財産債務調書の提出義務とペナルティ

 2022(令和4)年度税制改正で、2023(令和5)年分以後の財産債務調書の提出義務者や提出期限などについて見直しが行われました。

 財産債務調書とは、保有する財産の種類、数量及び価額並びに債務の金額その他必要な事項を記載した書類をいい、一定の条件に該当する人は、その年の翌年の6月30日までに、所得税の納税地等の所轄税務署長に提出しなければなりません。

 2024(令和6)年分の財産債務調書の提出期限は、2025(令和7)年6月30日(月)となっていますが、ゴールデンウィークの半ばに財産債務調書に関する国税庁からのお知らせがe-Taxメッセージボックスに格納されています。

 今回は、財産債務調書について、どのような人に提出義務があるのか、提出しなかった場合にペナルティはあるのか、などの制度の概要を確認します。

1.財産債務調書の提出義務者

 財産債務調書を提出しなければならない人は、以下の(1)又は(2)に該当する人です(令和4年度税制改正で(2)に該当する人が提出義務者として追加されました)。

(1) 次の①と②のどちらも満たす人

① 所得税の確定申告書を提出する必要がある人又は所得税の還付申告書※1を提出することができる人で、その年分の退職所得を除く各種所得金額の合計額※2が2千万円を超える場合

② その年の12月31日において、その価額の合計額が3億円以上の財産又はその価額の合計額が1億円以上の国外転出特例対象財産※3を有する場合

※1 その年分の所得税の額の合計額が配当控除の額及び年末調整で適用を受けた住宅借入金等特別控除額の合計額(令和6年分については所得税の定額減税額を含みます)を超える場合におけるその還付申告書に限ります。

※2 申告分離課税の所得がある場合には、それらの特別控除後の所得金額の合計額を加算した金額です。
 ただし、純損失や雑損失の繰越控除や上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除などを受けている場合は、その適用後の金額をいいます。

※3 国外転出特例対象財産とは、所得税法第60条の2第1項に規定する有価証券等並びに同条第2項に規定する未決済信用取引等及び同条第3項に規定する未決済デリバティブ取引に係る権利をいいます。

(2) その年の12月31日において、その価額の合計額が10億円以上の財産を有する居住者

2.財産債務調書の提出期限

 財産債務調書の提出期限は、税制改正前は所得税の確定申告期限と同様にその年の翌年の3月15日とされていましたが、令和4年度税制改正によりその年の翌年6月30日に後倒しされました。

3.財産債務調書の記載事項

 財産債務調書には、氏名、住所(又は居所等)及びマイナンバー(個人番号)のほか、財産の種類、数量、価額、所在並びに債務の金額等を記載することとされています。

 また、財産及び債務に係る事項については、種類別、用途別(一般用及び事業用の別)及び所在別に記載する必要があります。

 財産の価額は、その年の12月31日における時価※4又は時価に準ずるものとして見積価額※5によることとされています。

※4 時価とは、その年の12月31日における財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいいます。
 その価額は財産の種類に応じて異なりますが、例えば、動産及び不動産等については専門家による鑑定評価額、上場株式等(金融商品取引所に上場されている株式等のほか、登録銘柄等の公表相場があるものを含みます)については、金融商品取引所等の公表する同日の最終価格(その年の12月31日における最終価格がない場合には、同日前の最終価格のうち同日に最も近い日の価格)等となります。

※5 見積価額とは、その財産の種類等に応じて、次の方法で算定した価額をいいます。
① 事業所得の基因となる棚卸資産・・・その年の12月31日における「棚卸資産の評価額」
② 不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得に係る減価償却資産・・・その年の12月31日における「減価償却資産の償却後の価額」
③ 上記①及び②以外の財産・・・その年の12月31日における「財産の現況に応じ、その財産の取得価額や売買実例価額などを基に、合理的な方法により算定した価額」(合理的な方法により算定した価額とは、例えば、土地や建物の場合は、その年の12月31日が属する年中に課された固定資産税の計算の基となる固定資産税評価額や、その年の翌年1月1日から財産債務調書の提出期限までにその財産を譲渡した場合における譲渡価額、財産評価基本通達で定める方法により評価した価額などをいいます)

4.提出しなかった場合のペナルティ

 令和4年度税制改正により、財産債務調書の提出期限が改正前の3月15日から6月30日に後倒しされたため、従前よりは財産債務調書の提出に余裕が持てるようになりましたが、財産債務調書を提出しなかった場合、何かペナルティはあるのでしょうか?

 答えは「否」です。財産債務調書を提出しなかったとしても、そのこと自体にペナルティが科されるわけではありません。

 ただし、財産債務調書の適正な提出に向けたインセンティブとして、過少申告加算税等(過少申告加算税及び無申告加算税)の特例措置が設けられています。
 具体的には、次のような措置が講じられています。

(1) 財産債務調書を提出期限内に提出した場合に、財産債務調書に記載がある財産又は債務に関して所得税・相続税の申告漏れが生じたときは、その財産又は債務に係る過少申告加算税等が5%軽減されます。

(2) 財産債務調書の提出が提出期限内にない場合又は提出期限内に提出された財産債務
調書に記載すべき財産又は債務の記載がない場合(重要なものの記載が不十分と認められる場合を含みます)に、その財産又は債務に関して所得税の申告漏れ(死亡した方に係るものを除きます)が生じたときは、その財産又は債務に係る過少申告加算税等が5%加重されます(相続財産債務について、相続財産債務を有する方の責めに帰すべき事由がなく提出等がない場合には、加重の対象となりません)。


同族会社・役員間の不動産売買における時価の算定方法

 独立した第三者間で不動産売買が行われる場合、その売買価額について税務上の問題は通常生じません。しかし、同族関係にある会社と役員の間で行われる不動産売買については、その売買価額の決定に恣意性が介入する可能性があります。
 その結果、会社又は役員のいずれかが過大に利益を受けたり、税負担が不当に軽減されたりするため、その売買価額が適正であるか否かについて税務署のチェックは厳しいものとなります。
 もし、その売買価額が適正でないと判断された場合には、思わぬ税負担が生じることもありますので、売買価額は慎重に決定しなければなりません。
 今回は、同族関係にある会社と役員の間で行われる不動産売買について、その売買価額(時価)の算定方法を確認します。

1.不動産の適正な時価とは?

 時価とは、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われた場合に通常成立すると認められる価額、すなわち客観的な交換価値をいうものと一般的に解されています。
 しかし、所得税法・法人税法では「その時における価額」とされているだけで、時価の算定方法を示した明確な規定はありません。
 一方、通達には時価に関するいくつかの規定があります。法人税基本通達4-1-3及び9-1-3(時価)では、時価について「当該資産が使用収益されるものとしてその時において譲渡される場合に通常付される価額」と規定しています。
 また、法人税基本通達4-1-8及び9-1-19(減価償却資産の時価)では、「当該資産の再取得価額を基礎として旧定率法により償却を行ったものとした場合に計算される未償却残高に相当する金額によっているときは、これを認める」旨が規定されています。
 さらに、法人税基本通達12の3-2-1(連結納税の開始等に伴う時価評価資産に係る時価の意義(2)土地)において、「当該土地につき近傍類地の売買実例を基礎として合理的に算定した価額又は当該土地につきその近傍類地の公示価格等から合理的に算定した価額をもって当該土地の価額とする方法」によりその時の価額を算定しているときは、課税上弊害がない限りこれを認めると規定しています。
 これらの通達などを基に、以下で不動産(土地と建物)の時価の算定方法をみていきます。

2.土地の時価の算定方法

(1) 一般的な時価の算定方法

 実務上採用されている適正な時価の算定方法には、以下のものがあります。

① 不動産鑑定評価に基づく方法
 不動産鑑定士が不動産鑑定評価基準等に基づき算定する方法です。合理的な方法の一つですが、不動産鑑定士に対する報酬などの費用負担を伴います。

② 売買実例価額に基づく方法
 類似する近隣の売買実例との比較等により算定する方法です。所得税法・法人税法では、最も合理的で相当な方法と解されていますが、実際に売買実例に基づいて時価を算定することは、時間的、場所的及び物件的、用途的な同一性の点で、類似した物件の売買実例を把握することに技術面や費用面で困難を伴うことが多いといえます。

③ 地価公示価格に基づく方法
 類似する近隣の地価公示価格に基づき算定する方法です。土地の形状などの条件が異なる場合には、土地の補正等が必要になります。

④ 相続税評価額÷80%
 路線価が地価公示価格の80%を目安に設定されているため、路線価地域に所在する土地の相続税評価額を地価公示価格の水準に置き換える方法です。

⑤ 固定資産評価額÷70%
 固定資産評価額が地価公示価格の70%を目安に設定されているため、土地の固定資産税評価額を地価公示価格の水準に置き換える方法です。

(2) 公示価格比準倍率による算定方法(参考)

 公示価格比準倍率による算定方法とは、過去の裁判(東京高裁平3.11.21、千葉地裁平3.2.28,東京高裁平1.9.25)で採用された時価の算定方法であり、相続税評価額に公示価格比準倍率及び時点修正率を乗じて時価(公示価格水準)を算定する方法です。
 具体的な算定方法は、次のとおりです。

Ⅰ 平均比準倍率の算出
① 公示価格比準倍率:譲渡年の比較対象地の公示価格÷譲渡年の比較対象地の路線価
② 平均比準倍率:①の平均値

Ⅱ 譲渡日への時点修正
① 公示価格の前年比:譲渡年の翌年の比較対象地の公示価格÷譲渡年の比較対象地の公示価格×100
② 年初から譲渡日までの経過月数
③ 時点修正率:1+(①-100)×②÷12
※ 公示価格は、地価公示法に基づいて、国土交通省土地鑑定委員会が毎年1月1日時点における標準地の正常な価格を3月に公示するものです。

Ⅲ 公示価格相当額(時価)
相続税評価額×平均比準倍率×時点修正率

 次の簡単な数値例で、上記計算式の確認をします。

【設例】
・会社が役員に対して会社所有の土地を譲渡する
・譲渡年月日:令和3年8月16日
・評価対象地:1㎡当たりの相続税評価額250,000円、地積200㎡
・比較対象地:3地点(A~C)の公示価格及び路線価
  公示価格(R3) 公示価格(R4) 路線価
A 320,000円 322,000円 252,000円
B 332,000円 340,000円 280,000円
C 330,000円 334,000円 267,000円
【時価の算定】
Ⅰ 平均比準倍率の算出
① 譲渡年(R3)の比較対象地の公示価格比準倍率(小数点以下第3位四捨五入)
A:320,000円÷252,000円=1.27(比準倍率)
B:332,000円÷280,000円=1.19(比準倍率)
C:330,000円÷267,000円=1.24(比準倍率)
② 平均比準倍率
(1.27+1.19+1.24)÷3=1.23

Ⅱ 譲渡日への時点修正
① 比較対象地の公示価格の前年比(小数点以下第2位四捨五入)
A:322,000円÷320,000円×100=100.6%
B:340,000円÷332,000円×100=102.4%
C:334,000円÷330,000円×100=101.2%
平均値:(100.6+102.4+101.2)÷3=101.4%
② 年初(1/1)から譲渡日(8/16)までの経過月数
1/1~8/16→8か月
③時点修正率
1+(101.4-100)÷100×(8÷12)=1.009(小数点以下第4位四捨五入)

Ⅲ 公示価格相当額(時価)
250,000円×1.23×1.009×200㎡=62,053,500円

 この公示価格比準倍率による算定方法は、過去の裁判(個人から法人への土地の譲渡価額について、所得税法59条1項2号(みなし課税)及び法人税法22条(受贈益の認定課税)の適用の可否が争われた裁判)において被告である税務署長が主張した時価の算定方法です。
 この判決の中で「公示価格は客観的な取引価格に近いものであるが、通常は時価をある程度下回るものであることは公知の事実である」と判示されており、この方法により算定した価額は、基本的には当該土地の時価を上回ることはなく、時価の範囲内での更正処分を認めたものです。したがって、この方法により算定した価額がただちに税務上の時価であるとはいえませんが、先に述べた法人税基本通達12の3-2-1にあるように、土地の時価の算定方法の一つとして参考になる評価方法といえます。

3.建物の時価の算定方法

 実務上採用されている適正な時価の算定方法には、以下のものがあります。

① 不動産鑑定評価に基づく方法
 不動産鑑定士が不動産鑑定評価基準等に基づき算定する方法です。

② 売買実例価額に基づく方法
 類似する近隣の売買実例との比較等により算定する方法です。評価の対象となる建物が中古物件の場合には、近隣の取引事例の把握が困難な場合が多いと思われます。

③ 相続税評価額(固定資産税評価額)に基づく方法
 固定資産税評価額による方法です。利用状況に応じ、自家用家屋、貸付用家屋に区分されます。

④ 再取得価額から減価償却額を控除する方法(複成価格法)
 売買を行う時点で、新品として取得する場合の価額(再取得価額)から経過年数に応じた減価償却額を控除する方法です。
 なお、建物の再取得価額は、国土交通省の建築統計年報等に基づく建築価額当により計算することができます。