平均調達金利と貸付金利息の計算方法

1.給与課税されない場合

 会社が役員又は従業員に対して金銭を貸し付けた場合には、収受すべき利息の額が適正か否かが問題となります。
 その貸付が無償又は通常の利率よりも低い利率で行われた場合は、通常収受すべき利率により計算した利息の額と実際に収受した利息の額との差額が、役員又は従業員に対する給与として所得税が課税されます。
 しかし、無償又は通常の利率よりも低い利率で行われた貸付けであっても、以下の場合には給与として課税されないことになっています(参考:国税庁ホームページ「金銭を貸し付けたとき」)。

(1) 災害や病気などで臨時に多額の生活資金が必要となった役員または使用人に、その資金に充てるため、合理的と認められる金額や返済期間で金銭を貸し付ける場合
(2) 会社における借入金の平均調達金利など合理的と認められる貸付利率を定め、この利率によって役員または使用人に対して金銭を貸し付ける場合
(3) 上記(1)および(2)以外の貸付金の場合で、「役員または使用人に貸し付けた金銭の利息について」の利率により計算した利息の額と実際に支払う利息の額との差額が1年間で5,000円以下である場合

 ここで、上記(2)の平均調達金利とは、いかなるものをいうのでしょうか?以下において、その計算方法をみていきます。

2.平均調達金利の計算方法

 平均調達金利とは、会社が貸付けを行った日の前事業年度中における借入金の平均残高に占める前事業年度中に支払うべき利息の額の割合など合理的に計算された利率をいいます。

 平均調達金利=前事業年度中に支払うべき利息の額÷前事業年度中における借入金の平均残高

 上記算式において、支払利息の額については前事業年度の損益計算書を見ればすぐにわかりますが、借入金の平均残高については別途計算が必要です。
 平均残高の計算方法は、原則としては加重平均により求めますが、実務的には次のように単純平均により簡便に求めても差し支えありません。

 借入金の平均残高=各月の借入金残高年間合計額÷事業年度の月数

 例えば、3月決算法人の前事業年度の借入金残高が、次のように推移していたとします(単位:円)。

前期 借入金Aの残高 借入金Bの残高 AとBの合計残高
4月末 60,800,000 41,985,000 102,785,000
5月末 78,990,000 41,770,000 120,760,000
6月末 70,902,000 78,225,000 149,127,000
7月末 69,884,000 75,170,000 145,054,000
8月末 69,361,000 74,995,000 144,316,000
9月末 36,271,000 74,740,000 144,011,000
10月末 60,315,000 72,525,000 132,840,000
11月末 42,792,000 74,310,000 117,102,000
12月末 27,502,000 74,095,000 101,597,000
1月末 43,746,000 73,880,000 117,626,000
2月末 56,656,000 73,665,000 130,321,000
3月末 50,056,000 64,594,000 114,650,000
合計 700,275,000 819,914,000 1,520,189,000

 この場合、借入金の各月末残高の年間合計額は1,520,189,000円になります。これを前事業年度の月数12か月で割って、借入金の平均残高126,682,417円を求めます。

 借入金の平均残高=1,520,189,000円÷12か月=126,682,417円

 次に、前事業年度の損益計算書の支払利息の額が1,713,560円だとすると、これを平均残高126,682,417円で割って、平均調達金利1.35%を求めます。

 平均調達金利=1,713,560円÷126,682,417円×100=1.35%

3.貸付金利息の計算方法

 平均調達金利の計算ができたら、貸付金利息の計算をします。貸付金利息は、例えば次のように計算します。

 各月の貸付金利息=各月の貸付金残高×平均調達金利÷12

 例えば、3月決算法人の役員に対する当期の貸付金残高が下表のように推移していたとします(単位:円)。
 この場合、4月末の貸付金利息は次のように計算します。

 4月末の貸付金利息=600,000円×1.35%÷12=675円

 この計算を3月末まで行い、各月末の貸付金利息の合計額18,379円が年間の貸付金利息となります。

当期 貸付金残高 貸付金利息
4月末 600,000 675
5月末 850,000 956
6月末 850,000 956
7月末 1,130,000 1,271
8月末 1,480,000 1,665
9月末 1,180,000 1,327
10月末 1,150,000 1,293
11月末 1,450,000 1,631
12月末 1,750,000 1,968
1月末 1,800,000 2,025
2月末 2,050,000 2,306
3月末 2,050,000 2,306
合計 18,379

 また、次のような方法で貸付金利息を計算することもできます。

 年間貸付金利息=(期首貸付金残高+期末貸付金残高)÷2×その期の借入金平均利率

 上記の例で期首の貸付金残高が300,000円だとすると、貸付金利息は次のようになります。

 年間貸付金利息=(300,000円+2,050,000円)÷2×1.35%=15,862円

 計算方法によって貸付金利息の計算結果も変わりますが、いずれも実務上よく使われる計算方法であり、その計算結果も合理的なものと認められます。

役員に金銭を貸付けた場合の所得税法上の問題

 会社が役員に対して金銭を貸し付けた場合には、収受すべき利息の額が適正か否かが問題となります。
 その貸付けが通常の利率よりも高い利率で行われた場合は、特殊なケースを除き、課税上の問題が生じることはありません。 

1.役員に対する金銭の貸付けの適正利率は?

 しかし、無償又は通常の利率よりも低い利率で貸付けが行われた場合には、通常取得すべき利率により計算した利息の額と実際に収受した利息の額との差額に相当する金額は、その役員に供与した経済的利益(役員に対する給与)となります(法人税基本通達9-2-9(7))。 

 では、ここでいう「通常の利率」とはいかなるものでしょうか? 所得税基本通達36-49では、「利息相当額の評価」として次のように定めています。

(1)その金銭を法人が他から借り入れて貸し付けたものであることが明らかな場合には、その借入金の利率によります。
(2)その他の場合は、貸付けを行った日の属する年の租税特別措置法93条2項に規定する特例基準割合による利率によります。 

 特例基準割合は、2000年(平成12年)1月1日から2013年(平成25年)12月31日までは、貸付けを行った日の属する年の前年の11月30日の日本銀行が定める基準割引率(従来の公定歩合)に年4%の割合を加えたものです。
 2014年(平成26年)1月1日以降は、各年の前々年の10月から前年9月までの各月における銀行の新規の短期貸出約定平均金利の合計を12で除して得た割合として各年の前年の12月15日までに財務大臣が告示する割合に年1%の割合を加えたものです。
 具体的には、次のようになります。
①平成12年1月1日~平成13年12月31日・・・4.5%
②平成14年1月1日~平成18年12月31日・・・4.1%
③平成19年1月1日~平成19年12月31日・・・4.4%
④平成20年1月1日~平成20年12月31日・・・4.7%
⑤平成21年1月1日~平成21年12月31日・・・4.5%
⑥平成22年1月1日~平成25年12月31日・・・4.3%
⑦平成26年1月1日~平成26年12月31日・・・1.9%
⑧平成27年1月1日~平成27年12月31日・・・1.8%
⑨平成28年1月1日~平成28年12月31日・・・1.8%
⑩平成29年1月1日~平成29年12月31日・・・1.7%
⑪平成30年1月1日~平成30年12月31日・・・1.6%
⑫平成31年1月1日~平成31年12月31日・・・1.6%
※平成31年は2019年

2.役員に対する無利息又は低利率による貸付けが給与課税されない場合

 上述したように、会社が役員に対して金銭を無償又は通常の利率よりも低い利率で貸し付けた場合には、通常取得すべき利率により計算した利息の額と実際収受した利息の額との差額に相当する金額は、その役員に供与した経済的利益となり給与課税されます。
 しかし、課税されない場合が所得税基本通達36-28に「課税しない経済的利益・・・金銭の無利息貸付け等」として定められています。
 これは、金銭の無利息又は低利率による貸付けにより受ける経済的利益であっても、次の(1)から(3)までのいずれかに該当する場合には、給与として課税しなくても差し支えないというものです。

(1)災害や病気などで臨時に多額の生活資金が必要となった役員に、その資金に充てるため、合理的と認められる金額や返済期間で金銭を貸し付ける場合
(2)役員に貸し付けた金額につき、会社における借入金の平均調達金利(例えば、会社が貸付けを行った日の前事業年度中における借入金の平均残高に占める前事業年度中に支払うべき利息の額の割合など合理的に計算された利率)など合理的と認められる貸付利率を定め、この利率によって役員に対して金銭を貸し付ける場合
(3)(1)及び(2)の貸付金以外の貸付金の場合で、上記1の利率により計算した利息の額と実際に支払う利息の額との差額が1年間で5,000円(法人の事業年度が1年に満たないときは、5,000円にその事業年度の月数(1月未満の端数は1月に切り上げた月数)を乗じて12で除して計算した金額)以下である場合

3.まとめ

 今回の記事をまとめると、会社が役員に金銭を貸し付けた場合の利率の基準は以下のようになります。

(1)会社が他から借り入れて役員に貸し付けた場合は、その借入金の利率
(2)その他の場合は、特例基準割合による利率と、借入金の平均調達金利など合理的と認められる利率のいずれか低い利率

※ 平均調達金利の計算方法については、本ブログ記事「平均調達金利と貸付金利息の計算方法」をご参照ください。