青色事業専従者給与は国民健康保険税の節税になるか?

1.月額8万円の専従者給与は所得税・住民税・事業税の節税になる

 生計を一にしている配偶者その他の親族が個人事業主の経営する事業に従事している場合、個人事業主がこれらの人に給与を支払うことがありますが、これらの給与は原則として必要経費にはなりません。
 しかし、青色申告を行っている個人事業主の場合は、これらの人に実際に支払った給与の額を一定の要件の下に必要経費とすることができます。これを青色事業専従者給与の特例といいます。

 青色事業専従者給与は青色申告の特典の一つであり、個人事業主自身の所得税・住民税・事業税の節税になりますが、その一方で気になるのが、給与の支払いを受けた青色事業専従者には、その支払いを受けた給与の分だけ給与所得が生じ、所得税負担がかかる可能性があるということです。

 この点については、例えば青色事業専従者給与の額を月額8万円にすれば、青色事業専従者自身に所得税・住民税負担がかかることはありません。
 つまり、月額8万円の青色事業専従者給与を支給することは、個人事業主自身の節税になり、青色事業専従者自身の税負担もないということです。

 ところが、ここでさらに気になるのが、月額8万円の青色事業専従者給与の支給が国民健康保険税に及ぼす影響です。所得税・住民税・事業税の節税にはなっても、その分国民健康保険税が上がりはしないかという懸念があります。
 以下では、青色事業専従者給与が国民健康保険税に及ぼす影響を検討します。

2.国民健康保険税の計算の仕組み

 国民健康保険税の計算の仕組みは各自治体で異なるため、以下では兵庫県宝塚市の2023(令和5)年度の例を挙げます。

A.基礎課税額  
(1) 平等割額(1世帯あたり) 23,900円
(2) 均等割額(被保険者1人あたり) 31,600円
(3) 所得割額の税率(被保険者全員の所得に対して) 8.40%
(4) 課税限度額 65万円
B.後期高齢者支援金等課税額  
(1) 平等割額(1世帯あたり) 6,200円
(2) 均等割額(被保険者1人あたり) 8,900円
(3) 所得割額の税率(被保険者全員の所得に対して) 2.20%
(4) 課税限度額 22万円
C.介護納付金課税額  
(1) 平等割額(1世帯あたり) 6,200円
(2) 均等割額(介護保険第2号被保険者1人あたり) 12,100円
(3) 所得割額の税率(介護保険第2号被保険者全員の所得に対して) 2.70%
(4) 課税限度額 17万円

 国民健康保険税額は、上記のA~C の合計額です。A~Cをそれぞれ別々に納付することはできません。また、納税義務者は被保険者の属する世帯の世帯主です。
 C の介護納付金課税額は介護保険第2号被保険者(40歳~64歳の被保険者)がいる世帯に対してかかります。
 A~Cにおける(3) の所得割額は、被保険者ごとに前年中の総所得金額等から地方税法上の基礎控除額(43万円)を控除した後の金額(算定基礎額)に税率をかけて算出します。例えば、総所得金額が120万円の場合は、120万円-43万円=77万円が算定基礎額となり、これに税率をかけて所得割額を算出します。

 次の設例を用いて、2023(令和5)年度の国民健康保険税の計算をしてみます。

事業主:健康太郎 1977(昭和52)年4月23日生 前年の事業所得120万円
配偶者:健康花子 1980(昭和55)年1月23日生 専業主婦
A.基礎課税額(課税限度額650,000円)
(1) 平等割額(1世帯あたり):23,900円/年
(2) 均等割額(1人あたり):31,600円×2人=63,200円/年
(3) 所得割額の税率:770,000円×8.40%=64,680円/年
(4) 基礎課税額合計:(1)+(2)+(3)≒151,700円/年(百円未満切捨)
B.後期高齢者支援金等課税額(課税限度額220,000円)
(1) 平等割額(1世帯あたり):6,200円/年
(2) 均等割額(1人あたり):8,900円×2人=17,800円/年
(3) 所得割額の税率:770,000円×2.20%=16,940円/年
(4) 基礎課税額合計:(1)+(2)+(3)≒40,900円/年(百円未満切捨)
C.介護納付金課税額(課税限度額170,000円)
(1) 平等割額(1世帯あたり):6,200円/年
(2) 均等割額(1人あたり):12,100円×2人=24,200円/年
(3) 所得割額の税率:770,000円×2.70%=20,790円/年
(4) 基礎課税額合計:(1)+(2)+(3)≒51,100円/年(百円未満切捨)
D.国民健康保険税額
国民健康保険税額:A+B+C=243,700円/年

3.専従者給与は国民健康保険税の節税になる

 上記2の設例では、事業主の総所得金額(事業所得)が120万円で配偶者の所得が0円の場合の国民健康保険税を試算しました。
 次に上記2の設例において、配偶者に月額8万円(年額96万円)の青色事業専従者給与を支給する場合の国民健康保険税を以下で試算します。
 この場合、事業主の事業所得は120万円-96万円=24万円になり、配偶者の給与所得は96万円-55万円(給与所得控除額)=41万円となります。

事業主:健康太郎 1977(昭和52)年4月23日生 前年の事業所得24万円
配偶者:健康花子 1980(昭和55)年1月23日生 前年の給与所得41万円
A.基礎課税額(課税限度額650,000円)
(1) 平等割額(1世帯あたり):23,900円/年
(2) 均等割額(1人あたり):31,600円×2人=63,200円/年
(3) 所得割額の税率:0円×8.40%=0円/年
(4) 基礎課税額合計:(1)+(2)+(3)≒87,100円/年(百円未満切捨)
B.後期高齢者支援金等課税額(課税限度額220,000円)
(1) 平等割額(1世帯あたり):6,200円/年
(2) 均等割額(1人あたり):8,900円×2人=17,800円/年
(3) 所得割額の税率:0円×2.20%=0円/年
(4) 基礎課税額合計:(1)+(2)+(3)≒24,000円/年(百円未満切捨)
C.介護納付金課税額(課税限度額170,000円)
(1) 平等割額(1世帯あたり):6,200円/年
(2) 均等割額(1人あたり):12,100円×2人=24,200円/年
(3) 所得割額の税率:0円×2.70%=0円/年
(4) 基礎課税額合計:(1)+(2)+(3)≒30,400円/年(百円未満切捨)
D.国民健康保険税額
国民健康保険税額:A+B+C=141,500円/年

 上記の試算より、配偶者に青色事業専従者給与を支給する場合の国民健康保険税は141,500円/年となり、支給しない場合の243,700円/年より減額されています。
 つまり、月額8万円の青色事業専従者給与の支給は、所得税・住民税・事業税だけではなく、国民健康保険税にも節税効果があることがわかります。また、青色事業専従者の税負担も生じていません。

 上記の試算では、青色事業専従者である配偶者に税負担を生じさせないという前提で、所得税・住民税・事業税・国民健康保険税の節税効果を狙って月額8万円の給与としました。
 どの程度の給与を支給するかについては、個人事業主と青色事業専従者の年齢やそれぞれに適用される所得税率を考慮しながら最適解を探ることになります。

 なお、青色事業専従者として給与を支給された配偶者は、国民年金保険料の免除申請等を行う際の「扶養親族等」には含まれなくなります。
 国民年金保険料は所得にかかわらず一律ですが、もし免除申請等を行う際は不利になる場合もありますのでご注意ください(国民年金保険料の免除ラインについては、本ブログ記事「国民年金保険料が免除される所得基準の計算方法~確定申告書との違いに注意!」をご参照ください)。
 

大法人の電子申告(e-Tax)が義務化されます

1.書面により提出した申告書は無効

 2018年度(平成30年度)税制改正により「電子情報処理組織による申告の特例」が創設され、2020年(令和2年)4月1日以後に開始する事業年度(課税期間)から、内国法人のうち事業年度開始時の資本金の額又は出資金の額が1億円を超える法人等は、電子申告(e-Tax)による申告書の提出が義務化されました。

 義務化の対象法人が電子申告により法定申告期限までに申告書を提出せず、書面により提出した場合は、その申告書は無効なものとして取り扱われ、無申告加算税の対象となります。
 また、2期連続で法定申告期限内に申告がない場合は、青色申告の承認の取消対象にもなりますので注意が必要です。

2.電子申告の義務化の概要

 電子申告の義務化の対象となる税目、法人の範囲、手続等は以下のとおりです。

(1) 対象税目

法人税及び地方法人税並びに消費税及び地方消費税
※地方税の法人住民税、法人事業税も対象です

(2) 対象法人の範囲

① 法人税及び地方法人税
 イ.内国法人のうち、その事業年度開始の時において資本金の額又は出資金の額が1億円を超える法人
 ロ.相互会社、投資法人及び特定目的会社
② 消費税及び地方消費税
 ①に掲げる法人に加え、国及び地方公共団体

(3) 対象手続

確定申告書、中間(予定)申告書、仮決算の中間申告書、修正申告書及び還付申告書

(4) 対象書類

申告書及び申告書に添付すべきものとされている書類の全て

3.e-Taxによる申告の特例に係る届出書

 電子申告の義務化の開始に当たり、2020年(令和2年)4月1日以後、義務化対象法人はすべて所轄税務署長に「e-Taxによる申告の特例に係る届出書」を提出しなければなりません。
※「e-Taxによる申告の特例に係る届出書」の様式は国税庁ホームページを参照

 届出書を提出する時期は、次のとおりです。
(1) 2020年(令和2年)3月31日以前に設立された法人で2020年(令和2年)4月1日以後最初に開始する事業年度(課税期間)に対象法人となる場合は同事業年度(課税期間)開始の日以後1か月以内
(2) 2020年(令和2年)4月1日以後に増資により対象法人となる場合は資本金の額又は出資金の額が1億円超となった日から1か月以内
(3) 2020年(令和2年)4月1日以後に設立された法人で設立後最初の事業年度から対象法人となる場合は設立の日から2か月以内
(4) 2020年(令和2年)4月1日以後に対象法人であって消費税の免税事業者から課税事業者となる場合は課税事業者となる課税期間開始の日から1か月以内

4.e-Taxによる申告の特例の適用がなくなった旨の届出書

 一方、減資等により資本金の額又は出資金の額が1億円以下となった場合等により義務化対象法人でなくなった場合には、所轄税務署長に対し、速やかに「e-Taxによる申告の特例の適用がなくなった旨の届出書」を提出します。
※「e-Taxによる申告の特例の適用がなくなった旨の届出書」の様式は国税庁ホームページを参照

5.例外的に書面申告が認められる場合

 電子申告義務化後において、電気通信回線の故障、災害その他の理由によって、e-Taxにより法定申告期限までに申告書を提出することが困難な場合には、所轄税務署長の承認を得た上で、書面により提出することで、例外的に申告義務が履行されたものとみなされ、その書面による申告書は有効なものとして取り扱われます。

 当該承認を得るためには、事前に「e-Taxによる申告が困難である場合の特例の申請書(取りやめの届出書)」及びe-Taxを使用することが困難であることを明らかにする書類を所轄税務署長に提出する必要があります。
※「e-Taxによる申告が困難である場合の特例の申請書(取りやめの届出書)」の様式は国税庁ホームページを参照