後期高齢者医療制度は、75歳(一定の障害があり申請により認定を受けた65歳)以上の人が対象となる医療保険制度です。
75歳以上の後期高齢者は、病気やケガで診療を受けるときは、被保険者証を医療機関の窓口で提示して、かかった医療費の1割・2割・3割のいずれかを負担します。
この窓口での自己負担割合は、毎年8月1日に当該年度の住民税課税所得額に基づき判定されます。
令和7年度(令和7年8月~令和8年7月)の医療費自己負担割の場合は、令和7年度の住民税課税所得額と令和6年中の収入金額で判定されますので、令和6年分の所得税確定申告の内容が大きくかかわってきます。
例えば、配当所得のある後期高齢者が、配当から源泉徴収された所得税の還付を受けるため配当所得を総合課税で申告したら、医療費の自己負担割合が1割から2割に上がってしまったという事例をよく耳にします。
配当所得は課税方法(総合課税・申告分離課税・申告不要)の選択ができますので、所得税だけではなく医療費の自己負担割合も考慮すると、結局は確定申告しない方がよかったということもあります(関連記事:「配当所得に係る総合課税・申告分離課税・申告不要制度の選択上の注意点」)。
このような事態を避けるため、後期高齢者の医療費の自己負担割合を決定する所得ライン(所得の判定基準)がどれくらいであるのかについて知っておくことは有意義だと思われますので、以下で確認します。
1.住民税課税所得額とは?
先述したように、後期高齢者の医療費の自己負担割合は、毎年8月1日に当該年度の住民税課税所得額に基づき決定されます。
住民税課税所得額とは、年金や給与、配当などの「収入金額」からそれぞれ公的年金等控除額や給与所得控除額、必要経費などを差し引いて各「所得金額」(給与所得、雑所得、配当所得など)を求め、その合計である「総所得金額」から「所得から差し引かれる金額」(社会保険料控除、医療費控除、扶養控除、基礎控除などの所得控除)を差し引いた後の金額をいいます(総所得金額については、「『合計所得金額』『総所得金額』『総所得金額等』の違いとは?」をご参照ください)。
この住民税課税所得額(課税標準の合計)は、住民税を自分で納めている人(普通徴収の人)の場合は、市(区)町から送付される「納税通知書」で確認できます。
また、給与所得者のうち給与天引きで納税している人(特別徴収の人)の場合は、会社などを通じて交付される「給与所得等に係る市・県民税特別徴収税額決定通知書」で確認することができます。
なお、所得税と住民税で基礎控除額などが異なるため(令和6年度基礎控除:所得税48万円、住民税43万円など)、確定申告書に記載されている「課税される所得金額」と住民税の課税所得額の金額が異なりますので注意が必要です。
2.自己負担割合を決定する所得基準
後期高齢者の医療費の自己負担割合が1割・2割・3割となる所得区分と判定基準(所得基準)は、次のとおりです。
負担割合 | 所得区分 | 判定基準 |
---|---|---|
3割 | 現役並み所得者 | 同一世帯に住民税課税所得額145万円以上の後期高齢者医療の被保険者がいる人 |
2割 | 一般Ⅱ | 以下の(1)(2)の両方に該当する人 (1)同一世帯に住民税課税所得額が28万円以上145万円未満の後期高齢者医療の被保険者がいる人 (2)「年金収入」+「その他の合計所得金額」の合計額が ・被保険者が1人……………200万円以上 ・被保険者が2人以上………合計320万円以上 |
1割 | 一般Ⅰ・低所得 | 同一世帯の後期高齢者医療の被保険者全員が住民税課税所得額28万円未満の場合、または上記(1)に該当するが(2)には該当しない人 |
なお、住民税課税所得額が145万円以上の人でも、下に記載している基準収入額適用申請により条件を満たす人は、3割負担の対象外となります。
3.基準収入額適用申請で3割負担の対象外
自己負担割合が3割と判定された人であっても、収入額が一定の基準に満たない場合は、申請により3割負担の対象外となります。
収入基準に該当するかどうかについては、下表をご参照ください。
同一世帯の被保険者数 | 収入額による判定基準 |
---|---|
被保険者が1人 | 以下の条件のうち、どちらかにあてはまる人 (1)被保険者の前年の収入額が383万円未満 (2)同一世帯に70歳以上75歳未満の人がいる場合は、被保険者と70歳以上75歳未満の人全員の前年の収入合計額が520万円未満 |
被保険者が2人以上 | 本人及び同一世帯の被保険者の前年の収入合計額が520万円未満 |
収入額とは、所得税法上の収入額(退職所得に係る収入額を除く)であり、必要経費や特別控除を差し引く前の金額です。
不動産や上場株式等の譲渡損失を損益通算又は繰越控除するために確定申告した場合の売却金額は、収入額に含まれます。