前回、新型コロナウイルス感染症の影響による国税の納税猶予制度の特例について解説しましたが、社会保険料についても基本的に「国税の徴収の例による」こととされているため、国税と同様の取扱いが可能となります。
今回は、厚生年金保険料等の納付猶予制度の特例について解説します。
1.現行の納付猶予制度
(1) 換価の猶予の概要
厚生年金保険料等を一時に納付することにより事業の継続等を困難にするおそれがあり、一定の要件に該当する場合、厚生年金保険料等を分割納付できる仕組みがあります。事業主の方は、納付すべき厚生年金保険料等の納期限から6か月以内に換価の猶予の申請ができます。
換価の猶予が認められた場合は、納付すべき厚生年金保険料等を一定の期間(猶予期間)内に分割して納付することができます。また、猶予期間における延滞金の一部が免除されます。
(2) 換価の猶予の要件
次のすべての要件に該当することが必要です。
① 厚生年金保険料等を一時に納付することにより、事業の継続等を困難にするおそれがあると認められること
② 厚生年金保険料等の納付について誠実な意思を有すると認められること
③ 納付すべき厚生年金保険料等の納期限から6か月以内に申請されていること
④ 換価の猶予を受けようとする厚生年金保険料等より以前の滞納又は延滞金がないこと
⑤ 原則として、猶予を受けようとする金額に相当する担保の提供があること
(3) 換価の猶予の効果
換価の猶予が認められると、以下の効果があります。
① 猶予された金額を猶予期間中※の各月に分割して納付することができます
② 猶予期間中※の延滞金の一部が免除されます
③ 財産の差押や換価(売却等現金化)が猶予されます
※ 猶予期間は、1年の範囲内で、申請者の財産や収支の状況に応じて、最も早く厚生年金保険料等を完納することができると年金事務所が認める期間に限られます。 また、猶予期間内に完納することができないやむを得ない理由があると認められる場合は、年金事務所に申請することにより、当初の猶予期間と合わせて最長2年以内の範囲で猶予期間の延長が認められることがあります。
(4) 納付の猶予の概要
災害等によって事業所の財産に相当な損害を受け、厚生年金保険料等の納付が困難となった場合は、事業主の方が申請することにより、保険料等の納付の猶予を受けることができます。
(5) 納付の猶予の要件
次のすべての要件に該当することが必要です。
① 次のいずれかに該当する事実があること
イ.財産につき、震災、風水害、落雷、火災その他の災害を受け、又は盗難にあったこと
ロ.事業主又はその生計を一にする親族が病気にかかり、又は負傷したこと(個人事業所)
ハ.事業を廃止し、又は休業したこと
ニ.その事業につき著しい損失を受けたこと※
※「著しい損失」とは、申請前の1年間において、その前年の利益額の2分の1を超える損失(赤字)を生じた場合をいいます。
② ①の該当事実により、納付すべき厚生年金保険料等を一時に納付することができないと認めら れること
③ 申請書が提出されていること
④ 原則として、猶予を受けようとする厚生年金保険料等の金額に相当する担保の提供があること
(6) 納付の猶予の効果
納付の猶予が認められると、 以下の効果があります。
① 猶予された金額を猶予期間中の各月に分割して納付することができます
② 猶予期間中の延滞金の全部又は一部が免除されます
③ 財産の差押や換価(売却等現金化)が猶予されます
2.納付猶予制度の特例
(1) 納付猶予制度の特例の概要
新型コロナウイルス感染症の影響により、事業等に係る収入に相当の減少があった場合は、申請により1年間、特例として厚生年金保険料等の納付を猶予することができるようになります。
この納付猶予の特例が適用されると、担保の提供は不要となり、延滞金もかかりません。
なお、本特例の実施については、国税に係る関係法案が国会で成立することが前提となります※。
※2020年(令和2年)4月30日に 「新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律案」が成立・公布・施行されました。
(2) 特例の対象者
以下の①、②のいずれも満たす方が対象となります。
① 新型コロナウイルスの影響により、2020年(令和2年)2月以降の任意の期間(1か月以上)において、事業等に係る収入が前年同期に比べて概ね 20%以上減少していること
② 一時に納付を行うことが困難であること
(3) 対象となる期間
2020年(令和2年)2月1日から2021年(令和3年)1月 31 日までに納期限が到来する厚生年金保険料等が対象となります。