前回、「役員報酬の前払いは短期前払費用(経費)になりません」という記事を書きました。この記事では、翌期の役員報酬を当期に前払いしても、当期の経費にならないことを確認しました。
では、当期の役員報酬を当期に前払いした場合は、その役員報酬は当期の経費になるのでしょうか。今回は、この点について確認します。
1.設例
以下の簡単な例を設けて話を進めます。
【設例】
(1) A社(3月決算法人)は○年5月25日に定時株主総会を開き、代表取締役甲の5月26日から翌年5月25日までの役員報酬を1,200万円(月額100万円)とすることを決議をした。なお、支給日は各月25日である。
(2) A社は、○年6月25日に6月分の役員報酬100万円と7月分以降の残り11回分1,100万円を甲に支給した。その際、A社は次のように会計処理をした。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
役員報酬 | 100万円 | 現金預金 | 1,200万円 |
前払金 | 1,100万円 |
(3) A社は、〇年7月25日以降の各支給日に次のように会計処理をした。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
役員報酬 | 100万円 | 前払金 | 100万円 |
2.定期同額給与になるか?
法人税法第34条第1項第1号(役員給与の損金不算入)において、定期同額給与は次のように定義されています。
法人税法第34条 (役員給与の損金不算入)
内国法人がその役員に対して支給する給与・・・のうち次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
1 その支給時期が1月以下の一定の期間ごとである給与・・・で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものその他これに準ずるものとして政令で定める給与(次号において「定期同額給与」という。)
また、法人税基本通達9-2-12において、定期同額給与は次のように定められています。
9-2-12 法第34条第1項第1号《定期同額給与》の「その支給時期が1月以下の一定の期間ごと」である給与とは、あらかじめ定められた支給基準(慣習によるものを含む。)に基づいて、毎日、毎週、毎月のように月以下の期間を単位として規則的に反復又は継続して支給されるものをいう・・・。
上記設例において、A社は甲に対して、7月以降も各支給日に毎月100万円を支給していますので、定期同額給与とすることに問題がないように見えます。
しかし、税務調査の際には、次の指摘がされる可能性があります。
3.役員に対する貸付金又は賞与
税務署は、定期同額給与の判定において、上記のように役員報酬が前払いされている場合はその理由を問うこととしており、通常、当該役員に一時金が必要だったと判断されるようです。
そのため、役員報酬を前払いした場合は、役員に対する貸付金又は賞与と認定される可能性があります。