役員が退職するにあたり、その退職金を一括で支払うと、会社の資金繰りに支障をきたすことがあります。このような場合は、退職金を一括支給せずに分割支給にすることができます。
今回は、役員退職金を分割支給する場合の損金算入時期と源泉徴収税額及び分割支給の留意点について確認します。
※ 一括支給する場合については、本ブログ記事「役員退職金の損金算入時期と経理処理」をご参照ください。
1.分割支給する場合の損金算入時期
役員退職金の損金算入時期は、原則として株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度とされ、損金経理は要件とされていません。
ただし、法人が役員退職金を実際に支給した日の属する事業年度において、その支払った金額を損金経理した場合には、例外としてこれも認められています。
つまり、役員退職金の損金算入時期は、その額の確定時と支給時のいずれかによることができるということです。
このことは、株主総会等において役員退職金の額が確定したものの、資金繰りの理由により確定額を分割支給する場合も同じです。
したがって、役員退職金を分割支給する場合は、その額が確定した事業年度において未払金として計上するか、実際に支給した事業年度において退職金として計上すれば、損金算入が認められます。
2.分割支給した場合の源泉徴収税額の計算
役員退職金を分割支給した場合の源泉徴収は、その退職金の総額に対する税額を計算し、その税額を各回の支給額で按分します※1。
例えば、3月決算法人の役員(勤続38年)がX1年3月に退職し、X1年5月の株主総会において5,000万円の退職金を支給することが決議されましたが、資金繰りの都合からX1年7月に3,000万円、X1年12月に2,000万円と2回に分割して支給することとした場合、源泉徴収税額は以下のように計算します。
なお、この役員から、「退職所得の受給に関する申告書」の提出があったものとします(関連記事:「退職所得の受給に関する申告書を提出した人が還付を受けるためにする確定申告」)。
(1) 勤続38年に対する退職所得控除額:800万円+70万円×(38年-20年)=2,060万円
(2) 退職所得金額の計算:(5,000万円-2,060万円)×1/2=1,470万円
(3) 源泉徴収すべき所得税及び復興特別所得税の額※2:(1,470万円×33%-153.6万円)×102.1%=3,384,615円
(4) 7月に徴収する所得税及び復興特別所得税の額:3,384,615円×3,000万円/5,000万円=2,030,769円
(5) 12月に徴収する所得税の額:3,384,615円×2,000万円/5,000万円=1,353,846円
※1 退職所得に係る個人住民税についても、退職金支給の際に特別徴収することとされています。計算方法は、退職金の総額に対する税額を計算し、その税額を各回の支給額で按分します。
※2 参考:国税庁ホームページ「退職所得の源泉徴収税額の速算表」
3.分割支給の留意点
役員退職金を分割支給するにあたって、留意すべき点は次のとおりです。
(1) 退職金を分割支給する場合、支給を受ける側の退職所得の収入金額とすべき時期については、原則としてその支給の起因となった退職の日とされます。
したがって、分割で支給を受ける場合でも、その決定された金額の全額がその年の収入金額になります。
(2) 分割支給とすることに特段の理由が無く、利益調整目的などの意図があり税額に影響を及ぼす場合は、損金算入が認められない可能性があります(「赤字決算を避けるため」は合理的な理由にならず、「資金繰りの都合」は合理的な理由になります)。
したがって、株主総会又は取締役会において分割支給の合理的な理由を説明し、支給時期と金額を明確にしたうえで、議事録を作成することが重要です。
(3) 分割期間が長期にわたる場合は、退職一時金ではなく退職年金と認定される可能性があります。
退職金の一時払いというよりも有期年金の支給と考えた方が実態に即しているような場合には、決議日等の属する確定事業年度で全額損金処理することはできず、支給の都度、損金算入しなければなりません。
つまり、年金総額を未払計上したとしても、その未払金相当額を確定事業年度の損金に算入することはできません。
また、退職一時金ではなく退職年金と認定された場合、支給を受ける側にとっては退職所得ではなく雑所得として扱われることになります。