調整給付金(定額減税補足給付金)の算定方法と疑問点の検証

 調整給付金は、2024(令和6)年度に実施される所得税・個人住民税所得割の定額減税を十分に受けられない人に対して、市区町村から支給される給付金(定額減税を補足する給付金)です。

 具体的には、定額減税可能額が2024(令和6)年分の推計所得税額または2024(令和6)年度分の個人住民税所得割額を上回る人に対して、当該上回る額の合計額を基礎として1万円単位で切り上げて算定した額が、2024(令和6)年7月下旬~8月に支給されます。

 今回は、調整給付金の算定方法と、調整給付金について想定される疑問点を検証します。

1.調整給付金の算定方法

 先に述べたように、調整給付金は、定額減税可能額が2024(令和6)年分の推計所得税額または2024(令和6)年度分の個人住民税所得割額を上回る人に対して、当該上回る額の合計額を基礎として1万円単位で切り上げて算定した額が支給されるというものです。

 定額減税可能額は、次のとおりです。

【所得税分】 3万円 × 減税対象人数(納税者本人+同一生計配偶者+扶養親族の数)
【住民税分】 1万円 × 減税対象人数(納税者本人+控除対象配偶者+扶養親族の数)

※ 同一生計配偶者とは、納税者と生計を一にする配偶者(青色専従者等を除く)のうち、合計所得が48万円以下の人です。
※ 控除対象配偶者とは、同一生計配偶者のうち、納税者の所得が1,000万円以下で、配偶者の合計所得が48万円以下の人(配偶者控除の対象者)です。
※ 扶養親族には16歳未満の扶養親族も含みます。
※ 非居住者(国外居住者など)は、減税対象人数に含みません。

 調整給付金は、例えば、家族構成4人(本人、配偶者、子ども2人)、令和6年分推計所得税額10万円、令和6年度分個人住民税所得割額3万5千円の場合を前提とすると、次のように算定します。

【所得税】
定額減税可能額=3万円 × 減税対象人数4人=12万円
控除不足額=定額減税可能額12万円-推計所得税額10万円=2万円
【住民税】
定額減税可能額=1万円 × 減税対象人数4人=4万円
控除不足額=定額減税可能額4万円-住民税所得割額3万5千円=5千円
【調整給付金】
調整給付金=所得税の控除不足額2万円+住民税の控除不足額5千円=2万5千円→3万円(1万円単位に切り上げ)

2.調整給付金に関するQ&A

 調整給付金の算定方法は上記1のとおりですが、以下では調整給付金に関する疑問点をQ&A形式で検証します。

(1) 令和6年分推計所得税額はどのようにして算出しているのか?

 調整給付金の算定において、所得税の控除不足額は定額減税可能額から令和6年分推計所得税額を引いて算定しますが、この推計所得税額は2023(令和5)年分所得等を基に市区町村で算出しています。

 国からの通知に基づき、国の算定ツールを用いて算出するため、2023(令和5)年分確定申告書や勤務先から交付された2023(令和5)年分源泉徴収票の所得税額とは一致しない場合があります。
 特に住宅ローン控除を所得税で引ききっている場合(住民税で控除の適用がない場合)などは、算定ツールの仕様上、実際の所得税額と一致しません。

 このような場合には、次の(2)の対応になります。

(2) 調整給付金の支給額が不足していることが判明した場合は?

 調整給付金の算定に用いる令和6年分推計所得税額や令和6年度分個人住民税所得割額が実際の数値と異なる場合でも、基本的に調整給付金の変更は行われません。

 令和6年分推計所得税額は実額による算出ではないことを踏まえ、令和6年分所得税額が確定した後(年末調整または確定申告)に調整給付金の支給額に不足が生じていること(令和6年分推計所得税額>令和6年分確定所得税額)が判明した場合は、当該不足額が2025(令和7)年度に追加で給付される予定です。

(3) 調整給付金の支給額が過大となっていることが判明した場合は?

 上記(2)とは逆に、令和6年分所得税額が確定した後(年末調整または確定申告)に調整給付金の支給額に過大額が生じていること(令和6年分推計所得税額<令和6年分確定所得税額)が判明した場合は、当該過大額を返還しなければならないのでしょうか?

 答えは「否」です。調整給付金の支給額に過大額が生じていたとしても、返還は不要です。
 国は、給付しすぎた部分については返還を求めないとの方針を公表しています。

(4) 令和6年度住民税所得割も令和5年分所得税も課税されていない場合、調整給付の対象になるか?

 2024(令和6)年度住民税所得割(定額減税前の税額)も2023(令和5)年分所得税も課税されていない(0円)場合は、調整給付(当初給付)の対象となりません。

 ただし、世帯全員の令和6年度住民税所得割が非課税で、令和5年度に実施された(令和5年度個人住民税で判定)非課税世帯を対象とする給付金(7万円)、均等割のみ課税世帯を対象とする給付金(10万円)の対象となっていない世帯であれば、令和6年度低所得者支援給付金の対象となる場合がありますので、支給要件をご確認ください。

(5) 定額減税後に控除しきれない額が3,000円ある場合、均等割(5800円)から控除するのか?

 個人住民税には、所得に応じた負担を求める「所得割」と、所得にかかわらず定額の負担を求める「均等割」があり、所得の水準に基づき、市区町村において税額(所得割額・均等割額)が決定されます。
 今回の定額減税は「所得割」から控除するものであるため、均等割からは控除されません。

(6) 調整給付金は課税対象や差押えの対象となるか?

 調整給付金は課税対象ではありません。また、法律により差押えが禁止されています。

「合計所得金額」「総所得金額」「総所得金額等」の違いとは?

 年末調整や確定申告において所得控除を適用する場合に、適用可能かどうかを判定するための基準として所得金額が設けられています。

 例えば、配偶者控除の適用要件は配偶者の所得金額が48万円以下とされていますが、ここでいう所得は「合計所得金額」です。
 一方、寄附金控除額は寄附した金額と所得金額の40%のいずれか少ない金額から2,000円を控除した額とされていますが、ここでいう所得は「総所得金額等」です。

 また、個人住民税においては、均等割の非課税限度額は「合計所得金額」で判定するのに対して、所得割の非課税限度額は「総所得金額等」で判定します。

 このように「合計所得金額」や「総所得金額等」(さらに「総所得金額」もあります)は、所得税や個人住民税の計算に用いられています。
 どれも所得の合計を表すよく似た用語ですが、税法上少しずつ違いがありますので、それらが用いられる場面によって使い分けが必要です。

 以下では、「合計所得金額」、「総所得金額」、「総所得金額等」という3つの用語について確認します。

1.課税所得金額の計算過程のどの金額か?

 国税庁のホームページや書籍等では、「合計所得金額」、「総所得金額」、「総所得金額等」について詳細な説明がされています。
 例えば、国税庁ホームページでは、「合計所得金額」について以下のように説明されています。

次の①と②の合計額に、退職所得金額、山林所得金額を加算した金額です。

※ 申告分離課税の所得がある場合には、それらの所得金額(長(短)期譲渡所得については特別控除前の金額)の合計額を加算した金額です。

① 事業所得、不動産所得、給与所得、総合課税の利子所得・配当所得・短期譲渡所得及び雑所得の合計額(損益通算後の金額)
② 総合課税の長期譲渡所得と一時所得の合計額(損益通算後の金額)の2分の1の金額


ただし、「◆総所得金額等」で掲げた繰越控除を受けている場合は、その適用前の金額をいいます。

 確かにこの説明を読みくだいていけば「合計所得金額」がどういうものであるかがわかります。
 また、「総所得金額」と「総所得金額等」についても説明を読み解けば個々の理解はできます。
 しかし、3者の違いまでわかろうとすると、説明文を読むだけでは困難だと思われますので、ここでは図を用いて理解の一助とします。

 「合計所得金額」、「総所得金額」、「総所得金額等」は、課税所得金額の計算過程で出てくる用語ですので、これらの違いを理解するには、課税所得金額の計算構造を示した下図が参考になると思われます。

 課税所得金額は、各種所得の金額を一定の順序に従い損益通算し、純損失、雑損失等の繰越控除をして課税標準を求め、その課税標準から所得控除額を差し引いて計算します。
 詳細な説明は省きますが、「合計所得金額」、「総所得金額」、「総所得金額等」の違いを理解するにあたっては、これらが課税所得金額の計算過程のどの時点で出てくるかに注目することがポイントです。
 つまり、損益通算の前なのか後なのか、繰越控除の前なのか後なのか、分離課税の譲渡所得の特別控除の前なのか後なのか、所得控除の前なのか後なのか、ということです。

2.合計所得金額で判定するもの

 合計所得金額を用いて判定するものには、以下のものがあります。

・配偶者控除(本人の所得1,000万円以下、配偶者の所得48万円以下等)、配偶者特別控除
・扶養控除(扶養親族の所得48万円以下等)
・寡婦、ひとり親控除(500万円以下)
・基礎控除(2,500万円以下)
・住宅借入金特別控除(2,000万円以下)
・均等割の非課税限度額
・障がい者、未成年者、寡婦、ひとり親の非課税限度額 等

3.総所得金額で判定するもの

 総所得金額には分離所得が含まれていないので、判定基準として使用されることはあまりありません。

4.総所得金額等で判定するもの

 総所得金額等を用いて判定するものには、以下のものがあります。

・雑損控除
・医療費控除
・寄附金控除
・所得割の非課税限度額 等

パート・アルバイトの税制上と社会保険制度上の年収の壁

 年末が近づいてくると、パートやアルバイトで働く人の中には、ある一定の年収を超えないように就業調整をする人が出てきます。
 例えば、年収103万円を超えると配偶者控除や扶養控除の対象から外れるため、労働時間を抑制して103万円というラインを超えないようにします。
 この103万円というラインのことを一般に「年収の壁」と呼びますが、年収の壁は103万円だけではありません。
 以下においては、パートやアルバイトで働く給与所得者を前提として、税制上と社会保険制度上の年収の壁について確認します。

1.100万円の壁(住民税)

 年収の壁としてまず直面するのは、住民税における100万円の壁です。給与収入が年間で100万円を超えると住民税がかかります(兵庫県宝塚市や西宮市の場合)。
 住民税は、所得金額に応じて課税される「所得割と、定額で課税される「均等割」から成りますが、住んでいる地域や家族構成によって住民税が非課税となる所得金額は異なります。
 例えば、宝塚市で均等割が非課税となる所得は、次の算式で算出します。

 35万円×(同一生計配偶者+扶養親族数+本人)+10万円+21万円(同一生計配偶者または扶養親族を有する場合のみ)

 単身の場合は、35万円×1+10万円=45万円が非課税となる所得であり、給与収入に置き換えると100万円(45万円+給与所得控除55万円)となります。
 詳しくは本ブログ記事「住民税非課税世帯とは?」をご参照ください。

2.103万円の壁(所得税)

 年収の壁として広く一般に認識されているのは、所得税における103万円の壁です。
 配偶者控除や扶養控除の対象となるには合計所得金額が48万円以下であることが必要ですが、年収が103万円であれば、給与収入103万円-給与所得控除55万円=48万円となるので、配偶者控除や扶養控除の対象となります。
 また、年収が103万円であれば、給与収入103万円-給与所得控除55万円-基礎控除48万円=0円となるので本人にも所得税はかかりません。

3.106万円の壁(社会保険)

 社会保険制度上の年収の壁として、106万円の壁があります。
 ①従業員が101人以上(2024(令和6)年10月からは51人以上)、②週の労働時間が20時間以上、③月収8.8万円以上(年収106万円以上)、④2か月を超える雇用の見込、⑤学生でない、といった条件を満たす場合は、パートやアルバイト従業員が自ら社会保険被保険者となり社会保険の扶養から外れます(関連記事「従業員51人以上の会社で働くパート・アルバイトの社会保険加入義務(令和6年10月1日~)」)。

4.130万円の壁(社会保険)

 所得税における103万円の壁と同様に広く一般に認識されているのが、社会保険における130万円の壁です。
 130万円の壁とは、社会保険被保険者である給与所得者(例えば夫)が扶養する者(例えば妻)については、夫が負担する社会保険料のみで妻の健康保険料及び国民年金保険料まで賄われるという年収の分岐点のことをいいます。
 従業員が101人以上(2024(令和6)年10月からは51人以上)の企業では106万円、それより規模の小さい企業では130万円が年収の壁となっています(関連記事「年収130万円以上となっても社会保険の扶養のまま働ける?」)。

5.150万円の壁(所得税)

 年収103万円を超えると配偶者控除の対象から外れますが(上記2)、年収150万円以下であれば、配偶者特別控除は満額の38万円が適用されます(ただし、給与所得者の合計所得金額が900万円以下の場合です)。
 年収150万円を超えると、段階的に配偶者特別控除が減っていきます。

6.180万円の壁(社会保険)

 意外と見落とされやすいのが、社会保険における180万円の壁です。
 60歳以上や障がい者の方は、年収130万円ではなく年収180万円までは社会保険の扶養に入ることができます(関連記事「扶養判定における遺族年金の取扱いは所得税と社会保険で異なる!」)。

7.201万円の壁(所得税)

 年収150万円を超えると段階的に配偶者特別控除が減っていきますが(上記5)、年収201万円を超えると配偶者特別控除はゼロとなります。
 201万円の壁とは、配偶者特別控除が適用されるか否かの年収の分岐点のことをいいます。

住民税非課税世帯とは?

 住民税非課税世帯には、低所得者を救済する目的で多くの恩恵(例えば、国民健康保険料・介護保険料・高額療養費が軽減される、新型コロナウイルス感染症の影響の長期化による臨時特別給付金の支給など)が用意されています。
 今回は、これらの恩恵を受けることができる住民税非課税世帯について確認します。

1.個人住民税の概要

 個人住民税とは、都道府県や市区町村の住民がその地方団体に納付する税金で、道府県民税(都民税を含みます)と市町村民税(特別区民税を含みます)を総称したものです。
 個人住民税は、前年の所得金額に応じて課税される「所得割」※1、定額で課税される「均等割」※2から成ります※3
 その年の1月1日現在において、市区町村内に住所を有する者については均等割と所得割が課税され、市区町村内に事務所、事業所又は家屋敷を有する者でその市町村内に住所を有しない者には均等割が課税されます※4

※1 標準税率は、道府県民税4%(2%)、市町村民税6%(8%)です。( )内は指定都市に住所を有する者の2018(平成30)年度分以後の税率です。

※2 市町村民税・道府県民税均等割(標準税率)は次のとおりです。

  標準税率 復興特別税 合計
市町村民税 3,000円 500円 3,500円
道府県民税 1,000円 500円 1,500円
合計 4,000円 1,000円 5,000円

注)2014(平成26)年度から2023(令和5)年度までの10年間は、東日本大震災被災地の復興財源に充てるため、均等割額に500円ずつが加算されます。
 また、例えば大阪府では森林環境税を確保するため、大阪府税条例の規定により2016(平成28)年度から2023(令和5)年度までの8年間は、個人府民税の均等割額に300円が加算されます(大阪府民税の均等割は1,800円になります)。

※3 他に、預貯金の利子等に課税される「利子割」、一定の上場株式等の配当等に課税される「配当割」、源泉徴収特定口座内の株式等の譲渡益に課税される「株式等譲渡所得割」がありますが、本記事では省略します。

※4 市区町村の属する都道府県においても道府県民税が課税されますが、個人住民税は市町村が市町村民税と道府県民税を併せて課税します。

2.個人住民税が非課税となる者

 個人住民税が課税されない者は、次のとおりです。

※ 2023(令和5)年分の確定申告から、上場株式等の配当所得・譲渡所得に係る課税方式を所得税と一致させることになりました(所得税と住民税で異なる課税方式を選択することはできません)。
 これにより扶養控除や配偶者控除等の適用、非課税判定、国民健康保険税の保険料算定など、各種行政サービスに影響する場合がありますのでご注意下さい。

(1) 均等割・所得割ともに非課税となるケース

① 生活保護法の規定によって生活扶助を受けている者(教育扶助や医療扶助を受けているだけではこれに該当しません)
② 障害者、未成年者、寡婦又はひとり親で、前年の合計所得金額の合計が135万円以下の者(前年の所得が給与所得のみの場合は収入金額が2,044,000円未満の者)
③ 前年の合計所得金額が各地方自治体の条例で定める金額以下の者(例えば大阪市や神戸市の場合は、次の算式で求めた額以下の者)
  35万円×(本人+同一生計配偶者+扶養親族数)+10万円+21万円
  ただし、21万円は同一生計配偶者又は扶養親族がいる場合のみ加算します。

(2) 均等割が非課税となるケース

 均等割のみを課すべき者のうち、前年の合計所得金額が各地方自治体の条例で定める金額以下の者(例えば大阪市や神戸市の場合は、次の算式で求めた額以下の者)
  35万円×(本人+同一生計配偶者+扶養親族数)+10万円+21万円
  ただし、21万円は同一生計配偶者又は扶養親族がいる場合のみ加算します。

(3) 所得割が非課税となるケース

 前年の総所得金額等が次の算式で求めた額以下の者
 35万円×(本人+同一生計配偶者+扶養親族数)+10万円+32万円
 ただし、32万円は同一生計配偶者又は扶養親族がいる場合のみ加算します。

3.個人住民税の非課税世帯とは?

 均等割と所得割の両方が非課税の場合は、「住民税非課税」となります。そして、世帯全員が住民税非課税であれば、「住民税非課税世帯」ということです。

給与の支払がない場合の法定調書合計表と給与支払報告書の提出の要否

 年末調整が終われば、その後の処理として「法定調書」「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」(以下「合計表」といいます)と「給与支払報告書(個人別明細書、総括表)」(以下「報告書」といいます)を提出しなければなりません。
 基本的には、それぞれ税務署から郵送されてくる「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表の作成と提出の手引」と「給与支払報告書等の作成及び提出についての手引書」に従って作業を進めていきます。
 この作業は、従業員に給与を支払っていることが前提になりますが、事業者(個人事業主)によっては、従業員を雇っておらず給与の支払がない場合もあります。このような事業者においては、従業員の年末調整という作業は必要ありませんが、その後の合計表と報告書の提出についてはどうでしょうか?
 今回は、給与の支払がない場合の合計表と報告書の提出の要否について確認します。

1.合計表の提出について

 個人事業主の中には、従業員を雇わず1人で事業を行っている場合があります。また、開業後間もない時期のため、青色事業専従者に給与を支払っていない個人事業主もいることと思います。
 このような場合、合計表を税務署に提出する必要はあるのでしょうか?
 これについては、「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表の作成と提出の手引」に記載があります。令和2年分であれば手引の32ページ右下に、次のように書かれています(太字加工は筆者による)。

 税務署へ提出する法定調書がない場合は、合計表の「(摘要)」欄に「該当なし」と記載の上、提出をお願いします。
 なお、e-Taxのメッセージボックス及びマイナポータルに「法定調書提出期限のお知らせ」(以下「お知らせ」といいます。)が届いている方で、お知らせを通じて「提出義務なし」と回答した場合には、上記の合計表の提出は必要ありません(おしらせは11月下旬から12月上旬に送信される予定です。)。

 つまり、給与の支払がない場合でも合計表の「1 給与所得の源泉徴収票合計表(375)」の摘要欄に「該当なし」と記載して提出する必要がありますが、メッセージボックスのお知らせを通じて「提出義務なし」と回答した場合は提出する必要はないということです。いずれにせよ、税務署に対する意思表示は必要であり、それを怠ると税務署から連絡がきますのでご注意ください。
 なお、合計表を提出しなかったり虚偽記載をした場合は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます(所得税法242条5号)。

2.報告書の提出について

 一方、個人住民税の基礎資料となる報告書は市町村に提出します。報告書は税務署に提出する源泉徴収票と提出範囲が異なり、前年中に給与等を支払ったすべての従業員等(パート・アルバイト、役員等を含む)について提出が必要です。
 では、前年中に給与の支払がなかった場合、報告書は提出するのでしょうか?
 答えは「否」です。給与の支払がない場合、報告書は提出不要です。個人別明細書に0と記載して提出することも、総括表に0と記載して提出することも、市町村は求めていないようです。ただし、市町村によって対応が異なることもありますので、当該市町村に確認した方が良いかもしれません(連絡先については、「給与支払報告書等の作成及び提出についての手引書」の「市町村所在地一覧表」に載っています)。

住民税・事業税における青色申告特別控除の取扱い

1.住民税のみの申告でも青色申告特別控除を適用できるか?

 所得税の申告義務がない人も住民税の申告は必要です。
 給与所得者と公的年金等受給者の確定申告不要制度は、所得税(国税)における規定であり、住民税(地方税)にはこの規定はありません。そのため、所得税では申告不要とされた20万円以下の所得は、住民税では申告が必要です。
 
 では、所得税の確定申告書を提出していない人が住民税の申告をする場合、青色申告特別控除の適用はできるのでしょうか?

 青色申告特別控除については、所得税申告書の提出は要件となっていません。したがって、所得税の申告義務がない人が住民税の申告のみを行う場合、当該年分について青色申告の承認を受けていれば、住民税においても青色申告特別控除額(10万円)を控除できます(租税特別措置法25の2①、地方税法313条②)。

2.事業税における青色申告特別控除

 事業税では、青色申告特別控除の特例措置が講じられていないので、課税標準となる事業の所得は、青色申告特別控除額を控除しないで算定します。