相続開始後3年10か月以内に相続財産を譲渡(売却)した場合は、相続税額の一部を取得費に加算することにより、譲渡所得に係る所得税額を軽減することができます。
今回は、この取得費加算の特例の内容と計算例を確認します。
1.取得費加算の特例
(1) 特例の概要
相続又は遺贈により取得した土地、建物、株式などの財産を、相続開始の日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡した場合は、実際の取得費又は概算取得費に一定の相続税額を加算して、譲渡所得に係る所得税額額を軽減することができます。
譲渡所得の計算式 |
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譲渡所得=収入金額-〔(取得費+加算する相続税額)+譲渡費用〕-特別控除額 |
(2) 取得費に加算する相続税額
取得費に加算する相続税額は、次の計算式で計算した金額となります。ただし、その金額がこの特例を適用しないで計算した譲渡益(土地、建物、株式などを売った金額から取得費、譲渡費用を差し引いて計算します。)の金額を超える場合は、その譲渡益相当額が取得費に加算する相続税額となります。
なお、譲渡した財産ごとに計算します。
取得費に加算する相続税額の計算式 |
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取得費に加算する相続税額=その者の相続税額×その者の譲渡資産の相続税の課税価格/その者の債務控除前の相続税の課税価格 |
(3) 特例を受けるための要件
この特例を受けるためには、次の要件を満たす必要があります。
① 相続や遺贈により財産を取得した者であること
② その財産を取得した人に相続税が課税されていること
③ その財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること
(4) 特例を受けるための手続き
この特例を受けるためには、確定申告をすることが必要です。
確定申告書には、①相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書、②譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書【土地・建物用】)や株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書などの添付が必要です。
(5) 留意点
この特例を受けるにあたって、留意しなければならない点は次のとおりです。
① この特例は譲渡所得のみに適用がある特例ですので、株式等の譲渡による事業所得及び雑所得については、適用できません。
② この特例と空き家の譲渡所得の特例とは、選択適用となります。なお、空き家の譲渡所得の特例については、本ブログ記事「空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例」をご参照ください。
2.計算例
相続により令和元年10月に取得した土地のうち、その2分の1を令和3年4月に譲渡した場合の譲渡所得の金額と所得税額は以下のようになります(下表を前提とします)。
取得した相続財産の課税価格 | 1億円 |
上記のうち土地の相続税課税価格 | 8,000万円 |
譲渡した土地の相続税課税価格 | 4,000万円 |
土地の譲渡価額 | 5,000万円 |
取得費 | 不明 |
仲介手数料 | 50万円 |
譲渡した者の納付すべき相続税額 | 1,000万円 |
取得費に加算する相続税額は、1,000万円×4,000万円/1億円=400万円になります。
譲渡所得の金額は、5,000万円-(5,000万円×5%+400万円+50万円)=4,300万円になります。
所得税額は、4,300万円×20.315%=873万5,450円になります。
なお、取得費加算の特例の適用がない場合の所得税額は、954万8,050円です。