産前産後期間は国民年金保険料が免除されます(届出必要)!

 次世代育成支援の観点から、国民年金第1号被保険者が出産を行った際には、出産前後の一定期間の国民年金保険料が免除される制度があります。
 今回は、国民年金保険料の産前産後期間の免除制度について確認します。

※ 国民年金第1号被保険者とは、20歳以上60歳未満の自営業者・農林漁業者とその家族、学生、無職の人をいいます。

1.届出時期

 産前産後期間の国民年金保険料の免除を受けるためには、住民登録をしている市(区)役所・町村役場の国民年金担当窓口へ届書を提出しなければなりません。

 この届出は出産予定日の6か月前から可能であり、出産後でも届出することができます。

 すでに国民年金保険料免除・納付猶予、学生納付特例が承認されている場合でも、届出は可能です。

 また、すでに保険料を納付していても届出はできます。保険料を納付している場合は、産前産後期間の保険料は還付されます。

※ 国民年金保険料免除・納付猶予については、本ブログ記事「国民年金保険料の免除・納付猶予の申請について」をご参照ください。

2.対象者

 この免除制度の対象となるのは、国民年金第1号被保険者です。ただし、国民年金の任意加入期間は対象になりません。

3.免除される期間(産前産後期間)

 出産予定日または出産日が属する月の前月から4か月間の国民年金保険料が免除されます。
 例えば、出産予定日が属する月が9月の場合は、その前月の8月から11月までの4か月間が免除期間となります。

 多胎妊娠(双子等)の場合は、出産予定日または出産日が属する月の3か月前から6か月間の国民年金保険料が免除されます。
 例えば、出産予定日が属する月が9月の場合は、その3か月前の6月から11月までの6か月間が免除期間となります。

※ 「出産予定日が属する月」と実際の「出産日が属する月」が乖離した場合でも、原則として変更は行われません。出産後に届け出た場合は、「出産日が属する月」が基準となります。
 なお、出産とは、妊娠85日(4か月)以上の出産をいいます(早産、死産、流産及び人工妊娠中絶を含みます)。 

4.将来の年金受給額は?

 産前産後期間は国民年金保険料が免除されますが、気になるのは、将来の年金受給額にどのような影響があるかということです。

 この点については、産前産後期間に係る保険料免除期間は、保険料納付済期間に算入されることになっています。
 したがって、「保険料が免除された期間」も保険料を納付したものとして老齢基礎年金の受給額に反映されます。

国民年金保険料が免除される所得基準の計算方法~確定申告書との違いに注意!

 国民年金保険料の納付が経済的に困難な場合は、本人の申請により保険料の納付が免除される制度があります。

 免除される額には、全額免除、4分の3免除、半額免除、4分の1免除の4つの区分があり、所得に応じて免除の区分が承認(決定)されます。

 以下では、国民年金保険料の免除を受けるための所得基準の計算方法と、計算の際に注意を要する確定申告書の控除額との違いについて確認します。

※ 本記事の前編である保険料免除制度の内容については、「国民年金保険料の免除・納付猶予の申請について」をご参照ください。

1.日本年金機構が公表している所得基準の計算式

 国民年金保険料の免除を受けるためには、本人、配偶者(別世帯の配偶者を含む)、世帯主それぞれの前年所得(1月から6月までに申請する場合は前々年所得)が一定額以下でなければなりません。

 この「一定額以下」という所得基準については、日本年金機構ホームページにおいて次の計算式が公表されています。

(1) 全額免除
(扶養親族等の数+1)×35万円+32万円

(2) 4分の3免除
88万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等

(3) 半額免除
128万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等

(4) 4分の1免除
168万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等


 本人、配偶者(別世帯の配偶者を含む)、世帯主それぞれの前年所得が、上記計算式で計算した金額以下であれば、保険料の免除を受けることができます。

 ところが、実際に計算しようとすると、いくつかの疑問が生じます。

 例えば、計算式(1)における「扶養親族等の数」の「等」には配偶者や事業専従者も含まれるのか、(2)~(4)における「扶養親族等控除額」や「社会保険料控除額等」の「等」には所得税における扶養控除や社会保険料控除以外に何が含まれるのか、などです。

 しかし、日本年金機構のホームページでは、これらの内容に関する詳細な記載は見当たりません。

 保険料が免除される所得を計算する際のベースとなるのは、確定申告書の数字です。そこで、確定申告書との異同点を中心に「扶養親族等の数」、「扶養親族等控除額」、「社会保険料控除額等」の内容について、以下で確認していきます。

2.計算式の「扶養親族等の数」とは?

 全額免除の所得基準は、「(扶養親族等の数+1)×35万円+32万円」の計算式で求められます。

 この計算式における「扶養親族等の数」は、扶養控除の対象親族(控除対象扶養親族)だけではなく、16歳未満の扶養親族(年少扶養親族)と同一生計配偶者(控除対象配偶者)も該当します。

 一方、青色事業専従者として給与の支払を受けている人または白色事業専従者は該当しません。

3.計算式の「扶養親族等控除額」とは?

 一部免除(4分の3免除、半額免除、4分の1免除)の所得基準は、「〇〇万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等」の計算式で求められます。

 この計算式における「扶養親族等控除額」は、以下のものが該当します。

(1) 老人控除対象配偶者(70歳以上の同一生計配偶者)または老人扶養親族1人につき48万円
(2) 16歳以上23歳未満の扶養親族1人につき63万円
(3) それ以外の同一生計配偶者または扶養親族1人につき38万円

 ここで注意を要するのは、所得基準の計算式における「扶養親族等控除額」は、必ずしも確定申告書の控除額と一致しないということです。

 具体的な相違点は、次のとおりです。

所得基準の計算式 確定申告書の控除額との違い
老人控除対象配偶者(70歳以上の同一生計配偶者)または老人扶養親族1人につき48万円 老人扶養親族のうち、同居老親等については1人につき58万円の控除額となるが、計算式では同居老親等についても48万円の控除額となる。
16歳以上23歳未満の扶養親族1人につき63万円 16歳以上19歳未満の一般控除対象扶養親族については1人につき38万円の控除額となるが、計算式では一般控除対象扶養親族についても63万円の控除額となる(19歳以上23歳未満の特定扶養親族と同額)。
それ以外の同一生計配偶者または扶養親族1人につき38万円 16歳未満の年少扶養親族については扶養控除の対象外であるが、計算式では年少扶養親族についても38万円の控除額となる。

4.計算式の「社会保険料控除額等」とは?

 一部免除(4分の3免除、半額免除、4分の1免除)の所得基準の計算式における「社会保険料控除額等」は、以下のものが該当します。

(1) 障がい者1人につき27万円
(2) 特別障がい者1人につき40万円
(3) 寡婦または寡夫1人につき27万円
(4) 特別寡婦1人につき35万円
(5) 勤労学生1人につき27万円
(6) 雑損控除額
(7) 医療費控除額
(8) 社会保険料控除額
(9) 小規模企業共済等掛金控除額
(10) 配偶者特別控除額
(11) 純損失及び雑損失の控除額 など

 ここでも注意を要するのは、確定申告書の控除額との違いです。具体的には次のとおりです。

所得基準の計算式 確定申告書の控除額との違い
特別障がい者1人につき40万円 同居特別障害者については1人につき75万円の控除額となるが、計算式では同居特別障害者についても40万円の控除額となる。

 なお、確定申告書の所得控除のうち、以下のものは保険料免除を受けるための所得基準の計算式には含まれません。

(1) 生命保険料控除
(2) 地震保険料控除
(3) 基礎控除
(4) 寄附金控除

5.所得基準の計算方法と免除の区分

 国民年金保険料の免除を受けるための所得基準を計算するにあたっては、上記2,3、4における「扶養親族等の数」、「扶養親族等控除額」、「社会保険料控除額等」の範囲を把握し、確定申告書の控除額との違いに注意する必要があります。

 例えば、次の家族構成を例にした場合、免除を受けるための所得基準の計算方法と免除の区分は以下のようになります。

【家族構成5人】
① 本人・・・・・令和5年分の事業所得295万円(青色申告)、世帯主
② 配偶者・・・・青色事業専従者で令和5年分の給与所得41万円、46歳
③子ども・・・・小学生(12歳)と高校生(16歳)、無収入
④母親・・・・・令和5年分の年金所得15万円、71歳、同居
⑤所得控除・・・社会保険料控除30万円、生命保険料控除10万円、寄附金控除5万円
【所得基準の計算と免除の区分】

A.全額免除
所得基準:(3(子ども2人、母親)+1)×35万円+32万円=172万円
→本人の所得295万円>所得基準172万円のため、全額免除は受けられない。

B.4分の3免除
所得基準;88万円+48万円(同居老親)+38万円(年少扶養)+63万円(一般扶養)+30万円(社保控除)=267万円
→本人の所得295万円>267万円のため、4分の3免除は受けられない。

C.半額免除
所得基準:128万円+48万円(同居老親)+38万円(年少扶養)+63万円(一般扶養)+30万円(社保控除)=307万円
→本人の所得295万円≦307万円のため、半額免除を受けられる。

※ 配偶者の所得は41万円であるため、A、B、Cにおける所得基準をクリアしている。

 最後に、上記の例における本人の確定申告書を以下に示します。青枠で囲んだ箇所が所得基準の計算対象となりますが、確定申告書の控除額との違いに注意してください。

(1) 確定申告書では扶養控除が96万円(同居老親58万円+一般扶養親族38万円)となりますが、所得基準の計算では149万円(同居老親48万円+年少扶養親族38万円+一般扶養親族63万円)となります。

(2) 確定申告書では生命保険料控除10万円、基礎控除48万円、寄附金控除5万円が記載されていますが、所得基準の計算では対象外となります。

国民年金保険料の免除・納付猶予の申請について

 収入の減少や失業等により国民年金保険料を納めることが経済的に困難な場合は、保険料の納付が「免除」または「猶予」される制度があります。
 この制度を利用することで、将来の年金受給権の確保だけでなく、万一の事故などにより障害を負ったときの障害基礎年金の受給資格を確保することができます。
 以下では、免除または納付猶予を受けるための申請について確認します

※ 学生の方には「学生納付特例制度」、生活保護の生活扶助を受けている方や障害年金を受けている方には「法定免除制度」、出産を予定している方や出産した方には「産前産後期間の免除制度」が用意されていますので、これらの方は今回の「免除・納付猶予制度」の対象ではありません。 

1.保険料免除・納付猶予の申請

 国民年金保険料の免除や納付猶予を受けるためには、本人による申請が必要です。

(1) 免除申請(全額免除・一部免除)

 本人、配偶者(別世帯の配偶者を含む)、世帯主それぞれの前年所得(1月から6月までに申請する場合は前々年所得)が一定額以下の場合や失業等の理由がある場合など、保険料を納めることが経済的に困難な場合は、本人が申請書を提出し、承認されると保険料の納付が免除されます。

 免除される額は、全額、4分の3、半額、4分の1の4種類があります※1。例えば、全額免除の場合は、前年所得が以下の計算式で計算した金額の範囲内であることが必要です。

(扶養親族等の数※2+1)×35万円+32万円

※1 一部免除(4分の3、半額、4分の1)の場合、減額された保険料を納付しないと一部免除が無効となり未納期間となりますので、減額された保険料の納付が必要です。

※2 扶養親族等の数には、青色事業専従者として給与の支払を受けている人または白色事業専従者は含まれません。

(2) 納付猶予申請

 20歳以上50歳未満の方で、本人、配偶者(別世帯の配偶者を含む)それぞれの前年所得(1月から6月までに申請する場合は前々年所得)が一定額以下(全額免除の所得基準と同じ)の場合には、本人が申請書を提出し、承認されると保険料の納付が猶予されます。

 なお、上記(1)の免除(全額免除・一部免除)を受けた期間は、将来の老齢基礎年金の額が増額(国庫負担分が反映)されますが、納付猶予を受けた期間は老齢基礎年金の額は増額されません。

 また、免除(全額免除・一部免除)または納付猶予が承認されると、付加年金および国民年金基金は利用できません(付加年金および国民年金基金は、過去に遡っての加入ができません)。

2.申請できる期間

 免除申請または納付猶予申請ができる期間は、次のとおりです。

① 過去期間
 申請書が受理された月から2年1か月前(すでに保険料が納付済みの月を除く)まで

② 将来期間
 翌年6月(1月~6月に申請したときは、その年の6月)分まで

 ただし、1枚の申請書で申請できるのは、7月から次の年の6月までの12か月となりますので、必要に応じて年度ごとに申請書を提出します(免除等の1年度は7月~翌年6月)。

 例えば、令和6年7月に、令和4年6月から令和7年6月までの期間を申請する場合、以下の4枚の申請書が必要になります。

 イ.令和3年度分(令和4年6月~令和4年6月)
 ロ.令和4年度分(令和4年7月~令和5年6月)
 ハ.令和5年度分(令和5年7月~令和6年6月)
 ニ.令和6年度分(令和6年7月~令和7年6月)

 なお、この例の場合は、令和4年5月以前は時効により申請できません。

3.免除(全額免除・一部免除)と納付猶予の違い

 保険料の免除(全額免除・一部免除)と納付猶予は、以下の表のとおり、その期間が年金額に反映されるかどうかに違いがあります。

  全額免除 一部免除※1 納付猶予
老齢基礎年金の受給資格期間への算入 あり あり あり
老齢基礎年金の年金額への反映 あり※2 あり※2 なし
障害基礎年金、遺族基礎年金の受給資格期間への算入 あり あり あり

※1 一部免除の承認を受けている期間は、減額された保険料を納付している必要があります。未納の場合は、一部免除が無効となります。

※2 保険料を全額納めた場合と比べて、受け取る年金額の割合が以下のとおりとなります(2009(平成21)年4月以降の免除期間)。
・全額免除の場合・・・・2分の1
・4分の3免除の場合・・・8分の5
・半額免除の場合・・・・8分の6
・4分の1免除の場合・・・8分の7

 上表のとおり、納付猶予の期間は、老齢基礎年金、障害基礎年金、遺族基礎年金を受け取るために必要な受給資格期間にカウントされますが、年金額には反映されません。

4.免除等された保険料の追納

 上記のように、保険料の免除・納付猶予の承認を受けた期間がある場合は、保険料を全額納付した場合と比べて、将来受け取る年金額が少なくなります。

 しかし、これらの期間が10年以内であれば、後から保険料を納付(追納)して老齢基礎年金の受給額を満額に近づけることが可能です。
 例えば、免除等承認月が2014(平成26)年10月の場合、2024(令和6)年10月31日まで追納できます。

 ただし、以下の点には注意が必要です。

(1) 追納を行うには追納申込書の提出が必要ですが、追納期限の直前に提出すると期限までに追納できなくなる場合があります。
(2) 老齢基礎年金を受け取っている方は追納できません。
(3) 免除等の承認を受けた期間の翌年度から起算して3年度目以降に保険料を追納する場合は、当時の保険料額に経過期間に応じた加算額が上乗せされます。