相続開始前3年以内に被相続人から贈与された財産は、相続の際には相続税の課税価格に加算する必要があります(いわゆる生前贈与加算の特例)。
これは、被相続人の余命があとわずかというときに、相続税を少しでも安くするために、あらかじめ相続人に財産を移転する、というような行為を抑えることを狙ったものです。
このような生前贈与加算の特例が適用されても、生前贈与を行うメリットはあるのでしょうか?
今回は、生前贈与加算の特例と生前贈与のメリットについて整理します。
※ 2023(令和5)年度税制改正で、生前贈与の加算期間が3年から7年に延長されました。詳細については、本ブログ記事「生前贈与加算期間はいつから7年になる?」をご参照ください。
1.生前贈与加算の特例
生前贈与加算の特例とは、相続又は遺贈により財産を取得した者が、その相続開始前3年以内にその相続に係る被相続人から財産を贈与を受けていた場合、その贈与により取得した財産(贈与税の非課税財産を除きます)の価額(贈与を受けた時の価額)を相続財産に加算し、贈与を受けた財産につき課された贈与税額は、その者の相続税額から控除するというものです。
この場合の相続開始前3年以内とは、相続開始の日から遡って3年目の応当日から相続開始の日までをいいます。
例えば、X年4月5日に相続があった場合には、(X-3)年4月5日からX年4月5日までをいいます。
なお、相続開始前3年以内に贈与を受けた財産に相続税がかかるのは、相続や遺贈によって財産を取得した者がいる場合です。
例えば、相続人である長男が、被相続人が亡くなる1年前に土地をもらっていたとします。この場合、長男が今回の相続によって被相続人の財産をもらったときは、この土地を相続財産に加えて相続税を計算することになります。
しかし、もし、長男が今回の相続によって被相続人の財産を何ももらっていないときは、この土地を相続財産に加える必要はありません。
2.生前贈与の節税メリット
このような生前贈与加算の特例の適用を受ける場合でも、次のような節税効果が期待できます。
(1) 前述したように、生前贈与加算の対象は、相続又は遺贈により財産を取得した者に限定されています。したがって、孫(相続又は遺贈により財産を取得している場合を除きます)への贈与は加算対象外となります。
(2) 贈与税の非課税財産は、生前贈与加算の対象外です。例えば、扶養義務者相互間における生活費や教育費の贈与等は加算対象外です。
(3) 居住用不動産の贈与で贈与税の配偶者控除の適用を受けた場合は、控除額相当額(最高2,000万円)は生前贈与加算の対象外です。また、直系尊属からの住宅取得等資金贈与の非課税特例、直系尊属からの教育資金の一括贈与の特例(一定の場合は、贈与者死亡時の管理残額が加算の対象)及び結婚・子育て資金の一括贈与の特例(贈与者死亡時の管理残額が加算の対象)についても、同様の効果があります。
(4) 生前贈与加算の特例により加算される価額は、贈与時の財産の価額となるため、値上がりしている財産については節税効果があります。
上記(1)~(4)の節税効果以外に、生前贈与には、被相続人の意思に基づいた財産の移転が確実に実行できるメリットがあります。
ただし、生前贈与に係る遺留分侵害額の請求に留意する必要があります。