1.減価償却費の取扱い
(1) 原則的取扱い
事業所得の計算上、償却費として必要経費に算入できる金額は、その年の12月31日に有する減価償却資産に係る償却費に限られます。
したがって、年の途中で譲渡した減価償却資産の業務供用期間に係る償却費については、必要経費に算入できないことになります。
(2) 選択的取扱い
原則的取扱いによると、年の途中で譲渡した減価償却資産の業務供用期間に係る償却費相当額は、その資産の譲渡の時の譲渡所得の金額の計算上、控除する取得費に含めることになります。
ただし、納税者が譲渡所得の金額の計算上は取得費に含めないで、事業所得の金額の計算上、償却費として必要経費に算入した場合には、その処理も認められます。
2.選択上考慮すべき事項
上述のように、年の途中で譲渡した減価償却資産の業務供用期間に係る償却費相当額を、譲渡所得の計算上控除する取得費に含めるか、事業所得の計算上償却費として必要経費に算入するかについては、納税者の選択によります。
したがって、以下の点を考慮し、税務上有利な方を選択することになります。
(1) 税率の比較
譲渡した資産が土地等、建物等の場合で、分離短期譲渡所得に該当する場合は39.63%(所得税30%、復興特別所得税0.63%、住民税9%)の税率が適用されます。
また、分離長期譲渡所得に該当する場合は20.315%(所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%)の税率が適用されます。
一方、事業所得の金額は、他の総合課税の対象となる所得と合算した総所得金額に対し、最低15.105%(所得税5%、復興特別所得税0.105%、住民税10%)から最高55.945%(所得税45%、復興特別所得税0.945%、住民税10%)の税率が適用されます。
(2) 損益通算の可否
土地等、建物等の譲渡により、譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額は、土地等、建物等の譲渡による譲渡所得以外の所得との損益通算は認められません。
一方、事業所得の金額の計算上生じた損失の金額は、他の所得との損益通算が認められます。ただし、この場合でも土地等、建物等の譲渡による譲渡所得の金額との通算は認められません。
(3) 事業税との関係
所得税における事業所得の金額は、個人事業税の計算上、事業税の課税標準となります。ただし、個人が直接事業の用に供する資産を譲渡し譲渡損失が生じた場合には、その譲渡損失は事業所得の金額から控除します。
この場合の直接事業の用に供する資産とは、機械装置、車両運搬具、工具器具備品等をいい、土地等、建物等は含まないとされています。
したがって、事業税の計算上は、土地等、建物等を譲渡して譲渡損失が生じる場合には、建物の業務供用期間に係る償却費を事業所得の必要経費とした方が有利となります。