。
 これにより、解約後すぐに再加入して節税するというスキームが封じられることになります。

 もし、再加入による掛金の損金算入を検討している場合は、令和6年9月30日までに現契約を一度解約した上で再加入する必要があります。

※ 損金算入制限については、「中小企業倒産防止共済の再加入後の損金算入制限に注意」をご参照下さい。

2.免税事業者等からの仕入れに係る経過措置の適用の制限

 インボイス制度の下では、免税事業者等(消費者、免税事業者又は登録を受けていない課税事業者)からの課税仕入れについては、仕入税額控除のために保存が必要なインボイスの交付を受けることができないことから、仕入税額控除を行うことができません。

 ただし、インボイス制度開始から一定期間(6年間)は、免税事業者等からの課税仕入れであっても、仕入税額相当額の一定割合(80%・50%)を仕入税額とみなして控除できる経過措置が設けられています。

期間 割合
令和5年10月1日から令和8年9月30日まで 仕入税額相当額の80%
令和8年10月1日から令和11年9月30日まで 仕入税額相当額の50%

 上記経過措置が2024(令和6)年度税制改正により見直しが行われ、一の免税事業者等から行う当該経過措置の対象となる課税仕入れの額の合計額がその年又はその事業年度で税込み10億円を超える場合には、その超えた部分の課税仕入れについて、本経過措置は適用できないこととされました。
 この改正は、2024(令和6)年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。

※ 経過措置については、「インボイス制度導入後の免税事業者からの仕入れに係る仕入税額控除の特例(経過措置)」をご参照下さい。

3.パート・アルバイトの社会保険加入義務の拡大

 パートやアルバイトで働く方の社会保険(健康保険及び厚生年金保険)加入義務の判定基準が、2024(令和6)年10月1日から変わります。

 パートやアルバイトで働く短時間労働者の方でも、一定の要件を満たす場合は社会保険に加入しなければなりません。
 一定の要件とは次の4要件をいい、これらの要件をすべて満たす場合は社会保険の加入義務が生じます。

(1) 週の所定労働時間が20時間以上であること
(2) 所定内賃金が月額8.8万円以上であること
(3) 2か月を超える雇用の見込みがあること
(4) 学生でないこと

 現在、厚生年金保険の被保険者数が101人以上の企業等で働く上記4要件を満たす短時間労働者は、社会保険の加入対象となっています。
 この短時間労働者の加入要件がさらに拡大され、令和6年10月1日から厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業等で働く短時間労働者の社会保険加入が義務化されます。

 今回の加入要件の拡大に伴い、該当するパート・アルバイトの方やその家族の生活、働き方の選択などに大きな影響を及ぼす可能性がありますので、事前に制度変更の周知を図る必要があります。

※ 加入要件の詳細については、「従業員51人以上の会社で働くパート・アルバイトの社会保険加入義務(令和6年10月1日~)」をご参照ください。

4.代表取締役等住所非表示措置

 現行の会社法においては、株式会社の代表取締役など会社の代表者は氏名と住所を登記する必要があり、登記後はその氏名と住所が登記簿上で公開されます。

 この登記簿上の代表者の住所について、2024(令和6)年10月1日から登記申請時に代表者の住所を非公開にすることができるという制度(代表取締役等住所非表示措置)が始まります。

 この措置により、登記事項証明書等で公開が必要だった代表者の氏名と住所のうち、住所を非公開にすることができるようになります。
 ただし、非公開にできるのは住所の一部であり、最小行政区画までは公開されます。つまり、市区町村(東京都においては特別区、指定都市においては区)までは公開されます。

 なお、代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合には、登記事項証明書等によって会社代表者の住所を証明することができないこととなるため、金融機関から融資を受けるに当たって不都合が生じたり、不動産取引等に当たって必要な書類(会社の印鑑証明書等)が増えたりするなど、一定の支障が生じることが想定されます。

 そのため、代表取締役等住所非表示措置の申出をする前に、このような影響があり得ることについて、慎重かつ十分な検討が必要です。

※ 制度の詳細については、「令和6年10月1日から登記申請時に社長の住所を非公開にできます」をご参照ください。

5.給与所得者の保険料控除申告書

 2024(令和6)年10月1日以後に提出する「給与所得者の保険料控除申告書」について、以下の「申告者との続柄」の記載を要しないこととされました。

(1) 社会保険料について、社会保険料のうちに自己と生計を一にする配偶者その他の親族が負担すべきものがある場合におけるこれらの者の申告者との続柄
(2) 新生命保険料及び旧生命保険料について、保険金、年金、共済金、確定給付企業年金、退職年金又は退職一時金の受取人の申告者との続柄
(3) 介護医療保険料について、保険金、年金又は共済金の受取人の申告者との続柄
(4) 新個人年金保険料及び旧個人年金保険料について、年金の受取人の申告者との続柄

6.地域別最低賃金の引き上げ

 最低賃金は、パート、アルバイト、正社員、臨時、嘱託など雇用形態や呼称の如何を問わず、すべての労働者に適用されます。

 近年は最低賃金引き上げの流れが続いており、2024(令和6)年度の全国加重平均は時給1,055円と過去最高となっており、引き上げ幅51円も過去最高となっています。
 令和6年度の地域別最低賃金を見ると、最高額は東京都の1,163円、最低額は秋田県の951円となっています。

 令和6年度地域別最低賃金は、令和6年10月1日から同年11月1日にかけて順次引き上げられる予定です。

※ 詳細については、「令和6年度地域別最低賃金が10月1日から順次引き上げられます」をご参照ください。

7.郵便料金の値上げ

 2024(令和6)年10月1日から郵便料金が値上げされます。主な郵便料金の変更内容は次のとおりです。

出所:日本郵便ホームページ

簡易な扶養控除等申告書とは?

 2023(令和5)年度税制改正により、源泉徴収手続の簡素化を図り納税者利便を向上させる観点から、2025(令和7)年1月1日以後に支給される給与等について提出する「給与所得者の扶養控除等申告書」及び「従たる給与についての扶養控除等申告書」に「簡易な申告書」が創設されました。
 以下では、この簡易な申告書の内容について確認します。

1.簡易な申告書とは?

 勤務先へ提出する「給与所得者の扶養控除等申告書※1」又は「従たる給与についての扶養控除等申告書※2」に記載すべき事項が、前年にその勤務先へ提出した扶養控除等申告書に記載した事項から異動がない場合は、その記載すべき事項の記載に代えて、異動がない旨を記載した申告書を提出することができます。
 この前年から異動がない旨を記載した申告書を「簡易な申告書」といいます。

※1 関連記事:「令和6年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の書き方と記載例
※2 関連記事:「『従たる給与についての扶養控除等申告書』とは?

2.異動がない場合とは?

 上記1における異動がない場合とは、勤務先に提出しようとする扶養控除等申告書に記載すべき事項の全てが、その勤務先に前年に提出した扶養控除等申告書に記載した内容から異動がない場合をいいます。

 なお、控除対象扶養親族の所得の見積額に変動があった場合等のうち一定の場合(例えば、子の所得の見積額に変動があったとしても前年も本年も48万円以下となる場合)には、異動がないものとして取り扱って差し支えありません。

 ただし、前年は控除対象扶養親族に該当していた親族が本年は控除対象扶養親族に該当しないこととなる場合や、前年は16歳未満の年少扶養親族だった子が本年は控除対象扶養親族に該当する場合などは、前年に提出した扶養控除等申告書に記載した事項について異動があったものとなりますので、簡易な申告書を提出することはできません。

※ 2025(令和7)年度税制改正で、扶養控除の所得要件が合計所得金額58万円以下に変わりました。

3.異動の有無の確認方法は?

 給与の支払者が、前年に提出を受けた扶養控除等申告書に記載された事項の異動の有無を従業員に確認してもらう方法としては、例えば、システム等を利用して前年に提出を受けた扶養控除等申告書の申告データを従業員に確認してもらう方法や、前年に提出を受けた扶養控除等申告書の写しを従業員に交付して確認してもらう方法などがあります。

 なお、連年簡易な申告書を提出している従業員には、その従業員から最後に提出を受けた簡易な申告書以外の扶養控除等申告書の記載内容から異動がないかを確認してもらう必要があります。

4.簡易な申告書の記載例

 簡易な申告書には、提出する人本人の氏名、住所又は居所及びマイナンバー(個人番号)を記載の上、前年に提出した扶養控除等申告書に記載した事項から異動がない旨(例えば「前年から異動なし」など)を余白に記載する等して提出します。

出所:国税庁ホームページ

 なお、給与の支払者が、扶養控除等申告書に記載すべき従業員のマイナンバーなどの所定の事項を記載した帳簿を備えているときは、そのマイナンバーの記載をしなくてよいこととされています※3

※3 関連記事:「『給与所得者の扶養控除等(異動)申告書』のマイナンバー記載を省略する方法

5.源泉徴収手続の簡素化に資するのか?

 冒頭で述べたように、簡易な申告書が創設された目的は、源泉徴収手続の簡素化を図り納税者利便を向上させることにあります。

 確かに、前年に提出した扶養控除等申告書の内容と異動がなければ、従業員は前年と同じ内容を記載する手間を省くことができる(書く量が減る)ので、納税者利便向上に資するかもしれません。
 しかし、連年簡易な申告書を提出する場合、いつから異動がないのか(最後に提出した異動前の扶養控除等申告書の内容)を把握しておく必要があります。

 一方、給与の支払者は、連年簡易な申告書の提出を受けた場合においても適正に源泉徴収事務を行うことができるよう、従業員から提出を受けた扶養控除等申告書を、システムを使用してその申告データを管理する又は書面でその申告書の管理をするなど、最後に提出を受けた簡易な申告書以外の扶養控除等申告書(異動前の扶養控除等申告書)の内容を確認できるようにしておく必要があります。

 そうすると、ある従業員には前年との比較で異動の有無を確認してもらい、ある従業員には3年前との比較で異動の有無を確認してもらうなど、従業員ごとに比較対象となる扶養控除等申告書が異なりますので、異動前の扶養控除等申告書を給与の支払者が管理することを前提とすると、その管理事務が煩雑になる懸念があります(単に「前年から異動なし」と記載された簡易な申告書の写しを従業員に交付するだけでは、適正な源泉徴収事務は行えないと思われます)。

 異動がない場合に簡易な申告書を従業員に提出してもらうのか、あるいは異動の有無にかかわらず毎年最新の扶養控除等申告書を提出してもらうのかについては、一考が必要です。

青色事業専従者自身の定額減税について

 給与所得者については、2024(令和6)年6月1日以後最初に支払われる給与等から所得税の定額減税(月次減税)が開始されます。

 個人事業主については、原則として令和6年分の所得税確定申告で定額減税を行うことになりますが、その個人事業主のもとで給与を支給されている青色事業専従者(個人事業主の配偶者など)は定額減税を受けることができるのでしょうか?
 
 今回は、青色事業専従者の定額減税について確認します。

※ 個人事業主の定額減税については、本ブログ記事「個人事業主の定額減税の概要」をご参照ください。

1.定額減税の対象者と減税額

 定額減税の対象となるのは、令和6年分所得税の納税者である居住者で、令和6年分の所得税に係る合計所得金額が1,805万円以下である人です。

 また、所得税の定額減税額は、次の金額の合計額です。

(1) 本人(居住者に限ります)・・・3万円
(2) 同一生計配偶者及び扶養親族(居住者に限ります)・・・1人につき3万円

2.青色事業専従者は定額減税の計算対象外

 定額減税は本人分だけではなく、上記1(2)にあるように、同一生計配偶者及び扶養親族(居住者に限ります)についても、1人につき3万円の減税を受けることができます。
 例えば、同一生計配偶者と扶養親族1人がいる場合は、3万円(本人分)+3万円×2(同一生計配偶者及び扶養親族分)=9万円の減税を受けることができます。

 本人が給与所得者の場合はこのように定額減税額を計算しますが、本人が個人事業主(事業所得者等)の場合は若干の疑問が生じます。
 すなわち、同一生計配偶者や扶養親族に対して青色事業専従者として給与を支給していても、定額減税の計算対象に含めてもいいのかどうか?ということです。

 国税庁の「令和6年分所得税の定額減税Q&A」(令和6年4月11日改訂)には、同一生計配偶者(問1-4)と扶養親族(問1-5)について、次のように記載されています(下線は筆者による)。

問 「同一生計配偶者」とは、どのような人をいうのですか。
[A]「同一生計配偶者」とは、その年の12月31日(納税者が年の中途で死亡し又は出国する場合は、その死亡又は出国の時)の現況で、納税者と生計を一にする配偶者(青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていない人又は白色申告者の事業専従者でない人に限ります。)で、年間の合計所得金額が48万円(給与所得だけの場合は給与等の収入金額が103万円)以下の人をいいます。

問 「扶養親族」とは、どのような人をいうのですか。
[A]「扶養親族」とは、その年の12月31日(納税者が年の中途で死亡し又は出国する場合は、その死亡又は出国の時)の現況で、次の4つの要件のすべてに当てはまる人をいいます。
⑴ 配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族をいいます。)又は都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人であること。
⑵ 納税者と生計を一にしていること。
⑶ 年間の合計所得金額が48万円以下であること。
青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと又は白色申告者の事業専従者でないこと。

 上記の問答から、納税者本人の定額減税額の計算においては、給与を支給している青色事業専従者は含めない(計算対象人数としてカウントしない)ことがわかります。

3.青色事業専従者自身は定額減税を受けることができる!

 上記2より、個人事業主本人の定額減税の計算対象に青色事業専従者は含めないことがわかりますが、ここで新たな疑問が生じます。
 すわなち、個人事業主のもとで給与を支給されている青色事業専従者自身は、定額減税を受けることができるのか?ということです。
 青色事業専従者といえども、給与所得者であることに変わりはありません。給与所得者であるならば、給与所得者本人として定額減税を受けることができるとも考えられます。

 この点については、「令和6年分所得税の定額減税Q&A」(令和6年4月11日改訂)の問2-9に次のように記載されています(下線は筆者による)。

問 青色事業専従者は定額減税の適用を受けますか。
[A]青色事業専従者として給与の支払を受ける人についても、主たる給与の支払者のもとで、令和6年6月1日以後最初に支払を受ける給与等に係る源泉徴収において、月次減税額を順次控除することとされ、年末調整や確定申告においても定額減税の適用を受けます。

 なお、青色事業専従者として給与の支払を受ける人は、納税者の同一生計配偶者や扶養親族とはされませんので、その納税者と生計を一にしていたとしても、定額減税の計算には含まれません。

 上記の問答より、個人事業主の定額減税の計算対象に青色事業専従者は含まれませんが、青色事業専従者自身は、給与所得者として定額減税を受けることができるとわかります※1。

 なお、給与所得者の定額減税の計算対象にも青色事業専従者は含まれません。
 個人事業主ではない給与所得者に青色事業専従者がいるのかと疑問が生じるかもしれませんが、例えば、給与所得者であるAの妻Bが、個人事業主である父C(妻Bの父)の青色事業専従者として給与の支給を受けている場合などが想定されます。
 この場合、Aは妻BをAの定額減税の計算対象に含めることはできませんが、一方で妻Bは父Cから支給される給与で定額減税を受けることができます※2。

※1 専従者給与を103万円以下としている青色事業専従者の定額減税については、本ブログ記事「給与収入103万円以下の青色事業専従者は自分の定額減税を受けることができるか?」をご参照ください。

※2 父Cが給与支払者として行う定額減税の方法については、本ブログ記事「給与支払者の定額減税の方法(月次減税事務:計算から納付まで)」をご参照ください。

「合計所得金額」「総所得金額」「総所得金額等」の違いとは?

 年末調整や確定申告において所得控除を適用する場合に、適用可能かどうかを判定するための基準として所得金額が設けられています。

 例えば、配偶者控除の適用要件は配偶者の所得金額が48万円以下とされていますが、ここでいう所得は「合計所得金額」です。
 一方、寄附金控除額は寄附した金額と所得金額の40%のいずれか少ない金額から2,000円を控除した額とされていますが、ここでいう所得は「総所得金額等」です。

 また、個人住民税においては、均等割の非課税限度額は「合計所得金額」で判定するのに対して、所得割の非課税限度額は「総所得金額等」で判定します。

 このように「合計所得金額」や「総所得金額等」(さらに「総所得金額」もあります)は、所得税や個人住民税の計算に用いられています。
 どれも所得の合計を表すよく似た用語ですが、税法上少しずつ違いがありますので、それらが用いられる場面によって使い分けが必要です。

 以下では、「合計所得金額」、「総所得金額」、「総所得金額等」という3つの用語について確認します。

2025(令和7)年度税制改正により、配偶者控除や扶養控除などの適用要件は合計所得金額が58万円以下とされました。

1.課税所得金額の計算過程のどの金額か?

 国税庁のホームページや書籍等では、「合計所得金額」、「総所得金額」、「総所得金額等」について詳細な説明がされています。
 例えば、国税庁ホームページでは、「合計所得金額」について以下のように説明されています。

次の①と②の合計額に、退職所得金額、山林所得金額を加算した金額です。

※ 申告分離課税の所得がある場合には、それらの所得金額(長(短)期譲渡所得については特別控除前の金額)の合計額を加算した金額です。

① 事業所得、不動産所得、給与所得、総合課税の利子所得・配当所得・短期譲渡所得及び雑所得の合計額(損益通算後の金額)
② 総合課税の長期譲渡所得と一時所得の合計額(損益通算後の金額)の2分の1の金額


ただし、「◆総所得金額等」で掲げた繰越控除を受けている場合は、その適用前の金額をいいます。

 確かにこの説明を読みくだいていけば「合計所得金額」がどういうものであるかがわかります。
 また、「総所得金額」と「総所得金額等」についても説明を読み解けば個々の理解はできます。
 しかし、3者の違いまでわかろうとすると、説明文を読むだけでは困難だと思われますので、ここでは図を用いて理解の一助とします。

 「合計所得金額」、「総所得金額」、「総所得金額等」は、課税所得金額の計算過程で出てくる用語ですので、これらの違いを理解するには、課税所得金額の計算構造を示した下図が参考になると思われます。

 課税所得金額は、各種所得の金額を一定の順序に従い損益通算し、純損失、雑損失等の繰越控除をして課税標準を求め、その課税標準から所得控除額を差し引いて計算します。
 詳細な説明は省きますが、「合計所得金額」、「総所得金額」、「総所得金額等」の違いを理解するにあたっては、これらが課税所得金額の計算過程のどの時点で出てくるかに注目することがポイントです。
 つまり、損益通算の前なのか後なのか、繰越控除の前なのか後なのか、分離課税の譲渡所得の特別控除の前なのか後なのか、所得控除の前なのか後なのか、ということです。

2.合計所得金額で判定するもの

 合計所得金額を用いて判定するものには、以下のものがあります。

・配偶者控除(本人の所得1,000万円以下、配偶者の所得48万円以下等)、配偶者特別控除
・扶養控除(扶養親族の所得48万円以下等)
・寡婦、ひとり親控除(500万円以下)
・基礎控除(2,500万円以下)
・住宅借入金特別控除(2,000万円以下)
・均等割の非課税限度額
・障がい者、未成年者、寡婦、ひとり親の非課税限度額 等

2025(令和7)年度税制改正により、配偶者控除や扶養控除などの適用要件は合計所得金額が58万円以下とされました。

3.総所得金額で判定するもの

 総所得金額には分離所得が含まれていないので、判定基準として使用されることはあまりありません。

4.総所得金額等で判定するもの

 総所得金額等を用いて判定するものには、以下のものがあります。

・雑損控除
・医療費控除
・寄附金控除
・所得割の非課税限度額 等